私達がチームを組んでから数日後。私達は、サンシャインにて、チームの名前を決めることになった。
「……と言っても、私達の方でチーム名は決めてあるの。2人にはそれに納得して貰うつもりで呼んだ訳で」
「相談とかじゃないのか」
「……まぁいいでしょ?小沢君。森宮さんが考えてくれたなら、その名前でいいと思うけどな」
……言えない。私、この話聞いてすごく必死にチーム名考えて、思いついたチーム名があるなんてこと……!しかも、超自信があるなんてこと……!
「……で?トウジは?いないみたいだけど」
そう言えば佐原君の姿が見えなかった。
「何も聞いてないけど?」
「私も……」
「全く……。まぁ、トウジはチーム名知ってるし、いいわ。じゃあ発表するわ、私達のチーム名は……」
私達の間に沈黙が流れる。
「……『エレメンタルメモリー』、チームエレメンタルメモリーよ」
「……エレメンタル、メモリー」
私と小沢君は顔を見合わせる。
「……私はいいとおも━━」
「何でこんな名前?いいって言えばいいけど、ちょっと普通な気もするな……」
小沢君……。せっかく森宮さんも考えてくれたんだし、そんな言い方は……。
「……じゃあ、小沢君は何かいい名前はないわけ?」
「えっ、うーんと……ない」
ないのにあんなことを……。
「……だったら、このチーム名にしてくれないかしら?どうしても、このチーム名がいいの。……お願い」
……森宮さんの表情は真剣だった。このチーム名に何か思い入れでもあるのだろうか……?
「私はいいよ。……ってさっきから言ってるし」
「俺も……このチーム名でいいよ」
私も小沢君も、ここまで真剣に頼んで来るなんて思っていなかった。
というよりは、自分の考えたチームの名前にしたいと、押し通すこと自体考えられなかった。
「ありがとう。本当に感謝するわ。さて……」
そこに、佐原君が遅れてやって来た。
「ごめん!遅れたっス!チームの名前の方は決まったっスか?」
「えぇ。……でも、よかった。2人がチームの名前を受け入れてくれて」
……この話しぶり、よっぽどエレメンタルメモリーという名前にこだわる理由があるんだろう。
「早速なんだけど、トウジ。チームの名前は決まったとして……今からどうしようかと思ってるんだけど……」
「要は暇なんスね?」
佐原君、もっと他に言い方ないの……?
「……まぁ、言ってしまえば」
「じゃあ、ファイトするっス。全国目指すなら、日々のファイトは欠かせないっスよ!」
確かにそうか。……でも、そう言えば私、(小沢君もだけど) 大会についての詳細とか聞かされてないな……。
全国を目指すとは言ったけど、どういう道のりでそこまで行くのか、まだ教えて貰ってない。
「佐原君、ちょっと聞きた━━」
「という訳で、ファイトするっス!俺の相手は……そうっスね……小沢君なんかいいっスね~」
……聞く耳持たずと言ったところだ。
「あー俺?俺はパス。……ファイトするんだったら、とりあえず、森宮さんにリベンジだけしておきたいし!」
「私にリベンジ?……いいわよ、相手になるわ!」
2人ともファイトする気満々で、空いているファイトテーブルへと向かった。
「じゃあ、残った俺達でファイトするっスか」
「……じゃあそうしよう」
ファイト終わってからでも、聞けばいいか……。
***
空いているテーブルで、ファイトの準備を整えていく。
手札も引いて、準備完了だ。
「「スタンドアップ!「ザ……」ヴァンガード!!」」
佐原君か……。前に戦った時には負けているからな……、今回は勝ちたい。
「私は、小さな拳士 クロン!(4000)」
佐原君は確かノヴァグラップラー。エシックス・バスターのブレイクライドスキルに、デスアーミー・コスモロードのスキルを連携させて、高パワーでアタックする。
戦いかたは前のファイトでわかってるから、大丈夫だろう。……そう安心していた。佐原君のファーストヴァンガードを見るまでは。
「……そのカードって……」
「ん?」
「ノヴァグラップラーじゃ……ない」
そこにいたのは、リザードソルジャー サイシン(5000) 。そのクランは……なるかみだった。
「俺は、これと言って決まりきったクランはないっス。クランを1つに絞ることも考えてるっスけど……どうもいいクランがなくて」
つまり……佐原君はファイトに合わせてデッキを変えるスタイルを取っていると言うことか……。
だから、1度ファイトして対策を見つけたところで、何の意味もないのか……。
