つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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明けましておめでとうございます。今年も、時代遅れなこの小説のことをよろしくお願いします。


ride38 降り注ぐ重圧

森宮さんが負けた。消えていくレヴォンを見ながら、私は佐原君の元へ向かった。

 

さっきまで向こうのリーダーがいたが、私が来たことに気づいて戻ったみたいだ。

 

「佐原君!森宮さんは……」

 

「見たまんまっスよ……」

 

テーブルに手をつき、項垂れる森宮さん。こちらに背を向けているため、表情を伺い知ることはできない。相手がデッキを片付けて去った後も、しばらく動けずにいた。

 

「佐原君はどうだったの?」

 

「勝ったっス。苦戦したっスけどね」

 

「そっか……。じゃあ、後は小沢君次第ってことか……」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

俺はドローしたカードを見る。ワイバーンガード バリィ。グレード1だ。

今の俺の手札にはグレード3がなく、このターン中に何とかして手札に加えたいと思っていた。

 

「ドラゴンナイト ネハーレン(10000)にライド!」

 

今のヴァンガードはグレード2。このままファイトすることになれば、ツインドライブの恩恵が受けられず、手札の枚数差が開いていくばかり。不利になるのは目に見えている。

 

「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキルにより、相手にグレード2のリアガードがいるなら、カードチェンジ!」

 

ヒートネイル・サラマンダーを捨てて、1枚引く。引いたのは、ドラゴンモンク ゴジョー。グレードは1。

 

「……なら、レッドパルスのスキル!CB1、自身をソウルに入れることで、デッキの上から5枚見て、グレード3を1枚手札に加える!」

 

「その様子だと、どうやらグレード3が手札にないようでござるな!拙者をガキ呼ばわりした罰が当たったでござるよ!あっはっは!」

 

「んなわけあるかよ!5枚確認……!」

 

俺は慎重に5枚のカードに目を通す。グレード2、1、0、2、3……。

 

「よし、あった!ドーントレスドライブ・ドラゴンを手札へ!」

 

危ない……。これで引けてなかったらどうなっていたか……。

 

「ちぇっ、引いたでござるか。まぁ、そんな崖っぷちなプレイングをしている時点で、勝ち目があるとは思えないでござるがな!」

 

「うるさい忍者だな……!キンナラを後ろに下げて、ベリコウスティドラゴン(9000)をコール!カルゼのブースト、ネハーレンでホワイトメインにアタック!(17000)」

 

「ノーガードでござる!」

 

「ドライブチェック、ガトリングクロー・ドラゴン。ゲット!ドロートリガー!1枚ドローし、パワーはベリコウスティへ!(14000)」

 

ネハーレンの操る竜から、燃え盛る炎が放たれる。ホワイトメインは避けられずに、木々と共に焼かれていく。

 

「ダメージトリガー確認!忍獣 ナイトパンサーでござる」

 

「なら、キンナラのブースト、ベリコウスティでアタック!(20000)」

 

「ノーガード。ダメージトリガー確認……しまっ!い、いや、何でもないでござる」

 

そのカードは、隠密魔竜 マンダラロード。ジ・エンドと同じくペルソナブラストが使えるため、できればダメージに落としたくないカードだ。

 

「グレード3で慌てるなんて、人のこと言えるのか?」

 

「うるさいでござる!マンダラロードはペルソナブラストが使えるから……」

 

それ今、俺が思ってたことだ。

 

「それにお主だって、ジ・エンドが落ちた時に内心焦ってたんじゃないか!?」

 

おい、途中から口調が素になってるぞ。

 

「何のことだ?ベリコウスティのスキルで、ダメージを1枚表に。ターンエンド!」

 

 

ワタル:ダメージ2 サスケ:ダメージ3

 

 

「くっ……!もう怒ったでござるよ!そんな軽口、叩けなくしてやるでござる!」

 

「やってみろ、ガキの忍者」

「やってやるでござる!スタンドアンドドロー!魅惑の花吹雪、幻を乗せて舞え!ライド!夢幻の風花 シラユキ(11000)でござる!」

 

ホワイトメインの体を包み込むのは……無数に舞う花びら。そこから現れたのは、どこか雅な印象を醸し出す美しい女性。シラユキだ。

 

「って、マンダラロードじゃないのかよ……!」

 

「ミッドナイトクロウの後ろに、静寂の忍鬼 シジママル(8000)を、左前列に隠密魔竜 マンダラロード(11000)をコールでござる!」

 

シラユキのまわりに、ユニットが集まっていく。それを見て、ネハーレンは手に持った武器を構え直した。

 

