つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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さて、今回からクリスマスカップです。作者の構成では、ここからファイトが大半を占めていきます。

例によって、カードは古いですが……がんばります。

それでは、どうぞ。


ride80 雪降る世界の挑戦者たち

ついにこの時がやってきた。12月25日。世間ではクリスマスと呼ばれる日だ。

 

カップルがイチャイチャしながら過ごしたり、友達とパーティーしたり……それはそれは楽しい聖夜だ。雪も降り積もり、ロマンチックな演出に拍車をかけている。

 

けど、私たちは違う。グランドマスターカップ決勝大会。その優先参加権をかけた、絶対に負けられない戦いに臨もうとしている。

 

「来たわね……」

 

「あぁ……」

 

クリスマスカップ。それが、私たちが参加する大会だ。今、私たちは会場であるスタジアムの中にいる。周りには、私たちと同じようにクリスマスカップに参加する人たちの姿が見られ、観客も多い。

 

「やれるだけのことはやった。後は……ぶつけるだけだね」

 

「何だかんだで秋予選も準優勝なんスから、強さには自信持つっスよ。大丈夫!俺たちならやれるっス!」

 

「……うん、そうだね!」

 

この時のためにデッキも強化した。前よりも少しは強くなっている。何より、個人戦だ。4人全員が負けるまでは、チャンスはいくらでもある。

 

「やはり参加していたか、星野シオリ」

 

「あっ、最上君」

 

声のする方を見ると、やっぱり最上君だった。チームメイトの2人は、今日は一緒じゃないみたいだ。

 

「って、ちょっとあんた!何で参加してんスか!?参加権は既に持ってるっスよね!?」

 

「何を言っている。参加権があるからと言って、参加できない規則はなかったはずだが」

 

「それはそうだけど……最上君、あなたが参加するメリットはどこにもないわよ?それに、もし優勝したら、商品だった参加権がなかったことになってしまうわ」

 

「それなら安心しろ、森宮。俺が優勝しても、参加権は準優勝の奴に渡ることになっている。俺はただ、参加したくて参加した……それだけだ」

 

みんなは事情を知らないけど、私は最上君がここにいる理由を知っている。涼野カズヤ君、彼とファイトするためだ。

 

「とか言って、クリスマスに予定がないから参加しただけじゃないのか?1人で過ごすのも、寂しいって理由だろ」

 

「うわ、クリボッチ回避作戦っスか。ワタル君、感がいいっスね~」

 

「……やめないか、お前ら」

 

完全に馬鹿にした物言いに、最上君もちょっと頭に来ているようだった。少し声が震えている。

 

「とにかくだ。俺は今日、目的があってこの大会に参加している。妙な思惑など企ててはいないからな。いいな?」

 

「そうやって強調する奴ほど、変な事考えてたり――」

 

「……もし敵としてファイトすることになれば、覚えていろ。全力でぶっ潰す」

 

うわ、怖いよ最上君……。それはさすがにジョークにならないから……。けど、肝心の佐原君の反応は、

 

「へっ、面白いじゃないっスか。ノスタルジアのあんたに本気でファイトしてもらえるなら、こんなにも嬉しいことはない。俺の目標は、あんたたちノスタルジアに勝つことっスから」

 

「ほう?それは知らなかったな。だからわざわざ怒らせて、やる気にさせようと?」

 

いや、それは絶対に違うと思う。

 

「だが、どちらにせよ今日は負けるつもりはない。お前たちの邪魔をすることにはなってしまうが、上手く組み合わせから外れることを祈ってくれ」

 

「俺は当たってほしいっスけどね」

 

「ちょっとトウジ。あんたの目的も大事かもしれないけど、優先する目的を見失わないでよ?」

 

「わかってるっス。けど……燃えないわけないじゃないっスか。今日は偶然にも、この場にノスタルジアが集結するかもしれないんスから」

 

「集結って……」

 

「ヴェルレーデが来るのか!?」

 

佐原君が何気なく言った言葉に対して、私と最上君も驚きを隠せない。最上君はともかく、私にとっては正体不明の人物だ。その人が出場するとなると、勝ちあがるのも至難の技かもしれない。

 

「前に噂程度に耳に挟んだんスけどね。ビリー・ブレイカーのリーダーであり、ノスタルジアの1人……過去の追憶ヴェルレーデがクリスマスカップに出場する。ある人物とファイトするために」

