「ほぇ~、結構デカいんだな!シオリの通う学校って!」
「県内でも有名な進学校みたいだしね。シオリさん、頭よかったからな」
「ちょっと、うるさいよハヤト君。迷惑はかけないでよ?」
「大丈夫だって、ヒナ!」
文化祭当日。1日目は、クラスの出し物を学校で行う日だった。シオリたちは、教室で喫茶店を行っている。
その様子を見るため、休日を利用して東条高校を訪れた、4人の男女がいた。
「シオリの文化祭……。今日はしっかりと目に焼き付けないと……!」
「ユキさん、本当にシオリさんの保護者みたいですよ……」
「おっ、あっちに上手そうなもん売ってる屋台がある!行ってみようぜ!」
「ダメだって、ハヤト君!勝手に行動しないでよ!」
ハヤト、ヒナ、ユキ、そしてシュンキ。ユキは店長の権限で店を休みにしてまで、ここに顔を見せていた。
「そう言えばユキさん。シオリさんが何をするかって、聞いてます?」
「う~ん、何も。2日目の劇は、ヴァンガードの青春ものになるのは聞いたけど……」
もう校舎の外にも屋台は出ており、賑わいを見せている。文化祭自体は始まっているみたいだが、どこで何をしているかまではわかっていない。
「何か、地図みたいなものがもらえたらいいんだけどね」
「おい、ヒナよ~?そんなチマチマしてる間に、時間は過ぎてくぜ?んなの、教室じゃねーの?」
「だから、その場所だってわからないから困ってるんでしょ!?」
「怒るなって。でも、どうせだし1つずつ見ながら探すのもありじゃねーの?シュンキ」
「そうだね。早めに家は出たし、せっかく時間もあるんだ。シオリさんのクラスだけ見て帰るのも、もったいないよ」
と言う事で、シオリたちのクラスを探しながら、出し物を見て回ることに。
お化け屋敷やカジノ。焼きそばなどの食べ物の屋台。部活動で附田作品などの展示会。シュンキたちは、時間を忘れて楽しんだ。
「おっ、射的がある!やって行こう!」
「いいね、ハヤト!じゃあ、お姉さんもやって行こうかな?」
「ユキさんも?そう言うノリ、俺嫌いじゃないですよ!」
射的をやっているクラスを見つけ、ハヤトとユキは中に入ることに。2人が終わるまでの間、シュンキとヒナは外で待っていることにした。
「思ったよりも人が多いね」
「それだけ地域の人からも愛されてる学校なんだよ」
「いいな、そう言うの。何だか夏祭りみたい」
「どういう例えなのさ……」
文化祭も祭りの1つ。言っていることは間違いではない。と、
「……ん?」
校内が華やかなムードに包まれる中、シュンキの視線の先には、オロオロと何かを探している少女の姿が。
「ちょっとごめん、ヒナ」
「ふぇっ?え、シュンキ君どこ行くの!?」
人混みをかき分け、シュンキは少女の元へ。ヒナもあわてて、教室の場所を確認してから追いかける。
「う~ん……」
「君、ちょっといい?」
少女に声をかけるシュンキ。そして少女の手には、空になったパックのごみが。もしかしたら、ゴミ箱を探しているのかもしれない。
だが、少女は無反応。返事すら返ってこない。言われたことに気づいてないのか。
「何か困ってるみたいだけど、僕でよかったらお手伝いしましょうか?」
すると、少女は何故か後ろを向き、首をかしげている。シュンキも、わけがわからず首をかしげていた。
「……もしかして、私ですか?」
「いや、君以外に誰がいるのさ」
(この子、ちょっと抜けてるのかな……?)
