更新を忘れていたわけではありませんので!決して!
あ、よかったら同時投稿したバンドリの小説も見てくださいね(宣伝)
「ごめんなさい、母さん。負けちゃって」
「いいわ。別に勝敗について私から言う事は何もない」
スタジアムのVIPルーム。涼野マサミは、そこから会場の様子を眺めていた。今はサクヤも一緒だ。
「サクヤは参加してくれた。それだけで、母さんは満足よ」
「……ヴェルレーデを誘い込むため?」
表情を曇らせるサクヤだったが、マサミは気にすることなく、
「えぇ。全てが上手く行っているわ」
「……アクセルリンクの事ですか?」
「そうだ。せっかく体現者が近くにいると言うのに……有効に使わなくては。ご苦労だった、サクヤ。大会が終わるまで、ゆっくりしていなさい」
「……わかりました」
そのまま部屋を出て、深いため息をこぼす。母の抱く計画のためとはいえ、自分が利用されているのだと感じながら。
「私は……正しい事をしているんだよね?」
母さんの目的は、私やカズヤにもある程度は聞かされている。けど、何か裏があるような気がしてしまう。
「また……あなたを裏切ることになってしまうのかな」
***
「……試合がないのも退屈だな」
観客席の隅の方で、1人腕を組んで時間を過ごすナツキ。他の試合を見るにも、MFSのファイトは見ている方も体力を使う。デッキ調整も、今のところは必要ない。
「面白いファイトでもやっていないか……?」
各ブロックのファイトを見てみるが、特にこれと言ったものはない。ファイターも変わったような奴は……。
「……っ!?」
いや、いた。少し距離はあるが、確かにMFSの前に立ち、これからファイトを始めようとしている奴が。
1人は、確か星野と仲のいい……月城ミズキ、と言ったか。彼女のファイトは、俺もあまりはっきりとは見た事がない。
だが、俺の目当てはもう1人の方だ。それが、俺の探し求めていた……涼野カズヤ。
「ようやく見つけたぞ、カズヤ……!お前のファイト、見せてもらう!」
***
母さんの口からレゼンタの名前が出た時には、正直拍子抜けだった。1回勝った相手に、どうしてわざわざ顔を見せないといけないのか。
自分の強さを過信し、馬鹿にしてやったらすぐ突っかかる。今ではノスタルジアなんて呼ばれているけど、口ほどにもない。
けど、母さんに頼まれたんだ。こんな大会、本当は出たくもないけど……仕方ない。母さんの事情とか、そんな事は別にどうでもいい。レゼンタのリベンジも、眼中にすらない。
母さんに頼まれてなかったら、こんな紙切れのゲームなんてしていない。何も楽しくない、ヴァンガードなんてカードゲームは。
こんなのに真剣になれるなんて、周りの連中は頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなる。それに、適当にやってても勝てるようなカードゲーム、本当に楽しくも何もない。
馬鹿らしい。強くもないのに、目指せ全国!とか抜かしてるやつは本当に虫唾が走る。消えてくれたらいいのに。
だから俺は、ヴァンガードを自分から進んでしたくない。
***
「すみません!待たせてしまいましたか?」
「……いえ。俺もさっき来たところですから」
「それならよかったです……。あ、私、月城ミズキと言います。よろしくお願いします」
「涼野カズヤ。互いに全力のファイトを」
涼野って、どこかで聞いたような……?いや、今は目の前のファイトに集中だよね。まだまだ負けるわけにはいかない。
この先に進めば、またシオリとファイトできるかもしれないし。あの時のリベンジ、思ったよりも早く果たせるかもしれない。
「じゃあ、始めようか」
「あっ、はい!」
だけど……何だろう。さっきからずっと、奇妙な感覚を感じる。それも、この人から。悪い人には見えないんだけど……。
でもこの人、何だか怖い……。
「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」
MFSが起動し、舞台が変化する。高層ビルが建ち並ぶ都市みたいだ。
「戦巫女 アメノホアカリ!(5000)」
「封竜 テリークロス(5000)」
