つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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どうも、ティアです!マジでお久しぶりです!

更新を忘れていたわけではありませんので!決して!

あ、よかったら同時投稿したバンドリの小説も見てくださいね(宣伝)


ride93 薄っぺらな玩具

「ごめんなさい、母さん。負けちゃって」

 

「いいわ。別に勝敗について私から言う事は何もない」

 

スタジアムのVIPルーム。涼野マサミは、そこから会場の様子を眺めていた。今はサクヤも一緒だ。

 

「サクヤは参加してくれた。それだけで、母さんは満足よ」

 

「……ヴェルレーデを誘い込むため?」

 

表情を曇らせるサクヤだったが、マサミは気にすることなく、

 

「えぇ。全てが上手く行っているわ」

 

「……アクセルリンクの事ですか?」

 

「そうだ。せっかく体現者が近くにいると言うのに……有効に使わなくては。ご苦労だった、サクヤ。大会が終わるまで、ゆっくりしていなさい」

 

「……わかりました」

 

そのまま部屋を出て、深いため息をこぼす。母の抱く計画のためとはいえ、自分が利用されているのだと感じながら。

 

「私は……正しい事をしているんだよね?」

 

母さんの目的は、私やカズヤにもある程度は聞かされている。けど、何か裏があるような気がしてしまう。

 

「また……あなたを裏切ることになってしまうのかな」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……試合がないのも退屈だな」

 

観客席の隅の方で、1人腕を組んで時間を過ごすナツキ。他の試合を見るにも、MFSのファイトは見ている方も体力を使う。デッキ調整も、今のところは必要ない。

 

「面白いファイトでもやっていないか……?」

 

各ブロックのファイトを見てみるが、特にこれと言ったものはない。ファイターも変わったような奴は……。

 

「……っ!?」

 

いや、いた。少し距離はあるが、確かにMFSの前に立ち、これからファイトを始めようとしている奴が。

 

1人は、確か星野と仲のいい……月城ミズキ、と言ったか。彼女のファイトは、俺もあまりはっきりとは見た事がない。

 

だが、俺の目当てはもう1人の方だ。それが、俺の探し求めていた……涼野カズヤ。

 

「ようやく見つけたぞ、カズヤ……!お前のファイト、見せてもらう!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

母さんの口からレゼンタの名前が出た時には、正直拍子抜けだった。1回勝った相手に、どうしてわざわざ顔を見せないといけないのか。

 

自分の強さを過信し、馬鹿にしてやったらすぐ突っかかる。今ではノスタルジアなんて呼ばれているけど、口ほどにもない。

 

けど、母さんに頼まれたんだ。こんな大会、本当は出たくもないけど……仕方ない。母さんの事情とか、そんな事は別にどうでもいい。レゼンタのリベンジも、眼中にすらない。

 

母さんに頼まれてなかったら、こんな紙切れのゲームなんてしていない。何も楽しくない、ヴァンガードなんてカードゲームは。

 

こんなのに真剣になれるなんて、周りの連中は頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなる。それに、適当にやってても勝てるようなカードゲーム、本当に楽しくも何もない。

 

馬鹿らしい。強くもないのに、目指せ全国!とか抜かしてるやつは本当に虫唾が走る。消えてくれたらいいのに。

 

だから俺は、ヴァンガードを自分から進んでしたくない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「すみません!待たせてしまいましたか?」

 

「……いえ。俺もさっき来たところですから」

 

「それならよかったです……。あ、私、月城ミズキと言います。よろしくお願いします」

 

「涼野カズヤ。互いに全力のファイトを」

 

涼野って、どこかで聞いたような……?いや、今は目の前のファイトに集中だよね。まだまだ負けるわけにはいかない。

 

この先に進めば、またシオリとファイトできるかもしれないし。あの時のリベンジ、思ったよりも早く果たせるかもしれない。

 

「じゃあ、始めようか」

 

「あっ、はい!」

 

だけど……何だろう。さっきからずっと、奇妙な感覚を感じる。それも、この人から。悪い人には見えないんだけど……。

 

