異世界転生の導入テンプレを何か料理できないかと首を捻った結果、遊び心で生まれた短編です。

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トラックに轢かれて転生できずにそのまま死ぬだけのお話

 ファアアアアアアン、と。

 甲高いクラクションが耳に飛び込んできた時、真横に振り向いた僕の視界はトラックに埋め尽くされていた。

 あ、死ぬな、と。

 体感的にスローモーションとなった世界の中で、意外にも僕は自分の人生のゴールを受け入れていた。

 死ぬのは怖くなかった。

 むしろ、このままあと数十年も生きていかなければならない方が辛いとさえ思っていた。

 先行きの見えない人生、人間関係の行き詰まり、挫折から立ち直れない自分、そして悲劇気取りの自己憐憫だけが慰めになる日課の妄想。そんな人生に疲れていて、咄嗟に「生きたい」という発想が思い浮かばなかった。

 つまり、このまま死のうと思った。

 元々、僕は積極的に生きていたい訳ではないのだ。ただ、生物というのは「本能的になんとなく死ぬのが怖い」とDNAにコードされている。つまり、生存願望は僕の意思じゃない。遺伝子による洗脳だ。

 食欲、性欲、睡眠欲なんて釣り餌に惑わされ、「明日もこの快楽を体験したい」と強制的に生かされているに過ぎないのだ。

 だから、言うなればラッキー。

 僕はここで、安楽死を遂げる。

 自殺する勇気を持たない惨めな僕へ、いるかも怪しい神が差し伸べた救いの手。どこの誰かも知らないが、この偶然を招いた誰かがいたのなら僕は神と呼んでやる。そんな気分だった。

 そんな気分で目を閉じる

 

 

 

 ――――――――その寸前だった。

 

 ギャルッッッ!!と、トラックの運転手がハンドルを急に切った。

(な、に――――ッッ!?)

 トラックが急制動により、その進路が僅かに逸れる。

 あろうことか、僕への直撃コースを逸れ、僕の半身しかぶつからないコースへとトラックをズラしたのだ。

 心臓が縮み上がった。

 これでは即死できない。

 真っ白になりかける頭を、強引に動かす。フリーズしたら詰みだ。思考を高速回転させる。

 トラックの速度は目算で時速60km。法定速度を律儀に守っているなんて、最悪だ。これじゃあ肋骨ぐらいは粉砕するかもしれないが、即死できずに救急車を呼ばれてしまう。

 痛みなく即死するには、トラックのバンパーに頭を直撃させる必要がある。 

 僕は歩行の姿勢のまま、空中で右足の軌道を強引に変える。

 でも、間に合わない。

 車が急に止まれないのと同じように、人間にだって関節がある。骨格を無視したアクロバットな動きは物理的に不可能なのだ。

(どうする――――ッッ!?)

 思考を高速回転させる最中も、トラックはどんどん僕から逸れていく。タイムリミットが迫る。

 

 このままでは、死ねない――――!!!!

 

 その瞬間、僕の頭の中で、何かがブチリと焼き切れた。

 関節の駆動域を無視して、自分の足首を破壊するように体を反転させる。そのまま、伸び切っていた太股と脹脛の筋肉を収縮させ、バネのように跳ねた。

 そう。

 人間に限らず、生物は自身の体にリミッターをかけているという。理由は、本領発揮をしてしまうと自身の体を壊してしまうため。電源にはブレーカーが設定されているのと同様に、安全性を度外視する事で犠牲と引き換えに本来のスペックを発揮する事ができる。

 そういったリミッターは、極限状態が引き金となって外れる事があるのだ。

 例えば、肉食獣に追い詰められた草食動物が恐ろしい力を発揮するように。

 例えば、親のパソコンでエロサイトをネットサーフィンしている最中にウイルスに感染して「どうしようどうしようどうしよう…」と焦って思考を高速回転させた小学生の頃の僕のように。

「う、ォぉぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ビキビキと骨の軋む音を無視して、一瞬よりも短い刹那の時間を僕の体が泳いでいく。

 この時。

 僕は人体の限界を超えていた。

 人としての動きを完全に超越した、限界のその先の領域へと到達していた。

 人類史上、未踏の世界へ僕という存在はシフトしていた。人間という分類を超越し、魂が『進化』したのだ。

 寿命を超えて生きた人間が仙人となるように。

 生物の枠を突き抜けた存在は、より高次元の存在へと格上げされる。僕はそれを、生物としてのリミッターを解放する事で成し遂げたのだ。

 誰に教えられた訳でもなく、僕はそれを魂で理解した。

 高次元生命体と化した僕の精神が、時間という概念のない精神世界へトリップする。

 歴史の(いただき)

 因果律の歯車を回す河。

 万物を縛る摂理の形。

 

 ああ、これが「世界の真理」か……

 

 科学でも魔法でも決して至る事のできない、神と同じ目線を知った。

 

 死ぬ間際、僕は世界の真理へ到達した。

 不思議と、迫り来るトラックを視界に収めながら、僕は笑顔を浮かべていた。

(そうか、この世界は、本当は――――――――)

 

 

 ――――直後、僕はトラックに撥ね飛ばして即死した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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