かげろうを使うのか……。しかも、封竜となると、インターセプトを封じたり、グレード2のユニットに働きかけるスキルが多い。そこを警戒しながら、ファイトを進めていかないと。
「私のターン、ドロー!オレンジの魔女 バレンシア(7000)にライド!アメノホアカリは後ろに移動。ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー。ライド、封竜 フランネル(7000) テリークロスは左後ろへ移動。フランネルでヴァンガードにアタック(7000)」
「サイバー・タイガーでガード!」
ガードするにはいいチャンス。序盤からそう簡単にダメージは与えない。
「ドライブチェック、封竜 リノクロス。ターンエンド」
ミズキ:ダメージ0 カズヤ:ダメージ0
「私のターン、ドロー!烏の魔女 カモミール(9000)にライド!そのままアメノホアカリのブーストを受けて、アタック!(14000)」
もう少しリアガードを展開したかったんだけど……。
「ドライブチェック、戦巫女 ククリヒメ。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てカモミールへ!(19000 ☆2)」
それに見合うだけのトリガーが来てくれたから、まぁ大丈夫かな。
「ダメージチェック、1枚……封竜 シャンブレー。2枚……封竜 ブロケード。どっちもトリガーなし」
にしても、この相手の人……本当に不気味だ。
「……ターンエンド」
ミズキ:ダメージ0 カズヤ:ダメージ2
「俺のターン、ドロー」
涼しげな表情もしているし、荒っぽいファイトをしているわけでもない。プレイングも、淡々とはしているけど、普通にファイトを進めている。
「ライド、封竜 コーデュロイ(9000)」
だからかな……?余計に感じてしまう。奥底に秘めた、得体の知れない恐怖のような、言葉にできない何かを……。
「コーデュロイのスキル。CB1、アメノホアカリを退却し……」
コーデュロイが、炎に包まれた球体をぶつける。炎が燃え広がり、アメノホアカリは光となって消えていった。だが、その場には謎の魔法陣が残る。
「退却後、相手はデッキの上から4枚見て、グレード2のユニットを1体コールしてもらう」
「グレード2は……いた。樹木の女神 ユピテール(9000)をスペリオルコール!」
その魔方陣から、木の杖を持ったユピテールが現れる。一見すると相手を助けているようなプレイングだが、意味はある。
「テリークロスの前に、ベリコウスティドラゴン(9000)をコールし、コーデュロイでアタック(9000)」
「ここは……ノーガード!」
「ドライブチェック、封竜 フランネル」
「ダメージは……オーダイン・オウル」
「テリークロスのブースト、ベリコウスティでアタック(14000)」
ベリコウスティには、アタックをヒットさせることでダメージを1枚表にできるスキルがある。それなら……。
「ククリヒメでガード!」
「ターンエンド」
ミズキ:ダメージ1 カズヤ:ダメージ2(裏1)
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
「…………」
「……どうしました?私の方、じっと見てますけど」
「いえ、お構いなく。続けてください」
「あ、はい……」
本当に何?さっきからずっと、彼から感じている変な違和感は……?今も、どうして私の事を見ていたんだろう……?
いや、気にしていても仕方ない。私は私のファイトをするだけ!
「刻んだ記憶の輝きが、まだ見ぬ明日を創り出す!ライド!叡智の神器 アンジェリカ!!(11000)」
カモミールの姿が、杖とは少し異なる……神器と呼ばれる武装を携えた女神、アンジェリカへと変貌を遂げる。
「全知の神器 ミネルヴァ(11000)をコール!ユピテールで、ベリコウスティにアタック神器のヴァンガードがいる事で、アタック時にパワープラス3000!(12000)」
「ターでガード」
シールド10000を平気で使った……。5000で足りるのに、手札が心持たないから?それ以上の理由があるから?
