武藤遊戯のデュエルロード   作:YASUT

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とりあえずARC-Vの主人公、遊矢とデュエル。
お楽しみは、これからだ!

注意:アニメオリジナルカード、アクションカードあり。


エンタメデュエリスト、榊遊矢

 デュエル開始の宣言と同時に、上空に大量のカードが出現。エフェクト、サウンドを伴って各地に弾けた。

 カード達がヒラヒラとブロードウェイに落ちる。表は緑、裏にはAの文字。一見魔法(マジック)カードのようにも見えるが――。

 

「……うーん」

 

 ……何もかも分からない、というのが正直な感想だった。

 両者共にライフポイントは4000。ターンプレイヤーは武藤遊戯。一応はこちらの先行だ。

 

「……ボクはモンスターをセット!

 伏せ(リバース)カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

 壁モンスター、伏せ(セット)カードを場に出し、ターンを終える。

 とにかくまずは様子見だ。アクションフィールドとアクションデュエル。これらのルールを把握できていない以上、後手に回るのは仕方ない。

 

「ワタシのターン、ドロー!」

 

 後攻、榊遊矢くん。彼は手札から2枚のカードを摘み、こちらに公開する。

 カラーは橙と緑。効果モンスターと魔法(マジック)の二色を持つカードだった。

 

「ワタシはスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢くんは二色のカードをソリッドビジョンのディスクにセットする。

 彼の両隣に青い光の柱が出現し、2体の魔術師が浮上する。

 星読み――白い魔術師が数字の1を。

 時読み――黒い魔術師が数字の8を指し示す。

 

『――――』

 

 通信越しでも分かる。この光景を見ている者、全員が息を飲んだ。

 上空に浮かぶ2体の間に巨大なペンダントが現れる。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」

 

 ペンダントは左右に揺れ、光の軌跡を描き始める。

 

「――ペンデュラム召喚! 現れろ、ワタシのモンスター達!」

 

 遊矢くんが手を振り上げた瞬間、虚空に孔が開いた。

 そして、孔から二つの光……モンスターがフィールドに落下する。

 

「レベル4! 《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》!

 レベル7! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 現れたのは2体。巨大な爪を持つ狼と、二色の眼を持つ赤き竜。

 そのうちの一体は、本来なら2体の生け贄を必要とする上級モンスターだった。

 即座にデュエルディスクを確認する。しかし反応はない。今の召喚は至って正常なものらしい。

 

『フン……なるほどな。ここにシフトした理由はこれか』

 

 海馬くんは一人で納得したように呟いた。

 ……分析は彼に任せよう。今はこのデュエルに集中する。

 未知のフィールド、未知のカード、未知の召喚法。ここは完全に相手の土俵。油断すればきっと負ける。

 

「いかがでしょうか、遊戯さん。これがペンデュラム召喚。スケールに挟まれたレベルのモンスターを一度に召喚できる召喚法です」

「うん。凄いと思うよ」

 

 適当に相槌を打ちながら、4体のモンスターを観察する。

 気になったのは宙に浮く2体の《魔術師》だ。あれには何か仕掛けがあると、決闘者(デュエリスト)としての感が告げていた。

 

「ありがとうございます。でも、だからって手加減はしませんよ!

 さあ、バトルです! シルバー・クロウで守備モンスターを攻撃!」

 

 銀狼がブロードウェイを駆け、巨大な爪で守備表示のカードを切り裂く。

 けれど、それは狙い通り。

 シルバー・クロウが破壊したのは赤いマシュマロ。

 柔らかい身体でマカロンを形作るモンスター、すなわち《マシュマカロン》。

 

「ここで、《マシュマカロン》の特殊効果発動!

 このモンスターは破壊された時、分裂復活する!」

 

 デッキから新たに2体の《マシュマカロン》を守備表示で特殊召喚。

 このカードは破壊された時、一度だけ同名カードを手札・デッキ・墓地から特殊召喚できる。

 プレイヤーを守る壁であり生け贄。動きが単純な分読まれやすいが、使い勝手もいい。

 

「ワタシの攻撃はまだ残っています! 行け、オッドアイズ!」

「永続(トラップ)、《光の護封霊剣》! 

