「私が少しでもダメージを与えて、シオリさんがとどめをさしやすい状況を作る。後の事は、シオリさんを信じて託すわ」
現在、ダメージは5対5。いまだに動きのないこのファイトで、突破の糸口を作ろうとしているのは、リサさんだった。
私に全てを託して……リサさんはつなげようとしている。勝利へのバトンを。
「お願いね、シオリさん」
「……わかった。任せてよ」
その想い、受け取ったよ……リサさん!
「ライドなし。そして、バシルとタイダルの位置を交換して……バシルでヴァンガードにアタック!スキルで、1回目のアタックによりパワープラス2000!(10000)」
「ベラベラと何かをほざいていたようだが、所詮は悪あがきだ。我が身に受けてやろう!」
「パワーが足りないから、アタックはヒットしない。けど、スキルを発動したバシルは、アタック後に同列のリアガードと位置を交換する!タイダルが前列に移動するわ!」
さっきのターンと同じ流れだ。つまりまた、テトラドライブの2回のアタックが行える。
「テトラドライブのアタック!2回目のアタックにより、このターンもアタック後にリミットブレイクを発動させてもらうわ!(11000)」
「そのアタック、ゴーレスキューが守る!」
「ツインドライブ!1枚目、ストームライダー バシル。2枚目、ジェットスキー・ライダー。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てグローリーへ!(16000 ☆2)」
上手くアタックはヒットしなかった。でも、グローリーのパワーとクリティカルは上げることができている。
しかも、まだパワーを上げるチャンスはリサさんに残っている。
「この瞬間、テトラドライブのリミットブレイク!2回目のアタックの終了時、リアガードが4回目のアタックを終えた時、CB2と手札2枚を捨てることでスタンドできるスキルを得るわ!」
もう1度ツインドライブも発動できる。トリガーゲットのチャンスは、また巡ってきた。
「タイダルでアタック!(9000)」
「当然、ガードするまでもない」
「タイダルはターンに1回、パワーマイナス5000してスタンド!(4000) そのままアタック!(4000)」
「バシルと言い、タイダルと言い……そんな貧弱なユニットで、我に傷をつけようなど笑止千万!」
でも、これでテトラドライブの条件は満たしている。このアタックに全く意味がなかったわけじゃない。
「だったら、テトラドライブの得たスキル発動!CB2、手札2枚を捨てて、テトラドライブをスタンド!」
バシルと遊撃のブレイブ・シューターを手札から捨てる。リアガードにはグローリーもいるから、後2回のアタックだ。
「つなげてやるのよ……絶対!テトラドライブで、もう1度アタックよ!(11000)」
「ノーガードだ」
「おい、トウジ。我のガードはいらないのか?」
「必要ない。それに……そろそろいるのではないのか?」
「……なるほど」
いる……?まさか、切り札を握っているってこと?
「なら、遠慮なく手札は温存させてもらおう。次のターン、一気に攻めるためにもな」
「フフ、案ずるなよワタル。闇の力を纏う暗黒の王者が、この程度の攻撃にひれ伏すなど――」
「……ドライブチェックするわよ」
「……はい」
でも、前のターンでの私の推測が当たっているなら、切り札は恐らくあのユニット。なら、次のターンが勝負となる。
私までターンが回るか、その前に決着がつくかの。
「ツインドライブ!1枚目、タイダル・アサルト。2枚目、虹色秘薬の医療士官。ゲット!ヒールトリガー!ダメージを1枚回復し、パワーをグローリーへ!(21000 ☆2)」
「く……ダメージチェック、次元ロボ ダイシールド」
「キブロスのブースト、グローリーでアタック!(28000 ☆2)」
「……これも作戦のうちだ。我が身に受けてやる!」
創生英雄 ゼロと、次元ロボ ダイドリラーがダメージに入る。これが作戦って、どういう……?
