今回はファイトはありませんが、次からは一気にファイトしていきますよ。そうなれば、多少はカードプールを進めることが……。
では、決戦前の一時を。
『ここでBブロックの勝利チームが決まりました!勝利したのは……チームアビスナイツです!』
私たちが観客席にいる中で繰り広げられていたBブロックの決勝戦。気が付けば、ほとんどファイトを見ていない間に終わってしまっていた。
「あっ!しまった!全然相手の情報得られなかったっスよ!」
「佐原が余計なこと言って、星野を困らせたからだろ……」
MFSはもう1台も動いてない。最上君はいいとして、残りの2人はどんなデッキを使うのかがわからないままだ。
けど、ここまできたらやるしかない。それに、私の相手は最上君……ってもうほぼ決められているし。
「それにしても、やっぱり勝ってきたわね。あの、最上って人」
「奇跡の大逆転とかで、対戦チームのユークリッドが勝ってたらよかったっスね……」
でも、最上君のチームが勝っているということは、メンバーの2人も実力は確かだということだ。決勝らしく、かなりの強敵だ。
『たった今入った情報をお知らせします。現在、MFSの整備中、若干の不備が見つかりました。安全のため、決勝戦を明日に延期させていただくこととなりました』
「え……延期!?」
観客席からは次々と不満の声が上がる。だが、既に決定してしまったことだ。
『お詫びについての連絡は、後程ホームページで折り入ってさせていただきます。今日はご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。お気をつけてお帰りください』
「本当に終わりかよ……。仕方ないかもしれないが、これはどうなんだ?」
「アクシデントってとこっスか?冗談きついっスよ!」
「いいえ。悪いことばかりじゃないかもしれないわよ。私とトウジにはね」
「……どういうことっスか?」
「今日は何の日か知ってるわよね?」
「今日?……あーっ!そうっス!!『絶渦繚乱』の発売日!ってことは、俺とリサさんのデッキを少しでも強くできるチャンス!」
「そういうことよ」
黒輪縛鎖に続く最新ブースター、絶渦繚乱の発売日。それが今日だった。奇しくも予選と被ったことで、2人は最新のカードでデッキを強化することはできなかったが、今からの時間でどうにかすることは可能だ。
「そうと決まれば、早くショップに行くっスよ!ブースター買って、カード揃えてデッキ組んだら、実戦で慣れないといけないっスからね!」
「じゃあ、私たちはここでお別れするよ。これから3人で今日のお祝い会でもしようかなって考えてるから」
「そっか。じゃあ、また明日だね」
ミズキとはここでさよならか。でも、しばらく会えなくなるわけじゃないし、寂しくはないかな。
「いいのか、月城。俺も一緒にお祝い会など……」
「チームメイトだから、当たり前ですよ。柳田さんがいなかったら、意味ないじゃないですか」
「い、いやその……俺はこういう場に参加したことがなくてだな……」
なんだかほほえましいことになってるけど、私たちは早くここから離れないと。
観客に紛れて外に向かう私の目には、ホールから外に出ていく最上君の姿が一瞬だけ見えていた。
*****
場所は変わって、サンシャイン。店長が私たちのためにブースターは残してくれていたみたいで、早速開封を始めていく。
今回は私たちには縁はない。だから、アクアフォースとリンクジョーカーが出ることを祈って開けていく。
「はぁ!?またエシックス・バスターっスか!?」
「こっちはテトラドライブ出たぞ」
「ありがとう。うっ、レミエルね……」
「あっ、カオスブレイカー出たよ」
「ナイス、シオリさん!!」
とまぁ、こんな感じで開封しているんだけど、時間が時間だから、とにかく急ぎ足で開封している。こんなにも疲れる開封は今までになかったかもしれない……。
その結果、すぐに終わらせることができた。カードの方も、少しシングルで買い足したけど、何とかデッキを調整できるほどのカードは手に入れることはできた。
「リンクジョーカーは元々カードの種類が少ないからいいとして……どうっスかリサさん?」
「問題なさそう。後は、実戦で慣らしていくだけね」
「思ったよりも時間かからなかったな」
「って言っても、もうすぐ7時なんスよね……。家の方は大丈夫っスか?」
