明けましておめでとうございます。今年も、時代遅れなこの小説のことをよろしくお願いします。
森宮さんが負けた。消えていくレヴォンを見ながら、私は佐原君の元へ向かった。
さっきまで向こうのリーダーがいたが、私が来たことに気づいて戻ったみたいだ。
「佐原君!森宮さんは……」
「見たまんまっスよ……」
テーブルに手をつき、項垂れる森宮さん。こちらに背を向けているため、表情を伺い知ることはできない。相手がデッキを片付けて去った後も、しばらく動けずにいた。
「佐原君はどうだったの?」
「勝ったっス。苦戦したっスけどね」
「そっか……。じゃあ、後は小沢君次第ってことか……」
***
「俺のターン、スタンドアンドドロー!」
俺はドローしたカードを見る。ワイバーンガード バリィ。グレード1だ。
今の俺の手札にはグレード3がなく、このターン中に何とかして手札に加えたいと思っていた。
「ドラゴンナイト ネハーレン(10000)にライド!」
今のヴァンガードはグレード2。このままファイトすることになれば、ツインドライブの恩恵が受けられず、手札の枚数差が開いていくばかり。不利になるのは目に見えている。
「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキルにより、相手にグレード2のリアガードがいるなら、カードチェンジ!」
ヒートネイル・サラマンダーを捨てて、1枚引く。引いたのは、ドラゴンモンク ゴジョー。グレードは1。
「……なら、レッドパルスのスキル!CB1、自身をソウルに入れることで、デッキの上から5枚見て、グレード3を1枚手札に加える!」
「その様子だと、どうやらグレード3が手札にないようでござるな!拙者をガキ呼ばわりした罰が当たったでござるよ!あっはっは!」
「んなわけあるかよ!5枚確認……!」
俺は慎重に5枚のカードに目を通す。グレード2、1、0、2、3……。
「よし、あった!ドーントレスドライブ・ドラゴンを手札へ!」
危ない……。これで引けてなかったらどうなっていたか……。
「ちぇっ、引いたでござるか。まぁ、そんな崖っぷちなプレイングをしている時点で、勝ち目があるとは思えないでござるがな!」
「うるさい忍者だな……!キンナラを後ろに下げて、ベリコウスティドラゴン(9000)をコール!カルゼのブースト、ネハーレンでホワイトメインにアタック!(17000)」
「ノーガードでござる!」
「ドライブチェック、ガトリングクロー・ドラゴン。ゲット!ドロートリガー!1枚ドローし、パワーはベリコウスティへ!(14000)」
ネハーレンの操る竜から、燃え盛る炎が放たれる。ホワイトメインは避けられずに、木々と共に焼かれていく。
「ダメージトリガー確認!忍獣 ナイトパンサーでござる」
「なら、キンナラのブースト、ベリコウスティでアタック!(20000)」
「ノーガード。ダメージトリガー確認……しまっ!い、いや、何でもないでござる」
そのカードは、隠密魔竜 マンダラロード。ジ・エンドと同じくペルソナブラストが使えるため、できればダメージに落としたくないカードだ。
「グレード3で慌てるなんて、人のこと言えるのか?」
「うるさいでござる!マンダラロードはペルソナブラストが使えるから……」
それ今、俺が思ってたことだ。
「それにお主だって、ジ・エンドが落ちた時に内心焦ってたんじゃないか!?」
おい、途中から口調が素になってるぞ。
「何のことだ?ベリコウスティのスキルで、ダメージを1枚表に。ターンエンド!」
ワタル:ダメージ2 サスケ:ダメージ3
「くっ……!もう怒ったでござるよ!そんな軽口、叩けなくしてやるでござる!」
「やってみろ、ガキの忍者」
「やってやるでござる!スタンドアンドドロー!魅惑の花吹雪、幻を乗せて舞え!ライド!夢幻の風花 シラユキ(11000)でござる!」
ホワイトメインの体を包み込むのは……無数に舞う花びら。そこから現れたのは、どこか雅な印象を醸し出す美しい女性。シラユキだ。
「って、マンダラロードじゃないのかよ……!」
「ミッドナイトクロウの後ろに、静寂の忍鬼 シジママル(8000)を、左前列に隠密魔竜 マンダラロード(11000)をコールでござる!」
シラユキのまわりに、ユニットが集まっていく。それを見て、ネハーレンは手に持った武器を構え直した。
「マンダラロードで、ネハーレンにアタックでござる!(11000)」
「ガトリングクロー・ドラゴンでガード!」
腕に搭載したガトリングによる牽制が、マンダラロードを寄せ付けない。
「続けてコクエンマルのブースト、シラユキでネハーレンにアタックでござる!(15000)」
