つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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さて、今回から文化祭に突入します。

本当は2話くらいで簡単に済ませようと思ってたんですが……想像よりも長くなりそう。クリスマスカップまで、まだ話数かかりそうです。

でも、その分ファイトは取り入れていきたいと思うので、ご期待を。とか言いながら、今回ファイトはないんですね……。

では、どうぞ。


ride71 可能性

「フッフッフ……。我は今求める!貴様の血肉を、そして絶望を!!」

 

「せ、正義が悪に屈するなど……!」

 

「そのような筋書きがまかり通ると、一体いつ、誰が決めたのだ?こいつでお前も、世界も……終わらせてやるわ!!」

 

「ぬ……ぐわぁぁぁ!!」

 

向かい合うヒーローと悪の親玉が、互いに熱戦を繰り広げている。だが、悪の親玉の力は強大で、ヒーローは力尽きてしまう。

 

手に持つカードを地面に落としながら、うつ伏せに倒れこんでしまった。

 

「アーッハッハッハ!所詮、光は闇に飲まれるもの!我が屈することはないのだ!」

 

「く……っ、そんなことは、ない……っ!」

 

倒れたヒーローが、互いを隔てる台に手をつき立ち上がる。その台で行われていたのは、ヴァンガード。

 

「この程度で……正義は屈しない!お前を倒すまで、私は何度でも這い上がって見せよう!!」

 

『こうして、正義のヒーロー、ヴァンセイバーの戦いは続く……』

 

ナレーションが入り、舞台が暗転する。その間に、ヒーローと悪の親玉は退場していく。

 

お気づきかもしれないが……今日は文化祭のリハーサル。学年ごとに体育館を使い、劇の通し練習をすることになっていた。

 

「なかなか面白いわね。あいつのクラスの劇」

 

「うん。ファイトに時間は使うけど、特撮だから内容は簡潔に纏められる。その分、ファイトに重点を置いて、戦闘要素を演出しているんだね」

 

「星野……。何だか評論家みたいだぞ……」

 

前にも言ったと思うけど、これでも映画好きでね……。だから、ついそう言う目で見てしまうんだよね。

 

「てか、何であいつが悪役なんだよ」

 

「あぁ言うのに憧れてたりするんじゃない?子供っぽいし」

 

「はまり役だと思うし、いいんじゃないかな……」

 

そうしている間に、次のクラスの劇が始まる。どうやら、このクラスはミュージカルをするみたいだ。思い切った選択だな……。

私たちのクラスの練習は、このミュージカルの後。学年のラストを飾る、重要なポジションにいた。

 

「でも、よく通ったわね、あの意見」

 

「ヴァンガードも認知度があるし、実際面白いと思ったからだろ」

 

そう。私たちのクラスの発表は、この前提案したヴァンガードと青春のストーリーになった。一応ダメ元だったけど、思いの他評判は良く、満場一致でOKされた。

 

やっぱり、人気があるって大切なんだな……。

 

「ふぃ~疲れたっスよ……」

 

「あ、お疲れ。佐原君」

 

さっきまで着ていた悪役の衣装から制服に着替え、佐原君が戻ってきた。そうしている間にも、練習は続いている。

 

「ちょいと前振りして、動きつけながらファイトするだけなのに、マジで疲れるっスね……。特にのどがヤバいっス」

 

叫んでばかりだったし、本番は大丈夫なんだろうか。声をからさないかどうか、ちょっと心配。

 

「でも、ファイトは絶好調!今日もヒーローを返り討ちにしてやったっスよ!」

 

「いや、ダメだろうが。今までファイトして、佐原1回も負けてないだろ」

 

「んなこと言っても、手を抜くなんて真似はできないっスよ!どうにかしてもらうしか……」

 

それでどうにかできるなら、誰も苦労はしないと思う。私たちは当たり前にファイトしてるから慣れてるけど、佐原君の強さは相当だ。だって、秋予選では決勝戦でしか負けてないんだからね……。

 

「それに、彼だって経験者なんスよ?クラスでも腕のある人を選んでファイトしてるんスから、素人相手に全開で行ってるわけじゃないんスよ」

 

「本人には悪いが、とてもそうには見えないんだけどな」

 

あのヒーロー役の男子も、後半涙目になってたしね……。

 

「リサさんは、彼の事を覚えてるっスよね?」

 

「えぇ。チームの3人目の候補に挙がってたわよね。結局、勧誘はしなかったけど」

 

ヒーロー役の彼と、そんなエピソードがあったなんて……。

 

