さて、今回でクリスマスカップの前座は終わります(長い) そしてここからも長くなります(おい)
ある程度の構成はできているので、恐らく更新頻度は上がるはず……?(とか言って自滅しそう)
では、日常パート(と言うのかはわからないけど)の締めを飾る回、行ってみましょうか。
「けど、このメンバーで集まるのは久しぶりだ。こっちに帰ってくるのも、そう時間が取れるものじゃないからね」
「だよね~。リョウヤ君、身長伸びたよね?」
「そうかな?特に何かしてるわけじゃないんだけどな」
中学の時から全く会っていなかった、かつての私の仲間、神原リョウヤ。今は少し談笑しているけど、声を聞くのも久しぶりだ。
「シュンキも、相変わらずみたいだ。こういう懐かしさは悪くない」
「それはこっちもだよ。リョウヤがいると、安心感がある」
「だな!鬼に金棒って感じだ!」
「それって、自分の事を鬼だと言ってるのか?ハヤト」
「あっ、いや……違ぇよ!そうじゃねぇ!」
こうしてみんなで笑いあう。その光景は中学の時みたいでほほえましく、同時に痛ましくもあった。
「ところで……シオリは今、どうしてる?」
「えっ?どうって……」
いや、言いたいことは分かった。リョウヤ君は、心配してくれているんだ。私がヴァンガードを止めていることを知っているから。辛かった時期を知っているから。
そしてリョウヤ君は、そこから先の話を知らない。今の私が何をして、どう過ごしているのかも。まだ過去に囚われ、ヴァンガードを断っているのかもしれないと思っている。
「大丈夫だよ。私はもう、過去の辛さ以上の物を手に入れたんだ。ヴァンガードを再開して、少しでも過去と向き合えたことでね」
「ヴァンガードを……。そうか。それは俺も、本当によかったよ」
そのめぐりあわせが、私をまたこの場所へと導いてもいる。みんなと再会するきっかけにもなっている。
けど、素直には喜べない。まだ1人欠けているから……全員が揃うまでは、喜ぶことはできないんだ。
「あぁ、そうだ。シュンキ、今日俺をここに呼んだ理由は何だい?」
「休みが取れるのなら、せっかくだしみんなで久しぶりに集まりたい……って言うのが建前。本当は、渡したい物があったんだよ。ここにいるみんなにもね」
「「「「え?」」」」
この様子だと、みんなも知らないのか。わざわざ直接集めてまで渡したかったものとは、一体何だろう……?
「けど、ちょっと待ってね。思ったよりファイトが長引いて、まだ決着ついていないんだ」
「わかった。俺も2人のファイトの腕は見ておきたい。どれほど力をつけたか、見せてもらおうか」
と言うわけでファイト再開。スタンドアンドドローを終えて、ライドするところからだ。
「改めて、ライドから行こうか。辿りし光が示すままに、等しく未来を告げよ……ブレイクライド!ヘキサゴナル・メイガス!(11000)」
「うおぉ!もう佳境じゃんか!」
「ブレイクライドスキル!山札の上から3枚見て……1枚を手札に。残り2枚を山札の上に。そして、ヘキサゴナルにパワープラス10000(21000)」
デッキトップのカードを確定させながら、手札も増やしてきた。メイガスらしい強力なスキルだ……。
「ブリオレット・メイガス(9000)、クレセント・メイガス(6000)をコール。クレセントのブースト、ブリオレットでアタック(15000) クレセントのスキルで、ブーストした時にカード名を宣言。そのカードが当たっているなら、パワープラス3000する」
「んだよそれ。博打みたいなスキルだな……」
「けど、シュンキのデッキトップは、既に確定している。博打でも何でもないな」
「その通りだよ、観客さん。宣言するのはバトルシスター じんじゃー。……当たりだね。よって、パワープラス3000!(18000)」
トリガーを固定していたのか……。しかもクリティカルトリガーとなると、ヒナが取るべき最善の道として考えられるのは……。
「……ノーガード!ダメージチェック……よし、銀の茨 バーキング・ドラゴン。クリティカルトリガー!効果は全てエヴァへ!(16000 ☆2)」