「ノーガードだ」
「ツインドライブ!1枚目、忍獣 ムーンエッジ。クリティカルトリガーでござる!パワーはミッドナイト(13000) クリティカルはシラユキへ!(15000 ☆2)」
「ち……クリティカルトリガーか」
「2枚目、忍獣 リーフスミラージュ。トリガーではないでござるな」
シラユキを中心に吹き荒れる風が、花びらを乗せてネハーレンに襲いかかる。
「ダメージチェック……1枚目、ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド」
「またジ・エンドが落ちた!これでペルソナブラストも1回だけしか使えない〜!」
「……忍者口調はどうしたんだ」
「はっ!?」
「2枚目、ドラゴンモンク ゲンジョウ。よし、ヒールトリガー!ダメージは同じだから、1枚回復!パワーはネハーレンへ!(15000)」
上手くヒールトリガーを引くことができた。だが、まだあいつのアタックは残っている。
「シジママルのブースト、ミッドナイトクロウでベリコウスティをアタックでござる!(21000)」
「リアガードに狙いを変えたか……。ノーガード!」
俺はベリコウスティへのアタックを受け、そのままドロップゾーンへと置いた。
「拙者のターンは終了でござる!」
ワタル:ダメージ3 サスケ:ダメージ3
「俺のターン、スタンドアンドドロー!行くぞ、進撃せよ!大地を揺るがす炎の王者!ライド!ドーントレスドライブ・ドラゴン!!(11000)」
ネハーレンの足元から、サークルの光が迸る。次の瞬間には、ドーントレスドライブ・ドラゴンが、その巨大な姿を見せていた。
だが……
「そ、そんな……リサさんが!?」
俺は佐原の声に気づいて、森宮がいるファイトテーブルを見る。そこには、両手をついて項垂れる森宮がいた。
「まさか……!?」
「お主のチームメイトは、どうやら負けてしまったようでござるな。もっとも、主君も負けたみたいでござるがな」
佐原とファイトしていた、チームのリーダーだった奴か。
「と言うことは……」
「拙者たちのファイトで、その全てが決まる。同士たちの想い、チームの行く末。それらが拙者たちにかかっている」
「俺に……」
突然のしかかる責任。先ほどまでとは一変し、緊張感がワタルを襲う。
その圧に弱気になりかけるワタルを見て、サスケは言葉で責め立て追い討ちをかける。
「ここからのファイト次第で、道は大きく左右する。前に進むことも、ここで立ち止まることも。それを決めるのは、お主でござる」
「俺のファイトで……あいつらの、俺たちの挑戦は……」
それぞれの目標は違っても、目指す場所は同じだ。その旅を続けられるかどうかは、俺にかかっている。
「く……!」
チームの鍵を握ること。ワタルが背負うには、まだあまりにも大きすぎる物だった。
「臆したでござるか?チームの為に闘い、望んだ結果に辿り着けないかもしれないことに」
「そんなの……勝てばいい!そうすれば、こんなところで終わらせることなんて……!」
「それでも、負けてしまったら?」
「…………」
頭が痛い。まだ4回戦なのに、こんなところで終わらせてどうする?
だから、俺が勝つしかない。俺が……!
***
「シオリさん……トウジ。ごめんなさい」
「謝ることじゃないっスよ。負け無しのファイターなんて、どこをどう探してもいないんスから」
デッキを片付け、森宮さんは私たちのところへと戻ってきた。
「佐原君の言うとおりだよ。今できることは、小沢君が勝つことを信じるだけだよ」
「ええ……そうね」
とは言え、やはり森宮さんの表情は優れない。もしかしたら、自分の敗北がチームの敗北につながる可能性だってあるから。
「情けないわね……。リーダーの私が、真っ先に負けるなんて」
「そんな弱気にならないでよ、森宮さん。まだチームが負けたわけじゃないんだよ?」
「そうっス。俺たちはチームなんスよ?負けをウジウジ引っ張る暇があるなら、今も体張ってファイトしてくれるチームメイトを応援するのが筋じゃないっスか?」
「二人とも……」
気持ちを切り替えたのか、森宮さんはまだ起動している1台のMFSを見つめる。
「そうね。今できることは、チームの勝利を信じること。自分の負けを悔やむのは後だわ」
「頼むっスよ、小沢君……!」
その小沢君の状況は……まずまずと言ったところか。でも、今は小沢君のターン。そろそろ動きがあるかもしれない。
なのに……今の小沢君は、どこか焦りを感じているような、そんな気がしていた。
***
「バーサーク・ドラゴン(9000)をコール!スキルでCB2、ミッドナイトクロウ退却!」
俺が勝たないといけないんだ……。こんなところで、終わらせてたまるかよ!?