どこか掴めないところがある。そう思いながらも、平静を装う。
「シュンキ君!勝手に行かな……って、あれ?この子は?」
「何か困ってたみたいだったから、気になってね」
あっ、そうだったんですか。知らない人だったので、自分の事だと思わなくて……。ありがとうございます」
割といい人だ。言葉には出さなかったが、シュンキは先ほどまでの認識を改めた。
「気にしなくてもいいよ。それで、何か探しているみたいだったけど」
「あ、はい。実は、ゴミ箱を探してまして……」
想像通りの回答だったので、シュンキは安心する。探せばあるだろうし、手に負えない話ではない。
「それなら、私見たよ!確か、ちょうどハヤト君のいる教室の近くだった気がする!」
「言われてみれば、射的のクラスの外にあったかもね」
「射的!やってみたいです!どこですか!?」
「いや、まずはゴミを捨てないとね?」
子供みたいだな。抜けてるのも、純真だからってことなのかもしれない。
「あっ、そうだ!君、ここの生徒じゃないみたいだけど、誰かと一緒に来たの?」
「いえ……。友達と近くで待ち合わせしてたんですけど、今日は予定は行っちゃったみたいで。それで、この辺りを散歩していたら……」
最初から来るつもりではなかったというわけだ。目についたから、気になって寄っただけ。そう言う事だった。
「だったら、私たちと一緒に見て回ろうよ!1人で回るより、その方がきっと楽しいよ!」
「えっ!?そ、そんなさすがに……あぁっ!?」
手をブンブン振って断ったせいで、持っていたゴミを落としてしまう。シュンキたちも協力して、落ちたゴミを拾う。やっぱり、抜けている。天然なのかもしれない。
「す、すみません……。私、昔からこんな感じで……」
「ゴミ拾ったことにしても、一緒に来ることにしても、僕たちは大丈夫。迷惑なんて、何も思ってないよ」
「そうそう!今、私たちの友達も射的してるんだ!一緒にやろうよ!」
積極的に誘ってくる2人に、うろたえる少女。だが、少しして落ち着いた後、
「そこまで言ってくださるなら……その、いいですか?私、正直に言うと、1人だと心細かったというか……」
「「もちろん!」」
「あ……ありがとうございます!」
少女の顔がパァッと明るくなり、深々と頭を下げる。その拍子にまたゴミを落としそうになったので、シュンキは苦笑する。
「それじゃ、行こっか!こっちだよ!!」
ヒナたちは少女を連れ、さっきまで待っていた場所に戻る。すると、そこにはすでに射的を終えた2人の姿が。
「あ!どこ行ってたんだよ、お前ら!これから電話しようと思ってたんだぞ!?」
「ごめん、ハヤト君。ちょっと困ってる子を見つけてね。一緒に出し物を見て回ろうって話になったんだ」
「……なるほどね。そう言う事なら、文句は言えないな」
ハヤトも、これ以上責めるのは悪いと察したのだろう。深追いはせずに、大人しく引き下がる。
「とりあえず、射的がやりたいみたいなんだ。見た感じ、見事にボロ負けしてそうだから、付き合ってあげてよ」
確かに、景品らしい物は何も持っていない。この様子だと、失敗しているのだろう。
「ず、図星すぎて痛いけど……シュンキの願いとあらば、聞き入れるしかないね。それじゃあ、お姉さんとゴミだけ捨てに行こっか」
「ハヤトも、ユキさんと一緒に案内してあげて」
「俺も!?」
「いいだろ?それに、射的もリベンジだと思って、一緒にやってあげてよ」
「わかったよ、シュンキ。んじゃお嬢ちゃん、ついてきな!こっちだぜ」
ユキさんとハヤトに案内され、少女は後について行く。でも、今どきの女の子にお嬢ちゃんはない。
あ、そう言えば、名前聞いてなかったな……。戻って来てから聞こうかな。
「不思議な子だったな……」
「そう?私は可愛らしいと思ったけどな。娘って感じで」
「ちょっと天然って感じだったからさ。後、ヒナの思考がおばさん臭い」
「人を年寄扱いしないでよ!私、まだ高校生なんだからね!?」
「わかってるって」
ポカポカと腕を叩いてくるヒナに対して、シュンキはからかうように笑う。
「…………」
視線は、少女の方を向けて。
「気になる?」
「ん?……まぁね。そうじゃなかったら、声なんかかけないよ」
少女の後ろ姿に、シュンキはどこか哀愁を感じていた。既視感のあるような、そんな悲しみを。
「だから、ヒナを放ってでも彼女の元に行ったんだ。そうすることが、正しいことだと思ったから」
最初に少女を見かけた時、シュンキは何故か、少女を放っておいてはいけない気がしていた。そして何よりも、一緒に行こうと言った時……。
「…………」
一瞬だけ、表情が曇っていたから。