「ターンエンドよ」
シオリ・リサ ダメージ5(裏1) トウジ・ワタル ダメージ8(裏4)
(シオリ2 リサ3{裏1})(トウジ4 ワタル4{裏4})
「我のターン、スタンドアンドドロー」
ワタルはカードをドローし、手札を一瞥する。そして、その中の1枚を掲げて……。
「やはり持っていたか、同志よ」
「来る……!」
「奮いし力に正義が宿り、秩序は綻び……崩壊の加速が始まる!クロスブレイクライド!究極次元ロボ グレートダイユーシャ!!(11000)」
“Я”と対を成す、究極のダイユーシャにライドした。
「ソウルにダイユーシャがいる事で、常にパワーは13000に。さらにブレイクライドスキル!CB1で、パワープラス10000、クリティカルプラス1!(23000 ☆2)」
「ふっ、ワタルよ。我の痛みを糧に、その力を使え」
「もちろん。その身を賭してつないだコスト……使わせてもらう!」
「……っ!さっきからノーガードしていたのは、表のダメージを増やして、コストを確保するため!?」
互いに攻めて、守って、協力するだけがタッグファイトじゃない。時に委ねて、自分を犠牲に味方を最大限にバックアップすることも、タッグファイトなんだ……!
「さらにこの瞬間、グレートダイユーシャは理を超える!リミットブレイク!!」
グレートダイユーシャのリミットブレイクは、確か……。
「ソウルの次元ロボが3枚以上あれば、ターン中だけパワープラス2000!クリティカルプラス1!(25000 ☆3)」
「クリティカル3!?」
「しかもパワーも申し分ないわね……」
あの時のダイハートのスキルが、ここに来て活きているなんて……!
「この程度で怯えるか。我のグレートダイユーシャの力は、まだまだ上がるぞ」
「えっ!?」
「ここから少し時間を取る。ダイマグナムのスキル!ソウルに入れ、グレートダイユーシャのパワープラス4000!(29000 ☆3)」
上がるって言われても……どこまで上がるのか。
「次元ロボ ゴーキャノン(6000)をコールして、スキル発動!自身とダイブレイブをソウルに入れ、グレートダイユーシャにクリティカルプラス1!(29000 ☆4)」
「アタックが通れば、そこで即死のクリティカル数ね……」
「左前列に次元ロボ ダイドリラー(8000)をコール。スキルでCB1、闇の力を分け与えよ!グレートダイユーシャにパワープラス4000!(33000 ☆4)」
「確か、手札にはまだ……」
「そうだ、次元ロボ ダイランダー(6000)をコール。ダイドリラーと同じく、CB1で闇を解き放つ!(37000 ☆4)」
貯めたコストを使って、グレートダイユーシャのパワーを一気に上げていく。このターンに全てをかけているんだ。
「2体目の次元ロボ ダイランダー(6000)をコールし、スキルでCB1、パワー4000をグレートダイユーシャへ!(41000 ☆4)」
今のコールで、ワタルは手札を使い切った。パワーは40000超え。クリティカルも脅威の4。しかも、ワタルの場にはコマンダー・ローレルがいる。
「グレートダイユーシャよ、マロンを潰せ!(41000 ☆4)」
「……ここはノーガード!」
「ツインドライブ、1枚目、次元ロボ ダイバトルス。クリティカルトリガー!パワーはグレートダイユーシャへ(46000 ☆4) クリティカルはダイドラゴンへ!(9000 ☆2) 2枚目、ジャスティス・コバルト。クリティカルトリガー!」
ダブルクリティカル!?さらに殺傷力が高まってしまう……。
「効果は先ほどと同じだ!(ユーシャ 51000 ☆4)(ドラゴン 9000 ☆3) そして、アタックヒットによりローレルのスキル!」
マロンをドロップゾーンに置いたのを確認し、ワタルはダイドリラー、ローレル、2体のダイランダーをレストする。
「4体の血肉を糧に……再び立て!グレートダイユーシャ!!」
「ぐ……!」
「そのまま、ガンスロッドにアタック!!(51000 ☆4)」
ここは何としても防がないといけない。でも、私の手札は5枚。少し心持たない。しかも、そこにダイカイザーのブレイクライドスキルが加わってくる。
「この一撃で、全てを無に帰す!もう諦めろ!!」
グレード3は、このファイトであまり出ていない。それに、ダイカイザーを採用している以上、グレード3は多めに入れているだろう。
