ここで、ファイト中の表現について説明を。ユニット名の後ろの( )は、そのユニットのパワーを表します。
また、そのユニットのパワーが増えると、ユニットの後ろにパワープラス後のパワーが( )で表示されます。
前書きが長くなりましたが、第2話、始まります。
……ヴァンガードは避けていた。過去を思いだし、辛い記憶が蘇ってしまうからだ。
だから、もうヴァンガードをすることはないと思ってたし、これからもその気持ちが変わることはない。
そう思っていた、はずなのに……。
***
「……さぁ、あなたのデッキが出来ましたよ」
シオリは、店長が組んでくれたデッキを見る。お試し用として組まれていた為、強さはまずまずだろうと判断する。
「どうですか?気に入ってくれました?」
「はい、まぁ……」
全く知らないクラン。ゴールドパラディンか……。ロイヤルパラディンとは、どう違うのだろう?
「あなたの……そう言えばお名前は?」
「星野シオリです」
「星野さんの選んだカード、『円卓の解放者アルフレッド』は、ゴールドパラディンというクランに属してます。ゴールドパラディンは、リアガード……要は仲間を増やすことを得意としていて、初心者から上級者まで、幅広く使われるクランですよ」
ロイヤルパラディンも仲間を増やすのは得意だったと思うけど……それよりも高性能だと言うのかな?
「特に、そのアルフレッドにある名称……『解放者』は、つい最近出たばかりの名称でね。こう言った名称を持つカードは、その名称を持つカード同士で組まれたデッキだと、強力になるんだ」
名称ね……。『オーバーロード』とか、『ブラスター』みたいなものかな?
「でね、このアルフレッドは━━」
「はいはい、わかったおじさん。そこでストップ。このまま話されたら、いつまで経っても俺がファイト出来ないじゃん」
「……もう少しくらい話していてもよかったと思うんだけどな」
店長は話を切り上げ、私をファイトテーブルへと案内する。
「え~と、さて、ルールの方なんだけど……」
「俺が星野さんに教えるのじゃダメなの?」
「まぁそれもいいんだけど……」
すると、店長はレジの方から何やら小冊子を持って来て……。
「とりあえずこのルールブックを一通り読んで、大まかなルールを把握して下さい。で、実戦でそれをものにすると」
………………………
「……おーおー、おじさん。それでもカードショップの店長な訳?初心者にルール教えるのにルールブック!?」
「何を言う!ルールブックこそ、ルールを知る為のノウハウが事細かに書かれている!それをワタル……そんな言い方ないだろ!?」
……まぁカードショップに来て、ルールブック渡されてルール覚えるのも、少々変な話だ。
せっかくだから、誰かにファイトの中で教えて貰う方がいいと思うし……。
『よし、じゃあこれからヴァンガードのやり方をビシビシ教えてやるぜ!ちゃ~んと覚えるんだぞ?』
少なくとも、私が教えて貰った時は、ファイトの中で教えて貰ったからね……。
***
「……それじゃあ星野さん、ルールは覚えましたか?」
「まぁ大体は……」
ルールブックを見なくてもルールはほとんど覚えていた。
ただ、新しく増えたルールがあったため、そのルールだけは確認しておいた。
「じゃあ早速、実戦でルールを確認してみようか」
「はい、お願いします」
小沢君はさっきからソワソワしている。早くファイトがしたくてたまらないのだろう。
「では、まず始めに自分のデッキから、グレード0のカードを1枚探して、このプレイシートの
R V R
R R R
Vの部分に伏せて置いて下さい」
『カードファイト!!ヴァンガード』は、地球によく似た惑星『クレイ』の住人……『ユニット』を従え、先導者となって戦うゲームだ。
そのためには、まず、自分自身が戦う力を得るため、ユニットに憑依……『ライド』しないといけない。
そのために、最初にグレード0のカードを伏せる必要がある。この時、カードの右上にアイコンがなく、カードの下が黒いものを伏せるといいのだが、シオリは、そんなこと言わなくてもわかっていた。
「カードを伏せたら、デッキをシャッフルして、上から5枚引く。この時、1回だけカードの引き直しが出来ます。手札に、グレード1、2、3のカードが揃うようにするといいですよ」
「じゃあ……私は2枚」
「俺は3枚引き直すよ」
引き直した結果、シオリ、ワタル共に、グレード1、2、3のカードが手札に揃ったようだった。
「いいですか?では、最初に伏せたグレード0のユニットを、さっき教えたように、あのかけ声で表にして下さい。それが、ヴァンガード始まりの合図です」
「……わかりました」
まぁ知ってたけど。
「よっし、行くぜ!!」
「それでは、始め!!」
「スタンドアップ!ヴァンガード!!」
「スタンドアップ、ザ…ヴァンガード!!」
私達は伏せていたカードを表にする。
「私は…小さな拳士 クロン(4000)」
「俺は、リザードソルジャー コンローだ!(5000)」
シオリはゴールドパラディン、対するワタルはかげろうと呼ばれるクランだった。……と、
「……ところで、星野さん?さっきの『ザ』は一体?」
「え……それは」
その問いにシオリは、また過去のことを思い出す。
『……何で『ザ』ってつけるの?』
『いいだろ?かっけーじゃん。ほら、星野も真似してみろよ、ザ!ってさ!』
「……前にたまたま聞いて、ちょっとやってみようかなって思って……ね」
「ふーん……」
……無意識だった。別に『ザ』をつけるつもりじゃなかったのに、自然と口に出ていた。
こういうことって、体が覚えているものなのかな……?
