つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

69 / 95
ride69 定めし未来を辿る者

「ヴェルレーデ、だと?」

 

「そう。聞き覚えがないのなら、それでもいいんだけど」

 

「いや、それってまさか、ネットでも噂や伝説、怪談の類とまで言われている最強の3人組……ノスタルジアの一人か!?」

 

知ってたんだ。やっぱり、私は有名人みたい。それなら、私にとっては都合がいいんだよね。

 

それは、私という存在を示す力だから。その力さえあれば、私は、望みを叶えることが出来るんだ。

 

「それなら、話は早いね。ファイトを続けるよ」

 

その望みを叶えるために、私は……絶対的な力を求める。

 

何者にも変えることのできない、確かな存在。それを作り出すために。

 

「半月の女神 ツクヨミのスキル。ソウルに一拍子と三日月の女神 ツクヨミがいるなら、SC2」

 

三日月の女神と、サイキック・バードか……。うん。見えているとおりだ。

 

「ダーク・キャットを下げて、その前に半月の女神 ツクヨミ(9000)を、ヴァンガードのツクヨミの後ろに、稲葉の白兎(6000)をコール」

 

「ちっ、並べてきやがった……」

 

「白兎のスキル。コールした時、手札から1枚ソウルに。私は、バトルシスター もなかをソウルに」

 

これでソウルは5枚。次にライドするユニットの下準備はできた。

 

「白兎のブースト、ヴァンガードのツクヨミでアタック(15000)」

 

「ノーガード!ノスタルジアだか何だか知らないが、出鱈目だろう!そんなの!」

 

「ドライブチェック、バトルシスター もなか」

 

「ダメージチェック、救急の守護天使 ダネル」

 

知ってはいても、信じてはくれないのか。そう言う時は、直接わからせてあげるのが一番だ。

 

「出鱈目……ね。なら、このアタックはノーガードするといいよ。きっと、いいものを引けるから」

 

「いいものだと!?」

 

「ダーク・キャットのブースト、リアガードのツクヨミでアタック(16000)」

 

さぁ、彼はガードするかな?でも私は、親切に教えてあげているんだけどな。

 

次のダメージが、ドロートリガーだってことを。

 

「……くそ。手札的にも、ノーガードするしかない。だったら、見せてもらおうじゃねぇか!」

 

「正しい判断だよ。さぁ、どうぞ?」

 

「ダメージチェック……っ!?守護天使 ランディング・ペガサス。ドロートリガー……」

 

ほらね。いいカードだった。私の言ったとおりだったでしょ?

 

「そ、そんな……!?何だよ、こいつは!?意味わかんねぇよ!?」

 

「トリガー効果は?」

 

「……い、1枚ドローして、パワーはラグエル」

 

「ターンエンド」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ1 不良:ダメージ2

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!ライド、信託の守護天使 レミエル!(11000)」

 

ブレイクライドのユニットか……。確か、ダメージをコントロールするスキルがあったはず。

 

「自分のデッキだけならイカサマ疑ったが、俺のデッキまで見えてるなんて……!?くそ、マジで何なんだよ!?」

 

「それが私なの。私の事を、ノスタルジアだと呼ぶようになった理由」

 

「……そんなの、ありえねぇよ」

 

「でもね、今起こっていることは現実なんだ。何をどう言おうと、あなたごときが変えられる話じゃない。変えようとしても、その行動は意味のないもの」

 

そうだ。私は知った。何かを変えたくて、行動することがいかに無駄だったのか。

手を伸ばして、足を踏み出しても、状況は変わらない。変わったように、気のいい幻に踊らされてしまうだけ。

 

「もう、未来は確定しているんだよ。そのための力が、私にはある」

 

とっくの前から、ね。

 

「……そんな口叩くのも、いい加減にしやがれ!聖火の守護天使 サリエル(8000)を右前列にコール!スキルでCB1して、デッキから粛清の守護天使 レミエル“Я”をダメージゾーンへ!表のダメージを回復する」

 

「そのカードが切り札だってことも、もう私にはわかってたから」

 

「うるせぇ!介護の守護天使 ナレル(7000)をサリエルの後ろにコールして、スキル発動!手札のレミエルと、ダメージゾーンのレミエル“Я”を交換!」

 

なるほど。手札にレミエル“Я”を呼ぶために、回りくどいけど確実な方法を選んだんだ。さて、彼のデッキはどうなっているかな……?

