今回は、この小説で初の試みをすることにしました。そのせいで少し時間がかかってしまったんですが……まぁ、見ていただけたらわかります。
話は変わりますが、ヴァンガードzeroの配信楽しみですね。今週末の発表会で、配信日等の情報出るでしょうか?もちろん、名前はティアとしてプレイするつもりです。
また長々とした前書きになりましたが、本編に移りましょう。今回は長いので、楽しんでいただけたら幸いです。
文化祭2日目。今日はホールでのクラス発表だ。
学年順に発表するため、私たち1年はすぐに出番が来る。もちろん、一般客も見学はOKだ。ホールの後方の席は、全て一般用に開放されている。
「緊張してきたね……」
「そうだな……。俺も星野も、森宮だって重要な役だからな」
今日のために、昨日も練習してきたんだ。個人練習だって、家に帰ってから欠かさずにした。
その合間を縫って、デッキの方も完成させることができた。今日の舞台が、このデッキの初披露となる。
大丈夫。きっと大丈夫……だよね?
「今日もシオリさんの友達の……照山さんや桃山さんは来るのかしら?」
「暇だし来るって、昨日帰る時に聞いたよ。ユキさんはさすがにお店あるから行けないみたいだけど……」
クラスごとに決められた場所の中で、私たちは横に3人並んで座っている。そこから一般客の席の方を見ると、もうシュンキ君たちの姿がある。
「……早いわね」
「うん……。ハヤト君、こっちに手を振ってる」
しかも大きな声で、私の名前を呼んでくるし……。よし、ここは決めた。無視しよう。
「立花って奴はどうなんだ?」
「来てると思うよ?昨日連絡先を交換してね。今日は友達と行くって連絡来てた」
でも、まだ来てないみたいだな。時間になったら来ると思うけど。
「それだけ知り合いがいると、なおさら緊張しちゃうわね。特にシオリさんは」
「プレッシャーかけるようなこと言わないでよ……」
だって主役だよ?もともと私、友達がいないことで悩むくらいの引っ込み思案なのに……。入学したばかりの頃はずっと1人でいた女の子が、文化祭で主役だよ!?
「どもっス、みんな!1人だけクラス違うと、ハブられたみたいで寂しいっスね~」
「じゃあそう言う事でいいんじゃないの?」
「何スか、その辛辣コメント」
来て早々にいじられる佐原君。まだ開始時間ではないため、私たちのところに来たみたいだ。
「おはよう、佐原君。緊張とかしてないの?」
「全然!むしろ、昨日のあれで不完全燃焼っスから、今日はやってやるっスよ!」
「あぁ……」
『あれ』と言うのは、昨日私と佐原君の行ったファイトの事。
互いにゲームクリアと、何故かスペシャルチョコ……何とかパフェの奢りをかけてファイトすることに。互いに一進一退の攻防を繰り返していたが、軍配が上がったのは……。
「あそこでトリガー見越して、ガードを余分に使わなかったら……っ!」
「佐原君の深読みがいけないんだよ」
「そうやって、してやったりみたいに言われるのがダメージあるんスよ!」
私でした。その時のデッキは前のデッキなので、佐原君にも新しいデッキは見せていない。
で、佐原君は立花さんと、わざわざ私にもスペシャル……パフェを奢ってくれた。かなり痛い出費だったけど、それでも奢ってくれる辺り、佐原君は優しいんだと実感する。
とは言え、やっぱり根に持つのは仕方ないようで……。
「今日は悪いっスけど、正義のヒーローさんには八つ当たりを受けてもらうっスよ……!」
「おいおい。やる気があるのはいいが、それだと結果決まってるようなもんだろ」
「そうよ。結末が予想できないことを売りにしているのに、これじゃあ意味ないじゃない」
「ふっ、大丈夫っスよ。俺には秘策がある」
秘策?手加減する……とかなら、わざわざこんな言い方はしないか。それに、勝つための秘策ならいくつか考えられるけど、負けるための秘策って何だろう?