「マンダラロードで、ネハーレンにアタックでござる!(11000)」

 

「ガトリングクロー・ドラゴンでガード!」

 

腕に搭載したガトリングによる牽制が、マンダラロードを寄せ付けない。

 

「続けてコクエンマルのブースト、シラユキでネハーレンにアタックでござる!(15000)」

 

「ノーガードだ」

 

「ツインドライブ!1枚目、忍獣 ムーンエッジ。クリティカルトリガーでござる!パワーはミッドナイト(13000) クリティカルはシラユキへ!(15000 ☆2)」

 

「ち……クリティカルトリガーか」

 

「2枚目、忍獣 リーフスミラージュ。トリガーではないでござるな」

 

シラユキを中心に吹き荒れる風が、花びらを乗せてネハーレンに襲いかかる。

 

「ダメージチェック……1枚目、ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド」

 

「またジ・エンドが落ちた!これでペルソナブラストも1回だけしか使えない〜!」

 

「……忍者口調はどうしたんだ」

 

「はっ!?」

 

「2枚目、ドラゴンモンク ゲンジョウ。よし、ヒールトリガー!ダメージは同じだから、1枚回復!パワーはネハーレンへ!(15000)」

 

上手くヒールトリガーを引くことができた。だが、まだあいつのアタックは残っている。

 

「シジママルのブースト、ミッドナイトクロウでベリコウスティをアタックでござる!(21000)」

 

「リアガードに狙いを変えたか……。ノーガード!」

 

俺はベリコウスティへのアタックを受け、そのままドロップゾーンへと置いた。

 

「拙者のターンは終了でござる!」

 

 

ワタル:ダメージ3 サスケ:ダメージ3

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!行くぞ、進撃せよ!大地を揺るがす炎の王者!ライド!ドーントレスドライブ・ドラゴン!!(11000)」

 

ネハーレンの足元から、サークルの光が迸る。次の瞬間には、ドーントレスドライブ・ドラゴンが、その巨大な姿を見せていた。

 

だが……

 

「そ、そんな……リサさんが!?」

 

俺は佐原の声に気づいて、森宮がいるファイトテーブルを見る。そこには、両手をついて項垂れる森宮がいた。

 

「まさか……!?」

 

「お主のチームメイトは、どうやら負けてしまったようでござるな。もっとも、主君も負けたみたいでござるがな」

 

佐原とファイトしていた、チームのリーダーだった奴か。

 

「と言うことは……」

 

「拙者たちのファイトで、その全てが決まる。同士たちの想い、チームの行く末。それらが拙者たちにかかっている」

 

「俺に……」

 

突然のしかかる責任。先ほどまでとは一変し、緊張感がワタルを襲う。

その圧に弱気になりかけるワタルを見て、サスケは言葉で責め立て追い討ちをかける。

 

「ここからのファイト次第で、道は大きく左右する。前に進むことも、ここで立ち止まることも。それを決めるのは、お主でござる」

 

「俺のファイトで……あいつらの、俺たちの挑戦は……」

 

それぞれの目標は違っても、目指す場所は同じだ。その旅を続けられるかどうかは、俺にかかっている。

 

「く……!」

 

チームの鍵を握ること。ワタルが背負うには、まだあまりにも大きすぎる物だった。

 

「臆したでござるか?チームの為に闘い、望んだ結果に辿り着けないかもしれないことに」

 

「そんなの……勝てばいい!そうすれば、こんなところで終わらせることなんて……!」

 

「それでも、負けてしまったら?」

 

「…………」

 

頭が痛い。まだ4回戦なのに、こんなところで終わらせてどうする?

 

だから、俺が勝つしかない。俺が……!

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「シオリさん……トウジ。ごめんなさい」

 

「謝ることじゃないっスよ。負け無しのファイターなんて、どこをどう探してもいないんスから」

 

デッキを片付け、森宮さんは私たちのところへと戻ってきた。

 

「佐原君の言うとおりだよ。今できることは、小沢君が勝つことを信じるだけだよ」

 

「ええ……そうね」

 

とは言え、やはり森宮さんの表情は優れない。もしかしたら、自分の敗北がチームの敗北につながる可能性だってあるから。

 

「情けないわね……。リーダーの私が、真っ先に負けるなんて」

 

「そんな弱気にならないでよ、森宮さん。まだチームが負けたわけじゃないんだよ?」

 

「そうっス。俺たちはチームなんスよ?負けをウジウジ引っ張る暇があるなら、今も体張ってファイトしてくれるチームメイトを応援するのが筋じゃないっスか?」

 

