どうやら昨日、原作が始まったらしい。
何故分かるか?そりゃ、平井ゆかりさんの態度を見れば分かる。今まで大人しめな少女だったのに、今日は突然授業を聞かず、注意されると教師のバッシングを始めた。結果教師たちは堪らず教室から逃げ出した。教育者としてそれはいかがなものだろうか。
その後は当然自習になるわけだが、前世では大学まで卒業したものの諸事情あって教育者の道を泣く泣く諦めた僕が黙っていられるはずもなく、つい自信のあるいくつかの授業を再開してしまいました。今までできる限り分かりやすく、面白さも追求しながら。
一応は平井さんのお墨付きの授業ができた。そう満足げに思ってふと我に返る。
うん。これって完全にやってしまったパターンだ。
数日前にはあんなことを考えていたのに、もうすでに原作から離れ始めている………。
いや、自分としては譲れない事だったから仕方ないことだとは思うし、別に離れてもいいのだけどね。それが言い訳にしかならないのは分かっている。
それに、そういう問題でもない気がする。これは教師にも平井さんにも目を付けられそうだ。
そう思いながら昼休みに入る。やはり、僕が一応
結果、教室に残るのは平井さんと坂井のみ。きっとここで坂井は紅世のことについて理解を深めるのだろう。
そして坂井がのこのことトイレに向かってくる。そこを呼び止めた。
「みんな、今日は食堂だったのか?」
坂井の言葉に僕が答える。
「違うよ。他のクラスにお邪魔してたんだ」
そして横にいた、美をつけてもいい容姿を持ちながら妙に軽薄っぽい少年、佐藤啓作が続ける。
「それより坂井、お前、よくあんな騒ぎのあとで、事の張本人と飯が食えるな。いや、俺らも人のことは言えないけどよ。ほんと勇気があるな」
「そうそう、下手するとお前までセンセーたちに目をつけられるぞ?だいたい、お前らって、そんなに仲良かったか?抜け駆けは許さん、許さんぞ!」
そう絡むのは大柄だが愛嬌があり、粗暴には見えない田中栄太という少年。
「いや、仲がいいとかそんなのじゃなくて……」
坂井、お前の苦悩は察するが、その間は余りよくないぞ?そう思いながらも追撃をかける。
「二人っきりで弁当食べて会話してるんだ。十分『そんなの』だぞ?」
「平井ちゃんも、たしかに可愛いといえば可愛いけど、なんつーか、マニアックな趣味だな」
「実はロリ属性持ちだったのか。侮れん奴め」
二人とも、きっと単にからかっているだけだろう。
「あのな……」
声を詰まらせる坂井を見ながら思う。
彼が苦悩しているのは識っている。大方、この何気ない日常を壊したくないとか思っているのだろう。だからこそ僕はその思いを尊重したいと思う。
「やっぱりやましいことがありそうだな?」
だが追い討ちをやめる理由はないのでそう言う。
「ああいう娘に手を出せる神経を見込んで、話がある。是非他の女子とも渡りをつけてくれ」
佐藤も図々しい懇願をする。
「このムッツリが!おとなしい顔して、一体どういう手管を使った!?教えデッ!?」
とりあえず失礼なことをほざいた田中が殴られるのは当然のことだと思う。
時は飛んで放課後。僕にできることはないが、すぐにマリアンヌとフリアグネがやってくることだろう。そして人間も教室も傷付き、修復のために坂井が犠牲になる(消えはしない)。誰も死にはしないが怪我をした人たちが増える。
そんなことを考えているうちに平井さんと坂井は教室を出て行く。僕の体にも“覚えのない打ち身”ができていた。
これで1日が終わったのだと、僕はひとまず安心する。
それでも、まだ物語の序章に過ぎないのだ。明日以降、とりあえずはあと2日間(記憶が正しければあと2日で蹴りは付く)も今日のように無事に(とは言えないかもしれないが)過ぎていくことを願おう。