でも、上手く時間が取れないんですよね……。頻繁に投稿できる人の事、本当に尊敬します。
近々もう1話くらいは投稿できそうなんですが、そこで途絶えそう。少し前に話した新しい小説を書いているからだというのもあるんですが(おい)
今回は長めです。どうぞ。
「ドロー、ワンダー・ボーイ(8000)にライド!テルミドールは左後ろへ移動!ターンエンド!」
「私のターン、ドロー!未来の解放者 リュー(6000)にライド!チア―アップはそのまま後ろへ!」
すごく不思議な感じだ。そもそも、お父さんがヴァンガードのデッキを持ってたなんて知らなかったし……。こんな風にファイトすることになるなんて、思ってもみなかったからね。
このファイトで、私なりにヒントを見出す。そのために協力してくれるなら……どこまでの実力かは分からないけど、全力で行こう。
「チア―アップのブースト、リューでアタック!(11000)」
「ソニック・ブレイカーでガード!」
「序盤からガードか……。ドライブチェック、霊薬の解放者。ヒールトリガーだけど、ダメージがないから回復はなしだよ。パワーはリューに与える!(16000)」
幸先が悪いな……。でも、まだまだこれからだ。
「ターンエンドするよ」
シオリ:ダメージ0 父:ダメージ0
「父さんのターン。ドロー、至宝 ブラックパンサー(10000)にライド!」
パワーの高いユニットにライドしているな……。これじゃあ、アタックも通しにくい。さっきもガードされてしまったしね。
「テルミドールの前に猛将 ザカリー(9000)を、ブラックパンサーの後ろに、ダッドリー・ダン(4000)をコール!」
おまけにダッドリー・ダンか……。後々厄介なことになりかねないね……。
「ダンのブースト、ブラックパンサーでアタック!(14000)ドライブチェック、至宝 ブラックパンサー」
「ダメージチェック、光輪の解放者 マルクだよ」
「テルミドールのブースト、ザカリーでアタック!テルミドールのスキルで、アタック終了時にブーストしたユニットをデッキの下に戻す代わりに、パワープラス3000!(17000)」
「ここも……ノーガードだね。ダメージチェック、ブラスター・ブレード・解放者」
けど、このアタックを通してしまったことで、ザカリーのスキルが誘発してしまう。
「ザカリーのスキル、アタックがヒットした時、SB1で1枚ドロー!そしてザカリーをデッキに戻す!」
これなら、テルミドールのデメリットを帳消しにできる。カードのコンボも、上手く使えているみたいだ。
「ターンエンド」
シオリ:ダメージ2 父:ダメージ0
「よし、私のターン。スタンドアンドドロー」
まだダメージは与えられていない。ここで少しでも、ダメージを稼ぎたい。
「ライド・ザ・ヴァンガード!勇気の光を受けて輝く、黄金の剣を掲げし戦士!ブラスター・ブレード・解放者!!(9000)」
これでリアガードを退却して……。
「……っ!」
いや、できない。ブラスター・ブレードの退却対象は、前列だけだ。さっきのターンに、ザカリーはデッキに戻ったから……。
「……横笛の解放者 エスクラド(9000)と、小さな解放者 マロン(7000)をコール。チア―アップのブースト、ブラスター・ブレードでアタック!(14000)」
「チアガール ティアラでガード!:
「くっ……ドライブチェック、希望の解放者 エポナ。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てエスクラドへ!(14000 ☆2)」
これは……今までの戦い方を見るからに、相当腕はありそうだ。結局、ブラスター・ブレードのスキルも使いそびれたし……。
だったら、そのコストを別の手段に使わせてもらうよ!
