では、どうぞ。
桜が散り始め、4月も残すところ少しとなってきた。そんな時期、世間では1つの話題で盛り上がっていた。それは、ヴァンガードの最新ブースター『封竜解放』についてである。
もう少しで発売するブースターについて、楽しみにしている人もいれば、欲しいクランが入っていないから相手にしていない人もいる。
そんな中、シオリ達も封竜解放について話しあっていた。
「早く封竜解放、発売しないかしら?アクアフォースのブレイクライド……使ってみたいのよ」
「私はゴールドパラディン収録されていないからいいかな……」
「星野さ~ん、何の話?」
すると、小沢君がこちらに来た。
「封竜解放について話してたんだ」
「新しいブースターか……かげろう入ってるし、楽しみなんだよね!」
「へぇ……あなた、かげろう使うのね」
と、ここで、森宮さんの話す相手が、私から小沢君に移った。
「俺は、オーバーロード使ってるんだ」
「オーバーロードか……またファイトしてみたいものね」
「本当に!?じゃあまたとか言わずに、今からやろう!」
「お、小沢君、今からするの?」
時計を見ると、次の授業が始まるまで10分をきっていた。さすがに10分足らずの時間でファイトするのは無理だ。
「無理よ、時間が無さすぎるわ」
「だったら、放課後は?」
「放課後も無理」
「何で!?」
「……ちょっと、星野さんに用があるの」
すると、再び森宮さんの話す相手が私になった。
「放課後、そうね……体育館裏に来てくれないかしら?そこで、話したいことがあるの」
「た……体育館裏?」
「ちょっと、大事な話があるのよ」
「……はぁ」
「だから、小沢君。ファイトの話はまた今度と言うことで」
「……おぅ」
***
その日の昼休み。
「何で体育館裏!?もっとこう……他に場所なかったの?」
「いや、俺に言われてもね……」
私は、小沢君とお昼ご飯の弁当を食べながら、森宮さんが私を放課後に呼び出した理由について考えていた。
「……まぁ体育館裏はともかく、何で森宮さんに呼ばれたんだろうね?何かあるの?」
「私にもわからない……。それに、森宮さんとはファイトしてまだそんなに経ってないし……あんまりお互いのこと知らなくて……」
ひょっとしたら、大した理由ではないのかもしれない。私が変に考えているだけで。だって、体育館裏に放課後呼び出されるなんて……。
「もしかしたら、体育館裏に不良を待ち構えさせてるかもな。それで星野さ━━━」
「いやーー!!止めて!思わないようにしてたのに止めて!!」
……何となく、あくまでイメージに過ぎないのだが、体育館裏に放課後呼び出されるのは、不良に暴力を振るわれるような気がしてならない。
「いや、冗談だよ。森宮さん、そんな悪い人に見えないけどな……」
「でも、何があるかわからないよ!?私、クラスで1人だし……周りからウザいとか思われても仕方ないし……」
「ちょ……卑屈になるなって」
「そんな私がいるのが目障りだからとか……あぁ、何か本当にそんな気がしてきた」
あくまで憶測。そんなことがないのは、わかっている。森宮さんは……まだ少ししか一緒にいないけど、そんなことしないって。
じゃあ、何で私を放課後に……!?
「大丈夫だよ、大した理由じゃないかも……」
「それさっき私考えてたよ!!」
そうであっては欲しいけど。
「……でも星野さん、関係ないけど、最近感情が表に出ていることが多くなったよね」
「……え」
「いいことだよ。俺とファイトするまで……1人の時は、こうやって話して、感情を表に出すこともなかったでしょ?」
「……それは」
そうだね。今こうして、小沢君と話して、森宮さんと出会って、あの日の……佐原君とのファイトも。
全て、楽しいと思える時間だ。1人だったら味わえない、そんな感情。それを表に出せているのは、小沢君の言う通り、いいことだと思う。
『シオリ!今日もファイトしようぜ!』
……そんな相手、いたんだけどね。私にも……。
「まぁ、でも行ってみようよ放課後。何もないと思うけど」
「えっ……で、でも」
「かと言って、森宮さんとの約束放って帰るのはどうかな……って。大丈夫、俺も行くよ」
「いや何で!?」
「何かあった時専用のボディーガードだよ」
……言い方はともかく、万が一の時には必要かもしれない。
「……わかった。じゃあ行ってみるよ。小沢君が一緒に来てくれるなら、心強いし」
「いや、本当に何かあったら不味いからさ……」
「まぁそうだよね……」
理由もわからず、不安も残る中、私達は放課後、体育館裏に向かうことにした……。
***
一方、その頃リサはと言うと、
「……やっぱり、体育館裏なんかに呼び出すべきじゃなかったわね……。不良が待ち構えられてるとか、変なイメージ持たれて、来なかったらどうしようかしら……」
……今さら体育館裏に呼び出したことを後悔しており、不良のイメージを与えてしまったかもと考えていた。
早い話、シオリと同じ事で悩んでいた。立場が違うだけで。
「大丈夫だとは思うけど……でももし、不良に対抗するのに、とんでもない暴漢連れて来たらどうしよう……」
……全く考えていることが同じだ。立場が違うだけで。
「……いや、私が放課後来るように言ったのよ……?呼んでおいて行かないなんてどうよ?それに、いざとなればトウジもいるし……よし!」
決心の仕方まで似通っているとは……。立場が違うだけで。
***
……で、放課後。
「お……小沢君、覚悟はいい?」
「どこに行くつもりなんだよ」
行きたくないな……せめて、どこかの空き教室に呼んでくれたら、幾分かは気が楽になったかもしれないのに……。
「じ、じゃあ行くよ?」
「わかったって」
こんな時でもいつもと変わりないって……どうしてそんな平然といられるの!?