「そう言うヒナだって、積極的に話しかけていたよね?」
「それは……そうだよ」
理由は、2人には何となくだけどわかっている。シュンキも、ヒナも、雰囲気で感じ取っていたから。
「「似ているんだ……。シオリ「さん」に」」
***
「……はぁ」
「森宮さん、ため息なんかつかないで」
「この状況で、つかずにいられると思うの?」
「……思いません」
さて、ようやく始まった文化祭。私たちは、クラスの出し物として喫茶店をすることになった……のは、もう言ったよね。
でも、私たちは今、この喫茶店に乗り気ではない。いや、私たちだけじゃない。多分、クラスの半分くらいの人は乗り気じゃないはず。
昨日までの私たちなら、やる気だったんだと思うんだけどね。
……昨日まで、なら。
「おーい、交代だぞー」
「遅ぇよ、ワタル!」
「悪い。ちょっと屋台が混んでて……」
「罰として、遅れた分も仕事な!」
「何っ!?」
小沢君が戻ってきたみたいだ。さっきまで裏方をしていた男子からエプロンを受け取り、それを着る。役目を終えた男子は、すぐに教室を出ていった。
だったら、ちょうどいい。お客さんもいないし、他の担当のクラスメイトも、談笑している。私は森宮さんと一緒に、小沢君に不満をぶつけることに。
早い話が……八つ当たりだ。
「お疲れ、2人共。調子はどうだ?」
「どうだ、じゃないわよ!何でこんなことになってるのよ!?」
「俺に言うなよ……。てか、この案出したのは他の男子だからな?俺は止めようとしたが、もう遅かった」
「……でも、止められなかったんだよね?それじゃあダメだよね」
「ちょ、怖いから星野。目が笑ってないんだが」
だからと言って、昨日の夜にいきなり言われても困る。その知らせを聞いてから、森宮さんとやり取りしてたんだけど……かなりご立腹だったみたいで。
「普通に喫茶店でよかったじゃない!なのに、どうして……」
と言うのも……。
「メイド喫茶をすることになってるのよ!?意味わかんないわ!」
乗り気ではない理由。それは、私たちがメイドの格好をして、お客さんの応対をする……俗に言う、メイド喫茶をすることになったからだ。
白を基調としたフリフリの衣装に、なぜか猫耳のついたカチューシャ。普段こんな格好をしないだけに、とても恥ずかしい。家に帰りたい。
「だから、俺は知らなかったんだって。気が付いたら、男子が勝手に決めてたんだよ。それで仕方なく……」
「……でも、それって小沢君は流されるように流されたってことだよね?私たちの事なんか何にも考えないで、こっちの話も聞かないで、一方的に決めてさ。それで勝手だとか知らないだとか許されると思ったら大間違いだよ?だから関係ない振りしてるけど小沢君だって同罪なんだよどうせ私たちのこういう姿が見たいだけでこんな企画思いついたのかもしれないけど自分たちの都合だけで――」
「本当に済まなかった、星野。だから、あの、もう少しだけ黒いオーラを引っ込めてくれないか……?」
あっ……しまった。このままだったら、延々と不満をぶつけてしまうところだった。森宮さんも、さすがに引いてた。
でも、乗り気な女子とかいるのかな?コスプレ好きとかなら、話は別かもしれないけど……。
「黒歴史だわ……。まだ、ご主人様とか何とか言わなくてもいいだけマシだけど」
「妥協案ってことで、男子も許してくれたみたいだしな……」
「そもそも妥協って何なのさ。どうして男子中心に話が進んでいるのかわけがわからないんだよ。最初は喫茶店だってことだったんだしそんなにやりたいんだったら企画する段階で候補に出せばよかったんじゃ――」
「待ってくれ、星野。もう色々と悪かった。ごめんなさい」
うん、こっちこそ何かごめん。さっきから愚痴しか言ってない気がするからね……。
「でも、メイド喫茶の事はともかく、なかなか似合ってるけどな。星野なんか、女子からも可愛いって言われてただろ。太鼓判押されてたし」
試着の際に、クラスのみんなにマジマジと見られていたからね。他の女子も注目されていたけど、私は特に長かった。もう顔真っ赤だったんじゃないかな?恥ずかしさで悶えそうになったのは、記憶に新しい。
小動物見たいとか、ナデナデしたいとか。クラス内で撮影会まで行われる事態。と言うか、急遽メニューにしちゃったくらいだし。1回5000円。私の写真、値段高すぎるよ……。
もう、そんな感じでかなり盛り上がった結果、私のメンタルはボロボロだ。
死にたい……。1週間だけでいいから、私の存在を抹消してほしい……。
「シオリさんは確かに可愛かったわね。普通にありよ」
「ちょ、森宮さん!」
「ルックスで同級生を羨ましがることって、初めてだったわ」