ダメージトリガーが出たおかげで、少しは防ぎやすくなっただろう。けど、ブレイクライドでパワーは上がっている。そのアタックをどうするのか。
「ダーク・キャットのブースト、ヘキサゴナル・メイガスでアタック!(28000)」
「やらせないよ!銀の茨の催眠術師 リディアで完全ガード!コストはりりあん!」
「ツインドライブ……と言っても、1枚目はもう見せたね。バトルシスター じんじゃー、クリティカルトリガーだ。効果は全てステラ・メイガスへ(14000 ☆2)」
これで手札は4枚となったため、ヘキサゴナルのスキルでパワープラス2000される(30000) けど、完全ガードされている以上、パワーが増えたところで関係はない。
「2枚目、クォーレ・メイガス。トリガーではないか。なら、クレセント・メイガスのブースト、ステラ・メイガスでアタック!(20000 ☆2) ここは、先にステラのスキル発動!」
パワーアップを優先させてきたか。確かに、今の状況ならその方がいいかもしれない。
「CB1、ここは……ダーク・キャットにしようかな。……あっ」
「「「あっ……」」」」
思わずみんなで声をそろえてしまった。何せ、そこにあったのは……ダーク・キャットだったからだ。適当に言って当たってしまっては、次のクレセントのスキルにつなげられなくなる。
「……じゃあ、これは手札に。続けてクレセントのスキル!ダメ元で、ロゼンジ・メイガスを宣言!……テトラ・メイガスだ」
「よし、ならマリチカでインターセプト!」
「下手に宣言が当たってなかったら……。ターンエンド」
シュンキ:ダメージ4(裏3) ヒナ:ダメージ5(裏1)
「私のターン、スタンドアンドドロー!よ~し、じゃあ今度はこっちから行くよ!」
来るね……ペイルムーンのブレイクライドが。
「全てがひれ伏す鞭の音色に、従わぬ者に痛みを与えよ!クロスブレイクライド!銀の茨の竜女帝 ルキエ“Я”!!(11000)」
「クロス……って、エヴァじゃクロスライドできねぇじゃんか」
「多分、俺たちが来る前に何らかの方法でルキエをソウルに入れていたんだろう。これは2人共、見ごたえのあるファイトだな」
その言葉にハヤト君も納得し、クロスブレイクライドと言った意味を理解する。
「まずはクロスライドスキル!ソウルにルキエがいるから、ルキエ“Я”にパワープラス2000!(13000)」
この効果は永続するため、守りの面でも重宝する。少し余裕が持てるようになったかもしれない。
「続けてブレイクライドスキル!ルキエ“Я”にパワープラス10000!(23000) さらにスキルを与えるよ!」
「スキル……厄介だな」
「銀の茨の獣使い アナ(7000)をコールして、ルキエ“Я”のリミットブレイク!CB1、今コールしたアナをロック!私はソウルから、ミラクルポップ エヴァ(11000)をスペリオルコール!さらにパワープラス5000!(16000)」
ロックと引き換えにリアガードをソウルから呼ぶ……。一見すると、リアガードの数も変わらず、むしろ使えるリアガードサークルが減ったようにも見えてしまう。
が、どんなに弱いリアガードでも、ソウル次第では化けることができる。今の場合、パワー7000のアナが、パワー11000のエヴァに。
しかも、スキルでパワーは5000増えて、16000になっている。その差は9000にも及んでいることを考えると、決して弱くはないスキルと言えよう。
「行っくよ~!ライジング・ドラゴンでアタック!スキルで銀の茨を含むヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(12000)」
「……クォーレ・メイガスでガード!」
「トラピージストのブースト、エヴァでアタックするよ(22000)」
「こっちはノーガードかな」
とは言え、ダメージトリガーには期待できない。さっきのターン、クレセント・メイガスで公開されたデッキトップのカードは……テトラ・メイガスだ。トリガーではない。
「ルキエ“Я”でアタック!ここでブレイクライドスキル!エヴァとトラピージストをソウルに入れて、ソウルから銀の茨の操り人形 りりあん(10000)とパープル・トラピージスト(6000)をスペリオルコール!」