気になった私は、佐原君にそのことを問い詰めようとして……。
『間もなく、東条高校文化祭2日目を始めたいと思います。生徒の皆さんは、クラスで指定された席へと戻ってください。一般の方は……』
「おっと、時間っスね。んじゃ、俺はこれで!」
「あっ……」
こういう時のタイミングは最悪みたいで、佐原君はクラスの場所に戻ってしまった。
「何だったのかしら、秘策って」
「さぁな……?俺にもよくわからん」
***
「絶望せよ!そして震えよ!やがてそれは、歓喜へと変わる……。私に敗北することによってな!」
「ぐわぁぁっ!!」
文化祭2日目が始まった。いつもよりも大きな舞台で、より緊張と不安が増す。
今は佐原君のクラスの劇だけど……さすがと言うか、何も言う事のない予想通りの展開。普通にファイト楽しんじゃっているしね……。
「あいつらの発表も終わりそうだし、俺たちも次の次だ。そろそろ舞台裏に向かった方がいいんじゃないのか?」
「そうね。みんな!準備するわよ!!」
他のクラスの邪魔にならないように、そそくさと退場する。そこから舞台の裏に移動する際、佐原君のクラスの人とすれ違う。
けど……。
「……あれ?」
「どうしたの、シオリさん」
「いや、佐原君の姿が見当たらないなって思って……」
「どうせすぐにトイレに行ったとかでしょ?今は私たちの劇に集中しましょう」
「うん、そうだね」
佐原君がいない。そのことが、どうも引っかかって仕方なかった。
「俺たちのセットってどこに置いた?」
「その奥!邪魔にならない程度に前に出して!」
「音響はチェック済んだよ!僕たちの方で手伝えることある?」
「なら、役者の衣装着せるの手伝って!」
まだ前のクラスが発表中のため、スムーズに始められるように最小限の準備だけ進めている。
私はクラスメイトに衣装を着るのを手伝ってもらいながら、セリフを頭の中で確認していた。
「……怖い?」
「えっ?」
「シオリさん、顔が強張ってたから」
同じように衣装を着せてもらっている森宮さんに声を掛けられ、私はよほど集中していたのだと気づく。小沢君は、別の場所で着替えをしているはずだ。
さっきの質問、怖いのかと聞かれると、ちょっと違う。不安……と言うのか。緊張しているのか。
「ううん。そうかもしれないけど……大丈夫。ここまで来たら、当たって砕けるよ」
「砕けちゃダメでしょ」
「あははっ……。そうだね」
ハッキリとした言葉では言えなかったけど、森宮さんと話したことで気持ちが和らいだ。衣装をまとう事で、その想いがより引き締まっていく。
「そろそり、前のクラスも終わりそうだね」
「えぇ。準備もほとんどできてるし……円陣でも組みましょうか」
クラスのみんなを集め、私たちは円陣で気合を入れる。前のクラスが撤収したのを確認すると、それぞれが持ち場へと移動を始めた。
私も、開幕のBGMが流れたらすぐ出番だ。ステージ裏で待機し、みんなの準備を待つ。深呼吸して、バクバク鳴ってる心臓を落ち着かせて……。
「はぁ!?そんなのいいのかよ!?」
と、奥の方で待機しているはずの小沢君が、いきなり大声を上げる。驚きで心臓がまた早鐘を打ち、何事かとそちらを見ると……。
「あれ、佐原君……?」
そこにいたのは、もう観客席に戻っているはずの佐原君。どうして、劇には関係ないのにここにいるのか。
「声がでかいっスよ。これはトップシークレットなんス。まだ一部の人にしか知らせてないんスから」
「おいおい、マジかよ……。本当に収拾つくんだろうな?」
「俺を信じるっスよ。もっとも、そのためにはいささか協力してもらう必要があるっスけどね」
何の話だろう?他のクラスメイトは、2人の話には気づいていない。密談のようなものか。
うん。明らかに怪しいよね。何を企んでいるのか。
が、そこで開始の合図であるBGMが流れる。私はほとんどステージ裏に戻れないし、聞き出す時間もない。やっぱり、この手のタイミングには嫌われているのかもね……。
それに、今は……。
「……大丈夫だよね」
身につけたデッキケースに手を触れ、アルフレッドから力を分けてもらう。何があっても、このステージ上ではあなたと一緒なんだ。きっと、心配いらない。
私は意を決して、ステージへと踏み出した……!