 

「ある人物?」

 

「涼野サクヤ。あの涼野マサミの娘っスよ」

 

涼野マサミって……あの人と関係しているなら、それは噂でも何でもなく、本物のヴェルレーデで間違いないだろう。ノスタルジアである以上、あの人とはかかわりを嫌でも持ってしまっているからね。

 

「……なるほど。それは本当かもしれないな。ヴェルレーデは、涼野サクヤとは少し因縁を持つ関係だし、確実にこの場にいるはずだ」

 

「ノスタルジアのお墨付きなら、期待してもいいって事っスね?うぉ~!マジで燃えてきたっスよ~!!」

 

「トウジ……」

 

何にせよ、佐原君もやる気みたいだ。私たちも佐原君に負けないように、やる気全開で行かないとね。最上君だっているし、シュンキ君たちだっている。それに、ヴェルレーデだって……。

 

「……そう言えば、最上君」

 

「ん?どうした?」

 

「ヴェルレーデの正体って、誰なの?」

 

単純に気になった。まだ私はヴェルレーデの事を全く知らない。歳も、性別も、何のクランを使うかも。

 

そもそも、ヴェルレーデとはいったい誰なのか。名前を聞いても絶対に知らないだろうけど、好奇心から出た質問だった。

 

「そうか。星野は奴の事を知らないんだったな」

 

「うん……。だから、気になって。教えてくれないかな?」

 

「そうだな。関係ない奴らもいるが……まぁ、俺たちの事を知っている以上、もう隠していても仕方ないか」

 

3分の2がばれているんだしね……。もう今更って感じがするよ。

 

「ちょ、ちょっと待つっス!俺は反対するっスよ!」

 

「「え?」」

 

と、そこで止めたのは意外にも佐原君だった。どうして止める必要があるのか。しかも佐原君は、ノスタルジアを狙っているのに、相手の情報を得たいとは思わないのか。

 

「だって、嫌じゃないっスか!今までだって、伝説だとか騒いでいたくせに、蓋を開けたらすぐそこにノスタルジアがいたって展開だったじゃないっスか!どうせ3人目も、俺たちの知ってる人っスよ!」

 

「いや、その可能性は低いって……。ね、最上君?」

 

「あぁ。お前らとあいつの面識があるかはわからないが、恐らく知らないとは思う」

 

「んなこと言ったって、万が一ってこともあるっスよ!知ってる奴なら、伝説感がなくなってしまうじゃないっスか!」

 

あぁ、そうか。佐原君、前に私にも言ってたよね……。ノスタルジアの1人、ロメリアとしてではなく、チームメイトの星野シオリとしてしか見ることができないって。だから、ファイトを挑む気にはなれないんだって。

 

最上君も、きっと同じような理由なんだろう。伝説と言うくらいだから、もっと自分の手の届かない世界にいるような、高貴な人物を思い描いていたんだろう。で、実際には知り合いだったと。

 

そうならないとは、私も断言はできないよね……。

 

「わ、わかった。なら、後で星野にだけ教えよう。それで構わないな?」

 

「それでOKっス。物分かりがよくて助かるっスよ」

 

どうして上から目線なのさ……。まぁ、とにかく私の質問はお預けになったってことだ。少し残念に思いながら、ちょっとじれったい気持ちになっていると……。

 

『みなさん!大変お待たせいたしました!開始時間となりましたので、これよりクリスマスカップを開催したいと思います!』

 

スポットライトがステージに当たり、司会者の男性を照らす。観客からの歓声も響き渡り、ついに始まったのだと実感する。

 

『では、大会責任者の涼野マサミさんに、簡単なお言葉をいただきましょう!』

 

「涼野マサミさん……」

 

前に会った時に見た、彼女の本性。壇上に出てきた彼女の姿を見て、私はつい思い出してしまう。表向きは普通の大人な女性なんだけどな。

 

司会者からマイクを受け取り、涼野さんはステージの中央へ。それに合わせて照明も動き、涼野さんを照らし出す。マイクの確認をして、周囲に視線を送った後、涼野さんは話し出した。

 

『みなさん、まずはお礼を言わせてください。今日は参加していただき、本当にありがとうございます』

 

