さて、今回はミズキたちのチームの第三のメンバー、柳田ケンゴのファイトです。対するはトウジですが、今回はあまりファイトはしていないかも。
メインとなるのは、ケンゴとミズキの馴れ初めの話。なぜチームに入ることになったのか、注目していただけると嬉しいです。
「「スタンドアップ！ヴァンガード！！」」
舞台は地下に作られた巨大な空間。植物を育てたりするエネルギーを蓄える管が、壁の至るところに埋め込まれている。
「俺は、星輝兵 ダストテイル・ユニコーン！(5000)」
「菜の花の銃士 キーラ！(4000)」
銃士を使う……ネオネクタールっスか。ちょっと意外なチョイスに見えるっスね。もっとダークイレギュラーズとか、そんな恐ろしいクランを使うイメージがあったのに。
けど、実力者であることは間違いないはず。このファイト、楽しませてもらうっスよ！
「俺のターンからっス！ドロー、魔爪の星輝兵 ランタン(7000)にライド！ダストテイルは後ろへ。ターンエンド！」
ランタンが紫のオーラを腕で振り払って現れる。ダストテイルはそのオーラから逃れるように後退した。
「俺のターン。ドロー。鈴蘭の銃士 レベッカ(7000)にライド！キーラは右後ろだ」
緑のサークルの光がキーラを包み、細剣を構えたレベッカに変化する。キーラは離れたところで手を振っていた。
「レベッカでアタック！(7000)」
「通すっス。チェックどうぞ」
「チェック……鈴蘭の銃士 カイヴァント。トリガーはなしだ」
トウジとケンゴのファイト。リンクジョーカーを使うトウジに対して、ケンゴはネオネクタール……銃士の名称デッキを使う。ユニットを連続して呼び出すことに長け、リンクジョーカーとはあまり相性はよくないとも言える。
が、気を抜くとそこを狙われる。当然、トウジもそのことは頭に叩き込んでファイトは行っている。慢心はしていない。
「ダメージは……げっ、星輝兵 ヴァイス・ソルダード。無駄にトリガー引いたっス……」
「ターンエンドだ」
トウジ：ダメージ1 ケンゴ：ダメージ0
「俺のターン、ドロー！凶爪の星輝兵 ニオブ(9000)にライド！続けて、黒門を開く者(7000)をコール！スキルで相手のリアガードが2体以下なら、手札1枚を捨ててドロー！」
黒門が地下空間の一部に出現し、そこからカード状の物が一瞬見えた。
「うし、黒門でレベッカにアタック！(7000)」
「四葉のフェアリーでガード」
レベッカの前に立つフェアリーを遠慮なく手刀で黙らせる黒門を開く者は、その勢いのままレベッカに蹴りを入れる。だが、レベッカは細剣で攻撃をかわし、一度離れる。
「次、ダストテイルのブースト、ニオブでアタック！(14000)」
「ノーガードだ」
「ドライブチェック、魔弾の星輝兵 ネオン」
「ダメージチェック、タンポポの銃士 ミルッカだ」
後ろに下がったレベッカをダストテイルが尾で縛り上げる。そしてニオブが、動けないレベッカを八つ裂きにする。
「ターンエンドっス」
トウジ：ダメージ1 ケンゴ：ダメージ1
「俺のターン、スタンドアンドドロー。……佐原トウジ、月城からお前のことを聞いた。相当な手練れらしいな」
「手練れだなんてそんな～。褒めたところで、手を抜くつもりはないっスよ？」
「そんなことは百も承知だ。それに、いくら強敵だろうと、勝つのは俺だ」
「へぇ、あんたもあの2人に負けず劣らず、燃えてるじゃないっスか」
「俺には負けられない理由がある。月城たちには、恩があるからな」
恩……？かなり大層な言葉が飛び出してきたっスね？
「ライド！鈴蘭の銃士 カイヴァント！(9000)」
こいつは……来るっスね。
「行くぞ。カイヴァントのスキル！CB1、銃士ユニットであるキーラを退却させ、山札の上から4枚見て、桜の銃士 アウグスト(9000)をスペリオルコール！」
キーラが草木に包まれて、そこから一輪の花が芽生える。開いた花の中から飛び出してきたのは、キーラとは違う銃士のユニット、アウグストだった。
早速来たっスね……。銃士デッキの特徴である、銃士を退却させて新たなユニットを呼び出す戦法が。
リアガードが少ない状況からでも戦力を整えることができるため、比較的攻撃力には自信があるのが特徴だ。
「続けてアイリスナイト(10000)、タンポポの銃士 ミルッカ(6000)をコール。アウグストで、黒門をアタック！銃士を含むヴァンガードがいることで、パワープラス3000！(12000)」
