ここまで来るのに2年近く……。どれだけ不定期更新だったのかがよくわかる……。ですが、ここからは巻き返して行きますよ!
少し話がそれますが、時空の先導者も見ていただいているようでありがとうございます!どちらの小説も、よろしくお願いします!
さて、今回はついにあの2人のファイト。互いに望んだファイトは、どのようなシナリオを辿るのか。
では、どうぞ。
グランドマスターカップ秋予選。そのAブロックの決勝戦が、今行われている。
私の対戦相手は……月城ミズキ。偶然の出会いだったけど……私が自分から足を踏み出して作った、ヴァンガードを再開してからの初めての友達。
ファイトして、再戦を誓い合い、気が付けばこんなところに立っている。でも、悪い気はしない。むしろ、嬉しいんだ。こんな大舞台で、全力を尽くしてファイトできるから。
それは、ミズキだって同じはずだ。再戦の舞台にこの場所を選んだのは、ミズキだから。そしてミズキは、私とファイトするためにここまで来た。
互いの想いが交わりあうファイト。その火蓋は今、切って落とされた。
「「スタンドアップ!「ザ!」ヴァンガード!!」」
舞台は満点の星空が広がる丘。決戦の舞台としては、なかなか見栄えのある場所だ。
「私は……解放者 チア―アップ・トランぺッター!(5000)」
「私は、星を射る弓 アルテミス!(4000)」
向かい合う2体のユニット。その表情は、不思議とほほ笑んでいる。私たちの気持ちが、ユニットにも伝わっているのかな?
「嬉しいよ……シオリ。やっとファイトできる!」
「うん!私だって、まさかミズキが最後まで残るなんて思ってなかったから!」
「へ~。それって私の実力が危なっかしいってこと?」
「ち、違うって!もう少し前の方でファイトするのかと思ってたんだよ!」
おかしくて、ミズキは吹き出して笑う。私も、それにつられて笑い出した。ファイトを始める前だとは思えない光景が、そこにはあった。
やがて、ひとしきり笑い終えた私たちは、改めて手札を構えなおす。そして、
「……始めよう、シオリ。私たちのファイト!」
「うん、行こう!ミズキ!!」
この嬉しさ……ファイトでぶつけよう。
「じゃあ、私のターンからだね。ドロー!天地の結弦 アルテミス(7000)にライド!ソウルに星を射る弓 アルテミスがあれば、パワーは常に8000!」
弓だけが場に残り、アルテミスが輝く。その弓をつかんだのは、同じくアルテミスの名を持つ女性。だが、さっきのアルテミスとは見た目が違っている。
「さらに星を射る弓のスキル!デッキの上から7枚見て……黄昏の狩人 アルテミスを手札に加える!ターンエンド!」
連携ライドに成功したか……。次のライド先も確保されたし、私も負けてはいられない!
「私のターン、ドロー!ばーくがる・解放者(7000)にライド!チア―アップは左後ろへ。ばーくがるの後ろに、未来の解放者 リュー(6000)をコール!」
星空の見下ろす丘にサークルが現れ、ばーくがるとリューが登場する。チア―アップは、ちょこんと正座していた。
「リューのブーストで、ばーくがるのアタック!(13000) ドライブチェック……ブラスター・ブレード・解放者」
「ダメージチェック、幸運の女神 フォルトナ」
「ターンエンド!」
シオリ:ダメージ0 ミズキ:ダメージ1
「私のターン、スタンドアンドドロー!黄昏の狩人 アルテミス(9000)にライド!ソウルに天地の結弦 アルテミスがいるので、常にパワー10000!」
待ち焦がれた時を進めるように、ミズキのターンは続いていく。
「続けて、箒の魔女 キャラウェイ(9000)と、猫の魔女 クミン(7000)をコール!クミンのスキルで、SC1!」
クミンがアルテミスの背中に手を当てると、アルテミスの体が緑に発光する。ソウルをためているのかもしれない。
ジェネシスのスキルは、ソウルを使うものが多い。これはその下準備だ。
「アルテミスでアタック!(10000)」
「猛撃の解放者でガード!」
アルテミスの弓から飛び立つ矢を、猛撃の解放者が体を張ってガードする。ヒットすればSC4。それだけは避けたかった。
「ドライブチェック、戦巫女 ククリヒメ。クリティカルトリガー!効果は全てキャラウェイへ!(14000 ☆2)」
「もうトリガーを……」
「まだまだ!クミンのブースト、キャラウェイでアタック!(21000 ☆2)」
「……防げないね。ノーガード!」
キャラウェイが箒に乗ったまま、ばーくがるにのしかかる。何とか抜け出したが、ダメージはダメージだ。
「ダメージチェック。1枚目、王道の解放者 ファロン。2枚目、円卓の解放者 アルフレッド」
「ターンエンドだよ」
シオリ:ダメージ2 ミズキ:ダメージ1
「私のターン、スタンドアンドドロー」
まだ序盤だ。ダメージ差はすぐにひっくりかえ……せ……?