深々と頭を下げる涼野さんの姿に、拍手が送られる。こうして見ると、本当に誠実そうな女性にしか見えない。なのに、裏ではあんなことを考えていると思うと……。

 

「…………」

 

「冷静になれ。憤るのもわかるが、今は何か行動を起こしたわけでもない。語るだけなら、善でも悪でも自由な話だ」

 

「最上君……そうだね」

 

最上君の言葉で落ち着いた私は、気を取り直して壇上の涼野さんに目を向ける。

 

『正直、参加してもらえるかどうか不安ではありました。不測の事態を埋める大会とは言え、何せクリスマスです。楽しさとはかけ離れた戦いの場に身を投じていただける人は、いないかもしれないと思っていました……』

 

そうだよね。優勝賞品が違うものだったら、多分参加者も目に見えて少なかっただろうし……。

 

『ですが安心しました。こんなにも多くの人に集まってもらい、私も嬉しく思います。そして、そんな今日と言う日が、みなさんにとって良い物であったと言える日になることを……私は願っています。以上です』

 

涼野さんの話は終わり、ステージから去っていく。マイクも司会者の手に戻り、照明も司会者に当てられる。

 

『ありがとうございました!では続いて、ルール説明に移りたいと思います!』

 

今回は個人戦。予選の時は団体戦だったし、ルールも大きく違ってくるはずだ。ここはしっかりと聞いておかないと。

 

『このクリスマスカップは、個人戦によるトーナメント形式で行われます。負けたら即敗退。敗者復活戦のようなチャンスも一切ありません』

 

「うわ、厳しいっスね。まさに自分の腕だけ頼りって事じゃないっスか」

 

「あぁ。一瞬でも気は抜けない。心して挑まないとな」

 

『参加者は、4つのブロックに分かれます。そのブロックごとにトーナメントを行い、各ブロックの優勝者を1人決めてもらいます』

 

参加者も多いからね。1つのブロックでトーナメントなんてしてたら、みんな集中力が持たないだろう。

 

『計4つのブロックで、優勝者が4人。その人たちで決勝トーナメントを行い、勝った1人が優勝となります』

 

「つまり、予選トーナメントが4つのブロックで行われて、そこから決勝トーナメントに。勝った人が優勝って事ね」

 

「だったら、まずは予選トーナメントを突破しないと。上手くいけば、最上君とは違うブロックになるかもしれないし」

 

「……人をのけ者みたいに言うな」

 

「いやいや、あんた一番邪魔っスからね!?」

 

だとしても、きっと決勝の方に残ってくるんだろうけど……。

 

「だが、4つのブロックに分かれるってことは……」

 

「俺たちも違うブロックに当たるって事かもしれないっスね。同士討ちなんて最悪な話だけは勘弁してほしいっスからね」

 

「ちょ、縁起でもないこと言わないでよ。自分の手で味方を蹴落としてまで勝つなんて、嫌に決まってるわ」

 

「あ、あくまで可能性を言っただけっスよ……」

 

でも、起こらないとは言い切れない。トーナメントの組み合わせが発表されないと、何とも言えないから。もしかしたら、全員が同じブロックにいることだってありえるんだから。

 

『以上でルール説明は終わりです。質問等がある方は、ステージ上に常設されている本部までお越しください。続けて、トーナメント表を発表します』

 

ステージ上と、スタジアム内の数ヶ所にトーナメント表が掲示される。ステージ上の物は、スクリーンに投影して見せている。

 

「おっ、来たっスね。お待ちかねの組み合わせタイム!」

 

「みんな違うブロックだといいんだけど……」

 

「最上ナツキとも、ね」

 

「……寄ってたかって、俺で遊ぶのは止めろ」

 

私は関係ないからね……?

 

「まぁいい。次に会う時は観客席か、ファイトの舞台だ。俺は自分のブロックを探しに行く。この人では、まともに動けないからな」

 

私たちも近くのトーナメント表を見に行きたいけど、上手く進めない。ここは私たちを離れ、単独行動を選んだようだ。

 

「できれば会いたいっスね。ファイトの舞台で」

 

「俺は会いたくないな」

 

「……小沢。それに佐原と森宮、後で覚えてろよ」

 

「「何でこっちまで!?」」

 

あ~あ、怒らせた。本当に同じブロックになったら、みんな大変だな……。

 

