来年もできる限り進めていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。行けたら双闘までは行きたいな……。
あ、年明けには新しい小説も投稿するので、そちらも見ていただけると嬉しいです。プロローグ的な短編にお気に入り登録して下さった皆さんは、本当にありがとうございます。
では、どうぞ。
「かげろうの方が負けたね」
「ファイト自体は見ごたえあったんだけどな。ま、ざまぁ見ろってな」
「秋予選の時も悪評しかなかったんでしょ?シオリから聞いたよ」
「そうみたいだね。……できれば、ファイトはしたくないかな」
最低限のマナーは守ってほしいと思う。シオリたちとは離れた場所でファイトを見ていたシュンキたちは、ゲンタの横暴な態度に不快感を抱いていた。ここで敗退だし、もう会うことはないだろうからよかったが。
「……おっとシュンキ、そろそろ時間みたいだ。ファイト行ってくるぜ!」
「私もファイトみたい。ちょっと行ってくるね」
「わかった。2人共、負けないでよ?」
「「もちろん!」」
まぁ、こうは言ったけど、あの2人なら負けることはないだろう。よほどの事がない限りは。2人の後ろ姿を見送りながら、シュンキはMFSに目を向ける。
「さて、まだファイトも先だし……応援させてもらうよ」
***
「よっしゃぁ!あのなるかみ使い、負けたっスよ!」
「かげろう使いだろうが……」
何はともあれ、破滅の翼の1人はいなくなった。残りは2人。もしかしたら、ファイトするかもしれないんだよね……。
「でも、あの対戦相手もなかなかよ。ロイヤルパラディンの展開力をうまく使いこなしているわ。攻撃重視で、リカバリーも早い。相手に回すと厄介かもしれないわね」
確かに、あの人は強かった。秋予選にはいなかったけど……かなりの実力者だ。低いグレードのユニットを多用し、速攻でリードを保つ。質よりも量で押す。シンプルだけど、それをものにするのは簡単ではない。
「さて、まだ出番もないっスけど……って、あいつは!?」
「何よトウジ……っ!?あの男は!?」
驚くのも無理はない。新たに起動したMFSにいたのは、先ほど少女を助けた時にコウセイと呼ばれていた男子……。休む間もなく出てくるのか。私たちがファイトするわけじゃないんだけどさ。
けど、もう1人……黒瀬ダイキも、そこにはいた。別のMFSを起動させ、明らかに苛立った様子でデッキをシャッフルしている。ここに来て破滅の翼のオンパレードだ。
「ここで2人が出てきたってことは、まだ勝ち残ってはいるんスね……」
「問題は対戦相手だが……なっ、あいつらは!?」
小沢君の反応が気になり、私も対戦相手を見る。そこにいたのは、この4人も見知った顔。つい1ヶ月ほど前にもあったばかりの人物だった。
「シオリさんの中学の友達の……広瀬さんと桃山さん、だったわね」
「あいつらもこの大会に出ているのか……!」
「へぇ?桃山さんはともかく、広瀬君はファイトするところを見るのは初めてっスね。クランも知らないし、注目っスよ」
「呑気な事言ってる場合かよ。おい星野。あいつら、大丈夫なのか?2人の実力はまだよく知らないが、向こうの強さは確かだぞ」
簡単に勝てる相手ではなかったからね。それも、相手はリンクジョーカー。こちらの動きを縛り、その隙をつくのが得意なクランだ。
その上で、相手の揺さぶりもある。ただファイトするだけじゃなく、心理戦にまでもつれ込む可能性は十分ある。
でもね……。
「大丈夫。あの2人なら」
わかってる。ハヤト君とヒナが、そう簡単に負けるようなファイターじゃないってことは。
「2人の実力は知ってる。あんな人たちに負けるような生半可な強さじゃない。見てたらわかるよ」
みんなにとってもちょうどいいかもしれない。ハヤト君は知らないけど、ヒナは負けている姿しか見たことがないはずだ。
きっと勝つ。そう信じて、私は2台のMFSに意識を向けた。
***
「あんたが俺の相手か。よろしく!」
「あぁ」
ハヤトの相手は、武本コウセイ。前にリサが苦しめられた相手だ。
「勝つか負けるか……いいな、個人戦は」
「ん?」
「1人だけの力で抗うしかない。そこには誰の力も働かない。自分の力がどれほど弱いものか、嫌でも知らされる孤独の戦場だ。その絶望を、俺が教えてやる」
「……何だそれ。1人に見えて1人じゃねぇよ?後ろには、俺の勝利を信じてる仲間がいるからな」
今も観客席から見ているシュンキ。俺と同じようにファイトしようとしているヒナ。そして、どこかで見ているはずのシオリ。支えてくれる仲間は、無数にいるんだ。
「……ふっ、前にも同じようなことを言われたな。秋予選の時だったか」
思いのほか、感傷に浸ってやがるな……。もう少し言い返してくるのかと身構えていたんだけどな。安心した。
……直後の言葉を聞くまでは。
「だが仲間など、所詮支えに過ぎない。人は支えを失った時、脆く崩れる生き物だ。俺がこのファイトで……孤独の境地、絶望へといざなってやろう」
「……そうかよ」
言ってはいけない言葉だったな。孤独だと?絶望だと?あんたは、それがどういう意味なのかわかって言っているのか?