「ミズキ?笑ってるの?」
「ごめん。もうずっとワクワクしててさ。私、本当に嬉しいからさ。柳田さんにも協力してもらって、ここに来られたから」
「私も嬉しいよ。だから……このファイト、今の全力をぶつける!」
私は1枚のカードを掲げる。1人の少年、そして彼との出会いがもたらした、この舞台での再戦の約束に感謝を込めて。
「ライド・ザ・ヴァンガード!勇気の光を受けて輝く、黄金の剣を掲げし戦士!ブラスター・ブレード・解放者!!(9000)」
ばーくがるが嘶き、足元にサークルが現れる。白のマントをなびかせた神聖なる剣士が、ばーくがるの姿から変化して登場する。
以前は何も言ってなかったのに、自然と私の口から出たライド口上。それは、ミズキとのファイトがもたらした変化なのかもしれない。
「コールだよ!横笛の解放者 エスクラド!(9000) リューのブースト、ブラスター・ブレードでアルテミスにアタックするよ!(15000)」
「ブラスター・ブレードのスキルを使わない……。ということは……ノーガード!」
「ドライブチェック、武装の解放者 グイディオン。ゲット!ドロートリガー!!1枚ドローして、パワーはエスクラドへ!(14000)」
リューが後に続き、ブラスター・ブレードがアルテミスに剣を一閃する。
「ダメージチェック、天地の結弦 アルテミス」
「チア―アップのブースト、エスクラドでアルテミスにアタック!(19000)」
「やっぱり、そういうことなんだね。だったら止めるよ!戦巫女 ククリヒメでガード!」
エスクラドは、アタックをヴァンガードにヒットさせると、CB1でデッキトップのユニットをスペリオルコールできる。ただし、ブラスター・ブレードのスキルを使ってしまうと、コストが不足してしまう。
私はエスクラドのスキルを優先させ、リアガードを増やすことを選んだ。けど、ミズキはそれを読んでいた。私にリベンジするための対策は、万全ということか……。
「ターンエンド」
シオリ:ダメージ2 ミズキ:ダメージ2
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
アルテミスの連携ライドによるパワーアップが、エスクラドのアタックを寄せ付けない一因となった。けど、私にとってはまだ都合がいい。
コストを使わなかったらそれで、次のターンであの一手が打てる。
「私も成長している。……前のデッキとは違うユニットを見せるよ!ライド!英知の守り手 メーティス!!(11000)」
アルテミスが輝き、弓とは異なり、杖を携えて丘に立つ女神、メーティス。
これって……あれ?どんなユニットだっけ?そもそも普通のブースターに収録されてるカードだっけ?
「黄昏の狩人 アルテミス(9000)をコール!さらにメーティスの後ろに、戦巫女 ミヒカリヒメ(8000)をコール!」
いや……ダメージにはフォルトナがいる。もしかしたら、フォルトナのサポートカードの可能性がある。
「アルテミスで、ブラスター・ブレードにアタック!(9000)」
「エスクラドでインターセプト!」
「次はミヒカリヒメのブーストで、メーティスのアタック!メーティスはアタックした時、SC1して、パワープラス1000!(20000)」
このスキル……確か、ジェネシスのユニットで同じものを持つユニットがいた。神託の女神 ヒミコ。ブレイクライドのスキルを持つユニットだ。
ということは、あのメーティスも……?
