つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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という訳で、連日投稿です。

で、前回に話していた事ですが……正直言いにくい話です。

と言うのも、また新しい小説を書きたいと思いまして……。まだ投稿はしないですが、そちらを書くのに時間を使っていたと言う事情が。ちなみに、ヴァンガードの小説ではないです。

本当に時空の先導者がどうなるかわからないですが、あちらも近いうちに投稿します。

長くなりましたが、予告と言う意味合いも兼ねてなので。

では、どうぞ。


ride64 空虚な強者と怠惰な弱者

アクセルリンクを手にしてからというものの、俺は周りでは敵なしとなっていた。

 

ショップ大会で優勝するのは当たり前。たまにショップに来る武者修行のファイターも、ひねりつぶしてやった。

 

デッキが見える。次に何をドローするのかが見える。トリガーが来るのか、それによって俺はどうファイトすればいいのか全てわかる。俺はただ、決められた道を歩くだけだった。

 

それに対して周りの反応はというと……。

 

「あ……すみません。俺、あんたとファイトしたくないんで」

 

「やっても勝ち目ないし。つまらないし」

 

「イカサマみたいなことして、やってて楽しいの?」

 

疑いの目を向け、勝てないからと勝負を放棄する。俺を恐れ、距離を置き、ついには誰もファイトを挑んでくることはなかった。

 

ショップ大会ですら、対戦相手が棄権するほど。そのため、俺はシード枠に固定される始末だ。

早い話が、俺以外で優勝者を決めているようなもの。のけ者にされているだけだった。

 

だが、俺はそんなことどうでもよかった。ただ強くなっていれば、それでいい。周りが冷めた態度をとるのは、俺が強いからだ。その証明だ。

 

その強さは、俺が兄であることを決定づける。もはやそれ以外に何が必要だ?何もいらない。

 

タツヤよりも高く、強く。それだけが、俺を形作るピースでしかない。

 

「ふっ、ははっ……!すごい、すごいぞ。この力は!」

 

今になって思えば、本当におかしかったんだ。この時の俺は。もう何が正しくて、何が間違っているかの区別がつかない。

兄でいる。その感情だけが先回りして、全てを支配させる。俺の中の全てを。

 

「……兄さん」

 

「ん?タツヤか、どうした?」

 

この頃、タツヤは俺を遠ざけているような素振りを見せていた。周りの目に映るのと同じように、俺を恐れているような……。

 

「い、いや……」

 

歯切れが悪い。何か隠し事か?それとも、兄さんに対して遠慮でもしているのか?そんな気遣いなんて無用なのに。

 

「……あのさ、兄さん。ちょっと話があるんだけど……」

 

「話?兄さんに何でも言ってみろ」

 

やけに緊張している。肩が強張り、力が入っている。恥ずかしいのか?

 

「……最近の、兄さんってさ」

 

「最近の俺?」

 

「ちょっと、その……」

 

オウム返しで聞き返すが、納得いく返事が来ない。そのまましばらく無言の状態が続き、ようやく開口一番に告げたのは、

 

「……ごめん。やっぱり何でもない。この話は、また今度にしてくれる?」

 

「思わせぶりだな。いいぞ。兄さんはいつでも聞いてやる」

 

一体何を言おうとしていたのか。この時の俺は、全く想像もついていなかった。

 

「そう言えば、最近ファイトに誘ってこないじゃないか。どうだ?兄さんとファイトしないか?」

 

「あ……ファイトはいいよ」

 

「そうか?俺は久しぶりにタツヤとファイトしたいんだけどな」

 

「……腕が鈍ってさ。今の俺、兄さんの足元にも及ばないよ」

 

「……そうか。残念だな。タツヤは俺とファイトするのが嫌なんだな」

 

「え、いや、そういうわけじゃ……」

 

適当な理由をつけて、俺を避けようとしている。何故だ?俺が何かしたのか?俺は強くなった。それでもまだ、足りないのか?