そんなことを思いながら、私達は、体育館裏へとやって来た。だが、そこにまだ森宮さんはいなかった。
「まだ来てないのかな?」
「そうみたいだね」
不思議に思っていると、誰かがこちらに来た。
「……誰?」
「遠くから見た感じ、女子じゃないけど……?」
制服が明らかに男子用の物だと、遠くから見てもわかる。
その男子はだんだんとこちらに近づいて来る。
「……森宮さんが来ないで、何で男子がこっちに……!?」
「……マジでやばいんじゃ?」
こうなると、シオリだけでなく、ワタルにも恐怖が芽生え始めていた。
そう考えている間にも、どんどんこっちに歩いて来る。
「……逃げる?」
「それが最善……?」
私が逃げるように提案し、それに小沢君が賛成してくれたので、その場から逃げようとする。すると、
「ちょ、ちょっと待って!待ってって!」
私達のことを呼び止める男子……ん?この声、どこかで聞いたことがある……?
「ひょっとして……」
「お、俺っスよ!佐原トウジ、前にサンシャインで会ったじゃないスか!」
「佐原って……あ!あの時の!って言うか、佐原君ここの生徒だったの!?」
小沢君が思わぬ事実に驚く。私もまさか、一緒の学校にいたとは思わなかったし。
「1年2組、星野さんとは同学年っスよ」
「え!?そうなの!?」
「……マジか」
まさかの再開に、私は喜んだ。しかも、同じ学校の同じ学年だったとは。
「……ところで、佐原君はどうしてここに?」
「あぁ……ちょっと用があるって呼ばれて、ここに来たんスけど……まだ来てない見たいっスね」
「……用がある?」
その言葉に反応したのは小沢君だった。
「……一体何の用で?」
「大事な話があるんスよね。……星野さんと」
佐原君から私の名前が出たことに、小沢君は警戒を強める。森宮さんの代わりに佐原君が来た……。それだけで、何となく嫌な予感がしたからだ。
「星野さん、このまま待つのもどうかと思う……。佐原君が何企んでるかわからないし」
「え、いや、俺何にも企んでないっスよ?」
「……うん。私も何か企んでるような気がする」
「え~!?何でそんな風に思われるんスか!?俺、若干チャラいかもしれないっスけど……流石に今までそんな風に思われたことないっスよ!?」
「自分でチャラいって……」
トウジの方は、至って真面目なのだが、シオリ達の過度な考えがトウジを悪者のようにしか見えなくしている。
「あ~もう!俺はリサさんに呼ばれて、ここにいるんス!星野さんと話をするのに、俺もいる必要があるんスよ!!」
「……どういうこと?佐原君もいる必要があるって……」
佐原君は、しまったとばかりに目を逸らす。
「あ、いや、それは……」
「俺も気になる。どういうことなの?」
「え、えーと……」
(早く……来て欲しいっスよ!リサさん!!この状況をどうにかして欲しいっス!)
そんなトウジの願いが通じたのか、
「待たせたわね、星野さん」
トウジが待ち望んでいた人が来た。
「「森宮さん!?」」
「リサさん!!これはどういうことっスか!?来てすぐに悪者扱いされて、挙句、色々拷問されそうになったっスよ~!!」
「……何となく想像つくわ」
(やっぱり、体育館裏に呼んだのが不味かったわね……)
リサは心の中で自分の行いを悔いながらも、本題に入る。
「さて、星野さん。あなたをここに呼んだのは……大事な話があってのことなんだけど……」
森宮さんは小沢君の方を見て、
「小沢君、用事とかがあるなら帰っていいけど……ないなら一応あなたも聞いてくれない?」
「……何で?」
「まぁ、それは話を聞いたらわかるわよ」
「……そう?じゃあ、気になるし。俺もこのままいるよ」
「あれ?リサさん、いいんスか?こいつは関係ないんじゃ……」
「まぁいいのよ。……じゃあ、前置きが過ぎたから早速話すわ。単刀直入に言うわね」
森宮さんは一つ咳払いして、私を見る。その顔つきは真剣なものになり、佐原君も、さっきまでとは違い、真剣な表情になっていた。
「星野さんに……」
「…………」
「……私達のチームに入って欲しいの」
…………ん?
「チーム……?」
「ヴァンガードで全国を目指す……そのためのチームに、星野さんに入って欲しいの」
「……チーム」
私と……チームを組んで、全国を目指す……!?