でもこの人、何だか怖い……。

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

MFSが起動し、舞台が変化する。高層ビルが建ち並ぶ都市みたいだ。

 

「戦巫女 アメノホアカリ!(5000)」

 

「封竜 テリークロス(5000)」

 

かげろうを使うのか……。しかも、封竜となると、インターセプトを封じたり、グレード2のユニットに働きかけるスキルが多い。そこを警戒しながら、ファイトを進めていかないと。

 

「私のターン、ドロー!オレンジの魔女 バレンシア(7000)にライド!アメノホアカリは後ろに移動。ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー。ライド、封竜 フランネル(7000) テリークロスは左後ろへ移動。フランネルでヴァンガードにアタック(7000)」

 

「サイバー・タイガーでガード!」

 

ガードするにはいいチャンス。序盤からそう簡単にダメージは与えない。

 

「ドライブチェック、封竜 リノクロス。ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ0 カズヤ:ダメージ0

 

 

「私のターン、ドロー!烏の魔女 カモミール(9000)にライド!そのままアメノホアカリのブーストを受けて、アタック!(14000)」

 

もう少しリアガードを展開したかったんだけど……。

 

「ドライブチェック、戦巫女 ククリヒメ。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てカモミールへ!(19000 ☆2)」

 

それに見合うだけのトリガーが来てくれたから、まぁ大丈夫かな。

 

「ダメージチェック、1枚……封竜 シャンブレー。2枚……封竜 ブロケード。どっちもトリガーなし」

 

にしても、この相手の人……本当に不気味だ。

 

「……ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ0 カズヤ:ダメージ2

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

涼しげな表情もしているし、荒っぽいファイトをしているわけでもない。プレイングも、淡々とはしているけど、普通にファイトを進めている。

 

「ライド、封竜 コーデュロイ(9000)」

 

だからかな……?余計に感じてしまう。奥底に秘めた、得体の知れない恐怖のような、言葉にできない何かを……。

 

「コーデュロイのスキル。CB1、アメノホアカリを退却し……」

 

コーデュロイが、炎に包まれた球体をぶつける。炎が燃え広がり、アメノホアカリは光となって消えていった。だが、その場には謎の魔法陣が残る。

 

「退却後、相手はデッキの上から4枚見て、グレード2のユニットを1体コールしてもらう」

 

「グレード2は……いた。樹木の女神 ユピテール(9000)をスペリオルコール!」

 

その魔方陣から、木の杖を持ったユピテールが現れる。一見すると相手を助けているようなプレイングだが、意味はある。

 

「テリークロスの前に、ベリコウスティドラゴン(9000)をコールし、コーデュロイでアタック(9000)」

 

「ここは……ノーガード!」

 

「ドライブチェック、封竜 フランネル」

 

「ダメージは……オーダイン・オウル」

 

「テリークロスのブースト、ベリコウスティでアタック(14000)」

 

ベリコウスティには、アタックをヒットさせることでダメージを1枚表にできるスキルがある。それなら……。

 

「ククリヒメでガード!」

 

「ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ1 カズヤ:ダメージ2(裏1)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

「…………」

 

「……どうしました?私の方、じっと見てますけど」

 

「いえ、お構いなく。続けてください」

 

「あ、はい……」

 

本当に何?さっきからずっと、彼から感じている変な違和感は……?今も、どうして私の事を見ていたんだろう……?

 

いや、気にしていても仕方ない。私は私のファイトをするだけ!

 

「刻んだ記憶の輝きが、まだ見ぬ明日を創り出す!ライド!叡智の神器 アンジェリカ!!(11000)」

 

カモミールの姿が、杖とは少し異なる……神器と呼ばれる武装を携えた女神、アンジェリカへと変貌を遂げる。

 

「全知の神器 ミネルヴァ(11000)をコール!ユピテールで、ベリコウスティにアタック神器のヴァンガードがいる事で、アタック時にパワープラス3000!(12000)」

 

「ターでガード」

 

シールド10000を平気で使った……。5000で足りるのに、手札が心持たないから?それ以上の理由があるから?