真の孤独とは一体何なのか、本当に知っているのか……?
「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」
腹は決まったぜ。こいつは、絶対に倒す。俺のヴァンガードでな!
***
そして残ったヒナとダイキ。この両者が、今からファイトを繰り広げることになる。
「あなたが私の対戦相手だね。よろしくね!」
「…………」
あ、あれ無視?私、こう言うのすぐにメンタルやられちゃうからな~……。
「おい女。そんな慣れ合いなんかするだけ時間の無駄だ。さっさと始めるぞ」
「時間の無駄って……」
「俺には潰さねぇといけない奴がいるんだよ。あの時もそうだが、さっきも俺たちの邪魔をしやがって……!」
何だか事情はよく分からないが、何か因縁があるのはわかった。けど、それを公共の場にまで持ち込んで、無関係の人を巻き込まないでほしい。
「それって、遠回しに勝利宣言って事?」
「宣言も何も、やるだけ無駄だって言ってんだよ。早いとこ俺に勝ちを譲れ。あの時の屈辱を晴らすためだけに、俺はここにいるんだよ!」
MFSを叩きつけ、明らかに苛立っている。私の事なんか、お構いなしって感じだね。でも、
「……誰の事かはわからないけど、やるだけ無駄だってところは黙って聞き逃すわけにはいかないかな!」
「強気だな。やるだけ無駄だが……仕方ない。俺がお前に、どんな努力も無駄だってところを教えてやるよ!」
「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」
ファイトスタート。舞台は……おっ、サーカス会場だ。こっちのクランに合わせてくれたのかな?
「星輝兵 ダストテイル・ユニコーン!(5000)」
「銀の茨のお手伝い イオネラ!(5000)」
あれだけ大口叩いたんだ。実力だってあると思う。でも、私にだって負けられない理由はあるからね!
「さっさと始めるぞ。ドロー、魔弾の星輝兵 ネオン(7000)にライド!ダストテイルは左後ろへ。ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!銀の茨のお手伝い イリナ(7000)にライド!イオネラは後ろに移動して、イリナのスキル!デッキの上から2枚見て……1枚ソウルに。残りはデッキの下に」
銀の茨の竜女帝 ルキエ“Я”をソウルに入れ、序盤からソウルを増やしていく。後々の下準備だ。
「イオネラのブースト、イリナでアタック!(12000)」
「ノーガードだ。早く進めろ」
「……ドライブチェック、銀の茨の催眠術師 リディア」
ネオンが光線銃を撃ち反抗するが、イオネラがイリナをかばう形で前に出る。その隙にイリナが後ろに回り込み、手刀を入れる。
「ダメージは獄門の星輝兵 バラジウム」
「イオネラのスキル!ブーストしたアタックがヴァンガードにヒットした時、デッキの上から2枚見て……1枚ソウルに。残りはデッキの下に。ターンエンド」
ヒナ:ダメージ0 ダイキ:ダメージ1
「俺のターン、ドロー。星輝兵 コロニーメイカー(9000)にライド!無双の星輝兵 ラドン(9000)をコールし、さらにダストテイルを前列に移動。その後ろに魔爪の星輝兵 ランタン(7000)をコールだ」
一気にリアガードを展開し、早いうちからダメージを与える作戦だね。言うならば……速攻。
「コロニーメイカーでアタック!(9000)」
「ここはポイゾン・ジャグラーでガード!」
「ちっ、ドライブチェック、星輝兵 メテオライガー。クリティカルトリガー!効果は全てラドンへ!(14000 ☆2)」
ガードには成功したけど、クリティカルトリガーを引かれちゃったか。下手にノーガードして、後でガードしづらくなるよりはよかったけど。
「ランタンのブースト、ダストテイル!(12000)」
「ここはノーガード!ダメージは……銀の茨の獣使い マリチカ」
「次はラドンだ!星輝兵のヴァンガードがいる事で、パワープラス3000!(17000 ☆2)」
「……ここもノーガードだね」
ガードしたいけど、使える手札が限られる。そこまでしてまで防いでも、次のターンからの動きがかなり制限されてしまう。今は我慢だ。
「ダメージチェック、1枚目……銀の茨 ライジング・ドラゴン。2枚目……銀の茨の竜女帝 ルキエ“Я”」
「後3ダメージだな。降参するなら今のうちだ。その方が俺も無駄なファイトをせずに済む」
「降参なんてしないよ!『まだ』3ダメージじゃん」
「言ってろ。ターンエンドだ」
ヒナ:ダメージ3 ダイキ:ダメージ1
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
むっか~!何なのあいつ!?やるだけ無駄とか、やってみないとわかんないじゃん!
