つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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どうも、この小説では1ヶ月ぶりです。向こうの小説も同時に投稿したので、そっちもよろしくお願いします。

こっちの小説は古いカード扱っているので、そういうカードのファイトを見たい人はぜひ。
とは言え、頑張ってカードプールは追い付くつもりではいますけど。

新しいヴァンガードのアニメも始まったことだし、これからも頑張っていきます。


ride41 海に散る意志

グランドマスターカップ5回戦。エレメンタルメモリーのファイトは、まだ終わりそうではない。

 

「クロスライド!エターナルアイドル パシフィカ!」

 

「ここでクロスライドかよ……」

 

「ソウルにトップアイドル パシフィカたんがいることで、エターナルアイドル パシフィカたんのパワーは13000!」

 

「……後、その『たん』って何だよ」

 

ワタルのファイト相手は、パシフィカをメインのヴァンガードとしたデッキだった。

 

「PR♥ISM-P ケルトと、PR♥ISM-I クリアをコール!クリアのブーストしたケルトでジ・エンドにアタック!」

 

「ブルーレイでガード!」

 

「パシフィカたんのアタック!そして、リミットブレイク!CB3、ケルトとクリアを手札に戻して、デッキからエターナルアイドル パシフィカたんをスペリオルコール!」

 

パシフィカの歌声が響き、ケルトとクリアが消えていく。続いてステージ裏から、パシフィカが現れた。

 

「手札に戻した2体のスキルで、リアガードのパシフィカたんに合計パワープラス8000!」

 

「げっ、マジかよ……。ゲンジョウとゴジョーでガード!」

 

「ツインドライブ。1枚目はトリガーがないけど、2枚目はクリティカル!」

 

「何!?」

 

「効果は全てリアガードのパシフィカたん!そのままアタック!」

 

「ち……バリィで完全ガード!」

 

バリィがパシフィカの進路を塞ぎ、ジ・エンドを守る。パシフィカは頬を膨らませながら、後退していく。

 

「あ〜あ。決められなかった……。ターンエンド!」

 

そしてこちらはトウジのファイト。相手は……

 

「ラブラドルのスキル!CB1でメルキュールを手札に!」

 

「またっスか!これじゃあロックが使えない!」

 

ラブラドルをメインに扱い、そのスキルでリンクジョーカーのロックを切り抜けていた。

 

「ふっふっ……。現環境を制するリンクジョーカーも、バミューダ△の前では無力!歌姫こそが、世界を制する!」

 

「しないっスよ!」

 

「だったら証明しよう……ラブラドルでインフィニットゼロにアタック!リミットブレイクは使わない!」

 

ラブラドルにはアタック時、手札のPR♥ISMを3体別々のリアガードサークルにコールすることで、パワー10000とクリティカルを得ることができる。

だが、リンクジョーカーのロックに対抗するため、極力リアガードをコールしない選択をとっていた。

 

もっとも、今の状況で後列のリアガードを1体ロックされているわけだが。

 

「メテオライガー、ネビュラキャプター!この2体でガードっス!」

 

「ツインドライブ……どちらもトリガーなしか。ターンエンド!」

 

「だったら、俺のターンっス!スタンドアンドドロー!」

 

勝利だけを目指して。戦意を失ったリサのためにも、3人はファイトを進めるのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「私はこれでターンエンド!」

 

一方、こちらはシオリのファイト。ガルモールのスキルを駆使し、リアガードを展開したものの、決め手には欠けていた。

 

 

シオリ:ダメージ4(裏3) マサキ:ダメージ4(裏1)

 

 

「僕のターン、スタンドアンドドロー!」

 

さっきのターンで、向こうのダメージは4になった。と言うことは……恐らく来る!