 

「……アンジェリカでアタック!スキルでSC1、パワープラス1000!(12000)」

 

アメノホアカリがいたら、もう1枚ソウルを増やせたんだけどな……。ソウルには、蛙の魔女 メリッサが入る。

 

「ノーガード」

 

「ツインドライブ……!1枚目、オレンジの魔女 バレンシア。2枚目、戦巫女 サホヒメ」

 

アンジェリカの神器から、渦のような光が放たれる。その光を浴びたコーデュロイは、次第に衰弱していく。

 

「ダメージチェック、封竜 シャーティング。ヒールトリガー発動。ダメージを回復し、パワーをコーデュロイへ(14000)」

 

「ミネルヴァで、ベリコウスティにアタック!(11000)」

 

「フランネルでガード」

 

今度はしっかり5000シールドで守った……。ベリコウスティは残しておきたかったって事?

 

「…………」

 

ダメだ。彼を見ても、何を考えているのか読み取れない。ずっと虚ろにこっちを見てくる目が、意味の分からない恐怖心を抱かせる。

 

「……ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ1 カズヤ:ダメージ2

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その頃、観客席ではミズキのファイトに気づいたシオリたちが、観戦を始めていたところだった。

 

「相手は封竜っスか……。うかつにグレード2を並べるのは、こいつの前では危険っスね」

 

「月城もそこは気を付けているみたいだな。だが、まだ序盤。何があるかはわからないぞ」

 

相手のグレード2を徹底して縛る「封竜」は、かなり厄介となる。

 

ヴァンガードにおいて、基本前列で役割を果たすのはグレード2か3。特にグレード2は、前列から防御に参加できるインターセプトが使える上に、リアガードで機能するスキルを持つユニットが多い。

 

グレード3は基本ヴァンガードで活きるスキルを持つものが大半のため、リアガードではただのアタッカーになってしまう。インターセプトのような使い方もできない。

 

だからこそ、封竜は厄介だ。グレード2の使い方を考えていかなくては、ファイトをうまく進めていくことができない。

 

「ミズキ……頑張って」

 

ダメージもリードはしているし、ブレイクライドの準備もできている。ライド先のミネルヴァになれば、一気に勝負を狙いに行くことも可能だ。

 

けど……何か変だ。ミズキ、何かを怖がっているように見える。対戦相手は見た事ない人だけど、何かあるのかな……?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー」

 

このターンから、相手はグレード3にライド出来る。問題は、何にライドするかだけど……。

 

「封じられし竜の炎は、慈悲深く破滅を与える。ライド、炎獄封竜 ブロケード・インフェルノ(11000)」

 

道路に巨大な穴を作り出し、そこから現れる赤茶色の竜。体中に封印の施された札が巻き付いているが、溢れ出る力は尋常ではない。

 

「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキル発動。手札1枚を捨てて1ドロー。炎星の封竜騎士(9000)をコール」

 

相手のリアガードにグレード2がいると使えるカルゼのスキルで、手札を引き直した。しかもアタッカーまで用意できている。

 

「封竜騎士でユピテールにアタック(9000)」

 

「サホヒメでガード!」

 

飛び上がり、急降下してユピテールを狙う封竜騎士だったが、サホヒメによって間一髪攻撃を免れる。

 

「カルゼのブースト、インフェルノでアタック(18000) ツインドライブ、1枚……封竜 ピエラ。クリティカルトリガー発動。パワーはベリコウスティ(14000) クリティカルはインフェルノへ(18000 ☆2) 2枚……封竜 コーデュロイ」

 

「ダメージチェック、1枚目、挺身の女神 クシナダ。2枚目、叡智の神器 アンジェリカ」

 

トリガーが出ない……。これじゃあ、次のアタックは……。

 

「テリークロスのブースト、ベリコウスティでアタック(19000)」

 

「……ノーガード」

 

ダメージにはサイバー・タイガーが入る。クリティカルトリガーだけど、この状況では無駄打ちだ。

 

「ベリコウスティのスキル。アタックがヴァンガードにヒットしたことで、ダメージを1枚表に。ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ4 カズヤ:ダメージ2