「……アンジェリカでアタック!スキルでSC1、パワープラス1000!(12000)」
アメノホアカリがいたら、もう1枚ソウルを増やせたんだけどな……。ソウルには、蛙の魔女 メリッサが入る。
「ノーガード」
「ツインドライブ……!1枚目、オレンジの魔女 バレンシア。2枚目、戦巫女 サホヒメ」
アンジェリカの神器から、渦のような光が放たれる。その光を浴びたコーデュロイは、次第に衰弱していく。
「ダメージチェック、封竜 シャーティング。ヒールトリガー発動。ダメージを回復し、パワーをコーデュロイへ(14000)」
「ミネルヴァで、ベリコウスティにアタック!(11000)」
「フランネルでガード」
今度はしっかり5000シールドで守った……。ベリコウスティは残しておきたかったって事?
「…………」
ダメだ。彼を見ても、何を考えているのか読み取れない。ずっと虚ろにこっちを見てくる目が、意味の分からない恐怖心を抱かせる。
「……ターンエンド」
ミズキ:ダメージ1 カズヤ:ダメージ2
***
その頃、観客席ではミズキのファイトに気づいたシオリたちが、観戦を始めていたところだった。
「相手は封竜っスか……。うかつにグレード2を並べるのは、こいつの前では危険っスね」
「月城もそこは気を付けているみたいだな。だが、まだ序盤。何があるかはわからないぞ」
相手のグレード2を徹底して縛る「封竜」は、かなり厄介となる。
ヴァンガードにおいて、基本前列で役割を果たすのはグレード2か3。特にグレード2は、前列から防御に参加できるインターセプトが使える上に、リアガードで機能するスキルを持つユニットが多い。
グレード3は基本ヴァンガードで活きるスキルを持つものが大半のため、リアガードではただのアタッカーになってしまう。インターセプトのような使い方もできない。
だからこそ、封竜は厄介だ。グレード2の使い方を考えていかなくては、ファイトをうまく進めていくことができない。
「ミズキ……頑張って」
ダメージもリードはしているし、ブレイクライドの準備もできている。ライド先のミネルヴァになれば、一気に勝負を狙いに行くことも可能だ。
けど……何か変だ。ミズキ、何かを怖がっているように見える。対戦相手は見た事ない人だけど、何かあるのかな……?
***
「俺のターン、スタンドアンドドロー」
このターンから、相手はグレード3にライド出来る。問題は、何にライドするかだけど……。
「封じられし竜の炎は、慈悲深く破滅を与える。ライド、炎獄封竜 ブロケード・インフェルノ(11000)」
道路に巨大な穴を作り出し、そこから現れる赤茶色の竜。体中に封印の施された札が巻き付いているが、溢れ出る力は尋常ではない。
「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキル発動。手札1枚を捨てて1ドロー。炎星の封竜騎士(9000)をコール」
相手のリアガードにグレード2がいると使えるカルゼのスキルで、手札を引き直した。しかもアタッカーまで用意できている。
「封竜騎士でユピテールにアタック(9000)」
「サホヒメでガード!」
飛び上がり、急降下してユピテールを狙う封竜騎士だったが、サホヒメによって間一髪攻撃を免れる。
「カルゼのブースト、インフェルノでアタック(18000) ツインドライブ、1枚……封竜 ピエラ。クリティカルトリガー発動。パワーはベリコウスティ(14000) クリティカルはインフェルノへ(18000 ☆2) 2枚……封竜 コーデュロイ」
「ダメージチェック、1枚目、挺身の女神 クシナダ。2枚目、叡智の神器 アンジェリカ」
トリガーが出ない……。これじゃあ、次のアタックは……。
「テリークロスのブースト、ベリコウスティでアタック(19000)」
「……ノーガード」
ダメージにはサイバー・タイガーが入る。クリティカルトリガーだけど、この状況では無駄打ちだ。
「ベリコウスティのスキル。アタックがヴァンガードにヒットしたことで、ダメージを1枚表に。ターンエンド」
ミズキ:ダメージ4 カズヤ:ダメージ2