 ライフを1000ポイント払い、相手モンスターの攻撃を封じる!」

 

 (トラップ)カードを発動。3本の光剣がドラゴンを妨害するべく発射された。

 目的は生け贄の確保。手札に上級モンスターはないが、次のドロー、もしくは手札の魔法(マジック)カードで引けるかもしれない。

 

「甘いですよ、遊戯さん! 《時読みの魔術師》のペンデュラム効果発動!

 ペンデュラムモンスターが戦闘を行う時、ダメージステップ終了時まで相手は(トラップ)を発動できない!

 ――『インバース・ギアウィス』!」

「っ……!?」

 

 《時読みの魔術師》の右手のガントレットから、時を刻むように曲線が描かれる。

 時が逆流する。発射された光剣は巻き戻り、《光の護封霊剣》が再度伏せられた。

 

「攻撃は続行! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃!

 ――『螺旋のストライク・バースト』!」

 

 竜のアギトが開き、赤熱のブレスが《マシュマカロン》を焼き尽くした。

 守備表示だったためダメージはない。むしろ今の攻防で《時読みの魔術師》の効果を把握できたのはプラスだ。

 となればもう一体、《星読みの魔術師》の効果も推測できる。

 時読みと対となる外見、名称。(トラップ)カードと対、すなわち魔法(マジック)カードを封じる《魔術師》と見て間違いない。

 

「さて、これでワタシのモンスターは攻撃を終了しました。

 ですが! お楽しみはこれからです!」

 

 攻撃は全て終了したが、それを否定するように遊矢くんは走り出す。

 彼の目先にあったのは、一枚のカード。裏面には大きく『A』の文字。

 ――それを、拾った。デュエルディスクに入れ、すぐさま発動させる。

 

(アクション)魔法(マジック)《ワンダーチャンス》!

 このカードは、モンスター1体の攻撃を1回だけ増やすことができます! 対象は勿論、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

「え……!?」

 

 竜の眼が輝き、小さく咆哮する。

 視線の先には2体目の《マシュマカロン》。

 

「さあ、オッドアイズ! もう一度《マシュマカロン》に攻撃!

 ――『螺旋のストライク・バースト』!」

「っ……!」

 

 二度目のブレスが吐かれ、2体目の《マシュマカロン》が消滅した。

 これで自軍のモンスターは全滅。

 

 ……想定外の攻撃だったが、ライフは無事だった。

 冷や汗を拭いつつ、もう一度確認する。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は確かに攻撃を終了した。

 ところが、遊矢くんが魔法(マジック)カードを拾って発動。これにより二度目の攻撃を可能にした。

 ……段々と仕組みが分かってきた。

 この《マジカル・ブロードウェイ》は、(アクション)カードを使うためのフィールド魔法なのだ。デュエル開始時、両者のフィールドに無条件で発動する。それがアクションデュエルというスタイル。

 そしてフィールドに散らばった(アクション)カードは、その場で拾って使えるアトラクション。

 ……インドア派には厳しいデュエルだ。これが城之内くんや海馬くんだったら話は違っていたかもしれない。

 正直、体力にはあまり自信がない。長引けばそれだけ不利になる。

 

「ワタシはカードを1枚伏せて、ターンエンドです!」

 

 遊矢くんは伏せ(リバース)カードを一枚出し、終了を宣言した。

 ――そういえば、と手を止める。気になったので聞いてみる。

 

「遊矢くん。さっきとは口調が違うみたいだけど、どうかしたの?」

「え? ああ、これですか?

 俺は将来、父さん――“榊遊勝”みたいなエンタメデュエリストになりたいんです」

 

 少しだけ恥じらいを感じつつも、遊矢くんは得意げに笑った。

 ……そうか。彼にも目指すものがあるのか。

 

「何事もカタチからってことです。デュエルで皆を笑顔にする。

 ……いつか俺も、そういう決闘者(デュエリスト)になりたいんだ」

 

 遊矢くんは遠い目で空を仰いだ。

 彼の目には何が映っているのか、赤の他人の自分には分からない。

 それでも――“エンタメデュエリストになる”、というのはいいと思う。

 大きな目標がある人は、それだけで好感が持てる。

 

「……そっか。じゃあ行くよ、遊矢くん。君のエンタメで、ボクを楽しませてよ!」

「はい、勿論です!

