「不屈なる魂!頑固たる意思よ、迷える霊の炎を重ねて、生まれ変わりなさい!スペリオルライド!スピリットイクシード!!(10000)」
バトルロワイアルの優勝者を決めるファイト。私の相手は、勝ち残ると約束したリサだった。
現在、リサがスペリオルライドによって、先にグレード3になったところだ。
「ルイン・シェイド(9000)、大幹部 ブルーブラッド(10000)をコールしますわ。さらに案内するゾンビのスキル!自身をソウルに入れ、デッキ上2枚をドロップ。ゾンビがいた場所にイービル・シェイド(6000)をコールしますわ!」
一気にたたみかける気ね……。リンは手札がもうないと言うのに……。
「まずはブルーブラッドでコーラルをアタック!(10000)」
「防げる!輝石通信のラッコ兵!」
「続けてイービル・シェイドのブースト、イクシードでアタック!イービルのスキルで、デッキ上2枚をドロップし、パワー4000を与えますわ!(20000)」
「……ノーガードよ」
「ツインドライブ!1枚目、お化けのりっく、ヒールトリガーですわ。ダメージを1枚回復、パワーをルインへ(14000)。2枚目、氷獄の死霊術士コキュートス」
3枚目のダメージが入る。ティアーナイト キブロス、トリガーではなかった。
「……どういうつもり?手札を使いきって、攻めてくるなんて……」
「アクアフォースは連続攻撃で一気にたたみかけるクラン。それに対抗するためには、手札を貯めてねばるより、攻めることで手札を減らさせ、陣形を崩す!」
そういうことね……。わからなくもないけど……。
「……まぁ、やり方が無茶苦茶っスけど、一応筋は通ってるっスね」
「あれ、佐原君。もう大丈夫なの?」
「大丈夫っスよ。目の前でこんなファイトされたら、燃えるのも無理ないっスよ!さぁシオリさん!リサさんの応援するっスよ!」
「そうだね!」
トウジの調子は戻ったみたいね。まぁ、トウジのことだし、心配はしていなかったけどね。
「ルイン・シェイドでアタック!スキルで、デッキ上2枚をドロップ!パワー2000を与えますわ!(16000)」
「虹色秘薬の医療士官でガード!」
「ターンエンドですわ」
リサ:ダメージ3(裏2) リン:ダメージ1
「じゃあ私のターン。スタンドア━━」
「リサ、今あなたがエレメンタルメモリーを語って、ヴァンガードで全国一になったとしても、それはあの人が望んでることではないのよ?」
「……ドロー。そんなこと……そんなことない!荒れ狂う海原に、今鎮めの錨を打て!蒼翔竜 トランスコア・ドラゴンにライド!!(11000)」
これは、償いなのよ……!あの時、私は誓った。その誓いを果たすことが、私がヴァンガードをする理由なのよ!!
「どうしてわからないのかしら……?こんなことをしても無意味であることが……!」
「無意味じゃない!ティアーナイト キブロス(7000)をトランスコアの後ろへコール!ブレイブ・シューターのブースト、ルーカスでアタック!シューターのスキルで、レストしたリアガードがブースト時に2体以下なら、パワープラス3000!(17000)」
「お化けのりっくでガードしますわ!」
「キブロスのブースト、トランスコアでヴァンガードへ!スキルで、アタック時にパワープラス2000!(20000)私は……あの人が出来なかったことをするだけ!今やろうとしているのは……無意味じゃない!」
「そんなもので……過去をどうにかできるとでも!?」
どうにかするのよ……!トリガーは、1枚クリティカルトリガーだった。パワーをコーラルに(13000)、クリティカルをトランスコアに与える(20000 ☆2)
「ダメージチェック、スケルトンの剣士とダンシング・カットラスですわ」
「なら……コーラルでヴァンガードをアタック!スキルによって、3回目以降のバトルならパワープラス3000!(16000)」
「……ノーガード」
ダメージにクリティカルトリガーが入る。これで逆転だ。
「ターンエンドよ」
リサ:ダメージ3(裏2) リン:ダメージ4
「……私のターン、スタンドアンドドロー。何としても、リサにはわかってもらわないといけない……。あの人が今、どれほど辛い思いをしているのか!」
「そんなの……痛いほどわかってるわよ」
「だったら……!凍てつく冷気、永年の時を超え、死の淵より蘇れ!ライド!氷獄の死霊術士 コキュートス!!(10000)」
コキュートス……。さっきのドライブチェックで引いた、グランブルーのエースカード……。けど……それでも!
