一応、年をまたいで2日連続で更新したことになります。
……まぁ、内容は全然正月ではないですが。では、どうぞ!
横山テツジ。私、森宮リサが幼き時に、サッカーの魅力を教えてくれた選手だ。その人が今……私の目の前にいる。
「これからよろしく!リサちゃん!」
自分の名前を呼んでくれている。そして今、私に手を差し出している。
「あ……こちらこそ……です」
私も、手を握り返す。こんなにも、私は幸せでいいのだろうか……?時間を忘れてしまうほど、目の前のテツジさんに魅了されて…………
「……って、ちょっとリサ!いつまで手を触ってますの!?もう試合が……!」
「うぁっ!?もうそんな時間!?何かもう……本当に夢みたいだったので、その……時間なんか気にしてなくて……」
「いいよ。俺も今日は、リサちゃんに会えてよかった。この頃ね……少し不安だったからさ。俺は観客を……ファンを……支えてくれている人たちを楽しませることができてるかって」
そんなことを考えていたんだ……。今までテレビとかで試合を観ていても、そんな風に考えてるなんて思ってもみなかった。
「サッカーはスポーツだ。味方がいて、相手もいて、その中で勝ち負けを競いあう。……でも、それはあくまでプレイする俺たちの話なんだ」
時間があまりないにも関わらず、テツジさんは語り始める。
「観に来てくれる人たちは、プレイするわけじゃない。俺たちのプレイによって、楽しんでもらえることができる。だから俺は、勝利は二の次に考えてる。一番に求めてるのは……観客たちの笑顔だ」
……やっぱり、凄い。いつもそうやって考えているから、プレイにも表れているんだ!今の話だけで、ますますテツジさんのことが好きになった気がする!
「……いや、いいこと言ってるみたいで申し訳ないのですが、本当に試合が始まってしまいますわ!早くフィールドに行って、アップを始めた方がよろしいのでは?」
「おっと、そうだった!じゃあ2人とも、今日の試合、全力で楽しませるから、楽しみにしていてよ!」
テツジさんは急いで部屋を飛び出して行った。それを見て、私たちは観客席に向かおうとすると……
「ちょっと待ちなさいリサ」
「どうしたのリン。観客席ってこっちだよね?」
「私たちが行くのは、こっちよ」
そう言って指差した方向は、観客席とは正反対の方向。その方向に行っても、観客席には行けない……はず。
「私についてくればわかりますわ。さぁ行きましょう」
私は半信半疑で後をついていく。リンは一体、私をどこへつれていくというのか。もし試合に間に合わなかったら、どうしよう……。
……あっ!そう言えば私、サインもらう話忘れてた!テツジさんを前にして、緊張しすぎなんだよ……!
「……ここですわ」
そして、リンに案内されたのは、この会場の特別室。え、まさか……ここで?
「入りますわよ」
そのまさかだった。中に入ると、まず最初にガラス張りの大きな窓が目に入る。そして中には、観戦用の椅子や、テーブルもある。
また、ドリンクバーもあり、試合映像が流れるテレビモニターまである。
「り、リン……。私たち、こんなところで見るの?」
「いつも試合を観る時は、その会場の特別室をお借りしてますのよ」
……金持ちは、やることが違うんだな。そう思いながら、私は試合が始まるのを待つ。
「後どれくらい?」
「もうそろそろだと思いますけど……来ましたわ!」
フィールドに両チームの選手が現れる。テツジさんも背番号10のユニフォームを着て登場した。
整列を終え、選手がポジションにつく。観客も、私たちも、そしてきっと、フィールドの選手たちも、今か今かと開始のホイッスルが鳴るのを待つ。
そして、今。決勝戦のキックオフを告げるホイッスルが、高らかに鳴り響いた。
「始まった……!」
両チームの選手が一斉に動き始める。今は、テツジさんのチームがボールを持っている。
相手はディフェンスの固さで有名なチーム。その鉄壁の守りでここまで勝ち上がってきた。
一方、テツジさんのチームはオフェンスの勢いで有名なチームで、一気に点を取り勝ち上がってきた。
攻めと守り。言うならば、矛と盾の激突だ。
「……あっ、テツジさんがボールを持った!」
テツジさんにボールが渡る。そこからディフェンスをかいくぐって行き、ゴールに迫る。