 

「僕もリミットブレイクを使うとしよう!ブレイクライド!PR♥ISM-I ヴェール!(11000)」

 

ヴェールの足元にサークルが現れ、ピンクのオーラとなって力を与えていく。

 

「ブレイクライドスキル!1枚ドローし、ケルトとクリアを手札に戻し、パワープラス10000!(21000)」

 

「ここでリアガードを手札に……」

 

「ケルトのスキル!手札に戻ったとき、SB1でリオにパワープラス4000!(12000) クリアも同じスキルを持っているため、発動!SB1、リオにパワープラス4000!(16000)」

 

一気にパワーを上げてきた……。しかも、手札が増えているから、守りも万全だ。

 

「さっき戻したケルト(9000)とクリア(7000)、さらにライブラリーマドンナ リオン(6000)をコール!リオンのスキル!CB1で、デッキの上から1枚をダメージに!」

 

クリアがダメージに加わり、ダメージは5枚となった。けど、ターン終了時にダメージゾーンのカードを1枚デッキに戻すことができる。

 

「ヴェールはリアガードが4体以上で、パワープラス2000!(23000) そのままアタック!」

 

「ここは……光輪の解放者 マルクで完全ガード!コストはばーくがる!」

 

ヴェールの歌声が、マルクの展開した盾に阻まれる。ダメージ4の今、うかつにノーガードはできない。

 

「ツインドライブ!1枚目、ハートフルエール ファンディ。ドロートリガー!1枚ドローし、パワーはケルト!(14000) 2枚目、PR♥ISM-M ティモール。ヒールトリガー!」

 

ここでダブルトリガー……。出てほしくはなかったけど、仕方ない。

 

「今度はダメージを回復できる。そして、パワーはケルトだ!(19000)」

 

後2回のアタック……どう凌ぐ?

 

「リオンのブーストしたリオでガルモールにアタック!(22000)」

 

「ノーガード!ダメージチェック、霊薬の解放者。ゲット!ヒールトリガー!!」

 

膝をつくガルモールに手を当て、霊薬の解放者が淡い光を放つ。すぐに傷は癒え、ガルモールは立ち上がる。

 

「ダメージを1枚回復!パワーはガルモールに!(16000)」

 

「なら、クリアのブーストしたケルト!対象は変わらずガルモール!(26000)」

 

「っ、ノーガード!ダメージは……横笛の解放者 エスクラド」

 

「ターンエンド。リオンのスキルで、ダメージのティモールをデッキに戻させてもらおうか」

 

 

シオリ:ダメージ5(裏2) マサキ:ダメージ3

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

少しずつ追い詰められている。私は、この状況を打開するためにさっきのターンのドライブチェックで得た1枚を掲げる。

 

「世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!!ライド・ザ・ヴァンガード!円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」

 

ガルモールが、金の装飾の施された鎧を纏う王、アルフレッドに変貌する。今日も頼むよ、アルフレッド。

 

「アルフレッドのスキル!CB2……デッキの上から1枚見て、ブラスター・ブレード・解放者(9000)をスペリオルコール!」

 

「ブラスター・ブレード……。だが、スキルは使えないみたいだね!」

 

「元からそのつもりはないよ!ブルーノのスキルで、デッキからユニットがコールされたことで、パワープラス3000!(10000)」

 

ブラスター・ブレードに呼応するように、ブルーノが光を纏う。

 

「さらにアルフレッドのリミットブレイク!解放者のリアガードは5体!フルパワー!!パワープラス10000!!(21000)」

 

これで準備完了。攻撃に入る。

 

「リューのブースト、ブラスター・ブレードでリオにアタック!(15000)」

 

「そこはティモールでガード!」

 

「もう1体のリューのブースト、アルフレッドでアタック!リューのスキル、他に解放者のリアガードが3体以上いるから、パワープラス4000!(31000)」

 

「……ノーガード!」

 

さすがに無理にガードはしないみたい。まだダメージは3だし、余裕があると言えばあるか。

 

「ツインドライブ。1枚目、疾駆の解放者 ヨセフス。2枚目、光輪の解放者 マルク」

 

アルフレッドが、手にした剣でヴェールを切り裂く。トリガーは出なかったけど、これで2ダメージだ。

 

「ダメージチェック、マーメイドアイドル エリーだね」

 

「ブルーノのブースト、もう1体のブラスター・ブレードでアタック!(19000)」

 

「さすがに5ダメージ目はやらない!カナリアでガード!」

 

「くっ……ターンエンド!」

 

 

シオリ:ダメージ5(裏4) マサキ:ダメージ4

 

 