「何が来たところで……私は引かない!あの時……誓ったのよ、私は……!」
***
昔の私は、サッカーが好きだった。もちろん、やるのではなく観る方だけど。小学校……2年生くらいからだったはず。
この時、まだリンとは知り合っていない。確かリンと知り合うことになったのは……
「……あ〜あ。どうしようかな……」
「どうしたのリサ?」
「いや……1週間後の決勝戦のことでさ……」
「まだ諦められないの!?」
「だって……」
その年のサッカーの日本一を決める大会の決勝戦が、1週間後に迫っていた時だった。私としては、生で観るつもりだったけど、親に反対されてしまった。
「テレビで生中継とかあるんじゃないの?」
「……私は生で観たかったんだよ」
小学校で朝から愚痴をこぼしてるなんて、本当、あの時の私はサッカーが好きだったんだと心底思う。
それもそうだ。その決勝戦、どうしても生で観たい理由があったからだ。
「……横山選手が出るから?」
「そうだよ!だって、格好いいんだよ!プレイしている時の姿もだけど、普段から格好いいオーラが出まくってるし!」
横山テツジ。私がサッカーにはまるきっかけになった選手だ。ポジションはフォワードで、背番号は10番。とにかくプレイが格好いい。
ドリブルで相手を抜き去り、そこから強烈なシュートを打ち込む。その姿は、見ている人に笑顔を与えてくれる。
そんな横山選手が出る試合、しかも決勝戦だ。何としてでも観に行きたかったんだけど……。
「……生で観たい」
「リサの気持ちもわかるけどさ……」
そんな私の愚痴を阻むかのように、始業のチャイムが鳴る。それぞれ自分の席に着いた時には、担任の先生が教室に入って来た。
「はい、みなさんおはようございます!早速ですけど、今日からこのクラスに、新しいお友達が増えることになりました!」
━━転校生。先生の言葉から、その単語を想像することは、小学2年生の頭でも容易だった。
どんな子が来るのか気になり、まわりは一気にざわつき始めた。
「はいはい、静かに!じゃあ、入って来て」
その声を聞き、教室の中に入ってくる1人の少女。そう、この転校生こそが……
「では、簡単に自己紹介してもらいます。……それじゃ、紹介してくれる?」
「はい、先生。……初めまして、桜川リンと言いますわ!これから、仲良くしていきましょうね!」
何を隠そう、リンだった。そしてこれが、私とリンが出会った瞬間だった……。
***
「……すげ〜な、あの転校生!」
「桜川って、あの金持ちのだろ!?うわ〜いいな〜羨ましい〜」
時間は過ぎ、今は休み時間。クラスではリンの話題があちこちから聞こえ、そのリンの下にも大勢の人がおしよせていた。
転校生のことを聞きつけたのか、他のクラスから来ている子もいたくらいだ。……そんなに盛り上がることなのかはわからないけど。
……私としては、横山選手の試合を生で見られる方が盛り上がるんだけどな……。そんな奇跡が起こってくれるのなら起こってほしい。
「……はぁ」
「あなた……何でため息なんかついていますの?」
「……え?」
ふと、声が聞こえてそちらを見ると、そこにはリンが立っていた。
「元気がなさそうでしたので、少し心配になりましたの。どうかなさったのですか?」
「いや、そんな大したことじゃないんだけど」
「ですが、こんな所でもため息をつくぐらいなのですから、大したことではないのですか?」
「……実は、どうしても行きたかった試合があるの。サッカーの。でも、親に反対されてね……」
「……サッカー?と言うと……1週間後の決勝戦ですの?」
「私の好きな選手が出てるの。横山テツジって、知ってる?」
何となく尋ねただけだった。横山選手は、サッカーにあまり詳しくない人でも知名度のある選手だったし。だから、知ってますわ、とか、そんな返答を想像していたのだが、
「えっ……あなた、テツジのファンなのですの!?」
「……テツジ?」
実は知りませんでした。なんてものじゃない。斜め上を行く答えだった。
テツジ……って、友達みたいに言うものだから、驚くのも無理ない。金持ちみたいだし、知り合いなのだろうか。
「私、サッカーを観るのが好きですの。特にテツジが好きで、半年ほど前からの知り合いですわ」
「知り合いって……」
今度は期待を裏切らなかった。この時ばかりは、リンを恨んでいたと思う。
「試合があると、いつもテツジから招待状が送られて来ますの。今度の決勝戦の招待状も、送られて来ましたわ」
「招待状って……なら、あなたは試合を観に行けるんだね。いいな……私も行きたかった」
その言葉に、羨ましい気持ちと、憎らしい気持ちが一気に高まったのを感じる。私にも、招待状がきてほしい。