これでヒナはもう1回……いや、2回アタックできる。
「トラピージストのスキル!コールされた時、ライジング・ドラゴンをソウルに入れて……再びライジング・ドラゴン(9000)をスペリオルコール!」
スキルを連鎖させて、スタンド状態のリアガードを増やした。これで少しはプレッシャーを与えることになる。
「さぁ、このアタックはどう受けるの?シュンキ君!(23000)」
「当然ガードするよ。テトラ・メイガス!ダーク・キャットをコストに……完全ガードだ!」
ここは防いだ。けど、まだ安心はできない。
「ツインドライブ!1枚目……銀の茨のお手伝い イリナ。2枚目……銀の茨のお手玉師 ナディア。ヒールトリガー!ダメージを1枚回復して、パワーはライジング・ドラゴンへ!(14000)」
しかもヒールトリガーまで引かれたとなると、次のターンでの守りの面も少し気持ちが楽になる。その前に残りのアタックだ。
「ライジング・ドラゴンでアタック!さっきと同じで、パワープラス3000!(17000)」
「じんじゃーでガード!」
「トラピージストのブースト、行け、りりあん!(16000)」
「ミラクル・キッドでガード!ブリオレットでインターセプトだ!」
「防がれた……ターンエンド!」
シュンキ:ダメージ5(裏3) ヒナ:ダメージ5(裏2)
「僕のターン、スタンドアンドドロー」
これで手札は2枚。リアガードについてはすぐに立て直せるけど、問題はパワーだ。
ヒナがクロスライドしている以上、少なくても18000のパワーが欲しい。一応、クレセントのスキルである程度の補助はできるけど、さっきのターンみたいにならないとは言えない。
ならば、この状況を打破する可能性が高い方法は1つ。そしてシュンキ君は、まさにその一手を繰り出すために1枚のカードを手札から抜き放つ。
「あるべき未来は我が望むままに!告げられし先に待つ祝福は、眼前の敵に降り注ぐことはない!!ブレイクライド!ペンタゴナル・メイガス!!(11000)」
ブレイクライドなら、パワーを一気に引き上げることができる。これだけで、プレッシャーの比は違ってくる。
「ブレイクライドスキル。ペンタゴナルにパワープラス10000!(21000) さらに山札の上3枚を見て……1枚を手札、残る2枚を山札の上へ。続けて、リビス・メイガス(7000)をコール」
デッキトップを確定させ、リアガードをコール。そこにクレセントのスキルを加えたら、何とかパワーラインを作ることはできそうだ。
「クレセントのブースト、リビスでライジング・ドラゴンにアタック!メイガスを含むヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(16000)」
「え、リアガードを……?ノーガード!」
先にリアガードを狙ったのは、インターセプトをさせないためだろう。そしてこの状況、私には見えた。
「……シュンキが勝ったな」
「うん……。残念だけど、ヒナはもう……」
「これでラストだ……!ダーク・キャットのブースト、ペンタゴナルでアタック!そして、ペンタゴナルのリミットブレイク!CB1、カード名を1つ宣言して、そのカードが山札の上にあれば、パワープラス5000とクリティカルプラス1だ」
とは言っても、デッキトップのカードはブレイクライドによって固定されている。スキルは問題なく発動するから、ブーストを合わせると、パワーは33000、クリティカルは2でアタックできる。
ヒナはヒールトリガーでダメージを回復しているけど、ダメージ4の状況からクリティカル2のアタックを受けるわけにはいかない。だから、何が何でもガードしないといけない。
が、ヒナの手札は3枚。しかも、全て判明しているカードだ。そのシールド値の合計は25000。ルキエ“Я”のパワーと合わせて38000となる。トリガー1枚で突破される危険な道だけど、こうしないとヒナは負ける。
けど、よく考えてほしい。デッキトップはブレイクライドで確定している。そしてそのカードは、ドライブチェックを見越して仕組んだものだと考えるのが普通だ。
なら……その時恩恵を受けるカードは?
