市内の大型ホールで行われるヴァンガードのイベント。私たちは、そのイベントに参加することになっていた。
子供から大人まで、年代を問わず多くの参加者がいる中、森宮さんは桜川さんと、私はシュンキ君との再会を果たし、そして現在。
「……さて、もうそろそろ時間だな。桜川!始めるぞ……って、まだ戻っていないのか?」
「そういや、リサさんもまだ戻っていないみたいっスね?」
成宮さんが、イベントを始めようと桜川さんに呼びかけるも、肝心の本人は戻って来ていない。しかも、森宮さんも戻って来ていないみたいだ。
「参ったな……ちょっと探しに行くか……?」
「そうですね……あっ、戻って来ましたよ!」
戻って来たのは、森宮さんだった。桜川さんの姿は、近くにはない。
「森宮さん、さっきの……桜川さん?って一緒じゃないの?」
「……後から来ると思うけど」
小沢君の質問に、そつなく答える。何だか、平静を装ったような、そんな答え方だった。
いったい、2人の間に何があるのだろう?が、深くは触れないでおく。
「……すみません、成宮さん!遅くなってしまいましたわ!」
「おっ、来たか桜川!よし、じゃあ早速だが、始めるとしよう」
そう言うと、成宮さんは部屋の一角からマイクを取りだし、桜川さんに渡す。
マイクを手に取り、桜川さんは改めてマイクテストを済ませると、
「……みなさん!お待たせ致しました!ただいまから、VBR……ヴァンガードバトルロワイアルを始めさせていただきます!」
……まんまなイベント名だな。とは突っ込まずに、まわりに合わせるがままに拍手する。
「ではまず、ルール説明のほうを簡単にさせていただきます。……成宮さん、お願いします」
ここで成宮さんにバトンタッチ。役目を受け継いだ成宮さんは、軽く咳払いして説明を始める。
「はい、ではこちらから簡単に説明を。まず、このVBRは、名前通り、バトルロワイアルです。参加者の方々は、このホール内に散らばってもらい、遭遇した人とファイトをしてもらいます」
じゃあ、仲間同士でファイトすることがあるかもしれないってことか。そうなったら、勝つのは大変だな。
シュンキ君も参加するみたいだし、どれほど強くなってるかわからないけど……強敵には間違いない。
「制限時間は2時間。一番多く勝利した人が優勝です。勝ち数のカウントは、今から参加者に配布するプレートが記録してくれます」
「プレートが……なんかハイテクっスね〜」
「なので、プレートは必ず身につけて下さい。せっかく勝ち続けても、記録されていなかった、なんてことにならないようにお願いします」
成宮さんの説明と同時進行で、別のスタッフがプレートを配り始める。
渡されたプレートには、番号が刻まれていた。この番号で、誰が何勝したのかを数えるのだろう。ちなみに私は39番だった。
「優勝者には、豪華商品をプレゼントしますので、頑張ってファイトして下さい。また、バトルロワイアルには、私たちスタッフも参加させていただきますので、出会った時は、楽しんでファイトしましょう」
「えっ、成宮さんも参加するの!?」
「そのようね。……ん?と言うことは、リンも……?」
ファイトの腕がどれほどかはわからないが、手強い相手になりそうだ。気を引き締めていかないと。
「説明は以上ですが……何か質問はないですか?」
「もし、優勝者が複数いた場合って、どうなるんスか?」
「その時は、一番勝ち数の多かった人同士でファイトして、優勝者を決めます。……他には?」
成宮さんがまわりを見渡すも、どうやら他に質問はないみたいだ。そのことを確認した成宮さんは、再びマイクを桜川さんに渡す。
「では、説明ばかりでも退屈だと思いますので、早速始めさせていただきます。2時間しましたら放送が流れますので、またこの部屋に戻って来て下さい。……それでは、スタート!」
***
「世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!ライド・ザ・ヴァンガード!!円卓の解放者 アルフレッド!」
スタートの合図とともに、私はみんなと散り散りになった。あくまでバトルロワイアル。チームで戦うのではなく個人戦だ。
「これで、決めるよ……!アタック!アルフレッド!!」
「ノーガードです。トリガーは……ないです。負けました……」
これで2勝目だ。開始から30分程が経っているが、他のみんなはどのくらい勝っているのだろうか。
なかなかみんなと出会うことがないから、逆に気になるんだよね……。
「それに、シュンキ君のことも気になるな。久し振りに会ったけど、ファイトの腕はどうなってるんだろう?」
ファイトできるのなら、ぜひしてみたいものだ。辛い過去があったとはいえ、みんなとのファイトは、楽しいものだったからね。
「さて……じゃあ出会えるようにがんばるとしようかな」
***
「アタックよ、グローリー・メイルストローム!!さらに、アルティメットブレイク!これであなたは、グレード1以上でガードできない!」
「……ダメだ。アルティメットブレイクさえなかったら……ノーガード」
順調に勝ち進んでいるわね。これで、3勝目くらいかしら?