 ……こほん! さあ、かかってきなさい!」

「ふふ。ボクのターン、ドロー!」

 

 デュエルを再開する。

 ……先程の遊矢くんの行動。アクションデュエルは決闘者(プレイヤー)の身体能力次第で強者にも勝てるデュエルだ。しかし逆に言えば、体力のない者は決定的に不利。

 狙うべきは短期決戦。だが一つ壁がある。ペンデュラム召喚だ。

 融合召喚ならば《融合》、儀式召喚ならば《儀式魔法》のように、特殊な召喚法には必ず(キー)が存在する。これらの召喚法は強力だが、その鍵さえ封じれば怖くはない。

 その点、このペンデュラム召喚は分かりやすい。これの鍵は間違いなく両サイドに浮かぶ2体の魔術師。わざわざ2枚を使ったということは……おそらく、どちらか一方でも壊せば封じられる。

 

「ボクは永続(トラップ)《光の護封霊剣》を発動し……更に魔法(マジック)カード、《マジック・プランター》を発動。

 永続(トラップ)を1枚墓地に送り、デッキから2枚ドローする」

 

 発動できなかった《光の護封霊剣》を墓地に送る。

 《マジカル・ブロードウェイ》には二回攻撃を可能にする魔法(マジック)カードがある。加えて彼の場には《時読みの魔術師》。このカードが残っていたところで意味はない。

 

「……よし」

 

 新たに引いた2枚を確認。そのうち1枚は《ブラック・マジシャン》。

 ――これで攻められる。

 

「永続魔法《黒の魔導陣》を発動!

 発動時の処理として、デッキの上からカードを三枚確認する。その中に《ブラック・マジシャン》の魔術があった場合、それを手札に加え、それ以外は好きな順番でデッキの上に戻す」

 

 3枚をめくる……ビンゴ。

 

「ボクは《黒魔術の継承》を手札に加え、それ以外をデッキの一番上に戻す」

 

 これで手札は揃った。

 あとはカード操作の速さと、遊矢くんが(アクション)カードを見つけられるかどうかの勝負。

 

魔法(マジック)カード発動! 《黒魔術のヴェール》!

 ライフを1000払い、手札か墓地から黒魔術師を召喚する!

 現れろ、《ブラック・マジシャン》!」

 

 遊戯

 LP:4000 → LP:3000

 

 紫の魔法陣が地面に刻まれ、中央から黒魔術師が現れる。

 その名は《ブラック・マジシャン》。武藤遊戯が最も信頼するカードだ。

 ――さあ。反撃を始めよう。

 

「攻撃力2500。攻撃力は互角でも、ペンデュラムモンスターのオッドアイズには通じませんよ!」

「それはどうかな?

 《ブラック・マジシャン》が召喚されたこの瞬間、《黒の魔導陣》が発動する!」

 

 《ブラック・マジシャン》が杖を向けた瞬間、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の足元に魔導陣が浮かび上がる。

 それは転移魔法。対象を次元の彼方へ飛ばす黒魔術――!

 

「これは……!?」

「《黒の魔導陣》は《ブラック・マジシャン》専用のサポートカード。

 《ブラック・マジシャン》が召喚された時、相手フィールドのカードを1枚、ゲームから取り除く!」

「くっ――させるか!

 速攻魔法発動、《禁じられた聖槍》!

 このターン、オッドアイズの攻撃力を800下げる代わりに、あらゆる魔法(マジック)(トラップ)から守る!」

 

 天上から槍が垂直に落ち、オッドアイズの足元に描かれた魔導陣を突き刺した。

 魔力は霧散し、《ブラック・マジシャン》の魔術は不発に終わる。

 

「やるね! でも、魔術はまだ残ってるよ! 

 手札から魔法(マジック)カード発動、《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!

 場に《ブラック・マジシャン》がいる時、相手の魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!

