という訳で、今回は日常回。正直、グダグダしているだけかも。ファイトを書きたい。
でも、全然日常っぽいことしてなかったな……と思って、箸休め的な。後は、前振りをしておきたいと思いまして。
何の?それは、すぐにわかります。
では、どうぞ。
「そうか……。それは惜しかったな、ワタル」
「あぁ。もう少しだったんだけどな……」
「シオリさんも、よく頑張ったね。決勝も、善戦したみたいじゃないか」
「負けましたけどね……」
秋予選が終わり、私たちにはいつもの日常が戻ってくる。たった2日間の話だったのに、随分と長く感じたのは、どうしてなんだろう。
「けど、次の目標はできた。そうだろ、星野?」
「クリスマスカップ。私たちは、その大会に参加することにします」
「つい最近情報が出たばかりの大会か。行動が早いね、シオリさん」
「本気ですから、みんな」
その証拠に、今も森宮さんと佐原君は、空いているテーブルでファイトをしているところだ。
「どうしたんスか?こっちはまだまだ行くっスよ!」
「上等よ……!誰がこんなところでくたばるもんですか」
「言ったっスね?なら……銀河の果てをも支配する、欲に飢えた破壊の獣の嘶き!ブレイクライド!銀河超獣 ズィール!!」
様々なクランを想定したファイトをするために、佐原君はリンクジョーカー以外のクランを使ってファイトしてくれる。
今回は、ディメンジョンポリス。パワーダウンを得意とする、エイリアンのデッキか。
「ソウルに星を喰う者 ズィールがあれば、銀河超獣 ズィールのパワーはプラス1000。続けてブレイクライドスキル!ズィールのパワープラス10000!さらにトランスコアのパワーを5000下げる!」
「一方的にパワーを……」
「さらにリアガードをコールっス!そして、ズィールのリミットブレイク!CB2で、俺のリアガードの数に1000をかけた数値分、トランスコアのパワーを下げる!」
今のコールで、手札は使い切った。そして、リアガードは5体。つまり、下がる値は……5000。
「パワー1000って……!こんなのまともに守れないわよ!?」
パワー11000のアタックに対して、シールドを15000使うことでようやく守ることが出来る値だ。
「……なかなかスパルタだねぇ」
「そうじゃないと、練習にならないだろ、おじさん」
「それだけ真剣ってことですよ」
クリスマスカップには、こんなものでは済まないファイターたちが大勢いるかもしれない。手を抜いて、立ち止まっている場合じゃないんだ。
「げっ……完全ガードを3枚も持ってたんスか!?それじゃあ、パワーがどうとか関係ないじゃないっスか!?」
「悪いわね。静まることを知らぬ大海に、終局の錨を放て!ブレイクライドアゲイン!!蒼翔竜 トランスコア・ドラゴン!!」
これは……状況を見る限り、決まったかな。
「それで、さっきも言ってたけど、何が大変なんだって?」
あぁ、そうだ。私たちは何も、秋予選の結果報告をしたかったわけじゃない。クリスマスカップに参加すると伝えたかったわけでもないんだけど。
それよりも、今は悩んでいることがある。ヴァンガードはヴァンガードだけど、それとは別に間近に迫っているものが。
「それがな、おじさん……」
「そろそろ文化祭があって……。クラスで何をするか、まだ決まってないんですよね……」
***
文化祭。それは、秋になると訪れる、学生にとっての一大イベント。
勉強に追われる学生も、その日だけは思いっきり羽を伸ばせる。そして何より、クラスの発表や出し物を自分たちで作り上げることで、クラス一丸となることができる。結束力が高まり、達成感もある。
「なるほど。それで、意見が出なくて困っていると」
「そうなんです……。一応、クラスの出し物は決まったんですけど、問題はクラス発表の方で……」
2日間に及ぶ文化祭。そこで私たちは、クラスごとに出し物とステージ発表をすることになっている。
クラスの出し物は、文化祭の実行委員の提案で、喫茶店をすることになった。お化け屋敷や迷路のようなものも候補に挙がったけど、作るのが面倒だし。
