優しい世界を望んだら   作:ガスキン

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最近モノノフになったりアイドルのプロデュースを始めたりで忙しかったので更新が遅れました。


第五話 お前のそれは剣道じゃないKENDOだ

篠ノ之ちゃんのリボン事件から数日が経過した。この日、朝のHR前の時間、俺は四人のクラスメイトと談笑していた。この四人というのでピンと来たかもしれないが、彼等はリボン事件で篠ノ之ちゃんと和解した子達だ。

 

「兄貴、昨日のテレビ見たか!? すっげー面白かったよな!」

 

俺に向かって身を乗り出しながら元気よく声をあげるのは、彼等のリーダー各であるゴリ君だ。このゴリというのはもちろん本名では無く渾名なのだが、本名で呼ぼうとすると「俺と兄貴の仲じゃねえか。名前で呼んでくれよ!」と頑なに拒否されたので、仕方なく俺もゴリ君と呼ばせてもらっている。

 

「ゴリ君。同意を求める前にまず番組名を言わなければ兄貴もわかりませんよ。もしかしたら違う番組をご覧になっていたのかもしれませんし」

 

そんなゴリ君に冷静にツッコミを入れている眼鏡の少年。仲間内からハカセと呼ばれている彼は、どこに行くにも常に分厚い辞書を持ち、仲間達からの質問に瞬時に答えるとても頭のいい男の子だ。重く無い? と聞けば「僕はアナログ派なので」と返された。今どき珍しい子だなと思う。

 

「あははー。ゴリは馬鹿だなー」

 

ニッコリ笑顔でストレートな言葉をゴリ君に向けたのはハル君だ。いつも太陽みたいにニコニコしているからそう呼ばれる様になったらしい。小柄な少年で、整った顔立ちも合わせて王子様みたいな子なのだが、毒舌というか、中々にキツイ言葉をポンポン口にするので、初見で驚かれる事が多いのだとか。

 

「んだとハル! もう一回言ってみろ!」

 

「この距離で聞き返すとか、ゴリ、耳掃除ちゃんとやってるの?」

 

「ああ!?」

 

「お、落ち着けってゴリ!」

 

最後の一人であるヤス君がヒートアップするゴリ君を止めに入ったのだが・・・。

 

「ヤスは引っ込んでろ!」

 

「そうそう、ヤスの出番は無いよ」

 

「ヤス君、空気を読んでください」

 

「何で止めようとした俺が責められてんの!?」

 

今のやり取りでわかるように、彼はこのグループの中の所謂イジラレ役だった。イジラレ役というのは一歩間違えたらイジメに発展する恐れもあるが、今の所その心配は必要なさそうだった。ちなみにヤスというあだ名も特に意味の無いものらしい。

 

「兄貴~。ゴリ達が俺を虐める~」

 

「大丈夫だよ。ゴリ君達も本気で言っているわけじゃないさ」

 

俺がそう言うと、ヤス君は「俺の味方は兄貴だけだぜ」と哀愁の籠った表情を見せた。

 

とまあ、中々に個性的な子達だが、基本的にみんないい子だ。兄貴兄貴と慕われるのは少々くすぐったい気もするが、仲良くしていけたらと思う。

 

 

 

 

んでもって放課後。鞄を持って席を立った所でゴリ君達が駆け寄って来た。

 

「兄貴、もしヒマならこれから公園に集まって遊ぼうぜ!」

 

「これから?」

 

「・・・ダメ。お兄ちゃんはマドカ達と一緒に行く所がある」

 

とそこへ、篠ノ之ちゃんを連れたマドカがやって来た。・・・ああ、そういえば今日の朝、千冬姉さんから放課後は空けておいてくれって言われてたな。

 

「すまないゴリ君。マドカの言う通り、今日は予定があるんだ」

 

「そっかぁ。・・・なら、また今度遊ぼうぜ!」

 

「ああ。ぜひまた誘ってくれ」

 

「じゃあな兄貴!」

 

「さようなら篠ノ之さん」

 

「織斑さんも気をつけて帰りなよ」

 

「え、ちょ、俺も何か・・・サ、サラダバー!」

 

ゴリ君、ハカセ君、ハル君、そしてヤス君の順番で挨拶をして去っていく四人。その背中を見送った所で俺達は顔を見合わせた。

 

「お兄ちゃん、サラダバーって何?」

 

「・・・触れてあげるなマドカ」

 

「? わかった」

 

「ところで、これから俺達はどこに行くんだ」

 

ヤス君の為に話をさっさと切り上げ、俺は思っていた疑問を口にした。

 

「ああ、お前達にはこれから私の家に来てもらう」

 

「篠ノ之ちゃんの家? ひょっとして・・・篠ノ之神社かい?」

 