「僕にはヒナの手札がわかってる。その上で、このカードを山札の上に置いた。……サイキック・バード。悪いけど、当たり。しかもトリガーだ。今のヒナの手札じゃ……防げない」
「……っ!」
決まっている。トリガーユニットであるカードだ。
ましてサイキック・バードはクリティカルトリガー。さらにクリティカルは増え、ヒナは6枚目のダメージチェックでヒールトリガーを2連続で引かなくてはいけない。そんな荒業、とてもじゃないけどできない。
「宣言したカードが当たっていたから、パワープラス5000!クリティカルプラス1!(33000 ☆2)」
「……悔しいけど、ノーガードしかないみたいだね」
「ツインドライブ。1枚目、サイキック・バード。クリティカルトリガーだ。効果は全てペンタゴナルへ(38000 ☆2) 2枚目、ペンタゴナル・メイガス」
言葉通り、悔しそうにダメージを確認していく。内1枚はトリガーだったけど、クリティカルトリガーだった。
***
「見事だよ、シュンキ。確実に力をつけているな」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ヒナも惜しかったけど、シュンキ君はえげつなかったからね。ガード完封されて、万一の望みに縋るしかなかったというのは……もう残念だったとしか言えない。
「で、シュンキ。ファイトは十分楽しませてもらったが……さっき言ってた渡したい物とは何だ?」
「それなんだけど、ちょっと待ってて。みんな揃ったら、店長に呼びに来てほしいって頼まれてるから」
「そうか。なら俺は……」
リョウヤの視線の先、そこで繰り広げられていたのは……。
「レディバグ・キャヴァリーでガード!スキルでCB1、シールドプラス5000!」
「げっ!?少ない手札の中に、まだそんなもん仕込んでいたのかよ!?ターンエンドだ!」
私とハヤト君のファイト。シュンキ君たちのファイトに感化され、ハヤト君が申し込んできたものだった。
「あっちを観戦させてもらおうかな。もうそろそろ終わりそうだし」
「ハヤトも強くなってるけど、シオリさんはもっと強いよ?特に今のデッキは、面白い構築になってるからね」
「それは期待できそうだな。なら、ゆっくり観戦することにしようか」
シュンキ君は店の奥に。リョウヤ君は私たちの方に。そして私は、巡ってきたターンを始める。
「私のターン、スタンドアンドドロー。ライドはなしで、シルバーファング・ウィッチをコール!スキルでSB2、1ドロー!……よし」
「ん?ってことは、あいつを引かれちまったって事か!?」
「どうだろうね?アルフレッドのリミットブレイク!解放者のリアガードは3体!パワープラス6000!」
リアガードはフルに展開しているけど、2体が非名称。シルバーファングと、ヴィヴィアンだ。
「……解放者で統一されたデッキじゃないのか。これは確かに面白いかもね」
「あっ、リョウヤ君。前は解放者だけのデッキだったんだけど、ちょっとデッキがワンパターン化している気がしてね。それで、試しに組んだデッキなんだ」
「前にシオリ、文化祭の劇でこのデッキを使ってファイトしたことがあるんだけど、本当に強かったよ!リョウヤ君にも見せたかったな~」
話ながらファイトを進めていく。リアガードのアルフレッドとヴィヴィアンはどちらもノーガードで。ヴァンガードだけは完全ガードで止められてしまった。
「ターンエンド!」
「うっし!そんじゃ、俺のターンだぜ!スタンドアンドドロー!」
「でもシオリ、そのデッキ使いにくくないか?またアルフレッドを使っている姿を見られたのは嬉しいが、そのアルフレッドは解放者で統一することで真価を引き出せる。今のようなデッキでは、せっかくのアルフレッドも力を活かせないんじゃないかと思ってね」
「うん……。確かにね。最近、少しそう思う場面が増えてきたよ」
コストに解放者の指定があるスキルが使えなかったり、アルフレッドのリミットブレイクだって、上手く使えなかったり。やっぱり、名称で統一した方がデッキとしては機能するのかな。
「けど、今日新しいブースター出ただろ?光輝迅雷。そいつには解放者のユニット収録されていただろ。あ、こいつでアタックな」
「もうカード自体は確保してあるんだ。だから、今日がこのデッキでのラストバトルになると思うよ。そこはガードで」
「面白い趣向のデッキだと思ったんだけどな。だが、そうやって試行錯誤を重ねるのもヴァンガードの醍醐味だ。思わぬところに強くなるヒントが隠されているかもしれないしな」
ハヤト君のアタックが全て終わる。私は手札を1枚だけ残して、ターンを迎えた。
「私のターン、スタンドアンドドロー。なら……あなたともしばらくはファイトできそうにない、かな」
「ってことは……いるのかよ、手札に!」
「翔ける想いは天高く!今、絶望は輝きに染まる!!ライド・ザ・ヴァンガード!光輝の獅子 プラチナエイゼル!!(11000)」
「解放者主体のデッキに、プラチナエイゼルを合わせるのか……。これは盲点だな」
そう考えると、ちょっと名残惜しい。機会があったら、解放者とは別でデッキ組んでみようかな……。
「けど……『ザ』か」
「……うん。私、久しぶりにヴァンガード始めた時も、ザって言ってたんだよ。無意識に。私の中で、ちゃんと残ってたってことなんだよね」
「そうだな。……あいつとも、今日会いたかったよ。もっとも、向こうはまだ俺たちに合わせる顔がないと思い込んでいるのかもしれないが」
そんな事ないのに。元気にやっているのかな……?