 

「レミエルで、アタック!スキルで、パワープラス2000!(13000)」

 

「悪いけど、そこはニケでガード」

 

「トリガー2枚かよ。ツインドライブ!1枚目、信託の守護天使 レミエル。2枚目、懲罰の守護天使 シェミハザ。よし、クリティカルトリガーだ!効果は全てサリエルへ!(13000 ☆2)」

 

わかってた。だからガードしたんだよ。

 

「ペヌエルのブースト、アラバキでアタック!スキルで、守護天使のユニットは変わらず存在!パワープラス3000!(15000)」

 

「そこはノーガードかな。ダメージチェック、オラクルガーディアン ジェミニ」

 

「ナレルのブースト、行けよサリエル!(20000 ☆2)」

 

「ガード、ロゼンジ・メイガス。さらに半月の女神 ツクヨミでインターセプト」

 

「ち……。ターンエンド」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ2 不良:ダメージ2(裏1)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー。……さっき、私言ったよね?未来は、もう確定しているって」

 

「それがどうかしたのかよ?」

 

「その未来は、いつ確定したと思う?」

 

私の質問に、彼は答えることができないようだった。なので、私が答え合わせをする。

 

「それは、過去。私がファイトを始めてから、もう未来は決まっていたんだ。デッキの下に戻したカード。それが、未来を物語る」

 

「下って……それは、デッキを1周させようって話か!?」

 

その通り。このツクヨミデッキは、他のデッキにはあまり真似できない、唯一の特性を持っている。

それは、デッキを1周させることで、デッキ内容を確定させるもの。決まればダブルトリガーも夢ではない。

 

けど、それにはかなり厳しい条件が必要となる。

 

まず、デッキの把握。どれだけのカードがデッキの下にあるのか。その順番は。後何枚で、下に戻したカードにつながるのか。それらを頭の中で整理して、ファイトを進めていかないといけない。

 

次に、デッキを確定させるために必要な、デッキ枚数の調整。単純なドローだけではなく、スキルを駆使して、確定している場所までカードを引かなくてはいけない。そのためにダークキャットなどのユニットが採用されている。

 

まさに、ロマンの詰まった戦術。難易度は、かなり高い。

 

けど、私にはそのデメリットがまったくない。

 

デッキは見えている。カードの枚数を記憶する必要は一切ない。見えているとおりに、カードを調整すればいいだけの事。

後は、相手の手の内を探りながら、そのための準備を整えるだけ。

 

「過去。それは、どんなに変えたいと願っても変えられないもの。喜びも、苦しみも、等しく心に刻まれる」

 

「…………」

 

「そして未来は、過去の積み重ねで生まれるもの。つまり、あなたの未来は、デッキを確定させた時点で決まっている」

 

その瞬間が訪れた時、このファイトは終わりを告げる。何者にも邪魔できない。抗う事すら、許さない。

 

「あなたがどんなに抗っても、過去は変えられない。デッキの下に戻したカードが、あなたにはどうすることもできないように。それは、あなたの犯した罪だってそう」

 

「俺の……」

 

「何も変えられない。あなたはただ、未来を受け入れるしかない」

 

「っ……!」

 

「半月の女神 ツクヨミのスキル。デッキの上から5枚見て、その中の満月の女神 ツクヨミにライドする」

 

見えている。デッキの上から、5枚目の位置。ためらいなく引き、カードを確認する。

 

――やっぱり、そうだ。

 

後は、彼女と共に、定めし未来を辿るだけ。そこに抵抗の二文字は必要ない。存在しなくてもいい。

 

