つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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ride51 この一瞬が壊れないように

グランドマスターカップAブロック決勝戦。私とミズキのファイトは、佳境を迎えていた。

 

「黄昏の狩人 アルテミスでファロンにアタック!(9000)」

 

「武装の解放者 グイディオンでガード!」

 

アルテミスの撃った矢は、グイディオンが大剣を盾に防いで見せる。

 

「く……なら、ミヒカリヒメのブースト、メーティスでアタック!メーティスのスキルでSC1して、パワープラス1000!(20000)」

 

「今度も守るよ!霊薬の解放者、横笛の解放者 エスクラドでガード!」

 

「トリガー2枚か……。ツインドライブ!1枚目、箒の魔女 キャラウェイ。2枚目、戦巫女 ククリヒメ。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てキャラウェイへ!(14000 ☆2)」

 

霊薬の解放者とエスクラドがガルモールの前に立ち、メーティスの振り下ろした杖を受け止める。その隙にガルモールは離脱するが、キャラウェイは空中からガルモールに迫る。

 

「クミンのブースト、キャラウェイでアタック!(21000 ☆2)」

 

「猛撃の解放者でガード!マロンもつける!」

 

「ターンエンド。ダメージは与えられなかったけど、上出来だね」

 

 

シオリ:ダメージ4(裏2) ミズキ:ダメージ4(裏2)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

手札5枚も持っていかれるとは思ってなかったよ……。8枚もあったのに、これでこのターンのドローを含めて4枚しかない。でも、

 

「ライド、コール共になし。アルフレッドで、メーティスにアタック!(11000)」

 

リアガードは十分にそろっている。今は守りのために手札を温存しておかないと。

 

どのタイミングでフォルトナが来るのかわからないからね……。

 

「ノーガード。ダメージは、天地の結弦 アルテミスだね」

 

「リューのブースト、ガルモールでアタック!ガルモールのスキルは使わない。でも、リューは別!他の解放者のリアガードが3体以上いるから、パワープラス4000!(21000)」

 

「安定して高いパワーを出すね……。でも、挺身の女神 クシナダで完全ガード!コストはキャラウェイを使うよ!」

 

ガルモールの爪状の武器は、クシナダの張ったバリアによって止められてしまう。仕方なく、ガルモールは後ろに下がる。

 

「く……ツインドライブ!1枚目、光輪の解放者 マルク。2枚目、円卓の解放者 アルフレッド」

 

よし!トリガーは出なかったけど、アルフレッドは手札に加わった。これで次のターン、アルフレッドにライドして一気に攻める!

 

「ヨセフスのブーストした、ファロンでアタック!解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(19000)」

 

「まだまだ!ガード!大鍋の魔女 ローリエ!!」

 

「ターンエンド!次こそは決めるよ!」

 

 

シオリ:ダメージ4(裏2) ミズキ:ダメージ5(裏2)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー。……ふふっ」

 

突然ミズキが笑いを漏らす。理由は……何となくわかる。勝負も終わりに近づき、これまで以上に興奮が高まってくるから。

 

「楽しいよ、シオリ。このファイトは、本当に楽しい」

 

「私もだよミズキ」

 

「終わらせたくないよね。この一瞬が、ずっと続けばいいのに」

 

「ミズキ……。それは、勝負にならないんじゃない?」

 

「もういっそのこと、それでいいんじゃないの?」

 

私は何だかおかしくて、笑い出す。ミズキも、それにつられて笑い出した。ひとしきり笑って、気持ちを落ち着かせると、

 

「でも、やっぱり名残惜しいな。次にファイトできる時なんて、いつになるかわからないよね?」

 

「……確かに、すぐには無理かも。こんな場所でファイトするとなると、なおさらね」

 

再戦なら、上手く時間を合わせたらできるかもしれない。けど、この場所でファイトしていることに意味がある。多くの観客に囲まれ、ユニットたちと共に並び立ち、チームメイトと勝敗を競い合う。

 

この一瞬は、もうすぐ終わる。過去の出来事として、今という時間からは永遠に消えてしまう。

 

「……なら、この一瞬を、私たちの思い出として心に刻み付けよう。ミズキとはあまり会えないし、ファイトも全然できないけど……思い出が色あせることはない。離れていても、きっとつながっていられるから」

 

「……そうかもしれないね」

 

想いでは、いつだって何かを与えてくれるものだ。それは、楽しかった記憶かもしれないし、辛かった記憶かもしれない。

 

けど、過去に想いを馳せることで、得られるものはあるはずだから。

 

「だったら、私がよかったと思える結果でありたい。だから……勝つよ、シオリ!このターンで!!」

 

ということは……ついに来るか。ミズキの切り札が!