「ちょ、ちょっと待って!それって……」
「私達、前からメンバーを探していたの。でも、なかなか有力な人は見つからなくて……」
「そんな時に出会ったのが星野さん。そして、実際にファイトして、この人となら全国に行ける!そう思ったんス」
驚きだった。まさかのチーム勧誘とは。……でも、
「私でいいの?私以上に強い人って、探せばいると思うし……」
「それで見つけていたら、去年の大会の参加を断念することなんてなかったっスよ」
「……去年から探して見つかってなかったんだ」
けど、そこまで見つからなかったなら、全国を目指すこと自体断念していてもおかしくなかったはずだ。
そこまで全国に行きたい訳とは……?
「ちょっと待った」
ここで口を開いたのは、小沢君だった。
「……俺にこの話を聞かせた理由は?」
「メンバーは何人でもいいの。だから、小沢君もチームに入るなら……」
「本当に!?じゃあ、俺入━━」
「……いや、ちょっとストップっスよ、リサさん。それに、あんたもね」
そこに割り込んできたのは、佐原君だった。
「何で?」
「軽い気持ちでチームに入りたいなんて……そう思うなら、止めて欲しいって思ったんスよ」
「……っ」
「え、ちょっと佐原君。言い過ぎだよ。小沢君は━━」
「俺たちは、本気で全国を目指している。その道のりは険しいし、途中で挫けてしまうかもしれない。生半可な気持ちじゃ、後で後悔する。そんな想いをさせてまで、チームに誘うつもりはない。そんだけっスよ」
遊び感覚で目指しているのとは訳が違う。佐原君もだけど、森宮さんの目も本気だった。
「それは星野さんも同じ。俺たちの望んだ実力があったから、こうして誘った。でも、無理強いさせて、俺たちの挑戦に巻き込ませる訳にもいかないんス」
「確かに、トウジの言うとおりね。だから、去年も泣く泣く辞退してるんだし。そう言うことだから……嫌ならそう言って欲しいわ。潔く手を引く」
2人の言葉を聞いて、体育館裏には、しばらく静寂が続いた。
チームの勧誘。興味もあるし、自分のことを買ってくれている。だったら、入ってもいいのかもしれない。
けど、私の方だって、2人の本気に応えられる程の実力があるかどうか……。
「……俺は、チームに入りたいよ」
そんな静寂を破ったのは、小沢君だった。
「明確な目標って言うのかな?そんなのが、まだ俺にはないから……2人が羨ましい。だからさ、俺にもそんな目標とか、見つけられたらいいなって、思ったんだ」
「あんたの実力は……まだよくわかってないっス。これから先、負けることの方が多いかもしれない。それでも、俺たちと一緒に、戦ってくれるっスか?」
「もちろんだよ。できる限りの力は尽くす」
「……そっスか」
と、佐原君の表情が緩んだ。
「怖じ気づかずに、よく自分からチームに入りたいなんて言ってくれたっスね。本当にありがたいっス。あんたを、チームの一員に加えるっスよ」
「あ……ありがとう!」
「それはこっちの台詞っス。んで……」
「……星野さんはどう?」
「森宮さん。そうだね……」
この2人は、私の力を必要としている。自分では、そんな大層な実力があるようには思えない。けど、
「……私も、入ろうかな?チームに」
「いいの?嫌なら嫌って……」
「大丈夫だよ。2人みたいに、何か目標がある訳じゃないけど……目指して見たいなって思ったから」
いきなりの勧誘。驚いたけど、私はチームに入ることに決めた。全国……私も、前にヴァンガードをしていた時から、一応目指していたし。
だったら、もう一度目指して見てもいいかもしれない。新しいアルフレッドと、このチームで全国に行くのも……悪くないかな?って。……軽はずみかもしれないけど。
「本当に!?ありがとう!じゃあ、一緒に全国を目指しましょう、星野……いや、シオリさん!」
一緒に全国へ。シオリの全国への道が、今始まった……。
***
「……と、これはこれで置いといて」
と、ここで森宮さんが、小沢君の方を見る。すると、森宮さんは、手にしたカバンからデッキケースを取り出し、
「なら、今からファイトよ小沢君」
「……え?」
私も、え?と心の中で思っていた。
「何でファイト?」
「当たり前でしょ?星野さんは実力を見て勧誘したけど、小沢君とはファイトしたことないし、ファイトの様子も見たことない。だから、実力がどれほどのものかファイトで見せて貰うのよ」
「リサさん……マジっスか?」
「これまでだってそうして来たでしょ!?強さを測るには、ファイトするのが一番よ」
なるほど……。ん?じゃあ、佐原君や森宮さんとファイトしたのは、単なる品定め……?
「それに、今日の休み時間に言ってたわよね?ファイトしてみたいって。だから、その申し出を受ける意味合いでもあるわ」
「……そう言うこと。わかった!そのファイト、受けてやる!」
小沢君はこれを承諾。まぁ、ファイトの結果でチームに入るかどうかを決める訳じゃないし、気楽なものだろう。
こうして、2人のファイトが、今始まる━━━