それこそが、絶対なのだから。

 

「暗黒の夜に砕かれし心に、真実を照らす光を与える。希望の輝きを……今ここに。スペリオルライド・ザ・ヴァンガード!」

 

「ま、マジかよ……!」

 

「……満月の女神 ツクヨミ!(11000)」

 

私と共にファイトしてくれる、なくてはならない存在。あなたなしでは、私は私でいられない。

 

「残りはデッキの下へ。続けて、満月の女神 ツクヨミのスキル。CB2、2枚ドローして、手札からバトルシスター もなかをソウルに入れる」

 

よし、順調だ。次は……。

 

「戦巫女 タギツヒメ(9000)を右前列、満月の女神 ツクヨミ(11000)を左前列にコール。タギツヒメで、アラバキにアタック」

 

「リアガードに……?」

 

「タギツヒメは、ソウルが6枚以上でアタックすれば、パワープラス3000。さぁ、どうする?(12000)」

 

「ノーガードに決まってんだろ」

 

向こうはアラバキを放棄し、そのままドロップゾーンへと置いた。

 

「白兎のブースト、ヴァンガードのツクヨミでアタック(17000)」

 

「ノーガードだ!」

 

「ツインドライブ。1枚……ダーク・キャット。2枚……ロゼンジ・メイガス。ゲット、ヒールトリガー。ダメージを1枚回復。パワーはリアガードのツクヨミへ(16000)」

 

ダメージには、エマージェンシー・ビークルが入る。守護天使じゃないのは、スキルかを考えての採用なのか。

 

「ダーク・キャットのブースト、リアガードのツクヨミで……サリエルへ(18000)」

 

「またリアガードを!?」

 

「アタックする対象は、こっちの勝手だよね?」

 

「……ノーガード」

 

もっとも、別にダメージは1だし、積極的にヴァンガードを狙いに行ってもよかったんだけど。でも、そうせざるを得ない理由があったから。

 

デッキの上にね。

 

「ターンエンド」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ1(裏1) 不良:ダメージ3(裏1)

 

 

「ちっ、俺のターン!スタンドアンドドロー!……っ!」

 

驚いてる驚いてる。今彼の引いたカードは、治癒の守護天使 ラムエル。ヒールトリガーだ。

あのままヴァンガードを狙ってダメージを与えられないのと、リアガードを狙って戦力を潰すのと、どっちがいいかと言われたら、後者に違いない。

 

もっとも、それはデッキが見えているからこそできる選択なんだけど。

 

「クソが……!クソがぁ!!ナレルの前に、天罰の守護天使 ラグエル(9000)をコール!レミエルでアタックし、スキルでパワープラス2000!(13000)」

 

「あれ、リアガード1体コールしただけか?」

 

「彼、相当焦ってるみたいですね~」

 

二人の言うとおりだ。冷静さを欠いて、かなり大胆なプレイングが目立つ。そんなようでは、何も成すことはできない。抗うなんて、無駄だ。

 

「ガード、ロゼンジ・メイガス」

 

「ツインドライブ!1枚目、介護の守護天使 ナレル。2枚目、信託の守護天使 レミエル。畜生!トリガーはねぇのかよ!?」

 

「ほら。まだアタックは残ってるよ?」

 

「るせぇ!ナレルのブースト、ラグエルでアタック!アラバキ同様に、守護天使のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(19000)」

 

「ノーガード。ダメージチェック、稲葉の白兎」

 

「ターンエンド。1ダメージだけかよ……!」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ2(裏1) 不良:ダメージ3(裏1)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー。ライド、コールせず、タギツヒメでアタック。ソウルは変わらず6枚以上。パワープラス3000(12000)」

 

リアガードを並べる必要もない。このターンは、できるだけダメージを与える。

 

「ランディング・ペガサスでガード!」

 

「白兎のブースト、ヴァンガードのツクヨミでアタック(17000)。ツインドライブ。1枚、バトルシスター もなか。2枚、オラクルガーディアン ニケ。ゲット、クリティカルトリガー」