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
もうダメージ4。向こうはまだダメージ2だし、そろそろ巻き返していかないと。そのためのカードは、既に手札にある。
「…………」
まだ、彼から感じる恐怖は消えないけど……だったらなおさら、早くこのファイトを終わらせたい。
「移りゆく時を知り、過ちなき未来を拓く!天空の輝き!!クロスブレイクライド!全知の神器 ミネルヴァ!!(11000)」
「…………」
「ブレイクライドスキル!SB3、2ドローして、ミネルヴァにパワープラス10000! さらにソウルにアンジェリカがいる事で、常にパワープラス2000!(23000)」
ミネルヴァの槍にエネルギーが集まっていく。白い先端が、赤く輝いていた。
「ソウルから捨てられたバレンシアのスキルでSC2。同じようにソウルから捨てられたメリッサのスキル!CB1で、ドロップゾーンからリアガードのミネルヴァの後ろにスペリオルコール!(7000)」
けど、これではソウルが3枚。ミネルヴァのリミットブレイクのためのソウル3枚はちょうどあるけど、アンジェリカがソウルからなくなってしまう。これだと、クロスライドの恩恵が受けられない。
「オーダイン・オウル(6000)と、戦巫女 ククリヒメ(4000)をコール!ククリヒメのスキル。自信をソウルに入れて、ヴァンガードのミネルヴァにパワープラス3000!(26000)」
これでソウルは4枚。アンジェリカをソウルに残しながら、リミットブレイクが使える。
「ヴァンガードのミネルヴァで、ブロケード・インフェルノにアタック!(26000)」
「ノーガード」
「ツインドライブ!1枚目、烏の魔女 カモミール。2枚目、林檎の魔女 シードル。どっちもトリガーなし」
ミネルヴァの槍が、インフェルノの銅を貫く。痛みに悶えながら槍を引き抜こうとするが、先にミネルヴァが力任せに引き抜き、空中へと離脱した。
「ダメージチェック、炎星の封竜騎士」
「アタックが終わったことで、ミネルヴァのリミットブレイク!CB1、SB3、手札3枚を捨てて……ミネルヴァをスタンド!パワープラス5000!(31000)」
アンジェリカを除くソウルが捨てられ、手札からはカモミール、シードル、バレンシアが捨てられる。これでミネルヴァは、再び空を舞う。
「オーダインのブースト、ユピテールでインフェルノにアタック!神器のヴァンガードギルから、パワープラス3000!(18000)」
「ガード、封竜 ピエラ」
「もう1度、ミネルヴァでアタック!(31000)」
「……ノーガード」
まだあまりダメージを受けていないから、高いパワーに対して強気でノーガードを選択できるんだ。と言っても、相手のダメージは3だけど。
「ツインドライブ!1枚目、挺身の女神 クシナダ。2枚目、檸檬の魔女 リモンチーノ。ゲット!クリティカルトリガー!パワーはリアガードのミネルヴァ(16000) クリティカルはヴァンガードのミネルヴァへ!(31000 ☆2)」
「……はぁ。ダメージチェック、1枚目、封竜 リノクロス。2枚、封竜 アートピケ。ドロートリガー発動。パワーをインフェルノへ(16000)」
「メリッサのブースト、ミネルヴァでベリコウスティにアタック!(23000)」
「……ノーガード」
槍に貫かれたベリコウスティは、光となって散っていく。
「ターンエンド……。もう少しだったのに……」
ミズキ:ダメージ4(裏2) カズヤ:ダメージ5
「俺のターン、スタンドアンド……はぁ」
「……?」
あ、あれ、ドローは?ため息をついて、両腕を力なく下げているけど……。自分のターンなのに、進めようとする気力すら感じない。
そんな私が彼から耳にした言葉は……。
「……飽きた」
「……え」
思わず聞き返してしまうような、信じられない言葉だった。
「あ、飽きたって……ファイトはまだ終わってないですよ」
「あー、知ってる知ってる。終わってませんよねー。こんなクソつまらないファイト」
「えっ……!?」
さっきまでとまるで違う。これが、ずっと感じていた違和感の正体だって言うの……!?