***
「まさか、ここまで勝ち上がってくるとはな。名は……空井シオリと言ったか」
「あの時、ボロボロに負けた自分を超える……。これは、土田さんへのリベンジだけじゃないんです」
大きなミスは何もなく、劇はついにクライマックスへと突入した。小沢君扮する土田ワタルさん、そして私が扮する空井シオリ。2人が向き合い、最後の見せ場を残すのみとなる。
土田さんとのファイト。まだ安心するには早い。ストーリーの流れ的には、私が勝って終わらせたいからね。
けど、勝率は微妙だ。もしかしたら、向こうが勝つかもしれない。
「行きます……土田さん」
「あぁ。デッキを構えろ」
土田さんがデッキを取り出したのを確認して、私もデッキを取り出す。ここから先は、演技なんて関係ない。必要ない。
ただ全力で……勝ちに行く。
「絶対に勝ちます。気持ちが強ければ、それが叶うんだってことを……証明します」
「いいだろう。結果はすでに――」
「アーッハッハッハ!ちょうどいい人間がいるな!!」
聞き覚えのない声と共に、ステージ上の証明が落ちたのは一瞬の事だった。ざわつく観客、そして裏方のクラスメイト達。
小沢君のセリフが終われば、ファイトに移動するはずなのに。あんなセリフ、台本にはない。えっ、待ってどういう事!?これは一体、どうなってるの!?
戸惑う私の目の前で、再びステージを照らす証明の光が見せたのは……この場にはいるはずのない第三者。
「我は魔王トウジ!世界を絶望に包み込む使者なり!」
佐原君だった。しかも、さっきの劇の衣装のまま、役も魔王になりきって私たちに近づいてくる。不測の事態に、私はどうすればいいのかわからなかった。
「正義を名乗る戦士を倒し、最早……我の邪魔をする者はいなくなった!すべては我の望むままに動くことだろう!」
「……どういう事、小沢君」
「すぐにわかる。俺はさっき、佐原から事情を聞いたからな」
始まる前に何か話していたのは、この事だったのか。
「まずは手始めに、そこの人間を我が陣営へと引き込もう!」
「……これはこのまま進んで行くの?」
「そうだ。佐原が言うには、サプライズ演出らしいが」
そう言われても、すぐには対処できない。私は佐原君とファイトすればいいのか。でもそれだと、小沢君とのファイトはどうすればいいのか……。
「ハァ……っ!ぬぅん!!」
と、佐原君が低い姿勢で突っ込んでくる。私は後ずさるが、狙いは小沢君だった。
腹に掌底突きを入れるような形で、佐原君は小沢君に攻撃(?)を仕掛ける。小沢君は苦しむような演技を始め、佐原君はニタニタと笑っていた。
……もう何の劇なの。これは。
「……フフフフフ」
「え」
「俺……じゃない。わ、我は求めよう、強さを!絶対的な力の前に、誰もがひれ伏す世界を!!」
えぇ!?お、小沢君まで……。陣営って、そう言うことなの!?
「我の名は、えっと……魔将ワタル。魔王トウジの命に従う者!」
「う、嘘でしょ……」
「さぁ、これで2対1だ。我とこの男を前に……ヴァンガードで勝負をしようではないか」
ここでヴァンガードを持ち出してくるのか。さっきの劇の延長線上なのか。どっちにしても、ヴァンガードはするつもりだったし、問題はない。
だけど、2対1なんてどうファイトすればいいのかもわからない。相手も相手だし、勝ち目があるかと言われたら、かなり低い。
それに、人数的にもこっちが不利なことに変わりはない。せめて、こっちにもう1人味方がいてくれたら……。
「1人じゃないわ、2人よ!」
「えっ……?」
そこに現れたのは、何と森宮さんだった。出番は終わったはずなのに、どうして……?
