「……勝つよ、小沢君。私の『初ファイト』、勝って終わりたいから!」
私は、1枚のカードを目の前に掲げる。
「世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!ライド・ザ・ヴァンガード!!円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」
かつて自分が使っていたアルフレッドとは違う、新たなアルフレッドと共に、また戦いたいと強く想う。
もうシオリの中に、『ヴァンガードを避ける』という気持ちはなくなっていた。
「………………」
「あ、あれ?小沢君、どうしたの?」
小沢君は、唖然としていた。何せ普段教室では静かなのに、教室では見せないテンションで、ライド口上を口にしたことに、驚きを感じているのだろう。
「か……格好いい!!何さっきの!?」
「い、いや……即興で思いついただけで……」
「うわ~!格好いいな~!俺もこれからそんなの言ってみようかな!?」
案外、ウケはよかったみたいで、小沢君も口上を言ってみたいと言う程だった。
「じ、じゃあ、ファイト再開するよ?」
「おう!」
「……まず、ディグニファイド・ゴールドドラゴン(10000)を左前列へコール。そして、アルフレッドのスキル!解放者のユニットでCB2……デッキトップのカードをコール。王道の解放者 ファロン(9000)!」
「上手い!陣形を立て直しましたね!」
「さらに、アルフレッドのスキル!自分のダメージが4枚以上の時、発動できるスキル……『リミットブレイク』!!解放者のリアガード1体につき、パワープラス2000、2体でパワープラス4000!(15000)」
リミットブレイク。ダメージが4枚以上の時に発動する、強力なスキルのことだ。
このリミットブレイクを持つユニットは多く、また、ダメージが4枚以上の時にライドされると発動する『ブレイクライド』と呼ばれるものもある。
とにかく、これで準備は整った。
「まず、ディグニファイドでオーバーロードをアタック!スキルでアタックした時、パワープラス2000!(12000)」
「ターでガード!」
「次は、リューのブースト……アルフレッドでオーバーロードをアタック!(21000)」
「ノーガード!」
「トリガーを……引く!ツインドライブ!!」
グレード3のユニットに与えられる特権。それがツインドライブ。普通は1回しかドライブチェック出来ないところを、2回出来るようになる。
「1枚目、猛撃の解放者、ゲット、クリティカルトリガー!!パワーはファロン(14000) クリティカルはアルフレッド。2枚目、霊薬の解放者。ゲット、ヒールトリガー!!パワーはファロン(19000) ダメージを1枚回復」
ダメージが3枚になったことで、リミットブレイクは発動出来なくなり、それに伴いパワーも下がるが、ブーストもあり、アタックはヒットする。
「くっ……!ダメージは……ドラゴニック・オーバーロードとワイバーンガード バリィ……ダメだ!トリガーがない!」
これで小沢君のダメージは5枚。後1ダメージだ。
「最後!ガレスでブーストして、ファロンでオーバーロードをアタック!スキルで、解放者を含むヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(30000)」
「……まだだ!ワイバーンガード バリィ!完全ガード!」
ヴァンガードには、各クランごとに『守護者』と呼ばれるガードがある。手札1枚を捨てることで、相手のパワーがいくら高くても、そのアタックをヒット出来なくする。
ただし、守護者はデッキに4枚までしか入れられない。
「俺は、約束の火 エルモを捨てる!」
「……それじゃ、ターンエンド」
シオリ:ダメージ3(裏1) ワタル:ダメージ5(裏2)
「ワタル~追い詰められてるじゃないか~」
「うるさいな!おじさんは関係ないじゃん!それに……」
小沢君は何やら自信ありげにスタンドアンドドローを終え、再びライドする。
「よし…じゃあ、俺もやってみようかな?……終焉を告げる灼熱の龍!秘めたる闘志を解き放て!『クロスライド』!!ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド!!(11000)」
クロスライド。シオリはその単語に聞き覚えがあった。
「クロスライドスキル!ソウルにドラゴニック・オーバーロードがあれば、パワープラス2000!(13000) このパワープラス効果は、星野さんのターンでも発動するよ!」
ソウルに特定のユニットがいることで、自分のターンに関係なくパワーが上がる。これがクロスライド。
パワーが上がることは、攻撃だけでなく、防御にも使える。ガードに必要なシールドも、少なく出来るのだ。
「ジ・エンドでアタック!エルモでブーストするよ!(19000)」
「……ノーガード」
けど、ジ・エンドか……。厄介だな……。
「チェック!1枚目、バーニングホーン・ドラゴン……2枚目、槍の化身 ター!クリティカルトリガーだ!!パワーはベリコウスティ(14000) クリティカルはジ・エンドへ!(19000 ☆2)」
「2ダメージか……。ダメージチェック、小さな解放者 マロン……円卓の解放者 アルフレッド……」
「希望の火 エルモのスキルで、手札を捨てドロー……やった!来た!!」
この反応……不味い、来る!