「僕のターン、スタンドアンドドロー。……さぁ、ようやく僕のアイドルが姿を見せるときだ!」

 

アイドル……。そして、これまでのファイトで見せたあるユニットへの溺愛っぷり……。今から来るのは、一つしかない。

 

「戦場を彩る青の調べ!奏でる音色で、願いを届けよ!!ブレイクライド!オーロラスター コーラル!!(10000)」

 

ヴェールの姿が、青い髪をなびかせた美しい女性のマーメイド、コーラルへと変化する。グレード0から続いてきた成長物語は、ようやく終局を迎える。

 

「行くよ、コーラルたん!ブレイクライドスキル!1枚ドローし、ケルトとクリアを手札に!コーラルたんにパワープラス10000!(20000)戻したケルトとクリアのスキルで、SB1してリオにパワープラス4000!2体でパワープラス8000!(16000)」

 

ここまでは、さっきのターンと同じ……。

 

「コーラルたんは、ソウルにシャイニースター コーラルがいると、常にパワープラス1000!(21000)再びケルト(9000)とクリア(7000)をコール!さらにフレッシュスター コーラル(7000)をコール!」

 

ステージにユニットが集まっていく。これで、リアガードはフル展開された。手札は5枚……守りきれるか?

 

「クリアのブースト、ケルトでアタック!(16000)」

 

「エポナでガード!」

 

「フレッシュスターのコーラルたんのブースト、オーロラスター コーラルたんでアタック!そして、コーラルたんのリミットブレイク!CB2で、SC1してクリアを手札に!そして、コーラルたんにパワープラス5000!(26000)」

 

クリアがステージから消えていく。防御用の手札を確保されてしまっただけじゃない。クリアが手札に戻ったってことは……!

 

「今ソウルに入ったカードを使ってSB1、クリアのスキルでリオにさらにパワープラス4000!(20000)」

 

「く……!」

 

「これで決めよう!コーラルたん!!」

 

「まだだよ!光輪の解放者 マルクで完全ガード!コストはヨセフス!」

 

マルクがガードに回り、コーラルの進路を断つようにシールドを展開する。

 

「ええい……まだだ!ツインドライブ!1枚目、ガンスリンガースター フロリダ。クリティカルトリガー!効果は全てリオへ!(25000 ☆2)」

 

きっちりトリガーは引いてくるのか……。

 

「2枚目、PR♥ISM-I クリア。トリガーはなしだ」

 

2枚ともトリガーが出なくてよかった……。でも、次の攻撃は一筋縄では止められない。

 

「リオンのブースト、リオでアルフレッドにアタック!これで、決まりだ!!(31000 ☆2)」

 

リオンのサポートを受け、リオがアルフレッドに猛スピードで迫る。とっさに剣を構えて守りの姿勢をとるが、間に合うことはなく━━

 

「……決めさせない!2枚目のマルクで、完全ガード!!コストは猛撃の解放者!!」

 

「何っ……!?た、ターンエンド!」

 

 

シオリ:ダメージ5(裏4) マサキ:ダメージ4(裏2)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

手札は1枚だけ。リアガードは揃っているが、次のターンを回してしまえば後がない。

 

このターンで……決めるしかない!!

 

「ライドもコールもしないで、アルフレッドのリミットブレイク!解放者のリアガードは変わらず5体!フルパワー!!パワープラス10000!!(21000)」

 

リアガードの輝きが、アルフレッドに力を与えていく。

 

「リューのブースト、ブラスター・ブレードでケルトにアタック!(15000)」

 

「ノーガード……!」

 

「もう1体のリューのブースト、アルフレッドでアタック!リューのスキルで、他に解放者のリアガードが3体以上!パワープラス4000!(31000)」

 

この高パワーのアタックが止められたら、そこで終わりだ。賭けるしかない……!

 

「フロリダ、カナリア、ファンディでガード!トリガー1枚で貫通だ!」

 

「1枚なら……引く!ツインドライブ!1枚目、小さな解放者 マロン」

 

もう1枚……アクセルリンクを使うか?いや、それはダメだ。いくら勝ちたいからと言って、不正して勝っても意味がない!

 

「2枚目……!」

 

自分の力で、勝つんだ……!