「その声は、お……いや我に並ぶファイター、海崎リサではないか!」
「何で森宮さんがここにいるんですか……?」
「話は後。とりあえず、これを見て」
すれ違いざまに、1枚のメモを渡してくる。そこには殴り書きで、佐原君からのメッセージが書かれていた。
「『急遽予定変更!最後のファイト、俺とワタル君、リサさんとシオリさんでタッグファイトをするっスよ』……タッグファイト!?」
予想外の事態に、私もついて行くのが精いっぱいだ。普通のファイトではなく、森宮さんとペアを組んで、タッグファイトをすることになるなんて。
「ほう?新たな人間か」
「噂には聞いていたわ、魔王トウジ!そのファイト、私も参戦させてもらうわ!」
「ふっ、自ら危険を冒すか……。いいだろう!なら、2対2のタッグファイトだ。かかってくるがよい!」
そこに用意されたファイトテーブルも、タッグファイト用の大きなものだった。
「ルールは理解しているな?」
「一応……」
「大丈夫。私も、ある程度は理解しているわ」
2対2のファイトで、ダメージは2人の合計で合算して数える。先に9ダメージを与えたら勝ちで、普通のファイトとは違ったルールとなる。それは、その場面が来た時に説明することにして……。
「ど、どうするんですか、森宮さん……」
「こうなったら、やるしかないわ。私だって、さっきあいつから聞いただけなのよ」
「でも、進行とかどうなの?普通のファイトよりも、時間かかるんじゃない?」
「……もう手は打ってあるみたい。先生も承諾済みよ」
「えっ!?」
じゃあ佐原君は、最初からタッグファイトをするつもりだったってこと!?
「タッグファイトなんてやったことないのに、あいつも勝手にこんな事して……。でも、今更引けないわ。私たちであんなアホな奴ら倒してやりましょう」
いや、小沢君は被害者だと思うんだけどな……。
「わかってるよ。それに、私も今日のファイトには、ちょっと力入れてたから。デッキだって、いつもとは少し違うんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから、負けるつもりはないから。一緒に頑張ろう!」
ファイトには変わりないんだ。それに、こっちの方が盛り上がるのは確かだ。その証拠に、観客の声は大きくなっている。
まさに予期せぬ事態。そんな舞台で、このデッキを使うのか……!ちょっと緊張するけど、楽しみかも。
「……ったく、とにかく悪役っぽい演技して、ファイトすればいいんだな?」
「そうだ。期待しているぞ」
向こうも、この状況を受け入れる準備はできたみたいだ。小沢君は、かなり損な役回りになりそうだけどね……。
「もう役に入ってるのか……。よし、ならデッキをーー」
「いや、待て。貴様にはこのデッキを使ってもらう」
「は?おい、何でだよ。自分のデッキはあるぞ」
「何を言う。臣下の者が、格上の者に背いて違うクランを使っていいと思うのか?」
「マジかよ……。そこも悪役として、雰囲気合わせないといけないってことなのか」
魔王トウジにデッキをもらい、小沢く……え~と、魔将ワタルは、デッキの内容を確認する。
「……おい、佐原。俺、かげろう以外のクランは使ったことないぞ」
「心配ない。我も同じクランを使う。それに、構成は似ているからな。見よう見まねで動かし方を掴み、後は貴様の思うようにファイトしろ」
「いい加減だな……」
それなら、相手は本調子じゃない。この勝負、案外勝てるんじゃないか。
「準備はいいか、人間どもよ!」
「しゃべってばかりで大変ね……」
「……いつでもどうぞ」
「俺……あ、いや我もOKだ」
キャラがブレているけど、まぁいっか。観客の熱気は、さっきよりも高まってきたのだから。
「「「「スタンドアップ!「ザ……!」ヴァンガード!!」」」」
4人同時にスタンドアップする。盤面は、ステージ奥のスクリーンに投影されるようになっているので、観客も楽しんでファイトを見ることができる。
「行くわよ、バブルエッジ・ドラゴキッド!(5000)」
森宮さんはいつも通りのアクアフォース。デッキの内容も、テトラドライブ仕様に戻しているだろう。
「我は、運命の戦士 ダイ!(4000)」
「お……我は、次元ロボ ダイマグナム!(5000)」
2人は、ディメンジョンポリスを使う。魔王トウジとして、佐原君が劇で使っていたクランだ。
そして私は……。
「小さな闘士 クロン!(4000)」
「……あれ、チア―アップじゃないのね?戻したの?」
「すぐにわかるよ」
実戦で使うのも、今日が初めてだ。上手く使えるといいんだけどな。
「では、我が先攻をいただこう!」