準備も当日の衣装や飾りつけ、店に出すメニュー等だから楽との理由で採用。
で、肝心のクラス発表。ホールを丸一日貸し切り、各学年の全クラスが順番に発表を行っていく。
どんな発表をしてもかまわないとのこと。ミュージカルや劇、コントもありらしい。まぁ、コントをするクラスはないだろうけど……。
一応、私たちのクラスは劇をすることは決まっている。まぁ無難だし……。けど、そこで止まってしまった。
どんな劇をするのか。恋愛ものだったり、青春ものだったり、とにかくジャンルだ。でも、クラスで話し合いを行った際には、意見が全く出ず。
それで、明日もう一度話し合いを行うから、それまでに考えて来てほしいとのことなんだけど……。
「……どうしよう」
「だよな。劇なんて、何でもいいんだけどな……」
「……そうやって他人に押し付けて、自分は楽しようとかは止めてよね」
「わ、わかってる」
絶対わかっていないよね……。
「土壇場でトランスコアをドローするなんて思わなかったっスよ……。んで、二人は何の話してるんスか?」
「文化祭だよ。クラスの発表を何にするか、まだ決まってなくて」
「えぇ。私も、特にやりたい劇とかないのよね……」
それを明日までに決めなくてはいけない。どうしたものか。
「あ、そうだ。佐原のクラスは何をするんだ?」
「んえっ?俺っスか?」
「あぁ。他のクラスの意見も聞きたいと思ってな。参考程度に」
なるほど。そこからヒントを得るのもいいかもしれない。
「……それって、パクリとかしないっスよね?」
「しないわよ、そんなの。多分」
「多分!?」
それだけ切羽詰まってるってことだと……思う。うん、冗談だよね?きっと。
「まぁ、いいっスよ。俺たちのクラスは、とにかく男子がテンション高くて……すぐ決まったんスよね」
「ほう。で?」
「せっかくステージ発表するんだし、何かかっこいいことでもしようぜ!ってわけで……特撮物をやることになったんスよ」
「特撮……。ライダーやら、戦隊やらってことね」
女子は反対しなかったのかな、それ……。
「そう言う路線もありか……」
「待つっス!パクるのは良くないっスから!」
「リスペクトだ」
「それ言ったら許されると思わないことっスね!?」
でも、私たちのクラスが特撮をすると言われて賛成するかな?う~ん……無理っぽい。
「どうするシオリさん?トウジの話は、あくまで参考にするだけだし……」
「いや、参考にできる?特撮だよ?」
「……そうね」
「あっ、今明らかに変な反応だったっスね!これでもクラスの評判は良かったんスよ!?」
「そうなの?」
「だって、特撮って言っても、別に子供向けのヒーローみたいなことはしないっスから」
「「「え?」」」
じゃあ、大人向けの特撮?え、どういうこと?私、その辺りが詳しくないからわかんない……。
「……内容を大人っぽくするってことか?」
「そうじゃないっスよ?俺たちのしようとしているのは――」
「ここがサンシャインか!ようやく着いたぜ!」
と、店内に響く元気のある声。自動ドアをバックに立つ人影に、私たちは自然と目が行く。それは、明るい笑顔を見せる少年だった。
「誰っスかね?」
「さぁ……?」
この辺りでは見かけない顔に、佐原君たちも訝し気に様子を見ていた。きっと、この場にいる誰もが、そうしていただろう。
……私以外は。
「えーっと、あいつはどこに……」
店内を見渡し、それから店内を徘徊し始める。どうやら、誰かを探しているようだ。そう思っている間にも、だんだんとこっちに近づいてくる。
その距離が縮まるごとに、私は確信していた。この人は、やっぱり……。
「おっ、いた!ようやく見つけたぜ!シオリ!!」
私の肩を叩かれ、名前が呼ばれる。みんなが驚く中、ゆっくりと振り返る。そこにいた人は、間違いなく彼。
少し気まずいけど、私は彼と顔を合わせた。
「久しぶりだな、シオリ!」
「……うん。久しぶり」
「シオリさん、この人は……?」
森宮さんが、私に彼の事を訪ねてくる。ちらりと彼の方を見ると、にっこりと笑っていた。