「ノーガードっス」
お返しとばかりに黒門を切りつけて敵をとる。黒門は粒子となって退却し、ドロップゾーンに移動した。
「カイヴァントでニオブへ！(9000)」
「おっと、そっちは星輝兵 ステラガレージでガード！」
「ドライブチェック、睡蓮の銃士 ルースだ」
カイヴァントもアウグストに続くが、ステラガレージが剣を防ぐ。
「ミルッカのブースト、アイリスナイトでアタック！ミルッカのスキル。このターン中に山札がシャッフルされているなら、パワープラス3000！(19000)」
「ここは、ノーガードっスかね。ダメージは……無双の星輝兵 ラドン」
「ターンエンドだ」
トウジ：ダメージ2 ケンゴ：ダメージ1(裏1)
「俺のターン、スタンドアンドドロー！」
さすがっス。ここまで来ているだけあって、腕は確かみたいだ。けど、それくらいのファイトのほうが、俺にとっては燃えてくるんスよね。
「光を砕く闇の輝き、希望をかき消す龍の勝鬨！ライド！星輝兵 ネビュラロード・ドラゴン！！(11000)」
ニオブがサークルに包まれ、黒い光が放たれる。その光は地下空間の天井を破壊し、そこから漆黒の龍、ネビュラロード・ドラゴンが現れた。
本当はインフィニットゼロからのブレイクライドがよかったんスけど、まぁ仕方ないっスね。こういうこともある。
「星輝兵 メビウスブレス・ドラゴン(9000)と、魔弾の星輝兵 ネオン(7000)をコール！メビウスブレスで、アウグストにアタック！(9000)」
「アイリスナイトでインターセプト」
メビウスブレスのブレスを、アイリスナイトが剣ではじく。だが、2発目は避けることができずに、命中してしまう。
「ダストテイルのブースト、ネビュラロードでアタック！(16000)」
「ノーガード」
「ツインドライブ！1枚目、星輝兵 インフィニットゼロ・ドラゴン。2枚目、星輝兵 メテオライガー。クリティカルトリガーっス！パワーはネオン(12000)、クリティカルはネビュラロードへ！(16000 ☆2)」
あ～！？マジっスか！？今になってインフィニットゼロ・ドラゴンが！？もう少し早く来てほしかったっスよ……。
「ダメージチェック、1枚目、メイデン・オブ・トレイリングローズ。2枚目、鈴蘭の銃士 カイヴァント。どちらもトリガーなしだ」
「ネオンでカイヴァントにアタック！スキルで、星輝兵のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000！(15000)」
「ノーガード。ダメージは……ダンガン・マロン。クリティカルトリガーか。一応効果をカイヴァントへ」
「よっし！ターンエンドっス！」
トウジ：ダメージ2 ケンゴ：ダメージ4(裏1)
「俺のターン、スタンドアンドドロー。……ふっ」
「どうしたんスか？テンション上がってきたんスか？」
「いや……そうではないんだ」
やはり、月城から聞いた通り、かなりの実力を持っているようだ。トリガー運も申し分ない。
(……それにしても)
まさか、俺がチームの一員としてグランドマスターカップに参加するとはな。あの時の俺からは想像もつかなかったことだ。しかも、予選とはいえ、決勝の舞台だ。
いざ立ってみても、ひどく場違いな気がしてならない。すぐにでも立ち去った方がいいかもしれないと思うほどに。
だが……それはできない。俺は報いなくてはいけない。こんな俺でも頼りになると……力を貸してほしいと言ってくれた、あいつのために。
＊＊＊
俺は昔から1人だった。人づきあいはいい方だったが、周りはどこか俺に遠慮していて、とても友達のような関係にはなれていなかった。
原因は自分でも何となくわかっている。どこか冷めた雰囲気を醸し出し、人とのコミュニケーションを上手く取れない。だからこそ、時折不愛想になってしまう。周りを気まずくさせてしまう。
そんな自分に嫌気がさして、俺は1人を選んだ。俺と一緒にいても、何も楽しくない。嬉しくない。そうやって自分を閉じ込めているうちに、いつしか1人でいることが苦痛ではなくなってしまった。諦めてしまった。
他人と一緒に仲良くしたいと思う反面、1人でいることに慣れすぎた。俺は、1人の時間を大切にするようになってしまった。俺は、誰かを傷つけるだけだ。一緒にいても、気の利いたことを話すこともできない。