「いいから、早くしなさい」
「そこはノリを合わせるとこっスよ……。ドロー!」
まぁ、こんな感じでファイトは始まった。けど、タッグファイトなんてやったことないよ……。ルールは一応知っているけど、何せ経験がないからね。
デッキの事もあるし、どこまでくらいついて行けるのか。そこが、勝敗を大きく分けることになりそうだ。
「次元ロボ ダイブレイブ(7000)にライド。ダイよ、後ろに下がるがよい」
「……俺もこんな風にファイトしないといけないのか」
「王様気取りでファイトすればいいだけだ。ターン終了。次は貴様だぞ、海崎リサ」
「わかってるわよ。私のターン、ドロー!」
タッグファイトでのターンの交代は、∞の字を描くように回っていく。
今回は魔王トウジからターンが始まり、次は向かい側の海崎リサさんのターン。そして、斜め前の魔将ワタルのターンに映り、最後に私のターンになる。私のターンが終われば、またトウジのターンからだ。
「遊撃のブレイブ・シューター(7000)にライド!バブルエッジは後ろへ。ターンエンド」
「よし、次だな。俺の――」
「我……だろう?」
「……我のターン、ドロー」
えっと、その……ドンマイだよ、小沢君……。
「こいつだな……ライド!次元ロボ ダイブレイブ!(7000) ダイマグナムは後方へと下がれ。ターン終了!こ、これくらいなら……!」
私たちのメイド並みに黒歴史の予感しかしない……。
「私のターン、ドロー!未来の解放者 リュー(6000)にライド!クロンは後ろへ」
さて、ようやく私のターンだ。そしてこのターンからは……。
「シオリさんのターンから、アタックができるようになるわね」
「うん。小さな解放者 マロン(7000)を左前列にコールして、アタック!スキルで解放者のヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(10000)」
4ターン目のファイターから、アタックは可能になる。ただし、アタックできるのは前のファイターだけ。私はワタルに。リサさんはトウジにだけだ。
「ノーガード!ダメージチェック、次元ロボ ダイドラゴン」
「クロンのブースト、リューでアタック!(10000)」
「ダイバトルスでガードするぞ!」
「ドライブチェック、光輪の解放者 マルク。ターンエンド」
シオリ・リサ ダメージ0 トウジ・ワタル ダメージ1
(シオリ0 リサ0)(ワタル1 トウジ0)
「ところでワタルよ」
「どうした?魔王トウジ」
「さっきのやり取り、キャラがブレまくっていたではないか。ガードだって、あれではいつもの小沢ワタルだろう」
観客席から笑いが起こり、魔将ワタルになり切れていない小沢君は頭を抱える。
「……これでもダメなのかよ。口調は真似しているだろ」
「わかってないな、悪役と言うものを。王と言うものを。貴様は……甘く見ている!!」
「……っ、佐原!?」
「もっと激しく、大胆に!己の中に秘めた欲望を、今こそ解き放つのだ!!」
何か、いきなり力説が始まったよ……。
「悪とは何か、このターンでワタルに教えてやる!貴様の中に眠る力を、我が呼び覚まして見せよう!!」
「さっさとしなさい」
「遮るな!まぁいい……我のターン!ドロー!!」
リサさんが止めてくれなかったら、まだまだこの話続いてたよね……。ファインプレーだよ。
「次元ロボ ダイファイター(10000)にライド!そして、闇の力に導かれし精鋭を、ここに呼ぶ!召喚!次元ロボ ダイドラゴン!!(9000)」
召喚って……。これはもう、中二って感じだよね。詳しくは知らないけど。
「ソウルのダイブレイブのスキル発動!このカードを魂から解き放ち、ダイファイターに新たなる力を授ける!」
ソウルブラストね。
「ダイファイターよ。ダイの力をその身に宿し、ブレイブ・シューターに裁きを与えよ!アタックだ!!(14000)」
「アタックがわかりにくいわよ……。ノーガード!」
「ドライブチェック……ククク、ジャスティス・コバルト。クリティカルトリガー!パワーをダイドラゴンへ(14000) クリティカルはダイファイターへ!(14000 ☆2)」
ノリノリだね、佐原君……。ダメージには、ホイール・アサルトとタイダル・アサルトが入る。
「アタックヒットで、ダイブレイブが与えたスキル発動!CB1で1ドロー!」
「お……っ、我のダメージを使うんだな」
「そうだ。コストは貰うぞ」
これがタッグファイトにしかないルールの1つ。互いのダメージ、ソウルは共有することができる。