見えているグレード3だけでも3種類。4枚入れていると考えても12枚。グレード3は……まず出る。
だからと言って、数で守るにも私の手札では限界がある。さっきも言ったけど、手札は5枚しかないんだから。
……私だけなら。
「戦っているのは……」
「シオリさんだけじゃないわ!ガード!スーパーソニック・セイラー2体、ジェットスキー・ライダー、タイダル・アサルト、虹色秘薬の医療士官!!」
「「何っ!?」」
リサさんが手札を全て使い切り、ガードに参加する。これには、トウジとワタルも意表を突かれたようだ。
「これはタッグファイト。1人じゃ危なかったけど……支えてくれる仲間がいる!」
「くっ……。我がワタルのためにコストを稼いだように、海崎リサも手札を貯めていたというのか!?」
でも、ここまでのシールドを温存してくれているとは、正直思っていなかったけどね。
「だが、パワーは5000超えただけだ。トリガー1枚でも突破は可能!ダイカイザーのスキルも健在だ!」
「なら……ここで新しい仲間の力、使わせてもらうよ!ガード、レディバグ・キャヴァリー!!」
「な、ここで……レディバグ・キャヴァリー!?そんなカードまで入れてるんスか!?」
「ガードした時、CB1でシールドプラス5000!さらに、光輪の解放者 マルクで完全ガード!コストは霊薬の解放者!」
別に霊薬の方をガードに出してもよかったんだけど、そこはレディバグ・キャヴァリーに出番を作ってあげたかったからね。
「大量のシールドと、完全ガードを同時に……」
「これじゃあ、グレード3を2枚引こうが、ガードは突破できないではないか!」
マルクを潰しても、シールド値で勝る。シールド値を削っても、マルクの完全ガードがある。どっちにしても、ガードは成功する。
例えグレード3を2枚引き、どちらも狙ってきたところで、こっちのシールドはギリギリ5000上回る。このターンは切り抜けられる。
「いや、まだだ。向こうは手札も尽きかけている。ここでクリティカルトリガーを引き、ダイドラゴンにクリティカルを乗せることができれば……」
「ダイドラゴンのクリティカルは4……。いいぞ、ワタル!貴様の手で、この戦いに終止符を打つのだ!」
いや、そっちから仕掛けてきてるんでしょ。
「当然だ。……俺も、そろそろ精神的にもたない」
ワタルはともかく、このガードに賭けるしかない。このアタックだけは、絶対に通してはいけないんだから。
「ツインドライブ!1枚目、超次元ロボ ダイカイザー。グレード3を引いたことで、ブレイクライドスキル発動!ガードしているマルクを退却!」
さらに、マルクの持っていた完全ガードの効果が無効化される。けど、それはいい。問題は……次。
「2枚目……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……次元ロボ ゴーレスキュー。ヒールトリガー。ダメージを1枚回復し、パワーはダイドラゴンへ……!(14000 ☆3)」
危ない……!けど、このアタックをガードするだけの手札は、私たちにはもう……。
「ダイドラゴン!ガンスロッドをやれ!次元ロボのヴァンガードが存在するため、パワープラス3000!(17000 ☆3)」
「……ノーガード」
ダメージには、ヴィヴィアンと猛撃の解放者、エスクラドの3枚が入る。クリティカルトリガーの猛撃の解放者が落ちたけど、効果は一応ヴァンガードへ。これで8ダメージ……。
「ターン終了。次の当時のターンでとどめをさしてやろう」
シオリ・リサ ダメージ8(裏2) トウジ・ワタル ダメージ7(裏7)
(シオリ5{裏1} リサ3{裏1})(トウジ4{裏4} ワタル3{裏3})
「私の、ターンだね」
耐えきったけど、私の手札は2枚。アルフレッドとシルバーファング・ウィッチだ。ブレイクライドは使えるけど、ヒールトリガーでダメージを回復されている。
その上、クロスライドに成功して守りも堅い。ワタルもトウジも、手札はそれぞれ4枚と3枚。このターンで2ダメージを与えるのは、ハッキリ言って厳しい。
かと言って、トウジにターンを回すわけにはいかない。守りの手段がほぼ尽きている私たちには、“Я”ダイユーシャのリミットブレイクによるパワーダウンを凌ぐ手段はない。
もう、成す術はないのか……?