「とにかく、トーナメント表見に行こうよ。この人混みから早く抜けた……うわっ!」

 

「大丈夫っスか、シオリ……って、痛ぇ!?足踏まれたっスよ!?」

 

秋予選で悔しい思いをした人たちが集まってるんだ。参加者の数なんて、前の比じゃない。この場にいるのは、二次被害をもたらす危険がある。

 

「早く行きましょう。多少押しのけてでも、トーナメントだけ確認しないと!」

 

「そんな乱暴するわけにもいかないだろ……。いてっ……おっと、すみません」

 

「こちらこそ、ごめんなさい……って、あれ?」

 

「ん?あっ、お前は確か……」

 

小沢君?誰かと話しているみたいだけど……?

 

「あなたは確か、野沢菜みたいな名前の人ですよね?」

 

「野沢菜!?小沢だよ!そんな間違い方されたの、初めてだな!?」

 

「この天然は……立花さん?」

 

「あっ、星野さん!」

 

間違いなく、立花さんだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その後、私たちは何とかトーナメント表を確認。佐原君はCブロック。小沢君はDブロック。私と森宮さんはAブロックだった。

そして最上君はBブロック。立花さんはCブロックとなり、見事に均等に分かれる結果となった。

 

「にしてもよかったっスよ。同士討ちが起こりそうになくて」

 

「起こったとしても、星野さんと森宮さんくらいですね」

 

「「それは……」」

 

仲間同士でファイトするのは、気が引ける。全員バラバラがよかったけど、そうはいかないみたいだね……。

 

「後は、最上ナツキと違うブロックだったのが幸いだな。これで勝ち残れる可能性が上がったんじゃないのか?」

 

「そうね。けど、Bブロックは間違いなく制するでしょうね。そうなれば、結局はファイトを先送りにしているだけとも言えるわ」

 

最悪、決勝トーナメントの決勝で当たれば、負けても参加権はこちらに来る。それが、私たちの可能性なのかな……?勝つのはやっぱり、難しそうだし。

 

「さて、今日はやっと立花さんのデッキが見られる日っスね。さすがに忘れてはいないはず!」

 

「もちろんですよ!デッキだってここに……あ、あれ?」

 

え、ちょっと待って。まさか、ここに来てまたそんなボケを発動するのか。

 

「……な~んて、冗談ですよ。ちゃんとあります」

 

「紛らわしいんスよ!あんた、前科あるんスからね!?」

 

立花さんがデッキケース持っているところ、初めて見たかもしれない。無地の白色のケースで、とても可愛らしかった。

 

……所々に見える傷と、至る所が茶色く変色してるのを除けば。

 

「アハハ、ごめんなさい。じゃあ私、そろそろ行きます。ともだ……っ、知り合いを待たせているので」

 

「あ、うん。じゃあ、また会った時にね」

 

「はい!楽しみにしてます!」

 

そう言って立ち去っていく立花さんの姿から、私は目が離せずにいた。いい意味で使い古された、悪く言えばボロボロのデッキケース。それも、普通の汚れ方とは違ったケース。

 

あれは、土の汚れだ。

 

そして立花さんは、別れ際に友達と上手く言えなかった。ためらう事でもないのに、何故か知り合いと言い直した。そこに隠されているものは何なのか。

 

「…………」

 

もしかしたら、彼女は……。

 

「どうしたんスか?立花さんの事、じーっと見てたっスけど」

 

「それは……ううん。何でもないよ」

 

佐原君に呼ばれて目を離した隙に、立花さんの姿はなくなっていた。私はこれ以上考えるのを止め、みんなの方に向き直る。

 

「さて……そろそろ始まるわよ。この大会もMFSを使って行われるけど、そのセッティングも済んでるはずだわ」

 

「おっ!今日もMFSっスか!またあのファイトができるなんて、感激っスよ!」

 

「浮かれるのもわかるけど、目的を見失うなよ?」

 

「わかってるっス!」

 

その時、アナウンスが流れる。そして、ここに入る前の受付で貰ったバックルが、緑に光る。この辺りは秋予選の時と何も変わらない。

 

「……いよいよだね」

 

「あぁ。始まったんだ」

 

「今日は敵同士よ。けど、向かう場所は同じ。その事は忘れないで」

 

すると、森宮さんは左手で首から下げたペンダントを握りしめ、右手を突き出し、

 