「マロンのブースト、エスクラドでアタック!(21000 ☆2)」
「ここはノーガードかな。ダメージは……メディカル・マネージャーと、陽気なリンクス。よし、ドロートリガー!1枚ドローして、パワーはブラックパンサーへ!(15000)」
「なら、エスクラドのスキル!アタックヒットにより、CB1……デッキトップのカードをスペリオルコール!ばーくがる・解放者!(7000)」
本当は追撃を狙いたかったけど、仕方ない。気持ちを切り替えて、次のターンに備える。
「ターンエンドだね」
シオリ:ダメージ2(裏1) 父:ダメージ2
「父さんのターン、スタンドアンドドロー!ライド、バッドエンド・ドラッガー!!(11000)」
バッドエンド……前クランの中でも、かなり強力なブレイクライドを持ったユニットだったはず。互いの……というよりは、こちらのダメージに気を付けないといけない。
「至宝 ブラックパンサー(10000)をコール。そのままアタック!(10000)」
「エポナでガード!」
「ダンのブースト、バッドエンドでアタック!バッドエンドのスキルで、パワープラス2000!さらにダンのスキル、CB2と手札1枚をソウルに入れて、デッキからこのカードをコールする!」
ここで来るか……。お父さんにとって大切なユニットが。
「スペリオルコール!ジャガーノート・マキシマム!!(11000)」
「間違いなく、コールしてくると思ったよ」
「このカードは、シオリにとってのアルフレッドだからね」
今となっては、それくらいの価値を見出していてもおかしくない。私がアルフレッドを大切にするように、お父さんもまたジャガーノートを大切にしているのだから。
そもそも、お父さんがこのカードを手にすることになったのは、2年前の話だ。
***
2年前と言うと、私が中学2年生の時だ。あの時は、ちょうど新学期を迎えたばかりで、まだヴァンガードとも縁がなかった。
その頃は、お母さんも生きていたけれど……病気で入院していた。だから、友達もいなかった私は、学校の帰りに病院に立ち寄る時間がいくらでもあった。
「来たよ……お母さん」
「あ、シオリ。来てくれたんだね」
この日は、珍しくお父さんの姿もあった。仕事を早く終わってきたのだろうか。
「毎日来てくれるけど……そこまで無理しなくてもいいんだよ?シオリだって、シオリの時間があるんだし」
「いや、私なら大丈夫だよ。それに……」
少し言葉を詰まらせてしまうが……。
「……まだ、友達いないから」
小さい時から大人しくて、だから友達もいなかった。お母さんは、そんな私を昔から心配してくれた。
それなのに、私にはまだ友達がいなくて……心配させて……。そんな後ろめたさから、さっきは言葉に困った。
「…………」
お母さんだって、自分の病気の事で苦しいのに。それなのに、私の事まで心配させてしまうのは、心が引けていた。
「……辛そうだね、シオリ」
「うん……。正直に言うと、ね……」
それでも、この時の私は、我慢がきかなかった。その優しさに、すがってしまった。
友達がいたら、毎日楽しいのかな……って。まだ私は、その楽しさを知らなくて。誰かがいてくれることの嬉しさがわからなくて。
その想いが、溢れてしまった。
「だったら……そんなシオリが元気になってくれるように、お母さんからプレゼントをあげるよ」
すると、お母さんはベッド近くの台の引き出しから、何かを取り出す。やけに微笑みを浮かべながら、その何かを私に渡してきた。
それは……1枚のカード。
「最近流行っているんでしょ?カードファイト!!ヴァンガードって。試しにパック買ったら、このカードが入ってたの」
私は、そのカードに心を奪われた。それこそが……。
「かっこいいでしょ?騎士王 アルフレッド」
私の全てを変えるきっかけとなった、アルフレッドだった。
そしてその時から、私はヴァンガードの世界に足を踏み込み……刹那の希望と、耐え難い絶望を味わうことになってしまう。
けど、それはまた別の話。
と言うより、今はどうしてお父さんがジャガーノート・マキシマムを手に入れたかの話だ。それは、私がアルフレッドを貰った直後に起こる。
「おっ、よかったなシオリ。よくわからないけど、何だか強そうだ」
「お父さんにもあるんだよ。ほら、これ」
「えっ、そうなのかい?ありがとう。……って、これは?」
そのカードこそ、ジャガーノート・マキシマムだった。
「お父さん、ナヨナヨしているから。そのカードみたいに、もっとガッチリして、しっかりしてほしいって気持ちも込めて」
「ナヨナヨ!?……けど、まぁありがとう。大事にするよ」
こんな何気ないやり取りだった。けど、今となっては……もうお母さんもいない。あの時のジャガーノートは、お父さんにとっては大切な思い出。
お母さんからのプレゼント……形見だった。