 

「……猛撃の解放者。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全て、アルフレッドへ!!(36000 ☆2)」

 

3体のガーディアンをなぎ払い、勢いのままに剣をコーラルにふるう。可愛らしい悲鳴を上げながら、コーラルの姿は消えていった……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「勝ちましたよ……森宮さん」

 

ファイトを終えて、私は森宮さんの待つ場所に戻っていた。佐原君たちはまだファイトの途中みたいだ。

 

「シオリさん……ありがとう。私の代わりに、ファイトしてくれて」

 

「気持ち、少しは落ち着きましたか?」

 

「ええ。少しは……ね」

 

でも、自分の中で気持ちの整理をつけることができたなら、私がこのファイトで頑張った意味がある。それが、本の些細なことだとしても。

 

「次は行くわよ。いつまでも任せっぱなしじゃいられないわ」

 

「……はい!」

 

「試合終了!エレメンタルメモリー対エターナルプリンセスの試合は、2対1で、エレメンタルメモリーの勝利です!」

 

まさにその時、チームの命運を決める審判のコールが流れた。結果は、私たちの勝ち。

 

「シオリさ〜ん!リサさ〜ん!勝ったっスよ!!」

 

そこに、佐原君たちが戻ってきた。佐原君は勝ったみたいだ。ということは、成績から察すると……

 

「……悪い、星野。それに森宮。今回は負けた」

 

「結果オーライっスよ。俺たちは勝ったんス」

 

「そうだよ。次は頑張ろう……ね?」

 

ちらりと、森宮さんの方を見る。小沢君だけじゃない。これは、森宮さんへのメッセージでもある。

 

「さーて、いつまでもここにいたら邪魔っスから、早く移動す……ん?」

 

佐原君の動きが止まる。その視線は、ある一点に集中していた。それは、起動状態のMFS。けど、そこには懐かしい人物がいて……

 

「……!」

 

「えっ、あれって……」

 

「確か、桜川リンっスよね?出場してたんスか?」

 

まさかの人物だ。再会を喜ぶのも束の間、私たちはその盤面に釘付けになる。実際は、MFSの映像を見てのことだが。

 

「やっぱり、俺以外にも使い手はいるもんスね……リンクジョーカー……」

 

「いや、佐原だけのクランじゃないからな?」

 

ヴァンガードの周りに浮かぶ黒輪……ロックによるものだ。それができるクランは、リンクジョーカー以外に存在しない。

 

「桜川さん……苦戦してるね」

 

「みたいっスね。しかも桜川リンのチームは、既に1敗している……」

 

1台のMFSは動いておらず、少し離れた場所でリンのチームのメンバーらしい人物が泣き崩れている。

一方、対戦相手のチームのメンバーの姿はない。いるのは、ファイトしている2人だけだ。まさかとは思うが、仲間のファイトを応援することなくどこかに行ったのか。

 

「チームのメンバーが1人足りないが……まだ試合終わってないのに、どこ行ったんだ?」

 

「残された仲間の応援なんて、する気がないんスかね?」

 

「私も思った……。チームの人のこと、どうでもいいみたいで……ちょっと嫌だな」

 

少なくとも、今の時点で感じたのは悪い印象だった。今の時点では。

 

「ふふ……もう終わりだ。リアガードのインフィニットゼロでアタック!」

 

「く……手札が!」

 

「さぁ、沈め!そして思い知れ!お前の努力が、どんなに無駄なものだったかをな!!」

 

「…………!」

 

インフィニットゼロが、桜川さんとは違うファイターのヴァンガードにダメージを与える。これで6ダメージだったようで、MFSの映像が消えていく。

 

けど、私はそれよりも、彼の発言に憤りを感じていた。これはカードゲーム。あくまでもホビー、勝負事とは言え楽しんでするものだ。

それなのに、今の言葉は何?相手を見下し、楽しさとはかけ離れた言葉だ。こんなの、言われた方は不快感しかない。全然楽しくない。はっきり言って迷惑だ。

 

「ダメージは……くそっ!悪い、リンさん……こんな奴らに……!」

 

