一応、ファイトは進んでますよ?けど、本格的にファイトを進めるのは次回からのつもりなので。
そのために、この話の終わらせ方も、少し考えたので……。
では、長くなりましたが、どうぞ。
「……ロメリア……?」
今、彼の口から発された言葉に、私はついていけなかった。目の前にいるのは、ノスタルジアの1人であるレゼンタ。
そして私もまた、ノスタルジアの1人であり……私たちは、アクセルリンクと呼ばれる力を使える……。
「そうだ。あんたはロメリア。未来の追憶、ロメリアだ」
「私が……ロメリア?」
確かにノスタルジアカップには出場していた。長い戦いで……それゆえに記憶は定かではない。
けど、私がロメリア……それほどのファイターだった……!?
「星野が、ノスタルジア……!?」
「シオリさん……本当なの?」
「わ、わからないよ。私も今、初めて知ったんだし、それに……アクセルリンクって……」
「本来は、デッキが見えるはずだが……吉崎ナオヤとのファイトで、あんたは確かに力を使った。その力は、本来のものと異なっていたとしても」
「力を、使った……?って言うか、あの時いたんスか。あんた」
「まぁな。とにかく、あんたがヒールトリガーを引いた時、間違いなく力は発動していた。瞳の色の変化が確認できた。証拠としては十分だ」
「瞳の色?それはともかく……そんな訳ないだろ?トリガーを引いたのは、星野自身の力のはずだ」
いや違う。彼の言うことは、瞳のこと……は知らないけど、それはまさに……
「……あの感覚が、アクセルリンク。ユニットの声が聞こえる感覚、あれが……」
すると、彼は目を閉じ、数秒の後、再び開く。その瞳の色を見て、私は驚きを隠せない。
「……っ!?これって……!?」
「アクセルリンクを持つ者は、力を使った時に波紋を感じられる。それに……この力が発動すると、瞳の色が変わる。使用する国家によって変わるようだが……」
確かに、彼の瞳の色は黄色に変わっていた。シャドウパラディンは、ユナイテッドサンクチュアリと呼ばれる国家に属する。その色は黄色だ。
「……だが、あんたは青に輝いていた。本来なら、黄色に輝くはずなんだが」
「それって……」
「どうやらあんたの力は、理屈はわからないが、変化している。アクセルリンクではあるみたいだが」
……ダメだ。話がややこしくなってきた。私がロメリアだって知った時から既に混乱してたけど……。
「……確かに、その波紋を感じたことはあるし、瞳のことは知らないけど……ユニットの声が聞こえたことはある」
「波紋、それにユニットの声。ここまでくれば、間違いない。力は違うが、アクセルリンクだ。何故変化したのかはわからないがな」
要は、私はロメリア。そして、この感覚はアクセルリンク。本来は、デッキが見えるはずだけど、どういうわけか私は違う能力になっている……。
「波紋だとか、声だとか言われても、あんたたちは話についていけないだろう?」
「……確かにな。非現実すぎて、話についていけない」
「けど、あんたはノスタルジア。で、その強さの源はアクセルリンクっていう力」
「そしてシオリさんも……ノスタルジア。けど、本当に……!?」
「あぁ。星野シオリはアクセルリンクを持っている。力の変化はどうあれ、この力を使えるのは……ノスタルジアの3人だけだ」
なら、本当に私は……ロメリアなのかもしれない。
「……あんたのターンだ」
そうだった。ノスタルジアの話で中断されてたけど、今はファイト中だ。
「ドローが終わって……ライドからだね。じゃあ、横笛の解放者 エスクラド(9000)にライド!王道の解放者 ファロン(9000)をコール!」
彼の瞳は、黄色に輝いている。彼の言う、アクセルリンクが発動しているのだろう。ということは、デッキは筒抜け。
……けど、どうして私のアクセルリンクは、彼のような力から変わったんだろう?