「どうでもいいんだよ、本当。何?勝ちたい気持ち全開で、絶対に負けられないとか張り切っちゃって、今だってあ~惜しかった……なんてさ。俺からしたらウザくて仕方ないんだよ」
「……何でですか。勝ちたいって思って、真剣になる事って間違ってますか?」
「そうやって、こんな紙切れごときで熱くなってさ。どこか楽しいんだか。何のひねりもないし、適当にやってても勝てるような運ゲーのくせに」
「運ゲー……?」
「そんなので全国とか、夢とかチームの絆とかほざいてさ。青春ごっこしてる奴らの気が知れねーんだよ!そう言うの見てると、マジでイライラするんだよ!こっちは!!」
この人は……ヴァンガードそのものを見下している。たかがカード、紙切れかもしれないけど……そこに価値を見出せる事は、何も間違ってなんかいない。
カードを通じて、思いをぶつけあって……その楽しさを、私は知っている。あの秋予選のファイトで、私は確かに彼女と最高の時間を過ごした。
あれが全部、ただの紙切れの見せた笑いごとのような夢だとしたら……そんなの違う。否定してやる。あの時の出来事は、夢なんかじゃない。
それに、この人は……言っていることが矛盾している。だって……。
「あなただって……!この大会に参加してるんじゃないんですか!?それは、ヴァンガードが好きだか――」
「んなわけねぇだろ。俺はただ、頼まれたから参加してるだけさ。そうでもなかったら、こんなゲームに手を付けて、お前らみたいな連中と一緒になって、カード遊びなんかにうつつを抜かしてるわけねーだろうが、バーカ!!」
「……っ!!」
頼まれたから……?そんな適当な理由で、真剣になっている人たちを馬鹿にして、この場所を汚そうとしているの?
「そんな言いなりみたいな理由で、こんな大会に出たんですか」
「当たり前だろ。俺は別に、ヴァンガードに感心なんかないんだ。でも、しろって言われたらする。俺の行動は、そうやって成り立っているんだ」
「他人任せじゃないと、自分の行動すら決められないんですか」
「あぁ。自分で何かを決めるよりも、誰かに与えられた道筋をなぞる方が楽だ。ご期待には応えられるし、俺もその方が何も考えなくていい」
「だったら、正直出ないで欲しかったです!ここにいる人たちは、その人なりの信念や覚悟……夢があって、今ファイトを重ねているんです!何の意味も持たずに、ただ淡々とファイトをするだけなら、最初からいなくてもよかった!」
私だってそうだ。何の目的もなく、ただこの大会に出たわけじゃない。負けられない理由があって、同じ理由を持つ人たちがいて、その人達のためにも頑張りたいって思えるんだ。
それを、青春ごっこなんて幼稚な言葉で片づけないでほしい。私は今、ごっこ遊びで青春を過ごしているわけじゃない!!