「てなわけで、明日の本番も期待しておくっスよ!常識なんて言葉で、結末は決められないことを見せてやるっス!」

 

「はいはい。……あ、終わったみたいだわ」

 

ステージのセットが片付けられている。そろそろ準備に行った方がよさそうだ。

 

「よし、行くか」

 

「うん!」

 

ステージ上に集まり、各自段取りを確認する。照明や音楽、役者など、それぞれが所定の位置についたところで、劇の開始の合図である音楽が鳴った。

 

私たちの劇のストーリーは、新米のヴァンガードファイターの話だ。ヴァンガードは好きだが、実力が伴わずに苦悶する日々を送る主人公。

そこに現れたベテランファイターとの出会いをきっかけに、自分を変えていく物語だ。

 

あくまで劇だし、そこまで深く掘り下げることはできないが、最後には超えるべき強敵も登場する。もちろんファイトも行うが、真剣に行うのは最後の見せ場だけだ。他は、序盤の主人公の弱さや、成長を演出するためにワンシーンを使うだけ。

 

そして、最後のファイトの勝敗で、エンディングを分岐させる。そこは、佐原君のクラスと同じ流れだ。

 

「はぁ……。また負けた……」

 

今は序盤のファイトを終えて、主人公がたそがれているシーンだ。そしてこの主人公は……他でもない私。

 

本当は裏方をするつもりだったんだけど、発案者でありヴァンガードをしていることもあって、主役に抜擢されてしまった。周りの支持もあり、秋予選で準優勝だったことが知られていたのも大きな要因だった。

 

そこまで持ち上げられたら、私だって断りにくい。と言うわけで……。

 

「どうして、私はいつも勝てないんだろう……」

 

こうなりました。

 

「何を落ち込んでいるの?」

 

「えっ……?」

 

「それ、手に持ってるの、ヴァンガードのデッキよね?」

 

「えと、あなたは……?」

 

「海崎リサよ。私も、ヴァンガードファイターなの」

 

「え、海崎って……もしかして、あの有名な!?」

 

ちなみに、ベテランファイター役には、森宮さんが選ばれた。新米役よりも似合っているから、との事みたいだけど……。

 

そうこうしているうちに、劇は続いていく。

 

「――なるほど。つまりあなたは、ヴァンガードで勝てなくて困っていると」

 

「はい……。私、まだ始めたばかりだし、すぐには強くなれないのはわかっています。けど、どうしても上手くなれない。何回ファイトしても、勝てないんです」

 

「何回も……」

 

「デッキも見直して、ファイトの進め方も考えて。それでも……ダメなんです」

 

「そう……」

 

普通に演技しているけど、かなり緊張してる。森宮さんも、声が少し力んでいる。でも、舞台度胸はついてきた……と思う。

 

「あなたは、本当にヴァンガードが好きなのね」

 

「えっ……?」

 

「だって、そうじゃない。ずっと負け続けているのに、それでもあなたはファイトを重ねてる。普通なら、すぐに心が折れてしまうものよ?」

 

森宮さ……じゃない。海崎さんの言葉が、静かだけど力強いBGMに乗って、体育館に響いていく。

 

「あなたのその想いは、誰にも負けない武器になる。好きであり続けなさい。磨けばきっと、あなたは強くなれるわ。私も、ヴァンガードが好きだもの」

 

さっき言っていた、森宮さんがベテランの方に選ばれた理由。それは、すぐに分かった。森宮さんは、こういうセリフがよく似合うんだ。雰囲気だって、できる大人って感じだからね……。

 

「海崎さん……」

 

「私も協力してあげる。あなたのために」

 

「それって、私と一緒に練習してくれるってこと……!?」

 

「えぇ。だから、あなたの名前も教えてほしいわ。いつまでも、あなた呼びは嫌だしね」

 

「あ、はい。私は……シオリ。空井シオリです」

 

「よろしく、シオリさん」

 

固く握手を交わしたところで、ステージが暗転する。そこからは、特訓のシーンや成長のシーンが続き、ついにラストバトルへ。

 

「こいつで終わらせてやる!再スタンドしたジ・エンドで、アルフレッドにアタック!」

 

「エポナ、霊薬の解放者、マロンでガード!ブラスター・ブレードでインターセプト!」

 

「く……っ!」

 

「そう簡単には負けません!私は、ヴァンガードが大好きなんですよ!土田さん!!」

 

強敵の土田さんを演じているのは、小沢君。こっちもはまり役とのことで選ばれた。

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!狼牙の解放者 ガルモールをコールして、アルフレッドのリミットブレイク!」