 

先にランディングでガードしてくれたから、助かったね。これで2ダメージ。いや……。

 

「パワーはリアガードのツクヨミへ(16000) クリティカルはヴァンガードのツクヨミへ(17000 ☆2)」

 

「ぐ……!ダメージチェック、1枚目、治癒の守護天使 ラムエル。ヒールトリガーだ!ダメージ1枚回復、パワーはレミエルへ!2枚目は……聖火の守護天使 サリエル」

 

「なら、ダーク・キャットのブーストしたリアガードのツクヨミで、ヴァンガードにアタック(23000)」

 

「させるか!シェミハザでガード!」

 

「ターンエンド」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ2(裏1) 不良:ダメージ4(裏1)

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

さっきのターン、向こうはナレルのスキルで切り札を既に手札に加えている。おまけに、ダメージは4。ブレイクライドが使えるということは……来るね。

 

「森羅の理を打ち砕き、新たな秩序を世界に示せ!クロスブレイクライド!!粛清の守護天使 レミエル“Я”!!(11000)」

 

「よし、ボスの必勝パターンだ!」

 

「行けるぜ!」

 

取り巻きが何か言ってるみたいだね……。必勝パターン?それで、この状況を変えることが本気で出来ると思っているのだろうか?

 

「あれがあの人の切り札……。大丈夫かな、リーダー~……」

 

「何、心配いらないさ。ヴァンガードじゃ、負けなしなんだ。このターンさえ乗り切れば、そろそろ来るんじゃないか?」

 

なかなか読みがいい。いや、それなりに付き合いも長いし、予想はつくか。

 

「ソウルにレミエルがいることで、レミエル“Я”は常にパワープラス2000!(13000)ブレイクライドスキル!ダメージゾーンのサリエルを手札に加えて、デッキの上から1枚をダメージに。レミエル“Я”のパワープラス10000だ!(23000)……ちっ、クリティカルヒット・エンジェルかよ」

 

「トリガーが無駄になったね」

 

「けど、これでダメージゾーンのダネルのスキル発動!他のカードがダメージゾーンに置かれた時、CB1して、ダメージゾーンからスペリオルコールだ!(9000)」

 

ダメージに感知して発動するスキルか。ダネルはペヌエルの前にコールされた。

 

「代わりにデッキの上から1枚をダメージに。ペヌエルのスキル!ソウルに入れて、今ダメージに落ちた、介護の守護天使 ナレル(7000)をスペリオルコール!」

 

その代わりに、デッキの上から1枚がダメージゾーンに置かれる。それはまたしても、トリガー。しかも、ヒールトリガーのラムエルだ。

 

「ちっ、だがこんなもんじゃ終わらねぇ!コールされたナレルのスキル!手札のレミエルをダメージゾーンに置き、今落ちたラムエルを回収だ」

 

シールド値を考えると、いい判断かもしれない。けど、それがかえって命取りとなる。

 

「まだだ。聖火の守護天使 サリエル(8000)をレミエル”Я“の後ろにコール!スキルで、CB1してデッキからレミエル”Я“をダメージゾーンへ!そしてダメージを1枚回復」

 

サリエルをダメージに落としたのはまずかったかな。レミエルで回収されることを考えてなかった。これでレミエル“Я”は、真の力を解き放つことが出来る。

 

「仕上げだぜ……!レミエル“Я”のリミットブレイク!右のナレルと、サリエルをロック!これにより、前列の守護天使3体のパワープラス5000!(Я 28000)(ラグ 14000)(ダネ 14000)」

 

けど、これだけじゃない。レミエル“Я”は、同名のカードがダメージゾーンにあることで、さらなる力を発揮する。

 

「さらにレミエル“Я”がダメージゾーンにあることで、相手のダメージを1枚回復させ、お前は自身のリアガードを1体ダメージゾーンに置いてもらう!」

 

疑似的な退却。私は、満月の女神 ツクヨミを選択して、ダメージに置いた。

 