***
「ジャガーノートはテルミドールの前にコール!このアタックはどう受ける?(17000)」
と、過去の話はここまで。とりあえず、ファイトに戻ろう。
「ノーガード!」
「ツインドライブ!1枚目、ジャガーノート・マキシマム。2枚目、チアガール マリリン。トリガーはなしか」
「じゃあ、ダメージチェック……王道の解放者 ファロン」
「テルミドールのブースト、ジャガーノートでアタック!テルミドールのスキルで、パワープラス3000。さらにジャガーノートのスキルで、SB1してパワープラス5000!(24000)」
さすがに防げない。ノーガードするしかないか……。
「ノーガード。ダメージチェック……武装の解放者 グイディオン。ゲット!ドロートリガー!!1枚ドローして、パワーはブラスター・ブレードに!」
まぁ、トリガーが出てくれただけでもラッキーだとしよう……。
「ジャガーノートはスキルでデッキに戻り……これで父さんのターンは終了!」
シオリ:ダメージ4(裏1) 父:ダメージ2(裏2)
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
お父さんは、ジャガーノートで私を追い詰めた。なら、私は。
「私も行くよ!世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!!ライド・ザ・ヴァンガード!円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」
アルフレッドで、差を縮めていきたい。
「アルフレッドのスキル!CB2……デッキトップのカードをスペリオルコールする。そのカードは……希望の解放者 エポナ!(5000)」
これでリアガードは5体。だけど、エポナじゃパワーが心持たないから……。
「狼牙の解放者 ガルモール(11000)を、エポナに上書きコール!エポナは退却するよ!」
だったら、最初からガルモールをコールすればよかったかな……。コストの無駄遣いだった。
「アルフレッドのリミットブレイク!解放者のリアガードは5体いる!フルパワー!!パワープラス10000!(21000)」
「パワーがそんなに……」
「マロンのブースト、エスクラドでアタック!(16000)」
「ノーガード」
ダメージには、ワンダー・ボーイが入る。まずは1ダメージだ。
「チア―アップのブースト、行くよ!アルフレッド!!(26000)」
「こっちもノーガード」
「ツインドライブ、1枚目……霊薬の解放者。ゲット!ヒールトリガー!!ダメージを1枚回復、パワーはガルモール!(16000) 2枚目……光輪の解放者 マルク」
ダメージが3になったことで、リミットブレイクの効果も消えてしまう。けど、パワーは元から上回っている。アタックも、問題なくヒットする。
「ダメージチェック、バッドエンド・ドラッガー」
「ばーくがるのブースト、ガルモールでアタック!(23000)」
「これもノーガード。ダメージは……陽気なリンクス。ドロートリガー!1枚ドロー、パワーはバッドエンドへ!」
「手札が増えた……。ターンエンド!」
シオリ:ダメージ3(裏2) 父:ダメージ5(裏2)
「じゃあ、父さんのターン。スタンドアンドドロー。よし、次はこっちの反撃と行こうか!」
ダメージは4。きっと、ブレイクライドは使われる。後は、何にライドするかなんだけど……。
「止まることなく進め!勝利はすぐそこに!ブレイクライド!グレイトフル・カタパルト!!(11000)」
それで来たか……!ここでブレイクライドと合わせて使われるのは、危険すぎる……。
「ブレイクライドスキル。カタパルトに、パワープラス10000!(21000) さらにリアガードがアタックする時、このターン中のみパワープラス10000する!」
ただし、アタックしたリアガードは、バトル終了時にデッキの下に戻る。リアガードを残しておくことは、まずできない。
けどこれなら、どんなユニットでも驚異的なパワーでアタックできる。使う方はともかく、使われる方はたまったものじゃない。
「ブラックパンサーの上から、ハイスピード・ブラッキー(9000)、テルミドールの前にジャガーノート・マキシマム(11000)をコール!さらにサイレンス・ジョーカー(4000)をコールし、スキルで自身をソウルに入れて、ダメージを1枚表に!」
ここぞとばかりに、一気にユニットを展開していく。準備は整ったという事か。
「ブラッキー単体でアタック!ブレイクライドスキルで、パワープラス10000!さらにブラッキーのスキルで、SB1でパワープラス5000!(24000)」
元々のパワーは9000しかなかったのに、このパワーだ。しかも、ブーストは一切ない。いかに恐ろしいブレイクライドスキルか、この1度のアタックだけでよくわかる。
