つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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ride3 過去との決別

「……勝つよ、小沢君。私の『初ファイト』、勝って終わりたいから!」

 

私は、1枚のカードを目の前に掲げる。

 

「世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!ライド・ザ・ヴァンガード!!円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」

 

かつて自分が使っていたアルフレッドとは違う、新たなアルフレッドと共に、また戦いたいと強く想う。

もうシオリの中に、『ヴァンガードを避ける』という気持ちはなくなっていた。

 

「………………」

 

「あ、あれ?小沢君、どうしたの?」

 

小沢君は、唖然としていた。何せ普段教室では静かなのに、教室では見せないテンションで、ライド口上を口にしたことに、驚きを感じているのだろう。

 

「か……格好いい!!何さっきの!?」

 

「い、いや……即興で思いついただけで……」

 

「うわ~!格好いいな~!俺もこれからそんなの言ってみようかな!?」

 

案外、ウケはよかったみたいで、小沢君も口上を言ってみたいと言う程だった。

 

「じ、じゃあ、ファイト再開するよ?」

 

「おう!」

 

「……まず、ディグニファイド・ゴールドドラゴン(10000)を左前列へコール。そして、アルフレッドのスキル!解放者のユニットでCB2……デッキトップのカードをコール。王道の解放者 ファロン(9000)!」

 

「上手い!陣形を立て直しましたね!」

 

「さらに、アルフレッドのスキル!自分のダメージが4枚以上の時、発動できるスキル……『リミットブレイク』!!解放者のリアガード1体につき、パワープラス2000、2体でパワープラス4000!(15000)」

 

リミットブレイク。ダメージが4枚以上の時に発動する、強力なスキルのことだ。

このリミットブレイクを持つユニットは多く、また、ダメージが4枚以上の時にライドされると発動する『ブレイクライド』と呼ばれるものもある。

 

とにかく、これで準備は整った。

 

「まず、ディグニファイドでオーバーロードをアタック!スキルでアタックした時、パワープラス2000!(12000)」

 

「ターでガード!」

 

「次は、リューのブースト……アルフレッドでオーバーロードをアタック!(21000)」

 

「ノーガード!」

 

「トリガーを……引く!ツインドライブ!!」

 

グレード3のユニットに与えられる特権。それがツインドライブ。普通は1回しかドライブチェック出来ないところを、2回出来るようになる。

 

「1枚目、猛撃の解放者、ゲット、クリティカルトリガー!!パワーはファロン(14000) クリティカルはアルフレッド。2枚目、霊薬の解放者。ゲット、ヒールトリガー!!パワーはファロン(19000) ダメージを1枚回復」

 

ダメージが3枚になったことで、リミットブレイクは発動出来なくなり、それに伴いパワーも下がるが、ブーストもあり、アタックはヒットする。

 

「くっ……!ダメージは……ドラゴニック・オーバーロードとワイバーンガード バリィ……ダメだ!トリガーがない!」

 

これで小沢君のダメージは5枚。後1ダメージだ。

 

「最後!ガレスでブーストして、ファロンでオーバーロードをアタック!スキルで、解放者を含むヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(30000)」

 

「……まだだ!ワイバーンガード バリィ!完全ガード!」

 

ヴァンガードには、各クランごとに『守護者』と呼ばれるガードがある。手札1枚を捨てることで、相手のパワーがいくら高くても、そのアタックをヒット出来なくする。

 

ただし、守護者はデッキに4枚までしか入れられない。

 

「俺は、約束の火 エルモを捨てる!」

 

「……それじゃ、ターンエンド」

 

 

シオリ:ダメージ3(裏1) ワタル:ダメージ5(裏2)

 

 

「ワタル~追い詰められてるじゃないか~」

 

「うるさいな!おじさんは関係ないじゃん!それに……」

 

小沢君は何やら自信ありげにスタンドアンドドローを終え、再びライドする。

 

「よし…じゃあ、俺もやってみようかな?……終焉を告げる灼熱の龍!秘めたる闘志を解き放て!『クロスライド』!!ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド!!(11000)」

 