「ちゃっ・・・! お、織斑。前から言おうと思っていたのだが、そのちゃん付けは止めて欲しい。なんだか軟弱な響きだし・・・何より、私みたいな可愛げの無いヤツに付けても違和感しかないだろう」

 

「いや、その理由ならむしろ付けるべきでしょ。篠ノ之ちゃん可愛いんだから」

 

「なぁっーーーー!?」

 

どんだけ自己評価低いんだこの子は。自分がどれだけ魅力的なのか、このクラスが証明しているというのに。

 

「ちょ、ちょにかく! 千冬さんも待ってるし、早く行くじょ!」

 

カミカミなセリフと共に教室を飛び出して行く篠ノ之ちゃん。おーい、案内役が先に行ってどーすんの。

 

「マドカ、置いてかれる前に俺達も急ごう」

 

「お兄ちゃん、マドカはちゃん付けしていいよ」

 

「いや、妹にちゃん付けはおかしいだろ。ほら、行こう」

 

「・・・解せぬ」

 

 

 

そういうわけで、やって来ました篠ノ之神社。いやあ、石階段は強敵でしたね。これを毎日上り下りしている篠ノ之ちゃんは凄いわ。

 

「・・・ところで、何でお姉ちゃんが神社に?」

 

マドカがコテンと首を傾げる。うむ、とても可愛らしいしぐさだ。十点あげよう。

 

「すまない、説明が足りていなかったな。この篠ノ之神社の境内には道場があるんだ。千冬さんもそこにいる」

 

「道場? 何の?」

 

マドカの質問に、篠ノ之ちゃんは篠ノ之の家の歴史も交えながら説明をしてくれた。淀みなく言葉を紡ぐその姿は、自分の家に誇りを持っている様に俺に見えた。

 

「そういうわけで、千冬さんもここで剣の修業を行っているというわけだ」

 

「なるほど、あのガチガチ筋肉の秘密はこれだったんだ・・・」

 

「それ、本人の前で言わない様にな」

 

軽く嗜めつつ、篠ノ之ちゃんの後に続いて道場へ向かう。入口の扉を開けた瞬間、中から気合いの込められた叫び声がいくつも聞こえて来た。

 

「ほわぁ・・・」

 

何とも気の抜けた声を出しながら目をパチクリさせるマドカ。それを見て篠ノ之ちゃんが微笑む。

 

「ふふ、これくらいで驚いていたら身が持たないぞ。・・・さて、父さんと千冬さんは・・・」

 

「おお、帰って来たか箒」

 

どうやら向こうから見つけてくれた様だ。一人の男性が俺達の前にゆっくりと歩いて来た。この顔には見憶えがある。間違い無い、入学式の日に千冬姉さんと一緒に“あの人”をお仕置きした篠ノ之ちゃんのお父さんだ。・・・にしても、明らかに他の人達と雰囲気が違う。武士じゃん。その右手に持ってるの竹刀ですよね? 真剣じゃないですよね?

 

「ただいま父さん」

 

「ああ、お帰り。後ろにいる二人はもしかして・・・」

 

「ッ・・・!」

 

視線を向けられ、マドカが咄嗟に俺の背中に隠れた。流石のマドカも怖かった様だ。

 

「ははは、怖がらせてしまったかな。私は篠ノ之柳韻。箒の父でこの神社と道場の主だ。キミ達は千冬君の弟さんと妹さんだね?」

 

「初めまして、織斑一夏です。こっちは妹のマドカです」

 

「・・・にちは」

 

「一夏君にマドカ君だね。学校では箒が世話になっている様だ。父として、お礼を言わせてもらうよ」

 

「世話・・・ですか?」

 

「特に一夏君、箒からはキミの事をよく聞いているよ。「父さん、織斑は凄い「めぇぇぇぇぇぇぇん!!!」とか、「私の目指す強さの形・・・それはアイツ「どぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」なんて具合にね。この娘がこれほどまでに言う子だ。私も一度会いたいと思って・・・」

 

「わーーーー! わーーーー!」

 

「どうした箒、いきなりそんな大声を出して?」

 

怪訝な表情を見せる柳韻さんを無視し、篠ノ之ちゃんは睨むように俺を見つめて来た。

 

「お、織斑! 今のはだな・・・!」

 

「ゴメン篠ノ之ちゃん。周りの声が大きくて上手く聞こえなかったんだけど」

 

「え、な、そ、そうか! それならいいんだ! うん!」

 

顔を真っ赤にしながらしきりによかったと繰り返す篠ノ之ちゃん。ぐぬぬ、そんな反応されると逆に気になるのだが・・・。

 

「それで、千冬姉さんは・・・」

 