と……落ち着け私。そうやって冷静さを欠いたら、勝てるファイトも勝てない。後でシュンキ君やハヤト君に笑われちゃうからね。
「銀の茨の操り人形 りりあん(10000)にライド!2体目のりりあん(10000)と、銀の茨 ブリージング・ドラゴン(7000)をコール!」
向こうも展開しているなら、こっちもリアガードを展開して攻める。守ってばかりじゃ勝てないもんね!
「リアガードのりりあんで、ラドンにアタック!(10000)」
「ラドンか……ノーガード」
「イオネラのブースト、ヴァンガードのりりあんでコロニーメイカーにアタック!(15000) ドライブチェック、銀の茨のお手伝い イリナ」
不規則な動きで接近したりりあんが、ぎこちなく剣を振り下ろす。動作を見極めることのできないラドンとコロニーメイカーは、その刃を深く体に刻み付けられてしまう。
「ダメージチェック、星輝兵 ネビュラキャプター。ドロートリガー!1枚ドローして、パワーをコロニーメイカーへ(14000) これではアタックするだけ無駄だな?」
「さっきから無駄無駄って、しつこいよ!ブリージングはダストテイルにアタック!銀の茨を含むヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(10000)」
「ふん、リアガードを潰すことしかできないか。ノーガード」
この人は……いちいち私の事を煽らないと気が済まないの!?
「ターンエンド!」
ヒナ:ダメージ3 ダイキ:ダメージ2
「俺のターン、スタンドアンドドロー。ライド、星輝兵 インフィニットゼロ・ドラゴン!(11000)」
淡々とファイトを進めるな……。そう思っている間にも、彼は着実に攻撃の準備を整えている。
「凶爪の星輝兵 ニオブ(9000)をコールし、インフィニットゼロでアタック!スキルでパワープラス2000!(13000)」
「ノーガード!」
「ツインドライブ!1枚目、魔爪の星輝兵 ランタン。2枚目、星輝兵 メテオライガー。クリティカルトリガー!クリティカルはインフィニットゼロ(13000 ☆2) パワーはニオブへ!(14000)」
インフィニットの口から放たれた光線が、サーカスのステージを吹き飛ばしながらりりあんに迫る。膨大な熱量を避けきれずに、りりあんはその体を焦がしていく。
「ここでクリティカルを……ダメージチェック、1枚目!銀の茨のお手玉師 ナディア。ヒールトリガー!ダメージを1枚回復して、パワーをヴァンガードのりりあんへ!(15000)」
すかさずナディアが回復に回り、りりあんの傷を癒す。操り人形だからか、終始無表情だったが。
「回復したくらいでいい気になるな。まだ1ダメージ残っているだろ」
「わかってるよ、うるさいな~!2枚目!銀の茨 バーキング・ドラゴン。おっ、いい感じかな。クリティカルトリガー!効果は全てヴァンガードへ!(20000 ☆2)」
けど、後1回しかアタックがないのに、このトリガーは不発に近かったかな……?