 

「幸運の鐘を鳴らし、私の手元に勝利を呼び込む……祝福あれ!ブレイクライド!幸運の女神 フォルトナ!!(11000)」

 

メーティスが杖を振りかざすと、星空から無数の光が舞い降りる。やがてメーティスを包み込むと、その姿はフォルトナへと変化した。

 

「ブレイクライドスキル!CB1して、1枚ドロー!さらにSC3して、フォルトナにパワープラス10000!(21000)」

 

ドローとソウルを同時に溜め込むなんて……。ソウルを必要とするフォルトナには、確かに相性がいいユニットだ。

 

「戦巫女 ククリヒメ(4000)をコールして、ククリヒメのスキル発動!自身をソウルに入れて、フォルトナにパワープラス3000!(24000)」

 

これでフォルトナはブーストを合わせて32000パワー。ドライブチェックを考えると、シールドは最低30000必要となってしまう。

 

「猫の魔女 クミン(7000)をコールし、コールした時のスキルでSC1!」

 

「これで……ソウルは12枚」

 

「リミットブレイクは4回使える。おまけにブレイクライドでパワーは上がってるから、そう簡単には止められないよ?」

 

でも、止めて見せないと。ミズキが負けられないように……私だって、このファイト負けられないから!

 

「クミンのブースト、アルテミスでガルモールをアタック!(16000)」

 

「ノーガード!ダメージは……小さな解放者 マロン」

 

トリガーじゃないか。出てくれると助かったんだけどな……。

 

「ミヒカリヒメのブースト、行くよ!フォルトナ!!(32000)」

 

「光輪の解放者 マルクで完全ガード!コストはばーくがる!」

 

フォルトナの手に水晶が握られ、そこからレーザーが撃ち出される。それを、マルクが腕に搭載された盾を展開することでしのいでいせる。

 

これなら、例えトリガーが2枚出てもヒットしない。けど……何かが腑に落ちない。

 

手札は残り4枚。内1枚はマルク。もう1回は完全ガードが使える。ミズキの残りのアタックは、キャラウェイだけ。そこを完全ガードしてやれば、それで終わり。

 

なのにこの状況、これはまるで、あの時と同じ……!

 

「ツインドライブ。1枚目、サイバー・ガードマン。ゲット!スタンドトリガー!」

 

「……っ!」

 

「どうしてシオリとのファイトの時は、こんな場面でしか出ないんだろうね。効果は全て黄昏のアルテミスへ!(14000)」

 

その考えが現実のものとなった時、私は悟った。手札のアルフレッドを次のターンまで残しておくことは、不可能だということを。

 

「あの時と同じ展開……でも、その先の未来は違う!2枚目、英知の守り手 メーティス。トリガーじゃない。なら、今こそフォルトナのスキルを使う時!リミットブレイク発動!!」

 

フォルトナの水晶が辺りを照らし出す。それに反応して、ミズキはコストを支払っていく。

 

「グレード1以上のカードをドライブチェックで引いた時、SB3してそのカードを破棄。そうすることでもう1度ドライブチェックを行う!」

 

確定した結果を捻じ曲げ、新たに望む結果をつかみ取る。これがフォルトナのリミットブレイクだ。

 

「3枚目、戦巫女 サホヒメ。グレード1以上だからもう1回!4枚目、挺身の女神 クシナダ。もう1回!5枚目、黄昏の狩人 アルテミス。もう1回!!」

 

けど、今のでソウルはなくなった。ここでトリガーが来てしまったら……。

 

「これで最後!6枚目!!」

 

さぁ、何が来る……?

 

「……サイバー・ガードマン。ゲット!スタンドトリガー!」

 

「そんな……!」

 

悪夢だ。これだと、前と同じ……!

 

「クミンをスタンド!パワーはキャラウェイに!(14000)」

 

「く……!」

 

「これで後2回アタックできるね。さぁ……防ぎきれる?クミンのブースト、アルテミスでアタック!(21000)」

 

防げないことはない。残りの2回のアタック、1回を完全ガードして、もう1回を手札全てとインターセプトで対処すれば、次につなげられる。

 

……けど、それだと手札は残らない。アルフレッドにライドすることは不可能だ。

 

(いや……まだ望みはある)

 

アクセルリンク。この状況で脳裏によぎった、1つの希望への道。デッキにアルフレッドはまだある。このターンで手札を使い切ったとしても、次のターンのドローでアルフレッドを引けばいい。力を使って。

 