「前に戦ったノヴァグラップラーとは違う戦いかた……見せてやるっスよ!ドロー!ワイバーンガード ガルド(6000)にライド!サイシンは後ろへ、ターンエンド!」
「私のターン、ドロー」
パワーの低いユニット……。前に森宮さんがした作戦をするつもりなのだろうか。
……単にこのユニットしかライド出来なかったようにも思えるけど。
「……解放者フレアメイン・スタリオン(6000)にライド」
と言う私も低いパワーのユニットにしかライド出来ないが。
「クロンは右後ろ。フレアメインで、ガルドをアタック!(6000)」
「ノーガード!」
「ドライブチェック……未来の解放者 リュー」
佐原君のダメージには、ドラゴニック・デスサイズが入った。
「ターンエンド」
シオリ:ダメージ0 トウジ:ダメージ1
「俺のターン、ドロー!魔竜戦鬼 カルラ(9000)にライド!続けて、2体目のカルラ(9000)をリアガードにコール!リアガードのカルラでフレアメインをアタック!(9000)」
「ノーガード。ダメージチェック……孤高の解放者 ガンスロッド」
「サイシンのブースト、カルラでアタック!(14000)」
「……受けるよ」
「ドライブチェック、イエロージェム・カーバンクル。クリティカルトリガーっスね。効果は全てヴァンガードへ。(19000 ☆2)」
いいトリガーの引きだ……。この時点でダメージ3を与えてくるなんて。
「ダメージチェック、光輪の解放者 マルクと……武装の解放者 グイディオン。ゲット!ドロートリガー!!パワーはフレアメイン(11000) そしてドロー」
出来ればヒールを引きたかったが、そんな贅沢言ってられない。
「サイシンのスキル、ブーストしたアタックがヴァンガードにヒットしたことで、CB1と自身のソウルインで、グレード0のリアガード……クロンを退却!」
「……クロンが!」
「そこからカルラのスキルにより、ヴァンガードにアタックがヒットしたら、ダメージを1枚表に出来る!」
CBでリアガードを退却させてから、使ったダメージを表にする……。つまり、差し引き0で、退却したことになる。
「……なかなかだね」
「まだまだ、こんなものじゃないっスよ?さ、シオリさんのターンっスよ」
シオリ:ダメージ3 トウジ:ダメージ1
「私のターン、スタンドアンドドロー。横笛の解放者エスクラド(9000)にライド!さらに王道の解放者ファロン(9000)、未来の解放者リュー(6000)をコール!」
クロンがいたら、スキルでグレード3を手札に加えるなり、ブーストするなり出来たのに……。
「……仕方ない、ファロンでヴァンガードをアタック!スキルで解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(12000)」
「リザードソルジャー リキでガード!」
「リューのブースト、エスクラドでアタック!(15000)ドライブチェック、小さな解放者 マロン」
「ダメージチェック……送り火の抹消者 カストル」
「エスクラドのスキル、CB1でデッキトップのカードをスペリオルコール!……霊薬の解放者!(5000)」
ヒールトリガーをコールしてしまったか……。今はダメージでも負けているし、ヒールは欲しかったけどな……。
「……ターンエンド」
シオリ:ダメージ3(裏1) トウジ:ダメージ2
「よし、俺のターン!スタンドアンドドロー!……じゃあ、この前はスルーされたっスけど、今回はビシッと決めるっスよ!」
この前……あーそうだったね。誰からも相手にされなかったライド口上……。
「全てを打ち砕く!戒めの雷撃!!ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン(11000)にライド!!」
「……ヴァーミリオンか」
「どうっスか!?ライド口上は!?」
「え?よかったと思うけど……」
「……また適当に言ってないっスか?本音っスよね!?」
適当じゃないし、本音だし。私的にはありだったし。……でも、ライド口上にこだわり過ぎじゃないかな?佐原君……。
「ダストプラズマ・ドラゴン(9000)をコール、さらにカルラの後ろにレッドリバー・ドラグーン(8000)をコール!ダストプラズマで、エスクラドをアタック!スキルにより、パワープラス3000!(12000)」
ダストプラズマは、要はファロンの『ヴァーミリオン』バージョン。解放者は簡単にパワーを上げられるが、ヴァーミリオンなどの名称はそうはいかない。