そんな時だ。俺がヴァンガードと出会ったのは。
最初はただ試しにやってみようという興味本位だった。クラスの奴らが話しているのを聞いて、俺もやってみようと思ったのがきっかけだった。
だが……今思えば俺は、世間でも注目を集めていたヴァンガードに、何かを期待していたのかもしれない。
俺はヴァンガードの魅力にのめりこんだ。ただのお試しのはずが、思いのほかハマってしまうことになる。その時初めて買ったブースターで引き当てたユニットが、俺がネオネクタールを使うきっかけになっている。
それからの俺は、よくショップに足を運んだ。カードを集め、ショップ大会にも出場した。フリーファイトを挑まれた時は、とにかくうれしかった。
ネオネクタールが俺に合っていたのか、俺の上達が早かったのはわからないが、ショップ大会で優勝することも多かった。
……だが、それだけだった。結局、俺は1人でヴァンガードをしていた。ただショップでファイトして、勝つだけ。
そこには楽しさこそあるものの、それを周りと共有することはない。楽しさを分かち合える、仲間と呼べるほどの関係は……俺にはなかった。
「柳田さんって、グランドマスターカップには参加しないんですか？」
「グランド……あぁ、あの大会のことか」
ファイトをしている時に、グランドマスターカップのことはよく話題になった。当然俺は知っていたし、話題に何度もなるため、嫌でも覚えている。
「柳田さんなら、いい線行くと思うんですけど。どうなんですか？」
「悪いが……そんな気はないな。チームメイトもいないし、チームに誘われたところで、俺は断るつもりだからな」
こんな俺がチームに入っても、役に立てるとは到底思えなかった。何より、チームメイトとの交流を上手くできるイメージが湧かない。
「そうですか……。いいと思うんだけどな」
「……そちらのドライブチェック、まだ1回分残ってるぞ」
「あっ、そうだ。2枚目……と」
1人の世界で楽しんでいるような人間だ。そんな俺を快く受け入れてくれる奴なんていない。
だが……ヴァンガードを続けているうちに、仲間と呼べる人ができるだろうと勝手な考えを持っていた。自己の否定と肯定の渇望。矛盾した感情を抱きながら、俺は毎日を過ごしていた。
受け身の態度で、仲間はできない。変化はない。わかっている。だが、いつも何かにすがるようにショップに足を運び、時間だけが過ぎていった。
そんなある日のことだ。俺に変化が訪れたのは。
「あの……ちょっといいですか？」
いつものようにショップに向かい、テーブルに適当に腰を下ろすと、すぐに1人の少女に声をかけられる。歳は……俺よりも低いか？
「……柳田ケンゴさん、ですよね？」
「何だ？ファイトでもするか？」
「あ……そうですね。本当は、少し話があったんですけど……わかりました。話は、ファイトしながらという事でお願いします」
俺に話が？と言うより、俺はこいつのことを知らない。俺の名前を知っていると言うことは、きっとこのショップに通っている奴だろうが……ここには来たばかりか？
「ファイトについては問題ないが、話とは何だ？俺はあんたとは初対面だろう」
「確かにそうですね。でも、柳田さんのことは拝見してました。ショップ大会での活躍、素晴らしいです」
ショップ大会が原因だったのか。だが、やはりこいつのことは見たことが……。
「それに、私も一度柳田さんとはファイトしてるんですよ？確か、2週間前のショップ大会の時……だったと思います」
「なっ、何だと……」
初対面ではなかったのか！？俺は全く記憶にないのだが……。
「悪い……。会った人のことを忘れてしまうとは」
「大丈夫ですよ。私もどちらかと言うと大人しいですから、記憶に残らないかもしれませんね」
何だか……申し訳ないことをしたな……。
「話については心配しなくてもいいですよ。ちょっとしたお願いを聞いてほしいんです」
「お願いだと？」
「あ、でも大丈夫です。理不尽な要求はしません。それに……柳田さんに頼みたいことなので」
俺に頼むことだと？他の奴でもなく、名指しで？
「じゃあ、始めましょうか」
「……あぁ」
「「スタンドアップ！ヴァンガード！！」」
互いにターンを重ね、ファイトを進めていく。この少女、なかなか腕がいい。一進一退の攻防が続く中、先ほどの願いについて話し出す。
