かなり間を空けてしまったり、これからも空けてしまうことがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
では、どうぞ。
私の前に突然現れた謎のファイター、最上ナツキとのファイトから数週間が経った。
自分がノスタルジア……未来の追憶『ロメリア』であること。時折感じる謎の感覚は、『アクセルリンク』と呼ばれる力であること。
そして……私の力は、本来のアクセルリンクとは異なる力に変化していること。
それを知ったのは、他ならない最上君……いや、ノスタルジアの1人。現在の追憶『レゼンタ』とのファイトが原因だ。
「何暗い顔してるんスか?」
「あ……佐原君。いや、この前言われたことを思い出していてね……」
「……ノスタルジアのことっスか?」
「……まぁ」
信じられない話だったが、全て真実らしい。まさか、私がノスタルジアなんて……。自覚もないし、本当にそうなのだろうか……?
「色々思うことがあるのもわかるっスよ?いきなり、あなたは伝説のファイターです!……なんて言われても、現実味ないのもわかるっス」
「うん……」
「けど、聞いてる限りは……あいつの、レゼンタの言うことは本当だと思ってるっス。シオリさんも……ノスタルジアだって」
「……確かに、本当のことだと思うよ。そうじゃないと、前から感じてるあの感覚……その説明がつかない」
ユニットの声が聞こえるあの感覚……あれがアクセルリンクだとするなら、全て納得がいく。
「……ま、とりあえずこの話は終わりっス。あんまり暗くなっても仕方ないっスから」
そうだね。今は、事実を受け入れることを考えよう。それに、私たちは今……
「せっかくの夏休み、楽しまないと損っスからね!」
***
夏休み。それは、勉学に疲れる学生たちが、思いっきり羽を伸ばせる時だ。
海に祭りに、楽しみ方は多彩。楽しみすぎて、最後の1週間は宿題に追われるのも、夏休みならでは。
「……そうは言っても、俺たち基本ここにいるよな。なんか、夏休みって感じは全然━━」
「それは言わないで」
まぁ、小沢君がそういう理由もわかる。今は夏休み……なのに、ずっとサンシャインに入り浸っている日々だ。特に予定があるわけでもなく、私たちは暇をもて余しているわけで……。
それに、今は8月。夏もこれからだと言うのに、このままではクーラーの効いた店の中でヴァンガードをしていたと言う思い出しか残らない。
要は、いつもと変わらないことを言いたいわけだが……
「仕方ないでしょ?行く場所って言ったらここしかないし、どこかに行くのも、人が多くて待ち時間とかが大変よ」
「けど、せっかく夏休みなんだから、たまにはどこか行きたいよね?」
「まぁ……そうね」
秋に向けて、ヴァンガードの腕を磨くのも確かに大事だけど、やっぱりたまには気分転換をしたい。
「そうは言っても、どうするんだ?もう昼だし、人も多くなる時間帯だぞ?」
「そうだね……」
さて……どうするものか……。
「……あっ!」
「どうしたのトウジ?」
「思い出したっス!確か前に、こんなもの貰ってたんスけど……」
そう言って見せたものは、1枚の商品券。前にバトルロワイアルに参加した時に貰った、焼き肉店で使える商品券だった。
***
そんなわけで、今日はサンシャインにいることはなくなった。とはいえ、まだ昼間なので、さすがに焼き肉店に直行することはない。
「……じゃあ、どうするのよ」
「その店の近くに、大型の商業施設があるんスよ。そこに行くってのはどうっスか?」
「いいんじゃないかな?こうしてみんなで出かけるのも、全然ないからね」
という佐原君の提案で、みんなで商業施設に行くことになった。
子供から大人まで楽しめるように、多種多様の店が入っているため、週末には多くの人が訪れる場所だ。
今日は平日だけど、私たちと同じように夏休み真っ盛りの人たちが訪れていて、かなりの人がいた。
「……というわけで、これからどうするっスかね?」
「そうね……。じゃあ、男女で分かれて行動するのはどう?それなら、あんまり気を使わなくてもいいんじゃない?」
「そうだな……。じゃあ、そうするか?」
で、私と森宮さん、佐原君と小沢君に分かれて商業施設を散策することにした。
***
こちらは女子組。まず向かった先は……
「これ可愛い……!あっ、こっちも!」
「最近、服屋なんて全然行ってなかったな……」
「そうなの?私はよく行くわよ。休みの日は、友達と結構色んな店を見て回るし」
「へぇ〜」
リサの提案で、服屋を見て回っているところだった。シオリにとっては久しぶりの服屋だったので、楽しみながら見ている。
「確かに、休みの日にはサンシャインに集まることってあまりないからね」