もう辺りも暗くなっている。ショップの中にも、私たち以外には人の姿はほとんどない。
「私は平気よ。遅くなるとは伝えたし」
「私も、連絡は必要なさそうかな」
「俺はおじさんがいるし。家に連絡してくれないか?」
「ワタル!俺をそんなことに使うんじゃない!」
というわけで、早速ファイトスタート。森宮さんは小沢君と。佐原君は私とファイトすることになった。
「手加減なんていらないわよ。ビシバシ鍛えてちょうだい!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
「燃えてるっスね。さ、俺たちもやるっスよ。俺もそうっスけど、シオリさんだって、レゼンタとのファイトが控えてるんスから、自分を鍛えるつもりで来るっスよ」
ただの強豪ファイターとはレベルが違う。ノスタルジアと呼ばれた3人のファイターの1人、現在の追憶レゼンタ。
トリガーのタイミングも見極められ、それを見越した最善の一手で攻めてくる。その力……アクセルリンクは、以前嫌というほど見せつけられている。
私のアクセルリンクは、最上君のとは違う。デッキの一番上のカードを変える力。根本的に異なる力になり下がっていながら、果たして勝機は本当にあるのかと考えてしまう。
それに……。
「んじゃ、俺のターン。ドローっと」
「……そう言えば佐原君」
「ん?」
「明日のファイトなんだけど……本当に私が最上君と、レゼンタとファイトしてもいいの?」
私は気になっていた。いくら決勝とは言っても、目の前に追い求めた相手がいるのに、自分から見逃すことになってもいいのかと。
「ノスタルジアとファイトしたいんだって、前に言ってたよね?だったら、私がファイトするのは佐原君に悪いかもしれなくてさ……」
「あぁ、そう言うことっスか」
カードを動かす手は止めることなく、佐原君は言葉を続けていく。
「もちろん、俺だってファイトしたい気持ちがないわけじゃない。できることなら、シオリさんの提案通りに代わってもらいたいくらいっス」
「それじゃあ……」
「でも、もうここまで来てるんスよ。俺のわがままで、チームの勝利の可能性を潰すような真似はしたくない。だから、シオリさんに託すんスよ」
「託す……」
正直、アクセルリンクを持っているからって勝てる見込みはどこにもない。でも、私に賭けているんだ。全国に行けるかどうかを。
「なら、責任重大だね……」
「そういうこと。頼むっスよ?」
「わかった。佐原君の分まで、最上君とファイトしてくるから」
「了解。あ、ドライブチェックなんスけど、1枚クリティカルっス」
「えっ」
さらっとトリガー引いてたよ……。
「ダメージチェック、トリガーなし。負けだね……」
「よっし!快調!これなら明日の決勝には問題なさそうっスね」
佐原君の仕上がりはよさそうだ。でも、私は大丈夫かな……。
「向こうは終わったみたいね。なら、こっちもこれでとどめよ!」
「シールドが足りない……ノーガードしかないな」
森宮さんも、動きを叩き込むことができている。2人共、明日は心配しなくてもいいみたいだ。
「思ったよりも好調で安心したわ。……どうしたの、小沢君?ジーっとデッキを見つめて」
「不安が出てきたんスか?」
「あぁ、いや。そういうんじゃないんだ。ただな……」
「ただ?」
「……明日のファイト、皆に任せてもいいか?俺は、応援に回る」
つまり小沢君は、自分から決勝のファイトを辞退しようとしている。私たちに、大一番の勝負を委ねて。
「正直、俺はチームの中では1番弱い。俺がファイトするよりは、まだ3人の方が可能性がある」
「そんなに期待してもらって悪いけど、私は弱いわよ?それに、デッキも調整したばかりだし」
「デッキについてはわかってる。けどな……森宮は強い。自分で過小評価するなよ。今だって、俺に勝っただろ」
「言ってくれるじゃないの。そこまで期待されたら、やってやるしかないじゃない」
もう完全に、弱気な気持ちとは縁を切ることができたみたいだ。森宮さんのポテンシャルは、完全に回復している。
「けど……いいんスか?せっかく決勝の舞台に来てるんスから、ファイトしたいって気持ちはないんスか?」
「佐原君……似たようなこと、私さっき聞いた気がするんだけど」
「わかってるっスよ。一応、ワタル君の口からハッキリ聞いておきたいと思ったんスよ」
それに対する小沢君の気持ちは、確かなものになっていた。
