つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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前回からナツキの過去編がスタート。今回も、全編過去です。リサの時みたいに、話数は多くなりそうなので、しばらくこんな感じです。

と言ってる状況なのに、そろそろ小説を書く時間が取れなくなりそうな雰囲気になりかけてます……。

でも、秋予選編も残りわずか!過去編が終われば、新章はすぐそこです!

では、どうぞ!


ride61 リアン

兄であること。ただそれだけのために、俺はヴァンガードを始めた。上手くなりたいとか、他人と仲良くなりたいとか、そんなことは重要ではなかった。

 

ただ、タツヤよりも強くいられたら、それでよかったんだ。

 

けど……その渇望は、歪んだものだったんだ。今だからこそわかる。

 

ヴァンガードに縋り、強さを求めて、その先に待っていたのは……狂った恐怖だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ヴァンガードと出会った俺は、タツヤと約束していたように、ショップに向かっていた。借り物のデッキではなく、自分で納得したデッキを作るために。

 

「色々あるんだな。ヴァンガードのカードも」

 

「そうだよ。ヴァンガードには、クランと呼ばれる集団がある。そのクランにはそれぞれ特徴があって、クランを統一することで安定したデッキが組めるんだ」

 

「なるほどな……」

 

「俺は向こうのカードを見てくるから、何かいいカードが見つかったら声かけてよ」

 

「あぁ」

 

それにしてもタツヤの奴、生き生きしてるな。俺がヴァンガードを始めるからか?それなら、俺も悪い気はしない。兄として慕ってくれるのなら、俺は喜んでヴァンガードにのめりこんでやる。

 

「カードを探しているのかい?」

 

「え?あぁ……ヴァンガードを始めようと思ってる」

 

「なるほど。君の様子から、何となくそうだろうと思ったよ」

 

店員が声をかけてきた。俺がカードをマジマジと見ていたからだろう。それに、俺が初心者だということも見抜いてきた。

 

「弟にルールだけは教わったんだ。今日は自分のデッキを作るのに、ここに来た」

 

「そうだったんだ」

 

「何かお勧めのカードとか、ないですか?初心者にも扱いやすいカードとか」

 

「そうだな……。初心者で、使いやすさを考えると……あれかな」

 

店員はカード売り場の方に向かい、あるものを取ってくる。それは、赤いパッケージにクールな男子の描かれたデッキだった。

 

「帝国の暴竜。かげろうのトライアルデッキなんだ」

 

「かげろう……」

 

「そう。これ1つでファイトはできるし、デッキとしても申し分ない強さはある。もし不安でも、かげろうはカードの種類が豊富だから、強化するのは簡単だよ」

 

……かげろう、か。悪くないかもしれないな。

 

「どうする?」

 

「……そのデッキ買おう。後、かげろうのカードをいくつか見せてほしい」

 

「なら、かげろうのカードが収録されているブースターパックをいくつか紹介するよ」

 

「ありがとうございます」

 

こうして俺は、かげろうを使うことに決めた。今使っているシャドウパラディンは……また違ったきっかけで使うことになったんだ。

だからあの時はかげろうを使い続ける気でいたし、シャドウパラディンを使うつもりなんて毛頭なかった。

 

「あっ、兄さん。デッキ決めたんだ」

 

「店員に教えてもらってな。かげろうにした」

 

「かげろうか。うん、いいんじゃない?」

 

実際に使ってないから、まだ何とも言えないけどな。

 

「とりあえず会計済ませてくるから、少し待ってろ」

 

「じゃあ、デッキ作ったら俺とファイトしようよ」

 

「いいぞ。望むところだ」

 

俺はトライアルデッキを開封し、別で買ったブースターのカードを合わせてデッキを調整する。やがて、50枚の束が完成すると、俺は近くで待っていたタツヤに声をかける。

 

「よし、いいぞタツヤ。かかってこい」

 

「やけに強気だね。これが最初の実践でしょ?」

 