「やっぱり強いですね。何度も優勝するだけのことはあります」
「あんたもやるな。優勝者に名前を連ねていてもおかしくない」
「……そんな柳田さんの強さを見込んで、お願いがあります」
声のトーンが下がり、より一層真剣さが増す。しばしファイトのことを忘れ、こちらの話に集中する。
「柳田さん。あなたに……私たちのチームに入ってほしいんです」
「チーム……なるほど。グランドマスターカップのメンバー集めか」
図星だったようで、少女はコクリと頷く。
「後1人、メンバーが必要なんです。柳田さんの力が、私たちには必要なんです」
「断る。悪いが、俺はチームに入るつもりはない」
必死さは伝わってきたが、俺は承諾しない。なぜなら……。
「どうしてですか？」
「メンバーだけなら、俺よりもふさわしい奴がいる。ただ実力だけで俺を見出だすな。きっと後悔するぞ」
それとも、俺のことは駒でしかないか？だとしても、俺は駒以下だ。周りと仲良くなれない奴に、チームが務まるわけがない。
「あんたこそ、何故だ？グランドマスターカップに参加するなら、それなりの理由があるはずだろう」
「……約束したんですよ。ある人と、もう1度ファイトすることを。その再戦の舞台は、グランドマスターカップしかないと思ったんです」
なかなかロマンのある約束だな。
「事情はわかった。だがそれでも、俺個人を引き入れる理由にはならないだろう？」
「……それは」
結局は自分の都合に付き合わせるだけの駒ではないか。それなら、俺じゃなくてもいい。実力もあり、チームとしての連携がとれそうな奴はいくらでもいる。
「私が納得して選んだのが、柳田さんです。このチームで一緒に戦いたいと思ったのが、柳田さんです」
「それはヴァンガードをしている俺だけを見ているからだ。……本当の俺は、遥かに頼りない」
何を言い出しているんだ。それも自分より年下かもしれない少女に。
「協力し合うのがチームだ。だが、俺は人と話すのが苦手だ。つい無愛想になる。周りはそんな俺に嫌気をさして、距離を置くようになったんだ」
情けないな。だが、こんなことを誰かに話したのは、こいつが初めてだ。
「だから俺も、距離を置いた。1人になった。その方が、他人にとっても迷惑にならない。代わりの奴なら、何人か紹介してやれる。だから、俺をチームにスカウトする話はなかったことにしてくれ」
俺の話を聞いて、こいつは何を思っているのか。俯いてしまった彼女からは、表情を伺うことができない。
そんな中、彼女は重い口を開いて答えを出す。
「……さっき言いましたよね。実力だけで見出だすなって」
「言ったな。それがどうし――」
「勘違いしないで下さいよ！私は……あなたがいいんです！！実力なんて、関係ない！！」
突然大声を出したことに、俺は驚いていた。自虐するほどの大人しさだったのだ。それがいきなり、感情を表に出すことに動揺を隠せない。
「あなたは、諦めているんですか！？自分が悪いからと、変わることから目をそらしているんですか！？」
「な、何……！？」
「そうですよね！？あなたは逃げたんです！他の誰でもない、自分から！」
こいつ……黙って言わせておけば、適当なこと言いやがって……！
「あぁ、そうだ！俺は、もう変われない！1人でいることに楽しさを見出だしてしまった！周りの目を気にしていた頃とは違う！」
「そうやって認めて、このままずっと1人でいるつもりなんですか！？」
「何とでも言え！俺は、人と仲良くことなんてできない！話をされても、すぐに気まずくなってしまう！俺だって頑張ってるさ……！でも、どうにもできないんだ！」
俺も声を張り上げていた。感情に任せて口走り、周りの目なんて気にしている余裕はなかった。
「俺は……あんたのチームに入っても迷惑になる。再戦するっていう立派な目標があるんだろ？だったら、俺にはふさわしくない。そんな大役は、俺には務まらない……」
俺じゃなくても……代わりはいくらでもいる。務まるわけがない。
なのに、どうしてだ。何であんたは……。
「……本当に、あの人に似てる」
「あんた……泣いているのか？」
心ない言葉に傷ついたのか？いや、違う。原因はもっと別のところにある。
「いつも1人で、冷たくて無愛想で。ファイトの腕は強いくせに、他人を避けて……放っておけない。そんな友達が私にはいたんです」
「いた……？」