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

もうダメージ4。向こうはまだダメージ2だし、そろそろ巻き返していかないと。そのためのカードは、既に手札にある。

 

「…………」

 

まだ、彼から感じる恐怖は消えないけど……だったらなおさら、早くこのファイトを終わらせたい。

 

「移りゆく時を知り、過ちなき未来を拓く!天空の輝き!!クロスブレイクライド!全知の神器 ミネルヴァ!!(11000)」

 

「…………」

 

「ブレイクライドスキル!SB3、2ドローして、ミネルヴァにパワープラス10000! さらにソウルにアンジェリカがいる事で、常にパワープラス2000!(23000)」

 

ミネルヴァの槍にエネルギーが集まっていく。白い先端が、赤く輝いていた。

 

「ソウルから捨てられたバレンシアのスキルでSC2。同じようにソウルから捨てられたメリッサのスキル!CB1で、ドロップゾーンからリアガードのミネルヴァの後ろにスペリオルコール!(7000)」

 

けど、これではソウルが3枚。ミネルヴァのリミットブレイクのためのソウル3枚はちょうどあるけど、アンジェリカがソウルからなくなってしまう。これだと、クロスライドの恩恵が受けられない。

 

「オーダイン・オウル(6000)と、戦巫女 ククリヒメ(4000)をコール!ククリヒメのスキル。自信をソウルに入れて、ヴァンガードのミネルヴァにパワープラス3000!(26000)」

 

これでソウルは4枚。アンジェリカをソウルに残しながら、リミットブレイクが使える。

 

「ヴァンガードのミネルヴァで、ブロケード・インフェルノにアタック!(26000)」

 

「ノーガード」

 

「ツインドライブ!1枚目、烏の魔女 カモミール。2枚目、林檎の魔女 シードル。どっちもトリガーなし」

 

ミネルヴァの槍が、インフェルノの銅を貫く。痛みに悶えながら槍を引き抜こうとするが、先にミネルヴァが力任せに引き抜き、空中へと離脱した。

 

「ダメージチェック、炎星の封竜騎士」

 

「アタックが終わったことで、ミネルヴァのリミットブレイク!CB1、SB3、手札3枚を捨てて……ミネルヴァをスタンド!パワープラス5000!(31000)」

 

アンジェリカを除くソウルが捨てられ、手札からはカモミール、シードル、バレンシアが捨てられる。これでミネルヴァは、再び空を舞う。

 

「オーダインのブースト、ユピテールでインフェルノにアタック!神器のヴァンガードギルから、パワープラス3000!(18000)」

 

「ガード、封竜 ピエラ」

 

「もう1度、ミネルヴァでアタック!(31000)」

 

「……ノーガード」

 

まだあまりダメージを受けていないから、高いパワーに対して強気でノーガードを選択できるんだ。と言っても、相手のダメージは3だけど。

 

「ツインドライブ!1枚目、挺身の女神 クシナダ。2枚目、檸檬の魔女 リモンチーノ。ゲット!クリティカルトリガー!パワーはリアガードのミネルヴァ(16000) クリティカルはヴァンガードのミネルヴァへ!(31000 ☆2)」

 

「……はぁ。ダメージチェック、1枚目、封竜 リノクロス。2枚、封竜 アートピケ。ドロートリガー発動。パワーをインフェルノへ(16000)」

 

「メリッサのブースト、ミネルヴァでベリコウスティにアタック!(23000)」

 

「……ノーガード」

 

槍に貫かれたベリコウスティは、光となって散っていく。

 

「ターンエンド……。もう少しだったのに……」

 

 

ミズキ:ダメージ4(裏2) カズヤ:ダメージ5

 

 

「俺のターン、スタンドアンド……はぁ」

 

「……?」

 

あ、あれ、ドローは?ため息をついて、両腕を力なく下げているけど……。自分のターンなのに、進めようとする気力すら感じない。

 

そんな私が彼から耳にした言葉は……。

 

「……飽きた」

 

「……え」

 

思わず聞き返してしまうような、信じられない言葉だった。

 

「あ、飽きたって……ファイトはまだ終わってないですよ」

 

「あー、知ってる知ってる。終わってませんよねー。こんなクソつまらないファイト」

 

「えっ……!?」

 

さっきまでとまるで違う。これが、ずっと感じていた違和感の正体だって言うの……!?