 

もっと、強くならないといけないな……。

 

「あ、そうだ。さっき兄さんあてに手紙が来ていたけど……」

 

「手紙?」

 

タツヤから受け取ったのは、差出人不明の白い長封筒だった。俺への手紙とは……心当たりは何もない。

 

「そ、それじゃあ俺は自分の部屋に戻るよ。宿題も残ってるし」

 

「兄さんが手伝ってやろうか?」

 

「……いいよ。自分でしないと、ためにならないから」

 

タツヤはやけに速足で部屋を出ていった。そんなに宿題が多いのか?手伝ってやってもよかったのに。

まぁいい。本人が必要ないと言っているのだから、兄さんが口を出すわけにはいかない。嫌われたら大変だ。

 

それよりも、この手紙だ。一体誰が、何の目的で……。

 

俺は封筒を破り、中を確認する。そこには、1枚の文面が。タイプ文字で書かれた内容は、このようなものだった。

 

『最上ナツキ殿。あなたを、2週間後に開催されるノスタルジアカップへと招待します。場所は、ディスティニースタジアムです。お待ちしております』

 

聞いたことのない大会だった。ヴァンガードの大会と言えば、グランドマスターカップがある。

だがあれは、チームで自由に参加できるもので、招待を受けて参加するものではない。というより、招待制の大会を聞いたことがなかった。

 

招待される理由はわからない。何かに申し込んだ記憶もないし、間違って送られてきた……のも考えられない。間違いなく俺の名前だしな……。

 

だが、俺はすぐに決断していた。ノスタルジアカップへの参加を。

 

せいぜいショップ大会レベルの大会にしか参加したことがなかった俺だ。狭い場所に閉じこもるよりは、広い場所で自分の力を誇示して見せようという想いがあった。

 

それに、そんな大舞台で活躍する俺の姿を見せれば、タツヤも俺のことを今よりも尊敬してくれる。いいこと尽くしじゃないか。

 

「……せっかく招待されたんだ。必ず勝ってやる」

 

気が早いかもしれないが、俺には負けるつもりはない。なぜなら、アクセルリンクがある。あの力が俺を、強者たらしめてくれる。

 

「それに、俺には新しく組んだこのデッキがあるからな」

 

シャドウパラディン。あれから俺は、カードを集めて自力でデッキを組んでいた。

 

あの店では相手にならないと、違うショップでファイトの腕を磨いていたが、結果は申し分ない。かげろうよりも安定し、俺の手にすんなりと馴染んでくる。

 

何気に、このクランを調べる過程で知った、アニメの赤髪の青年のスタンドアップの口上も真似するようになってしまった。

 

それほど、俺はこのクランに心酔していた。

 

この力とこのデッキ。俺に恐れるものなど何もない。

 

結果など、見るまでもなくわかり切っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『ええっ!?言えなかったんですか!?』

 

「そんなに大声出さないでよ……」

 

電話の先でヒロムがうるさくしているのを聞き、俺のテンションは下がる一方だ。けど、それはヒロムのせいだけじゃない。

 

『どうして言えなかったんですか!?今のナツキさんはおかしいんだって、ちゃんとわかってもらうんでしょ!?』

 

「……言うつもりだったよ。けど、ダメだった。兄さんを目の前にすると、どうしても言葉が出なかった。ある程度まとまっていたはずだったのに、急にわからなくなってさ……」

 

兄さんに何を言えばいいのか。何を言えば、言葉は届くのか。今の兄さんを間近で見てしまったら、その答えがわからなくなった。

 

「ごめん、ヒロム。せっかく相談に乗ってもらえたのに」

 

『何言ってるんですか。協力はするって言ったでしょう?』

 

「それはそうだけどさ……」

 

『けど、意外ですね。タツヤさんは何でもこなす憧れのような存在なのに、こんな弱弱しい一面もあるなんて』

 

「どんな人でも、それが普通だから。それに……」

 

それに、俺の場合は……。

 

「俺はむしろ、弱い人間だから」

 

『何ですかそれ。自分で卑下しないでくださいよ』

 

「……そう言ってくれる人がいるだけで、今の俺は救われているよ」

 

『……?よくわかりませんけど、俺もう切りますね。次は頑張ってくださいよ』

 

「わかってる。それじゃあ、また」

 

そう言って、電話は切れた。俺の胸中にあったのは、先ほどの言葉の満たす安堵と、まだ届くことのない渇望だった。

 

そんな俺が、兄さんがとある大会に参加することを聞いたのは、翌日の事だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「じゃあ、タツヤ。兄さん行ってくるからな」

 

2週間後。俺は荷物をまとめて、ノスタルジアカップの会場であるディスティニースタジアムへと向かおうとしていた。

 

両親には前もって事情を説明し、承諾を得た。タツヤはどこか浮かない顔をしていたが、快く納得してくれた。少しの間でも、兄さんと離れるのが恋しいのか?