「ふん、何だよこの程度か。まぁいい、これで2勝。俺たちの勝ちか……大したことないな」

 

終わってからも相手の実力を過小評価する……。私の中で、彼らのチームに対する印象は悪いものから最悪なものになった。

 

「じゃあ俺たちはこれで。……おい!その女とのファイト切り上げろ!もう勝ったし、用はねぇ。行くぞ」

 

「了解、リーダー。ではな」

 

「なっ……ちょっと待ちなさい!まだ勝負は終わっていませんのよ!?」

 

おもむろにデッキに手をかけ、リンの対戦相手は立ち去ろうとする。さすがに行き過ぎた行為に、審判が制止に入る。

 

「ちょっと君!結果が出たとは言っても、ファイトを放棄するのを認めるわけにはいかないですよ!」

 

「…………ふん」

 

ため息まじりに審判を見る彼の目は、冷たいものだった。

 

「るせぇなぁ!ただ突っ立ってるだけのくせに、いちいち口挟むんじゃねぇよ!黙ってろ!」

 

「な!?何て口の聞き方だ……このまま暴言を続けると、ペナルティを受けてもらうことになりますよ!」

 

そこに、先ほどリーダーと呼ばれた柄の悪そうな男が乱入。審判と言い争いを始めてしまった。

端から見ている私は、重なる行為に苛立ちを隠せない。多分みんなも、同じ事を思っているはずだ。対戦相手が知っている人と言うのも、怒りを増長したのかもしれない。

 

「……さっきから待ちなさいと言ってるのが、聞こえませんか!」

 

「……あぁ?」

 

そんな中、声を上げたのは桜川さんだった。その声に反応したのは、リーダーの男。

 

「まだファイトは終わってませんわ。始めたファイトを途中で終わらせるつもりですの?」

 

「知るか。早く片付けろ」

 

「だから、君!」

 

「……私に負けるのが怖いのかしら?」

 

「何……?」

 

桜川さん……明らかに相手を挑発している。それは、相手を馬鹿にするためじゃない。わざと怒らせてまで、ファイトを続けようという意志の表れだった。

 

「チームとしての勝敗はついてんだ。このファイトには何の意味もない。やるだけ無駄なんだよ」

 

「……あなたたちには意味はないでしょう。ですが、私にはこのファイトを続けることに意味がありますわ!勝ち負けじゃない……大きな意味が!」

 

負けてばかりはいられないという意志。不甲斐ない結果に対する憤り。無念をぶつけ、せめて一矢報いたいという想いがこもっている。ここで引き下がるつもりは、桜川さんにはない。

 

「……そこまで言うなら仕方ねぇ、相手してやれ」

 

「いいのか?」

 

「せっかく無駄なファイトをしないように気を遣ってやったのに、人の親切を平然と切り捨てる奴だ。徹底的に潰せ。いいな?」

 

「ふっ……了解。そういうことだから、ファイトは続けてやろう。どうなっても知らないがな」

 

リンの強い説得により、何とかファイトの中断だけは免れた。ここからは、意地を突き通すファイトだ。

 

「どうもこうも、勝つつもりしかありませんわ。チームのために、1勝だけでも結果を残したいのですわ」

 

「ほう?」

 

「それに……」

 

桜川さんは、ちらりと私たちを見る。いや、正確には……森宮さんか。

 

「負けられない理由ができましたのよ。リサの前で……格好悪いところは見せられない!」

 

「……言ってろ。お前のターンだ」

 

「ええ。私のターン!スタンドアンドドロー!」

 

MFSの舞台は海中。桜川さんの使うグランブルーを意識してのことなのかもしれない。

 

桜川さんの盤面には、2枚のロックカードがある。左前列と中央後列だ。このターン、ヴァンガードと右列しか行動ができないことになる。

 

だが、空いているリアガードサークルでもできることがある。

 

「細波のバンシー(6000)を左後列にコール!スキルでルイン・シェイドにパワープラス2000!(11000)」

 

ロックカードの影響で、このターン左後列は使い物にならない。が、このようにユニットのコールは可能だ。スキルを駆使し、ユニットにパワーを与えることもできる。

 