 ――行け、《ブラック・マジシャン》!」

 

 命令を受けた黒魔術師は跳躍し、杖を振りかざす。

 狙いは宙に浮く2体の《魔術師》達。漆黒の魔力が杖に込められ――気合の叫びと共に、それを撃ち放った。

 浮上した2体に抗う術はないらしく、黒魔導をまともに受けて消滅した。

 

「ペンデュラムカードが破壊された……!」

 

 彼の驚きようを見るに、やっぱり2体のペンデュラムモンスターが鍵だったみたいだ。

 ペンデュラム召喚を封じた今が好機。ここで、一気に畳み掛ける――!

 

「行くよ、ボクのバトルフェイズ! 《ブラック・マジシャン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!

 ――『黒・魔・導(ブラック・マジック)』!」

 

 黒魔術師が続けて杖を振るい、漆黒の魔導弾が放たれる。

 対象は二色の眼の竜。遊矢くんは(アクション)カードを探したが間に合わず、オッドアイズは破壊された。

 《禁じられた聖槍》で引かれていた数値分、ライフダメージが発生する。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:3200

 

「くっ――」

「バトルフェイズはこれで終了。

 ボクは更に魔法(マジック)カード《黒魔術の継承》を発動。

 墓地の2枚の魔法(マジック)カード――《マジック・プランター》、《黒魔術のヴェール》を除外して、デッキから《ブラック・マジシャン》系統の魔術を手札に加える」

 

 デッキを参照したことでオートシャッフルが起動。《黒の魔導陣》で固定されたデッキトップが変わる。

 ……手札に加えたのは《師弟の絆》。これで次のターンに備える。

 

魔法(マジック)カード《師弟の絆》を発動。

 自分の場に《ブラック・マジシャン》がいる時、手札・デッキ・墓地から、《ブラック・マジシャン・ガール》を守備表示で特殊召喚できる!

 来い、《ブラック・マジシャン・ガール》!」

 

 自身の呼びかけに応え、青い魔術衣装の弟子が現れる。

 表示形式は守備。師匠である《ブラック・マジシャン》が先導し、後ろには弟子の《ブラック・マジシャン・ガール》が控えているカタチだ。

 

「ボクはこれで、ターンエンド」

 

 終了を宣言。通常のデュエルならこのまま相手のターンを待てばいいのだが、アクションデュエルではそうもいかない。

 次のターン、遊矢くんがどんな(アクション)カードを使ってくるか分からない。今のうちに1枚くらいは確保しておかないと。

 

「やりますね。でも、まだ勝負は分かりませんよ! 俺のターン、ドロー!」

「…………」

 

 完全に“ワタシ”から“俺”に戻っている。

 今の遊矢くんは素だ。油断・慢心の類は期待できない。

 

「このままバトルだ! 《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》で、《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃!」

 

 シルバー・クロウの攻撃力は1800。対して《ブラック・マジシャン・ガール》の守備力は1700。

 

「シルバー・クロウが攻撃を行う時、バトルフェイズ終了時まで《EM(エンタメイト)》の攻撃力を300アップさせる!」

 

 訂正、攻撃力2100。

 といっても、訂正する意味は殆どない。どちらにせよ《ブラック・マジシャン・ガール》は戦闘破壊される。

 けど、それはあくまで数値上の話。

 いい機会かもしれない。ここらで一つ、武藤遊戯なりのエンタメをやってみよう――!

 

伏せ(リバース)カードオープン! 《マジカルシルクハット》!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の頭上から巨大なシルクハットが現れ、彼女の姿を覆い隠した。

 そして分裂。シルクハットは三つに分かれ、シルバー・クロウを惑わす。

 

「え? 遊戯さん、これは……」

「《ブラック・マジシャン・ガール》はシルクハットに身を隠した。その三つのうち、どれかに彼女は隠れている。

 ちょっとしたクイズだよ。さあ遊矢くん、見事彼女を当ててみせて!」

「うっ……ぐぐ」

 

 遊矢くんは難しい顔をして唸り始める。

 ……我ながら詐欺だなと思う。

 《マジカルシルクハット》はデッキから魔法(マジック)(トラップ)カードを2枚選び、攻守0のモンスターとして裏守備表示で召喚。その後、自分のモンスター一体を裏守備表示にしてシャッフルするカードだ。バトルフェイズが終了すれば、選択した魔法(マジック)(トラップ)カードは墓地に送られる。