「おいおい、そんな暗くなるなって!シオリ、ファイト続けてくれよ。俺はあんまし重苦しい話は好きじゃないんだ」
「あ……そうだね。プラチナエイゼルのアルティメットブレイクで、CB3してリアガード5体にパワープラス5000!これで……プラチナエイゼルのアタック!」
「後のリアガードの事を考えると、ノーガードしかないな!残念!」
「自分で残念って言うのも変な話だよね」
「いいじゃんかよ、ヒナ!そう言うのは、ポジティブって言ってほしいな!」
ハヤト君のダメージは6枚になり、このファイトは幕を下ろした。私はプラチナエイゼルを心に刻み付けながら、デッキを片付ける。
「はい、みんな注目!渡したい物、持ってきたよ」
ちょうどいいタイミングで、シュンキ君が戻ってきた。手には1つの箱が。少し小さめの段ボール箱に、私は見覚えがあった。
「……その箱って」
「あっ、シオリさん思い出した?」
「思い出すも何も……」
忘れるわけない。この中には、私たちの仲間の証が入っているから……。
「じゃあ、開けるよ」
シュンキ君が丁寧に箱の封を解いていく。その中にあったのは、私たちにとって本当に懐かしいの一言に尽きる物。
「これって……!うわ、すげぇ懐かしい!ここにあったのかよ!」
ハヤト君がそう言うのも無理はない。何せ、もう現物を見ることがないと思っていたから。過去の思い出の一部、記憶の中でしか見られないものだと思っていたから……。
「これは、俺たちのチームのバッジか……」
「店長がたまたま見つけてくれてね。ずっとしまっておくのもどうかと思って、渡してほしいってね。けど、それならみんなと会って渡したいと思わない?だから、リョウヤの予定を聞いて、この日にしたんだ」
「その連絡を貰ったのが2か月前。ここまで間を開けることになったのは、俺としても申し訳ないよ」
箱の中にあったのは、6つのバッジ。それぞれ色は異なっているが、中心には英語でCHECKMATESと書かれている。私たちは自分の色のバッジを取り、思い出に浸っていた。
この中心に書かれている英語。それが……かつての私たちのチームの名前、チェックメイツだった。
「けど、久しぶりに聞くな。チェックメイツって」
「あぁ。チームは俺が作ったが……」
「一番乗り気だったのは、レイジ君だったよね」
チェックメイツ。私たちが中学の時、6人で組んだチームの事だ。小規模な大会に数多く参加し、優れた結果を残している。
少なからず注目を集め、周りからの期待も熱かった。参加さえしていれば、グランドマスターカップもいい線だったと思う。けど、少し事情があって自然消滅してしまった。その辺りについては、今は触れないでほしい。
今から再結成しても申し分ない強さを誇ると思うけど、その考えが実行に移ることはまずない。今の私には、エレメンタルメモリーという居場所があるから。
「レイジ……あいつ、何してるんだろうな」
「本当だね……」
箱の中に残る1つのバッジが、やけに物寂しく見える。まだ、あの時みたいにはなれないんだね……。
「レイジって言えば、確か決め台詞作ったよな。これで、チェックメイトだ!って」
「そっか。あの決め台詞ってレイジ君のだったっけ」
「覚えてなかったのかよ、ヒナ。あいつノリノリで、じゃあ決め台詞でも作ろうぜ!って言ってたじゃん」
「言われてみればそうかも。レイジ君、ここにいる誰よりも明るかったからな……」
何気に私も、影響されてるしね。ザをつけているのだって、レイジ君が始まりだから。
「……ところでシュンキ、少し気になったんだが」
「何だい、リョウヤ?」
「さっきからチームの話をしているが、みんなは今チームには入っているのか?」
「みんな入ってるよ。シオリさんは、エレメンタルメモリーってチームに。僕たちは、ヒナさんとハヤトの3人で、ビギニングサクセスってチームを組んでる」
えっ、そうだったんだ。全然知らなかった……。
「僕たちもシオリさんも、当然目指す場所はグランドマスターカップの決勝大会……全国の舞台さ。まぁ、僕たちはシオリさんがチームを組んだことを聞いて、チームを結成したんだけどね」
「……そうか。なら、俺たちはみんな、道は違っても同じ目標に向かっているという事か」
「えっ、リョウヤ君それって……」
「あぁ。俺もチーム炎帝として、グランドマスターカップに出場している」