いや、いっそのことダメージチェックでヒールトリガーを引けば、手札の消費を減らすことができる。その方が、確実にアルフレッドを手札に――

 

『私がよかったと思える結果でありたい――』

 

……そうだよね。これは、私とミズキのファイトなんだ。力なんて余計なものは、このファイトにはいらない。

 

「……マロン、ヨセフスでガード!ファロンもインターセプトして!」

 

この一瞬が、互いによかったと思えるものでありたいから……力は使わない。私の手で、この一瞬が壊れないように。

 

「でも、これで最後だよ!クミンのブーストしたキャラウェイでアタック!!(21000)」

 

「……2枚目のマルク!完全ガード!!コストは……アルフレッド!」

 

一瞬ためらったが、私はアルフレッドをドロップゾーンに置く。ガルモールを守るマルクの後ろ姿が、ほんの少しだけアルフレッドに見えた気がした。

 

予感はあったのかもしれない。守り切られたミズキの反応は、どこか納得しているように見えた。あの時と、あまりにも状況が似ていたから。

 

「ターン、エンド」

 

 

シオリ:ダメージ5(裏2) ミズキ:ダメージ5(裏3)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

後悔はしていない。そう。これでよかった。

 

「さっきは決められなかったけど、次は確実に決められる。シオリの手札はもう残り少ない。私のアタックを止められるだけの手札は、このターンじゃ用意できない」

 

わかってる。ドライブチェックのカードを含めても、手札3枚で次のミズキの3回のアタックを耐えられない。

 

「シオリが勝つには、このターンで決めるしかない。ここが正念場だよ」

 

「そういうことだね……。だから、悪いけどこのターンで勝つ!」

 

このターンでドローしたカードは……狼牙の解放者 ガルモール。アルフレッドじゃないけど、これでいい。

 

今の私にできることは、まだ残されている。

 

「ライドはしない。そして再び!ガルモールのリミットブレイク!!」

 

「このタイミングで、2回目のリミットブレイクを!?」

 

「CB3、デッキトップのカードをスペリオルコールする!この効果は、リアガードが5体になるまでコスト無しで行える!!」

 

ヒールトリガーでダメージが回復していたことで、本来は1回が限度のガルモールのリミットブレイクを使うことができた。

今の私のリアガードは3体。2体のリアガードをコール可能だ。

 

「1枚目、小さな解放者 マロン(7000)。これをヨセフスの前にコール。2枚目、希望の解放者 エポナ(5000)。これをアルフレッドの後ろにコールする!」

 

ガルモールの雄叫びが再びこだまし、マロンとエポナが現れる。これで、できることは全てした。後は、自分を信じて勝ちに行く!

 

「ヨセフスのブースト、マロンでアタック!マロンもファロン同様に、解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(17000)」

 

「サイバー・ガードマンでガード!」

 

「リューのブースト、ガルモールでアタック!リューのスキルで解放者のリアガードは3体いる!パワープラス4000!ガルモールのスキルは使わない!(21000)」

 

「……サイバー・ガードマン、サホヒメ、クミンでガード!」

 

ミズキは手札を使い切った。もうインターセプトしか使えない。そのシールド値は合計で10000。そして、次のアルフレッドをガードするためのシールドは10000。ちょうど同じということは。

 

「トリガー1枚……それで、このファイトの結果が決まる」

 

「委ねるよ、シオリのトリガーに。このファイトの全てを!!」

 

「……行くよ!ツインドライブ!1枚目……ブラスター・ブレード・解放者」

 

アクセルリンクを使えば、トリガーくらい引くことはたやすい。けど、それじゃ意味がない。自分の力で引かないと。

 

「2枚目……!」

 

引けば勝ち。引けないと負け。互いの結末がかかった、そのカードは……。

 

「……希望の解放者 エポナ。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てアルフレッドへ!!(16000 ☆2)」

 

「引いた……」

 

これで、次のアタックをミズキはガードできない。おまけにクリティカルが乗っているから、ヒールトリガーで耐えきるのは……。

 

「……ははっ。負けたよ、シオリ。まだまだ及ばないみたい」

 

「そんなことない。ミズキは本当に強かった。このファイト……本当にいいファイトだった」

 

「……ありがとう。私も、このファイト楽しかった」

 

その言葉が聞けてよかった。そう思い、私はこのファイトの幕を下ろすべく、最後のアタックに入る。

 

「これで……決めるよ!エポナのブースト、アルフレッドで……ヴァンガードにアタック!(21000 ☆2)」

 

「受けるよ!ノーガード!!」

 