つまり、自分のダメージが足りなくても、カウンターブラストを味方のダメージから使うことができる。ソウルブラストの枚数が足りないなら、味方のソウルを使うことで補える。
「漆黒の空を翔けよ、ダイドラゴン!次元ロボの力を呼応させ、パワープラス3000!(17000)」
「ここで3ダメージは痛いけど……仕方ないわね。ノーガード!」
ちなみに、分かりにくいと思うけど、ダイドラゴンのスキルはマロンの次元ロボ版。ヴァンガードが次元ロボなら、アタック時にパワープラス3000される。
「ダメージチェック、翠玉の盾 パスカリス」
「我のターン、終了だ」
シオリ・リサ ダメージ3 トウジ・ワタル ダメージ1(裏1)
(シオリ0 リサ3)(トウジ0 ワタル1{裏1})
「私のターン、ドロー。ストームライダー ダモン(9000)にライドよ!」
次はリサさんのターン。まだ私のターンまで長いな……。
「ストームライダー バシル(8000)を右前列、その後ろに2体目のダモン(9000)をコール!」
「ほう?連続アタックか。我の闇の前に、どこまで抗えるかな?」
「……うっさい。バシルでアタック。スキルで、このターンの1回目のアタックなら、パワープラス2000よ(10000)」
「そのアタック、我が身に受けよう」
またしてもわかりにくいけど、ノーガードってことです。
「ダメージチェック、創生英雄 ゼロ」
「スキルを発動したアタック終了時、同じ縦列のリアガードと位置を交換。バブルエッジのブースト、ダモンでアタック!(14000)」
「そうはさせん。阻め、魔眼怪獣 ゴルゴーン!」
「ち……!ドライブチェック、ティア―ナイト キブロスよ」
アタックが通らない。しかも残りのアタックは、パワーが足りていないから、リアガードのダイドラゴンを狙うしかない。ふざけているけど、やっぱりファイトの腕は確かだ。
「リアガードのダモンで、ダイドラゴンへ!(9000)」
「ぬるいな。ジャスティス・コバルトよ、ダイドラゴンを守るがよい!」
「ターンエンドよ」
シオリ・リサ ダメージ3 トウジ・ワタル ダメージ2(裏1)
(シオリ0 リサ3)(トウジ1 ワタル1{裏1})
「さぁ、ワタルよ。今こそ、我が先ほど見せたように、闇の封印を解き放つのだ」
「……嫌だよ。闇とか何とかって、恥ずかしいだろ」
小沢君、それブーメランだから。昨日私たちにしたことを思い出して。
「恥?ふん。気にしなければ楽になる。そんなものなど……とうに捨てている!!」
「……どっかで聞いたな、さっきの」
「それとも貴様は、イメージがないのか?ヴァンガードは、イメージが全てだと言うのに?」
「……っ!ヴァンガードは、イメージが……全て」
小沢君が、何かに気づいたように目を開く。すると、おもむろに盤面のヴァンガードに手をかけて……。
「我は……ぬるま湯につかっていたようだ!強さを求め、絶望に焦がれる……それが魔将ワタルだ!」
あ、ふっきれた。
「不本意だが、俺の闇で世界を塗りつぶそう!我のターン!!」
いや、本音出たね。
「ドロー、次元ロボ ダイハート(9000)にライド!」
「ダイハート……。確か、あのユニットは……」
「闇に蠢き、暗黒の戦士に力を授ける同胞よ、来たれ!次元ロボ ダイドリラー!(8000)」
トウジと同様にイタイ発言をしたことで、観客席の方からざわめきが聞こえる。それは尊敬の念を込めたものなのか。それとも、引かれているだけなのか。
「……いちいちうるさい。少し抑えなさい」
まぁ、確かに長いよね。毎回これだと時間がかかる。
「む……なら、召喚お菜の工場は省くことにしよう。それでいいな、トウジ」
「え~?んなの、中二っぽいセリフが言えないじゃないっスか!断固反対!」
素が出ちゃってるから。観客も笑っちゃってるから。
「……抑えなさい」
「そこだけは譲れない!このキャラの楽しさは、この中二要素にあると言っても――」
「……二度目はないよ?」
「はい……」
じゃあ、ファイトを再開しよう。
「ダイドリラーのスキル!CB1で、ダイハートに眠る力を解き放つ!パワープラス4000だ!(13000)」
「ふっ、ワタルよ。コストは我の血肉を使うがよい」
「遠慮なくそうさせてもらう」
ダイハートには、とあるスキルがある。が、その発動条件はかなり難しく、狙うだけでも一苦労する。その難所は3つだ。
まず1つが、アタック前に自身のパワーが13000を超えている事。これは、ブーストによる増加ではいけない。タイミング上、トリガーを乗せてもダメだ。
今のダイドリラーのスキルで、この条件はクリアだ。残りは2つ。けど、そのうちの1つを満たすのは、かなり難しいけど……?