 

「心配するな。兄さんが負けるとでも思っているのか?」

 

「いや、そうじゃないけど……」

 

違うのか。俺は玄関口で靴を履きながら、何をそんなにためらっているのかを考えていた。

 

「……あのさ、兄さん」

 

「何だ?」

 

「前に途中で止めた話……あったよね」

 

「あの時のか。聞いてやりたいが……今からというわけにはな……」

 

「わかってる。だから……その話、家に帰って来てから聞いてよ。今度は途中で止めたりしないから」

 

ぎこちなく、だが強い決意が感じられる言葉だった。何より、タツヤからの頼み事は久しぶりだった。兄さんとして、タツヤの頼みには応えてやらないといけない。

 

「わかった。どれだけでも話を聞いてやる。だから、待っていてくれ。タツヤが待っていてくれるだけで、俺は戦える」

 

「……そう。わかった。じゃあ、待ってるよ」

 

俺はそんなタツヤにふっと笑いかけ、扉を開ける。待っていてくれるタツヤのために、今日はいい結果を残そう。

 

そして、タツヤからの頼み事を、俺は親身になって聞いてやるんだ。

 

この大会と、タツヤとの約束が、大きな転機となることを知らずに。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ディスティニースタジアム。そこは、人里離れた山奥に位置する、巨大な建物だった。

会場までは、運営側が用意してくれたバスに乗ることになっていたが、4時間はバスの中で過ごすことになったのではないか。

 

長い旅を終え、ようやく会場にたどり着いたときには、精神的に疲弊していた。だが、本番はここから。短い開会式を済ませると、すぐに大会は始まった。

 

個人戦の勝負。勝ち数によって優勝を争う、シンプルなルール。だが、その実態は、簡略化されたルール以上に過酷なものだった。

 

長い長いファイト。終わりが存在しないかのように思われる感覚。休憩はあるが、水分補給を行う程度。

終わればまたファイトの繰り返し。相手はすぐに現れ、尽きることのないファイトの連続だった。

 

ファイト自体はアクセルリンクがあるため、どうとでもなる。シャドウパラディンも、不調を起こすことなく使いこなすことができていた。

 

問題は、やはり時間。ひたすらファイトというのは、精神を大きく消耗する。集中力も途切れることになり、大会であることを忘れ、何かの拷問のように感じていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

しかも、ファイトは立って行う。椅子も何もなく、アニメで見るようなファイトスタイルだ。

 

そのため、スポーツでもしたのかというほど息も切れ、足が痛い。至る所に膝を突いたり横たわったりする人の姿があったが、すぐにスタッフの人にたたき起こされる。

 

たとえるのなら……これはまさに地獄絵図だった。

 

しかも、この大会は1日で終わるようなものではなかった。3日間の勝ち数で勝敗を競う。それが、ノスタルジアカップ。そんな状況でもリタイアは許されず、外部との連絡は一切を断たれていた。

 

「アタック……」

 

「ノーガード……」

 

ただファイトを重ねるしかない。空気は殺伐とし、参加者の目は死んでいた。見えない終わりを求めて、飢えた獣のように動いていた。

 

あんなにもファイトすることを苦痛に感じたことは、ノスタルジアカップの時だけだ。

 

そうして、戦いに明け暮れていた3日間を俺は過ごすことになった。

 

ようやく終わりを告げられた時には、涙を流して喜ぶ人を大勢見たものだ。結果は俺と後二人、のちにノスタルジアと呼ばれる存在だった。

 

だが、そんなことは参加者にはどうでもよかっただろう。この苦痛から解放される。それだけを思っていたはずだ。

 

もちろん、この有様に反感を抱かなかったわけがなく、参加者は大会が終わってから抗議した。

やりすぎた大会進行の点を問いただし、金輪際このような大会を行わないことを責任者に約束させた。

 

結果、責任者は辞職し、スタジアムも放棄された。行き過ぎた大会は、ここで終止符を打たれたのだった。

 

……ように見えていた。だが、参加者たちは知らない。糾弾し、辞職にまで追い込んだ責任者は、本当の責任者ではない。

 

そのことは公にはなっていないが、今更掘り起こしたところで意味などない。大会そのものが伝説と化しているのだから。

 