「ノーガード。ダメージは……円卓の解放者 アルフレッド」
「ジャガーノート単体でアタック!ブレイクライドスキルで、パワープラス10000!さらにジャガーノートのスキルで、SB1でパワープラス5000!(26000)」
「……これもノーガード。ダメージチェック、武装の解放者 グイディオン。ゲット!ドロートリガー!!1枚ドローし、パワーはアルフレッドへ!(16000)」
ドロートリガーで手札を増やせた。これで後はヴァンガードのアタックを残すだけ……だけど、きっとそれだけじゃない。ここでブレイクライドしたという事は、手札には……。
「ダンのブースト、カタパルトのアタック!そして、カタパルトのリミットブレイク!CB2と……ペルソナブラスト!デッキから、ジャガーノート・マキシマム(11000)を2体スペリオルコール!」
アタックしたブラッキーとジャガーノートは、スキルでデッキに戻っている。その空いた場所に、新たなアタッカーとしてジャガーノートがコールされた。
もちろん、アタックはできる。ということは、当然ブレイクライドスキルの恩恵は受ける。が、
「……けど、お父さんのソウルは1枚しかないよね?片方のジャガーノートはスキルを使えるけど、もう片方は使えないはず……」
そう思っていた私だったけど、お父さんも考えたうえでの行動だった。それは、すぐにわかる。
「それはどうかな?ダンのスキル!CB2と手札1枚をソウルに入れて、デッキからレックレス・エクスプレス(7000)をスペリオルコール!」
「……こんな方法で」
ブースト役を増やしながら、必要なソウルを貯める。なかなかやってくれる……!
けど、ソウルに入れた手札は、お父さんの最後の1枚。しかも完全ガードのマリリンだ。ここで決めに来るだけの勝負強さも持っているとは。
「始めたばかりなんて、本当は嘘じゃないの?」
「いやいや。密かに特訓していた成果がでたよ。さぁ、このアタックはどう受ける?(25000)」
「……霊薬の解放者、疾駆の解放者 ヨセフスでガード!トリガーは2枚だよ!」
このアタックにガードを集中するわけにはいかない。本当に警戒するべきなのは、後に控えるジャガーノートだ。
「ツインドライブ!1枚目、サイレンス・ジョーカー。クリティカルトリガー!効果は全て、左のジャガーノートへ!(16000 ☆2)」
「くっ……」
「2枚目、チアガール ティアラ。ヒールトリガー!ダメージを1枚回復して、パワーは右のジャガーノートへ!(16000)」
ここでダブルトリガーか……。もし効果を全てヴァンガードに与えていたら、私は負けていたな。
「テルミドールのブースト、ジャガーノートでアタック!テルミドールのスキルで、パワープラス3000して、バトル終了時にデッキに戻させる!ジャガーノートはSB1して、パワープラス5000!さらにブレイクライドスキルで、パワープラス10000!(39000)」
「……負けない!霊薬の解放者、未来の解放者 リュー、王道の解放者 ファロンでガード!さらにエスクラドでインターセプト!」
さっきよりも格段に高いパワーで迫ってくる……。ガードするのもやっとだ。けど、まだ後1回アタックが残っている。
「ジャガーノートはスキルでデッキに戻して……レックレスのブースト、ジャガーノートでアタック!スキルでSB1、ブレイクライドスキルと合わせて、パワープラス15000!(38000)」
「まだまだ!光輪の解放者 マルクで完全ガード!グイディオンをドロップ!」
「くっ……。ジャガーノートはデッキに戻して、ターンエンド」
シオリ:ダメージ5(裏2) 父:ダメージ5(裏5)
「私のターン、スタンドアンドドロー」
何とか防いだけど、被害は大きい。前列は1体欠けている。埋めようにも、手札はこのドローで得た1枚のみ。となると……。
「ライド無し。そして、アルフレッドのスキル!CB2でデッキトップのカードをスペリオルコール!小さな解放者 マロン!(7000)」
お父さんの手札は、さっきのドライブチェックで引いた2枚。どっちもシールド値は10000。
しかも、ヒールトリガーでダメージが回復しているから、アルフレッドをノーガードして、リアガードのアタックをガードすることでこのターンはしのがれる。
この状況を突破するには、トリガーが必要不可欠だ。そうなると、アクセルリンクかな……って思うけど、フリーファイトで使うわけにはいかない。
それに、これは自分の中でヒントを見つけるためのファイト。そんな勝ち方で、何かを掴めるわけない。
「アルフレッドのリミットブレイク!解放者のリアガードは5体!フルパワー!!パワープラス10000!(21000)」
それに、アクセルリンクに頼らないと勝てないようじゃ、私もまだまだってことだよね!