 

……でも、これっていつもの私たちな気がするんだよね。

 

「まさか、この俺が負ける……!?強さだけを求めて戦ってきた、この俺が!?」

 

「この想いを乗せて……行け、アルフレッド!!」

 

「く……くそぉぉっ!!」

 

6枚のダメージが、小沢君もとい土田さんの盤面に並ぶ。こうして、リハーサルはハッピーエンドで終わらせることができた。

 

「……なるほど。今日はシオリさんの勝ちっスか。こっちはいい勝負をしてくれるっスね」

 

劇ではなく、ファイトの結果に注目し、トウジは感心する。

 

「でも、俺たちの方はどうもな……。彼が悪いわけじゃないのはわかってるっスけど、結果が見えてしまっているのが……」

 

事実、ヒーロー役の男子もトウジに言っていた。本当に相手が務まっているのかと。そうは言っても、クラスの中でトウジの相手をできる人は他にいない。

 

「……あ」

 

そうだ。せっかく都合のいい部隊がそろっているんだ。少し手回しは必要だが、もう少し盛り上がる方法を見つけた。

 

「…………」

 

そんなトウジの視線が、ステージ上のシオリに向けられていることを、この場にいる誰も知らない……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「カオスブレイカーのスキル!ベリコウスティを……ロック」

 

「ちっ!安定してロックが使えるのは、かなり厄介だな!」

 

「対リンクジョーカーだって、想定しておかないといけないじゃないっスか?カオスビートのブースト、カオスブレイカーでアタック!ロックカードがあることで、カオスビートのスキルでパワープラス5000!」

 

「しまった!そのスキルを忘れて……。ノーガードしかない!」

 

その日の放課後。私たちはサンシャインに立ち寄り、クリスマスカップに向けた特訓をしていた。今は小沢君が、リンクジョーカーを相手にファイトをしている。

 

それって、いつもの佐原君だって言うのは、突っ込んじゃいけない。

 

「ダメージチェック……ガトリングクロー・ドラゴン。トリガーだけど、俺の負けか」

 

「リンクジョーカー相手に、ロックの事も考えて行動はできてるっス。けど、少し慎重になりすぎて、攻め時を無駄にしてる場面がよくあったっスね。もう少し大胆になってもいいと思うっス」

 

「なるほどな……。ロックされたらその時の話だ、程度に考えたらいいってことだな?」

 

「そう言う事っス」

 

さすがはリンクジョーカー使い。アドバイスも上手い。

 

「じゃあ、シオリさん。今度は私とファイトしてもらえない?」

 

「いいですよ。やりましょうか」

 

私もがんばらないと。今の私にできるのは、ファイトの腕を磨くことだけだ。解放者のカードは、種類もそこまでないから、デッキを強化するにもできないからね……。

 

「ところで、さっき森宮さんデッキをいじってたみたいですけど……」

 

「ちょっと試したいカードがあったからね。アクアフォースは、それなりにカードの種類も多いから」

 

「へぇ~。じゃあ、行きますよ」

 

「いつでも来なさい」

 

「「スタンドアップ!「ザ」ヴァンガード!!」」

 

私はチア―アップ・トランぺッター。森宮さんは、バブルエッジ・ドラゴキッドのはず。

 

……はずだった。

 

「それって……少し前のブースターで収録されてたカード……」

 

「えぇ。始まりの波紋 アレックスよ」

 

森宮さんは、波紋を中心にしたデッキに挑戦していた。カード自体は知っていたけど、ファイトはしたことない。さて、どれだけ使いこなせるのか……。

 

「轟く波紋 ジノビオスのリミットブレイク!アタック終了時に、前列のレストしているユニットが3体以上いるなら、CB2とペルソナブラストで、リアガードを全てスタンド!」

 

「ここで再スタンド!?」

 

きっちりリミットブレイクを決めてきた。これはマズい展開かもしれない。

 

「ホイール・アサルトのブーストした、トランスコア・ドラゴンでガルモールにアタックよ」

 

「う……マロンでガードして、ファロンのインターセプト……」

 

「最後は、ホイール・アサルトのブーストで、グローリー・メイルストロームのアタック!」

 

「……ノーガードです」

 

ダメージトリガーはない。森宮さんとのファイトは、私の負けだった。

 

「なかなかいいわ。けど、ペルソナブラストが難点ね。それに、連携ライドなのも不安定さが目立つわ」

 

どうやら、森宮さんの中で波紋は微妙だったみたいだ。またしてもデッキを見直し、入れていくカードを選択していく。

 