「二人とも……」

 

気持ちを切り替えたのか、森宮さんはまだ起動している1台のMFSを見つめる。

 

「そうね。今できることは、チームの勝利を信じること。自分の負けを悔やむのは後だわ」

 

「頼むっスよ、小沢君……!」

 

その小沢君の状況は……まずまずと言ったところか。でも、今は小沢君のターン。そろそろ動きがあるかもしれない。

 

なのに……今の小沢君は、どこか焦りを感じているような、そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「バーサーク・ドラゴン(9000)をコール!スキルでCB2、ミッドナイトクロウ退却!」

 

俺が勝たないといけないんだ……。こんなところで、終わらせてたまるかよ!?

 

「カルゼのブースト、ドーントレスでシラユキにアタック!(18000)」

 

「ムーンエッジ、ミッドナイトクロウでガード!トリガー2ま……」

 

「ツインドライブ!1枚目、ブルーレイ・ドラゴキッド。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てドーントレスへ!(23000 ☆2)」

 

「……このタイミングで、賭けにでるのでござるか!?」

 

いや、ここでトリガーが出たら、ガード貫通でダメージを与えられる!そうすれば、勝ちまで後少しだ!

 

「トリガー来い……!2枚目、ドーントレスドライブ・ドラゴン。く……!」

 

一方、その様子を見ていたシオリたちは、明らかにワタルが焦っていることに気がついていた。

 

「何やってるんスか、ワタル君!あんな強引なやり方で、アタックが通るわけない!」

 

「今は無理して勝ちに行く場面じゃなかったのに……」

 

「勝ちを急いでいる……。まさか、自分のファイトで勝敗が決まることを、意識しすぎている?」

 

「そんなプレイングじゃ、勝つことなんて至難の技っスよ!?」

 

その声は、ファイトしているワタルにも届いていて……。

 

「くそ……わかってるよ!キンナラのブースト、ベリコウスティでシラユキにアタック!(15000)」

 

「ノーガードでござる!ダメージトリガー確認……忍獣 キャットローグ。ドロートリガーでござる!1枚ドローし、パワーをシラユキへ!(16000)」

 

「くそっ!ベリコウスティのスキルで、ダメージを1枚表に!ターンエンドだ!」

 

 

ワタル:ダメージ3(裏1) サスケ:ダメージ4

 

 

「そんな様では、拙者の勝ちは決まったも同然でござるな!スタンドアンドドロー!シジママルの前に、忍竜 カースドブレス(8000)をコール!」

 

夜空を滑空し、叫び声をあげながら降り立ったカースドブレス。シラユキの隣に佇み、攻撃の時を待つ。

 

「マンダラロードで、ドーントレ━━(11000)」

 

「ゴジョーでガード!」

 

「なら、コクエンマルのブースト、シラユキで━━(15000)」

 

「キンナラでガードだ!」

 

ドーントレスの前に、竜の魔導師が立ちはだかる。だが、冷静さを欠いたワタルでは、その判断が間違っていることに気がついていない。

 

「ワタル君!?そのガードの仕方だと……!」

 

「……っ!しまった!」

 

不味い。このままだと、トリガーが1枚でも発動してしまったら……!

 

「ツインドライブ!1枚目、忍獣 ナイトパンサー。2枚目、忍獣 キャットデビル。クリティカルトリガーでござる!」

 

「そ、そんな!?」

 

「効果は全てシラユキへ!(20000 ☆2) 拙者はガード貫通させてもらうでござるよ!」

 

キンナラと共に、ドーントレスがシラユキの放つ花びらに切り裂かれる。

 

「くっ……!ダメージチェック、ワイバーンガード バリィと槍の化身 ター。クリティカルトリガー!効果はドーントレスへ!(16000 ☆2)」

 

「シジママルのブースト、カースドブレスでバーサークにアタック!(16000)」

 

「ブルーレイでガード!」

 

「ターン終了でござる。さっきまでの態度は、どこに行ったでござるかな?」

 

 

ワタル:ダメージ5(裏1) サスケ:ダメージ4

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

今のは……完全に俺のミスだ。こんな時に、ミスなんかしてはいけなかったのに……!

くそ!そのせいで、俺のダメージは5。もう後がない。追い詰められてしまった。

 

こんな調子で、俺は勝てるのか?いや、俺は勝たないと……!