苦笑されるが、俺には勝つつもりでしかなかった。負けたらそれは、俺が兄としての強さを失うことになる。ヴァンガードだけが、俺を強くしてくれるのだから。

 

「ふん。俺を甘く見るなよ?このファイト、俺が勝ってやる」

 

「言ったね?昨日のようにはいかないから」

 

「そうか。それは楽しみだ」

 

互いにファーストヴァンガードを伏せ、手札を引く。

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

本当にいいな……ヴァンガードは。いつも聞いているはずの『兄さん』という言葉が、心地よく聞こえてくる。兄としての実感が芽生えてくる。

 

今日は昨日と違って借り物のデッキではない。自分なりに作り、使いやすくしたデッキだ。遅れをとることなど……ない!

 

「ヴァンガードにアタック!」

 

「これなら防げる!ガードだ!」

 

「く……あのアタックを耐えきるなんて……。ターンエンド」

 

「なら、俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

俺の思い通りにデッキが動く。昨日よりも上手くファイトを進められている気がする。これならいける!

 

「終わりだ!ヴァンガードにアタック!」

 

「ガードできない……。ノーガード!ダメージチェック……トリガー発動!」

 

何!?

 

「……と言っても、クリティカルだよ。俺の負け」

 

何だ……少し焦っただろ……。もしヒールだったら、次のターンで負けていたかもしれない。

 

「兄さんの言う通りだね。今日の兄さんは、昨日よりも手が付けられなかった」

 

「タツヤもそう思うか?俺も使いやすかった。安定したファイトができたな」

 

「俺も昨日からデッキを少し変えたんだけどな。けど、次は勝つから!」

 

また、その言葉を聞くことができた。そうやって、俺を見てくれることが嬉しい。だから、またタツヤの口からその言葉を聞くために、ヴァンガードで勝たないといけないな。

 

「どう?使いやすかった?」

 

「さっきの店員か……。あぁ。俺に合っているデッキだったよ。ありがとう」

 

「いやいや、礼を言われることじゃないから。また何かあれば、アドバイスでも何でもするからね」

 

「何から何まで、感謝します」

 

その日はこの後に3戦ファイトした。結果は俺の全勝。やはり、負けるイメージが全然湧いてこない。

 

だが、もし負けてしまったらと考えると……少し恐ろしくもあった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード。ダメージ……くっ、ダメだ。また負けた!」

 

ある日の事。俺はタツヤと一緒にいつものショップに来ていた。あれから少しずつデッキも強化し、より磨きがかかっていた。だが、タツヤも日々強くなっている。気が抜けないな。

 

「始めたばかりなのに、もうここまで強くなるなんて……間違いなく、兄さんはヴァンガードの才能があるよ、うん」

 

「そうやって褒めてくれるなら、俺もヴァンガードを始めた甲斐があったということだな」

 

俺はデッキを片付けながら、カードに目を通す。お前たちのおかげで、俺は兄になれるんだ。ありがとう。

 

と、そんな俺に近づいてくる1人の男性。手にはヴァンガードのデッキを持っている。

 

「君、さっき目に留まってファイトを見てたけど、なかなか強いね。よかったら、ファイトしない?」

 

「俺か?」

 

「君以外に誰がいるのさ」

 

まさか、ファイトの誘いを受けるとは。俺はタツヤと顔を見合わせ、タツヤが無言で促す。ファイトを受けてみたら、と。

 

「……わかった。その勝負受けよう」

 

「ありがとう。早速ファイトしようか」

 

「あぁ。だが、あまり期待するなよ?これでも始めたばかりだし、タツヤ以外の人とはファイトしたことがないからな」

 

「えっ、初心者!?それに、この人以外に対人戦をしたことない!?」

 

そこまで驚かれると、俺も困惑する。俺の強さは、傍目から見ても申し分ないものになっていたのか。

 

「弟なんだ。ルールもタツヤに教えてもらった」

 

「凄い……。それであのファイトをするんだね……。これは、君もそうだけど、弟さんもなかなかの腕前みたいだね」

 

「いや、俺は何もしてないよ。兄さんの飲み込みが早かっただけだって」

 