「スタンドアンドドロー……あっ」
あなたは……。まさか、この土壇場で来てくれるなんて。
しかも、このスキルならもしかして……。
「…………」
行けるかもしれない。この状況から、勝てるかもしれない。
「どうしたのだ?ライドはしないのか?」
「……もちろん、するよ」
けど、ライドするのは……アルフレッドじゃない。
あなたに賭けるよ……全て!!
「翔ける想いは天高く!今、絶望は輝きに染まる!!ブレイクライド・ザ・ヴァンガード!!」
ガンスロッドから、新たなユニットへ。それは、解放者には属さない……このデッキの、もう1つの切り札。
「光輝の獅子 プラチナエイゼル!!(11000)」
このタイミングで来てくれるなんて、本当に嬉しいよ……!
「なっ、プラチナエイゼル!?」
「解放者のデッキにそいつを入れるんスか……。ハハッ、思い切ったことをするもんっスね、シオリさんは!」
トウジも役を忘れ、佐原君に戻ってしまうほど。あなたの力、存分に使わせてもらうよ!
「ガンスロッドのブレイクライドスキル!プラチナエイゼルにパワープラス10000!(21000) さらにリアガード3体にパワープラス5000する!」
「でも、リアガードは2体しかいないわよ」
「わかってる。けど、次のターンが望めない今、やれるだけの事をするだけだよ!アルフレッドとリューにパワープラス5000!(アルフ 16000)(リュー 11000)」
少しでもパワーは上げておきたいからね。クロスライドを超えるには、火力は不可欠だ。
「シルバーファング・ウィッチ(5000)を左後列にコール!コールした時、SB2で1ドロー!その前に、円卓の解放者 アルフレッド(11000)を、右のアルフレッドの後ろに、疾駆の解放者 ヨセフス(7000)をコール!!」
これでリアガードは5体……。準備は整った。
「さぁ、行くよ!プラチナエイゼルは、今こそ究極を超える!アルティメットブレイク!!」
何気に使うの初めてだな、アルティメットブレイク。プラチナエイゼルの持つスキルは、この状況では大いに活きるはずだ。
「CB3、これで私のリアガード5体は、パワープラス5000される!(右アルフ 21000)(ヨセ 12000)(リュー 16000)(左アルフ 16000)(シルバー 10000)」
「くっ……」
重いコストだけど、その分得られる効果は強力だ。全てのリアガードに、トリガー分のパワーを与えることができるからね。
「だが、そのスキルはコストの都合上、1回が限度!その程度のパワーなら、我とワタルのガードは……」
「それは普通のファイトならね。けどこれは……タッグファイトだよ。私のダメージにはまだ、3枚の表のカードが残ってる!」
「なっ、ま、まさか……!?」
1対1のファイトなら、6ダメージで負けとなる。どんなにダメージをためても、表のダメージは最大で5しかたまらない。そこからCB3を発動すると、残りは2。連続では使えない。
けど、タッグファイトは9ダメージで負け。表のダメージは、最大で8までためられる。つまり、ダメージの使い方次第では、連続してスキルを発動することもできる!
「タッグファイトだからこそできた、アルティメットブレイクの重ね掛け!もう1度……アルティメットブレイク!!」
「ターン中に2度目のアルティメットブレイクだと!?」
「CB3!コストは貰うよ、リサさん!」
「えぇ、やってやりなさい!」
私から1枚、リサさんから2枚。これにより、プラチナエイゼルの力を再び発動する。
「リアガード5体に、パワープラス5000!(右アルフ 26000)(ヨセ 17000)(リュー 21000)(左アルフ 21000)(シルバー 15000)」
「こんなことが……。だが、我のグレートダイユーシャは、簡単には負けん!」
「だったら、押し通す!このターンで勝つ!シルバーファングのブーストした、左のアルフレッドでアタック!(36000)」
「ここは……ノーガードだ!」
ダメージには、次元ロボ ダイシールドが入る。ワタルの手札は全てわかっているから、完全ガードを心配する必要はない!