「ジ・エンドのスキル!CB2、そして、手札から同名カードを1枚捨てて……ペルソナブラスト!!これにより、ジ・エンドは再びスタンドする!」
手札から同名カードを捨てることで発動するペルソナブラスト。このスキルを持つユニットは、強力なユニットが多い。
特にジ・エンドは、CB2とペルソナブラストで、自身をスタンドさせ、再びアタック出来るようになる。
ヴァンガードが再びアタック出来るということは、またドライブチェックを行うことができ、トリガーが発動する可能性が高くなる。
「再攻撃だ!ジ・エンド!!(13000 ☆2)」
「猛撃の解放者でガード!トリガー2枚貫通!」
「チェック!1枚目、ドラゴニック・オーバーロード。2枚目、鎧の化身 バー。トリガーなし。バーニングホーンでファロンをアタック!スキルでオーバーロードを含むヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(17000)」
「ノーガード」
ファロンは退却してしまう。
「ゴジョーのブースト、ベリコウスティでアルフレッドをアタック!(21000)」
「……霊薬の解放者、ギャラティンでガード!」
「決められないか~!ターンエンド」
シオリ:ダメージ5(裏2) ワタル:ダメージ5(裏4)
何とかしのいだが、ピンチであることに変わりはない。前列は1体欠けている。ジ・エンドは13000。ワタルの手札は5枚。
シオリはこのターンで決めきらないと、次のワタルのターンで決められるかもしれない。しかし、このターンでシオリが決めきるのは不可能に近いと思われた。だが、
(完全ガードは既に場に3枚出て、ドライブチェックでもなかった……。小沢君の手札には確か……グレード3が1枚、他はガードに使えるとして……)
シオリの中で勝利へのイメージが浮かびあがって来る。
「……いける、このターンで……勝てる!」
「えっ!?」
「スタンドアンドドロー!アルフレッドのスキル、ダメージの解放者を使ってCB2、デッキトップをコール!沈黙の解放者 ギャラティン!(10000)さらにこのスキルをもう1度……コール!王道の解放者 ファロン!(9000)」
さっきのヒールトリガーで、裏返っていたダメージを選び回復したので、スキルを2回連続で使えた。
「さらに、ディグニファイドの上から未来の解放者 リュー(6000)をコール!ディグニファイドは退却して……アルフレッドのリミットブレイク!解放者は4体いるから、パワープラス8000!(19000)」
シオリは元いたリアガードを解放者のユニットに上書きコールし、リミットブレイクで増えるパワーを上げる。
これで左列はファロン、リュー。右列はギャラティン、ガレス。中央はアルフレッド、リュー。今出来る最善は尽くした。
「リューとファロンの位置を前後で入れ替え、ファロンでアタック!スキルで解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(18000)」
「不味い……ターでガード!」
「リューのブースト……アルフレッドでアタック!リューのスキルで、ヴァンガードをブーストした時、他に解放者を含むリアガードが3枚以上いれば、パワープラス4000!(29000)」
「……ブルーレイ、バー、バーニングホーンでガード!」
パワー29000対33000……。トリガー1枚で突破……。
「ここで決める!ドライブチェック!……1枚目、円卓の解放者 アルフレッド……2枚目、猛撃の解放者、ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てアルフレッドへ!(34000 ☆2)」
「な……!」
トリガーによってパワーが上回り、アタックはヒットする。
「ダメージは……ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド。あ~っ!6ダメージ!!俺の負けか……」
「……勝った」
瞬間、シオリにどっと疲れが襲って来る。久しぶりのファイトだったため、ファイトに集中する感覚を忘れ、その結果、疲れが襲って来た。
「……強いな、星野さん……。でも、次は負けないから!」
「……こちらこそ、次も勝ちますよ」
……楽しかった。久しぶりにここまで楽しくなれた。
確かにヴァンガードは辛い過去を引き寄せる。でも、続けていきたい。また、アルフレッドと共に戦いたい。
「いや~。これだけ強いファイターが生まれたなんて……私としても嬉しい限りです!デッキをプレゼントした甲斐がありました!」
「あ…そのことなんですけど……やっぱり、その……デッキを貰えるのは嬉しいんですけど、何か悪いですし……お金払います」
「……いいんですよ。それに、お金を払ってくれるんだったら……それは、これから強くなるために、ブースターなどを買うのに使って下さい」
店長は優しく私に言ってくれた。小沢君も表情が緩くなっている。
「……はい!また……明日も来ていいですよね?」
「もちろん!カードショップ サンシャインは、いつでもファイターを歓迎しますよ!」
「ちょっとストップ!俺を忘れて話を進めない!……星野さん。これからもよろしく!クラスメイトとしても、カードファイターとしても!」
小沢君は、私に手を差し出して来た。私は、その手を握り返す。
「うん!こちらこそ!!」
シオリの未来が少しずつ動き始めていく。……それが良くなるか悪くなるかはわからない。
けど、シオリは信じている。これからきっと、未来は良くなっていくと。