「謙遜しなくてもいいよ。その飲み込みを助けたのは、他でもない君なんだから」

 

「……そう言われると、悪い気はしませんね」

 

俺も、弟が褒められて嬉しくないわけがない。すっかり上機嫌になった俺は、手に持っていたデッキを構えなおす。

 

「ここまでお膳立てされると、みっともないファイトするわけにもいかないな。やろうか、ヴァンガードを!」

 

「よし、そう来ないと!」

 

ファイトの準備を済ませ、ファーストヴァンガードに手をかける。

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

タツヤが見ているんだ。このファイト、負けるわけにはいかないぞ。

 

「俺のターン、ドロー。ライド!」

 

「コールして、ヴァンガードにアタック!」

 

「やらせないよ、ガード!」

 

「なら、こっちはインターセプトだ!」

 

今まではタツヤとのファイトしか経験してこなかった。だから、タツヤのプレイスタイルを把握した上で戦術を立てていた部分があったのかもしれない。

 

だが、今回は未知の相手だ。出方を探りながら、盤面に警戒して行動していかないといけない。

いつもよりも頭を使う。それが、この時の俺には楽しく感じた。思考を働かせ、勝利の道筋をイメージすることが。

 

そんなファイトにも、終わりが近づいている。

 

「これで終わりだ!トリガーの効果を乗せたリアガードで、アタック!」

 

「くっ、ノーガード!ダメージチェック、トリガーなし。僕の負けだね」

 

相手の盤面に綺麗に置かれた6枚のダメージ。それは、俺の勝利を証明していた。

 

「……勝てた」

 

タツヤ以外の相手にも、俺は勝つことができたんだ。負けるつもりがなかったとはいえ、勝てるとは思えなかった。まして俺は初心者。相手は、恐らく経験者のはず。

 

「やったね、兄さん!勝っちゃったよ!」

 

その喜びように、俺も興奮が沸き上がる。だが、寸でのところで抑え込んだ。

 

「素晴らしいよ!僕も自信あったけど、負けるとはね!」

 

「俺も正直、勝てたのが信じられないんだ。途中も危ない場面が何回かあったしな……」

 

「あ、そうだ。それだけ強いなら、ショップ大会とかに参加する気とかない?」

 

俺が……ショップ大会?

 

「君ならいい線行くと思うんだけどな!弟さんも、どうかな?」

 

「今度の日曜日だよね?」

 

「うん。まだエントリーは受け付けていたはずだから、予定とか空いているなら参加しない?」

 

そうだな……。この人とファイトして勝てたんだ。タツヤとばかり相手をするのもいいが、自分の実力がどれほどのものか、試してみるのも悪くはないだろう。

 

「よし、エントリーしよう。店員に申し込みをお願いしてくる」

 

「俺も参加するよ。兄さんが参加するなら、なおさらね」

 

俺が参加するなら。なんて嬉しい言葉なんだ。

 

その悦びは、少しずつ俺を狂わせる。

 

いや、既に狂っていたのかもしれない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「まさか、ショップ大会とはな」

 

「俺も久しぶりだな。前は準決勝まで行ったんだけどね」

 

そんなに強かったのか。改めて、俺はタツヤが優れていることを痛感する。

 

そして、そんなタツヤを打ち負かし、強者として存在している俺自身を誇らしく感じていた。

 

「兄さんはどこまで行けるだろう?もしかしたら、優勝するなんてこともあるかもしれないね」

 

「よしてくれ。いくら俺でも、そこまで強くはないよ」

 

口では弱気な事を言っているが、内心ではただただ俺の強さを持ち上げてくれることに悦楽を感じていた。

 

だから、少し調子に乗ってみることにした。

 

「……なぁ、タツヤ」

 

「何?」

 

「アイスでも買っていくか」

 

ちょうど見えてきたコンビニの前で、俺は立ち止まる。タツヤのために、何かしてやろうと思った結果がこれだ。

 

「えっ、奢り?俺今、金ないんだけど」

 