「……まぁ、約束したからね……リンと一応」
それは、始まってすぐのこと。参加者が部屋を出る中、私も部屋を出ようとすると、
『ちょっと待ちなさい、リサ』
腕を引かれ、リンに呼び止められた。成宮さんが注意するも、それを制して話を続ける。
『話があるわ。あなたに……』
『……何よ?さっきの話はもう……』
『わかってるわ。どうせ、そうやって逃げるのもわかってるし、このイベントが終わってからと言っても、早々に立ち去るのは目に見えてますわ』
『……何とでも言いなさいよ』
何を言われても、これ以上リンと話をするつもりはない。無視して、この場を離れようとすると……
『……だから、勝ちなさい。このバトルロワイアルで、優勝しなさい』
『意味わからないんだけど……?それがさっきの話とどう関係が……?』
『私も勝ち残る。そうすれば、嫌でも優勝者を決めるファイトをすることになる。その時に、さっきの続きを話しましょう?』
そういうことね……。それなら、ファイト中に話し合うことができる。けど、
『なら、私が勝たなければいいことだし』
『勝たなければ……ね。だから、勝ちなさいと言ったのですわ。それとも……このバトルロワイアルを勝ち上がる力がリサにはないと、そういうことですわね?』
……黙って聞いていたら、人を馬鹿するような物言いばかり……。何様のつもりなのよ!……と、言いたい気持ちは山ほどあった。
が、リンは、このイベントを手がける程の力があるだけあって、実は桜川家の令嬢……。
桜川家と言うのは、ある程度名の知れたセレブの家だ。育ちが育ちだから、こんな物言いになっても無理はない。
『……わかったわよ。元から、勝つ気ではいたし。せいぜいリンも頑張りなさい。私だけ勝って、リンが勝ち残れなかったら、本末転倒よ?』
『もちろん、頑張りますわ。では、話は終わりですので、お先にどうぞ』
『言われなくても、出ていくわよ』
……というわけで、やや乗せられた感じで約束してしまった。リンの実力がどれほどかはわからないが、勝ち残らないことを期待しよう。
「そう言えば、みんなはどうしているかしら?勝っているといいんだけど……」
心配するだけ無駄かもしれないけどね。特にトウジあたりは。
「……それにしても、リンはどうしてこんなところに」
どういった意図でヴァンガードを始めたのだろうか。私には全く想像がつかない。
……もっとも、リンからしても、私がヴァンガードを始めたきっかけなんてわからないでしょうね……。
「昔の私は……サッカー馬鹿だったからな」
脳裏に蘇るかつての記憶。私と、リンと……
「……………」
『いい加減、会いに行きなさい』
「まだ、無理なのよ。リン……。このエレメンタルメモリーで、全国に行かないと……!」
まだ早いのだ。今の私じゃ、あの人に会いに行けない。会いに行く資格も持ち合わせていない。
全国に行かないと。このチームで、それが果たされるまでは……何があっても行けないのだ。
***
「……ん?確か君は……」
「確か星野さんの知り合いの……」
照山シュンキ……だっけ。向こうも覚えていたみたいだ。
「シオリさんのチームメイト……だったよね?どれほどの強さなのか、見せてもらおうかな?」
「そんな大げさな強さはまだないよ。まだ始めたばっかりだしさ」
正直、ファイトの腕は俺が一番下だろうな……。それも仕方ないのかもしれないけど。
「そうか……じゃあ、お手柔らかに行くよ」
「それはどうも……。そう言えば、照山君って、いつからヴァンガードしているの?」
「……?中学2年からだよ。ヴァンガードが始まった時からしてるからね」
「あれ、星野さんの知り合いって言ってたけど、星野さんにヴァンガードは教えなかったの?」
「……それは」
何気なく尋ねた質問だった。そんなに昔からヴァンガードをしていたのなら、星野さんに教えてあげたらよかったんじゃないかって、そう思ってのことだった。
「……まぁ、カードゲームは、男子がするようなイメージがあるからね。だから、シオリさんには教えなかったんだよ」
「そっか……。だとしたら、星野さんって、まだヴァンガード始めたばかりで、俺よりもファイトの腕があるんだな……本当すごいよ」
「……へぇ、シオリさんって、そんなに強いんだ」
「かなり強いよ。佐原君や森宮さんも強いし、これならグランドマスターカップもいい線行くんじゃないかな……なんて」
これは本気でそう思っている。実際、星野さんは強いし、佐原君は特に強い。森宮さんも劣らずってところだし……後は俺が足を引っ張らなかったらいいだけだ。
「そうなんだ……。さて、話はこれくらいにして、ファイトを始めようか。時間も過ぎていくだけだしね……」
***
「グレイトフル・カタパルトのリミットブレイクっス!ペルソナブラストとCB2で、デッキからジャガーノート・マキシマムをスペリオルコールっスよ!」
「そ……そんな……ノーガード」
「トリガーなし。ダメージはどうっスか?」
「……やった!ヒールトリガーだ!」
「けど、こっちにはアタックが残ってる……。ジャガーノートでアタック!SB1で、パワープラス5000!これでアタックは通るっス!!」
「……くっ、トリガーなし」
「よし、俺の勝ちっスね」
これでも全国目指してるんスから、そう簡単には負けられないっスよ。一応、ノスタルジアとファイトする目標もあるんスから。
「……にしても、なんかしっくり来ないっスね……」
それは対戦相手のことではない。……って言うか、もし俺がそのつもりで今の発言したら、好感度下がりまくりっスよ!?