「もっ、森宮さん!これ以上は……///」
また羞恥心がぶり返すから。
「まぁ、星野は案外、男子からも人気あるんだぞ。何と言うか、守ってあげたいタイプらしいな」
「そ、そうなの?」
喜んでいいのか、どうなのか。初耳なんだけど……。
「けど、俺的には森宮の方が可愛いと思うんだけどな。似合ってる」
「……っ!?///」
「変に誤解しないでほしいんだが、森宮は体つきもいいからな。照れ臭そうにしてるのも、ちょっとドキドキするって言うか。だから、こういう服装とか着るのも――」
「う……うるっさい!うるさいうるさい、うるさーい!!///」
べた褒めする小沢君に対して、森宮さんは耐えきれずに大声を上げる。他のクラスメイトも、驚いてこっちを見ていた。
そんな森宮さんの顔がトマトみたいになっていたのは、視線が集まったことだけが理由じゃないだろう。
「小沢君のバカ!もう知らないわよ、バカ!!」
「何で俺は怒られないといけないんだよ!?褒めただけだろ!?」
「あぁ、もう!ちょっと黙ってなさい!」
「えぇ……」
と、教室のドアが開く音が。お客さんみたいだ。
「おっ、もう話は終わりだな。接客は任せた」
「うっさいって言ってるでしょ!?」
小沢君は別に悪くないんだけどな……。森宮さんが照れ隠しで素直に喜べないだけみたいだし。
「まぁまぁ……。あ、いらっしゃ……っ!?」
「どうした星……なっ、お前は!?」
私が驚いたことに気が付き、小沢君は様子を見に来る。そこにいた人物を見て、やはり小沢君も同様の反応を見せていた。
「照山……シュンキ!?」
「ここがシオリさんのクラスだったのか。久しぶりだね、小沢ワタル君」
「ヤッホー、シオリ♪ヒナとシュンキも連れてきたよ~」
「ユキさん!」
見慣れた顔が勢ぞろいだ。ハヤト君やヒナも、2人の後ろで手を振っている。
それにしても、シュンキ君を見た途端に急に険しくなったな……小沢君。2人の間には、やっぱり深く立ち入ることができない何かがあるのかもしれない。
「オッス!何週間か以来だな!」
「えぇ、久しぶりね。あなたたちの事は、ちゃんと覚えてるわよ」
「うわ~、可愛い!私もこういう格好したいな~!」
「確かに似合ってるよ。2人共、もしかして天職なんじゃない?」
「「それは絶対に違う「わよ」!!」」
みんなにまでこの服装見られるなんて……。ハヤト君やユキさんたちは、来るのがわかってたから覚悟はしてたんだけど……。
問題は、予期していなかった5人目がいるってことで……。
「あぁ、そうそう。さっき友達になった子がいるんだ!紹介するね?名前は――」
「「知って「る」「ます」よ」」
「「「「えっ!?」」」」
もしかしたら、小沢君は最初、シュンキ君がいたことで驚いていたのかもしれない。けど、私は最初から彼女を見つけたことで驚いた。
そうじゃなかったら、文化祭に来ることを聞いていたみんなを見ただけで、驚くはずがない。
「久しぶりですね!天野シオリさん!」
「星野だよ……」
どこからそんな間違いが生まれるのさ……。けど、このちょっとした抜け目のある天然……あの時と変わらない。
「こっちこそ、久しぶりだね。立花フユカさん」
***
「まさか、星野さんの友達だとは思いませんでしたよ」
「私だって、みんなと一緒にいるとは思わなかった。家だって、こっちの方じゃなかったはずだよね?」
「はい。前に星野さんとファイトした……コスモスの近くです」
あの時は、佐原君のデッキを借りてファイトしたんだっけ。かなりギリギリの接戦だったから、よく覚えている。
そんな私たちは今、他のクラスの出し物を見て回っている。メイド喫茶も担当の時間が終わったので、せっかくだから立花さんと一緒に行動することに。
ちなみにシュンキ君たちは、しばらくメイド喫茶にいるみたいだ。なので、私たち2人と言う事だ。
「さっきまでは何してたの?」
「射的です。商品ももらえたんですよ?」
「へぇ~。どんなの?」
「これです!」
と言って見せてきたのは……何がモチーフなのかよくわからない、動物(?)のぬいぐるみ。耳はウサギみたいに長いけど、顔はフクロウ。手足には肉球が付いていて、しっぽが異様に長い。
鳥なのか、それとも哺乳類なのか。と言うか、色がピンクって時点で微妙だ。しかも、手作り感が満載って言うね……。ちょっとほつれてるし。
「すっごく可愛いですよね!私、家宝にするつもりなんです!」
「へ、へぇ……」
これを可愛いと言い切ってしまうのだから、やっぱり立花さんはずれてる。
「で、今からどうしましょう?」
「そうだね……」
特に行き先も決めないまま出てきちゃったし、これからどうしよう?
