優しい世界を望んだら   作:ガスキン

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原作? キャラ崩壊? そんなん知るかぁ! みんなが幸せならワシは満足なんじゃい!


第三話 あなたが神か・・・

「みなさん、入学おめでとうございます! これから先生やクラスのお友達と一緒に、お勉強、頑張りましょうね!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

黒板の前に立つ先生の言葉に元気よく返事をする子ども達。そして、我が子の姿を優しい笑顔で見守る保護者の皆さん。そんなクラスメイト達とは対照的に、俺は小さくよろしくお願いしますとだけ口にした。流石に精神年齢的にあんな風に振る舞うのは恥ずかしいし、かといってスルーするのは先生に失礼だと判断しての事だ。

 

転生を自覚して一年。あっという間に月日は流れ。本日、俺とマドカは小学校に入学した。体育館で校長先生のありがたいお言葉を頂いた後、新入生達はそれぞれの教室へ案内され、担任の先生から希望ある小学生生活について色々な説明を受けている。

 

ちなみに、俺とマドカは同じクラスだった。出席番号は名字が同じの場合、名前順というルールなので我が妹は俺の次。席も後ろだった。・・・さっきから後頭部に視線を感じる。マドカさんや、今は先生が話しているんだから先生に注目しなさい。

 

マドカの視線を後頭部に浴びつつ、俺は横を向く。・・・いた。教室の真ん中あたりの席に“あの子”が座っている。緊張しているのか、視線を辺りに彷徨わせ、それに合わせてポニーテールを揺れている。離れていてもわかるくらい綺麗な黒髪だった。

 

「あっ・・・」

 

“あの子”が俺を見る。必然的に俺と“あの子”の目線が交わる。せっかくなのでよろしくの意味も込めて微笑んでみた。

 

「ッ・・・!?」

 

・・・ものっそい速度で目を逸らされた。うーん、この選択肢は外れだったか。でもってマドカ、背中の肉をつねるの止めて。地味に痛いから。

 

ついでとばかりに後ろを覗くと、入口辺りに父さん母さん、千冬姉さんが揃って立っている。今日の為に、みんなわざわざ予定を調整して来てくれたのだ。当然・・・とも思われるかもしれないが、原作を考えると感慨深いものがある。

 

あ、父さんと目があった。ま・え・を・む・け・・・。あらら、怒られてしまった。っと思ったら千冬姉さんとも目があった。き・ょ・う・い・っ・し・ょ・に・ね・・・うん、俺は何も見なかった。

 

そんな家族から視線を横にずらせば、“あの子”の両親らしき二人。そして、姉である“彼女”が原作そのまんまの姿でそこにいた。意外だ。妹大好きな“彼女”でも、こんな場所には来ないと思っていたが・・・。

 

そうそう、原作知識といえば、以前あまり当てにしないと決めた事が理由なのか、最近所どころ抜け落ちて来た。まあ、現状それで困る様な事は無いのであまり気にしてはいないんだけどな。

 

「それでは、お友達の前で、一人一人自己紹介してもらいましょう!」

 

おおう、やっぱり来たか自己紹介イベント。出席番号一番、相沢 剛史君がカチコチした動きで先生の隣に向かう。頑張れ相沢君。トップバッターで緊張するのはわかるが、キミが今後の流れを形作るんだから。

 

「あ、相沢 剛史です! す、好きな食べ物はカレーです! よろしくお願いします!」

 

「はい! 良く出来ました! 好きな食べ物を教えてくれてありがとう! 先生もカレーは大好きです!」

 

湧き上がる拍手に、相沢君は安堵の笑みを見せる。よくやった相沢君。誰に言われたわけでもないのに、名前だけじゃなく、一言付け加えるとは。

 

「それじゃあ次は、井上 沙良さん」

 

「はい!」

 

二人目の井上 沙良ちゃん。三人目の植木 薫君。四人目の遠藤 愛華ちゃん。俺とマドカを入れたら、これで目出度くあ行コンプリートだ。

 

「では、織斑 一夏君!」

 

っと、そんな事考えている間に俺の番だ。さて、どうするか。あまり仰々しくしても子ども達にはわからないだろうし、かといって適当には出来ない。

 