「数年前に、彼女は海外の大会に出場するために日本を離れたことがあったんです。その時に事故に巻き込まれて……行方不明になったんです」
痛ましい話だった。こいつは、そんな別れを経験していたのか。
「あなたは、あの人に似ている。いつも1人で、寂しそうにしていて……」
「重ね合わせているのか？」
「どうでしょうか？彼女は最初、私たちにはほとんど見向きもしてくれませんでしたから。その辺りは、柳田さんの方がまだマシですよ」
俺以上に薄情な奴なのか、そいつは。それも、女の子だろ……？
「そんな彼女は、私たちと一緒にいるうちに変わっていきました。絶対に仲良くはなれないって言ってたのに」
「…………」
「だから、諦めないで下さい。私が、彼女の時みたいに力になれるなら……助けたい。変われないと、決めつけているのなら、その考えを壊したい」
決めつけている……。確かに、そうだ。俺はもう、変われないと諦めているのだから。
「協力して下さい。私には、あなたの力が。そしてあなたには、自分を変えるためのきっかけが必要なんです」
「俺が、変わるための……」
本当は、俺だって仲間がほしい。1人は辛い。だが、これでいいんだって、いつしかその辛さも押し込んできたのに。
こいつは……本当に俺のことを、助けようとしているのか？
「……最後に、1つ聞かせてくれ」
「何ですか？」
「俺で、本当にいいんだな？」
「はい。もちろんです」
迷いなく言い切るか。かえって断りづらいじゃないか……。
俺は、こいつに必要とされている。チームとしても、恐らくこいつにとっての大切な存在を映す鏡としても。
そして俺は、この孤独から抜け出したいと思っている。無理矢理選んだ1人の道から、離れる術を探している。
どれだけ誤魔化しても、こいつにはすぐに見破られたように。俺が自分から逃げたこと、そうすることでしか自分の居場所を作れなかったことに。
だとしたら、俺にできることは……1つしかないんだろうな。
「……仕方ないな。いいだろう」
「えっ、じゃあ……！」
「チームに入る。こんな俺でも……頼りにすると言ってくれた、あんたに免じて」
それを聞いた彼女は、パアッと明るい笑顔を見せる。少しドキドキしてしまい、目をそらしてしまった。
「よろしくお願いします！柳田さん！」
「あ、あぁ。ところで、名前は何だ？まだ教えてもらっていないが」
「私はミズキ。月城ミズキです。もう1人のメンバーは、別の日に紹介します」
「そうか……」
月城ミズキ。これが、彼女との出会い。俺を変えるきっかけを生んだ、張本人だ。
「あ、まだファイトが途中でしたね。続けましょうか」
「そうだったな。俺のターン、スタンドアンドドロー。俺は、このカードにライドしよう」
それは、俺にとっても馴染みのあるカード。
「いいユニットですね」
「あぁ。こいつは、俺がヴァンガードを始めた時に、最初に買ったブースターで引き当てたカードなんだ。それ以来、俺はずっとこのユニットを使っている」
「思い入れがあるんですね」
「……あぁ」
＊＊＊
あの時の月城の言葉がなかったら、今の俺はない。少しずつ、1人だった自分を変えることができている。
孤独な世界に救いの手が差しのべられ、俺は今、1人では立てなかったところに立っている。
俺を変えてくれた、月城ミズキという少女のことを……一生感謝しよう。見たことのない景色を、俺に見せてくれたのだから。
だから、次は俺が与える番だ。月城の約束を果たすことは、もうできた。だったら、その先の景色を今度は俺が見せる。
せっかくチームでここまで来たんだ。全国を目指すのも悪くないだろう？このファイトに勝つ。俺を救ってくれた月城ミズキという1人のファイターのために。
だから……力を貸してくれないか？俺がヴァンガードを始めてから、ネオネクタールを使うきっかけを生んだ、俺の切り札。
「……行くぞ。黒き未来を白く染める、純真なる花を咲かせよ！ライド！！」
カイヴァントの姿が、白い花びらに包まれる。ふわりと宙に浮きながら現れたのは、白の装飾をまとった銃士。
「白百合の銃士 セシリア！！(10000)」
ずっと切り札として使ってきたユニット……セシリア。俺の想い、お前に預ける。
「このファイト……必ず勝つ！」
「やる気十分っスね……！そういうの悪くないっスよ！」
2人のファイターの闘志を乗せて。銃士と星輝兵の戦いは、まだ続く。