「カルゼのブースト、ドーントレスでシラユキにアタック!(18000)」
「ムーンエッジ、ミッドナイトクロウでガード!トリガー2ま……」
「ツインドライブ!1枚目、ブルーレイ・ドラゴキッド。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てドーントレスへ!(23000 ☆2)」
「……このタイミングで、賭けにでるのでござるか!?」
いや、ここでトリガーが出たら、ガード貫通でダメージを与えられる!そうすれば、勝ちまで後少しだ!
「トリガー来い……!2枚目、ドーントレスドライブ・ドラゴン。く……!」
一方、その様子を見ていたシオリたちは、明らかにワタルが焦っていることに気がついていた。
「何やってるんスか、ワタル君!あんな強引なやり方で、アタックが通るわけない!」
「今は無理して勝ちに行く場面じゃなかったのに……」
「勝ちを急いでいる……。まさか、自分のファイトで勝敗が決まることを、意識しすぎている?」
「そんなプレイングじゃ、勝つことなんて至難の技っスよ!?」
その声は、ファイトしているワタルにも届いていて……。
「くそ……わかってるよ!キンナラのブースト、ベリコウスティでシラユキにアタック!(15000)」
「ノーガードでござる!ダメージトリガー確認……忍獣 キャットローグ。ドロートリガーでござる!1枚ドローし、パワーをシラユキへ!(16000)」
「くそっ!ベリコウスティのスキルで、ダメージを1枚表に!ターンエンドだ!」
ワタル:ダメージ3(裏1) サスケ:ダメージ4
「そんな様では、拙者の勝ちは決まったも同然でござるな!スタンドアンドドロー!シジママルの前に、忍竜 カースドブレス(8000)をコール!」
夜空を滑空し、叫び声をあげながら降り立ったカースドブレス。シラユキの隣に佇み、攻撃の時を待つ。
「マンダラロードで、ドーントレ━━(11000)」
「ゴジョーでガード!」
「なら、コクエンマルのブースト、シラユキで━━(15000)」
「キンナラでガードだ!」
ドーントレスの前に、竜の魔導師が立ちはだかる。だが、冷静さを欠いたワタルでは、その判断が間違っていることに気がついていない。
「ワタル君!?そのガードの仕方だと……!」
「……っ!しまった!」
不味い。このままだと、トリガーが1枚でも発動してしまったら……!
「ツインドライブ!1枚目、忍獣 ナイトパンサー。2枚目、忍獣 キャットデビル。クリティカルトリガーでござる!」
「そ、そんな!?」
「効果は全てシラユキへ!(20000 ☆2) 拙者はガード貫通させてもらうでござるよ!」
キンナラと共に、ドーントレスがシラユキの放つ花びらに切り裂かれる。
「くっ……!ダメージチェック、ワイバーンガード バリィと槍の化身 ター。クリティカルトリガー!効果はドーントレスへ!(16000 ☆2)」
「シジママルのブースト、カースドブレスでバーサークにアタック!(16000)」
「ブルーレイでガード!」
「ターン終了でござる。さっきまでの態度は、どこに行ったでござるかな?」
ワタル:ダメージ5(裏1) サスケ:ダメージ4
「俺のターン、スタンドアンドドロー!」
今のは……完全に俺のミスだ。こんな時に、ミスなんかしてはいけなかったのに……!
くそ!そのせいで、俺のダメージは5。もう後がない。追い詰められてしまった。
こんな調子で、俺は勝てるのか?いや、俺は勝たないと……!