「流石にずっとヴァンガードってわけにもいかないわよ。グランドマスターカップを目指すのはそうだけど、休みくらいはみんな自由でもいいんじゃない?」
「そうだよね」
大体、私たちはサンシャインにいると思われがちかもしれないけど、それは平日に限った話だ。休みの日に集まるのは、たまにだけ。
「シオリさんは、休みの日って何してるの?」
「何って……そうだな」
学校の宿題とか、お母さんがいないから、家事をすることが中心だけど……。
「映画とか、よく見るかな。映画館に行くこともあるし、DVDで見ることもあるよ」
「シオリさんって、映画通だったのね」
「自覚はないけど、多分そうかもしれないな……。映画の話なら、結構長続きするし。最近クラスの女子にも、そうやって言われたことあるし」
「えっ、そうなの!?そんな話聞いたの初めてよ!?」
多分100本……それくらいはDVDあったかな?とにかく映画は、昔から好きだった。よく家族で映画館に行ったな……。お父さんと、お母さんと……。
「けど、シオリさんが映画好きなんて、知らなかったわ」
「私だって、森宮さんが服屋巡りしてるなんて知らなかったよ」
「そうね。こういう機会にお互いを知ることができたのはよかったわ」
気分転換の甲斐はあったというわけだ。知らない一面を知ることもできたし、たまにはこういうのもいい。
「……さて、それはそれとして。どうしようかな?せっかくだし、何か買っていこうかな……?」
「私も……どうしようかしら?」
何かにお金を使う予定も、今のところない。次のブースターも9月だし……大丈夫かな。
あぁでも、それならそれで迷うな……。向こうにある服も可愛いけど、あっちのスカートとかもいいな……。
「……よし、決めた!」
「えっ、決めたの?私はまだ……」
「……違う店も見に行きましょ?」
おっと……これは、余計に選択肢が増えて、判断をこじらせてしまう要因になりかねない気が……。
「そんな目で見ないでよ!?ほ、ほら。他の所には、もっといい服があるかもしれないわよ」
「わかるけどさ……」
「だからほら、行きましょ?ね?」
「…………うん」
で、結局この後、何軒かショッピングモール内の店を見て回ることになりました。
***
一方の男子組。どうしているのかと言うと……
「……よし、ちゃんと売ってたな」
「それって、この前発売したばかりの漫画っスよね?」
「あぁ。クラスの奴と話してたら、この漫画の話題になってな」
ショッピングモールの一角にある、本屋へと来ていた。どうやら、ワタルの提案によるものらしい。
「俺は読んだことなくてな。けど、話を聞いてるうちに気になって、買いに行きたいとは思ってたんだ」
「へぇ〜。ワタル君も漫画とか読むんスね?」
「結構読んでるぞ?アニメも見るし、ゲームとかも暇な時にはやったりしてるしな」
「そうなんスか。俺もアニメとか、ゲームはするんスけど……」
すると、トウジはあるジャンルの本が並べられている棚から、適当に1冊の本を取り出して、
「漫画よりは、こっちの方が好きなんスよね」
「……なるほど。ライトノベルか」
アニメの原作になることもあり、ライトノベルの存在自体は知っていた。機会があれば、読んでみたいとも思っている。が、
「俺……字だけの本って、どうもな……。教科書ですらアウトなのに」
「教科書でもダメなんスか!?」
極度の文字嫌いに、トウジは意外に感じて驚いている。トウジとワタルのクラスは違うため、授業中はどうしているのか少し気になった。
「わかってないっスね……。文字だからこそ、伝えられるものだってあるんスよ。情景をイメージして、キャラの心情を読み取る……それが楽しいのに」
「そうは言ってもな……」
「ヴァンガードだって、イメージが大事じゃないっスか」
「……それは、確かに」
ファイトの戦略、相手の心理。挙げると多いが、ヴァンガードにおいて、イメージすることは重要だ。イメージだけなら、やっていることは小説を読むことと何ら変わりはない。
「いや、でもヴァンガードとは訳が違うだろ。そういうのって……」
「何を言うんスか!ヴァンガードに必要なのはイメージ!それを鍛えるための1つの方法でもあるんスよ!文字からイメージを掴むことができないワタル君は、まだまだ実力不足ってことっスね〜?」
「く……」
ワタルは凄く苛立っていた。この状況で実力不足を指摘されたことはもちろんだったが、
(……佐原のくせに、やたらの筋の通ったことを言ってくれるな……。何かムカつく)
それが正論なのかどうかは別として、妙に説得力のある話ではあった。イメージをつけることで、実力もつける。だったら……