「アタッカーを自ら手放したか……。だが!そんなことで、容赦はしねぇよ!ラグエルのアタック!スキルで、守護天使のヴァンガードは健在!パワープラス3000!(17000)」

 

「ノーガード。ダメージチェック、バトルシスター しょこら」

 

「完全ガードが落ちたか。なら、レミエル“Я”で、ヴァンガードにアタック!(28000)」

 

「ここもノーガードでいいかな」

 

「余裕たっぷりじゃねぇか……。なめやがって。ツインドライブ!1枚目、懲罰の守護天使 シェミハザ。クリティカルトリガー!パワーはダネル(19000) クリティカルはレミエル“Я”へ!(28000 ☆2) 2枚目、クリティカルヒット・エンジェル。お!?またクリティカルトリガーだ!効果はさっきと同じだ!(ダネ 24000)(Я 28000 ☆3)」

 

取り巻きのテンションが上がり、さも立場が逆転したかのように調子に乗り始める。いじめられていた少年も、終わったとばかりに絶望している。

 

「どうだ!まだ3ダメージだからって、調子に乗ってノーガードするからだ!デッキが見えるとかほら吹きやがって……!大した事ないな!」

 

大したことない?どの口がそんなことを言うんだか。まだ、負けてなんかないって言うのに。

 

この状況が、敗北を告げるものじゃないと確信していたのは、私と、二人の仲間だけだった。

 

「……言ったはずだよ?私は、デッキが見えてるんだって。当然、ダブルトリガーを引くこともお見通しなんだよ」

 

「だったら、何でノーガードを……」

 

「決まってるでしょ?この状況で、私が生き残るためのカードが……そこにあるから。ダメージチェック、1枚、半月の女神 ツクヨミ。2枚、ダーク・キャット。3枚」

 

そうじゃなかったら、ノーガードなんてしないよ。この方が、手札の被害も最小限に抑えられるし、ダメージを貯めることだってできる。

 

「な、そんな……嘘だろ!?」

 

「……ロゼンジ・メイガス。ゲット、ヒールトリガー。ダメージを1枚回復し、パワーはヴァンガードへ(16000)」

 

これが、私に見えていたものなんだよ。わかってくれたかな?

 

「く……くそぉぉ!!ナレルのブースト、ダネルでアタック!!(31000)」

 

「無駄だから。これまであなたのしてきたこと、全部が。バトルシスター しょこらで完全ガード。コストは、もなか」

 

「な……!?た、ターンエンド……」

 

 

ヴェルレーデ:ダメージ5 不良:ダメージ4(裏2)

 

 

「私のターン。スタンドアンドドロー。もう戦意が残っていないみたいだね」

 

「…………」

 

「最初から、そうすればよかったのに。私は言い続けていたよ?無駄だって。あなたみたいに、人を痛めつけることにしか快楽を覚えない人には」

 

反論する気も起きないみたいだ。やはり、誰かを納得させるには、力が必要だということだ。それを私は、痛感したのだから。

 

だから、せめてもの慈悲だ。楽に終わらせてやる。

 

「……過去は積み重なり、不変の未来を紡ぎだす。そう、今こそ未来が、つながる時」

 

「ってことは、デッキが……!?」

 

「ツクヨミのスキル。CB2、2枚ドローし、手札のニケをソウルへ」

 

「平気で10000シールドを……」

 

持っていても、もう必要ないから。このターンですべてが終わる。その先には、何もない。

 

「同じスキルを発動。CB2、2枚ドロー。手札の満月の女神 ツクヨミをソウルへ」

 

「おい、本当にこれって……」

 

「ボスが、負けるのか……!?」

 

仲間の心も折った。後は、決定的な一打を放つだけ。

 

「サイキック・バード(4000)を2体コール。1体はタギツヒメの上にコールして、タギツヒメを退却させる」

 

「またドローカードか。リーダー、このターンで決めるな」

 

「行っちゃえ~」

 

「サイキック・バードのスキル。自身をソウルに入れて1枚ドローする。2体ともスキルを使って、2枚ドロー」

 