何しろ、解放者は種類がある程度あるのに対して、ヴァーミリオンなどの名称は、グレード3くらいしかいないため、名称指定の効果でパワーをあげてアタックするのは遅くなる。
が、パワー12000は単騎でグレード3を狙えるため、名称デッキには重宝する1枚となる。
「ヨセフスでガード!」
「ヴァーミリオンでヴァンガードへ!(11000)」
ダメージは3。ノーガードでもいいけど……。
「……ここは、希望の解放者エポナでガード!」
ダブルクリティカルなんてのも、考えられるしね……。
「ツインドライブ、1枚目、光弾爆撃のワイバーン。2枚目、魔竜仙女セイオウポ。ここでヒールっスか~!ダメージ回復はないっスけど、パワーはカルラへ(14000)」
無駄ヒールが出てよかった……。トリガーもクリティカルじゃなかった……。なら、
「レッドリバーのブースト、カルラでエスクラドをアタック!(22000)」
「ダメージチェック……ブラスター・ブレード・解放者」
「ターンエンドっス」
シオリ:ダメージ4(裏1) トウジ:ダメージ2
私のダメージは4枚。なら、あれが打てる!
「スタンドアンドドロー!世界の平和を願いし王よ!未来を導く光となれ!ライド・ザ・ヴァンガード!!円卓の解放者 アルフレッド!!(11000)」
でも、ヴァーミリオンって……確か、前列全てをアタックできるスキルがあるんだっけ。
一応ヴァンガード再開して、空いていた期間のカードについては調べてみたから、知らないことはないんだけど……ヴァーミリオンか……手強いな。
「霊薬の解放者の前に、2体目のアルフレッド(11000)をコール。そして、アルフレッドのリミットブレイク!解放者は4体、パワープラス8000!(19000)」
手札的にも、後1体コールする余裕はない。このまま攻めよう!
「ファロンでヴァーミリオンをアタック!スキルで、解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(12000)」
「イエロージェム・カーバンクルでガード!」
「リューのブースト、アルフレッドでヴァーミリオンをアタック!リューのスキルで、解放者のリアガードが4体以上いたら、パワープラス4000!(29000)」
本当は、リュー以外に解放者が3体以上いたら、だけど、こう言っても同じことだと思う。
「ノーガードっス」
「じゃあ、ツインドライブ!1枚目、猛撃の解放者。ゲット!クリティカルトリガー!パワーはリアガードのアルフレッド(16000)、クリティカルはヴァンガードのアルフレッドへ。2枚目、光輪の解放者 マルク」
クリティカルに完全ガード。申し分ない引きだ。
「2ダメージっスか……ヴァーミリオンと、ダストプラズマっスね」
「なら、霊薬の解放者のブースト、アルフレッドでヴァーミリオンをアタック!(21000)」
「ノーガード、ダメージは……オールド・ドラゴンメイジ。ドロートリガーっス!1枚ドローし、パワーはヴァーミリオンへ(16000)」
「ターンエンド」
シオリ:ダメージ4(裏1) トウジ:ダメージ5
「俺のターン、スタンドアンドドロー!」
ドロートリガーを引かれたのは予想外だったかな……?なんて思いながら、私はふと、小沢君達のファイトを見る。
「……これで終わりよ!グローリー・メイルストローム、アタック!そしてアルティメットブレイク!!CB1。これにより、パワープラス5000!グレード1以上でガード出来ないわ!」
「……ダメか!ここまで凌いだのに~!ノーガード!」
決着がついたようだ。勝者は森宮さん。小沢君はまだまだみたいだ。
「あれさえ防げていたらな……」
「でも、前のファイトよりは悪くないわよ。グローリーのアタックを考えてファイトしてたし、強くなって来ているわ」
「……そっか。そう言って貰えると、強くなってる気がするよ。ありがと!」
前言撤回。まだまだなんかじゃないみたいだ。さっきのファイトも、僅差だったみたいだし。
「……あっちのファイトが気になるのもわかるっスけど、今はこっちに集中してくれないっスかね?」
視線を戻すと、佐原君が不機嫌そうに私を見ていた。
「あっ……ごめん!もう大丈夫だから、ファイトに集中するよ!」
「OK、ならファイト再開ってことで、まず手始めに光弾爆撃のワイバーン(6000)をコール!そして……ヴァーミリオンのリミットブレイク!!」
来た……!ヴァーミリオンのリミットブレイク……!!