「リューのブースト、プラチナエイゼルでアタック!リューのスキルで、他の解放者のリアガードが3体以上いるなら、パワープラス4000!(46000)」
「ダイバトルス、ジャスティス・コバルト、ゴーレスキューで守ろう!」
「こちらからは、ダイバトルスとダイドリラー、ゴーキャノンでガード!」
トリガー2枚でも突破できないか。けど、トウジの手札は尽きた。それに、ワタルの手札も1枚だけ。それも、ガードには使えないグレード3のカード。超次元ロボ ダイカイザーだ。
全てをガードすることを諦め、ヒールトリガーに全てを賭けたんだね……。なら、弾かれないことを祈る以外に、方法は1つ。
「ツインドライブ!1枚目、レディバグ・キャヴァリー。2枚目、希望の解放者 エポナ。ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全て、右のアルフレッドへ!(31000 ☆2)」
「くそ……!」
クリティカルを乗せて、過剰にダメージを与えるだけだ!
「これで決めるよ!ヨセフスのブーストした、右のアルフレッドで……アタック!(48000 ☆2)」
「くっ……くそぉ!ノーガードだ!!」
ワタルの最後のダメージは、究極次元ロボ グレートダイユーシャ。勝利の女神が悪に微笑むことはなかった。
***
「いや~マジ楽しかったっスね~!」
「疲れただけだ……全く」
文化祭も終わり、私たちはホールの外に置かれているベンチに腰かけていた。劇の事もあって、すぐに帰る体力が残っていないのが理由だ。と言っても、もう夕方だからあまり長くはいられないけど……。
「いきなりタッグファイトなんて、本当にびっくりしたよ……。魔王トウジが出てきたときもだけど……」
「へっへっへ!サプライズ成功っスね!」
「じゃないわよ!私たちまで巻き込んで……」
「でも、盛り上がったじゃないっスか」
「それは……そうだね」
反響も大きかったみたいだしね。それに、私の新しいデッキが活躍できたから、結果オーライなのかな。
「お~い、シオリ~!」
「あっ、ハヤト君!それにみんなも!」
ハヤト君とヒナ、シュンキ君の3人だ。何気に今日会うのは初めてだ。
「劇、面白かったよ。君の悪役っぷりもなかなかだった」
「……それはどうも」
「シオリ凄いね!アルティメットブレイク2連撃決めた時なんかもう……鳥肌立っちゃった!」
「ありがとう、ヒナ。私も、あの時は興奮してた」
あんなプレイングは、しばらくはお目にかかれないだろうね。
「お疲れさんだな。あんたのアクアフォースも、いい仕事してたぜ」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいわ。けど、1人じゃ勝てなかったと思う」
「謙遜すんなって。あんたとは、またファイトしてみたいな。森宮リサさん」
「……えぇ。私も、ぜひ相手してほしいわ」
今日は時間もないからね。この約束が果たされるのは、いつになるのか。
「あ、そういやあんた、グローリーをデッキに入れてるんだな」
「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」
「いや悪い。ケチをつけるつもりじゃねぇよ。ただ、感心してな。テトラドライブは確かに強力なユニットだが、それだけを頼りにしているわけじゃない。ちゃんと考えてデッキ組んでるんだと思ってよ」
確かに、テトラドライブはそれなりにコストもあるし、盤面の状態も要求されるからね。単体じゃパワーが低いのも、欠点と呼べるのかもしれない。
「言われてみれば、確かにそうかも。でもね、私はそんなに考えてグローリーを入れてたわけじゃないの」
「と言うと?」
「単純に……好きなのよ。グローリー、いえメイルストロームが」
確かに、森宮さんも私と同じように、ずっとグローリーをデッキに入れていた。切り札が変わろうと、そこだけは変わっていなかった。
「力を合わせて、途切れることなく攻めるクランを探していたの。最初はとにかく色んなクランを試したわ。そんな時、たまたま買ったブースターで……出会ったの」
「そいつが……」
「えぇ。蒼嵐竜 メイルストロームよ」