「クロンのブースト、エスクラドでアタック!(13000)」
「……ここは、グリム・リーパーでガードだ」
「ドライブチェック、猛撃の解放者。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てファロンへ!(14000 ☆2)」
確かに見えているみたいだ。トリガー貫通のことも考えてガードしている……。となると、次も確実に防がれるな。
「……ファロンでルゴスへ。スキルで、解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000。(17000 ☆2)」
「ノーガードだ」
「!?ガードしない……クリティカルは2なのに……」
「だからだ。ダメージトリガー、ファーストチェック、ブランバウ・撃退者。セカンドチェック、暗黒の盾 マクリールだ」
今、彼には何が見えていたんだろう……?普通とは違うファイトだから、やりにくい……。
「……ターンエンド」
シオリ:ダメージ1 レゼンタ:ダメージ3
「俺のターン、スタンドアンドドロー。……やはり、見えた通りだ」
「手札に欲しいカードを、ダメージを調節することでドローする……。さっきから言ってる力ってのは、どうやら本物みたいっスね」
「ん?俺をノスタルジアと見抜いておいて、力のことは信じてなかったか?」
「そりゃ……。そもそもその力がどういうものかも、あんまりわかってない。今知ってるのって、大雑把にデッキが見えるってことだけっスから」
それだけで信じるというのも、無理な話だとは思う。
「俺は……ノスタルジア。あんたに勝つためにヴァンガードをしている。強さと呼ぶには似合わない強さ……。俺が勝つためには、その力について知る必要がある」
佐原君は静かに、沸き上がる感情を抑えるように話しているように見えた。
「どうしても、あんたとファイトしないと……勝たないと、いけないんスよ……。約束したっスから」
約束……?佐原君がノスタルジアにこだわる理由には、単純なファイト願望とは違った何かがあるのか。
「……わかった。この力のこと、教えてやる。星野シオリも、まだこの力のことをよくわかっていないみたいだからな」
「……ありがたいっス」
「だが、勘違いするな。この力を知ったところで、あんたたちがどうこうできる代物ではない。……この力を得ることもな」
佐原君の熱意が伝わったのか、私がこの力をよく知らないからか、どちらにせよ教えてくれるのならラッキーだ。
「得ることができない……?どういうことっスか?」
「そのあたりも含めて、順に説明していくとしよう」
彼は一つ咳払いをし、アクセルリンクについて語り始めた。
***
「……まず、アクセルリンクとは、ユニットとのつながりを高める力だ。俺たちはユニットとつながることで、ユニットから力を得る」
「ユニットとのつながりってのは、どういうことっスか……?」
「それは……どう説明すればいいのかわからない。ユニットを想う意思の強さ……とでも言うのだろうか」
多分、彼の言いたいことはわかる。その人がユニットのことを、どれだけ大切にして、信頼しているか……ってことかな?
「つながりがあれば、ユニットは応えてくれる。その結果、俺はユニットの声を聞き、デッキを把握できる。波紋を広げ、その反響でデッキのどこからユニットの声が聞こえたかを知ることで」
「インチキもいいところっスね……」
「そう思うだろ?だが、これはあくまでデッキを見るもの。事故した時はどうにもできない」
申し訳程度のデメリットだな……。メリットの方が大きいんじゃ……?
「そのアクセルリンクを得ることはできないと言ったが……それにはちゃんとした理由がある」
「理由?何か違いみたいなものがあるんスか?俺たちとシオリさんとには……」
さっきから小沢君たちは黙りこんでいる。話についていけないのか、元から相手にしていないのか、どっちかはわからない。
「違いというよりは、感情の強さだ。そもそも、アクセルリンクに目覚める条件。それは……『感情の極端な変動』」
「感情の……?」
「こういうことってないか?心の底から嬉しかったことがあった時に、それが一気に冷めるようなほどの悲しみを味わったことが。要はそれだ」
希望から絶望に、一瞬で突き落とされるような衝撃的な経験。私には……あった。
「並々ならぬ希望を持ちながら、並々ならぬ絶望を味わい、そこから立ち上がることすら……希望を持つことすら難しいと思える……そんな経験が、お前たちにはあるか?したいと思うか?俺は……勧めないな」
私には、昔この感覚になった記憶を思い出すことはできない。けど、私はアクセルリンクが使える……。それはつまり、そういうことなんだろう。
「……ダメだ。さっきから話を聞いてても、どうにも信じられない。ユニットとか、デッキがどうとか、アニメみたいじゃないか」
「最悪、勝手な妄想話かもしれないわよ」
「……だろうな。現実味のない話を次から次へと言われて、信じろというのもどうかしてる」
確かに、常識的に考えてもあり得ないことをすぐに信じる人は、なかなかいない。
「だが、これは嘘偽りない真実。口で言っても信じられないのなら……その目で見ろ、この力を!!」
彼は手札の1枚に手を伸ばす。どうやら、ファイト再開のようだ。
「黒き剣を振りかざし、己が理想を世界に描け!ライド・ザ・ヴァンガード!!幽玄の撃退者 モルドレッド・ファントム!!(11000)」
ブレイクライドのユニット……。どうやら、完全に昔のシャドウパラディンという訳でもないようだ。
「暗黒魔導師 バイヴ・カー(9000)をコール!そのスキルで、デッキトップのカードをコールする!」
バイヴ・カー……。コストなしでリアガードを増やすことのできる万能はユニットだ。リアガードを消費するシャドウパラディンには重宝される。
「さっきのターン、俺がクリティカル2のアタックを受けたのは……このためだ!デッキトップチェック、秘薬の魔女 アリアンロッド(7000)をスペリオルコールだ!」
「このため……?どういうことっスか……?」
「……そうか。もしさっきのターンでダメージを受けなかったら……」
バイヴ・カーのスキルでコールされたのは、ダメージに落ちたマクリールだったことになる。
マクリールはパワー6000。それに対して、アリアンロッドはパワー7000。パワー9000のユニットをブーストすれば、基本的なグレード3のパワー11000に対して、10000シールドを使わせることができる。
しかも、アリアンロッドには手札交換のできるスキルもある。が、マクリールは完全ガードのユニット。リアガードではほとんど力を発揮できない。どちらをコールした方がいいかは、明確だろう。
「行くぞ、バイヴ・カーでエスクラドをアタック!(9000)」
「ここは……霊薬の解放者でガード!」
「次だ!ダークゴードのブースト、モルドレッドのアタック!スキルでパワープラス2000される!(17000)」
「……ノーガード」
「ツインドライブ。……アタックを受けたのは、単にアリアンロッドをコールするだけじゃない」
このタイミングでその話を……まさか!?