「イオネラのスキルで、再びデッキの上2枚を見て、1枚をソウルに。もう1枚をデッキの下に」
「ランタンのブースト、ニオブでヴァンガードにアタック!(21000)」
「……?イリナでガード!」
「ちっ、だが後2ダメージ……ターンエンドだ」
ヒナ:ダメージ4 ダイキ:ダメージ2
「私のターン、スタンドアンドドロー。……ねぇ」
「何だ。無駄話ならするな」
「……あなたは一体、どこを見ているの?」
彼も困惑しているようだったけど、私は聞かずにはいられなかった。
だっておかしいでしょ?どう見ても勝ちを急いでるんだもん。今の場面も、無理にヴァンガードを狙っていた。あそこはリアガードを狙うのがベストな判断のはずなのに。
けど、私の質問に対して何も返答がない。一方的に話しているだけだ。仕方なく、私はターンを進める。
「弾ける奇跡、溢れる魅力!ショーの開幕を今告げよう!ライド!ミラクルポップ エヴァ!!(11000)」
ファイトをしているようでしていない……それが、私の感じた気持ち。だとしたら、このファイトには……。
「ブリージング・ドラゴンを後ろへ。そしてコール!銀の茨の獣使い マリチカ!(9000) りりあんでニオブにアタック!(10000)」
「ネオンでガード」
「イオネラのブーストしたエヴァ!スキルでSC1して、パワープラス10000!(17000)」
よし、パープル・トラピージストがソウルに入った。さらにソウルの質が良くなっていく。
「ふん……ノーガード」
「ツインドライブ!1枚目、銀の茨 バーキング・ドラゴン。クリティカルトリガー!パワーはマリチカ(14000) クリティカルはエヴァへ!(17000 ☆2) 2枚目、パープル・トラピージスト」
りりあんはネオンにガードされるが、エヴァはステージの地形を上手く使い、上空から魔力を浴びせる。
「くっ……ダメージチェック、1枚目、障壁の星輝兵 プロメチウム。2枚目、星輝兵 ネビュラロード・ドラゴン」
「イオネラのスキル!ブーストしたアタックヒットで、デッキの上から2枚見て、1枚ソウル。もう1枚はデッキの下!」
銀の茨の獣使い アナがソウルに入る。それに、これでダメージは追いついた。でも、まだアタックは残っているからね!
「ブリージングのブースト、マリチカでヴァンガードにアタック!(21000)」
「……ノーガード。ダメージチェック、星輝兵 ヴァイス・ソルダード。クリティカルトリガー!効果はインフィニットゼロだ!(16000 ☆2)」
「く……けど、まだ私のターンは終わらないよ!マリチカのスキル!アタックがヴァンガードにヒットしたことで、CB1で、ソウルからパープル・トラピージスト(6000)をりりあんの後ろにスペリオルコール!」
コールされたユニットはスタンド状態。追撃が可能になる。でも、この効果でコールされたユニットは、ターンが終わればソウルに戻ってしまう。
「さらにトラピージストのスキル!コールされた時、りりあんをソウルに入れて、りりあん(10000)を再コールするよ!」
ソウルを経由してコールし直すことで、再びりりあんはスタンド状態となる。後ろのトラピージストは当然スタンド状態だから、ブースト込みのアタックができるけど……。
「トラピージストのブースト、りりあんでニオブにアタック!(16000)」
まぁ、さっきの彼のようなプレイングはしないよね。
「メテオライガーでガード!」
「ターンエンド。トラピージストはソウルに入れるよ」
ヒナ:ダメージ4(裏1) ダイキ:ダメージ5
「俺のターン、スタンドアンドドロー。……さっき、俺がどこを見ているのかと聞いたな?」
「あっ、答えてくれるんだ」
「ただし……口で言っても無駄なのはわかりきってるからな。こいつで見せてやるよ!ブレイクライド!星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン!!(11000)」
劇場の屋根を突き破り、大鎌を持った竜が降り立つ。一度吠えるだけで、セットの一部が吹き飛ばされていくほどだ。
「ブレイクライドスキル!カオスブレイカーにパワープラス10000!(21000) さらにマリチカとイオネラをロック!」
「……っ!」
これで1列とヴァンガードのブーストを封じられた……。
「ニオブ、ランタンのスキル!相手リアガードがロックされるたびに、パワープラス2000!2体でパワープラス4000!(ニオ 13000)(ラン 11000)」
「パワーまで……」
「さらに星輝兵 コロニーメイカー(9000)をコール!相手にロックカードがあるなら、CB1でデッキから獄門の星輝兵 バラジウム(7000)をスペリオルコール!手札から魔爪の星輝兵 ランタン(7000)もコールだ!」
こっちはリアガードが全然いないのに、向こうはリアガードをフルに整えて……!