「それは……まぁ、俺もファイターだし、思うさ。けど、どうせならチームで勝ちたいしな。だから、今俺が見せるのは、降りる覚悟だ。自分の力を過信しないで、お前たちに託す」
自分の意志を押し通すのではなく、チームの意志を優先することを選んだ。これが、小沢君の決意といったところか。
「今日は俺が1番負けてるし。勝てたファイトの1つも、森宮がいてくれたから勝てたんだ。改めて、ありがとな」
「……っ!い、今更礼なんて言わなくてもいいわよ!そんな、大したことなんてしてないし!///」
あ、森宮さん後ろ向いた。顔真っ赤なんだろうな……。
「ちょっとリサさん?な~に照れちゃってるんスか?確かにすっごく恥ずかしいセリフだったし、乙女心には突き刺さるんじゃないかとは思うっスけどね~?」
「う、うるさい!ちょっと黙ってなさい!」
「森宮がいてくれたから……なんて、俺が言われてみたいっスね~」
乙女チックだよ、佐原君……。
「小沢君も、よくあのタイミングでそんなこと言えたっスね?」
「は?何のことだ?俺はただ、森宮のおかげで勝てたんだって言っただけだぞ」
「そしてまさかの無自覚キャラなんスか……」
私もそういうこと言われたら……ちょっと恥ずかしいかも。悪い気がするわけじゃないんだけどね。
「とにかく、話が脱線してしまったっスけど、小沢君は明日は応援に徹するってことでいいんスよね?」
「そうだ。勝手な話かもしれないが、少しでも可能性の高い結果に賭けるためだ。みんな……頼む」
頭を下げてまで、自分の提案を貫き通そうとする小沢君。佐原君は顔をあげるように促し、小沢君はしばらくしてゆっくりと顔をあげる。
「全く……これはまた、ずいぶんと大きなものを託されたっすね。そう思わないっスか?シオリさんにリサさん?」
「本当よ。弱いのを理由に、私たちに押し付けるなんて」
「でも、託されたからにはやるしかないよ。チームの勝利のためにも……小沢君の想いを背負って私たちは勝つ!全国はもう、すぐそこなんだ!」
明日のファイト。戦いに挑む者は決まった。私、森宮さん、そして佐原君。勝つか負けるか、この3人のファイトにかかっている。
「そうと決まれば、早速ファイトっス!このデッキを少しでも使えるようにしないと!」
「よし、佐原。今度は俺が相手になるぞ。これくらいなら、いくらでも付き合ってやるからな!」
「シオリさん。私たちもやるわよ!」
「うん。私だって、明日のためにファイトしないと!」
今、4人の想いは1つとなっていた。明日の決勝戦、どんなに強敵だとしても、決して引かず、屈せず、勝利をつかむと。
「「「「スタンドアップ!「ザ!」ヴァンガード!!」」」」
決意を込めて、4人のファイターは明日に臨む……。
*****
「どういうことだ!?説明してもらおうか!?」
「待ち伏せしていたのか?今日の予選が終わってから、1時間は経っているはずだぞ?」
時はさかのぼって数時間前。すでに観客やファイターは帰路につき、誰もいるはずのないホールの外。ボディーガードを引き連れて出てきた涼野マサミを待っていたのは、最上ナツキだった。
「君、マサミさんに何か用か?悪いが、この方は忙しいんだ。帰ってもら――」
「構わん。彼は私と面識があってな。私も少し2人きりで話をしたい。先に車を準備してくれないか?」
「しかし……」
「聞こえなかったか?2人きりで話がしたい」
「……マサミさんがそこまでおっしゃるのなら」
ボディーガードはナツキに訝し気な視線を送りながら、車を取りに行くためにその場を離れる。姿が見えなくなったところで、マサミが口を開いた。
「邪魔な奴らは消したぞ。それで、お前は私に何の用がある?」
「この事態はなんだ!?MFSのトラブル?たった6台使うだけだぞ?まさか、すべてのMFSが一度に故障したとでもいうのか!?」
「そうかもしれないし、そうではないのかもしれないな。どちらにせよ、もう今日の予選は終わった。観客も納得したうえで帰っている。どこが問題なのだ?」
「時間稼ぎでもしているんだろ。何かボロを出すことがないためにな!」
「ボロとは何だ?隠し事でもしているというのか?」
「そうだろう。あんたがあの時語った話が世間に知れ渡ったら、あんたの人生は終わりだからな」
こいつの話した計画は、忘れるわけがない。それほどまでに、衝撃を与えたものだったのだから。