「……おっ」
「この際ついでだ。試しに1冊買ってみる。がんばって、読んでみるつもりだ」
ワタルは本棚から、1冊のライトノベルを取りだす。これもイメージをつけるためだと割りきって。
「そうっスか!だったら、その本よりも面白い本を紹介するっスよ!ストーリーとか、結構オススメな本があるんスよね」
「おう、頼む」
***
「……結構買いすぎたわね」
「だから言ったのに……」
一通り店を見て回ったシオリたちは、ベンチに腰かけて休んでいるところだった。
シオリは、悩んだ末に、白のスカートを購入。そう言えば、あまりスカートは持ってなかったな……ということでだ。
で、リサはと言うと……
「紙袋4つって、いくら何でも買いすぎだよ……」
「し、仕方ないじゃない!選びきれなかったのよ」
「……9月のブースター、大丈夫だよね?」
「……多分」
「多分!?」
別々の店の紙袋が4つ。それも、1つの店で複数の服を買っている。お金の使い道に予定がなかったら、別にそれでもよかったのに……。
「……まぁ、ブースター買う分のお金は残ってるわよ。お小遣いだって、もう少しでもらえるし」
「なら、よかったんだけど……」
一応、考えて使っていたみたいだ。それならいいけどさ、限度があるでしょ……?
「さて……これからどうしようか」
「そうね。時間は……4時前か」
まだ焼き肉には早いな……。もう少し、時間を潰せるといいんだけど……。
「そう言えば、トウジたちはどうしているのかしら」
「あー確かに……」
今何してるんだろう?服屋巡りをしている時も、遭遇することはなかったからな……。
「ちょっと探してみましょうか?」
「このまま座っているのも退屈だからね」
で、私たちは再び立ち上がって、佐原君たちの捜索を始めた。のはいいんだけど、男子がいそうなところって……
「どこにいるんだろう?」
「そこなのよ。闇雲に探しても、疲れるだけだし……」
「……森宮さんの場合は、ちょっと違うでしょ」
靴屋、スポーツ店、一応服屋とかも覗いていたけど、姿を見つけることはできない。一体、どこにいるのか。
「……そうだ」
「何、森宮さん?」
「一つ心当たりがあるわ。多分そこよ」
森宮さんに言われるままに、私たちはその場所に向かう。なるほど、確かに。そこに着いたときの感想はそんな感じだった。
そして案の定、2人の姿は、その場所にあった。
***
「……なかなかやるっスね」
「そっちこそ、上手いじゃないか」
互いに向かいあい、目の前の盤に全神経を集中する。手にも自然と力が入り、汗も滲んでいる。
「これで……どうだ!?」
「そうは……いかねぇっスよ!」
ワタルが攻め、トウジが守る。今度はトウジが攻め、ワタルが守る。一進一退の攻防が続く。
「うおおお!!」
「とりゃあ!!」
「……何やってるのよ、2人で」
「「ん?」」
と、横から投げかけられた第三者の声に、両者の気がそれる。その間を狙ったかのように、コミカルな音が鳴り響く。
「……あ、ゴールだ」
「って、はぁ!?ちょっと、今のなし!なしっスよ!」
「仕方ないだろ。勝手にゴールしたもんは」
「いや、でも……もう、リサさんが悪いんじゃないっスか!?タイミングくらい考えてほしいっスよ!」
「何でこっちに八つ当たりよ!?って言うか、よくそんなに盛り上がれるわね。……ホッケーで」
2人がいたのは、ゲームセンター。そこで、エアホッケーをしている最中だった。そこにリサが声をかけ、今のような状況になっている。
「今の点で、俺負けたんスよ……。どっちも後一点取られたら負けっていう、緊迫した試合だったのに……」
「あ……それは残念だったね。佐原君……」
「そうっスよ!え〜い、こうなったら……もう1回っスよ!ワタル君!」
「またかよ……。これで8回目だぞ」
「「え!?」」
いくら何でもやりすぎではないか。さすがにずっとホッケーしてたわけじゃないだろうし、他のゲームもしてたとなると……
「……結構、お金使ったんじゃない?」
「ここに来る前に寄った本屋で使ったのと……このゲームセンターの分で……まぁ、それなりに」
「お小遣い前だし、問題ないっスもん」
「それはトウジの話でしょ!?」
「って言うか、よく見たらリサさんも、何かいっぱい買ってんじゃないっスか!?」
痛い所を突かれ、逆に言いくるめられてしまった。森宮さんは気まずそうに視線をそらしている。
「……うるさいうるさい!大体、お小遣い前だからって余裕かましてるけど、どれだけ貰えてるのよ?」
「俺?まぁ、月に……10万とか?」
「「「……はぁ!?」」」
いやいやちょっと待って。10万……って、今言ったよね!?十分の一ならまだわかるけどさ……。って、そうじゃなくて!