「行け〜!シュートですわ〜!!」
けど、やはりディフェンスが固い。ゴールを捉える前に、数人がかりで止められる。
「あぁ〜!残念!!」
ボールを持った相手チームの反撃。上手くパスをつないで、前線に上がってくる。
だが、テツジさんのチームの1人がパスをカットし、今度こそはと攻め上がる。
「よし、行け〜!」
オフェンスが売りのチームなのだ。攻めに回れば、後はゴールを狙うだけ。だが、テツジさんはマークされており、他の選手にボールが渡る。
そのまま一気にゴールに迫る。距離は十分。そう判断したのか、シュート体勢に入り、そして……
「……あっ!」
ゴール目掛けて精一杯のシュート。コースもいい。けど、キーパーは読んでいたのか、ボールを捉える。しっかりと、ボールはキーパーの手の中に収まっていた。
「惜しい!」
「キーパーが強いですわね……」
それからも、似たような展開が続く。テツジさんもゴール前で止められ、他の選手はシュートを何回も撃つものの、さすがディフェンスの固いチームだけあって、まだ点を入れることはできない。
「……もう前半残り2分か。まだ0対0だね……」
幸いだったのが、相手チームに点を取られていないことだ。もし点を取られていたら、ここから勝つのは難しい。
「互角の勝負……。まさに決勝戦にふさわしい試合ですわね……」
「うん……。でも、最後にはテツジさんが決めてくれるよ!」
ここで前半終了のホイッスルが鳴り、ハーフタイムに入る。選手たちはベンチに戻り、観客たちも休憩のために席を立っていた。
「前半が終了しましたわね……。私たちも休憩いたしましょうか」
「そうだね。叫びすぎて喉が……」
「リサ……。まだ後半が残ってますわよ?」
「それはわかってるけどさ、全力で応援したくなるでしょ?テツジさんも出てるし、何よりも、いい試合だしね」
***
「……というわけでだ。まずはどうやって相手から点を取るかを考えていかないといけない」
一方、ベンチでは、どうやって点を取るのかを考えていた。
「ディフェンスも手強いが……厄介なのはあのキーパーだな。俺たちのシュートを読んでいる」
「テツジなら、あのキーパーを崩すことができるかもしれないが……やはりディフェンスがな……」
「そうですね……。あのディフェンスをどうにか離すことができれば……」
「オフェンスは悪くないんだ。押してるのは、あくまで俺たちだ。後一押し、何か決め手を作ることができれば……」
総動員して考えるも、なかなか答えが出ることはない。最初はざわついていたベンチも、いつしか静まり返っていた。
「……とりあえず、前半のように攻めの姿勢を忘れるな。キャプテン、少しでもディフェンスを崩すためには、的確な指示が重要になってくるぞ」
「……そうですね、監督。後半はディフェンスの動きに目を向けて、それから適宜、作戦を立てていくと言うことで━━」
「……あのっ!」
そんな中、声を放ったのはテツジだった。
「何だ、横山?」
「あの、俺……少し考えたんですけど……」
テツジは自分の考えをメンバーと監督に伝える。ディフェンスを突破し、点を取るための作戦を。
「……確かに、一理あるかもしれない」
「だが……この作戦が使えるのは一度きりだ。もしミスしたら、そこから点を取る時間はもう……」
そうなれば、千載一遇のチャンスを逃すことになると、そう言いたいのだろう。……だったら、
「なら、逆にミスしなかったらいいんですよ。そうすれば、後は守りきるだけです」
「ミスしなかったらって……そんな簡単に……」
確かに、軽い気持ちで言っているように聞こえるだろう。ミスしないなんて言い切れないし、成功するとも限らない。
「……約束したんですよ、試合前に。今日の試合、全力で楽しませるって……。そのために俺ができることは……点を取り、期待に応えることです!だから!!」
「どうします、監督?」
「……わかった、やってみよう。成功してもしなくても……勝つために、みんな、懸けてみよう!横山に!!」
テツジの作戦、そして監督の言葉に、選手の勢いは高まる。これなら、この試合、勝てるかもしれない。
(見ていてくれよ……リンちゃん、そしてリサちゃん!俺のプレイで、全力で楽しませてみせる!!)