「だが、それを事実だと決めつけるだけの証拠がどこにもない。俺は奴の情報さえ知れたらそれでいいが、話の流れでボロが出ることだけは避けたいだろ?」
正直あの話は現実味がないが、あの場で語って見せたこと、それに俺自身が不思議な力を秘めていることを考えれば、その可能性を拭い去ることは到底できない。
「あの話か。別にそんなもの気にもしていない。いずれ起こることなのだ。ヴァンガードの最新ブースターの情報も、発売前から出回るだろう?それと同じことだ」
「そのような軽々しい話ではなかったはずだ!」
「話が脱線しているぞ?もう少し冷静になった方がよいのではないか?」
そうだな……。つい熱が入ってしまったのだろうな。俺は一呼吸してから、話を戻す。
「今日の延期の原因、それはいったいなんだ?あんな理由で納得する方もそうだが、突き通す方もそうだと思うぞ」
「口が達者だな?まぁいい。選ばれた力を持つ先駆けの戦士だ。お前には、特別に教えてやる」
先駆けの戦士?俺はどうもその言葉が気になったが、今は放っておく。
「実は、ある人物と会う約束をしていてな。本来は明日だったのだが、向こう側に急に予定が入ってしまい、今日に繰り上げることとなった」
「そんな個人的な事情で、延期したのか!?」
「教えろと言ったのはお前だろう?他に理由などない。お前の言うボロの対策などもないし、奴のことで延期になどするか。どうせ明日になれば話すことなのだからな」
いくら大会の責任者だからと言っても、これは身勝手すぎるだろ。訴えてもいいレベルではないか?
「誰に会うつもりだ?」
「お前もよく知る人物だ」
「何?」
「過去の追憶……ヴェルレーデ」
ヴェルレーデ……。その名を聞くのも久しぶりだな。奴は今、どこで何をしているんだろうな?
「あいつに何の用があるんだ?」
「ちょっとしたプレゼントを贈りに行こうと思ってな」
「……は?」
何がプレゼントだ。ふざけているのか?
「まぁいい。ところであの約束は、本当に守ってくれるのだろうな?」
「しつこいぞ?お前という証人がいるだろう」
そんな言葉で信用できるほど、この女は甘くはないからな……。実際、表では誠実そうな大人の女性のくせに、裏ではとんでもないこと考えていたからな。
いや……待て。この状況を利用して、1つだけ約束を取り付けておくか。
「だが、あんたの事情だけで予定を狂わされたことは事実だ。その責任として、1つ約束してほしいことはある」
「何だ?私の計画についての情報がほしいか?」
「今情報が手に入ったところで、俺に何かできるとは思えないし、そうじゃない。あんた……ロメリアのことを覚えているよな?」
「忘れているわけがないだろう?未来の追憶ロメリア。ノスタルジアカップの時には会えなかったが、この予選には参加しているみたいだな」
「そのロメリアを、明日お前と会うときに同行させてもらう。それが約束だ」
こうでもしないと、星野に言ったことがただの口約束になってしまうからな。
「そのようなことでいいのか?むしろ歓迎しよう。ロメリア……星野シオリといったか?奴とは話をしたいと思っていたからな」
「あぁ。あいつにしても、俺にしても、ロメリアについては知りたいことがあるからな」
「どういうことだ?」
「あんたのいうアクセルリンク……今のロメリアの力は、俺たちの力とは明らかに異なったものに変化しているぞ」
初めて奴の表情に変化が生まれる。驚愕、疑念。そこにかすかに見える歓喜の面が、俺の肌を震わせる。
「ほう……そうか。それはまた興味深いな」
「知らなかったのか?」
「話は明日だ。本人がいなければ、話の仕様がない。私にもわからないのだからな。力の変化などといった現象は」
こいつも知らない?では、なぜ星野の力は……?
「マサミさん!そろそろ時間です!」
「わかった。では私は失礼する。いずれにせよ、すべては明日だ。ロメリアを連れてくること、忘れないようにな」
涼野マサミは一方的に話を切り上げて、車に乗り込む。俺のことなど気にも留めずに、車は走り出してしまった。
「……明日にならないと、奴の手掛かりは手に入らないのか」
だが仕方ない。本人がいない以上、どうすることもできない。
「願わくば、ファイトの約束まで取り付けることができればいいのだが……」
あいつには……借りがある。敗北と、侮蔑の。
涼野カズヤ。俺は、どこにいるのかもわからない彼の姿を探している。