「マロンのブースト、マロンでアタック!アタックしたマロンのスキルで、解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(17000)」
「……ティアラでガード!」
「チア―アップのブースト、アルフレッドでアタック!(26000)」
「ノーガード!」
そうだよね。ノーガードするしか、お父さんにはできないから。後は、トリガーにすべてを委ねるよ!
「ツインドライブ!1枚目、ブラスター・ブレード・解放者。2枚目、霊薬の解放者。ゲット!ヒールトリガー!!ダメージを1枚回復、パワーをガルモールへ!(16000)」
「ダメージチェック……チアガール マリリン」
よかった。ここでダメージトリガーが出たら、私が引いたトリガーが台無しになるところだった。なら、後は……。
「決めるよ!ばーくがるのブーストした、ガルモールでアタック!!(23000)」
「……ノーガード、だね。ダメージチェック!」
お父さんは、既にヒールトリガーを2回引いている。残り2枚の中から、引いてくるのかどうか……。
「……ジャガーノート・マキシマム。最後のダメージが、このカードなんてね」
皮肉な幕引きで、このファイトは決着がついた。
「はぁ……負けたか」
辛くも勝つことができた。けど、予想以上に強かったな。まさか、お父さんがここまで強かったとは思っていなかったからね。
一歩間違えてたら、負けていたかもしれないんだから。
「で……どうだった?何か、ヒントになりそうなものはあったかな?」
「……いや、ファイトに必死で、特にヒントは得られなかったかも」
「そ、そんな……」
申し訳ないです。
「でも、ありがとうお父さん。ファイトできて楽しかったよ」
実際手ごたえはあったし、またファイトしてもらいたいくらいだ。
「それに、やっぱりまだまだなんだなって、気づかせてくれた。少し、可能性を探してみるのも、悪くないかもしれないって思ったよ」
もしかしたら、今日私が負けそうになったのは、そう言う事なのかもしれないのだから。
「私、明日新しいデッキ組んでみるよ。どうなるかはわからないけど……たまには、冒険してみるのも悪くないかなって」
もしかしたら、思ったよりも上手くいくかもしれないし、結局は解放者に戻すのかもしれない。
けど、やるだけの事はやってみよう。森宮さんと、お父さんとのファイトでそう思わせてくれたから。
***
そんなわけで、翌日。この日は、文化祭の前日とあって、会場の準備に時間を割かれていた。
それでもようやく放課後を迎え、私はサンシャインに向かうことになった。のだが、
「……まさか、よりにもよって私1人とはね」
佐原君は劇の居残り練習。小沢君はクラスの男子と決起会に行くらしい。森宮さんは劇の個人練習がしたいらしく、すぐに家に帰っていった。私も付き合おうと言ったけど、1人の方が集中できるらしい。
なので、私は1人でサンシャインにいる。他のお客さんもいないので、私は店長にデッキの事を相談してみることに。
「あの、店長」
「うん?今日は一人みたいだね。どうしたの?」
「ちょっと、ゴールドパラディンのカードについて教えてほしいんです」
「解放者ってことかい?それなら、来月に発売するブースターに収録されている……」
「あっ、それは私もわかってます。そうじゃなくて、解放者の名称のない、昔のゴールドパラディンについて知りたいんです」
発売されたら、その中に収録されてるカードで解放者のデッキは強化する予定だ。
けど、私がやりたいのは、デッキとしての幅を広めること。解放者だけに固執するのではなく、取り入れるべきカードを探してみたいと考えている。