「ダイマグナムのブースト、ダイハートよ!闇の炎を剣に乗せ、眼前の敵を斬り伏せろ!!(18000)」
「……シオリさん」
「ここは通そう。下手にガードできるほど、手札がよくない」
ノーガードを宣言して、ワタルはドライブチェックで次元ロボ ダイブレイブを引く。私は王道の解放者 ファロンを引いた。
これで2つ目の条件である、アタックをヴァンガードにヒットさせることをクリアした。後は、3つ目の条件を満たしているかどうかなんだけど……。
「アタックヒットにより、ダイハートの真の力が覚醒する!!」
「……使ってきたか」
「手札からグレード3の次元ロボを2枚を魂の贄とし、禁じられし門を開く!!」
「……指定のカードをソウルに入れて、デッキからグレード3の次元ロボを1枚選んで、レストでライドね」
リサさんが説明してくれた通り、手札のグレード3の次元ロボを2枚ソウルに入れることで、デッキからのライドを可能にする。ワタルは、超次元ロボ ダイユーシャと、超次元ロボ ダイカイザーをソウルに入れた。
これが、ダイハートのスキル。スキルによるパワー上昇に加え、アタックをヒットさせないといけない。その上で、手札にグレード3の次元ロボを2枚用意しないといけない。
けど、決まれば……。
「来たれ!破滅を司る力の奮い手!!スペリオルライド!超次元ロボ ダイカイザー!!(11000)」
こっちがグレード1の状況でも、グレード3にライドできる。次のターンから先にツインドライブを打たれる上に、パワー面でも圧倒される。
「やるではないか、我が僕よ!」
「フフ……俺の中の悪魔がささやくのさ。圧倒的な力によって、絶望を魅せろと!」
「うわ……小沢君があっち側に……」
「あっ、ちょ……待て星野!役!役だから!!」
あ、戻ってきた。
「ええい、惑わすな人間!闇の素晴らしさを知らぬ下等種族が!」
「よくわからないけど……言ってなよ。勝つのは私たちだから」
「シオリさん……」
「森宮さん。いや、リサさん。事情はどうあれ、これは空井シオリと海崎リサの、悪の敵を倒すファイトなんです。向こうだってその気なら……私たちが役を投げ出すのは違う」
こんな事態でも、クラスのみんなはバックアップしてくれているんだ。最初の照明だって、予想外の乱入者である佐原君を照らしていた。今も、その照明は私たちに向けられている。
それに、BGMは当初使う予定だったラストっぽい疾走感のあるものから、緊迫感のあるものに変更したほど。こんなものを、よくすぐに用意してくれたよ……。
だったら……私たちも頑張らなくてどうするんだ。
「……そうね。あんな小沢君も、いつまでも見たくないもの」
それは確かに。
「ほう、面白い。ようやくやる気になったか!」
「えぇ、やるわよ!シオリさん、私たちのヴァンガードで、あいつらを倒す!」
「もちろんだよ、リサさん!」
気持ちを切り替え、私たちはファイトに臨む。まだまだ序盤。私はグレード2にすらなっていないんだ。
ファイトはここから。新しい私の仲間も、早く活躍させたいからね!!