「言うじゃん。けどな、その綺麗事……心底うんざりする。そう言うのが嫌いだって言ってんだよ。やっぱ、お前はぶっ潰す!ただの数字の増減でしかないゲームに熱くなる、お前みたいなやつが嫌いだからな!!」
ようやくやる気を見せ、デッキからカードをドローした。けど、その空気はさっきまでとはガラリと変わっていた。
「ライドなし。封竜 コーデュロイ(9000)をコール!スキルでCB1……ミネルヴァを退却!相手はデッキの上からグレード2を1枚コールしないといけない!」
「……樹木の女神 ユピテール!(9000)」
「さらにテリークロスのスキル!CB1、自身をソウルに入れ……オーダインを退却!コーデュロイと同じく、デッキの上4枚からグレード2をコールしろ!」
「く……烏の魔女 カモミール!(9000)」
退却しているのに、ユニットが増えている。このスキルの狙い目はと言うと……。
「ブロケード・インフェルノのリミットブレイク!CB2、相手のグレード2のリアガードを全て退却させ、インフェルノにパワープラス10000!(21000)」
インフェルノの体から、無作為に光が迸る。光はグレード2のユニットだけを貫き、メリッサだけが辛うじて免れた。
「コーデュロイの後ろに、封竜 フランネル(7000)をコール。カルゼのブースト、インフェルノでアタック!(28000)」
「……それで決めるつもりなら、まだ足りないよ!盾の女神 アイギスでガード!スキルでCB1、クインテットウォール!」
ローリエ、アンジェリカ、メリッサ、サイバー・タイガー、ローリエ。シールドは35000のため、完全にガード成功だ。
「また出た。すぐに熱くなる。ただカードを追加で5枚置いただけじゃん。だから、綺麗事だって言うんだよ。そうやって子供みたいに騒いでさ……幼稚なんだよ。馬鹿らしい」
「……っ!さらに、林檎の魔女 シードルでガード!スキルで、神器のヴァンガードにこのバトル中だけスキルを与える!」
「遊びなんだよ。なのに本気になってさ、だから幼稚だって、綺麗事だって言うんだよ。それに気づけないのは、やっぱり幼稚だからか?」
「く……!」
ここは我慢だ。彼を倒して、先に進めばいいだけの事。
「……ドライブチェック、してください」
「ふ~ん。やっと冷静になったか。子供みたいに暑っ苦しいのは嫌なんだよ。ツインドライブ。1枚……封竜 シャンブレー。トリガーはなし。2枚……封竜 シャーティング。ヒールトリガー発動。ダメージを1枚回復し、パワーをコーデュロイへ(14000)」
インフェルノの炎は、アイギスの盾に防がれる。が、炎の勢いが強く、ジリジリと後退させられる。
そこに、5つの魔法陣が出現。アイギスを背後から支え、炎を吹き飛ばすことに成功する。けど、それだけではない。
「ここでシードルの与えたスキル!このバトルで使ったガーディアンは、全てソウルに送られる!」
ガードしたユニットは7体。よって、7枚のカードが新たにソウルとして加わった。
「これでミネルヴァのスキルも使える!次のターンで決める!」
「ん、ぶり返してきたか。そう言うやる気の見せっぷり、そこが子供みたいなんだってわからないみたいだな。フランネルのブースト、コーデュロイでアタック!(21000)」
「リモンチーノでガード!」
「ターンエンド」
ミズキ:ダメージ4(裏3) カズヤ:ダメージ4(裏3)
「私のターン、スタンドアンドドロー!」
リアガードを一気に薙ぎ払われた。けど、ソウルは十分にある。ミネルヴァのスキルがあるから、まず2回のアタックは用意できる。
「メリッサの前に、戦巫女 サホヒメ(9000)をコール!ミネルヴァでアタック!(11000)」
「ターでガード。トリガーは2枚必要だけど……絶対に引く!なんて都合のいい筋書きは、フィクションの中だけだからね?そう言うのに縋るなよ?」
「……ツインドライブ!1枚目……樹木の女神 ユピテール。2枚目……戦巫女 ククリヒメ。ゲット!クリティカルトリガー!効果は全てミネルヴァへ!(16000 ☆2)」
元からこのアタックで決めるつもりはない。本番はここからだ。
「ミネルヴァのリミットブレイク!CB1、SB3、手札3枚を捨てて……ミネルヴァをスタンド!パワープラス5000!(21000 ☆2)」
元から手札にいたバレンシアと、ドライブチェックで得た2枚をコストに、ミネルヴァをスタンドさせる。もう1度、ツインドライブのチャンスだ。
「ミネルヴァで……アタック!(21000 ☆2)」
「シャーティング、シャンブレーでガード。コーデュロイでインターセプト。再びトリガー2枚必要」
「だったら……ツインドライブ!1枚目、全知の神器 ミネルヴァ。2枚目、オレンジの魔女 バレンシア。く……メリッサのブースト、サホヒメでアタック!(16000)」
「……じゃ、ノーガードで」
ダメージには封竜 アートピケ。ドロートリガーが入り、手札が増える。だが、これで追い詰めたのは事実だ。
「ターンエンド!後1ダメージだ!」
ミズキ:ダメージ4(裏4) カズヤ:ダメージ5(裏3)
「俺のターン、スタンドアンドドロー。後1ダメージ……よくそんなに盛り上がれるね」
「…………」
「ま、いいよ。もういい加減にうんざりしてきたし……そろそろ終わらせてやるからさ」
「えっ、ここで……!?」
「封竜 カルゼ(7000)をコール。スキルで手札を1枚捨てて、1ドロー。カルゼの前に封竜 リノクロス(6000) フランネルの前に、炎獄封竜 ブロケード・インフェルノ(11000)をコール」
手札を全て使い切った!?完全ガードまでコールして、クロスライドのパワーにも対応できるようにしてきたって言うの!?