「まぁいいか。じゃあ説明もあるから俺が先攻な?」
「……うん」
「まずは、スタンドアンドドロー!」
ヴァンガードは、ターン制で行われる。自分が行動するターンと、相手が行動するターンを交互に繰り返していく。
まず、自分のターンの最初には、レスト(横向きになっていること)しているユニットを、スタンド(縦向きになっていること)して、行動できる状態にする。が、今はレストしたユニットはいないので飛ばす。
その後ドロー、デッキの上からカードを1枚引く。
「よし、次はライド!ドラゴンモンク ゴジョー!!(7000)」
そしてライド。ターンに1回だけ、ヴァンガードのグレード以上のカードにライドできる。これを繰り返し、最終的にグレード3にライドすることになる。
「そしてこの時!コンローのスキル発動!!ゴジョーの後ろに、コンローを移動させる!」
ヴァンガードには、さまざまな種類のクランがあり、そのクランを統一してデッキを組む。
複数のクランでデッキを組むことは出来るが、クランを統一することで、メリットが生まれる。
まず1つが、限られたグレード0のユニットは、同じクランのユニットにライドされると、リアガード(ヴァンガードと共に戦う仲間)として5つあるリアガードサークル、
R V R
R R R
このRの部分にコール(リアガードを出す)することができる。これで共に戦う仲間が増え、優位に戦えるのだ。
「続けて、ゴジョーのスキル発動!自身をレストし、手札1枚を捨てて1枚ドロー!」
ユニットには色々なスキルがある。その能力を駆使することも、ヴァンガードでは重要になってくる。
ただ、ヴァンガードにとっては、それ以上に重要なものがある。それは……。
「2人とも、イメージを忘れてはいけないよ」
「わかってるよ!」
「……わかりました」
イメージすること。どのようにユニットを従え、どう攻撃し、相手はどう反撃してくるか……。イメージすることで、それが勝利へとつながっていく。
「じゃあ俺のターンは終了するよ」
先攻はアタックできないので、ここでターンは終わる。
「じゃあ……行きます。スタンドアンドドロー……」
久しぶりだ……。いつ以来だろう?ロイヤルパラディンとは違うけど、ヴァンガードをしていることに変わりはない。
「……ライド!小さな解放者 マロン!(7000)』
グレード1、マロンへとライドする。このマロンと言うカード、元々はロイヤルパラディンのユニットで、それがゴールドパラディンとなったもの。シオリも、よく使っていた。
「クロンは左斜めに移動します……。続けて、マロンの後ろに未来の解放者 リュー(6000)をコール!」
コールできるのは、ヴァンガードのグレード以下のユニット。そのため、ヴァンガードのグレードが上がればコールできるユニットも増える。
ちなみにリューも、元はロイヤルパラディンのユニットだ。
「じゃあ次が、アタック……だよね?」
一応初心者ぶって確認する。
「そのとおり。よし来い!!」
「……じゃあ、マロンでゴジョーをアタック!リューでブーストします(13000)」
アタックは、自分の前列のユニットが、相手の前列にのみできる。アタックするときは、ユニットをレストして行う。
この時、グレードが0、1のユニットは、前のユニットがアタックした時、レストして自身のパワーをプラスできる。
「……このまま受ける!」
「じゃあ、ドライブチェック……だね?猛撃の解放者……」
「おっ、トリガーか……!」
ここで、クランを統一するもう1つの理由。ヴァンガードがアタックした時、自分のデッキの一番上を見て、トリガーを確認する。
このトリガーは、同じクランのユニットがいないと発動出来ない。
トリガーは4種類あり、与えるダメージを1つ増やすクリティカル、デッキから1枚引くドロー、リアガードをスタンドさせるスタンド、ダメージが相手以上のときに自分のダメージを1枚回復できるヒール。
これらのトリガーを、ヒールは4枚という条件で、計16枚デッキに入れることになる。
