今回から、とうとう秋予選が終わりに向かい始めます。と言うか、今確認したら秋予選始めてから1年近く経とうとしていましたよ……。長い。話覚えている人いるのかな?いや、それ以前に見てくれている人がいるのかも不安。
ネガティブ思考になりましたが、本編始まります。
チーム破滅の翼をストレートで下した私たちは、次の試合に向けて備えていた。これまで以上に闘志をみなぎらせ、デッキの確認を行っている。
「とうとうここまで来たな、みんな」
「うん。これで次は……」
「Aブロックの決勝戦。それに勝てば、Bブロックを勝ち上がったチームとの決勝戦。そのファイトで……全てが決まる」
「おお!もうそんなところまで来ていたんスね!燃えてきたっス!!」
佐原君の言うとおり。後2勝で、目標の全国大会に向かうことができる。
「Bブロックを勝ち上がるチームは、まずあいつらだよな……」
「あの時の……ノスタルジアの1人ね」
現在の追憶、レゼンタ。ユニットとのつながりの力、アクセルリンクを持ち、互いのデッキを見通すことができる。
私も同じ力を持ち、ノスタルジア……未来の追憶、ロメリアと呼ばれているらしい。でも、私の力だけ変化していたり、謎の部分が多い。
「うっかり負けてくれないっスかね?」
「ないだろ」
「絶対ね」
「佐原君も、サンシャインでのファイト見てたよね?」
「何なんスか!ちょっとくらい期待してもいいじゃないっスか!」
可能性としては、チームメイトが負けて敗退……なんてシナリオが思いつく。でも、最上君のチームメイトだ。そんなことはなさそう。
「となると、問題は次の決勝戦でどんなチームとファイトするかっスよね……」
「さっきみたいな奴らはごめんだぞ」
「多分、大丈夫。きっと、私たちの相手は━━」
「シオリ〜!」
言いかけて、まさに私が話そうとしていた人物が私を呼ぶ。月城ミズキだ。
「ミズキ!……あれ、1人?」
「うん。2人は飲み物買いに行ってね。ところでどう?まだ……残ってる?」
「大丈夫。私たちは勝ち残ってる。次はAブロックの決勝戦」
「……そっか。ふふっ」
「ミズキ?」
話の流れから考えても、別に笑う場面じゃない。気になって尋ねてみると、
「ごめん、シオリ。つい……嬉しくて」
「嬉しい……ってことは、決勝戦の相手、やっぱりミズキが……!」
「そうだよ。シオリの相手は……私」
そうだろうと思っていた。いつかはファイトすることになると。だって……。
「約束したから。シオリと、この舞台でファイトするんだって」
「忘れてないよ。もう少しで、ファイトできる」
ナオヤさんのイベントの帰り道で交わした約束。グランドマスターカップで、必ずファイトすると。リベンジしてみせると。
ただのファイトとは違う。このような場所で、互いに全力を出してファイトする。心踊らないわけがない。ミズキもそうだろうし、私だってそうだ。
「全力で行くから。最高のファイトにしようね」
「わかってる。ミズキとのファイト、絶対に負けないから」
拳を合わせて、健闘を誓い合う。待ち望んでいたファイトが、すぐそこまで迫っている。
「じゃあまた後でね。シオリ」
「うん。決勝戦の舞台で会おう」
ミズキは元来た道を引き返していった。チームのところに戻ったのだろう。
「そうだったな……。肝心の相手と戦ってなかったな」
「でも、ここまで勝ち残ったと言うことは……」
「強敵には間違いないっスね」
きっとそうだ。簡単には勝てない相手。でも、私の心は今、興奮でいっぱいだった。
***
「どこ行ってたんだよ、ミズキ!飲み物買って戻ったらいないし、探してたんだぞ!?」
私が戻ると、既に二人は飲み物を手にしてその場にいた。柳田さんが私にオレンジジュースを手渡す横で、ユウトが私に注意する。迷子じゃないんだから……。
「ご、ごめんユウト。さっきシオリに会ってね」
「シオリちゃんと?」
「勝ってた。次の相手は……シオリたちだよ」
それを聞いたユウトは、驚きと喜びでテンションが上がっているようだった。
「……なぁ、月城」
「何ですか?」
「俺は、あいつらのことについてはほとんど知らない。月城や平本は仲が良いようだが……どんな奴らなんだ?」
「どんな奴って言われても……いきなりですね」
「星野シオリと小沢ワタルは、お前たちが相手をする。だが、そうなると俺は残り2人のどちらかを相手にすることになる。少しでも相手の情報を知り、ファイトの役に立てばいいと思ったんだが……」
「柳田さん……」
柳田さんは、特に昔からの知り合いだったわけじゃない。私やユウトがお世話になっているショップの実力者だった。
つまり……チームに入るまでは少し顔を合わせる程度の他人。私は、そんな柳田さんをチームに引き入れた。