クロスライド。シオリはその単語に聞き覚えがあった。

 

「クロスライドスキル!ソウルにドラゴニック・オーバーロードがあれば、パワープラス2000!(13000) このパワープラス効果は、星野さんのターンでも発動するよ!」

 

ソウルに特定のユニットがいることで、自分のターンに関係なくパワーが上がる。これがクロスライド。

パワーが上がることは、攻撃だけでなく、防御にも使える。ガードに必要なシールドも、少なく出来るのだ。

 

「ジ・エンドでアタック!エルモでブーストするよ!(19000)」

 

「……ノーガード」

 

けど、ジ・エンドか……。厄介だな……。

 

「チェック!1枚目、バーニングホーン・ドラゴン……2枚目、槍の化身 ター!クリティカルトリガーだ!!パワーはベリコウスティ(14000) クリティカルはジ・エンドへ!(19000 ☆2)」

 

「2ダメージか……。ダメージチェック、小さな解放者 マロン……円卓の解放者 アルフレッド……」

 

「希望の火 エルモのスキルで、手札を捨てドロー……やった!来た!!」

 

この反応……不味い、来る!

 

「ジ・エンドのスキル!CB2、そして、手札から同名カードを1枚捨てて……ペルソナブラスト!!これにより、ジ・エンドは再びスタンドする!」

 

手札から同名カードを捨てることで発動するペルソナブラスト。このスキルを持つユニットは、強力なユニットが多い。

 

特にジ・エンドは、CB2とペルソナブラストで、自身をスタンドさせ、再びアタック出来るようになる。

ヴァンガードが再びアタック出来るということは、またドライブチェックを行うことができ、トリガーが発動する可能性が高くなる。

 

「再攻撃だ!ジ・エンド!!(13000 ☆2)」

 

「猛撃の解放者でガード!トリガー2枚貫通!」

 

「チェック!1枚目、ドラゴニック・オーバーロード。2枚目、鎧の化身 バー。トリガーなし。バーニングホーンでファロンをアタック!スキルでオーバーロードを含むヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(17000)」

 

「ノーガード」

 

ファロンは退却してしまう。

 

「ゴジョーのブースト、ベリコウスティでアルフレッドをアタック!(21000)」

 

「……霊薬の解放者、ギャラティンでガード!」

 

「決められないか~!ターンエンド」

 

 

シオリ:ダメージ5(裏2) ワタル:ダメージ5(裏4)

 

 

何とかしのいだが、ピンチであることに変わりはない。前列は1体欠けている。ジ・エンドは13000。ワタルの手札は5枚。

シオリはこのターンで決めきらないと、次のワタルのターンで決められるかもしれない。しかし、このターンでシオリが決めきるのは不可能に近いと思われた。だが、

 

(完全ガードは既に場に3枚出て、ドライブチェックでもなかった……。小沢君の手札には確か……グレード3が1枚、他はガードに使えるとして……)

 

シオリの中で勝利へのイメージが浮かびあがって来る。

 

「……いける、このターンで……勝てる!」

 

「えっ!?」

 

「スタンドアンドドロー!アルフレッドのスキル、ダメージの解放者を使ってCB2、デッキトップをコール!沈黙の解放者 ギャラティン!(10000)さらにこのスキルをもう1度……コール!王道の解放者 ファロン!(9000)」

 

さっきのヒールトリガーで、裏返っていたダメージを選び回復したので、スキルを2回連続で使えた。

 

「さらに、ディグニファイドの上から未来の解放者 リュー(6000)をコール!ディグニファイドは退却して……アルフレッドのリミットブレイク!解放者は4体いるから、パワープラス8000!(19000)」

 

シオリは元いたリアガードを解放者のユニットに上書きコールし、リミットブレイクで増えるパワーを上げる。

これで左列はファロン、リュー。右列はギャラティン、ガレス。中央はアルフレッド、リュー。今出来る最善は尽くした。

 

「リューとファロンの位置を前後で入れ替え、ファロンでアタック!スキルで解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(18000)」

 

「不味い……ターでガード!」

 