「今度こそ全国に行くわよ!あの時受けた敗北は、今この瞬間につながってる!あの時とは違う私たちで、絶対に優勝しましょう!!」

 

「「「おぉっ!!」」」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

こうして、クリス明日カップは始まった。ファイターたちが火花を散らし、MFSに移されるユニットが激突する。

 

「波は連なる流れを乗せて!全てを飲み込み……押し寄せる!!ブレイクライド!蒼波竜 テトラドライブ・ドラゴン!!」

 

海中に現れる、2門の大砲を持った蒼い竜。相手のユニットたちは、思わず動きを止めて呆然としている。もちろん、実際に海中でファイトしているわけではない。

 

「ブレイクライドスキル!テトラドライブにパワープラス10000!さらにスキルを与えるわ!」

 

「くっ……!」

 

「タイダル単体でアタック!……けど、パワーが足りないからアタックはヒットしない。でもここで、タイダルのスキル!パワーマイナス5000してスタンド!」

 

タイダル・アサルトが手に持つ剣で斬りかかっていくが、相手には全く通じていない。が、タイダルは十分に役目を果たした。

 

「テトラドライブでアタック!このアタックは2回目、よってリミットブレイク発動!リアガードが4回目のアタックを終えた時、テトラドライブをスタンドするスキルを与える!」

 

テトラドライブに光が灯り、雄叫びを上げる。だが、まだ終わってはいない。

 

「ここでブレイクライドスキル!あなたは手札1枚を捨てないとガードできない!捨てないなら、クリティカルも増える!」

 

サークル状の光が、テトラドライブの前に一瞬だけ、回りながら出現する。それを合図にするように、背中の砲門を相手に向ける。

 

「ここをガードしても、またテトラドライブはスタンドする……。そうなったら、そっちはガードできない……!」

 

相手は手札1枚を捨ててノーガードする。ヒールトリガーに賭けたのだろうが、テトラドライブの咆哮が相手を飲み込んだ後には……何も残らなかった。

 

「勝者、森宮リサ!」

 

危なげなく勝利する。一方、その隣のMFSでは……。

 

「光を切り裂き、闇が渦巻く……混沌なき世界を生み出す、破滅を刻む刃をかざせ!ブレイクライド!星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン!!」

 

闘技場の上空、晴天の中に生まれた裂け目から、禍々しい大鎌を持った竜がゆっくりと降りてくる。

 

「ブレイクライドスキル!相手の前列と後列のリアガードを1体ずつ選んで……ロック。さらにカオスブレイカーのスキル!CB1、手札の星輝兵1枚を捨て、追加で……ロック」

 

カオスブレイカーから放たれた3つの黒輪が、相手リアガードを絡め捕り、動きを封じていく。言うところ、V字ロックした状態だ。

 

「これでインターセプトは使えない!行くっス!カオスブレイカーでアタック!」

 

「ダメだ、ノーガード……っ!」

 

無防備な相手に、手に持つ鎌を一閃。相手は6ダメージを受け、ヴァンガードは光となって消えていった。

 

「勝者、佐原トウジ!」

 

「っしゃ~い!いい調子っスよ!」

 

みんな幸先のいいスタートだ。その様子を、私と小沢君は観客席から見ていた。

 

「さすがに負けてはいないな」

 

「そんなに簡単に負けることはないよ。それは小沢君だってわかってるでしょ?」

 

「……まぁな」

 

この日のために頑張ってきたんだ。準備だって、しっかりしてきている。

 

「ん、あっちはBブロックか。今やってるファイトは……」

 

「最上君のファイトだ!」

 

しかもファイト終盤。MFSを見る限り、今から最上君のターンらしい。

 

「竜の息吹は時を超え、受け継ぐ想いは常に変わらず!ブレイクライド・ザ・ヴァンガード!撃退者 レイジングフォーム・ドラゴン!!」

 

「げぇっ!?レイジングフォームかよ!?」

 

「ブレイクライドスキル。CB1、レイジングにパワープラス10000!デッキから黒衣の撃退者 タルトゥをコールし、パワープラス5000!」

 

とは言え、最上君の手札はなくなっている。つまり、ドローで引き当てたのか。これは相手の絶望感も計り知れないだろう。

 