「初めまして。織斑 一夏です。ここにいるみんなと楽しい思い出をたくさん作っていきたいと思っています。それと、何か困っている事があれば言ってください。俺でよければ力になります」

 

うーん、困って~の部分は正直いらんかったかな。それでも、みんな好意的に受け取ってくれているようだし、先生も「織斑君は優しいんですね~」なんて言ってくれている。

 

父さん達の反応も悪く無い。ただ、千冬姉さんは俺が前に立った時からカメラのシャッターボタンを連打していてその顔を見れなかった。てか何あのカメラ。姉さん、あんな変形してロボットになりそうなゴッツイカメラ持ってたか?

 

「次、織斑 マドカさん! いま自己紹介してくれた一夏君の双子の妹さんですね!」

 

「見ててね、お兄ちゃん・・・」

 

そんな言葉を残して俺の横を歩いて行ったマドカ。あの表情、よっぽど自信があるようだな。

 

「・・・織斑 マドカ。好きなものはお兄ちゃん。嫌いなものは私とお兄ちゃんの仲を邪魔する全てのもの。趣味はお兄ちゃんの観察。以上・・・」

 

んー・・・こんな時でも某ネコアイドルみたいに自分を曲げない所は立派だと思うよマドカ。でもね、この凍りついた空気どうすんの? 最初の好きなもので微笑んでいた保護者のみなさんが、嫌いなものの所で表情を変え、最後の趣味で完全にヤバいものを見る目に変わってたよ。

 

「あ、あははー。マドカさんはお兄ちゃんが大好きなんですねー。先生にはお兄ちゃんもお姉ちゃんもいないから羨ましいなー」

 

ええ先生や・・・。必死にフォローする先生を見て、俺の中で彼女への好感度が急上昇した。

 

さて、マドカのおかげで微妙な雰囲気になってしまったが、それもすぐに元に戻り、クラスメイト達が次々に自己紹介をしていき、ついに“あの子”の番となった。

 

「ええっと・・・次は篠ノ之 箒さんですね。前に出て来てください」

 

「・・・はい」

 

先生に促され、静かに黒板前に移動する篠ノ之 箒ちゃん。彼女こそ、ISの第一ヒロインにして、織斑 一夏のファースト幼馴染である。・・・って事は、これから俺と彼女は幼馴染となるわけなんだよな。いいかげん、織斑 一夏=自分だって認識しなければ。気を抜くと第三者視点で物事を見てしまう。こんな癖持ってなかったはずなんだが。

 

「・・・篠ノ之 箒だ」

 

凛とした声で自分の名を口にする篠ノ之ちゃん。その透き通る様な声色に、クラスメイト達の意識は一瞬で彼女にワシ掴みにされてしまっていた。同時に、どんな事を話してくれるのか、期待に満ちた目線を送っている。

 

だが、数秒経っても、篠ノ之ちゃんは言葉を発さない。それを不思議に思った先生が声をかける。

 

「え、えっと・・・篠ノ之さん。他に何かみんなにお話する事は?」

 

「ありません」

 

「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」」」」」

 

ガタン! と大きく机を鳴らしながらクラスメイト達が机に突っ伏す。・・・むむ、この年でこのノリ・・・出来るな。

 

これ以上話す事はないと、席に戻ろうとする篠ノ之ちゃん。その時、保護者達の中から一人の女性が前に出た。淡い紫色の髪に、少し垂れた目。そして、若干浮き気味なドレスっぽい服装をしたその女性は、大股で篠ノ之ちゃんの元へ向かう。

 

「ね、姉さん!?」

 

「ダメダメ! も~ダメだよ箒ちゃん! せっかく束さんが絶対にみんなのハートをキャッチ出来る自己紹介のやり方を教えてあげたのに、何でやらないのさ~!」

 

「だ、だって、あんなの恥ずかしくて・・・」

 

「まあ、緊張しいの箒ちゃんにはハードルが高いかもしれないかな~」

 

「わ、私は別に緊張なんて・・・!」

 

「してないの? じゃあ出来るよね? うん、よかったよかった! ではでは先生さん! これから箒ちゃんの自己紹介take2が始まるからよろしく~」

 

「え・・・え・・・?」

 

オロオロする先生を尻目に、女性は踵を返し後ろへ戻って行った。注意されてるけど本人はどこ吹く風~な感じだった。

 

「う・・・うう・・・」

 

? 篠ノ之ちゃんの顔が真っ赤だ。何だ、一体何をおっぱじめる気なんだ?