と、ここでまたしても、私の斜め上を行く答えが返ってくる。
「行きたい……ですの?だったら、連れて行って差し上げましょうか?もちろん、あなたさえよろしかったらですけど」
「……はい!?」
正直、いきなりすぎて驚いた。転校生との会話から、試合に誘われることになるなんて。
「試合の日に、この近くに確か……公園があったはずですわ。そこに朝8時に集合でよろしいですか?」
「え、いや、その……親に確認してからじゃないと……それに、いいの?連れて行ってくれるって……」
「そんなの構いませんわ!それに、テツジのファンならなおさらOKですわ」
……起こったよ、奇跡。突然来た転校生から、私に与えられた奇跡。この時のリンは、私にはもう……天使にしか見えなかっただろう。
「そう言えば、まだあなたの名前を聞いていませんでしたわね」
「あぁ、確かに……。私は、森宮リサ」
「桜川リンですわ。じゃあリサ、確認だけしておいて下さいね」
「わ、わかった」
その日、家に帰った私は、両親に必死に説得した。何とか両親が引き下がってくれたおかげで、私は決勝戦に行けるようになった。
……それにしても、本当、夢のようだ。こんな上手い話、そうあるものではない。そう考えると、感謝してもしきれない。
そんな決勝戦は、私にとって、運命を大きく変える出来事となるのである……。
***
試合当日、私は待ち合わせの公園に来ていた。約束の8時まで少し時間はあったが。
不安はある。いきなりそんな約束して、嘘で終わったり……なんて、そんなの笑えない。
「……でも、行けるんだったら、生で横山選手を見ることができるし……」
その時、向こうから1台の車……いや、それは車というよりは……
「リムジン……!?」
嘘でしょ!?私は今から、サッカーの試合を観に行くんだよね……?
そのリムジンは私の前で停車し、窓から1人の少女が顔を覗かせる。リンだ。
「おはよう、リサ。少し待たせてしまいましたか?」
「だ……大丈夫。今来ただけだから」
「それならいいですわ。さぁ、リムジンの中へ」
すると、リムジンの運転手が後部座席のドアを開けに来る。テレビとかでよく見るシーンが、目の前で繰り広げられているのを見て、少し戸惑いを感じる。
「さぁ、リン」
「う…うん。おじゃまします……」
もう緊張するしかない。いきなりリムジンに乗ることになるなんて、庶民の私には経験できないことだ。興奮と恐怖が混じった、複雑な感情だ。
「では、発車して下さいな」
「かしこまりました、お嬢様」
「……凄い」
こうしてリムジンは発車した。試合会場までは、ここから2時間ほどかかるらしい。その間、私たちはいろんなことを話した。
最初は緊張していたけど、時間が経つにつれて、雰囲気にも慣れ、気がつけば笑いあって話をしていた。
「……お嬢様。もう間もなく到着いたしますが」
「あら、そう?もう少し話していたかったのですが……」
いや、目的はそっちじゃないでしょ……。本来の目的は、決勝戦を観に行くことなんだから。
そうしているうちに、気がつけば試合会場に到着していた……。
***
「……着いた!」
「じゃあ、会場には連れて来ましたから、私はこれで」
「えっ!?」
「冗談に決まってますわ!そんな悪いことは致しませんわ」
……体に悪い冗談をありがとう。とにかく、私たちは試合会場に到着していた。今はリムジンを降りて、会場に向かって歩いているところだ。
試合開始まで後30分くらい。席が空いてるといいんだけどね……。
と、ここで私は、ずっと思っていたことをリンにお願いしてみる。
「と…ところでリン、確かリンって、横山選手と知り合いって言ってたよね……?」
「そうですわ。それが、どうかしましたの?」
「もし……もし、よかったらでいいんだけどさ……サインとか、頼んでくれないかな……?」
「それはいいでしょうけど、どうせなら直接頼んだらよろしいのでは?」
直接……!?いや、いくら何でも、それはさすがに無理なんじゃ……。
「どちらにしても、今から行こうと思っておりましたので。テツジの控え室に」
「…………………」
「……どうしましたの?」
「え、じゃあ、今から会えるってこと……!?近くで!?」
「そうですわ。時間があまりありませんが……早速行きましょう!」
自分にとって憧れの選手が出る試合を、思いがけず観ることができた。それだけでも十分だと言うのに、まだ私に幸せを与えてくれるのか。
「夢を……夢を見てるんじゃないよね?私……」
「夢なんかじゃありませんわ。これは嘘偽りない現実です。……さぁ、着きましたわ」
「こ……ここが……」
選手の控え室。そして、この中にいるのは……!