「……彼は、広瀬ハヤト君。ヒナやシュンキ君と一緒で、中学の時の友達なんだ」
***
「つーわけで、改めて自己紹介するぜ。広瀬ハヤトだ!シオリとは、マブダチって奴だ!よろしく!!」
「よ、よろしくっス」
ご丁寧に握手を交わし、挨拶を終える。佐原君ですら、そのテンションに押されがちだ。鬱陶しくはないんだけどね。
「でも、どうしてここにいるの?私の引っ越し先の事も、このショップにいる事も、知らせてなかったはずだけど……」
「シュンキに聞いたんだ。ヒナにもな。んで、ちょっと会いに行こうかってな」
そうだったんだ……。でも、本当に久しぶりだな。まさかハヤト君とも再会することになるなんて。
どうしても、昔の事が頭をよぎってしまうけど……でも、嬉しい。しかも、ハヤト君の方から会いに来てくれるなんて。
「ってことは、ハヤト君もヴァンガードファイターってことなんスよね?」
「もちろん!腕は確かだぜ?」
自分でそれを言うのも、どうかと思うんだけど……。
「なるほど。確かに、シオリさんとヴァンガードしていた人なら、実力が高いのもうなずけるっス」
「中学の時にヴァンガードしてたって言ってたしな」
前にナオヤさんのイベントに参加した時に話したことだ。覚えていたんだ、みんな……。
「……それ、シオリから聞いたのか?」
「えぇ、そうよ。それが、どうかしたのかしら?」
「あ、いや……悪いな。まさかシオリの口から、昔の話をしていたなんて思わなくてな。そっち方面の話は、できるだけ仲間内では避けるようにしてたんだけど」
「避けるようにしてた?どういうことだよ」
「俺たち、まぁ昔ちょっとあってな。仲が悪いとか、そう言うんじゃねぇけど……シオリは特に、思い詰めててな。だから、下手に過去の事を刺激しないようにしてたんだ」
言われてみれば、確かに私以外の人がいる前では、中学の話は極力出さないようにしていた気がする。シュンキ君も、ヒナも、そんなこと考えてくれてたんだ……。変に気を遣わなくてもよかったのに……。
「けど、よかった。シオリが、自分から昔の事に踏ん切りつけてくれたんだ。ヴァンガードもまた始めたんだろ?」
「うん。今はこの4人で、グランドマスターカップに出場してる。秋予選は惜しかったけど、次のクリスマスカップでは、絶対に優勝したいんだ」
「そうか。またシオリがやる気になってくれて、俺も嬉しいぜ」
そのやる気をもらえたのは、本当に偶然だったんだ。サンシャインで、新しい姿になったアルフレッドと出会わなかったら、今の私はない。
「にしても遅いな……。やっぱ、一緒に来た方がよかったな……」
「えっ、他にも誰か来るの?」
「どうしても、シオリに会いたいって奴がいてな。俺が今日ここに行くって話をしたら、行きたいって言ってよ……。けど、この様子じゃ絶対に迷ってやがるな……」
その時だ。自動ドアが開いて、次の客を中に招き入れる。反射的にその人を見て、私は衝撃を受けた。
ハヤト君と同じように、私にとって忘れられない人がそこにはいたから。
「やっと来ましたか!遅いですよ?」
「ごめんね、ハヤト。ちょっと道に迷ってさ……」
「んなこったろうと思いましたよ」
間違いない。この声、話し方。全てが記憶の中にある姿と同じ。いつの間にか会えなくなっていた、私を支えてくれた人。
「ユキ、さん……!?」
「ヤッホー、シオリ。1年ぶりくらいだね」
「やっぱり……!ユキさんだ!お久しぶりです!」
ハヤト君の言っていたもう1人が、まさかユキさんだったなんて。この人には、本当にお世話になったんだ……。
「今日は懐かしい再会が多い日っスね……」
「あ、自己紹介がまだだったね。私は倉井ユキ。ドーナツ屋を経営しててね。シオリやハヤトたちは、中学生の時によく放課後に遊びに来てたんだ」
歳は私よりも一回り上。多分20代後半くらいじゃないかと思う。けど、そうは見えないくらいに若々しく見える。
あの頃と何も変わらない。だから、思い出す。みんなでユキさんの店に行って、ドーナツ食べて、それからヴァンガードやって……。
「…………」