 

「何やってるの小沢君!もっと落ち着いてよ!」

 

「ほ、星野……!?」

 

俺は振り返り、星野を見る。その表情は険しく、他の2人も同様だ。

 

「わ、悪い!さっきはあんなミスして……。このターンで絶対に巻き返す!」

 

「できるのでござるか?今のお主に」

 

「お前……ガキは黙ってろ!」

 

横槍を入れられたことに腹を立て、失態を見せたことへの怒りの矛先が、サスケに向く。

 

「だから、落ち着くっスよ。気持ちは痛いほどわかるっスけど、それで勝てるわけがない」

 

「わかってるよ!もう落ち着いた!絶対に勝ってみせるから━━」

 

「いい加減、頭を冷やしなさい。このままファイトを続けても、結果は見えてるわ」

 

ワタルの言葉を遮って、リサが言い放つ。その圧力に押されながらも、踏みとどまって見つめ返す。

 

「頭を冷やせって、言われてもな……!」

 

「それができないなら、ここで終わりよ。短い挑戦だったけど、春にまた挑戦して━━」

 

「……何だと?」

 

手札をファイトテーブルに叩きつけ、リサを睨み付けるワタル。審判が止めに入ろうとするが、相手チームのリーダーがそれを止める。

 

「これが……落ち着いていられるかよ!?全てだぞ!?俺で全てが決まる!次があるとか、そう簡単に捨てられる物じゃないはずだぞ!?」

 

重くて押し潰されそうになるプレッシャーをはね除けるように、ワタルは想いの全てを吐き出した。

 

「数少ないチャンスを、俺のせいで1つ無くすのか!?そんなのは嫌なんだよ、俺は!」

 

「…………」

 

「だから、勝たないといけないんだ!俺たちには、目指す場所があるんじゃないのか━━」

 

「小沢君!」

 

ホール内に響くほどに大声を張り上げたのは、リサだった。突然の事態に、シオリたちも驚いている。

 

「森宮……!?」

 

怒っているのか、それとも哀れんでいるのか。険しい表情を崩すことなく、リサは一歩ずつ歩き始める。再び審判が止めようとするが、少しだけだと了承を貰う。

 

やがてワタルの目前まで近づいたリサは、真っ直ぐにワタルを見据える。そして……

 

 

思いっきり、平手を打った。

 

 

「な……!?」

 

「ちょ、リサさん!?」

 

シオリやトウジは唖然とし、相手チームや審判も戸惑っていた。

 

「っ……!何するんだ!?」

 

「いい加減にしなさい!自分だけで責任を負うなんて、馬鹿な真似は止めなさい!何のためのチームだと思ってるのよ!?」

 

平手からの叱責。ワタルは黙っていることしかできない。

 

「1人で戦ってるわけじゃない。チームで戦ってるの。勝つことも負けることも、1人で掴める物じゃないのよ?」

 

「それは……」

 

「あなただけの戦いにしないで。これは、私たちの戦いよ」

 

「……!」

 

「だから、思いっきり戦いなさい!どんな結果でもいい。だって、私たちはチームなのよ?」

 

はっと目を見開いたワタルは、目の前に立つリサを見る。今度は睨むことなく、いつもと同じ視線を送る。

 

そうだな……。森宮の言うとおりだ。何を1人で抱え込む必要があったんだろうな……?

あのガキの忍者に踊らされて、俺は勝利や目標だけしか見えていなかったのかもしれない。

 

俺の考えすぎだった。そんなので、勝てるわけないよな……。こんなんじゃ、あいつに笑われてしまう。

 

何のために、あの時覚悟を持ったのか。

 

「わかった、森宮。今度こそ大丈夫だ。2人のところに戻ってくれ」

 

「小沢君……」

 

「安心しろ。全力でファイトしてくる。そして勝ってくる!だから、そこで待っててくれ!」

 

いつも通りに、いやそれ以上に、ワタルの調子は戻っていた。その様子に安堵したリサは、踵を返して戻っていく。

 

「ぐ……!ぶり返したでござるか。しかし、拙者の方が優勢!勝つのは拙者でござる!」

 

「言ってろガキ!悪いけど、俺が勝つ!勝って先に進ませて貰う!」

 

俺はファイトテーブルに置いた手札を持ち直して、その内の1枚を天に掲げる。

 

「進撃せよ!大地を揺るがす炎の王者!ブレイクライド!ドーントレスドライブ・ドラゴン!!(11000)」

 

光に包まれたドーントレスが、両腕で光を振り払うように再度姿を見せる。

 

まるで、殻を破るように。今の、ワタルのように。

 

「な……ここでブレイクライドでござるか!?」

 

もうみっともない姿は見せない……!見せるのは、見失いかけていた、俺の覚悟だ!

 

「行くぞ……反撃開始だ!!」


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