ドローしたカードを見て、私は確信する。残ったデッキのカードは、決定づけられたものだということが。

 

「……これで、未来がつながった」

 

「な!?」

 

「コール。2体のサイレント・トム(8000)と、三日月の女神 ツクヨミ(7000)」

 

手札に握っていた、このクランの秘密兵器。それが、サイレント・トム。全くコストが必要ないのに、アタックするだけでグレード0でのガードを封じる。

 

さっきのターン、ラムエルを手札に加えたプレイングを危惧していたのは、このカードを持っていたから。でも、もう遅い。

 

過去は、誰にだって変えられないのだから。

 

「白兎のブースト、ツクヨミで、ダネルにアタック(17000)」

 

「インターセプトを……。ラムエル2体で、ガード!」

 

「まだ抵抗するの?まぁ、いいよ。結果は変わらないから。ツインドライブ」

 

見せるまでもないけど、私は勝負を決めるドライブチェックを始める。

 

「1枚、バトルシスター じんじゃー。ゲット、クリティカルトリガー。効果は全て右のトムへ(13000 ☆2) 2枚、オラクルガーディアン ニケ。同じくクリティカルトリガー。効果は左のトムへ(13000 ☆2)」

 

「そ、そんな……」

 

ガード制限のあるトム。そしてデッキ内容を確定させ、トリガーを確実に乗せる。この2つが合わさると、計り知れない威力を出すことが出来る。

 

これが、私の勝ち筋。そしてこの戦術は、未だかつて破られたことはない。

 

「これで、終わり。三日月の女神 ツクヨミのブースト、右のトムでアタック。スキルにより、このアタックはグレード0でガードできない(20000 ☆2)」

 

「さ、サリエルとラグエルでインターセプト!」

 

「まだ抵抗するの?もう、決まっているんだから。ダーク・キャットのブースト、左のトムでアタック。このアタックは、グレード0でガードできない!(20000 ☆2)」

 

恐らく、残りの手札ではガードできない。だからこそ、さっきのアタックはインターセプトに頼るしかなかったのだろう。

 

「……ノーガード」

 

その宣言を聞いて、私はニヤリとほほ笑む。これでまた、極悪人を断罪することが出来た。

 

ダメージには、エマージェンシー・ビークルと盤石の守護天使 アニエルが入り、ファイトは決着した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その後、不良たちには金輪際悪行を働かないようにと、映像や書面などで証拠を押さえさせた後、身柄を警察に引き渡した。

 

いじめられていた少年も、泣きながら私たちに感謝していた。首が折れそうになるまで頭を下げ続け、こっちが困惑しそうになった。

 

そして現在、私たちは警察署を後にして、3人で並んで帰っているところだった。

 

「……ふぅ、終わったぁ~!」

 

「お、いつもみたいに戻ったな」

 

「お疲れ様~」

 

「あ、二人ともありがとうございます。今日も助かりましたよ」

 

「いいって。私たちも、いじめとかをなくしたいって気持ちはあるんだ。こっちが納得してやってることだよ」

 

張っていた気持ちが緩み、素の自分が表に出る。やっぱり、この方が落ち着きますね。

 

「でもやっぱ、ファイトにおいて右に出る奴はいないな!今日も余裕って感じだったじゃん!」

 

「……当然ですよ。私は、絶対にならないといけないんですから」

 

そう。私は、絶対を求めている。何者にも屈しない力を、

 

力があれば、そこにあるべきものを作り出すことが出来るから。

 

絶対に抗う事のできない、希望を。

 

「あれあれ?今日、私の出番なかったような気がする~?」

 

「まぁ、いいじゃないか。お前はほら……秘密兵器って奴だし」

 

「おぉ、秘密兵器!かっこいい~!」

 

あはは……。完全に言いくるめられているだけですよ……。

 

「…………」

 

「ん?どうした?ちょっと嬉しそうだな」

 

「……ううん。何でもないですよ」

 