みんな出場してたんだ。と言うことは、もしかしたらこの先、グランドマスターカップでファイトすることがあるのかもしれない。
そうなれば……かなり手ごわくなりそうだ。
「俺は既に決勝大会への参加権を得た」
「本当!?リョウヤ君、早くない!?」
「俺だけの力じゃ無理だったさ」
だとしても、もう決勝大会に駒を進めているのは……相当の実力をつけている証拠。中学の時からそうだけど、侮れない相手だ。
「それで、シオリたちはどうだ?」
「……まだだよ。けど、必ず行く。この冬には、クリスマスカップもある」
「おいおい、シオリの口から、クリスマスカップの言葉が出たってことは、参加するのか!?」
「そうだよ、ハヤト君。秋には悔しい思いをしてるからね。そこで全国のチャンスをつかむ」
「うわ~!強敵出現だよシュンキ君!」
ハヤト君、それにヒナのこの反応……まさか。
「シュンキ君たちも、参加するってことだね」
「もちろん。こんなチャンス、逃すわけないよ」
強敵出現だ。しかも、3人。その実力の高さは、私もよく知っている。一筋縄ではいかない相手ばかりだ。
「シオリさんにも想いがあるように、僕たちも、想いや覚悟は本物だから。クリスマスカップ、優勝は必ず僕たちが掴む。それだけは譲れない」
「私も負けない……!何があっても、引くわけにはいかない!私には、守らないといけない約束があるから!」
たとえ立ちはだかるのがシュンキ君だとしても、この想いだけは譲れない。これだけは。
「みんな、本気みたいだね。これは……決勝大会が楽しみになってきたよ。そこでみんなとファイトできる事、期待している」
リョウヤ君の言葉に、みんなが首を縦に振る。それを見て、リョウヤ君は口元に笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。もうすぐ電車の時間だからね」
「あ……そうか。リョウヤは電車の都合があるのか」
「なら、今日はお開きって事にする?」
「そうだね。今日はもう遅いし、解散にしようか」
知らない間に、もう外は暗くなっていた。リョウヤ君も、限界までここにいてくれたって事だろう。
シュンキ君はバッジの入った段ボール箱を持って、また店の奥に戻っていく。店の戸締りもあるし、店長を呼びに行ったのかもしれない。
「…………」
けど、私にはどうしても、放っておけないことがあった。
「ちょっと待ってシュンキ君」
「え?どうしたの、シオリさん」
「実は……ちょっとお願いがあるんだけど」
***
その帰り道。私はチェックメイツのバッジを見ながら、今日の事を思い返していた。
リョウヤ君の見送りをみんなで済ませてから、私はその足で電車に乗って帰路に着いている。今は街灯がついているだけの住宅街を歩いているところだ。
「リョウヤ君、昔と何も変わってなかったな」
思わぬ形で知ることになった、みんなが全国を目指しているという事実。リョウヤ君はチーム炎帝。シュンキ君たちはチームビギニングサクセス。
そしてシュンキ君たちは、決勝大会への参加権を手に入れようとする敵となる……。
「あなたは……どうなの?レイジ君……」
かつては仲間で、その関係が引き裂かれ……別々の道を歩く私たち。いつかまた交わることができるのか、それすらもわからないけど。
「……もう1度、あなたに会って話がしたいよ。レイジ君」
そう言った私の手の中で、バッジが街灯に照らされて光を放つ。その輝きは……2つ。
「まだ辛いけど、ここまで立ち直れたんだ。そんな姿を、あなたにも見せたいんだ。だから私は、このバッジを預けてもらったんだよ……?」
私の手には、2つのバッジがあった。1つは私の物。そしてもう1つは……レイジ君の物。
いつかあなたに会えるように。私がバッジを持っていれば、いつかあなたが立ち直った時に……私の元に来てくれるはずだと、そう信じているから。
何より、これは私の手で渡したかった。元気な姿と共に、もう大丈夫だって言ってあげたかった。おかえりって言いたかった。
そして……謝りたかった。
「過去を見るのは、まだ全然ダメなんだ。だから、私は未来を見てる。過去だけ見ていても、囚われて何も変えられないから……レイジ君も、過去じゃなくて未来を見てほしいな……」
本当にレイジ君がこのバッジを取りに来てくれるかは分からない。けど、私は信じたい。だからこそ、このバッジを離さずに持っていよう。
またあなたに会える、その時まで。