 

俺が首を傾げた正にその時、篠ノ之ちゃんが動いた。左手を腰に当て、親指、人差し指、中指だけを立てた右手を顔の前に置き、可愛らしい笑顔と共に口を開いた。

 

「オ、オッシュ! 箒だよ! みんな、仲良くしてね! テヘッ!」

 

―――刹那、世界から音が消えた。先生も、クラスメイトも、保護者のみなさんも、一言も発さず、篠ノ之ちゃんを凝視しているだけだった。しかし、次の瞬間、その静寂は一人の女性によって破られる事となった。

 

「箒ちゃんのオッス! からのテヘッ! 頂きぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

バンバンと、最早シャッター音とは思えないほどの音を出すカメラで篠ノ之ちゃんを取りまくる紫髪の女性。なんだよあのカメラ・・・。バズーカって言われてもおかしくないぞ。

 

「しかもオッスを噛んでるし! オッシュって何さオッシュって! ああ、心がピョンピョンするんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「・・・うう」

 

興奮する女性とは対照的に、篠ノ之ちゃんの表情が見る見る内に曇っていく。そして、その目に涙が滲み始め、呆気無く決壊する。

 

「うえぇぇぇぇぇぇぇん! だからやりたくなかったのにぃぃぃぃぃぃぃ! 嫌われた! 絶対みんなに嫌われたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「だ、大丈夫よ篠ノ之さん! とっても可愛らしい挨拶だったわ!」

 

「そうだよそうだよ箒ちゃん! 可愛い過ぎて束さん鼻血でそ―――」

 

「いいかげんにしろ束っ!」

 

「なのはっ!?」

 

女性の右隣にいた男性が、彼女の頭に強烈な拳骨を叩き落とした。女性はよくわからん悲鳴と共に頭を押さえながらその男性を睨んだ。

 

「うぐぐぐ・・・。何するのさマイファザー!」

 

「馬鹿者! 他のみなさんの迷惑になっているのがわからんのか!」

 

「い、いや、束さんはただ箒ちゃんの魅力をクラスメイツに・・・」

 

「箒まで泣かせておいて何を言う! 来い! お前には今一度常識という物を叩き込んでやる必要がありそうだ」

 

「うぷぷぷー。天才である束さんは常識になんか囚われ・・・え、ちょ、これってマジコース?」

 

「・・・千冬君、よければ手伝ってもらえないかな」

 

「喜んで」

 

「まさかのちーちゃん参戦で束さんの寿命がマッハ! マ、マミー! 箒ちゃん! へールプ!」

 

男性に引き摺られ、教室を出ていく女性。そんな彼女と目があった俺は、無言で親指を立てた。

 

(あなたに感謝を・・・)

 

(へへ、お安いごようさぁ・・・)

 

この時、確かに俺達の心は繋がっていた。後に彼女とこの時の事を語り合った際、俺の予感は正しかったと知る事となる。

 

篠ノ之 束・・・やはりこの世界でも彼女はぶっ飛んでいる性格の様だ。それがいい方向に行っているのか、それとも逆に向かっているのか、今はまだ判断がつかない。

 

「うえぇぇぇぇぇぇん!」

 

そして、未だ泣きじゃくり続ける篠ノ之ちゃん。だが、束さんの言う篠ノ之ちゃんの魅力をクラスの子達の理解させるという狙いは達成されていると俺は思う。

 

「「「「「・・・」」」」」

 

何故なら・・・クラスのほぼ全ての男子が顔を赤らめ、女子は母性溢れる笑みを篠ノ之ちゃんに向けていたのだから。

 

(どうやら、みんな彼女にやられてしまったようだな)

 

篠ノ之ちゃん・・・恐ろしい子!

 

「あの子は・・・危険・・・」

 

マドカの呟きは俺の耳には届かなかった。

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