「任せろ。タツヤの分も買ってやる」

 

「いいの?ありがとう!」

 

弟の分を奢ってやるなんて、我ながら兄らしいことができているな。俺たちはコンビニの中に入り、自分のアイスを選ぶ。会計の際に気まずそうにしていたが、俺の奢りで買ってやった。

 

「ほら、タツヤ」

 

「ありがと、兄さん」

 

コンビニの外に出て、俺たちは並んでアイスを口にする。思えば、こんな風にタツヤと一緒に買い食いしたことなんてなかったな。

 

「悪いね、兄さん。今度お金返そうか?」

 

「友達から金借りたわけじゃないのに、何言ってるんだ。俺たちは……兄弟、だろ?」

 

「そうだね。なら、喜んでいただくよ」

 

冷たそうにアイスを口にするタツヤ。俺も一口食べる。冷たいのに、ほんのりと暖かな味が広がった。

 

こんなことができるのは、ヴァンガードのおかげだ。俺の求めていた理想の自分を、ヴァンガードは与えてくれる。

 

これからも俺に、兄でいる悦びを見せてくれ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

それから数日後。俺はタツヤと一緒にショップを訪れていた。興奮したからなのか、それとも緊張しているのか、大会の開始時刻よりもかなり前からいたのだが。

 

にしても、今更になって思うのだが……ヴァンガードの知名度は相当なものみたいだな。ありふれたショップの大会にすら、歩くのが困難なほどの参加者が押し寄せているのだから。

 

「タツヤ、デッキの調子はどうだ?」

 

「問題ないよ。兄さんは?」

 

「この日のために新しいカードを買ったからな。デッキは強くなっている」

 

手塩にかけて作ったデッキ。その披露会でもある。

 

「けど、凄い人数だね……。30、いや40はいるんじゃない?」

 

「だろうな。これは勝ち進むのは難しいな」

 

ファイトの経験だけなら、ここにいる奴らの大半が俺よりも勝っている。だが、それだけで勝敗の全てを決めるわけではないと教えてくれたのは、このヴァンガードというカードゲーム。そして、タツヤだ。

 

『あーあー。間もなく、ショップ大会を始めます!参加者の皆さんは、こちらの方に集合してください!』

 

どうやら始まるようだ。俺は店員の指示に従って、指定された場所に移動する。

 

『はい、では今からヴァンガードのショップ大会を始めます。本来32名の定員でしたが、参加者が多かったので、倍の64名を定員として行うことになりました』

 

64人!?予想よりも多い。だからこの人数なのか……。

 

『試合はトーナメント形式で行います。最後まで勝ち残った人が優勝です』

 

トーナメントか。つまり、1回でも負けたらそこで敗退ということか。

 

『では、トーナメント表を張り出しますので、参加者は指定された番号のテーブルについてください』

 

「いよいよだね、兄さん」

 

「あぁ。とにかく1回でも多く勝つぞ。さすがに初戦敗退だけは避けたいしな」

 

一言言葉を交わすと、俺はタツヤとは違うテーブルに向かう。既に対戦相手は席に座っていて、デッキをシャッフルしていた。

慣れた手つきだ。俺なんかとは、積み重ねてきたキャリアが違う。まだ初心者でしかない俺には、ハッキリ言って不安だ。

 

だが……この場にはタツヤがいる。こんな状況で、負ける姿を見せるわけにはいかない。何が何でも、勝ってやる!

 

『テーブルにつきましたね?それでは、1回戦を始めてください!』

 

「「「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」」」

 

こうして始まったショップ大会。それぞれのテーブルで、激しいファイトが繰り広げられていた。

 

「ヴァンガードにアタックだ!」

 

「ガード、インターセプト!」

 

そして1人。また1人と敗退していく者が現れていく。気づけば、3回戦が終わろうとしていた。

 

「これでどうだ!」

 

「ヒールトリガーさえ出たら……ダメージチェック!」

 

タツヤがダメージチェックを行う。だが、その結果には恵まれず、6枚のダメージが並んでしまった。

 

「俺の負けですね」

 