シオリが未来と向き合い、過去と決別した瞬間だった。
***
……ここは、とある家の一室。部屋の中には、縦長の机が1つ。その近くには、ベッドと、棚が置かれていて、ベッドと棚の隙間には、ノートパソコンが立てかけてある。
その棚には、いくつかのケースがしまってあり、そのケースには、びっしりとヴァンガードのカードが入っている。
その部屋で、1人の少年が机の上で何枚かの紙を広げている。その紙には、何十名もの名前が書かれており、少年は、その名前に斜線をひいていた。
「……う~ん。なかなか俺のお眼鏡にかなう人はいないものか……。クラス、ショップ、色々歩き回ったのに……」
少年は誰かを探していた。そして、少年の中に、自分が求める人とは、まだ見つけることが出来ていなかった。
「……今日こそは出会いたいものだけど……」
少年は部屋を出て、リビングに向かう。
「……ちょっと出かけてくるよ」
少年は、リビングにいた老人に声をかける。
「おぉ……わかった。どこに行くんだい?」
「カードショップに行くよ」
「そうか……気をつけて行って来るんだよ」
「……わかってるよ、義父さん」
この老人は少年の父親ではない。少年は、この老人に色々と世話になっているのだ。
少年にとって、この老人は命の恩人と言ってもいい存在なのだ。
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい……トウジ」
少年は家を出る。ヴァンガードのデッキを持ったことを確認して、ある場所に向けて歩き出す。
「……さて、今日こそは期待したいものッスね……」
***
今日は土曜日。学校も休みだ。部活などで学校に行く生徒は多いけど、私は部活をしてないし、する気もないから問題なし。
というわけで、せっかくの休み。有意義に使わないとな…。
「お父さん!ちょっと出かけて来る!!」
「ん?どこに?」
「カードショップ!」
……有意義っぽくは見えない。もっと宿題するとか、部屋の片付けするとか、色々やることはあるんだけどな……。
「……わかった。気をつけてね!」
「は~い!」
シオリは家を飛び出す。1人残された父は、シオリの母の部屋へと向かった。
「……母さん。シオリが、またヴァンガード始めたよ。
今も、家飛び出して行った」
シオリの母の写真に話しかける。
「また、あの時みたいに笑いが増えた。見ていて楽しそうだ」
……が、父はそこまで言ってうつむく。
「……でも、同時に不安なんだ。また、シオリから笑顔が消えることになったら……。僕は、どうすればいいかな?」
また、過去が繰り返されることになるかもしれない。そうなった時、シオリはどうなるのか……。そして、自分はシオリに何をしてやれるのか……。
「……今は、その日が来ないことを祈るだけだよ……」
***
「ごめん、待った?」
「いや、今来たところ。何かパック買おうかなって見てたところ」
私はサンシャインにいた。小沢君も一緒にだ。
「……でも、土曜日だけあって、やっぱりお客さん多いね」
「えぇ、私としては嬉しい限りです」
いつのまにか現れた店長が、嬉しさを語る。
「これからも、お客さんが途絶えることがないように、営業し続けていきたいものですよ」
「そうですか」
「あ、おじさん!このパック買いたいんだけど?」
「わかった、レジするから、パック持ってきて」
小沢君がパックを買うということで、私は店内の客の様子を見る。
小学生くらいの子どもから、大人の人まで、幅広い年代の人が来ていた。学校帰りに訪れる時には見ない人が多い。
これも、ヴァンガードが人気がある証拠なのだろうか。
ちょうどそんな時だった。店の自動ドアが開き、中に人が入って来た。
高校生くらいの背が高めの少年、パッと見た感じ、ちょっとチャラけた感じを漂わせていた。
「いらっしゃい!」
店長がその人に挨拶する。
「どうもッス。……早速で悪いんスけど、店員さん。今ここにいる人で強そうな人……誰か教えてくれないッスかね?」
「強そうな人……そうだな……」
店長が店の中の客を見渡して考える。
「どうッスか?」
「……そこまでずば抜けて強い人はいないかな。ただ、何人かは強い人がいるけど……」
「あ…そうッスか……」
少年は落胆する。どうやらずば抜けた強さを持つ人を探しているみたいだった。
「……けど、まぁ紹介してもいい人はいるかな?」
「マジ!?誰ッスか!?」
「まぁ落ち着いて……。その人は初心者なんだけどね。でも、ここにいるワタルに勝ったからね。しかも初ファイトで。ワタルはジ・エンドのデッキを使ったのに」
「ジ・エンドを使う人に初ファイトで勝ったんスか……。なかなか中級クラスのファイターでも、ジ・エンド相手には勝てないもの……。それに勝ったとは……」
少年は何かを考えているようだった。しばらく考えた後、少年は、
「……じゃあ、店員さん。その人とファイトさせて貰えないッスか?」
「わかりました。……星野さん!ちょっと来て!!」
「……?はい!」
店長に呼ばれて、私はレジに行く。
「この人が星野さんとファイトしたいみたいだから、相手して貰えないかな?」
「えぇ……相手するのはいいですけど……」
私が相手でいいのかな?ヴァンガードはしていたとはいえ、再開してまだ少ししか経ってないし……。
「へぇ……女の子っスか。よろしくっス!」
「あぁはい。お願いします」
「そうだ、一応紹介しておくっスね、俺のこと。俺は佐原トウジ!よろしくっス!!」
佐原トウジ。彼との出会いが、後に大きな変化をシオリにもたらすことになる━━━━━