ただ、懐かしかっただけ。取り戻したくても、二度と取り戻せない過去を思い出していただけ。

 

私は、あの頃から何も……変わることが出来ていない。

 

「さーて、今日も頑張ったし、どっかで飯でも……ん?」

 

私たちの進路を遮るように、突然前方に停車した黒塗りのリムジン。こんな高級そうな車、初めて見る。

 

「高そうな車だね~」

 

「てか、邪魔だなおい。向こうの道から遠回りして……」

 

「待ってください。誰か、出てくる」

 

リムジンの後方の扉が開き、中から人が外に出る。こんな道の真ん中に車を停めて、一体何だろう?

 

私のそんなフワフワとした考えは、リムジンから出てきた人の姿を見た途端、すぐに消え去っていく。代わりに湧き立ったのは、底知れない怒り。

 

「久しぶりだな。ヴェルレーデ」

 

「あなたは……!」

 

二人は驚いているだろう。何せ、目の前にいるのは、世間でも有名な会社の社長。けど私は、その裏側に秘めた魔性を知っている。あの時から、この人の見方が反転した。

 

「涼野、マサミ……!」

 

「ほう、覚えていたか。嬉しいぞ、ヴェルレーデ」

 

「もう二度と、顔も見たくないと思ってたのに……!」

 

どうして、この人がここに。偶然だとは、到底思えなかった。そうじゃなかったら、道の真ん中をふさいでまで、私と接触しようとは思わない。

 

リムジンが移動し、涼野マサミがその場に残る。私は、二人の手を引っ張って、すぐに立ち去ろうと歩き出した。

 

「……行きましょう、二人とも。この人と関わると、ろくなことがない」

 

「えっ、あ、あぁ……」

 

「待ちなさい。今日は大切な話を持ってきたのよ?」

 

「あなたと話すことなんて、何もありません。人を下僕のように扱う、性根の腐った人の話は」

 

逃げようとする私の手を、涼野マサミは強引に掴んで止めようとする。私は無理矢理振りほどいたが、続く言葉で足を止めざるを得なくなる。

 

「……サクヤに会わせてあげる、と言ったらどうかしら?」

 

「サク、ヤ……!?」

 

その名前、忘れるはずがない。記憶から抹消したくても、すぐに滲み出てくる。私を狂わせ、歪ませた元凶。

 

「そうだ。サクヤに会わせてやろう。それが、お前の望みだったは――」

 

「どこだ!?どこにいる!?サクヤさんは……あの愚鈍な悪魔はどこにいるんだ!?」

 

「お、おい!?落ち着けって!」

 

「黙ってろ!さぁ言えよ、涼野マサミ!サクヤさんはどこだ!?」

 

心配してくれる二人にも暴言を吐くほど、まわりが見えていなかった。サクヤ。その名前が、それだけ私の中で大きな意味を持っていた。

 

「そう焦られても、話が出来ん。それに、会わせるとは言っても、今からの話ではない」

 

「何……!?」

 

「クリスマスに大会を開く。そこに、サクヤを出場させよう」

 

「それは……私に、その大会に参加しろと!?」

 

「安心しろ、個人戦だ。トーナメントで当たれば、サクヤとも話す機会はあるだろう」

 

そうだとしても、こいつの言葉が信用するかと言われたら無理だ。私はノスタルジアカップで、その恐ろしさを経験している。

 

いや、当時の話を知らない部外者の前でも語っているんだ。二の舞だとしたら、下手に情報は出さないはず。

 

「……本当に、サクヤさんに会えるんですね?」

 

「運次第、ということになるが」

 

「……だったら、いいですよ。参加します。どうしても、サクヤさんとは話をつけておきたい」

 

「ふん。そう言うと思っていたぞ。では、話は以上だ。私は失礼する」

 

涼野さんは私たちの横を通り過ぎ、いつの間にか後方に駐車してあったリムジンに乗り込んで去っていく。

 

呆然とリムジンを見送る二人の横で、私は静かに、憎悪の炎を燃え上がらせていた……。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。