懐かしいな……。
「それで、仲がいいってことですね」
「うん。みんなの事も、シュンキから聞いてるよ?リサちゃんにワタル君、それにトウジ君。ヴァンガードも強いって話だけど」
「……そんな事ないです。お世辞ってだけで、俺なんかまだまだです」
そう言えば、シュンキ君と何かあったみたいな話をしていたな……。さっきの話が、小沢君には皮肉に聞こえたのかもしれないな。
「あれ?でも店は?今日って休みの日じゃなかった気がするんですけど」
「臨時休業。ここを逃したら、次にいつシオリに会えるかわからないから」
店を閉めてまで来てくれたんだ。それだけ私のために……。
「それよりハヤト。今日は何かシオリに用があってきたんじゃなかったっけ?」
「あっ、いっけねぇ!忘れるとこだった!」
「用?さっきは普通に会いに来ただけって……」
「だ、だから忘れてたんだよ……」
でも、こういうドジなところも変わらない。ハヤト君はハヤト君のままだ。
「ちょいと伝言を頼まれてな。相手はシュンキだ」
「シュンキ君から?」
「本当は直接連絡してもよかったみたいなんだが、俺はまだ顔見せられてなかっただろ?だから、ここの事をシュンキに教えてもらって、行くことにしたわけだ」
「その話をハヤトから聞いたから、それなら私も行こうかな~って思って」
でも、伝言って何だろう?嬉しい知らせか。それとも悪い知らせか。
もしかしたら、彼が……レイジ君が……。
「つーわけで、忘れないうちに伝えるぜ。まだ先の話になるんだけどな、12月の初めに、アテナに来てくれないか?」
「アテナに?」
「そこの3人には悪いけど、シオリ一人で頼む。シュンキが何かやりたいことがあるんだと」
何をするんだろう。その時期は特に何もない。クリスマスにしては時期が少し早い気もするし……。
「……わかった。まだあそこに行くのは勇気がいるけど、いつまでもそうは言ってられないからね」
せっかくここまで来てくれたんだ。ユキさんだって。だったら、私が簡単に追い払うのも、薄情な話がする。
「にしても、シュンキは何するんだろうな?俺が聞いても、それは当日までのお楽しみとか言い出すし。まだ2ヶ月近くあんだぜ!?」
「あはは……。シュンキ君はそう言うの好きそうだから」
サプライズとか、よくやってたな。私もされたことがあったっけ。
それも、昔の思い出だ。
「……完全に蚊帳の外っスよね、俺たち」
「ちょっとトウジ!そう言う言い方はよくないわよ!」
「あっ、ご、ごめんみんな!まさか二人が来てくれるなんて思ってなかったから、つい……」
「いいんスよ。ただ、羨ましいと思ったんスよ。昔の友達が、こうして会いに来てくれるって事が……」
そう答えた佐原君の表情は、どこか曇っているようにも思えた。詮索するつもりはないけど、少し気になるな……。
「そういやお前ら。俺が来る前に何か話してたよな?結構賑やかだったもんで、つい気になっちまってよ」
「そんなに賑やかだったかしら?」
「こいつにはそう見えたんだろ。……あ」
小沢君、何かをひらめいた様子。
「そうだ。せっかくだし、文化祭の劇のテーマ、こいつらに聞いてみるのはどうだ?」
「確かに、いいかもしれないわね」
話はかなり逸れたけど、文化祭の劇のテーマは一向に決まってはいないんだ。それなら、この2人にも協力してもらおう。
「シオリ達、もうすぐ文化祭あるの?」
「はい。10月の半ばくらいかな。クラス単位で劇をすることになってるんだけど、なかなかテーマが決まらなくて……」
「へぇ~。私も見に行こうかな?その日も臨時休業にして!」
「本当ですか?クラスで喫茶店をすることにもなってるんですけど、そっちもよかったら来てくださいよ」
学校の人だけじゃなくて、地域の人も自由に参加していいのが文化祭だ。ユキさんが来てくれるなら、私も気合いを入れて頑張らないと。
「文化祭か……。シュンキやヒナを連れて、俺たちも行こうかな?」
「えっ、みんなも来るの?」
「いいじゃん。どうせ暇だし」
暇ってさ……。まぁ、少し抵抗はあるけど、別に大丈夫かな……?