「ファーストチェック……グリム・リーパーだ」
彼は敢えてトリガーを見る前に、何が来るのかを予言した。そして、見せられたカードは……グリム・リーパーだった。
「……当たってる」
「このカードはクリティカルトリガー。よって、トリガーの効果を発動。パワーをカースド・ランサーへ(14000) クリティカルはモルドレッドに与える!(17000 ☆2)」
デッキが見えるということは、トリガーがいつ出るのかもわかるということ。狙ってトリガーを発動するのも、造作もないのか……。
「セカンドチェック……こちらもトリガーならよかったが、そこまで都合よくはいかない。カースド・ランサーだ」
都合よくいかなくて、本当よかった。
「……どうだ?俺は確かにデッキが見えているだろう?」
「……あんなのまぐれだろ?俺だって、やろうと思えば……!」
いや、悪いけどできないと思う。
「まぐれか。なら……なぜ俺はエスクラドをガードし、ファロンをノーガードしたか教えてやる。あんたのデッキトップは、狼牙の解放者 ガルモールのはずだ」
「そんなの当てずっぽうじゃないの?それこそ、都合よくは……」
「……森宮さん。残念だけど、1枚目のダメージはガルモール……。当たってるよ」
「マジっスか……」
「エスクラドはデッキトップのカードをコールできるヒット時効果がある。あのまま2ダメージを受けていれば、後2回のアタックを受けなくてはいけなかった。それを警戒してのことだ」
片方はトリガーの効果付き。おまけに、彼はダメージトリガーを発動できていなかったはずだ。残り2回のアタックは、少なくともどちらかは通すしかなかっただろう。
「2枚目は……ブラスター・ブレード・解放者。トリガーじゃないよ」
「なら、アリアンロッドのブースト、カースド・ランサーでエスクラドにアタックだ(21000)」
このアタックをノーガードすれば、私のダメージは4になる。そうすれば、リミットブレイクは発動できる。
ここは、素直に受けるべきか。そう思っていた時だった。彼は驚くことを言い出した。
「……そうだ。あんたはデッキが見えない。このままでは俺に分がありすぎる。だから、1つアドバイスしてやる」
「……ありがたいこと?」
「このアタックは通すといい。きっと、いいものを引けるはずだ」
「「「「え!?」」」」
こ、これはどういう考えなんだろう……!?私にダメージを受けろって……。
「どういうつもり……!?」
「そのままの意味だ。通した方が、あんたにとって有利な展開になるはずだ」
ダメージを受けることで有利になるもの……?ドロートリガーか、ヒールトリガーがデッキの上にあるってことなのか。
「そんなのデタラメだろ!?そう言って、自分にとって不利になるカードをダメージに置かせるつもりじゃないのか!?」
それも考えられる。相手に特定のカードを引かせるように操作することだって、彼にはできるはずだ。デッキが見えるのだから。
……つまり、嘘を言っている可能性だってある。
「何を言うんだ。そこまで理不尽なことはしない」
「デッキが見えてる時点で、既に理不尽っスよ!?」
でも、もし言っていることが本当だったら?それで私が有利になったとしたら……?
「…………」
「どうした?早くアタックを通すといい」
「そんな口車に乗らなくてもいいわ!ここはガードした方がいいわよ!」
どっち……?どっちなの……?本当のことを言っているのか、それとも……。
「さぁ……」
「……私は」
2つに1つ。私の取る選択は━━━━。