 

「どうでもいいんだよ、本当。何?勝ちたい気持ち全開で、絶対に負けられないとか張り切っちゃって、今だってあ~惜しかった……なんてさ。俺からしたらウザくて仕方ないんだよ」

 

「……何でですか。勝ちたいって思って、真剣になる事って間違ってますか?」

 

「そうやって、こんな紙切れごときで熱くなってさ。どこか楽しいんだか。何のひねりもないし、適当にやってても勝てるような運ゲーのくせに」

 

「運ゲー……?」

 

「そんなので全国とか、夢とかチームの絆とかほざいてさ。青春ごっこしてる奴らの気が知れねーんだよ!そう言うの見てると、マジでイライラするんだよ!こっちは!!」

 

この人は……ヴァンガードそのものを見下している。たかがカード、紙切れかもしれないけど……そこに価値を見出せる事は、何も間違ってなんかいない。

 

カードを通じて、思いをぶつけあって……その楽しさを、私は知っている。あの秋予選のファイトで、私は確かに彼女と最高の時間を過ごした。

 

あれが全部、ただの紙切れの見せた笑いごとのような夢だとしたら……そんなの違う。否定してやる。あの時の出来事は、夢なんかじゃない。

 

それに、この人は……言っていることが矛盾している。だって……。

 

「あなただって……!この大会に参加してるんじゃないんですか!?それは、ヴァンガードが好きだか――」

 

「んなわけねぇだろ。俺はただ、頼まれたから参加してるだけさ。そうでもなかったら、こんなゲームに手を付けて、お前らみたいな連中と一緒になって、カード遊びなんかにうつつを抜かしてるわけねーだろうが、バーカ!!」

 

「……っ!!」

 

頼まれたから……?そんな適当な理由で、真剣になっている人たちを馬鹿にして、この場所を汚そうとしているの?

 

「そんな言いなりみたいな理由で、こんな大会に出たんですか」

 

「当たり前だろ。俺は別に、ヴァンガードに感心なんかないんだ。でも、しろって言われたらする。俺の行動は、そうやって成り立っているんだ」

 

「他人任せじゃないと、自分の行動すら決められないんですか」

 

「あぁ。自分で何かを決めるよりも、誰かに与えられた道筋をなぞる方が楽だ。ご期待には応えられるし、俺もその方が何も考えなくていい」

 

「だったら、正直出ないで欲しかったです!ここにいる人たちは、その人なりの信念や覚悟……夢があって、今ファイトを重ねているんです!何の意味も持たずに、ただ淡々とファイトをするだけなら、最初からいなくてもよかった!」

 

私だってそうだ。何の目的もなく、ただこの大会に出たわけじゃない。負けられない理由があって、同じ理由を持つ人たちがいて、その人達のためにも頑張りたいって思えるんだ。

 

それを、青春ごっこなんて幼稚な言葉で片づけないでほしい。私は今、ごっこ遊びで青春を過ごしているわけじゃない!!

 

「言うじゃん。けどな、その綺麗事……心底うんざりする。そう言うのが嫌いだって言ってんだよ。やっぱ、お前はぶっ潰す!ただの数字の増減でしかないゲームに熱くなる、お前みたいなやつが嫌いだからな!!」

 

ようやくやる気を見せ、デッキからカードをドローした。けど、その空気はさっきまでとはガラリと変わっていた。

 

「ライドなし。封竜 コーデュロイ(9000)をコール!スキルでCB1……ミネルヴァを退却!相手はデッキの上からグレード2を1枚コールしないといけない!」

 

「……樹木の女神 ユピテール!(9000)」

 

「さらにテリークロスのスキル!CB1、自身をソウルに入れ……オーダインを退却!コーデュロイと同じく、デッキの上4枚からグレード2をコールしろ!」

 