「まだ終わらねぇよ!カオスブレイカーのスキル!CB1、手札の星輝兵1枚を捨て、りりあんをロック!」
これで動けるのはヴァンガードだけ……。正確には後列のリアガードサークルが2か所使えるけど、アタックに関してはそこからでは何もできない。
「ニオブと2体のランタンのスキル!パワープラス2000!(ニオ 15000)(先ラン 13000)(後ラン 9000)」
「く……!」
「これが答えだ!最初からこのファイトなんかどうでもいい……勝つのは俺だ!抗ってみせたところで全て無駄!無駄なんだよ!!」
「…………!」
「それに、奴が参加しているのなら、なおさらだ。あいつと……星野シオリとファイトするまでは、ただの過程でしかない!」
この人……因縁付けてる相手って、シオリの事だったの!?何があったかはこの際放っておくとしても、対戦相手の扱いがひどすぎる……!
「だから終わらせてやるよ、このファイト!いつまでも手間取るわけにはいかないからな!バラジウムのブースト、コロニーメイカーでアタック!(16000)」
「……バーキング・ドラゴンでガード」
「ち……!だが、ランタンのブースト、カオスブレイカーでアタック!こいつでどうだ!?(30000)」
「……銀の茨の催眠術師 リディアで完全ガード。コストはライジング・ドラゴン」
リディアが無数のリングを展開し、カオスブレイカーの攻撃に備える。全方位を守られたエヴァを見て、カオスブレイカーは攻撃を断念して引き下がる。
「だが、クリティカルトリガーを引けば、手札1枚のお前じゃガードはできない!そのまま勝ちだ!」
そんなことはわかっている。けど、これしか打つ手がない。
「ツインドライブ!1枚目、星輝兵 コロニーメイカー」
クリティカルさえ出なければいい。他のトリガーなら、ヒールトリガーでも構わない。だから……。
「2枚目……っ!?星輝兵 インフィニットゼロ・ドラゴン……だと!?」
やった、トリガーじゃない!しかも、運のいいことにガードに使えないグレード3だ。
「危なかった……」
「くそっ!ランタンのブーストしたニオブでアタック!(28000)」
「もちろん……ノーガード!」
2体の爪撃がエヴァを引き裂く。黒輪に囚われたユニットの中心で、苦しそうにひざを折った。
「ダメージチェック……ポイゾン・ジャグラー。一応、効果はエヴァへ」
「ターンエンドだ……!」
ヒナ:ダメージ5(裏1) ダイキ:ダメージ5(裏2)
「私のターン、スタンドアンドドロー」
何とか耐えたが、延命できただけに過ぎない。3体をロックされ、リアガードによるアタックも、ブーストも使えない。
今、エヴァのパワーだけではどうやってもこのターンでは勝てない。ブレイクライドするにも、それだけでは完全にガードできるシールド値を持っている。
しかも、カオスブレイカーはリアガードがアンロックされた時に、SB1でそのリアガードを退却させつつ1ドローできる。ターンが長引けば、それだけ私の不利になる。
「少し焦ったが……結局はどうだ?できる事も、ヴァンガードによるアタックだけ。足搔くだけ無駄だ。さっさとアタックして、ターンをよこせ」
怒りの混じった声で、諦めを促してくる。この状況なら、素直に従っても何1つ文句はない。
……けどね。
「2つ……聞かせて。まず1つ。あなたには、私が……対戦相手がどんな風に見えているの?」
「はっ、何を言い出すかと思えば――」
「答えて。そうしないと、あなたのお望みのターンは渡さないよ」
MFSではカオスブレイカーとエヴァが睨み合ったまま動きを止めている。2人の対話を待つように。
「……別に何も?ただ意味なく抗うだけの邪魔な存在にしか感じねぇよ」
相手とも見ていないのか……。全力のファイトを、相手の意志をあざ笑っているみたい……。
「なら、もう1つ。さっき、ある人とのファイトが目的だって言ったよね?じゃあ……このファイトに意味はあるの?」
「ないな。やるだけ無駄だからな」
即答だった。私を含めて、あいつとファイトした人は、か弱いハエを潰すように軽くあしらわれていたわけだ。そうやって適当なファイトをされて、負けていった人だっている。どれだけ屈辱的な事か……!
