昼休み。
ふむ。原作を読んでいるときにも思った気がするけれど、吉田さんの悠二への好意は分かりやすい。こんないい子の好意を長期間ほったらかしにした挙げ句、
だから、平井さんと仲良さげに話す悠二を見てからかいたくなるのも仕方ないことなのである。
とはいえからかうきっかけは機会をうかがっていた僕らではなく、
「……ふたりとも、な、仲良いんですね」
この純粋な恋する少女であるのだが。
「そ、そんなことないよ!」
「…………あむ」
ちなみに当事者達は必死に否定するか、そもそも無関心を貫いてメロンパンを食べているかである。どちらがどちらかはお察しの通りだ。
そして、追撃。
「いや、仲いいだろ」「うんうん、いいぞ」「いいって、絶対!」
そんな何気ない昼休み。坂井悠二に確かに迫る非日常の中の
因みに僕らの肯定に最も慌てていたのは本人ではなく恋する少女だったことも記しておく。
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昨日よりも早く訪れた放課後。
悠二は放課後になってすぐ平井さんと一緒に帰って行った。僕らに呼び止められるとでも思ったのだろうか、妙なところだけ鋭いヤツだ。
駆け去る二人の後ろ姿を田中と佐藤が、呆れ顔で見送る。彼らに話しかけようと立ち上がると、近くで吉田さんがキョロキョロしているのが目に入る。
「坂井なら平井さんと一緒に帰ったよ」
思わず話しかけていた。きちんと、
「え、ゆかりちゃんと?」
ビンゴ。思わず宙を仰いでから提案する。
「あのさ、吉田さん。もしよかったら………」
あの二人をつけてみない?
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現在ストーキング中。言葉だけ見ればかなりの犯罪臭が漂うが、ただの友人の素行調査(という名の興味本位)である。
とはいえ、二人は御崎大橋の袂あたりで暫く立ち止まっていたために退屈だ。
「ああ、やっと動き出したな」
二人がやっと進むのを少し離れたところから盗み見て僕は言う。
その背後から、吉田さんがこっそりと不安げな顔を覗かせている。
「で、でも、いいんですか、つけたりして……?」
遠慮がちなその声に隠れる素振りも見せない佐藤が答える。
「気にすることないって、吉田ちゃん。別に邪魔している訳じゃないんだしさ」
「は、はあ」
それでも気にしてしまうのが
「向こう楽しい、俺たち無害、つまりオールオッケーってこと」
馴れ馴れしい口調でも、不思議と嫌みにならないのが、この
でも、その理論はおかしい。人によっては不快に思うのもいるのだから、考慮はすべきだろう。今言うことではないが。だからせめて隠れる努力をしろ…。
そして大柄な田中が騒ぐ。
「そうとも!ここは我々としても、後学のために坂井と平井さんの心温まる交流の一部始終を見届けねばならん!行きましょう、吉田さん!」
「は、はい」
握り拳と一緒の力説に、吉田さんは勢いで頷かされた。
…………だから、お前もデカいんだから騒がずに隠れる努力をしろ。
そう思い、言う。
「おい、あんまり騒いで見つかるなよ。坂井はともかく平井さんがどう反応……っと、す、すいません!」
田中に顔を向けた拍子に、赤いスーツを着た若い女性に肩をぶつけたので謝る。
……否、
違和感しか感じない。確かに肩をぶつけた筈だ。なのに気がした、と
………つまり、たった今トーチが消えたのか。その可能性は高いかもしれない。
そう複雑な気持ちで考える。
「ん、どした、池」
佐藤に不思議そうに聞かれ、はっとして、また後で考えることにする。……忘れそうで怖いが。
「いや、何でもない。気のせいだったみたいだ」
「あの、二人、行っちゃう……」
ためらいがちな吉田さんの小さな声に、意識を二人へと向ける。
少なくとも今は違和感よりも二人の尾行が優先である。
「お、急げ急げ!決定的瞬間を見逃しちまうぞ」
「なにを期待してんだ?」
田中の叫びに呆れつつも、二人の後を追う。吉田さんたちもつづく。
そこで消えた一つの存在に誰一人気づくこともなかった。違和感として気が付いた僕一人を除いて。
気付かれようと気付かれまいと、世界は変わらず動いている。
その空しさに一人溜息を吐いた。
池君、トーチが消えた違和感に気付く。
追記
トーチが消える違和感に気付いたのは、池君が紅世のことを知っていたからです。但し、フレイムヘイズや紅世の徒のようにトーチを判別できないが故にただの人間ではトーチが消えるのを認識できず、池君は彼女に対してさほど関わりもなかったために違和感を捉えるに止まったということにさせていただきます。
独自解釈ですのでそのあたりは悪しからず。