「10万を……小遣いに」
「1年で120万……ってことだよね」
「不平等よ!しかも、トウジだから余計に腹立つわ!」
「何でっスか!?」
お年玉ならまだわかる(それでも多い気がしなくもない)けど、お小遣いでそんな大金を……。しかも、それが毎月続くんだよね……?
「俺なんか、月に3000円だぞ!?」
「私だって、5000円よ!?」
「……私なんか、お小遣いが貰えない月もあるのに」
「「「えっ!?」」」
まぁ、そうなるよね……。こんな話になると、必ず驚かれる。本当なんだから仕方ないじゃん……。
「でも、貰える時は10000円とか、それなりに貰ってるからさ……」
「俺の小遣い、3ヶ月分ちょいかよ……」
「それでも、10000円でしょ!?ちょっとトウジ!どれだけ金持ちの家に住んでるのよ!?何でこんなのが……」
「そんなこと言われても困るっスよ!?……大事業の家に、運よく拾われただけなんスから。養子として」
養子。それが意味することを考え、私たちは、軽率な物言いを悔やんでいた。
佐原君の両親は……既に、亡くなっている。養子になるくらいだから、多分両方。
佐原君の今の家族は、血のつながらない形だけのもの。だからこそ、注がれる愛情は並ではない。これ以上、悲しい思いをさせないように……。
多額のお小遣いも、義親にできる愛情の形。それを佐原君がどう受け取っているのかは、本人にしかわからない。
ただ、どれだけ愛情を注がれていようと、佐原君の経験した傷は、根深く残っているのだけはわかった。私だって……お母さんを亡くしているから。
「……悪かったわ。あんまり、言わせたくなかったわよね?」
「いやいや、別にそんなに気にすることもないっスよ?義父さんには、本当に感謝してる。自分の息子のように接してくれて……」
そう言ってても、佐原君がやけに悲しく見えるのは、気のせいなのだろうか……?
「両親を亡くしたのも、10年くらい前の話っス。だから義父さんは本当に、俺の親みたいなものっスよ。身寄りもなかった俺を、育ててくれたんスから……」
何だか、気分が暗くなってしまった。ゲームセンターの軽やかな音楽も、心を躍らせることはなかった。
(……何か、気分転換を……あ)
「そうだ、みんな」
「ん?なんスか、シオリさん?」
「ちょっと、行きたいところができたんだけど」
「「「??」」」
***
「なるほど、シオリさんが来たかったのは、ここっスね」
「けど、意外だな。星野が……」
「たまには、みんなでこういうのもいいでしょ?」
私が行きたいと言った場所。それは、ショッピングモールに内接する、映画館だった。
「シオリさん、映画観るのが好きなんだって」
「へぇ。そうなんスか」
私もよく、気分転換には映画を見る。そう思ってのチョイスでもあった。それに……
「今上映している映画で、面白くてオススメのがあるからさ。どうせ暇してたところだし、みんなでこの映画観ようかなって」
で、その映画と言うのが……
「『トライアングル』って映画。テレビとかで、よく紹介されてるの見たことない?」
「「「あぁ〜」」」
1人の気弱な高校生少年が主人公のラブコメ映画。少年はある日、同じ高校に通う少女に恋をする。
控えめな少女だが、少年とは気が合い、徐々に仲良くなっていく。
が、同じ学年の優等生である男子もまた、その少女のことが気になり、アプローチをしていることを少年は知る。
自分とその男子の差に劣等感を感じた少年は、一度は少女のことを諦めようと距離を置く。が、自分の少女への想いを再認識したことで、少年と少女、そして優等生男子との三角関係が始まる……。
「ね?面白そうでしょ?まだ観たことなかったから、ちょうどよかったなって」
「確かにね。私も観たいとは思ってたのよ」
「……なるほど。シオリさんも、こういう恋愛願望みたいなのがあるんスね〜?」
「なっ!?いや、その……別に、そういうのじゃ……///」
そうこうしながら、映画のチケットを購入。飲み物やポップコーンも買うことにしたのだが……
「何で俺の奢りになるんスか!?」
「ホッケー付き合っただろ。だから、ほら」