ミズキの6枚目のダメージは、トリガーではなかった。決着がつき、戦いを終えた表情は、とても穏やかなものだった……。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

『ただ今のファイトによって、決着がつきました!Aブロック決勝戦、勝利チームは……エレメンタルメモリーです!』

 

MFSが機能を停止し、回転しながら収納されていく。後ろを見ると、こっちに駆け寄るみんなの姿が、向かい側にはミズキと、その後ろには平本さんと柳田さんの姿がある。

 

私は歓声を浴びながら、ミズキに近づいていく。

 

「ファイト、お疲れ様」

 

「シオリもお疲れ。出来ればリベンジしたかったけどな……」

 

「惜しかったな、ミズキ!でも、俺はリベンジできたし、大満足だ!」

 

「……ユウト、今はそういうこと言わないでほしいよ」

 

エレメンタルメモリーと祝福の星。2つのチームが集まる。ファイトを終え、互いを称えあう。

 

「……悪い、月城。勝てなかった。エレメンタルメモリー……本当に強かった」

 

「柳田さんは頑張ってくれましたよ。私だって勝てなかったんですから」

 

「そうっスよ。あんた……いや、ケンゴさんは十分強かった。紙一重の差だったんスよ、本当。ミズキさんのチーム、マジで手ごわかったっス」

 

「だな。俺はユウトに負けたし」

 

「ビクトリー!!」

 

「だから止めてよ……。今はダメージ大きいから」

 

と、私たちがそんな風に談笑をしていると……。

 

『続けて、Bブロックの決勝戦を行います!対戦するのは、チームアビスナイツと、チームユークリッド!』

 

「どうやら、私たちはお邪魔になるみたいね。みんな、ここは一旦場所を変えましょう」

 

「だね。行こう、ミズキ」

 

「うん。ほら、ユウト行くよ?柳田さんも」

 

私たちは場所を開けるため、ホールを出ていく。その途中、私は最上君とすれ違う。

 

「勝ったみたいだな」

 

「もちろん。私たちには、大きな目標があるから」

 

「すぐに追いつく。そして、お前たちも踏み台にして、俺は勝つぞ」

 

「……目的は果たされそうなのに?」

 

「ふっ、正論だな。だが、俺とてファイターの端くれ。どうせこのような大会に参加するのなら、行けるところまで行きたいと思うだろ?」

 

負ける気は全くないってことだね……。

 

「あまり長話している暇はない。タツヤ、ヒロム。行くぞ」

 

最上君の後ろについて歩くのは、少し年下……中学生くらいの男子2人だった。あれが、最上君のチームメイトか。

 

「何か、もっといかつい奴がメンバーかと思ってたんスけどね。あんな子供連れたチームって、あいつは保護者か何かっスか?」

 

「知らねぇけど、あの最上ナツキって奴は気を付けた方がいいぜ?ここまで全てのファイトで負けてない。しかも、1度だけ6点ヒールで持ちこたえるほどの運の持ち主だからな」

 

「……マジかよ。前に会った時と全然変わってないな」

 

話しながら私たちが観客席に場所を移すと、既にファイトが始まっていた。最上君は……まだ序盤だけど、相手を圧倒している。

 

勝てる見込みあるよね……?何だか不安になってきた。

 

「シオリ、会ったことあるの?」

 

「うん。その時は負けちゃったけど」

 

「そんなのが次の相手で、大丈夫なんだろうな?俺たちに勝ったんだから、どうせなら優勝してもらわないと困るぜ?」

 

「あなたに言われなくても、そのつもりよ。目指すのは、もっと先なんだから」

 

もうすぐそこまで来ているんだ。ここで終わらせるわけにはいかないんだ。

 

「それに、こっちにはシオリさんがいる!負けたとは言っても、後1歩のところまでは追い詰めているんスから!あの……アクセルリンクって力で!」

 

「ちょっ……佐原君!」

 

「あ、あれ?名前違ったっスか?」

 

「そうじゃないけど……あんまりそういうの他人に言わないでほしいんだ……」

 

変に知られたくはないし。出来れば隠しておきたいし。だって、ユニットの声が聞こえる能力なんて……頭のおかしい人に見られても仕方のないレベルの話だよ!?

 

「アクセル……リンク?」

 

「あ、えっとね……ミズキ」

 

もうこうなったら、事実を伝えるしかないんだろうな……。意を決して、私は話し出す。

 

「私……ユニットの声が聞こえるみたいなんだ」

 

「……え?あの、シオリ?どういうこと?」

 

「そ、それは……その……。もうっ、佐原君のせいだよ!?///」

 

「ええっ!?俺っスか!?」

 

いや、完全に佐原君が悪いよ!