「ノーガード」
「ツインドライブ、1枚目……サイバー・タイガー。ゲット、クリティカルトリガー!パワーはキャラウェイに(14000)、クリティカルはメーティスに!(20000 ☆2)」
さっきのターンもそうだけど、ミズキは上手くトリガーを引き当てている。これも、ファイトへの想いの強さが引き起こしているのか。
「2枚目、挺身の女神 クシナダ。トリガーなしだね」
「クリティカルに完全ガードまで引くとはね……。ダメージチェック。1枚目、光輪の解放者 マルク。2枚目、未来の解放者 リュー」
「クミンのブースト、キャラウェイでアタック!(21000)」
「……ノーガード」
メーティスとキャラウェイが、遠方から魔法を使って攻撃する。最初は剣で弾いたり、かわしたりしていたが、2発の光線が命中してしまう。
「ダメージチェック。ブラスター・ブレード・解放者」
こっちには全然トリガーが来ない……。
「キャラウェイのスキル!アタックがヒットした時、CB2で1ドロー!ターンエンド!」
シオリ:ダメージ5 ミズキ:ダメージ2(裏2)
「私のターン、スタンドアンドドロー」
まずいな。もうダメージ5だよ……。ミズキはソウルこそあまり溜まってないけど、このまま普通に押し切られそうだし……。
それに、私の手札にはまだアルフレッドはない。でも、代わりにあのユニットがいる。
「響け雄叫び!その威光に、金色の戦士たちよ……応えよ!!ライド・ザ・ヴァンガード!狼牙の解放者 ガルモール!(11000)」
「ガルモール……。アルフレッドじゃない」
ブラスター・ブレードが剣を地面に突き立てると、その場所から光が沸き上がる。やがて、ブラスター・ブレードの姿は、ガルモールに変わる。
「チア―アップのスキル!自身をソウルに入れることで、このターン中、ガルモールはデッキからリアガードがコールされるたびに、パワープラス3000!」
コールすればするほど、ガルモールのパワーは一気に上昇することになる。けど、デッキからのコールでしか発動しない。1ターンに連発して狙えるスキルではない。けど、
「そして今こそ!ガルモールのリミットブレイク!!CB3、これにより、デッキトップのユニットをスペリオルコールする!この効果は、リアガードが5体になるまでコストを払わずに繰り返し行う!」
今、私のリアガードはリューのみ。デッキから4体のユニットをコールできることになる。この状況は、ガルモールのリミットブレイクを使うのにかなり適しているといえる。
「1枚目、王道の解放者 ファロン!(9000) 2枚目、武装の解放者 グイディオン!(5000) 3枚目、円卓の解放者 アルフレッド!(11000) 4枚目、疾駆の解放者 ヨセフス!(7000)」
ガルモールの雄叫びが、絆でつながる仲間を呼び出す。
「リアガードを5体に……!」
「これで4体コールしたことで、ガルモールはチア―アップの与えたスキルでパワープラス12000!(23000) さらにヨセフスのスキル!デッキからコールされた時、SB1で、1ドローする!」
集いし仲間から力を受け取り、ガルモールはさらに激しくいきり立つ。さぁ、ミズキ。今度はこっちの反撃だ。
「グイディオンのブースト、アルフレッドでアタック!(16000)」
「サイバー・タイガーでガード!」
アルフレッドの剣を、サイバー・タイガーが噛みついて止める。力任せに剣を振り抜いたアルフレッドは、今度は頭からサイバー・タイガーを両断する。
「リューのブースト、行け!ガルモール!!リューのスキルで、他の解放者のリアガードが3体以上いるから、パワープラス4000!さらにガルモールのスキルで、グイディオンをデッキの下に戻してパワープラス4000!(37000)」
グイディオンが光となり、両腕の武器に溢れる輝きを灯す。そのまま跳躍したガルモールは、メーティスに向けて武器を振り下ろす。
「パワー30000越え……。ノーガード!」
「ツインドライブ!1枚目、ばーくがる・解放者。2枚目、霊薬の解放者。ゲット!ヒールトリガー!!ダメージを1枚回復して、パワーをファロンへ!(14000)」
「ダメージチェック、月夜の戦神 アルテミス」
「ヨセフスのブースト、ファロンでアタック!ファロンのスキルで、解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(24000)」