「色んなカードを試すんですね」

 

「まぁね。今使っているデッキも確かにいいけど、そこで満足したら成長はないわ。もしかしたら、他にも可能性があるかもしれないから」

 

「可能性……」

 

そう言えば、私は解放者しか使ったことがない。アルフレッドが解放者をメインとした構成を求めるから、統一する必要があると思ってのデッキだった。

 

けど、それ以外のユニットを取り入れる可能性が、全くないわけではない。むしろ、デッキの選択の幅を狭めてしまっているのではないか。

 

「そうね……。今度は、コバルトウェーブ・ドラゴンでも使ってみようかしら」

 

「何かマニアックなユニットを使おうとしてるっスね……」

 

「じゃあ、今度はトウジが相手しなさい。やるだけやってみないと、わからないし」

 

「いいっスよ?とことん相手してやるっス」

 

デッキ組み直すの早いな……。もうファイトを始めてるし。

 

「ライド、ストームライダー エウゲン!」

 

「魔弾の星輝兵 ネオンにライドっス!とことんコバルトウェーブに寄せてるっスね!」

 

「もちろん。でも、少し固執してるかもしれないって思ってるけど」

 

「まだグレード1なのに、気が変わるのが早いっスよ……」

 

と言いながらも、手は動かしてファイトを進めている。

 

「あっ、ところで、ヴァンガードとは全く関係ない話なんスけど……最近よく有名になっている、いじめ抑制集団って知ってるっスか?」

 

「あぁ。よく話題になるわね。現役の女子高生みたいじゃない」

 

「俺も知ってるぞ。確か、ビリー・ブレイカー。直訳すると、いじめを壊す者らしい」

 

読んで字のごとくって感じだ。そんな善良な人たちがいるんだな。

 

「私、そう言う話は知らなかったな。その人たちって、どんな人なの?」

 

「何でも、3人組らしいっスよ?全員が格闘術に優れていて、喧嘩ではまず勝ち目がない。話術も大したものみたいで、説き伏せた人は多い見たいっス」

 

「へぇ~。そうなんだ」

 

「でも、一番の特徴は、ヴァンガードをいじめを止める道具にしている事なんスよ。勝負の結果で、罪を認めるか見逃すかを決めるらしいっス」

 

「だったら、見逃した人もいるってこと?」

 

「それがそうでもないんスよね。話だと、負けたことはまずないみたいで、絶対の自信を持っているそうっス。だから、ヴァンガードを手段として利用できるわけっスね」

 

すごいな……。大きな話になるけど、他人の人生をも左右するかもしれないことになる。その選択を決めるために、ヴァンガードを使うなんて……。並のファイターなら、こんな真似はできないはずだ。

 

「んで、そいつはこう名乗っているらしいっス。ヴェルレーデって」

 

「ヴェル……あれ?どこかで聞いたような……?」

 

「シオリさんと同じ、ノスタルジアの1人。過去の追憶っスよ」

 

「あっ……!」

 

だから聞いたことあるんだ。会ったことはないけど、ノスタルジアカップの時に、その人もいたってことだ。当時の記憶は全然ないけど……。

 

「でも、どうしてその人が?」

 

「わからないっスけど、これは辿っていけばそいつとファイトできるチャンスっス。他の二人は、伝説感も何もないっスからね」

 

悪かったね……。

 

「だから、今この話を持ち出してきたのね。ヴァンガードと関係ないなんて、嘘じゃない」

 

「たまたまっスよ!けど、俺はマジでそいつの手掛かりを求めてるっス。何かわかったら、すぐに俺に知らせてほしいっスよ」

 

「うん、わかった」

 

ノスタルジアの人とファイトすることは、佐原君にとっては大きな意味があるみたいだからね。私も、協力できることはやってみよう。

 

「それで、次はリサさんのターンっスよ」

 

「えぇ、そうね。私のターン!スタンドアンド――」

 

けど、そんな話をしている中でも……。

 

「…………」

 

森宮さんの行動から見出した、私のデッキの可能性。

 

私は、それがどうしても頭の中から離れなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ただいま……」

 

「あっ、お帰りシオリ。今日も遅かったね」

 

「いや、今日はカードショップ……。劇の練習は、リハーサルがあったからその時にしたんだ」

 

その後もファイトを重ね、今日は解散となった。結局森宮さんは、そのままのデッキで行くことにしたみたいだけど。

 

「それで、調子はどうだい?」

 