このトリガーには、全てのトリガーに共通して、発動するとパワーを5000プラス出来る能力がある。なので、終盤ではトリガーが引けるかどうかが鍵となる。
「これはクリティカルトリガー……パワー、クリティカルはマロンにプラスします。(18000 ☆2)」
ユニットのバトルはパワーの高い方が勝つ。ゴジョーは7000、マロンはブーストとトリガーで、18000。攻撃側が高いので、アタックはヒット。防御側が高いと、アタックはヒットしない。
「ダメージチェック…1枚目、希望の火 エルモ。2枚目、ワイバーンガード バリィ。トリガーなし」
ダメージチェックでも、トリガーが出ると効果が発動する。このダメージを先に6枚与えることが勝利条件だ。
「じゃあ……ターンエンド」
シオリ:ダメージ0 ワタル:ダメージ2
「次は俺のターン、スタンドアンドドロー!ドラゴンナイト ネハーレンにライドだ!(10000)」
これでグレード2。コール出来るユニットも多くなる。
「コンローのスキル!『カウンターブラスト』(以下CB)1、自身を退却させ、デッキから、ワイバーンガード バリィを手札へ!」
CBとは、たまったダメージを裏返すこと。似ているものに『ソウルブラスト』(以下SB)があり、これは、ヴァンガードの下に置かれたカード、ライドや効果でたまる『ソウル』をドロップすること。
これらをコストに発動するスキルは多くある。
「さらに希望の火 エルモ(6000)をネハーレンの後ろ、バーニングホーン・ドラゴン(9000)を左前列にコール!……よし、行くぜ!バーニングホーンで、マロンをアタック!(9000)」
パワーは9000対7000。アタックはヒットしてしまう。……何もしないのなら。
「猛撃の解放者でガード」
アタックは、手札からユニットをコールして、防ぐことが出来る。ガードに使う値はシールド値と呼ばれ、本来のパワーとはまた違う。
「シールドは10000、マロンは7000。足して17000。バーニングホーンは9000だから……」
「アタックはヒットしないな」
こうすることで、アタックをヒットしないようにして、ダメージを6枚にしないようにする。
ガードに使ったユニットは、すぐにドロップゾーンに置かれる。
「なら、エルモのブースト、ネハーレンでマロンをアタック!(16000) ドライブチェック……鎧の化身バー、トリガーなし」
「ダメージは……マロン」
「エルモのスキル!ブーストしたアタックがヒットした時、手札1枚を捨て、1枚ドロー。これでターンエンド」
シオリ:ダメージ1 ワタル:ダメージ2(裏1)
ダメージは1対2。まだ勝負は始まったばかりだ。
「私のターン、スタンドアンドドロー。ライド、沈黙の解放者 ギャラティン!(10000)」
シオリのヴァンガードもグレード2へ。さらに行動は続く。
「王道の解放者 ファロン(9000)を左前列、ズームダウン・イーグル(8000)を右前列、美技の騎士 ガレス(8000)を右後列へコール。さらに、クロンのスキル。CB1して、自身をソウルへ。デッキトップ5枚見て、グレード3のユニットを手札へ……ディグニファイド・ゴールドドラゴン」
進め方は知ってるので、慣れた手つきで進めていく。
「まずはファロンでネハーレンを。スキルで、ヴァンガードの名前に解放者が含まれていれば、パワープラス3000。(12000)」
「ガトリングクロー・ドラゴンでガード!」
「次にリューのブーストで、ギャラティン。ネハーレンへ。(16000)トリガーは……ギャラティン」
「ダメージは、約束の火 エルモ」
「ガレス、ブースト……ズームダウンでアタック(16000)」
「ノーガード……おっ!ドラゴンモンク ゲンジョウ!ヒールトリガー!ダメージを1枚回復し、パワーを一応ネハーレンに与える!」
ダメージが1つ回復され、差し引き0である。
「ターンエンドです……」
シオリ:ダメージ1 ワタル:ダメージ3
「さて、俺のターン!スタンドアンドドロー!ライド!ドラゴニック・オーバーロード!!(11000)」
グレード3へとライド成功。これで、コールもガードもグレード制限がなくなる。