***
「そろそろ後半が始まりそうですわ」
「どっちも、メンバーは前半と変わりなしか……テツジさんは……っ!?」
「どうしまし……!?な……何であんなところに、テツジが!?」
フィールドの中に、テツジさんの姿はある。けど、問題はその場所だ。テツジさんのポジションは、フォワードのはず。なのに、今いる場所は……
「……ディフェンダーって、どういう……?」
攻撃とは全く無縁なポジション。守りのポジションについていた。同点で、点をやれない気持ちもわかるが、どうしてテツジさんがディフェンダーに……?
「何か……きっと何かあるんですわ」
テツジさんがいた場所には、代わりに背番号2番のユニフォームを着た選手が入り、そのまま後半を戦うようだった。
「……始まった!」
ホイッスルが鳴り、後半が始まる。前半は相手からのキックオフだったから、今度はテツジさんのチームからのキックオフだ。
「あの2番……何か秘策があるのかしら?」
「わからない……あっ、見て!」
やはりオフェンスは問題ない。ディフェンスを抜き去り、ボールは背番号2番の下へ。そのままゴールに向かってシュートを撃つも、キーパーに難なく止められてしまう。
あの2番に打開策があるのかと思ったが、そんなことはなかったみたいだ。
なら、どうしてテツジさんはディフェンダーになったんだろう?同点とは言え、まだ守りを固める場面ではない。むしろ攻める場面だ。
「……この試合、どうなってしまいますの……?」
「大丈夫……きっと。テツジさんのチームが勝ってくれるよ」
けど、テツジさんはディフェンダーのまま、試合は過ぎていく。攻撃には参加せず、じっと守りに徹しているだけ。
どちらも点が入ることなく、後半が終了するまで、残り10分を切ろうとしていた。
「……もうずっと、こんな感じですわ。このままだと、延長戦になってしまいますわよ……?」
「テツジさん……」
一方、フィールド内では、何とかして均衡を崩そうと必死になっていた。延長戦になれば、体力の面を考えて控えの選手を使うことになるだろう。
そうなれば、この均衡がどうなるかはわからない。どちらに傾くかはわからないが、延長戦になれば、試合が動くことは明らかだった。
だからこそ、先に点を取り、延長戦を迎えることなく試合を終わらせたかった。
「くそ……!何としても1点取れ!横山が攻めて来ない以上、よほどのことがない限り止めれる!」
「時間がない……!一気に攻めるぞ!」
それぞれ声を出しあい、点を取るだけに必死になっていた。その雰囲気に感化され、会場の熱気は高まっていく。
(……それにしても、横山テツジ。後半になって怖気づいたか?ミッドフィルダーならともかく、ディフェンダーとは……)
テツジが攻めて来ないことに、相手のキーパーは鼻で笑う。他の選手なら、威力がない分、少し予測が外れても、弾くくらいなら造作もない。
だが、奴は威力がある。読み違えたら、弾いてやることすらできない。
(……とはいえ)
何を思ったのかは知らないが、自分から姿を消してくれたのなら好都合だ。延長戦になっても、俺はまだやれる。もしそれで決着がつかなくても、PKに持ち込めば……俺たちの勝ちだ。
と、ボールが相手に渡る。まぁ、誰が相手でも大丈夫だ。今ボールを持っているのは、右サイドにいる2番。後ろに8番、左サイドに11番と9番……と言ったところか。
ディフェンダーが2人がかりで守りに行く。数では勝っている……。が、ここはパスして、9番にボールが渡る。
と、そこに別のディフェンダーが来るも、今度は11番へのパス。隙を探しているのだろう。俺は集中して、目線でボールを追う。
ボールを手にし、一瞬まわりを見た11番。すると、意を決したかのように、そのままゴールへと走る。
(……11番か!)