「く……烏の魔女 カモミール!(9000)」

 

退却しているのに、ユニットが増えている。このスキルの狙い目はと言うと……。

 

「ブロケード・インフェルノのリミットブレイク!CB2、相手のグレード2のリアガードを全て退却させ、インフェルノにパワープラス10000!(21000)」

 

インフェルノの体から、無作為に光が迸る。光はグレード2のユニットだけを貫き、メリッサだけが辛うじて免れた。

 

「コーデュロイの後ろに、封竜 フランネル(7000)をコール。カルゼのブースト、インフェルノでアタック!(28000)」

 

「……それで決めるつもりなら、まだ足りないよ!盾の女神 アイギスでガード!スキルでCB1、クインテットウォール!」

 

ローリエ、アンジェリカ、メリッサ、サイバー・タイガー、ローリエ。シールドは35000のため、完全にガード成功だ。

 

「また出た。すぐに熱くなる。ただカードを追加で5枚置いただけじゃん。だから、綺麗事だって言うんだよ。そうやって子供みたいに騒いでさ……幼稚なんだよ。馬鹿らしい」

 

「……っ!さらに、林檎の魔女 シードルでガード!スキルで、神器のヴァンガードにこのバトル中だけスキルを与える!」

 

「遊びなんだよ。なのに本気になってさ、だから幼稚だって、綺麗事だって言うんだよ。それに気づけないのは、やっぱり幼稚だからか?」

 

「く……!」

 

ここは我慢だ。彼を倒して、先に進めばいいだけの事。

 

「……ドライブチェック、してください」

 

「ふ~ん。やっと冷静になったか。子供みたいに暑っ苦しいのは嫌なんだよ。ツインドライブ。1枚……封竜 シャンブレー。トリガーはなし。2枚……封竜 シャーティング。ヒールトリガー発動。ダメージを1枚回復し、パワーをコーデュロイへ(14000)」

 

インフェルノの炎は、アイギスの盾に防がれる。が、炎の勢いが強く、ジリジリと後退させられる。

 

そこに、5つの魔法陣が出現。アイギスを背後から支え、炎を吹き飛ばすことに成功する。けど、それだけではない。

 

「ここでシードルの与えたスキル!このバトルで使ったガーディアンは、全てソウルに送られる!」

 

ガードしたユニットは7体。よって、7枚のカードが新たにソウルとして加わった。

 

「これでミネルヴァのスキルも使える!次のターンで決める!」

 

「ん、ぶり返してきたか。そう言うやる気の見せっぷり、そこが子供みたいなんだってわからないみたいだな。フランネルのブースト、コーデュロイでアタック!(21000)」

 

「リモンチーノでガード!」

 

「ターンエンド」

 

 

ミズキ:ダメージ4(裏3) カズヤ:ダメージ4(裏3)

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー!」

 

リアガードを一気に薙ぎ払われた。けど、ソウルは十分にある。ミネルヴァのスキルがあるから、まず2回のアタックは用意できる。

 

「メリッサの前に、戦巫女 サホヒメ(9000)をコール!ミネルヴァでアタック!(11000)」

 

「ターでガード。トリガーは2枚必要だけど……絶対に引く!なんて都合のいい筋書きは、フィクションの中だけだからね?そう言うのに縋るなよ?」

 

「……ツインドライブ!1枚目……樹木の女神 ユピテール。2枚目……戦巫女 ククリヒメ。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てミネルヴァへ!(16000 ☆2)」

 

元からこのアタックで決めるつもりはない。本番はここからだ。

 

「ミネルヴァのリミットブレイク!CB1、SB3、手札3枚を捨てて……ミネルヴァをスタンド!パワープラス5000!(21000 ☆2)」

 

元から手札にいたバレンシアと、ドライブチェックで得た2枚をコストに、ミネルヴァをスタンドさせる。もう1度、ツインドライブのチャンスだ。

 

「ミネルヴァで……アタック!(21000 ☆2)」

 

「シャーティング、シャンブレーでガード。コーデュロイでインターセプト。再びトリガー2枚必要」

 