「立花さんは?」
「私はほとんど見てしまったので、そんなに行きたいところは……」
何かいい案出してくれると思ったんだけどな……。
「あっ、でもあそこのクラスには行ってませんね。あの教室にしましょう!」
それは、私たちの教室の3つ隣のクラス。外観は暗幕で覆われていて、そこに髑髏やゾンビなどのホラー感ある装飾が。
一言でいえば……不気味だ。
「お化け屋敷かな?怖そうだけど……」
「あれ?違うみたいですよ?」
「えっ?」
入口に立てかけた看板には、WANTEDの文字が。その下には写真があり、死神の格好をした男子生徒が映っている。
と言うか、これって……。
「佐原君、だよね……」
劇だって悪役だったし、こういうのが好きなのかな……?
「前にデッキを借りた人ですよね。佐原さんって」
「うん、逆だよ。立花さん」
「何だか面白そうですね。行ってみましょう!」
立花さんに手を引かれ、私は中に入る。照明は最小限で、窓も黒いカーテンが敷かれているため、光がほとんどない。
そんな中、3つ並んだ机が、教室の中央に並んでいる。係り員らしい人が椅子に座って待機しており、私は真ん中の机に向かい、椅子に座る。立花さんは、左の机に行ったみたいだ。
「よくぞ参られた。体験型アトラクション『死神サファーを探せ!』に参加してくれて、感謝する」
……何だか〇ォーリーを探せみたい。内心苦笑していると、係員から1枚の地図が渡される。
それは、このアトラクションを進めるうえでのヒントが記された、校内の地図だった。
「今からそなたには、この校内のどこかにいる死神、サファーを倒す旅に出てもらう。地図にある4つのポイントを巡り、手掛かりを掴むのだ。ただし、そこでは幾多の試練がそなたを待ち受けているだろう」
なかなか壮大で、大掛かりなアトラクションだ。ポイントに向かっても、何かしらのミッションが課せられる。体もだけど、頭も使うみたいだ。
「道中の試練は、厳しい者ばかりだ。既に何人ものリタイア者が続出している」
係員が出口付近を指さす。そこには、リタイアボックスと称した箱が。
暗いからよくわからないけど、リタイアする人はその箱にこの地図を入れていくと。そして、その数はそれなりにいると。
これは、かなり難易度が高そうだ。けど、どうせならどこまでやれるかに挑戦したい気持ちはある。こんな脅しに負けるような私じゃない。
……まぁ、誰を探すかはわかってるんだけどね。
「ふぃ~疲れたっス……。ちょっと休憩入るっスよ」
「「あ、死神サファー」」
タイミングがいいのか悪いのか。4つのポイントとか、難易度の意味は。私のやる気はどうなるの。
「げっ!?シオリさんに、あの子は確か……ゴ、ゴホン!何を勘違いしておる?この暗闇で、互いの姿もほとんど見えていないと言うのに?」
「今、私の名前言ったよね」
「ふっ……この学校には、我の分身が何体もいる!本物ではないかもしれないぞ?」
「外にあった看板の写真、佐原君だよね。見えなくても、声とか口調でわかるし」
「それに今、『我』の分身って言いましたよね」
「…………」
あ、黙った。もう反論できないのか。
「く~っ!もう、何なんスか本当!そうっスよ、俺が死神サファーっス!!」
できないんだ……。
「教室から一歩も動かないでクリアとか、クソゲーもいいところじゃないっスか!俺のメンツが、丸つぶれに……」
「ちょ、どうしてこのタイミングで帰ってきちゃったのさ!」
「悪かったっス……!あそこで屋台に寄っていれば……っ!」
こっちだって、拍子抜けもいいところなんだけど。