「そして、インフェルノのリミットブレイク!CB2、相手のグレード2のリアガードを全て退却させ、パワープラス10000!(21000)」
無作為に光が放たれ、今度はサホヒメを包んでいく。退却できたのは1体だけでも、パワーが上がり、インターセプトを潰しただけでも収穫はある。
「カルゼのブースト、リノクロスでアタック!(13000)」
「ローリエでガード!」
「再びカルゼのブースト、ヴァンガードのインフェルノでアタック!(28000)」
インフェルノの口に炎が蓄積されていく。今にも溢れそうな炎が、真っ直ぐにミネルヴァを狙い……。
「……まだ、終わらない!挺身の女神 クシナダで完全ガード!コストはミネルヴァ!」
これで私も手札はない。残るリアガードをノーガードしても、まだダメージは5で止まる。次のターンが回ってくるけど……。
「全てはトリガーにかかってる……か。こういう時、幼稚な連中は絶対にトリガーは出ない!信じて見せる!……なんて奇跡とかに縋って見たりするんだろうけどさ。そんなのウザいんだよ。出る時は出る。そこに勝利の女神のようなものは何もない」
「そんなのわからない……。信じる事で、変わるものだって――」
「ないよ。決定されたものを変えられるわけじゃないだろ?カードの並びを変えられるわけでもない。なのに、そうやって真剣になる。子供だましの寸劇見せられているみたいで、笑っちゃうね!」
「……っ、だったら!トリガーが引けるんですか!この状況で!」
「引くかどうかじゃない。あるかどうかだ。俺はそれを願うつもりもないし、縋るつもりもない。ここでとどめを刺せなかったとしても、別にどうでもいいしな」
もう、言葉が出なかった。こんな人が、この大会に出て……必死になっている人たちの気持ちを、あっさりと打ち砕いていく。
「ツインドライブ。1枚目、炎星の封竜騎士。2枚目、封竜 ピエラ。クリティカルトリガー発動」
「……っ!」
「効果は全てリアガードのインフェルノへ(16000 ☆2) フランネルのブースト……リアガードのインフェルノで、ミネルヴァにアタック!!(23000 ☆2)」
「……ノー、ガード」
無防備なミネルヴァに、インフェルノが炎を放つ。燃え盛る灼熱に包まれていくが、まだミネルヴァは諦めた表情をしていない。
「ダメージチェック……1枚目……っ!大鍋の魔女 ローリエ……!」
ヒールトリガー。でも、ダメージの枚数上、回復はできない。つまり、何の意味もない、不発トリガー。
しかも、このトリガーで私は、ヒールトリガーを全て使い切ってしまった。もう6ダメージ目で持ちこたえる事も敵わず、ミネルヴァは消滅していった。
***
「……ミズキ!」
「あ……シオリ」
ファイトが終わり、1人通路を歩いていたミズキに声をかけたのは、シオリとワタル。2人を見て表情は少し緩むが、それでも暗く沈んでいる。
「……星野、俺はもう行くよ。次のファイトがある」
「あ……小沢君」
「ん?」
「ごめん、ありがと」
「何のありがとうだよ。……行ってくる」
「頑張ってね」
多分、気を遣ってくれたんだ。次のファイトがあるのは本当だけど、私とミズキの2人だけにしてあげようって。
そんな小沢君に、私からエールを送る。小沢君はそのまま去っていき、残ったのは私と……ミズキだけ。
