間が空きすぎました。かなり忙しくて、時間が取れなかったのですが……言い訳ですね。
では、どうぞ。
今日は曇り。暑いのに変わりはないけど、日射しは遮ってくれる。マシな天気だ。
そんなわけで、私のテンションが上がってる……かと思ったらそうではない。なぜなら……
「……えっ!?3人とも放課後いないの!?」
「そうっスよ……俺は期末テストの追試が……」
「俺は今日までの提出物を終わらせないと……」
「私は、委員会の仕事でね。だから悪いんだけど、終わったすぐに向かうから……先に行っててくれない?」
というわけだ。なので、先にサンシャインに1人で行くことになり……
「……今は曇り空の中、1人で歩いてるところです……」
だからテンションも上がらないというわけで。けど、涼しいクーラーが待っていると思えば、苦ではない。
「……それにしても、さっきから雲行きが怪しいな……」
学校を出たぐらいから、空が暗くなり始めていた。今にも降ってきそうな……。
「降ってくる前に着いたらいいんだけど……」
そんな心配をよそに、降られる前に着くことができた。自動ドアが開き、私は店内へ……。
瞬間、私のまわりに広がる冷たい空気。さっきまでの暑さがどこかに吹き飛ぶような……。
「涼しい……!」
冷房の効いた店内。まさに天国のような場所だ……。
***
「なるほど。それで今日は先に1人で……」
「はい……。みんな、大丈夫かな?雨降ってこないといいんだけど……」
「雲行きは怪しいけど……まだ大丈夫だと思いますよ。みんなが来るまで、ゆっくりして下さいね」
私と話をしていた店長は、店の奥へ入っていく。……さてと。
「…………………」
何も……することがない。
ショーケースのカードを見ている……と言っても、今のところ特に気になるのはない。ファイトは……対戦相手がいないとな……。
「……だったら」
私は空いているテーブルに座り、鞄からデッキを取り出す。よくシャッフルした後、テーブルの上にデッキを置き、静かに目を閉じた。
想いを込めて、デッキの上に手を重ね、カードを引いた……。
「……ファロンか。アルフレッドを引くつもりだったんだけどな」
吉崎さんとのイベント以来、私はたまにこんな感じで、あの謎の感覚になれないかどうか試している。
成功した時もたまにあったけど……本当にたまに。一番最近は……4日前くらい?
とにかく、あの感覚を掴むにはまだ時間がかかる……ということか。
「よし……もう一度」
今度は……そうだな。マロンにしよう。来て、マロン、マロン……。
「……エポナ。マロンじゃない」
ダメか……。一体どうしたらあの感覚になれるんだろう?
『ユニットとつながろうっていう意志だね』
つながる……でも、どうしたら……?
「いや、とにかくやってみよう。想いを強く……つながる……!次は…来て、エスクラド!」
で、来たのは…
「……ここでアルフレッドって」
何かもう……本当につながりあるのかな!?全然そんな気がしてこないんだけど!?
「はぁ……」
「……星野シオリだな?」
「へっ!?は、はい……そうですけど……?」
見られてたー!?うわ、恥ずかしい……。って、それはそうなんだけど……
「えっと、あなたは……一体?」
全く知らない人だ。歳は……同じくらい。クールな印象を漂わせる男子だった。
記憶にはない顔だし、初対面のはず。なのに、なぜか私の名前を知っている。一緒のクラスとか……だっけ?いや、こんな男子はいなかった。
「どうして、私の名前を……?」
「……そうか。覚えていないようだな。無理もないか」
「えっ、それって……?」
前に、どこかで会ってる……?いや、そんなことはないはずだ。
「まぁいい、ファイトだ。星野シオリ」
「はっ、えっ!?」
状況についていけない。それに、ちょっと頭が混乱してきたんだけど……。特に、目の前の彼の素性について。
「いや、えっと……ファイトはいいんですけど……あなたは一体?」
「……本当に覚えていないみたいだな。なら、ファイトで教えてやる。準備をしろ」
「あ、はい……」
もう成すがままに、ファイトの準備を始めるのだった。
***
「ふ〜。やっと終わった」
一方その頃、ワタルは提出物を終わらせ、学校を出ようとしていた。
「珍しく、あまり説教しなかったなあの先生……。さてと、じゃあこれからサンシャインに……あ」