「だったら……ツインドライブ!1枚目、全知の神器 ミネルヴァ。2枚目、オレンジの魔女 バレンシア。く……メリッサのブースト、サホヒメでアタック!(16000)」

 

「……じゃ、ノーガードで」

 

ダメージには封竜 アートピケ。ドロートリガーが入り、手札が増える。だが、これで追い詰めたのは事実だ。

 

「ターンエンド!後1ダメージだ!」

 

 

ミズキ:ダメージ4(裏4) カズヤ:ダメージ5(裏3)

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー。後1ダメージ……よくそんなに盛り上がれるね」

 

「…………」

 

「ま、いいよ。もういい加減にうんざりしてきたし……そろそろ終わらせてやるからさ」

 

「えっ、ここで……!?」

 

「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキルで手札を1枚捨てて、1ドロー。カルゼの前に封竜 リノクロス(6000) フランネルの前に、炎獄封竜 ブロケード・インフェルノ(11000)をコール」

 

手札を全て使い切った!?完全ガードまでコールして、クロスライドのパワーにも対応できるようにしてきたって言うの!?

 

「そして、インフェルノのリミットブレイク!CB2、相手のグレード2のリアガードを全て退却させ、パワープラス10000!(21000)」

 

無作為に光が放たれ、今度はサホヒメを包んでいく。退却できたのは1体だけでも、パワーが上がり、インターセプトを潰しただけでも収穫はある。

 

「カルゼのブースト、リノクロスでアタック!(13000)」

 

「ローリエでガード!」

 

「再びカルゼのブースト、ヴァンガードのインフェルノでアタック!(28000)」

 

インフェルノの口に炎が蓄積されていく。今にも溢れそうな炎が、真っ直ぐにミネルヴァを狙い……。

 

「……まだ、終わらない!挺身の女神 クシナダで完全ガード!コストはミネルヴァ!」

 

これで私も手札はない。残るリアガードをノーガードしても、まだダメージは5で止まる。次のターンが回ってくるけど……。

 

「全てはトリガーにかかってる……か。こういう時、幼稚な連中は絶対にトリガーは出ない!信じて見せる!……なんて奇跡とかに縋って見たりするんだろうけどさ。そんなのウザいんだよ。出る時は出る。そこに勝利の女神のようなものは何もない」

 

「そんなのわからない……。信じる事で、変わるものだって――」

 

「ないよ。決定されたものを変えられるわけじゃないだろ?カードの並びを変えられるわけでもない。なのに、そうやって真剣になる。子供だましの寸劇見せられているみたいで、笑っちゃうね!」

 

「……っ、だったら!トリガーが引けるんですか!この状況で!」

 

「引くかどうかじゃない。あるかどうかだ。俺はそれを願うつもりもないし、縋るつもりもない。ここでとどめを刺せなかったとしても、別にどうでもいいしな」

 

もう、言葉が出なかった。こんな人が、この大会に出て……必死になっている人たちの気持ちを、あっさりと打ち砕いていく。

 

「ツインドライブ。1枚目、炎星の封竜騎士。2枚目、封竜 ピエラ。クリティカルトリガー発動」

 

「……っ!」

 

「効果は全てリアガードのインフェルノへ(16000 ☆2) フランネルのブースト……リアガードのインフェルノで、ミネルヴァにアタック!!(23000 ☆2)」

 

「……ノー、ガード」

 

無防備なミネルヴァに、インフェルノが炎を放つ。燃え盛る灼熱に包まれていくが、まだミネルヴァは諦めた表情をしていない。

 

「ダメージチェック……1枚目……っ!大鍋の魔女 ローリエ……!」

 

ヒールトリガー。でも、ダメージの枚数上、回復はできない。つまり、何の意味もない、不発トリガー。

 

しかも、このトリガーで私は、ヒールトリガーを全て使い切ってしまった。もう6ダメージ目で持ちこたえる事も敵わず、ミネルヴァは消滅していった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……ミズキ!」

 

「あ……シオリ」

 