「……ごめん、シオリ。負けちゃったよ」
「謝る事なんかないよ。ミズキは十分頑張ったって」
「……うん」
「ヒールトリガーのタイミングがずれてたら、どうなってたかはわからない。ミネルヴァのリミットブレイクのためのコストもあったし、ミズキが勝っていたかも――」
ドサリと、私に倒れこんでくるような感触。ハッとして胸元を見ると、ミズキだった。その体は、震えていた。
「私……あの人とファイトしてて、怖かった」
「怖い?」
「最初は、普通の人に見えた。でも、ファイトしている間もずっと、何か裏のあるような人で……それが違和感みたいにまとわりついて、怖かった」
震えるミズキを、私は体を抱きながら耳を傾ける。
「でも、途中からあの人、本性を見せてきた。ヴァンガードなんて紙切れの遊びだ。そんなのに真剣になっている人たちの気がしれないって」
「え……!?」
「あの人も、ヴァンガードなんてやりたくてやってないって。ただ頼まれてるだけだって。そんな人がこの大会に出て、馬鹿にして……許せなかった」
私も、もし対戦相手がそんな事を口にしてきたら……耐えられない。絶対に勝ちたいって、強く願ってしまう。秋予選で戦った、破滅の翼のように。
「あの人、自分で何かを決めるよりも、誰かに与えられた道筋をなぞる方が楽だって、そう言ってた。全て他人に委ねているって言うか、それが何だか、狂気じみていて……自分の意志が、そこにないみたいで……っ!」
「……そうかもしれない。でもね、その人だって、好きでそんな風には生きていないはずだよ」
「えっ……?」
「私には、その人の事はわからない。実際に会って、ファイトしたわけでもないから。でも……人って、ちょっとした事で大きく変わっていくから」
その傾きがいい方向に向かうかもしれないし、悪い方向に向かうかもしれない。その人は、後者なんだと思う。言い方を変えたら……歪んでいるんだ。
けどね、どんなに歪んでしまったとしても、元に戻すことはできる。時間はかかるかもしれないけど……必ず。
人は、絶望を知る事で、本当の希望を知る生き物だから。
***
そろそろ参加者も少なくなってきた。それに、他のブロックのファイトもレベルの高い物ばかりだ。
「俺も頑張らないとな……」
秋の悔しさをバネにここまで来たんだ。こんなところで終わらせるような真似にだけはしたくない。
星野に森宮、佐原だって……それぞれが全国に強い想いを抱いている。その想いの強さがあるから、まだ誰も負けることなく、ここまで来ているんだ。
「全国への切符……必ずつかみ取ってやる」
「……へぇ、なかなかやる気じゃないか」
「……っ!?お前、は……!?」
何故、お前がそこにいる……!?俺と向かい合う先、MFSを起動させている少年。そいつが俺の対戦相手だと言う事はわかるが……まさか、お前が。
「久しぶりだね、小沢ワタル君。バトルロワイヤルの時以来だから、もう半年以上経っているのか」
「……お前も、参加していたのか!?照山シュンキ!!」
覚悟を教わり、自分の意志の低さを突きつけられた。俺が全国を目指すきっかけ……こいつへのリベンジと言う目標を示してくれた。
俺にとっての因縁の対決は、このような形で幕を下ろすことになった……。