その責任者こそ、涼野マサミ。この時、俺は彼女に対する価値観が180度変わった。

それが確かなものになるのは……いや、それは涼野マサミの口から語らせるとしよう。

 

その存在をなぜ俺は知っているのか。それは、大会後に呼び出されたからだ。他でもない、涼野マサミに。

 

疲れてはいたが、半ば強制的に連れていかれた。俺以外にも、後にヴェルレーデと呼ばれる人物も一緒に。涼野マサミに案内され、俺たちは後に続いて歩いていく。

 

「まさか、このかなりイカれた大会の主催者があんただったとはな。涼野マサミ」

 

「イカれたなんて、人聞きの悪い事を言うな。これは後の世のために必要な過程だ」

 

当時から名は知れ渡っていた。それがこんな……ひどい大会を主催していようとは。信じられなかった。

 

「……あんた、俺たちをどこに連れて行く気だ」

 

「少し話がしたいと思っていた。この大会でのファイトを見て、確信したことがあるからな」

 

「確信だと?」

 

「あなたたち……ファイトの時にデッキが見えているでしょう?」

 

「……なぜそれを!?」

 

こいつ、俺の力の事を知っている!?誰にも話したことはなかったはずだ。なのに、どこから漏れたんだ!?

 

「驚いたか?私は全て知っているぞ?その点を含めて、お前たちとはゆっくり話がしたいものだ」

 

「この感覚を、あんたは知っているというのか」

 

「もちろん。……ところで、私は3人呼んだはずなのだがな。2人しかいないのはなぜだ?」

 

2人でも3人でも、俺の知ったことではない。なぜ奴は、この力について知っているんだ?

 

「まぁ、いい。お前たちだけでも話してやろう。選ばれた特別な存在なのだから」

 

「選ばれた……?」

 

「そう。ユニットとのつながりを加速させ、そこから力を得る能力……アクセルリンクに」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

俺たちはある部屋へと案内された。事務用の机と、応対用の机が置いてあるだけの、殺風景な部屋。

俺たちはようやく落ち着いて腰を下ろし、涼野マサミからアクセルリンクについての話を聞いた。

 

その内容は……星野には前に話したな。あの時と変わらない。特に新しい情報には期待しないでくれ。

 

俺はもちろんだが、ヴェルレーデもその話を聞いたときには驚いていた。何となくわからないまま使っていた力の謎が、紐解かれていったのだから。

 

「そんなことが……!」

 

「本当の話だ。お前たちはアクセルリンクを持っている。それは、お前たちが一番よくわかっているのではないか?」

 

そうだ。だが、現実とはかけ離れたことを矢継ぎ早に説明され、俺の頭は軽く混乱していた。

 

「それで、あなたたちを呼んだのは……アクセルリンクについて、ある協力をしてほしいと思ったからよ」

 

「協力だと?」

 

「今話したことは、まだ判明している情報に過ぎない。私は今、より質の高い情報を必要としている」

 

「それは、何のためだ?この力を調べて、一体何になる?」

 

「そうね。私の研究目標を言っていなかったわね。それは――」

 

アクセルリンクの研究。聞こえはいいし、少しくらいなら力になろうという気持ちはある。まして、涼野マサミからの要望だ。悪い気はしない。

 

……もっとも、この大会に参加せず、この瞬間に涼野マサミの口から語られた内容を知っていなければの話だが。

 

「な……何を考えているんだ!?そんなこと、許されるのか!?あんたが語ったアクセルリンクの話だと、それはつまり……」

 

「そうなるために、私は研究しているのだ。それこそが、私の全てだ」

 

「ふざけているのか!?その話、断らせてもらう!今の話で確信した……あんたは他人を考えることなく行動できる人だと!そんな奴に、手を貸すほど落ちぶれちゃいない!」

 

「それは残念ね。まぁ、別に強制するつもりはない。ただ、今のお前の実力を知っておきたいな。ヴァンガードの実力を」

 

ここでファイトか。だが、涼野マサミはデッキを出す素振りを見せてはいない。

 

「なぜデッキを出さない?そちらから勝負を挑んでおいて、それはないだろう!」

 

「私が相手?笑わせるな。お前など、足元にも及ばん。軽いハンデも兼ねて、彼らに相手してもらうわ」

 