ファイトが終わり、1人通路を歩いていたミズキに声をかけたのは、シオリとワタル。2人を見て表情は少し緩むが、それでも暗く沈んでいる。

 

「……星野、俺はもう行くよ。次のファイトがある」

 

「あ……小沢君」

 

「ん?」

 

「ごめん、ありがと」

 

「何のありがとうだよ。……行ってくる」

 

「頑張ってね」

 

多分、気を遣ってくれたんだ。次のファイトがあるのは本当だけど、私とミズキの2人だけにしてあげようって。

 

そんな小沢君に、私からエールを送る。小沢君はそのまま去っていき、残ったのは私と……ミズキだけ。

 

「……ごめん、シオリ。負けちゃったよ」

 

「謝る事なんかないよ。ミズキは十分頑張ったって」

 

「……うん」

 

「ヒールトリガーのタイミングがずれてたら、どうなってたかはわからない。ミネルヴァのリミットブレイクのためのコストもあったし、ミズキが勝っていたかも――」

 

ドサリと、私に倒れこんでくるような感触。ハッとして胸元を見ると、ミズキだった。その体は、震えていた。

 

「私……あの人とファイトしてて、怖かった」

 

「怖い?」

 

「最初は、普通の人に見えた。でも、ファイトしている間もずっと、何か裏のあるような人で……それが違和感みたいにまとわりついて、怖かった」

 

震えるミズキを、私は体を抱きながら耳を傾ける。

 

「でも、途中からあの人、本性を見せてきた。ヴァンガードなんて紙切れの遊びだ。そんなのに真剣になっている人たちの気がしれないって」

 

「え……!?」

 

「あの人も、ヴァンガードなんてやりたくてやってないって。ただ頼まれてるだけだって。そんな人がこの大会に出て、馬鹿にして……許せなかった」

 

私も、もし対戦相手がそんな事を口にしてきたら……耐えられない。絶対に勝ちたいって、強く願ってしまう。秋予選で戦った、破滅の翼のように。

 

「あの人、自分で何かを決めるよりも、誰かに与えられた道筋をなぞる方が楽だって、そう言ってた。全て他人に委ねているって言うか、それが何だか、狂気じみていて……自分の意志が、そこにないみたいで……っ!」

 

「……そうかもしれない。でもね、その人だって、好きでそんな風には生きていないはずだよ」

 

「えっ……?」

 

「私には、その人の事はわからない。実際に会って、ファイトしたわけでもないから。でも……人って、ちょっとした事で大きく変わっていくから」

 

その傾きがいい方向に向かうかもしれないし、悪い方向に向かうかもしれない。その人は、後者なんだと思う。言い方を変えたら……歪んでいるんだ。

 

けどね、どんなに歪んでしまったとしても、元に戻すことはできる。時間はかかるかもしれないけど……必ず。

 

人は、絶望を知る事で、本当の希望を知る生き物だから。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

そろそろ参加者も少なくなってきた。それに、他のブロックのファイトもレベルの高い物ばかりだ。

 

「俺も頑張らないとな……」

 

秋の悔しさをバネにここまで来たんだ。こんなところで終わらせるような真似にだけはしたくない。

 

星野に森宮、佐原だって……それぞれが全国に強い想いを抱いている。その想いの強さがあるから、まだ誰も負けることなく、ここまで来ているんだ。

 

「全国への切符……必ずつかみ取ってやる」

 

「……へぇ、なかなかやる気じゃないか」

 

「……っ!?お前、は……!?」

 

何故、お前がそこにいる……!?俺と向かい合う先、MFSを起動させている少年。そいつが俺の対戦相手だと言う事はわかるが……まさか、お前が。

 

「久しぶりだね、小沢ワタル君。バトルロワイヤルの時以来だから、もう半年以上経っているのか」

 

「……お前も、参加していたのか!?照山シュンキ!!」

 

覚悟を教わり、自分の意志の低さを突きつけられた。俺が全国を目指すきっかけ……こいつへのリベンジと言う目標を示してくれた。

 

俺にとっての因縁の対決は、このような形で幕を下ろすことになった……。

 


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