「私、今日は服にお金使いすぎたのよね」
「理不尽なのもいいところっスよ!?特にリサさんは、自分が悪いんじゃないっスか!?」
何故か佐原君の奢りで購入する話に。さっきのことがあったから、わからなくでもないけど……
「……私、自分で払うよ」
「ちょっとトウジ〜?シオリさんにだけお金使わせるの?なかなかお小遣い貰えてないシオリさんに〜?」
森宮さん。もう少し棘を引っ込めて。私にも刺さってる。
「だけって何スか!?……あぁもう!わかったっスよ!」
「え、いいよ。私は自分で……」
「いや、いいっスよ。今日は俺の奢りってことで。……リサさん以外は」
「何でよ!?」
「散々煽られたのに、奢る気なんかないっスよ!?それに、自分が悪いんスからね!?」
「ぐ……」
そんなわけで、私たちは佐原君の奢りで飲み物などを買う。森宮さんだけは、本当に自腹での購入となった。
「……覚えてなさい」
「だから悪いのは自分じゃないっスか!?」
***
それから程なくして、映画の上映時間となった。私たちは、ちょうど真ん中あたりの席だった。
「いい場所が空いてたっスね」
「スクリーンに近すぎず、遠すぎず。このベストな場所を取れるかどうかで、変わってくるんだよ」
今回は4人ともいい場所を取れた。席は既に満席に近かったが、運がよかった。
「やっぱり映画が好きなだけあるな。ここだ、って言う席の場所とかあるんだな」
「私の中での話だけどね」
程なくして、映画が始まった。私たちは皆、スクリーンに釘付けになる。
ずっと気弱で、休み時間も1人でいるような主人公。1人の少女との出会いで、自分の殻を破っていく様子は、見ていてよかった。
恋のライバルが現れ、葛藤するシーンも凄く同感できた。それでも諦めずに想いを貫こうとする姿に、私は感動した。
「どうして……私のことを、そんなに……」
「決まってる。僕が、君のことを……忘れられないからだ!」
「っ!で、でも私……あんまり人付き合いとか得意じゃないし、一緒にいても楽しくない……。きっと、後悔させる」
「後悔なんてするわけない。僕は、後悔『してた』んだ。勇気も出せずに、1人の世界に閉じこもることを選んだから。そこから救い出してくれたのは……君なんだ!」
「……っ!」
「君と出会って、僕は変われた。後ろ向きだった僕が……前を向けた。そんな君と一緒にいたいと思えた。好きだって……思ったから」
このシーンは、凄く印象に残った。少年の言葉は、私に深く刺さってきた。聞いていて、共感できた。
だって……少年の言葉は、私を表しているみたいだったから。
***
「普通に面白かったな」
「でしょ?この映画を選んで正解だったよ」
「いいわね……。私も、あんな風に恋してみたいわ……」
満足してくれたみたいで何よりだ。私も、大満足している。
「4時30分過ぎに映画が始まって……6時前っスか。そろそろ焼き肉店に行ってもいいんじゃないっスか?」
「そうね。近いと言っても、徒歩じゃ距離もあるし。移動し始めましょうか」
私たちは、ショッピングモールを出て、焼き肉店へと歩き始める。焼き肉店までは、ショッピングモールから徒歩で10分ほどだ。
「おっ、着いたっスね」
その焼き肉店は、世間でも評判のいい店だった。肉は美味しいし、そこまで高すぎない値段設定が人気の理由だ。
「ちょうど空いてるわね」
「今で6時……。少し早い気がしなくもないけど」
「いいじゃないっスか。どうせ昼ご飯も食べてないんスから」
言われて見れば、確かに……。と思った所で、私のお腹が鳴ったことには、できれば触れたくない。
「じゃあ、入っていいんだな?」
「そうね。早めの夕食だと思って、焼き肉食べましょう」
「商品券もあるし、食べまくるっスよ!」
という事で、私たちは店の中へ。店員に案内され、空いているテーブルに向かう。
「とりあえず、何でもいいでしょ?」
「一通り頼んで、足りなくなったらまた頼めばいいだろ」
「そんなケチくさいことしないで、もっと一気に頼めばいいじゃないっスか!」
「……じゃあ、頼みすぎてお肉残ったら、ちゃんと完食してくれるわよね?」