 つまり、墓地に布石を打つことができる。

 

「決めた! 中央のシルクハットを攻撃!」

 

 遊矢くんの指示を受け、シルバー・クロウの爪攻撃が炸裂。シルクハットは無残に切り裂かれる。

 ――中にあったカードは(トラップ)。すなわちハズレである。

 顔には出さず、心の中でほくそ笑む。今破壊されたカードこそ布石。

 

「外れた!?」

「残念♪

 バトルフェイズ終了時、シルクハットの効力は失われるよ。正解は、ここ」

 

 シルクハットが消滅し、中から傷一つない《ブラック・マジシャン・ガール》が出てきた。上機嫌なようで、得意げにピースなんかしている。

 ポジションは遊矢くんから見て左端。うん、惜しかった惜しかった。

 

「ぐぬぬ……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 結局、(アクション)カードは使われることなくターンが終わった。このカードは戦略的に使えるかもしれない。

 勿論口にはしない。これはチャンスだ。逃す手はない。

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

 ドローカードを確認。

 残念ながらモンスターを引くことはできなかった。()との一番の差はこういうところかもしれない。

 ……ないものねだりをしても仕方ない。ここは攻撃あるのみだ。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃表示に変更して、バトルフェイズに移行する!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》が攻撃態勢を取り、シルバー・クロウをギロっと見た。先程の攻撃に対して、何かしら思うことがあったらしい。

 では、彼女のオーダーに応えよう。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》で、《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》を攻撃!

 ――『黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!』

 

 魔術師の少女は青い杖を振りかぶり、赤い魔導弾を撃つ。

 しかし、一瞬だけ遅かった。攻撃がヒットする直前、遊矢くんが(アクション)カードを拾って発動させた。

 

(アクション)魔法(マジック)《ドラマチック・イリュージョン》!

 シルバー・クロウの攻撃力を、バトル終了時まで600アップさせる!」

 

 けれど、それは想定内。

 目星をつけていた近場の(アクション)カードを手に取り、発動させる。

 

(アクション)魔法(マジック)《ハイダイブ》!

 このターンが終了するまで、《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力は1000ポイントアップする!」

「なっ――!?」

 

 《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》、2400。

 《ブラック・マジシャン・ガール》、3000。

 運が味方してくれたのか、上昇値は少しばかりこちらが上だった。

 なんにせよ結果は変わらない。銀狼は黒魔術の攻撃を受け消滅、ダメージが発生する。

 

 遊矢

 LP:3200 → LP:2600

 

「っ――まだだ! モンスターが戦闘で破壊された時、この伏せ(リバース)カードが発動する!

 速攻魔法カード《イリュージョン・バルーン》!

 デッキの上からカードを5枚めくり、その中に《EM(エンタメイト)》があった場合、特殊召喚できる!」

「そうはいかないよ!

 墓地から(トラップ)カード、《マジシャンズ・ナビゲート》を発動!

 自分の場に《ブラック・マジシャン》がいる時、墓地のこのカードを除外して、相手の魔法(マジック)(トラップ)カードを無効にする!

 これで《イリュージョン・バルーン》は無効となる!」

「何っ!?」

 

 《マジシャンズ・ナビゲート》は、《マジカルシルクハット》の効果で意図的に墓地に送ったカードである。

 《ブラック・マジシャン》が手をかざした瞬間、遊矢くんの発動したカードに亀裂が入り、無効化される。

 これで彼を守るモンスターは全滅した。すかさず攻撃命令を下す。

 

「行け、《ブラック・マジシャン》!

 ――『黒・魔・導(ブラック・マジック)』!」

 

 柄空きとなった彼の元に、再び黒魔術が放たれた。

 

 遊矢

 LP:2600 → LP:100

 

「っ――……」

 

 ダメージ2500、残りライフ100。

 モンスターを引けなかったのが口惜しい。

 経験則から言って、追い詰められた決闘者(デュエリスト)ほど恐ろしいものはない。

 

「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 ドローフェイズに引いたカードを伏せる。そのままターンを終えて、相手を見据えた。

 遊矢くんの場にカードはない。エースモンスターを破壊し、得意技であったろうペンデュラム召喚も妨害した。

 それでも彼に、諦めの色は見えなかった。

 