「リューのブースト……アルフレッドでアタック!リューのスキルで、ヴァンガードをブーストした時、他に解放者を含むリアガードが3枚以上いれば、パワープラス4000!(29000)」

 

「……ブルーレイ、バー、バーニングホーンでガード!」

 

パワー29000対33000……。トリガー1枚で突破……。

 

「ここで決める!ドライブチェック!……1枚目、円卓の解放者 アルフレッド……2枚目、猛撃の解放者、ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てアルフレッドへ!(34000 ☆2)」

 

「な……!」

 

トリガーによってパワーが上回り、アタックはヒットする。

 

「ダメージは……ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド。あ~っ!6ダメージ!!俺の負けか……」

 

「……勝った」

 

瞬間、シオリにどっと疲れが襲って来る。久しぶりのファイトだったため、ファイトに集中する感覚を忘れ、その結果、疲れが襲って来た。

 

「……強いな、星野さん……。でも、次は負けないから!」

 

「……こちらこそ、次も勝ちますよ」

 

……楽しかった。久しぶりにここまで楽しくなれた。

確かにヴァンガードは辛い過去を引き寄せる。でも、続けていきたい。また、アルフレッドと共に戦いたい。

 

「いや~。これだけ強いファイターが生まれたなんて……私としても嬉しい限りです!デッキをプレゼントした甲斐がありました!」

 

「あ…そのことなんですけど……やっぱり、その……デッキを貰えるのは嬉しいんですけど、何か悪いですし……お金払います」

 

「……いいんですよ。それに、お金を払ってくれるんだったら……それは、これから強くなるために、ブースターなどを買うのに使って下さい」

 

店長は優しく私に言ってくれた。小沢君も表情が緩くなっている。

 

「……はい!また……明日も来ていいですよね?」

 

「もちろん!カードショップ サンシャインは、いつでもファイターを歓迎しますよ!」

 

「ちょっとストップ!俺を忘れて話を進めない!……星野さん。これからもよろしく!クラスメイトとしても、カードファイターとしても!」

 

小沢君は、私に手を差し出して来た。私は、その手を握り返す。

 

「うん!こちらこそ!!」

 

シオリの未来が少しずつ動き始めていく。……それが良くなるか悪くなるかはわからない。

けど、シオリは信じている。これからきっと、未来は良くなっていくと。

 

シオリが未来と向き合い、過去と決別した瞬間だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

……ここは、とある家の一室。部屋の中には、縦長の机が1つ。その近くには、ベッドと、棚が置かれていて、ベッドと棚の隙間には、ノートパソコンが立てかけてある。

その棚には、いくつかのケースがしまってあり、そのケースには、びっしりとヴァンガードのカードが入っている。

 

その部屋で、1人の少年が机の上で何枚かの紙を広げている。その紙には、何十名もの名前が書かれており、少年は、その名前に斜線をひいていた。

 

「……う~ん。なかなか俺のお眼鏡にかなう人はいないものか……。クラス、ショップ、色々歩き回ったのに……」

 

少年は誰かを探していた。そして、少年の中に、自分が求める人とは、まだ見つけることが出来ていなかった。

 

「……今日こそは出会いたいものだけど……」

 

少年は部屋を出て、リビングに向かう。

 

「……ちょっと出かけてくるよ」

 

少年は、リビングにいた老人に声をかける。

 

「おぉ……わかった。どこに行くんだい?」

 

「カードショップに行くよ」

 

「そうか……気をつけて行って来るんだよ」

 

「……わかってるよ、義父さん」

 

この老人は少年の父親ではない。少年は、この老人に色々と世話になっているのだ。

少年にとって、この老人は命の恩人と言ってもいい存在なのだ。

 

「じゃあ、行って来ます」

 

「行ってらっしゃい……トウジ」

 

少年は家を出る。ヴァンガードのデッキを持ったことを確認して、ある場所に向けて歩き出す。

 

「……さて、今日こそは期待したいものッスね……」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

今日は土曜日。学校も休みだ。部活などで学校に行く生徒は多いけど、私は部活をしてないし、する気もないから問題なし。

というわけで、せっかくの休み。有意義に使わないとな…。

 