誘ったときは困惑していた。どうして俺なんだ?そう私に尋ねていた。向こうも私のことは、多分知らなかったわけだし。
まぁ、本人は承諾してくれたし、仲良くやれている。無愛想で、会話もすぐに途切れるし、あまり何考えてるかわからないから、実際のところは柳田さんにとってはどうかはわからない。
でも……彼はね。見ていて辛かったんだ。だから、どうにかしたかった。
数年前に、行方不明になった友人に似ていたから。
「……優しいです。柳田さんは」
「は?」
「私たちに気を遣ってくれたんですよね?」
「気を遣うも何も……あの2人とファイトするのは、たちだと決めていたはずだ。ただそれだけのことだ」
「……そうですか」
素直じゃないな……。私は、思わず笑いが漏れる。
「どうして笑うんだ?」
「何でもないですよ」
「いや、はぐらかさないでほしいんだが。そういうの、俺にはダメージが大きい……」
「大丈夫ですよ、柳田さん!ミズキはどうせ、素直じゃないな……とか思っただけなんですから!」
「え、ちょっとユウト!?///」
何で言っちゃうの!?付き合い長いから、私の考えてることはわかるかもしれないけど!
「とにかく、次はワタルたちとのファイト。ミズキ、柳田さん。あいつらにガツンと、俺たちの力を見せつけてやりましょう!」
「わかってるよ。そのために、ここまで来たんだから」
「当たり前だ。お前たちの足手まといにはならないからな」
2人とも、闘志は有り余っている。私はもちろん、シオリとファイトできるだけでウズウズしている。
「早速だが、情報を教えてくれ。使うクラン、切り札、戦術……何でも構わない」
「わかりました。まずは、森宮リサさん。彼女はアクアフォースを使っていて……」
チームを組んだ当初は、この3人でやっていけるかどうか不安だった。けど、今の私たちの想いは1つ。
シオリたちに勝つ。このチームで……必ず!
***
ミズキと別れた後、私は空きスペースでデッキの調整を行っていた。ミズキとのファイトに向けて集中したかったこともあって、私1人だ。
「これで……大丈夫かな」
50枚のカードをまとめ、私はデッキケースにしまう。一番上にきていたアルフレッドのカードと、目があった気がした。
「行けるよね……みんな」
「ユニットに話しかけてるのか?頭がおかしくなったか?」
その声……聞き覚えがある。
「最上君……」
「あの時以来だな、ロメリア。いや……星野シオリだったか。これからは星野と呼んだ方がいいか」
そうだね。できれば、ロメリア呼びはやめてほしいかな……。自覚ないし。
「何気に今日会うの初めてだよね?」
「確かにな。だが、どこかで会えるとは思っていたぞ。ロメ……星野」
それは、私が勝ち残ることを信じていたってこと?一応、評価してはくれているんだね……。
「で、ここで何をしていた?やはり、頭がおかしくなったか?」
「……ユニットの声が聞こえるおかしな力を持ってるのに、よく言うよ」
「それを言うなら、星野もだろう?」
そうだけどさ……。でも、頭がおかしいわけじゃないからね!?
「……次の決勝戦に向けて、デッキを確認していたんだよ。前にこの舞台でファイトする約束をしていたからね。気合い入っちゃって」
「そういうことか。チームメイトの姿が見えないと思っていたから、1人で飛び出してきたのかと疑ったぞ」
「そんなわけないでしょ……。心配してくれたの?」
「まさか。あんたがいなくなれば、優勝への障害が1つ無くなってくれるのだから」
真っ向から否定しなくてもいいのに。
「それに……もしそんなことがあっても、俺にはどうすることもできないからな。悩みを聞いてやることもできないし、解決なんてもっての他だ。……自分のことですら、何もできなかったからな」
「最上、君……?」
私はその言葉の裏に何かを感じた。妙な違和感。最上君の内にある、絶望の一端に触れたような……。
「そういえば……ちょうどいい。星野に話しておくことがあった」
「何かな?」
「俺が凉野マサミに会うために、この秋予選に参加したことは覚えているか?」
「うん。覚えているよ」
アクセルリンクについて知るために、興味本位で接触するって話だったけど……。
「運良くコンタクトが取れた。予選が終わったら、部屋に来るように話をつけることができた」
「えっ!?そうなの!?」
私の知らないところで、何してるのさ……最上君。
「お前も来るか?凉野マサミに会うために。あいつには、力のことについても聞きたいことがあるだろう」
「いいの?私がついていっても」
「……ふっ、冗談だ。真に受けるな」
あれ。最上君って、こんなこと言う人だっけ?