だが、奴なら止められる。……それとも、隙を作るためのフェイクか?
「ディフェンス!来れる奴だけ来い!他はマークに専念しろ!」
その指示に、11番は一瞬苦い顔をする。やはり、そういうことだったのか。これで、パスをすることはないだろう。
ゴールへ迫る11番に、手の空いたディフェンスも追いついてきた。目の前には俺がいる。シュートしか……道はない!
「……よかったぜ、あんたがマークを指示したおかげで、より確実に決まりそうだ」
「何……!?」
と、シュート体勢に入る。奴のシュートもさっきまで受けている。脅威になるものは、何も……?
「……行くぞ!」
だが、今にもシュートを撃つつもりでいる。そして、その右足がボールに触れようとして……
「…………!?」
━━触れることはなかった。振り抜いた足は、ボールを捉えることなく、空を切る。今、シュートを撃つことしか選択肢はないはず。こんなフェイントに何の意味が?
だが、次の瞬間だった。振り抜いた足を勢いよく後ろに戻し、ボールをかかとで押し出した。
「バックパス……!?」
したところで、一体誰がボールを持つというのか。マークは誰も外れていない。そんな中、後ろに転がったボールを持ったのは……
「……よかった、作戦通りだよ。これで……!」
「な……何でお前が……!?」
背番号10のユニフォーム。遥か後ろにいたはずの男、その人物だった。
「これで、1対1だ!!」
「……横山、テツジィィィ!!」
まわりがマークされる中、唯一マークされていない味方。それが、テツジだった。突然の出来事と、マークにより少なくなったディフェンスにより、テツジを阻むものは、キーパーだけとなった。
(……落ち着け!コースさえ読めば、止められる!集中しろ、集中だ……!)
「行けーっ!横山ーっ!!」
(……ヤバイな。凄い心臓バクバクしてる……怖いな。けど、ここでやらなきゃ……ここで点を取らなきゃ!観客を!ファンを!そして何より、リンちゃんとリサちゃんに約束しただろ!?)
全力で……楽しませるって!!
「う…おおおおお!!」
そして、テツジはシュートを撃った━━━━━
***
テツジさんがシュートを撃った瞬間、スタジアムを包み込んだのは、静寂だった。特別室で見ていた私たちは、フィールドの選手が身動きしない、いやできないのを見ていた。
強烈な右足のシュートが、ゴールに向かう。コースは、左隅。キーパーは、脅威的な集中力でそのコースを読み、ボールへと手を伸ばす。その手は、そのままボールに触れることは……なかった。つまり、ボールは……
「ゴ……ゴ━━━━ル!横山選手、渾身のシュート!!ついに均衡が破れました!!」
実況のアナウンスにより、再びスタジアム中に大歓声が起こる。今日一番の、テツジが望んだ歓声だった。
「やった、やった!テツジさんが決めてくれた!!」
「これで守りきれれば、テツジたちの勝ちですわ!!」
事実、これまでの相手の攻撃を見るからに、残りわずかな時間で点を取り返すことは不可能に近い。この瞬間、テツジさんは、勝ったも同然だった。
そして、そのまま試合終了のホイッスルが鳴り響いた……。
***
「やったな、テツジ!」
「あの作戦がなかったら、今頃どうなってたか……」
「けど、成功してよかったよ、本当」
決勝戦が終わり、現在、ミーティングをしている最中だった。反省点などを挙げていく中、やはり、テツジの活躍を口々に挙げていく。
「……でも、正直ここまで上手くいくとは思いませんでした。この作戦も、もしかしたらって思っただけなんですから……」
「けど、お前はやってくれた。そうだろ?」
「あっ、キャプテン……」
「それに、約束してたんだろ?全力で楽しませるんだって。この試合は、お前の気持ちで勝ったんだ」
その言葉に、テツジの表情が緩くなる。そんなテツジの様子を、監督は静かに見ていた。
(横山の作戦……それは、わざと自分が攻めないことで、相手に油断を与えるというものだった)
ハーフタイムの時、テツジは、あることに気づいていた。それは、相手によって、ディフェンスの人数が違うということだ。