「何やってるの小沢君!もっと落ち着いてよ!」
「ほ、星野……!?」
俺は振り返り、星野を見る。その表情は険しく、他の2人も同様だ。
「わ、悪い!さっきはあんなミスして……。このターンで絶対に巻き返す!」
「できるのでござるか?今のお主に」
「お前……ガキは黙ってろ!」
横槍を入れられたことに腹を立て、失態を見せたことへの怒りの矛先が、サスケに向く。
「だから、落ち着くっスよ。気持ちは痛いほどわかるっスけど、それで勝てるわけがない」
「わかってるよ!もう落ち着いた!絶対に勝ってみせるから━━」
「いい加減、頭を冷やしなさい。このままファイトを続けても、結果は見えてるわ」
ワタルの言葉を遮って、リサが言い放つ。その圧力に押されながらも、踏みとどまって見つめ返す。
「頭を冷やせって、言われてもな……!」
「それができないなら、ここで終わりよ。短い挑戦だったけど、春にまた挑戦して━━」
「……何だと?」
手札をファイトテーブルに叩きつけ、リサを睨み付けるワタル。審判が止めに入ろうとするが、相手チームのリーダーがそれを止める。
「これが……落ち着いていられるかよ!?全てだぞ!?俺で全てが決まる!次があるとか、そう簡単に捨てられる物じゃないはずだぞ!?」
重くて押し潰されそうになるプレッシャーをはね除けるように、ワタルは想いの全てを吐き出した。
「数少ないチャンスを、俺のせいで1つ無くすのか!?そんなのは嫌なんだよ、俺は!」
「…………」
「だから、勝たないといけないんだ!俺たちには、目指す場所があるんじゃないのか━━」
「小沢君!」
ホール内に響くほどに大声を張り上げたのは、リサだった。突然の事態に、シオリたちも驚いている。
「森宮……!?」
怒っているのか、それとも哀れんでいるのか。険しい表情を崩すことなく、リサは一歩ずつ歩き始める。再び審判が止めようとするが、少しだけだと了承を貰う。
やがてワタルの目前まで近づいたリサは、真っ直ぐにワタルを見据える。そして……
思いっきり、平手を打った。
「な……!?」
「ちょ、リサさん!?」
シオリやトウジは唖然とし、相手チームや審判も戸惑っていた。
「っ……!何するんだ!?」
「いい加減にしなさい!自分だけで責任を負うなんて、馬鹿な真似は止めなさい!何のためのチームだと思ってるのよ!?」
平手からの叱責。ワタルは黙っていることしかできない。
「1人で戦ってるわけじゃない。チームで戦ってるの。勝つことも負けることも、1人で掴める物じゃないのよ?」
「それは……」
「あなただけの戦いにしないで。これは、私たちの戦いよ」
「……!」
「だから、思いっきり戦いなさい!どんな結果でもいい。だって、私たちはチームなのよ?」
はっと目を見開いたワタルは、目の前に立つリサを見る。今度は睨むことなく、いつもと同じ視線を送る。
そうだな……。森宮の言うとおりだ。何を1人で抱え込む必要があったんだろうな……?
あのガキの忍者に踊らされて、俺は勝利や目標だけしか見えていなかったのかもしれない。
俺の考えすぎだった。そんなので、勝てるわけないよな……。こんなんじゃ、あいつに笑われてしまう。
何のために、あの時覚悟を持ったのか。
「わかった、森宮。今度こそ大丈夫だ。2人のところに戻ってくれ」
「小沢君……」
「安心しろ。全力でファイトしてくる。そして勝ってくる!だから、そこで待っててくれ!」
いつも通りに、いやそれ以上に、ワタルの調子は戻っていた。その様子に安堵したリサは、踵を返して戻っていく。
「ぐ……!ぶり返したでござるか。しかし、拙者の方が優勢!勝つのは拙者でござる!」
「言ってろガキ!悪いけど、俺が勝つ!勝って先に進ませて貰う!」
俺はファイトテーブルに置いた手札を持ち直して、その内の1枚を天に掲げる。
「進撃せよ!大地を揺るがす炎の王者!ブレイクライド!ドーントレスドライブ・ドラゴン!!(11000)」
光に包まれたドーントレスが、両腕で光を振り払うように再度姿を見せる。
まるで、殻を破るように。今の、ワタルのように。
「な……ここでブレイクライドでござるか!?」
もうみっともない姿は見せない……!見せるのは、見失いかけていた、俺の覚悟だ!
「行くぞ……反撃開始だ!!」