「えっ?これでクリアですか?大したことないですね?」
軽く煽ってるから。係り員の顔もひきつっているから。
「やっぱ立花さんだったっスか。こんな暗闇の中っスけど、お久しぶりっス」
「久しぶりです、サファーさん。かっこいい名前に変えたんですね!」
それは役ってだけだから。
「でも、どうすんだよトウジ~?さすがにこれでクリアじゃ、せっかくの参加者もつまんないだろうし……ここは1度、ここでも話はノーカンにして――」
「いや、ダメっすね」
と、ここで話を遮ったのは、佐原君だった。
「クリアはクリアっス。それをなかったことにするなんて、男らしくない!そこで、条件があるっスよ!」
佐原君の出しそうな条件……何となく予感が付く。
「互いに知りあいの関係なら話は早い!俺とヴァンガードファイトするっス!勝てばクリア、負けたら帳消し!」
「やっぱり……」
「え、でも私、今日はヴァンガードするつもりじゃなかったから、デッキが……」
「またっスか!?」
まぁまぁ。前とは状況が違うわけだし、デッキがあるならカードショップにでも行ってただろうし。
「くっ……まぁ、いいっスよ。なら、シオリさんだけでもファイトっス」
「……わかった。でも、条件がある。私が勝ったら、立花さんのクリアも認めてあげること!」
「連帯責任ってわけっスか!なら、俺が勝ったら、何か奢りの条件追加で!」
話がややこしくなってきたんだけど……。
「じゃあ、星野さんが勝ったら、サファーさんが何か奢るってことにしましょう!」
「俺も!?後、どうせ素性バレてんスから、普通に名前呼びでいいっスよ」
「だから呼んでるじゃないですか。改名したんですよね?」
「その下り、まだ続いてたんすね!?」
私も終わったかと思ってた。
「くっ……。俺だって男っス。言い出しっぺだし、その話に乗ってやるっスよ!」
「ちょ、勝手に進めてるけどいいのかよ、トウジ?」
「大丈夫!俺がファイトしたいだけっスから!」
だろうね。
「けど、もうお金ほとんど残っていないんだろ……?」
「……男にはな、何かをかけて戦わないといけないときがある。それは、今なんスよ!」
かっこつけてるけど、理由が小さすぎて何とも言えない。
「さてと。ここじゃなんだし、場所を変えるっスか」
「だね。いい場所は……あっ、体育館はどう?」
「今の時間は何もしてなかったっスか。それがいいっスね」
と言うわけで、私たちは体育館へ。いつの間にかギャラリーも増え、大事になっている。そのためか、佐原君は目立たないように制服に着替えていた。
「どうしてこんなに賑やかになっちゃったのさ……」
「客寄せは、俺のクラスの男子が勝手にやっただけっスから」
ノリがいいのか悪いのか。
「星野さ~ん!勝ってくださいね~!私、さっき見かけたスペシャルデコレーションチョコクリームパフェが食べたいです!」
「うぇっ!?ちょ、それワンコインじゃ収まらない金額の奴じゃないっスか!?こいつは負けられない……!」
立花さんは、遠くから観戦している。ファイトテーブルの準備もできたし、後は私たちの準備を済ませたら始められる。
「私も、やるからには勝つよ。佐原君」
「ま、せっかく舞台整えてくれたんスからね。楽しんでファイトするっスか」
「うん!それじゃ、行くよ!」
秋空の下、笑い声が響く。今日は、いつもとは違った一面を映し出す日。
生徒も、教室も、学校全体が活気に包まれる。それが文化祭。
「「スタンドアップ!「ザ」ヴァンガード!!」」
まだ始まったばかりの一時に、私たちは今、彩を添える。