なめられたものだ。この力を知っているのなら、俺のファイトがどのようなものかも知っているはず。その上で敵わない?バカにしているのは明白だった。

 

そんな俺をよそに、部屋の隅から2人の男女が姿を見せる。そして、このファイトの相手こそが、俺が探し求めている人物。

 

「紹介するわ。私の息子、涼野カズヤよ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

俺たちは、彼らとファイトすることになった。俺はカズヤと、ヴェルレーデはもう一人の女子と。

 

今回もよく見えている。少しとは言え、休憩もとった。フィジカル面も問題ない。

 

……だが、そんな俺の好調ぶりに反して、ファイトの展開は全くといっていいほどよくなかった。

 

「どうしたんだ?まだファイトは終わってないけど」

 

「……うるさい!」

 

話が違う。アクセルリンクは、ユニットとのつながりを通じてデッキが見える力だ。圧倒的優勢な立場でファイトを進めることができる。故に勝ってきた。

 

だが、カズヤは見えている結果に対して予測に反する行動を繰り返していること。そのため、思い通りにファイトを進められない。

 

「く……!お前にも、デッキが見えているのか!?」

 

「デッキ?あぁ、母さんの言ってた力とか言う奴?ねーよ、そんなの」

 

「だったら――」

 

「あんたさぁ……何でもかんでも思い通りに行くと思うなよ?」

 

俺の言葉に割り込むように、カズヤが言葉をかぶせてくる。確かな響きを伴いながら。

 

「あんたは何とファイトしてるんだよ。人だぜ?決められたパターンしか持ってないコンピュータと相手してるわけじゃねぇんだよ」

 

「…………」

 

「だからなんだろうなぁ。コンピュータみたいなワンパターン野郎しか集まらない店で有頂天になってるから……今、俺とのファイトにてこずっている」

 

「……ワンパターンだと?」

 

聞き捨てならない。その言葉は、間接的にタツヤを……単細胞でしかないと言っているようなものだ。そんな風に馬鹿にされ、黙っているわけにはいかない。

 

俺はともかく、初対面の奴にタツヤへの暴言を吐かれるなどと……!

 

「ふざけるな……!そんな機械のようなファイトを、俺とファイトした奴らはしていなかった!お前の言うように、人なんだ!考え、最善の手を出して……!」

 

「そうか……機械か。だとしたら、本当に機械なのはお前だろ!最上ナツキ!!」

 

嘲笑し、俺に侮蔑の視線を向けるカズヤ。俺は苛立ちを隠せず、カズヤをにらみつける。

 

「アクセルリンクだか何だか知らないけど、デッキが見えて、そこから見える未来を辿るだけ……。くっ、あっははは!それのどこが機械じゃないと言える!?」

 

「俺のファイトが機械だと……?勝手なことを言うな」

 

「本当の事だろ!?つまり、あんたは勝利って製品を作るロボットだ。手順を教えられて、あんたはその通りに動いていく。そこら辺の屑よりよっぽど屑だ!」

 

反論できない自分が憎らしい。確かに、俺のファイトはもはや、ファイトではなくなっているのかもしれない。

 

「あんたなんか、ファイターって呼べねぇ。悪いけど、大人しく負けてくれよ。それか……弱いものなりに、最後までみっともなく抵抗して見せろよ!機械人間!!」

 

「……貴様ァァァァ!!」

 

それからのファイトは、散々なものだった。侮蔑による屈辱や怒りとは違う感情に突き動かされ、冷静さを欠いていた。

 

俺は屑だ。ヴァンガードにおいても、屑以下でしかない。だとしたら、俺とタツヤとの関係はどうなる?

 

答えは簡単だ。……タツヤの方が、上なんだ。

 

今の俺の強さは、アクセルリンクによるもの。だが、そのファイトに強さなどというものは最初から存在してはいなかった。

 

だが、タツヤはどうだ?ヴァンガードの腕は確かなものだ。まだ成長するかもしれない。あの日、俺が実力で負けたことを思えば、そういうことなのだろう。

 

アクセルリンクを使わないファイトでは、もう俺に勝ち目はない。使っても、機械的なファイトしかできない。

 

どれだけ体裁を取り繕っても、結局は俺が下なんだ。実力も劣り、向き合い方でも俺は負けた。タツヤには、もうかなうはずがない。

 

俺はあの瞬間、確かに負けたんだ。遅すぎる敗北を、今になって痛感していた。

 


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