「これもノーガード!ダメージは……戦巫女 サホヒメ」
「ターンエンド!」
シオリ:ダメージ4(裏2) ミズキ:ダメージ4
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
ミズキのダメージは4.もし、ブレイクライドのスキルを持つユニットだとしたら、このターンでフォルトナが来る可能性がある。もう少しダメージに気を使えばよかったかな……。
「ライドはなし。コールも……特にないかな」
あ、あれ?てっきり何か来ると思ってたんだけど、手札にライド先がいなかったってことかな。
「もしかして、そろそろフォルトナが来るかもしれないって思ってた?」
「……何でわかったの?」
「わかるよ。シオリ、今驚いてたもん。もうちょっとポーカーフェイスに気を付けた方がいいんじゃない?」
うっ、顔に出てたんだ……。少し気が緩みすぎてるのかな。バレてるなら隠すことはないと、私は正直に話す。
「あ、うん……。ダメージ4だし、そのメーティスってユニットのスキルはわからないけど……」
「あっ、知らなかった?言ってくれたら教えたのに。メーティスは、ブレイクライドのスキルを持ったユニットなんだ。使いやすいかと思って入れたんだよ」
やっぱりブレイクライドのユニットだったんだ……。
「確かに、フォルトナを使うなら今かもしれないね。でも……まだその時じゃない。このターンでは、シオリを倒すことはできなさそうだって思うから」
それもそうか。私の手札、8枚もあるからね……。これも、ガルモールのリミットブレイクで手札を温存した成果か。
「私だって、ちゃんと考えてるんだよ?負けてからずっと、シオリへのリベンジだけを夢見てたから。ユウトや柳田さんにも協力してもらって、シオリに勝つことだけ――」
「……ミズキ?」
そこで、不自然に言葉が途切れる。まるで、何かをトリガーに自分の世界に引きずり込まれたような……。
「……そうだったね。私はいつだって、挑む方だったよね」
「あの、ミズキ?」
ポツリと独り言をつぶやくミズキが気になり、私は声をかける。すると、ミズキは何かが吹っ切れたように透き通った笑みを向けて、
「……シオリなら、別にいいかな」
「え?」
「ごめん、急に。ちょっとした短い昔話だよ。何となく、話したくなったから」
唐突に、話を始めた。
「私がヴァンガードを始めたのは、ちょうどシオリが使ってるゴールドパラディンが登場した時だった。ユウトに誘われてね。ユウトは……まぁ、わかってると思うけど、なるかみを。私は、エンジェルフェザーを使ってたんだ」
エンジェルフェザー!?あ……でも、イメージはあるかも。
「毎日ショップに通って、2人でファイトしてた。そんな時だよ。私たちが、1人の女の子と出会ったのは」
「女の子?」
「と言っても、私たちと同じ中学で……もっと言えば同じクラスだった」
ん?だとしたら、何で出会ったなんて言い回しをミズキはしているんだろう?
「その子は、クラスでも浮いていて、いつも1人だった。いじめはなかったけど、とにかく他人を避けていたから、クラスではよくは思われていなかったよ。私も正直……ヴァンガードを始めるまでは、あんまりいい印象は持ってなかった」
孤立……とは少し違うのか。彼女の場合は、孤高と呼んだ方が正しいのかもしれない。
「冷たくて、無愛想で……そんな彼女が、まずユウトとファイトしたんだ。確か、ショップ大会だったかな?ユウトはボコボコにやられたんだけど、それがかえって興味を持つことになったみたい。ユウトは、強い相手ほど燃えるタイプだし」
「あ……何となくわかるかも」
「まぁ、彼女は相手にもしてなかったけどね。無視するなんて当たり前だったから」
何となく、しつこくつきまとう平本さんとその彼女の姿がイメージできる……。
「私が初めてまともに彼女と接したのは、その何日か後のことだったんだ。ユウトが私と彼女を引き合わせて、ファイトすることになったんだ」
「えっ?平本さん、その彼女と話できたんだ?」
「ま、まぁ……その……私、ユウトのそんな大胆なところがその、好きだったりするし……///」
隣で本人がファイトしてるのに、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね……。私だったら……む、無理だよ///。