「CB3、ヴァーミリオンのパワープラス2000し(13000)、1回のアタックで相手の前列全てにアタックするっスよ!」
これが厄介なんだよね……ヴァーミリオンは。でも、コストが大きい分、何回も使えないから助かるんだよね。
「ワイバーンのブースト、ヴァーミリオンで前列全てにアタック!ワイバーンのスキルで、相手のダメージが3枚以上なら、パワープラス4000!(23000)」
「ここは……マルクで、ヴァンガードを完全ガード!コストはマロン、リアガードはノーガード!」
リアガードまでガードしたら、残りのアタックを防げるかわからない。ノーガードがベストな選択だった。
「ツインドライブ、1枚目、毒心のジン。クリティカルっス!効果は全てカルラへ!(14000 ☆2)2枚目、イエロージェム・カーバンクル。またクリティカルっスよ!」
「……えっ!?」
ダブルクリティカル!?何の前触れもなく引いて来たなんて……!
「いい引きっスね~!自分でも驚いたっスよ!効果は全てダストプラズマへ!(14000 ☆2)」
……不味い。私のダメージは4。左右にクリティカルが乗った今、どっちのアタックも防がないといけない。
「ダストプラズマで、アルフレッドをアタック!スキルで、カード名にヴァーミリオンを含むヴァンガードがいるなら、パワープラス3000!(17000 ☆2)」
「……守って!猛撃の解放者!」
「なら、レッドリバーのブースト、カルラで……アルフレッドをアタック!(22000 ☆2)」
私の手札は2枚。エスクラド、ヨセフスの2枚。合計シールド値は10000で、ガードに使ってもパワーが届かない。
後5000、インターセプトでもあれば防げるけど……そのインターセプトは、さっきのヴァーミリオンのアタックで潰された……。
「ノーガード……だね。ダメージチェック、1枚目……フレアメイン・スタリオン」
……惜しかったんだけどな。今回は、この前とはデッキも大きく変わってるし、勝てると思ったんだけどな……。
「……2枚目」
万が一、ここでヒールトリガーを引けたら、まだファイトは続けられる。けど……1枚は既に場に出ている。残り3枚のヒールトリガーを、残りデッキの中から引き当てるのは、かなり難しい話だ。
(ヒールトリガーさえ来てくれたら……!)
『……なら、我らが力を貸そう』
……!?
『まだ戦いたいと思うあなたに、戦いを続ける力を……』
これは、何……?
『諦める場面ではありませんよ!』
……さっきとは、違う声……?
『こんな所で終わらせないですよ!この戦いは!』
また違う声……。さっきから一体……?
トウジやワタル、かと言ってリサでもない。不思議な声が、シオリに話しかけて来る。
こんなにもはっきり聞こえるのに、周りは気づいていないようだった。
その声が繰り返される中、シオリは、自分から波紋のような何かが広がるのを感じる。
(……この感覚は……!?)
その広がりを感じながら、シオリは、不思議とその声が誰のものであるか、わかるようになっていく。
(ゴールドパラディンの……みんな……!?)
『シオリ……』
(この……声、まさか)
聞いたことはない。あるはずがない。カードの声を聞くなんて、アニメのような話だ。
なのに……私を呼ぶその声は……。
(アルフ、レッド……!?)
『君は……1人じゃない……』