「お、ワタル君。今終わったっスか?」
「あぁ。先生の機嫌がよかったのか、提出してすぐに帰れたからな。そっちは?」
「もう散々っスよ!何で追試なんか……追試なんかあるんスか!?」
「……2回言うなよ」
ちょうど追試を終えたトウジと遭遇し、一緒に学校を出ようとすると……
「全く……遅かったわね」
「あれ、森宮……委員会の仕事って、そんなに時間かからないはずだろ?」
「待っててあげたのよ。2人のためにね」
校門の辺りで、リサがスマホをいじりながら、2人のことを待っているところだった。
「……そんな言い方されると、待ってなくてもよかったな〜って思うんスけど……」
「何でそんなこと言うのよ!」
「いやほら、シオリさんだって1人で待ってるわけだし、そっち優先でもよかったんじゃないっスかね……って」
「う……」
トウジとリサが言い合っている中、ふとワタルが空を見上げる。
「一雨来そうだな……」
「どうりで暗いと思ったんスよ」
「なら急ぐわよ。シオリさんだって待たせているんだし」
できるだけ早足で、3人はサンシャインへと歩き出した。
***
「準備はできたか?始めるぞ」
「はい……」
よくわからないけど、ファイトすることになってしまった。まぁいいか。グランドマスターカップに向けた練習にもなるし。
「ところで……」
「え?」
「……さっきのカード当ては、何だったんだ?」
いや、忘れて。ちょうど誰もいなかったらしてたのに、恥ずかしいから。1人でブツクサ言ってたから、なおさら恥ずかしい。
「まぁいい。少し気になっただけだ。始めるぞ」
自分で言っておいて、自分で話終わらせるなら言わないで!?と、これはこれとして……
「「スタンドアップ!ザ、ヴァンガード!!」」
ヴァンガードはヴァンガード。今はファイトに集中しよう。
「小さな闘士 クロン!(4000)」
「グリービング・ダークゴード!(4000)」
シャドウパラディン……。けど、最近出た撃退者じゃないのか。黒輪縛鎖で強力なユニットも登場したのに。
まぁ、蓋を開けたら撃退者かもしれないけど。って言ってる私も、解放者なのにクロンだから。
「俺から行くぞ。ドロー。秘薬の魔女 アリアンロッド(7000)にライド!」
いや、そんなことなさそうな感じ……。これは昔のシャドウパラディンだな。
「ダークゴードはそのまま後ろへ。ターンエンドだ」
ターンエンド?アリアンロッドには、レストすることで不要な手札を新しい手札に変えるスキルがあるのに?
「じゃあ私のターン。ドロー、未来の解放者 リュー(6000)にライド!クロンはそのまま後ろへ。そして、小さな解放者 マロン(7000)をコール!」
何かある?いや、捨てようと思う手札がなかっただけかもしれない。
「マロンでアリアンロッドをアタック!スキルで、解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(10000)」
「……ノーガードだ。ダメージチェック、アビス・フリーザー。ドロートリガーだ。1枚ドローし、パワーをアリアンロッドへ(12000)……アリアンロッドのスキルを使わなくて正解だったな」
トリガー自体は驚くことじゃない。けど……アリアンロッドのスキルを使わないことで、トリガーが発動した。しかも、さっきの彼の言い方なら、そうなってしまう。
つまり、アリアンロッドのスキルを使わなかったのは、トリガーを……引くと思ったから?
……いや、まさか。そんな博打技をする必要は、まだない。だったらどうして?
「じゃあ、クロンのブースト、リューでアタック!(10000)」
「ノーガードだ」
「ドライブチェック、王道の解放者 ファロン。トリガーはなし」
さっきのトリガーのせいで、アタックは通らない。
「ターンエンド。……あっ」
「どうした?」
「いや、雨降ってきたな……って。人を待ってるんだけど、大丈夫かなって」
シオリ:ダメージ0 ???:ダメージ1
「待ち人が早く来ることを願うしかないな、そればかりは。さて、次は俺のターンだ。ドロー、暗闇の騎士 ルゴス(10000)にライド!」
う〜ん…。どうも違和感を拭えない。さっきのトリガーは、まるで……次に来るカードがわかっているみたいな……?