もちろん、そこまでデッキのバランスを崩すわけにはいかないから、あくまでもワンポイント程度に採用できるカードってことになる。
アルフレッドをメインにしながら、非名称のカードとも共存できるような……そんなデッキを作りたい。
それこそ、文化祭の劇の時にでも使えたらいいかなって。
「なるほど……。それなら、向こうのショーケースにゴールドパラディンの高レアリティのカードが展示してあるから、それを参考にしてみるのがいいよ。他のカードは、倉庫からカタログ持ってくるから、ちょっと待っててね」
思えば、ゴールドパラディンが登場したばかりのカードプールの知識は、ほとんど持ってない。名称で固定する安定感だけを見て、深く知ろうとは考えてもなかった。
「えっと……。灼熱の獅子 ブロンドエイゼルに、聖弓の奏者 ヴィヴィアンか……」
デッキトップからのコールを特徴とするカードが多かったのか。それは、アルフレッドにも受け継がれている点ではある。
「スペクトラルデューク・ドラゴン……。こんなカードもあったんだ……」
シャドウパラディンにも見えるカードだ。そのスキルも、リアガードの退却が必要で、とてもゴールドパラディンらしくない。
「いくつか使えそうなカードはありそうだけど……グレード3はどれも使いづらいかな……」
「シオリちゃん、カタログ持ってきたよ」
「あっ、ありがとうございます」
それなりに種類があるんだな……。私は、ショーケースの前でカタログを広げながら、頭の中で候補を絞っていく。
「やっぱり、せっかくならアルフレッドに代わるヴァンガードとして使える枠を、取り入れたいとは思うんだよな……」
アルフレッドにライド出来なかった時に、代わりにライド出来るユニット。今はガルモールだけど、そのポジションにガルモールと併用して採用できるユニットを求めている。
けど、なかなか厳しい。さっきのブロンドエイゼルも、元のパワーが10000なのが目立つ。
ライドすればいいのかもしれないが、あくまでメインはアルフレッド。ライドしなくても邪魔にならず、それでいてライド先の候補として十分に機能するだけのスキルを兼ね備えたユニット……。
「……いるのかな、そんなユニット」
最早、いつ心が折れてもおかしくない状態。そんな時だった。私はショーケースの中に展示されている、あるユニットを見つける。
「これは……」
スキルは……少し使いづらいかもしれない。でも、私の言う条件は大方満たしている。
一度、デッキに入れてみようか。
「店長。このカード、買いたいんですけど。それから、他にも買いたいカード有るので、少し待ってもらえますか?」
「どれどれ……ん?そのカードを買うの?解放者のデッキに入れるとなると……思い切った決断だね」
「まぁ、普通は入れないと思いますが……一応、試験的に使ってみようと言う事で」
それでダメなら、その時はその時だ。
「それなら、お試し期間ってことで、そのカードを貸してあげよう。他のカードも諸々セットでね」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん。使ってみて、気に入ったなら料金を払ってくれたらいいよ。もし自分に合わないと思ったら、返してくれたらいいから」
何と太っ腹な店長なのか。こんなことしてくれる人、他のショップにいるのだろうか。
「シオリちゃんはここのお得意さんだからね。これまでの感謝と、これからもひいきにしてほしいって意味を込めてね」
「店長……。わかりました。じゃあ、他のカードを決めたら、後で呼びますね」
「ゆっくり決めていいからね。他にお客さんはいないから」
私はショーケースとカタログの中をにらめっこしながら、必要なカードを決めていく。
そうして、私の中で新しいデッキの形が、少しずつ見え始めていた。