「ああ、千冬君ならあそこだよ」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

柳韻さんが指し示した方へ顔を向けたその瞬間、剣道防具に身を包んだ千冬姉さんらしき人物が目にも止まらぬ速さで対戦相手に剣を振り下ろした。周囲にバシィィィィィンという凄まじい音が鳴り響く。

 

「・・・流石千冬君だ。この調子で成長すれば、数年後にはとんでもない怪物になりそうだな」

 

つまり、千冬姉さんはこの時点ですでに人外への道を歩み始めているというわけですね。はは、何それワロス・・・ワロス・・・。

 

対戦相手に一礼し、千冬姉さんが面を取る。その瞳が俺達を捉え、姉さんは嬉々とした表情で俺達の方へ近寄って来た。

 

「来ていたんだな一夏、マドカ」

 

「ついさっきね。今の見てたけど、凄かったよ姉さん」

 

「ふっ。惚れ直したか」

 

「うん」

 

剣道なんか前世の選択授業でしかやった事無いが、そんな俺でもさっきの一撃は美しいと思ったし、純粋に見惚れた。

 

なんて思っていたら、何故か目の前で千冬姉さんがorz 状態になっていた。

 

「何故だ・・・何故いま私はレコーダーを持っていなかったのだ・・・!」

 

「いや、持ってたらダメだろ」

 

「甘いねお姉ちゃん・・・。私なんか常に三つ携帯してるもん・・・」

 

「何故に?」

 

「お、おほん! ところで今日来てもらったのはだな」

 

俺のツッコミは見事にスルーされた。

 

「一夏、マドカ。お前達さえよかったら、ここで剣道を始めてみないか?」

 

「剣道を?」

 

「先生」

 

「うむ、そこから先は私が話そう」

 

姉さんからバトンタッチされ、柳韻さんが説明を始めた。簡単に言うと、最近引っ越しやら何やらで門下生がごっそり減ってしまったので、今いる門下生達に始めてくれそうな子がいないか色々聞いていたらしい。そこで、千冬姉さんが俺達の話をしたもんだから、それならぜひ・・・との事だそうだ。

 

「でも、色々お高いんでしょう?」

 

「道着や防具はこちらで用意するよ。お願いする身である以上それくらいはさせてもらうよ」

 

いや、今のはちょっとボケてみただけというか、そんな冷静に返されるとこっちが恥ずかしいです。

 

なんて言おうか必死に考えていると、篠ノ之ちゃんがおずおずと言った感じで声をかけて来た。

 

「織斑、もちろんお前が嫌なら断ってくれてもいい。それでも、出来れば私はお前に剣道を始めて欲しい」

 

「え?」

 

「剣道を始めた時、父さんは私に言った。私にとっての“強さ”とは何なのか、いつかその答えを聞かせて欲しいと。・・・今の私にはその答えがわからない。だけど、お前となら掴む事が出来るかもしれない。私なりの“強さ”・・・その答えを知る切っ掛けを。お前と共に、互いを高め合える様になれたら・・・私は、嬉しいんだ」

 

胸に手を当て、はにかむ篠ノ之ちゃん。・・・うん、もし今この状況を見ている人がいたら、きっと俺と同じ事を思っているはず。それじゃあみなさん、声を揃えて、せーの・・・!

 

(この子の中で俺の評価どうなってんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?)

 

「す、すまない。こんな事いきなり言われてもお前だって困るだろうに・・・。でも、これが私の正直な気持ちなんだ」

 

止めて! そんなキラキラした目で見ないで! 俺には眩し過ぎて直視できな・・・。

 

「ふっふっふ・・・話は聞かせてもらったよ!」

 

その時、どこからか突如として女性の声が聞こえて来た。上か!? 下か!? いや・・・後ろか!

 

「はろはろー! 束さん一人お届けに参りましたー! この私を差し置いて何やら楽しそうな事をしている様だけど、そうは問屋が卸さないよ! 四の五の言わずに混ぜやがれぃ!」

 

青いワンピースの上からエプロンを纏い、背中に大きなリボン。極め付きはその頭についているウサギの耳。おおよそ道場に似つかわしくない意で立ちをした女性がポーズを決めて立っていた。

 

「うぷぷぷ。みんな束さんの華麗な登場に見惚れちゃった・・・」

 

「・・・束。とりあえず入口を閉めたらこちらに来て正座しなさい」

 

「待ってよマイファザー。まだセリフの途ちゅ・・・」

 

「正座」

 

「・・・はい」

 

(どーすんだよこの空気・・・)

 

正座させられ、柳韻さんに説教をされる女性を見つめなら、俺は周囲を漂う微妙な空気に溜息を吐くのだった。




この世界の天災さんは原作とは違うベクトルで残念になってもらいます。
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