「お父さん!ちょっと出かけて来る!!」

 

「ん?どこに?」

 

「カードショップ!」

 

……有意義っぽくは見えない。もっと宿題するとか、部屋の片付けするとか、色々やることはあるんだけどな……。

 

「……わかった。気をつけてね!」

 

「は~い!」

 

シオリは家を飛び出す。1人残された父は、シオリの母の部屋へと向かった。

 

「……母さん。シオリが、またヴァンガード始めたよ。

今も、家飛び出して行った」

 

シオリの母の写真に話しかける。

 

「また、あの時みたいに笑いが増えた。見ていて楽しそうだ」

 

……が、父はそこまで言ってうつむく。

 

「……でも、同時に不安なんだ。また、シオリから笑顔が消えることになったら……。僕は、どうすればいいかな?」

 

また、過去が繰り返されることになるかもしれない。そうなった時、シオリはどうなるのか……。そして、自分はシオリに何をしてやれるのか……。

 

「……今は、その日が来ないことを祈るだけだよ……」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ごめん、待った?」

 

「いや、今来たところ。何かパック買おうかなって見てたところ」

 

私はサンシャインにいた。小沢君も一緒にだ。

 

「……でも、土曜日だけあって、やっぱりお客さん多いね」

 

「えぇ、私としては嬉しい限りです」

 

いつのまにか現れた店長が、嬉しさを語る。

 

「これからも、お客さんが途絶えることがないように、営業し続けていきたいものですよ」

 

「そうですか」

 

「あ、おじさん!このパック買いたいんだけど?」

 

「わかった、レジするから、パック持ってきて」

 

小沢君がパックを買うということで、私は店内の客の様子を見る。

小学生くらいの子どもから、大人の人まで、幅広い年代の人が来ていた。学校帰りに訪れる時には見ない人が多い。

これも、ヴァンガードが人気がある証拠なのだろうか。

 

ちょうどそんな時だった。店の自動ドアが開き、中に人が入って来た。

高校生くらいの背が高めの少年、パッと見た感じ、ちょっとチャラけた感じを漂わせていた。

 

「いらっしゃい!」

 

店長がその人に挨拶する。

 

「どうもッス。……早速で悪いんスけど、店員さん。今ここにいる人で強そうな人……誰か教えてくれないッスかね?」

 

「強そうな人……そうだな……」

 

店長が店の中の客を見渡して考える。

 

「どうッスか?」

 

「……そこまでずば抜けて強い人はいないかな。ただ、何人かは強い人がいるけど……」

 

「あ…そうッスか……」

 

少年は落胆する。どうやらずば抜けた強さを持つ人を探しているみたいだった。

 

「……けど、まぁ紹介してもいい人はいるかな?」

 

「マジ!?誰ッスか!?」

 

「まぁ落ち着いて……。その人は初心者なんだけどね。でも、ここにいるワタルに勝ったからね。しかも初ファイトで。ワタルはジ・エンドのデッキを使ったのに」

 

「ジ・エンドを使う人に初ファイトで勝ったんスか……。なかなか中級クラスのファイターでも、ジ・エンド相手には勝てないもの……。それに勝ったとは……」

 

少年は何かを考えているようだった。しばらく考えた後、少年は、

 

「……じゃあ、店員さん。その人とファイトさせて貰えないッスか?」

 

「わかりました。……星野さん!ちょっと来て!!」

 

「……?はい!」

 

店長に呼ばれて、私はレジに行く。

 

「この人が星野さんとファイトしたいみたいだから、相手して貰えないかな?」

 

「えぇ……相手するのはいいですけど……」

 

私が相手でいいのかな?ヴァンガードはしていたとはいえ、再開してまだ少ししか経ってないし……。

 

「へぇ……女の子っスか。よろしくっス!」

 

「あぁはい。お願いします」

 

「そうだ、一応紹介しておくっスね、俺のこと。俺は佐原トウジ!よろしくっス!!」

 

佐原トウジ。彼との出会いが、後に大きな変化をシオリにもたらすことになる━━━━━


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