「もう1体、細波のバンシー(6000)を左後列にコール!元いたバンシーは退却して、今度はスキルで氷獄の死霊術師 コキュートスのパワーをプラス2000ですわ!(12000)」

 

「どれだけパワーを上げたところで、俺は倒せないぞ」

 

「言ってなさい。ルイン・シェイドの後ろに伊達男 ロマリオ(8000)をコール!コキュートスで、シュバルツシルトにアタック!」

 

コキュートスが怨霊を飛ばし、シュバルツシルトに狙いを定める。が、コキュートスの本領はここからだ。

 

「さぁ……!限界を超えますわ!リミットブレイク!!アタックした時、パワープラス5000!(17000)」

 

「その程度……星輝兵 ステラガレージでガード。グラヴィティコラプス・ドラゴンでインターセプトだ」

 

「まだですわ!ツインドライブ!1枚目、スピリットイクシード。2枚目、ナイトスピリット。クリティカルトリガーですわ!効果は全てルイン・シェイドへ!(16000 ☆2)」

 

放った怨霊は2体のガーディアンに弾かれて届かない。だが、後続のルイン・シェイドのパワーは十分だ。

 

「ロマリオのブースト、ルイン・シェイドでアタック!ルイン・シェイドのスキルで、デッキの上2枚をドロップ!パワープラス2000!これで決めますわ!(26000 ☆2)」

 

相手の手札は3枚。インターセプトはもういない。このまま桜川さんのアタックが決まる。そう思ったけど……

 

「甘いな。障壁の星輝兵 プロメチウム。完全ガードだ」

 

「……っ!ターン、エンドですわ……」

 

完全ガードを隠し持たれていた。高パワーのアタックは、いとも容易く防がれる。

 

桜川さんの手札は、ドライブチェックで得た2枚を含めて3枚。ロックが解かれたため、左右のインターセプトも使える。次のターンをしのぎ、反撃するだけの余力は残されている。が、

 

「そろそろ終わりにしようか。俺のターン、スタンドアンドドロー。飛翔の星輝兵 クリプトン(10000)をコールし、シュバルツシルトのリミットブレイク」

 

「ここで!?」

 

「CB3、そして……手札からシュバルツシルトを捨てることで、相手のリアガードを3体ロックする」

 

前列の2体とヴァンガードの後ろのリアガードの動きを封じた。V字になるようにロックされ、桜川さんは次のターン、ヴァンガードでしか行動できなくなる。

 

「さらにロック後、シュバルツシルトにパワープラス10000、クリティカルプラス1する。(21000 ☆2) そのままシュバルツシルトでアタックだ」

 

前列がどちらも使えなくなったことで、インターセプトが無力化された。残りの手札では、クリプトンの追撃を考えると、防ぐことができない……。

 

「ノーガード……ですわ」

 

桜川さんの6枚目のダメージは、サムライスピリット。トリガーではなかった。

 

「だから言っただろう。俺は倒せないとな」

 

コキュートスの姿が消滅し、急に静けさが高まる。言葉が出せない雰囲気の中、桜川さんの対戦相手はデッキを片付け出す。

 

「……5回戦勝利チームは━━」

 

「そんなの要らねぇよ!もう行ってもいいんだな?」

 

「……わかりましたよ。行きなさい」

 

審判も呆れて何も言えないのだろう。注意する気もなく、去っていく2人を無視する。

 

実力は3対0で圧勝していることから明らかだったが、人となりには問題が山ほどあった。

 

「リンさん……」

 

「……私たちは全力を尽くしましたわ。それだけは、誇りに思いなさい」

 

ここまで共に戦ってくれたチームメイトに称賛の言葉を送る桜川さんだったが、悔しさを洩らさないためか、下を向いている。その様子を見かねたのか、森宮さんが動いた。

 

「……リン」

 

「リサ……格好悪いところを見せてしまいましたわね……」

 

顔を上げた桜川さんの目には涙が滲んでいた。森宮さんの姿を見て、抑えきれないように頬を流れ出す。

 

「リサとの約束……守れませんでしたわ……!リベンジの、約束……!」

 

「リン……!」

 

森宮さんの胸に顔を埋めて泣き出す桜川さん。悲痛な声が、その場に残り続けた。


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