「……悪かったっス。軽く考えてたっス」
で、森宮さんが選んだ結果、肉と野菜のセットを4人分注文することになった。途中、佐原君が野菜のセットについて文句を言いかけたが、森宮さんに一蹴された。
「でも、こんな風に皆で外食するなんて初めてだよね」
「確かにな。どこかに出かけることはあったけどな」
「桜川リンのバトルロワイヤルとか、他のショップに経験を積みに行ったりとかっスね」
「そうよね。どこかに行ったのも、ヴァンガード関係のことだったし。単純に遊びに出かけたのは、これが初めてね」
ヴァンガードとは無縁の、休日らしい休日を満喫できた。今日の出来事が、私たちの仲を深める一つのきっかけになったらいいな。
「……おっ、肉が来たっスよ!」
すぐに肉が運ばれ、順番に焼き始めていく。美味しそうな焼ける音と、肉のいい匂いが広がっていった。
「俺これにするっス!」
「あっ、ずるいぞ佐原!」
「人に肉焼かせといて、勝手に食べ始めないでよ!?」
「……ほら、森宮さん。この辺りの肉は焼けたから」
「ありがとねシオリさん。……トウジたちも少しは自分で焼きなさいよ」
「俺はやってるぞ」
「お……俺も焼いてるっスよ!」
「「「嘘なのが丸見えな言い方されてもね!?」」」
こんな雰囲気で、私たちは肉を焼いては食べ進めていく。一通り焼ききった所で、ようやく落ち着いて食べ始めることができた。
「うん、旨い!焼き肉なんて、久しぶりに食べたからな」
「俺もあんまり焼き肉はなかったっスからね。もうたまんないっスよ!」
「これも私のおかげね?」
「今さら思い出したように何言ってんスか!?そりゃそうなんスけど、何かムカつくっス……」
確かに美味しかった。肉もそうだけど、タレも美味しい。けど、何よりも……皆で食べてるから。だから、より美味しく感じるんだと思うな。
「……ちょうどいいわ。せっかくの機会だから、改めて言わせて。……勝つわよ、秋予選」
「……森宮さん」
「今さらのことだし、わかってるとは思う。でも……勝ちたい。この4人で、全国に行きたい。半年だけど一緒に過ごして、仲を深めて……夢を共有できた」
「そっか……まだ半年なんだ」
高校に入学して、まだ半年。知りあいもいない中、スタートを切った4月。
あの頃からは、想像もつかなかった世界に私は立っている。チームに誘われた。ヴァンガードを再開した。また、アルフレッドとファイトするようになった。
何よりも……かけがえのない、友達ができた。
「私の夢は、テツジさんとの約束を果たすこと。今度こそ皆で全国を目指す。その姿を、テツジさんに見せること」
もう知ってたかもしれないけどね。と、苦笑しながら。
「俺の夢は、ノスタルジアとファイトすることっスね。……もう既に2人ほど存在がバレているんスけど」
こっちを見ながら言わないでよ……。
「……俺にも、目標がある。ファイトしたい相手ができた。どうしても、リベンジしたい相手がいるんだ」
「へぇ。そんな相手がいたんスね?どういうきっかけで?」
「……照山シュンキ。ちょっと、あいつと色々あってな」
シュンキ君と!?と言うと……バトルロワイヤルの時か。目標として掲げるほどだから、何かいい影響を受けたんだろう。シュンキ君のことだし、悪影響は受けてないはず。
「シオリさんは?」
「あ、私?私は……」
脳裏に浮かぶ、1人の男子の顔。数ヶ月前に交わした約束を、思い出していた。
「……ナオヤさんと、もう一度ファイトすること。全国の舞台で、待たせているから」
それまでも漠然と、全国を目指す想いでいた。チームに誘われた以上は、それが普通なのかと思っていた。
これは、私が自分の意思で、全国を目指したいと思えたきっかけ。ナオヤさんとのファイトは、私に明確な目標を与えてくれた。
「それぞれの夢は、違っているわ。でも、目指す場所は一緒よ。この4人で、夢を掴みましょう!」
「おう!」
「そのつもりだよ、森宮さん!」
「本当、今さらっスよ!言われなくてもわかってるっス!」
夢に向かう4人の、束の間の休息。それは、より強い結束と決意をもたらしたのだった。