 

「うう、こんなこと言うなんて恥ずかしい……。わ、私にはユニットの声が聞こえて、その声が聞こえる時には、波紋のようなものを感じるんだ」

 

「……うん。続けて」

 

もう、何この拷問!?私、耐えられないんだけど!?

 

「……その時、私とユニットとの間には強いつながりが生まれる。そのつながりによって、ユニットから力を貰えるんだ。それが、『アクセルリンク』だよ。私のは、回数制限付きで、好きなカードをドローできるって能力なんだけど……」

 

「アクセルリンク……」

 

私は一通り話し終え、熱くなった頬を冷ますために、気分を落ち着かせる。

 

「それって、使おうと思えば使えるってこと?」

 

「最近になって、やっとね。でも、ファイトで使うことはない。よほどのことがない限りは」

 

「でも、そんなの使ってないとかわかるもんなのか?外見が変化するとかならわかるけどさ」

 

平本さんの言うことは間違ってない。と、そこにまたしても佐原君がいらない一言を投げつけてくる。

 

「だったら、今ここで力を使ったらいいじゃないっスか。力を使ったら、確か変化があるんじゃなかったっスか?」

 

「ここで……ミズキに見せるの!?」

 

「え、何かダメっスか?納得してもらうなら、とことんしないと!」

 

「そうさせたのは誰だと思ってるの!?」

 

でも、ここまで話してしまったし、ミズキだったら大丈夫かな……。ミズキだって、昔のこと話してくれたし、私も勇気を見せないと。

 

「……わかったよ。じゃあ、やってみる」

 

簡単に言ったけど、私ファイト以外でこの力使ったことないんだよね……。上手く行けるかな……?

 

私は目を閉じて、ユニットとのつながりをイメージする。共に戦い、勝ち進んできた、私の仲間たち……。どうか、私の勝手なわがままを聞いてください……。

 

「……あ」

 

来たよ、波紋の感覚。声も聞こえる……。

 

『今回はどうしたんですか?』

 

『あれ?ファイトじゃなさそう?』

 

『もしかして、俺たちと話をしたかったとか!?マイヴァンガードが!?』

 

……何か、ユニットに悪い事させてる。けど、いつもファイト中に聞く声と違って、日常らしさの籠った声だ。何だか違った一面が見られたようでよかったかな。

 

「……シオリ?」

 

あ、そうだった。感心している場合じゃないか。私はゆっくりと目を開けて、その変化を見せる。

 

「うおっ!?な、何だその目は!?」

 

「そんなに驚かなくてもいいですよ、平本さん。この力を使うと、瞳の色が変化する。私の瞳は……見えないけど、多分変わってますよね?」

 

「凄い……澄み切った青の目だ」

 

青色の瞳って怖いな……。

 

「だから、外見でもハッキリわかる。さっきのファイトで、こんな瞳になってなかったでしょ?」

 

「うん。シオリはずっといつものままだったよ」

 

話が解決したところで、私はアクセルリンクを止める。すぐに波紋や声は感じられなくなった。

 

「……こんな感じかな。ちょっと変に思った?」

 

「ううん。だって、シオリはシオリだから。それに、そんな能力があったところで、シオリは頼らずにここまで来たんでしょ?」

 

「もちろん。自分の力で勝ってきたから」

 

あ……でも1回だけ使ってしまったな。あれは仕方ないってことにしておこうかな。

 

「けど、次は使う。最上君は……一筋縄じゃいかない。彼も、そのアクセルリンクを使える。だから、ここまで無敗なんだよ」

 

「何だか、話がややこしいな……。お前たちは、オカルトか何かか?それに、どうしてお前たちだけそのような力が使えるんだ?」

 

柳田さんの言うことがもっともなんだけど……。

 

「私が知りたいくらいなんだよね……」

 

そもそも、どうしてこんな力が使えるようになったのかわからないし。

 

「まぁ、とにかく!最上ナツキに勝ち目があるのは、シオリさんってこと!だから、月城さんには是非とも応援してほしいっス!」

 

「言われなくてもそのつもりだよ。頑張ってね、シオリ」

 

「……うん!」

 

誓いを込めて、固く握手を交わす。私たちの夢のために、勝つために。

 

「それにしても、ノスタルジア同士のファイトがまた見られるとは、俺このまま死んでしまうんじゃないっスよね?」

 

「え?ノスタルジアって、あの……!?」

 

「佐原君!?また話をややこしくしないでよ!!」

 

またしても余計な一言で、結局ノスタルジアのことまで説明しないといけなかったのは、また別の話。

 


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