「はい、ストップ。話がそれてるぞ」
「あっ、そうか」
「そうかじゃないわよ……」
「あはは……。それで、ハヤト君にユキさん。さっきも言ったように、劇のテーマが決まっていないんです。何か案を出してもらえたらいいかな~って、思ってるんですけど……」
小沢君が言ってくれなかったら、完全に脱線するところだったよ……。
「そうだね……。私みたいなお姉さんが意見するのもどうかと思うけど、青春ものとか、どう?」
「青春……。愛と友情の物語、とかっスか?」
「恋愛でもありね。それを劇に取り入れるとなると……」
「ありと言えば、ありだよね」
「だな。下手に挑戦するよりも、王道って感じでいいか」
問題はストーリーなんだけどね。そう言う意見なら、多分他の人も考えるかもしれないし。
「俺は燃え上がるようなアクションがいいな!ド派手に戦闘して、観客を盛り上がらせる!」
「いやいや、無理っスよ!?いくら練習時間があるからって、そんな本格的な劇なんかできないっスよ!」
盛り上がるとは思うんだけどね……。
「でもトウジ。あんたは特撮するんじゃないの?だったら、戦闘シーンはあるでしょう?」
「そう言えばそうだな。さらっと反対してるけど、佐原だってアクションだろ」
「だから、さっきも言ったじゃないっスか。確かに俺たちは特撮の劇をするっスよ。けど、ステージで殴り合いするような、野蛮なものじゃないって」
だとしたら、一体どんな劇をするって言うのさ。特撮と言えば、ヒーローが悪を倒す物語のはずだし。
「じゃあ、トウジ君のクラスは、どんな特撮をするの?」
「よく聞いてくれたっス。俺たちがするのは、ヴァンガードを使った特撮っスよ」
「「「「ヴァンガードを?」」」」
ハヤト君を含め、私たちはよくわからないと首をかしげる。そこで、佐原君はわかりやすく説明してくれた。
「ディメンジョンポリスってクランがあるじゃないっスか。その設定を流用して、正義の味方が悪の敵を倒すストーリーを作るんス。で、ヴァンガードファイトで敵を倒していく。これなら、見栄えもあるし、盛り上がるってわけっス」
「でもそれって、正義の味方が負ける可能性もあるじゃない。それは結末として問題ないの?」
「そこがいいんじゃないっスか。勧善懲悪で終わるだろうな~って思わせるよりは、どっちが勝つか最後までわからない緊迫感を演出した方が、面白いと思わないっスか?」
確かに。普通なら勝って終わり。けど、ヴァンガードは何が起こるかわからない。先の予測がつかない物語……これもありかもしれない。
「面白いわね。悔しいけど」
「えぇ!?」
「てか、この案出したの誰なんだよ?そいつ、よっぽどヴァンガード好きだってことだろ?」
「俺っスけど」
「……あ、そう」
「聞いておいてなんスかそれ!?」
だって、佐原君って言われたら、あぁそっか……ってなるよ。言いそうなキャラだし。
「楽しそうだな、それ!シオリたちもそれにしろよ!」
「「「え!?」」」
それって、私たちもヴァンガードで悪の敵を倒せって事!?
「冗談じゃないわよ!何でこんな子供みたいな劇の猿真似しないといけないのよ!」
「そんなこと思ってたんスか!?てか、こっちだってそのまんま真似されるのは嫌っスよ!さっきもリサさんたちには言ったはずじゃないっスか!」
それはそうだよね……。パクリは良くないし、こっちが悪者になる。
「……じゃあ、そのまま真似しなかったらいいんだよね?」
「ま、まぁその通りなんスけど……」
「だったら、私の言った青春ストーリーに、ヴァンガードの要素を加えてみたらどう?」
「青春と、ヴァンガードを?」
まさかの提案が出たよ。佐原君が特撮なら、こっちは青春で対抗するってことか。
「行けるのかよ、それ」
「どうでしょうね?でも、ヴァンガードのアニメには、スポーツのような青春要素は詰まっていたはずよ。主人公のアイチは、文化祭でヴァンガードの演劇をしたくらいだし」
青春の全てをヴァンガードに捧げ、目出す場所に向かって走っていく。途中で挫折しながらも、苦難を乗り越えてゴールへとたどり着く。何だか、2時間映画でも作れそうな勢いだ。
……あれ?それって、もしかして……。
「……いいかもしれない」
「星野?」
「それにしようよ。劇の候補!青春とヴァンガード、やってみようよ!!」
二人の意見をもとに、私たちの劇の候補は決まった。実際に、明日になって見ないと、どうなるかはわからないけど……。
「えぇ!?ちょ、そんなのパクリじゃないっスか!」
「そのまんま真似はしてないもんな。トウジが言ったんだぜ?」
「やかましいっスよ!てか、馴れ馴れしいっスね!」
「でも、どうしてそれに決めたの?」
「それは……」
何となく、ヴァンガードと青春を当てはめてみた時に、似ていたから。
「私たちの事みたいだったから……かな」