俺が言っているのは、俺が使うデッキのことについてだ。俺は基本、これと言って決まったクランでファイトしない。それは、どのデッキを使ってファイトしていても……なんか上手く噛み合わないからだ。
もちろん、勝てないわけではない。それは今のファイトの結果が証明している。ただ……そう、しっくり来ない。
ヴァンガードを始めた時からだ。最初は順番にクランを使って試していこうと考えていたが、結局こうなっている。
「はぁ……なんかこう、使っていてこれだ!って思えるクランはないもんスかね……?」
それが簡単に見つかったら、ここまで悩むこともないんスけど……おっ、あそこに見えるのは……。
「……ん?あんた確か、サンシャインで参加を決めてくれた……」
「やっぱり成宮さんっスか。佐原トウジっス」
まさか成宮さんと遭遇するとは……。ファイトの腕も、それなりにありそうっスね……。
「早速っスけど、ファイト挑ませてもらうっスよ。ちょうど、ファイトしたいと思ってたっスから」
「そうか。言っとくけど、俺は強いぞ?」
「それくらいがちょうどいいっスよ」
***
というわけで、成宮さんとファイトすることになったわけっスけど……
「……どうした?強いくらいがちょうどいいんだろ?」
「もちろん、男に二言はないっスよ?」
現在、ダメージは5対3。俺が不利な状況になっている。
「ターンエンド。スキルでマガツストームはデッキの下に戻る」
「むらくもの速攻……キツいっスね……」
成宮さんのデッキはむらくも。マガツの連携ライドデッキで、最近のカードだ。
こいつの厄介なところは、グレード2とグレード3のマガツがヴァンガードにでたターン、連携に成功していたら、デッキからヴァンガードと同名のユニットを2体コールできること。
手札を減らさずリアガードを増やすことができるため、攻守に優れる。そこが一番厄介だ。
「けど……まだまだ、こんなところで終われねぇっス!スタンドアンドドロー!」
自分にふさわしいクラン、それを見つけるためのファイトでもある。このファイト、今の俺の中で最強のデッキを使っている。
このデッキが……クランが……俺の求めるものなのか、確かめる!!
「光爆ぜ、希望生み……獅子は吼え、世界を照らす!クロスライド!光輝の獅子 プラチナエイゼル!!(11000)」
ソウルに灼熱の獅子 ブロンドエイゼルがあるため、クロスライドにより、プラチナエイゼルはパワーが常に13000となる。
「シルバーファング・ウィッチ(5000)をコールっス!SB2で1ドロー!さらに小さな戦士 トロン(6000)をコール!」
手札はもうない。けど、これでリアガードは5体だ。おまけに、今の俺のダメージは5枚。プラチナエイゼルには、この局面で発動できる強力なスキルがある。
「エイゼル!今こそ究極を越えるとき!アルティメットブレイク!!CB3で、俺のリアガード5体は1ターンだけパワープラス5000っスよ!」
これがプラチナエイゼルの力。CB3とコストは重く、しかもダメージ5でしか発動できないアルティメットブレイク……。
だが、リアガード5体を大きく強化できるため、勝負を決める際にはもってこいだ。
左列には聖弓の奏者 ヴィヴィアン(9000)と、美技の騎士 ガレス(8000)。右列には激情の騎士 バグデマグス(9000)と、シルバーファング・ウィッチ。エイゼルの後ろには、小さな戦士 トロン。
アルティメットブレイクにより、左列は合計27000。右列は合計24000。中央は合計24000。これなら、必要なシールドもかなり多くなってくる。
が、このアルティメットブレイクは、コストが重く、連続して発動できない。つまり、このターンで決められなかったら、次はない。
ヒールで回復すれば、まだ可能性はあるが、それもダメージが5枚とも表になった状況からアルティメットブレイクを発動した時からの話だ。
(まさに両刃の剣……。けど、俺にとっては、相手の手札を減らせさえすれば、それでいいっスけどね……)
「行くっス!シルバーファングのブーストした、バグデマグスでアタック!エイゼルのヴァンガードがいれば、パワープラス3000!(27000)」
「ノーガード。ダメージは、忍獣 リーフスミラージュ」
完全ガードがダメージに……これなら!