「カースド・ランサー(9000)をコール。ダークゴードのブーストで、ルゴスがリューにアタック!(14000)」
まさかイカサマ?考えすぎかもしれないけど……
「ノーガード!」
「ドライブチェック、漆黒の乙女 マーハだ」
「ダメージは……狼牙の解放者 ガルモール」
「なら、カースド・ランサーで……マロンだ(9000)」
「えっ!?」
この局面でリアガードを!?まだ私のダメージは1。もっとダメージを狙ってもいいはずだ。わざわざリアガードを狙う必要はなさそうに思える。
「えっと、ノーガード!」
「ターンエンドだ」
シオリ:ダメージ1 ???:ダメージ1
「驚いているみたいだな。俺のプレイングに」
「それは……だって、さっきのトリガーもそうだし、今のカースド・ランサーのアタックだって……」
「そう思うなら、見てみるといい」
「見て……って、何を……?」
「何をって、デッキに決まっているだろう?あんたには、それができるはずだ」
は?え?この人は……今、何を言ってるの?デッキを見るって……そんなことできるわけない。
「どういう……こと?」
「……まさか、俺のことを覚えていないばかりか、力の使い方まで忘れているのか?」
「力……!?」
待って。話についていけない。何か、とんでもないことを聞いているみたいな……。
「どうやら、そうみたいだな……。あんたに何があったかは知らないが、俺にはデッキが見える。あんたにも……見えるはずなんだかな」
「私が……デッキを?」
そんなズルみたいな話、私ができるわけない。これまでだって、そんな……。
「嘘みたいだと思うだろう?だが、これは事実だ。今だって、普通に見えている」
「そんな、冗談みたいな話……」
「確かにな。口で言うだけなら、頭のおかしな戯言にしか聞こえないだろうな。……だったら」
すると、彼は私のデッキを指差し、
「宣言してやる。あんたのデッキの一番上には……ヒールトリガーがある」
「まさか……」
「信じられないか?無理もないが、ドローすればわかることだ」
「……わかったよ。私のターン、スタンドアンドドロー」
疑いなんて一切ない、強気な宣言だった。息を飲みながら、私はカードをドローする。
そこにあったカードを見ると……。
***
「あ〜もう!なんで降ってくるんスか!?」
「グダグダ言うな!もうすぐ着く!」
「あっ!見えたわ!」
雨が降り続く中、3人はサンシャインへとたどり着いた。傘は持っていたため、ずぶ濡れになることはなかったが、所々濡れてしまい気持ち悪い。
「つ…着いたっス…」
「走ったから疲れたな……」
「で、シオリさんは……と」
3人は傘をを店の傘立てに置き、シオリのもとへ向かう。
「シオリさ〜ん!遅くなってごめ━━」
「これって……嘘でしょ!?」
3人に気づくことなく、シオリは手元に来たカードに驚きを隠せないでいる。
「霊薬の解放者……ヒールトリガー。当たってる。けど、どうして!?」
「言ったままだ。俺には、デッキが見えている。だから━━」
「……その話、本当なんスか?」
と、そこに割り込んできたのは……トウジだった。
「佐原君!?って、小沢君に森宮さんも……来てたんだ」
「さっきな。けど、こいつは?」
「知らない人……。ファイトしてたんだけど、この人デッキが見えているみたいで……」
「「……え?」」
自分でも何言ってるんだろうとは思う。けど、目の前の彼は本当に……。
「やっぱりっスか。今のシオリさんの話で……確信したっスよ」
「どういうこと?」
「あんた……ノスタルジアっスね?」
「「「!?」」」
「……ほう」
ノスタルジアって……確か、2年前の大会で、伝説と呼ばれた3人のファイターじゃ……!?
「デッキが見える。ノスタルジアの連中は、みんなそういうファイトをしていた。トリガーの位置、次に何が来るかも、全てを見通す。常識離れした『力』を持つ、それがノスタルジア……」
「察しがいいな。あんたの言うとおりだ」
「じゃあ、あなたは……本当に?」
「俺は……ノスタルジアの1人。現在の追憶……『レゼンタ』だ」
彼が……ノスタルジア?佐原君が探している3人の内の1人だと言うの?話が急展開すぎて、動揺しかないんだけど……。
「まさか、こんなところでノスタルジアと出会えるとは……驚いてるっスよ」
「何を言う。もう1人いるじゃないか。この場に……ノスタルジアが」
「……どういうことっスか?」
「そのままの話だ。だろ?未来の追憶『ロメリア』と呼ばれた……星野シオリ」
「「「なっ!?」」」
「え……!?ロメリアって……私が!?」
「本当に……覚えていないみたいだな」
確かにノスタルジアカップには参加してた。けど、そんな記憶……ダメだ。思い出せない。
「シオリさんがノスタルジアって、デタラメもいいところよ……!?」
「だが、本当の話だ。星野シオリには……ノスタルジアと呼ばれる由縁の力、ユニットとのつながりを得る力がある」
「あ……!」
『この力は、ユニットとのつながりを得ることができるもの。つながりを得ることで、ユニットはシオリに力を与えてくれる』
あの感覚……まさか、それがノスタルジアの……!?
「『アクセルリンク』。それがノスタルジアの持つ、つながりの力だ」
「……アクセルリンク」
不穏な空気になるにつれ、降りしきる雨は勢いを増していった……。