「ほら、もういいだろ?さっさとアタックしろ」
「……それだけ聞けたらいいよ。じゃあ、あなたのお望み通り……」
私は残る2枚の手札のうち、1枚を手に取る。もう我慢の限界だ。アタックしろ?いいよ。だったら遠慮なく……。
「アタックしてあげるよ!このカードで!竜を従え、戦場に立て!ブレイクライド!銀の茨の竜使い ルキエ!!(10000)」
エヴァが煙に包まれる。そこから上空に飛び上がったのは、一振りの鞭を持ったテイマー……ルキエだった。
「ルキエ……だと?」
彼が怪訝そうにするのも無理はない。正直、ルキエのスキルはこの状況では腐っているにもほどがあるからだ。
なぜなら、ルキエにはCB3でソウルから異なるグレードのユニットをコールできるリミットブレイクがあるからだ。最大4体コールできるこのリミットブレイクは、逆境からでも展開できるペイルムーンらしいものだった。
けど、ロックされたカードの上から新しくユニットはコールできない。結局、状況はただブレイクライドしただけに過ぎないってことになる。
……もう1つのスキルがなかったら、の話だけど。
「ブレイクライドスキルで、ルキエにパワープラス10000!(20000) さらにスキルを与える!」
エヴァからライドしたルキエが鞭を打ち、高まった力を解き放つ。カオスブレイカーは鎌を構えるが、まだ余裕が感じられる。
「ふん。そんなユニットごときで、一体何ができる……」
「言ってなよ。私はパープル・トラピージスト(6000)をコールして、スキル発動!ブリージングをソウルに入れて、ソウルから銀の茨の獣使い アナ(7000)をスペリオルコール!」
アナはブリージングのいた後列にコールされる。だが、
「何をしている?そんなことをしても、アタックはできない。前列をロックしてあるから、ブーストもできない。無駄な事を……」
「そうじゃない、狙いは別!ルキエのスキル!ソウルからリアガードがコールされるたびに、パワープラス3000!このスキルはターンに何回でも発動できる!(23000)」
「何っ……!?くそ、と言う事は……!?」
今、向こうの持てるシールド値を超えたパワーを、このスキルを連続して使って手にする。それが、私の起死回生の一手!
「ルキエのリミットブレイク!CB3、ソウルから銀の茨の竜女帝 ルキエ“Я”(11000)とパープル・トラピージスト(6000)をスペリオルコール!元いたアナとトラピージストは退却し、ルキエのスキル!2体でパワープラス6000!(29000)」
「く……!」
「トラピージストのスキル!ルキエ“Я”をソウルに入れて、ソウルから銀の茨の操り人形 りりあん(10000)をスペリオルコール!ルキエのスキルでパワープラス3000!(32000)」
スキル同士の連携も駆使して、ルキエのパワー上昇の条件を満たしていく。けど、まだまだ止まらないよ。
「ルキエでアタック!ブレイクライドスキルで、りりあんとトラピージストをソウルに入れて、ソウルからミラクルポップ エヴァ(11000)とパープル・トラピージスト(6000)をスペリオルコール!」
現れては消え、消えては現れ。MFSだけではなく、盤面上でもある意味で1つのショーが繰り広げられていた。
「ルキエのスキルでパワープラス6000!けど、トラピージストのスキルで、エヴァをソウルに入れて、ソウルからもう1度ルキエ“Я”(11000)をスペリオルコールするから……パワープラス9000!(41000)」
「パワー41000……だと!?」
彼はもうこのアタックをガードすることはできない。残りの手札は既に判明済み。完全ガードはなく、インターセプトを合わせても、シールド値は25000。防ぐためには、後10000のシールドが必要となる。
となると……取るべき手段は1つだけ。
「……ノーガード」
ドライブチェックを行うまでもなく、ルキエが天高く跳躍する。そして、駒のように回転し、遠心力も味方した鞭の一撃をカオスブレイカーにぶつける。
ダメージトリガーはなく、カオスブレイカーが消滅していく。この瞬間、私の勝利が決まった。
「くそっ、またしても……!」
「これからは、ちゃんと相手を見てファイトすることだね。無駄とか言ってるけど、そんなことない。それに……」
これだけは、個人的にも言っておかなくてはいけない。
「シオリと何があったかは知らないけど、負けた報復とかで復讐……なんて考えてるなら、止めた方がいいよ。そんなくだらないことで、シオリは絶望したりなんかしない」
「……あいつの知り合いだったのか」
驚いたような、でもどこか納得したような表情をしたまま、
「だからか……。言う事も似て、ムカつく気分になるのは……!」
どこかへと姿をくらませるのだった……。
皆さん、よいお年を。来年もよろしくお願いします。