「ありがとうございました」

 

ここでタツヤが敗退。だが、本人は2回勝っているからと、満足そうにデッキを片付けた。

 

「さて、兄さんはどうなっているかな?」

 

タツヤはナツキの姿を探してショップを歩き回る。すると、人だかりができているテーブルを見つけることができた。もしかしてと思い、タツヤはそこに向かうと……。

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー。ライド、コール共になし。そのままヴァンガードでアタック!」

 

「う……まだだ!ガード!」

 

「トリガー1枚か。……いいだろう。ツインドライブ!ファーストチェック、トリガーなし。セカンドチェック、ゲット!クリティカルトリガー!」

 

「なっ!?ダメージチェック、1枚はヒールトリガーだけど……もう1枚はトリガーなし。俺の負けだよ」

 

対戦相手が握手を求めてきた。俺はそれに応え、差し出された手を握り返す。と、近くにタツヤがいることに気づいた俺は、軽く言葉を交わした後にタツヤの元に向かう。

 

「凄い……兄さん勝ち残っているね」

 

「そうみたいだ。デッキが上手く回っている証拠だな」

 

俺も正直驚いている。まだ始めて日も浅いというのに、勝ち残っているとは。本当に、俺はヴァンガードの才能があるのかもしれない……。

 

「まだ残ってるみたいだね」

 

「あんたは確か、前にファイトした……」

 

声をかけてきたのは、初めて対人戦を行った時の相手だった。記念すべき初戦の相手を、忘れるわけがない。

 

「俺の見込みは正しかったみたいだ。かなりいい線行ってるよ」

 

「あんたはどうなんだ?まだ残っているのか?」

 

「残念ながら、負けてしまってね。君の弟さんに勝ちを譲った結果だよ」

 

「それだと語弊があるから。俺が実力で勝ったんだ。まぁ、俺さっき負けたけど」

 

なら、残っているのは俺だけか。一体どこまでいけるんだろうな?

 

「……おっと、次のファイトが始まるみたいだ。行ってくる」

 

「うん。頑張ってね、兄さん!」

 

そうして俺は、その後も順調に勝ち続けた。そのたびにタツヤに称賛される。それが嬉しくて、俺の力へと変化していく。

 

やがて参加者の姿は少なくなり、残ったのは2人。つまり……。

 

「お前が決勝の相手か」

 

「あぁ。お手柔らかに頼む。これでも初心者だからな」

 

「まぐれ勝ちってか?悪いが、勝負である以上は遠慮できないぜ?」

 

「なら、俺も全力で挑むだけだ」

 

相手はやけに自身があるようだ。常連か?よくはわからないが、俺にできることをするだけ。そして、その時は来た。

 

「こいつでどうだよ!アタック!」

 

「甘いな、完全ガード!」

 

「持っていたか。けど、残りの手札でこのアタックを止められるか!?」

 

「防ぐさ。ここまで来て……俺は負けん!ガード!!」

 

「な……俺の必勝パターンで、仕留めきれなかっただと!?」

 

これで俺にターンが回る。このままなら、勝てる。

 

「いけるか……?俺のターン、スタンドアンドドロー。ライドせずに、リアガードをコール」

 

「ここまでか……!?」

 

「行くぞ!ブーストをつけて、ヴァンガードに……アタック!」

 

「まだ終わらない!ノーガード!!」

 

デッキのカードをめくり、すがるように確認する。だが、無常にもトリガーはない。ダメージにカードを置き、対戦相手は1度俯いた後で、

 

「……完敗だ。強いな、あんた!」

 

俺に対する敬意をもって、称賛の言葉を口にした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……今でも実感が持てないんだが」

 

「けど、すごかったよ兄さん。大会が終わってから、大変だったね」

 

俺はショップ大会に優勝した。まさかとは思ったが、それが事実だった。

 

そんな優勝を無名のファイターが成し遂げたことに、周囲のファイターが何も関心を持たないわけがない。

俺は周りから質問攻めにあい、ファイトを申し込まれるほどだった。さすがに疲れていたため、ファイトは後日ということで片をつけた。

 