「だが……星野が本気で凉野マサミに会いたいなら、予選が終わったら俺のところに来い。場所は知っているから、一緒に向かうとしよう」
「え、何で知ってるの」
「……潜入調査の賜物だと言っておこう」
本当に嗅ぎ回ってたんだ……。
「とにかく、そういうことだ。俺は行く。チームメイトが待っているからな。それに……」
私のバックルが緑に光る。ファイトの召集を告げるサインだ。
「……わかった。その話、考えておくよ」
「あぁ。答えは、ぜひ決勝の舞台で聞きたいものだな」
私は最上君との話を切り上げ、ホールへと走る。その先にある、友とのファイトのために……。
***
「おっ、来たっスよ!」
「シオリさん!こっちよ!」
興奮しながら私がホールの中に入ると、既にみんなは来ていた。
「集中できたか?」
「大丈夫だよ、小沢君。負ける気なんて全然しない」
「そうか。俺もさっきまで1人にしてもらってな。ユウトとのファイトをイメージしてた」
相手は平本さんだからね。前にファイトしているのを見たときも、かなり手強かった。
そんなミズキたちは、私たちの向かい側に立ってこっちを見ている。話をするには遠すぎるが、今更そんなことは必要ない。
ここから先は、ただ1つ。ミズキとのファイトに勝つだけだ。
「やるぞ、星野。今日も勝つぞ!」
「うん!」
迎え撃つ準備は万端。いや、迎え撃つのはミズキの方か?どっちでもいいか。
『大変お待たせいたしました!これより、各ブロックの決勝戦を始めます!』
この試合からは、各試合ごとにアナウンスが入るみたいだ。客席からも歓声が上がり、会場のボルテージは上昇する。
「まずはAブロックの決勝戦、チームエレメンタルメモリー対チーム祝福の星の試合を始めます!」
私たちにライトが当てられ、より歓声の大きさが増す。ミズキを見ると、今か今かとウズウズしているみたいだった。
『それでは、各チームは代表者を決定し、MFSを起動させてください!』
ミズキたちは3人チームだから、代表者を決めるのは私たちだけだ。でも、私と小沢君はファイトするから、残り1枠を決めることになる。
「どうするっスか?俺かリサさん、どっちが出るっスか?」
「そうね……。シオリさんたちなら問題ないと思うけど、向こうはリベンジに燃えてる。万が一もあるわ。だから、トウジが出なさい」
「俺の実力を買ってくれてるってことっスか?」
「白々しいわよ。中学の時からの付き合いなのよ?あんたの強さくらい、痛いほどわかるわ」
「了解。じゃあ行くっスか、二人とも」
佐原君だったら、確かに安心だろう。実際、ここまで1度も負けていない。圧倒的な勝率だ。
問題は私たち。勝つ気ではいるし、前のファイトも勝っている。けど、どれだけ力をつけているかわからない。油断すれば、足元をすくうことになる。
でも、私だって前と同じじゃない。デッキだって強化しているし、ファイトの実力もつけてきた。
私は、MFSの前に立ち、起動させる。変形し、ファイトテーブルになる。そこに向き合う相手は、当然……
「ついにこの時が来たね、シオリ」
「そうだね……ミズキ」
他の人なんてありえない。宿命づけられたようにふさわしい相手。
「待ってたぜ、ワタル!この時をな!!」
「俺もだ。全力で行く!」
「柳田さん……だったっスか。俺らは俺らで、全力でファイトするっスよ」
「当然だ。だが……月城や平本のため、勝たせてもらう!」
他のメンバーも、それぞれ火花を散らし合う。その様子に観客も盛り上がり、ホール内の熱気はさらに増す。
「……あの時」
「ん?」
「また戦おうって言ってくれたこと、嬉しかった。まさか、こんなところでの再戦になるとは思ってなかったけど……」
「私もだよ。でも、それ以上にファイトできることが……嬉しい!」
ファーストヴァンガードを伏せ、手札を引く。他のみんなも、準備は整っているみたいだ。
後は、始まりを待つだけ。そして、ついにその時が……!
『それでは、Aブロック決勝戦を始めてください!』
「「「「「「スタンドアップ!「ゴー!」「ザ!」ヴァンガード!!」」」」」」