「それでファイトしたんだけど、動きは淡々としてるし、冷めててたんだ。いつもとあんまり変わらないなって。でもね」
「……?」
「ファイトが盛り上がってくると、だんだん彼女も明るくなってくるんだ。アタックが通らなかったら悔しがるし、トリガーが出たら喜ぶし。これが、本来の彼女だったんだって、思ったんだ」
ヴァンガードを通じて、本当の自分をさらけ出すことができる。彼女にとって、ヴァンガードは本当に楽しいものだったのかもしれない。
「でも、ファイトが終わったらすぐに帰ってね。話しかける暇もなかった。後を追いかけたけど、もう遅かった」
「それで……その子とはどうなったの?」
「そのまま諦めるわけないよ。あんな一面見たら、仲良くなりたいって思うから。だから、とにかく彼女と一緒にいたよ。相手にはされなかったけど……それでも」
ミズキの話を、私は相槌や質問を繰り返しながら聞いていく。MFSのユニットたちも、静かに耳を傾けているように思えた。
「そうしているうちに、彼女の方にも変化が出てきたんだ。口も聞いてくれなかったのに、話をしてくれたんだ」
「それって……!」
「でも、彼女は私たちに言ったよ。私は他人とどうやって接したらいいのかがわからない。だから、絶対に仲良くはなれないんだって」
物事は、そう簡単に上手く進むとは限らない。進んだつもりでも、逆戻りしているかも知れないのだから。
「それでも、私は諦めなかった。ただ仲良くなって、一緒に話をしたかった。ファイトしたかった。だって……彼女はいつも1人で、そんな姿を見ているうちに、何だか寂しそうに見えていたから」
「ミズキ……」
「その甲斐は……あったよ。少しずつ、彼女は私たちに心を開いていった。一緒にいる時間も……ぎこちないけど、話すことだって」
そっか……。ミズキの想いは、彼女に届いたんだ。
「私のヴァンガードが上達したのは、彼女とファイトしてたからだ思う。いつも負けて、そのたびに改善して、また挑む。結局、1回も勝てなかったけど……」
さっきの言葉って、そういう意味だったんだな……。
「でも、彼女は留学することが決まってね。それで、日本を離れないといけなかったんだよ」
「じゃあ、彼女は今、海外にいるってこと?」
ところが、ミズキは首を横に振る。ということは、もう日本に帰ってきているのか。
「彼女が海外に向かった先でね……大規模なテロに巻き込まれたんだ。何だったかな……確か、カルネージ・タワー?の建設を巡ったテロで、その時に行方が――」
そこで、ミズキの声が涙ぐんだ。これ以上は続けられないと、ミズキは視線をそらす。
「……そんなことがあったんだ」
そんなことしか、私は口にできない。やがて、ミズキは落ち着いたのか、私に視線を戻す。
「……柳田さんをチームにスカウトしたのは、彼女に雰囲気が似ていたからなんだ。1人で、冷めていて……変わることを諦めていた。だから、彼女の時みたいに力になりたいって思ったんだ」
そういうつながりがあったんだ。話している感じ、柳田さんの方が年上っぽいし、どうやって知り合ったんだろうとは思ってたんだけど。
「私の昔話はおしまい。ごめんね。こんな話して」
「いや……。凄いよ、ミズキは。そんな辛いことを、話すことができるんだから」
私は……まだ辛い。あの出来事を、断片だけでも語るのは。
「シオリには、知っててもらいたいかなって思ったんだ。別に何か慰めが欲しいわけじゃない。ただ、私の話を聞いて欲しかったんだ」
「……そっか」
ミズキの過去。それは、苦労の末に築き上げた友情を砕かれた、痛ましいものだった。彼女を失った時、どんなに辛かったことだろう。
「今は大丈夫だよ。ユウトはいてくれるし、それに……柳田さんだっているからね」
でも、今のミズキなら大丈夫。過去を乗り越えるだけの力を、ミズキはもう手にしている。
「よっしゃあ!!やった!やったぞ!!勝った!俺がワタルに勝ったんだ!!」
その時、これでもかと言わんばかりに、平本さんの大声が聞こえてくる。
「小沢君が負けた……ってことなんだね」
「ユウトも今日のリベンジを楽しみにしてたからね。きっと嬉しいんだろうな」
涙を流して喜んでいる平本さん。小沢君も、その表情は清々しい。
「柳田さんだって頑張ってるし、私もシオリにリベンジしないと!行くよ、シオリ!!」
「うん!全力で迎え撃つよ!!」
つかの間の休息を終え、2人のファイトは佳境に差し掛かろうとしていた。