「ベリコウスティドラゴン(9000)を右前、その後ろに、ドラゴンモンク ゴジョー(7000)をコール!そして……オーバーロードのスキル!CB3で、パワープラス5000!(16000)」
「ワタル……初心者相手に手加減なしか!?」
「いいの!ファイトするからには全力!じゃあまず、オーバーロードでズームダウンをアタック!エルモでブースト!(22000)」
ズームダウンはリアガードであり、リアガードへのアタックは、ヒットすることで、そのユニットを退却できる。シオリはこれをノーガードする。
「ドライブチェック……約束の火 エルモか。希望のエルモのスキルで手札を入れ替えて……さらにオーバーロードのスキルで、スタンドする!」
ドラゴニック・オーバーロードは、CB3を発動したターンのみ、リアガードへのアタックをヒットさせればスタンド出来る。
「オーバーロード、続けてファロンへ!(16000)トリガーは……槍の化身 ター。ゲット!クリティカルだ!クリティカルはオーバーロード(16000 ☆2)、パワーはバーニングホーンへ(14000)」
再びリアガードにアタックがヒットしたことで、オーバーロードはスタンドする。
「バーニングホーンでギャラティンにアタック!スキルでオーバーロードをカード名に含むヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(17000)」
「ノーガード。ダメージは武装の解放者 グイディオン。ドロートリガーだから……1枚引いて、パワーをギャラティンへ。(15000)」
「くっ!けど、まだアタックは終わってない!オーバーロード、3度目のアタック!(16000 ☆2)」
「……ガード。運命の解放者!」
これでは、ワタルはトリガーを引いてもパワーを上回ることが出来ない。
何とかクリティカル2のアタックを受けずに済んだ。
「くっそ~!クリティカル2だったのに……。トリガーチェック!ブルーレイ・ドラゴキッド。よし!クリティカルトリガー!効果は全てベリコウスティへ!(14000 ☆2) ゴジョーのブースト、ベリコウスティでアタック!(21000 ☆2)」
「……防げない。ノーガード……」
ダメージは、リューとぽめるがる・解放者。どちらもトリガーではない。
しかもダメージは4枚。後2枚で敗北が決まる。
「ベリコウスティのスキルで、ヴァンガードにアタックがヒットした時、ダメージを1枚表に。ターンエンド」
シオリ:ダメージ4 ワタル:ダメージ3(裏2)
「……私のターン、スタンドアンドドロー……」
すると、店長が私達のファイトを見て、
「シオリさん、すみませんね……。ワタル手加減知らなくて。もう無理だって思ったら……」
降参することを提案してきた。確かに、初心者がいきなりこんなもの見せられたら、戦意を失うだろう。
だが、シオリはと言うと……。
「……ふふっ」
「……星野さん?」
笑みがこぼれていた。それも、自然と出たものだった。戦っているうちに、だんだんと楽しさを取り戻し、シオリの中で何かが溢れて止まらなくなっていた。
「……楽しいね。ヴァンガードって」
ヴァンガードをする気はなかった。さっきも、これからも……。そう思っていたはずなのに。
「……勝つよ、小沢君。私の『初ファイト』、勝って終わりたいから!」
このファイトで知ってしまった。ヴァンガードは楽しいものであると。
そして、思いだした。忌まわしい過去の中にも、自分がヴァンガードを楽しんでいた時があったことを……。
「世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!ライド・ザ・ヴァンガード!!」
自然と口から紡がれる、ライド口上。そして現れるのは、騎士を統べる黄金の鎧を纏う王。
「……円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」
この瞬間、シオリの中のヴァンガードは、再び時を刻み始めたのであった……。