「だが、信じられないな……。まさか、俺が優勝するとは……」

 

「いや、それだけのことをする力があるから、俺も兄さんには勝てないし、勝ちたいんだよ。俺なんか、3回戦止まりだし」

 

「そんな大げさな……」

 

「大げさじゃない。今日のファイト見て、なおさら勝ちたいって思えたよ。こんな偉大な兄さん、絶対に超えたいって」

 

偉大と来たか。だが、俺が勝つことでタツヤが俺をより大きな目標として見てくれるのなら……ありなのかもしれない。俺にあのまなざしを向けてくれるのなら。

 

今までは、俺がタツヤの上にいることで、タツヤが超えたいと思える俺を作り出していた。だが、これからは俺がヴァンガードで強くなることで、偉大な兄の姿を作り出す。

 

だからこそ、俺は強くあり続けようとした。他人とのファイトで経験を積み、ショップ大会で力を誇示する。それが、俺の全てだった。

 

さすがに負け知らずではなかった。むしろ、あのショップ大会が奇跡の産物だと、そう思うようになった。だが、そんな中でもタツヤにだけは負けないように努めていた。

 

そんな俺も、ファイトを重ねるごとに実力が高まっていた。負ける回数は目に見えてなくなり、ショップ大会では好成績。いつしか俺は、名の知れたファイターへと昇華されていた。

 

タツヤはそんな俺を倒そうと必死になって挑んでくるも、全て返り討ちにしてやる。兄でいるためには、お前よりも高く、強くいなくてはいけない。

 

だが、今思うと……もうこの時の俺は、正気ではなかったのかもしれない。ヴァンガードを続ける目的が、理想の自分を保ち続けることなのだから。

 

楽しさ、相手との交流。そんなものは後回しだ。ただ強さだけを俺に差し出してくれたら、それでいい。この時の俺はそんな考えを心の底で抱いていた。

 

それでも、まだこの時は正気をわずかに残していたのかもしれない。ファイトに楽しさを見出すこともできたし、ファイトの後に語り合う一時は、なくてはならないものだった。

 

そんな俺がわずかな正気を失い、強さだけを求めておかしくなってしまったのは……あの少年に出会ってからだった。

 

「すいません。ショップ大会のエントリーをしたいんですが」

 

「あっ、ナツキ君か。今回も参加してくれるの?」

 

「えぇ、まぁ。俺も暇なので」

 

「ナツキ君がいてくれたら嬉しいよ。参加者が増えるからね」

 

ある日のことだ。俺はいつものようにショップ大会に参加するため、エントリーを済ませようとしている時だった。

 

ショップの扉が開く音が聞こえ、俺は無意識に視線を向ける。そこにいたのは、最早常連の仲間入りを果たしていた俺も見慣れない人物だった。

 

「へぇ~。ここもいいショップだ……。雰囲気もそうだし、何より楽しそうにみんなファイトしている。いいね……こういうの」

 

白銀の髪を持つ、俺と同年代らしい少年。もしかして外国人か?いや、さっきの独り言は、流ちょうな日本語を使っていた。そう決めつけるにはまだ早いか。

 

その内容から考えると、彼はいろんなショップを巡っているのだろう。目的はともかく、強いファイターなのかもしれない。

 

「すいません店員さん!次のショップ大会っていつですかね?」

 

「次は日曜日だね。君も参加するの?」

 

「日曜日なら大丈夫かな。はい、参加します!」

 

俺の隣で参加用紙を貰い、必要事項を記入していく。そっとのぞき込むと、綺麗な日本語を書いている。

 

「俺の事が気になる?」

 

「……あっ、いやすまない。あんたもショップ大会に参加するのかと思ってな」

 

「そうだよ。その様子だと、君も?」

 

「あぁ。最上ナツキだ」

 

「俺はリアン。ショップ大会で当たったら、その時はよろしく頼むよ」

 

彼こそが、俺が狂ってしまった要因を作り出した……張本人だった。

 

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