だから森宮さんは、メイルストロームを……。
「アクアフォースが私の理想に合ったクランだったこともあって、すぐにデッキを組んだわ。それが、メイルストロームを使い続けるきっかけ」
「その時の事、俺はまだ覚えてるっスよ。隣でパック開けて、目を奪われたような顔をしてたっスから」
あぁ、そうか。森宮さんと佐原君は、中学からの仲だったね。
「だから、メイルストロームの名前を持つグローリーは、入れておきたくてね。本当はメイルストロームがいいんだけど、スキルが心持たないから……」
「そうなんだ……。って、あれ?あそこにいるのは……」
離れたところからこっちを見て、何やら騒がしくしている3人組の女子の姿が。2人の女子に背中を押され、それを照れ臭そうに拒む1人の女子。
その拒んでいる女子に見覚えがあり、私の方から駆け寄って声をかける。
「立花さん!」
「ほえっ!?ほ、星野さん!?」
2人の女子に背中を叩かれ、立花さんは恥ずかしそうに私とみんなの元へ。友達らしい2人は、この後用事があるみたいなので、立花さんを待っていることにするらしい。と言うことは、時間はあまりないってことか。
「そんなに恥ずかしがる必要なかったのに。用事がどうとか言ってたけど、大丈夫なの?」
「よ、用事は平気です。恥ずかしかったのは……あの2人が、やたらとからかってくるので……」
茶化してたってことだね……。
「おっ、昨日ぶりだな!あんたも来てたんだな」
「どうもです、広瀬さん。今日は友達と一緒に来たんですよ」
「それはよかった。また1人だと、僕たちも心配だからね。だろ、ヒナ?」
「シュンキ君の言うとおりだよ。あっ、今日の劇面白かったよね!」
「はい!あの2人も楽しそうに見てましたよ!特に、あのタッグファイト!」
立花さんに指さされ、待っている2人は軽く手を振って会釈する。ご満悦みたいで何よりだ。
「フッフッフ……。これは俺の活躍のおかげっスね!」
「いや、佐原は負けただろ」
「そう言うワタル君も、負けてるじゃないっスか」
「お前がそっち側に引き込んだんだろ!?」
本当にお疲れ様……小沢君。
「えっ?佐原さんに小沢さん、劇にいましたっけ?」
「「いた「っス」よ!」」
「でも、私が見たのは、星野さんと森宮さんが、よくわからない変な敵と戦ってたくらいで……」
「……それが俺たちっス」
出たよ、天然ボケ。まぁ、格好もわかりに……あれ?でも小沢君は衣装そのままだったし、わかりやすい気がするんだけどな。
「埋めてくれ。もうあの時の記憶が忘れ去られるまで、しばらくどこかに埋めてくれ……」
「う~ん、埋めてあげたいですけど、私今スコップとか持っていないので……」
「いや、物の例え!真に受けるな!」
ここでまた被せてくるのも、天然らしい。
「でも、本当にいいファイトでしたよ。星野さんのデッキも、昨日と違って強そうでした」
「そう言ってもらえると、私もデッキを組んだ甲斐があったよ」
「本当はファイトしたかったですけど、時間がないのでできませんね……。今日はデッキ持ってるのに」
「こんな時に限って持ってんスか。もったいぶられてる気がするっス……」
まぁまぁ。時間もないみたいだし、仕方ないじゃない。
「それじゃあ、ファイトは次に会った時に持ち越しだね。お互いに、自分のデッキで」
「次……」
「あ、ダメかな?」
「いえ……。ただ、いつになるのかわからないなって思うと……」
あぁ、そうか……。そう簡単に会えるわけじゃないからね。
「でも、いつかまた……ファイトしましょう!約束ですよ!」
「うん、約束だよ」
「じゃあ指切りしましょう!」
「指切りって……。子供みたいだな」
「そんな事言わないの、小沢君。もちろんやるんでしょう?シオリさん」
いつになるかは、わからないけど……か。
「うん。立花さん、小指出して」
それでも、この文化祭で私たちは再会できた。会うべきして会ったわけではなかったのに。なら、きっといつか。小指を絡ませ、私たちは誓う。
「「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます!ゆーびきった!」」
忘れないように、胸に刻んで。いつか果たす、再戦の約束を。