基本、相手はディフェンスを1、2人で行っていた。しかし、テツジの時だけは、3、4人で行っていたのだ。そのせいで、テツジは前半にシュートを撃てていない。
そこでテツジは、こう考えた。……キーパーは、自分のシュートを恐れている。だから、ディフェンスを自分に優先させているのだと。
(そう考えたテツジは、後半ディフェンスにまわり、他の選手が攻め続ける状況を作り出した)
自分はディフェンスをすることで、前線に上がることはないと相手に思わせる。その隙をついて、テツジが一気に前線に上がっていき、キーパーと1対1になる状況を作り出したかった。
そのためには、自分はずっとディフェンスしかしないと相手に思わせることが必要だった。だから、後半が終了する間際にしか仕掛けることがてきなかった。
しかし、この作戦は成功し、ディフェンスに阻まれることなくシュートが撃てた。そして、勝利した。
(……やはり、彼なら大丈夫そうだ。選手としてはもちろん、状況を判断し、そこから一手を作り出す実行力。そして、何よりも、意志を貫く強い想い……)
監督は静かに目を閉じると、ある一つの決断をすることになった……。
***
それから数時間後、インタビューや写真撮影などを終えたテツジさんが控え室に戻ってきた。その表情には疲れが見える。
「お疲れ、テツジ!大活躍ですわ!」
「いや、あれは味方が頑張ってくれたからだよ。そっちに注意を向けることが、俺の目的だったからね」
「でも、テツジさんがゴール決めた時、凄い歓声だったよね!」
「あぁ、喜んでもらえて、俺も嬉しいよ!2人とも、楽んでもらえた?」
私たちは、頷いた。それを見て、テツジさんは安心したようだった。試合前の約束を果たすことができ、ホッとしているのだろう。
「……そう言えばリサ。サインの話はいいの?」
「あっ、そうだった。あの……テツジさん。今日会った記念というか、その……サイン、とか出来ればもらえたらな……って」
「サイン?あぁ、そういうことなら、喜んで」
すると、テツジさんは自分のカバンからサッカーボールを取りだし、サインする。
「はい、サイン書いたよ」
「あ…ありがとうございます!」
「喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ。さて……俺、そろそろ行かないといけないんだけど……」
「あ………」
もう別れの時か……。長いようで短い時間だったな……。
「わかりましたわ……。では、ありがとうテツジ。また試合の時は、観に行きますわ」
「うん。また招待状を送るよ。次からはリサちゃんにもね」
「……!また、会えるんですか!?」
「もちろん、招待させてもらうよ」
それは、夢のような一時。もう訪れることはないと思っていた時間。
けど、再び訪れる。私たちは、また会える。なら、この別れを惜しむ必要は何もない。私たちは、テツジさんに見送られながら、スタジアムを後にした。
***
「……さて、と」
その2時間後のことだった。テツジは、チームの監督に呼ばれて、いつも使っている練習場のミーティング室にいた。
既に辺りも暗く、電気のついた室内には、テツジしかいなかった。
「……おぉ、来てたか横山」
「あっ、監督。今来たところですよ」
そこへ、監督が入って来る。手には、1枚の紙があった。
「いきなり呼び出して、すまなかったな」
「いえ、俺は大丈夫です。……それで、監督。俺に話というのは……?」
テツジがここにいるのは、監督から話があってのことだった。いい話なのか、それとも……
「……その前に、まずは決勝戦、よくやってくれた。横山の作戦がなければ、勝利はなかったかもしれない」
「ありがとう、ございます」
「そのことはそのことだ。さて、本題に入ろう。横山……本日をもって、お前にはこのチームを抜けてもらう」
「……えっ!?」
耳を疑った。信じたくはない。このチームにだって、愛着と呼べるものはあった。なのに……監督の口からもたらされたのは……俺がチームを離脱することを意味する言葉だった……。
というわけで、今年も頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。