「トロン、ブーストで……プラチナエイゼルでアタック!!トロンのスキルで、相手よりリアガードが多いから、パワープラス4000!!(28000)」
まともにガードするのにシールドが30000必要……。これで……どうっスか!?
「……残念だな。リーフスミラージュで完全ガード。コストはマンダラロード」
「ちっ……ツインドライブ!」
まだ……諦める場面ではない。トリガーがまだ残っている!
「1枚……だんてがる!クリティカルトリガー!効果は全てヴィヴィアン!(19000 ☆2) 2枚……同じく、だんてがる!効果はヴィヴィアン!(24000 ☆3)」
「ダブルトリガー!?しかも、クリティカルだと!?」
マジっスか!?俺も驚いている。……けど、
「ガレスのブースト!ヴィヴィアン!勝負を決めろ!!(37000 ☆3)」
「リバーチャイルド、キャットデビル、ホワイトメイン、ブラッディミストでガード!!」
「……ターンエンド」
やっぱり……か。何となく、そんな気がした。このファイトの途中から。
いくら最強のデッキを使っていたとしても、それが自分に適しているとは限らない。このデッキは……このクランは……やはりダメだ。
諦めが早いように聞こえても仕方ない。けど、このデッキは……ただ強いだけ。
使っていても、楽しんで使えるような、心の底から燃え上がるような、そんな気分にはなれない。……という言い方も、何か違う気がするんスけどね……。
「じゃあ俺のターン、スタンドアンドドロー。ライドなし、そして……マガツストームのリミットブレイク!CB2で、デッキからマガツストームを1ターンだけ呼ぶ!それも2体だ!!」
もう俺には、さっきのトリガーで引いただんてがるが2枚と、2回のインターセプトしか残っていない。防ぎきれるか……?
「さらにリミットブレイクの効果で、ヴァンガードのマガツストームにパワープラス3000!(14000) 続けて忍獣ナイトパンサー(7000)をリアガードのマガツストームの後ろにそれぞれコール!スキルで、それぞれCB1を払い、パワープラス1000!(8000)」
これで左右のマガツストームに10000のシールド値、中央も、トリガーを考えると10000必要……。
「リアガードのマガツストームで、プラチナエイゼルをアタック!(18000)」
「ガード!だんてがる!」
「なら、ヴァンガードのマガツストームで、エイゼルだ!(14000)」
「再びだんてがる!」
「ツインドライブ……1枚目、忍竜マガツゲイル。2枚目……忍獣キャットデビル。クリティカルだ!効果は、まだアタックしていないマガツストームへ!(15000 ☆2)」
決まった。これで俺はもう……ガードできない。
「ラストだ!ナイトパンサーのブーストした、マガツストームでプラチナエイゼルをアタック!(23000 ☆2)」
「ノーガード……っスよ」
ダメージには、プラチナエイゼルが入る。俺の負けが、確定した。
***
「ふぅ……。とりあえず、1勝だな」
「……あの、ちょっといいっスか?」
「ん?」
「成宮さんは、どうしてむらくもを使おうと思ったんスか?」
ちょうどいい機会だ。第三者の意見を聞いておくのも悪くない。そう思い、俺は成宮さんにむらくもを使う理由を尋ねる。
「ヴァンガードには、色々なクランがある。……その中で、むらくもを選んだ理由は何でなんスか?」
「そうだな……まぁ、むらくもってクランが好きだからだろうな。他のクランを使うこともあるが、一番多く使っているのは、むらくもだな。むらくもでファイトする時が、一番楽しいんだ」
……やっぱそっスか。使っていて楽しい……そんなクランを選んでくんスね。
「お前はどうなんだ?さっきのゴールドパラディンは、お前が好きで使っていたんじゃなかったのか?」
「あれは……自分の中で最強と思えるデッキだっただけっスよ。今の俺には、使っていて楽しいと思えるデッキ、クランってのには、まだ出会えてないんスよ」
「そうか……。なら、そのクランに出会えることを願うしかないな」
「……そうっスね。助言、感謝っス。それじゃ俺はこれで」
俺は成宮さんの下を後にし、そして考えていた。この先、そんなクランに出会えるのかどうかを。
ヴァンガードを始めて、ずっと悩んでいたのだ。今さら、そんな出会いがあるのだろうか?
そんな苦悩を抱えるトウジが、自分にふさわしいクランとの運命的な出会いを果たすのは、そう遠くない話となる……。