「劇の方は、多分いいと思う。まだセリフ飛んだり、緊張したりするけど……みんな期待してくれてるから、頑張ってるよ」

 

「それにしては、ちょっと元気ないみたいだけど……?何か気になることでもあるのかい?」

 

さすが、お父さんだ。自分の子供の事だからか、妙に鋭い。隠すことでもないので、私は正直に打ち明けることに。

 

「実は、気になってるのはヴァンガードの事なんだ」

 

「ヴァンガードの?」

 

「今の私のデッキの事でね。あまり詳しく言ってもわからないだろうけど、デッキに入れているカードが、決まりきったものになってしまっているんだ」

 

「いいよ、続けて?」

 

「今日友達が色んな選択肢を試しているのを見て、私はこれで満足してしまってるんじゃないかなって思ったんだ」

 

解放者で統一することで、当然メリットは生まれる。デッキは安定し、名称によるサポートも受けられる。それに、アルフレッドは解放者がいる事で力が増す。だからこそ、解放者だけにこだわってきた。

 

けど、デメリットだってある。それこそが、デッキの自由度をなくしている事だった。

 

解放者のカードは、確かに種類を増やしている。が、それでも10人に解放者のデッキを作らせたら、全てが似たような仕上がりになってしまうのではないか。

 

安定感と充実した火力を出せる解放者。でも、それ以外にも道はあるかもしれない。

 

「それで、デッキを見直そうと思ったんだけど……どうすればいいのかわからなくて。私、解放者しか使ってないから、他のゴールドパラディン……あっ、私の使っているクランなんだけど、それについては全然知らないんだ」

 

まずはカードを知ることから始めないといけない。その上で、今のデッキに取り入れるべきパーツを探さないといけない。

 

でも、名称をそろえることで力を発揮する解放者と、非名称のカードを上手く組み合わせることはできるのか。

 

「……なるほどね。事情はよく分かったよ」

 

すると、お父さんはリビングを出て、どこかに行ってしまった。後について行こうとしたけど、そこで待っててと言われたので、大人しく待っている。

 

しばらくして、お父さんは何食わぬ顔で戻ってきた。何故か、両手は後ろに隠して。

 

「お父さん、どこに行ってたの?」

 

「いや、嬉しくてね。シオリがヴァンガードにここまで打ち込んでるのを見ると、昔のように楽しそうだって思えるから」

 

「……質問と答えが合っていないと思うんだけど」

 

「いやいや、本題はこれからだよ」

 

何をするつもりなんだろうか。

 

「シオリがこうして、ヴァンガードの事で困ってるんだ。少しでも力になりたいと思ってね。そこでだ」

 

お父さんは、後ろに隠した両手を前に出す。そこにあったものは……。

 

「え、お父さん。まさか……」

 

「そのまさか。父さんと、ヴァンガードしよう」

 

デッキケースに収められた、ヴァンガードのデッキだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「いつの間にデッキ作ってたの?」

 

「シオリがヴァンガードを再開してからだね。どうせならデッキ作って、いつかシオリとヴァンガード出来たらいいかな……って」

 

私たちはテーブルに座り、デッキをシャッフルする。確かにシャッフルの仕方がぎこちない。始めたばかりなのが見てわかる。

 

「それに、母さんからもらったあのカードを、使ってみたかったのもあるかな……」

 

「それって、あの時の?」

 

「ずっと、飾っているだけだったからね」

 

デッキからカードを引き、引き直しも済ませる。何気に家でファイトするのは初めてだな。

 

「このファイトで、何かヒントになればいいって思ってね。まだファイトには慣れてないけど、相手させてもらうよ」

 

「こちらこそ。お父さんとのファイトでも、勝ちに行くよ!」

 

「「スタンドアップ!「ザ……」ヴァンガード!!」」

 

互いにスタンドアップする。あの時のカードが使いたいなら、クランは恐らく……あれだろう。

 

「解放者 チア―アップ・トランぺッター!(5000)」

 

「父さんは……恐怖政治 テルミドール!(5000)」

 

「やっぱり、スパイクブラザーズか……」

 

昔、お父さんがお母さんから貰ったカードが、このクランに属していた。だから、このクランでデッキを組んでることは予想できていたけど……。

 

「……お父さんがスパイクブラザーズなのは、どうもイメージと違うんだよね」

 

性格で言えば、大人しい感じだし。体格だって、筋肉質でもないし……。

 

「そっ、そんなこと言わない!じゃあ、父さんのターンから!ドロー!」

 

お父さんのターンが始まったことで、初の親子でのファイトは動き出した。

 

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