「横山選手がいる、控え室……!」
「じゃあ、時間もありませんし……。テツジ〜!入りますわ〜!!」
「その声……リンちゃんだね?いいよ、入って!」
うわ……マジか。さっきからもう、心臓の鼓動がすごく速い!どうしよう、まだ心の準備ができてないのに……!
そんな私の気持ちとは裏腹に、リンは控え室の扉を開けて中に入る。
「テツジ〜!久しぶりですわ〜!」
「久しぶりだね!元気にしてる?」
「私は元気ですわ!あ、今日は私の友達で……テツジのファンでもある人を連れて来ましたのよ」
「へぇ〜。こんにちは!横山テツジです」
もう……夢だよ、本当。憧れの選手が、目の前で動いて、しゃべってる……。私、幸せ者だ……。
「あ……え、と。こ……こんに……ちは」
「リサ、ちょっと緊張しすぎですわ……」
「だ……だって、横山選手が目の前にいるなんて……」
「そうだよ。リンちゃんも最初はあんな感じだったよ?今でも覚えているな……リンちゃんと出会った時のこと」
「そ……それは言わなくてもよろしいですわ!」
恥ずかしがって、リンは顔を背ける。リンも確か、横山選手のファンだったし……。
「わ…私、横山選手のプレイ見て……サッカー好きになったんです。だから、その……本当に嬉しいです」
「……俺も嬉しいな。自分のプレイで誰かを喜ばせることができているんだって思うと、嬉しいよ。それが、俺の本望だからね」
「横山選手……」
ぎこちなくしゃべっていたと、今になって思う。それだけ嬉しかったから仕方ないのだけど。
「……俺としては、その横山選手って呼び方も止めてくれると本望なんだけどな」
「え……っ!?」
「せっかくこうして知り合えたんだし、横山選手なんて呼び方じゃなくてさ……もっと呼びやすい感じにしてほしいんだよ」
「え……いや、そんなの……」
「リンちゃんも、俺のことテツジって呼んでるでしょ?それと同じだよ」
それでリンは横山選手のことを呼び捨てで……。理由が何となくわかった。
「……じ、じゃあ、テツジ…さん。テツジさんでいいですか?」
「もちろん!これからよろしく!リサちゃん!」
本当にいいのか不安だけど、横山選手……いや、テツジさんがそう言うのだからいいのだろう。
すると、テツジさんは手を差し出す。私も、それに応えるように、テツジさんの手を握り返した。
これが、テツジさんとの出会いだった。私に、サッカーの魅力を教えてくれた人、その人との対面の瞬間だった。
「あ……こちらこそ……です」
あの時の私は、この時の出来事が嘘であるように、信じられることが出来なかった。
けど、時を重ねることに実感を増し、そして……時を重ね過ぎて全てが壊れていくことになるとは……想像さえしていなかった。
できれば、全て嘘であってほしかったと、心から思っている。それは、今でも変わらない。
けど、その時は無常にも、訪れようとしていた……。
以上です。では、次は2017年と言うことで。よいお年を!