「タルトゥのスキル。CB2でデッキから撃退者 ダークボンド・トランぺッターをスペリオルコール。ダークボンドのスキル。CB1でデッキから魁の撃退者 クローダスをスペリオルコールだ」

 

ユニット同士の連鎖。けど、まだ続く。

 

「コールしたクローダスのスキル。CB1、自身をソウルに置き……デッキからブラスター・ダーク・撃退者をスペリオルコール!」

 

カウンターブラストをフルに使って、リアガードをそろえてきた。パワーの面も、苦にはならない程度だ。

 

「ダークでリアガードにアタック」

 

「インターセプト封じか。ノーガード!」

 

「ダークボンドのブースト、タルトゥでヴァンガードだ」

 

「ガードするぜ!」

 

遺跡の中を、ダークとタルトゥが駆ける。ダークはリアガードを、タルトゥはガーディアンを斬り捨てていく。

 

「レイジングフォーム、行け!」

 

「いくらブレイクライドでパワーを上げていようが……完全ガードだ!」

 

レイジングの放った咆哮は、直前で防がれてしまう。してやったりの表情で、相手は次のターンまで回ってくることを確信しているようだった。

 

けど、レイジングフォームのアタックを最後にしたということは、多分……。

 

「ツインドライブ。ファーストチェック、撃退者 エアレイド・ドラゴン。クリティカルトリガーだが……一応、効果はヴァンガードへ」

 

「よっしゃ!先にレイジングフォームでアタックされていたら、トリガー乗ったリアガードのアタックは止められなかったぜ!」

 

「そうか……セカンドチェック、撃退者 レイジングフォーム・ドラゴンだ」

 

「ってちょっと待てよ!?このドンピシャでレイジングフォームを引きやがっただと!?」

 

あ、やっぱりか。

 

「アタックはヒットしなかったが……レイジングフォームのリミットブレイク!ダーク、タルトゥ、ダークボンドを退却させ、手札のレイジングフォーム・ドラゴンを……スペリオルペルソナライド・ザ・ヴァンガード!!」

 

「くっそぉ……!」

 

さっきの相手の発言を考えると、もうこのアタックは止められないだろう。

 

「レイジングフォームで……アタック!」

 

「こうなりゃ、仕方ない!ノーガード!!」

 

ダメージに6枚のカードが並び、MFSは停止していく。それはすなわち……。

 

「勝者、最上ナツキ!」

 

「やっぱり強いな、奴は」

 

「そうだね……」

 

デッキを片付け、最上君は早々に去っていく。さすがは秋予選の優勝者。レベルも違うし、前よりもプレイングに磨きがかかっている気がする。

 

「でも、負けないよ。決勝で最上君と当たることになっても、今度こそ勝つ。リベンジしないとね」

 

「その意気だな、星野。……おっ、星野のバックル、光ってるぞ」

 

ファイトを知らせる合図として、バックルが緑に光る。次は私のファイトみたいだ。

 

「さて……ここからだね」

 

「あぁ。いきなり負けるなんて許さないからな」

 

「わかってる。それに、今日は解放者に戻してる。デッキも良好だし、新しい切り札も入ってるからね」

 

みんなに続かないと。私はデッキを片手に立ち上がる。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「おう、頑張ってこい」

 

小沢君の元を離れ、すぐさまMFSの場所に向かう。着いた時には、既に相手のファイターもいた。

 

「おっ、あんたが俺の相手か」

 

「はい。星野シオリと言います」

 

「へぇ、礼儀正しいな。俺はそう言うの、嫌いじゃないよ。俺の名前は藤宮ヒロシ。よろしくな」

 

口調は軽いけど、悪い印象は見受けられない。私よりも歳は上の、頼りになりそうな男性だった。

 

「ま、ここにはグランドマスターカップ目当てで来てるんだろうけど、それ以前に今は、ファイトを楽しむ場だ。固苦しいのは抜きで、楽しむ気持ちを忘れずにやっていこうな」

 

「藤宮さん……」

 

「ヒロシで構わないぜ、シオリさん」

 

「……わかりました、ヒロシさん。お互い、全力で楽しみましょう!」

 

こういう人、私も嫌いじゃない。MFSが起動して、私たちは笑顔でデッキを置く。

 

「よ~し、行くぞシオリさん!」

 

「はい!」

 

「「スタンドアップ!「ザ……」ヴァンガード!!」」

 


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