「強いですね、遊戯さんは。融合も、シンクロも、エクシーズも、ペンデュラムも使ってないのに、ここまで追い詰められるなんて。

 でも、相手にとって不足はありません! ここから逆転してこそエンタメです!」

「…………」

 

 汗を滲ませつつ、笑顔を浮かべてくる遊矢くん。

 ……彼の言葉の中には、聞き慣れない単語が幾つかあった。

 シンクロ、エクシーズ。

 ここにはまだ、ボクらが把握していない召喚法があるみたいだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊矢くんのターンが開始する。

 キーカードを引くことができたのか、彼の表情が綻んだ。

 

「よし! 俺は魔法(マジック)カード《アメイジング・ペンデュラム》を発動!

 ペンデュラムゾーンにカードがない時、エクストラデッキから二種類の《魔術師》を手札に加える!」

「エクストラデッキから……?」

 

 遊矢くんはデュエルディスクの、エクストラデッキを収納する箇所から2枚のカードを取り出す。

 二種類の《魔術師》とはおそらく、先程まとめて破壊した2体のことだろう。

 ……ペンデュラムモンスターは破壊されると、墓地ではなくエクストラデッキに行くらしい。

 何故墓地ではなくエクストラデッキなのか。

 墓地ならば《死者蘇生》を初めとした蘇生カードで再利用できる。ペンデュラムモンスターはこれに該当しない。

 ――まだ、何かある。

 

「俺は、手札に加えたスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 一ターン目同様、2体の《魔術師》がディスクにセットされた。

 光の柱が上り、モンスターが浮上。巨大なペンダントが上空に出現する。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚! 舞い戻れ、俺のモンスター達!」

「なっ……!」

 

 それは、一ターン目の再現だった。

 二色の眼の竜……《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 長い爪の銀狼……《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》。

 遊矢くんのフィールドには、確かに破壊したはずの2体が召喚された。

 

 ……そうか。

 これがペンデュラム召喚最大の特徴。

 破壊されたら墓地ではエクストラデッキへ。スケールさえ整っていれば、何度でも再召喚が可能なのだ。

 

「まだまだ、続けて行きます!

 俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、獣族モンスター《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》をリリースして、融合する!」

「融合!? でも、それなら《融合》のカードは……」

「心配ご無用! このモンスターは召喚する時、《融合》のカードは必要としない!」

 

 ……なんて、デタラメ。

 《融合》を必要としない融合召喚。

 特殊な召喚法には鍵が必要と思っていたが、早くも訂正せざるを得ない。

 

「誇り高き銀狼よ。神秘の竜と1つになりて、新たな力を生み出さん!

 ――融合召喚! 出でよ! 野獣の眼光りし、獰猛なる竜! 

 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 2体のモンスターが融合し、新たな竜が召喚される。

 二色の眼はそのままに、各部位に黄土色の装飾が加わる。その姿は竜でありながら獣のよう。

 攻撃力は3000。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を、《ブラック・マジシャン》を上回った。

 

「ビーストアイズが戦闘で相手モンスターを破壊した時、融合素材となった獣族モンスターの攻撃力分、ダメージを与える!

 そして――!」

 

 遊矢くんは、手近な場所に落ちていた(アクション)カードを取った。

 ……仮に《ブラック・マジシャン・ガール》が破壊されれば、発生するダメージは2800。こちらのライフを0にするには、あと200届かない。

 あと200。これを埋めるのは(アクション)カード。彼はこのターンで決めるつもりなのだ。

 

(アクション)魔法(マジック)《イリュージョン・マーチ》!

 ビーストアイズはこのターン、攻撃力が300アップし、相手モンスター全てに攻撃できる!

 バトルだ! 行け、ビーストアイズ!」

 

 指示を受け、獣の竜が咆哮する。

 間もなく獄炎のブレスが魔術師達を焼き尽くすだろう。この攻撃を受ければ敗北。

 ――空に浮く《時読みの魔術師》を見る。

 あれはペンデュラムモンスターの攻撃時のみ効果を発動する。

 ビーストアイズは融合モンスターであって、ペンデュラムモンスターではない。

 ならば――!

 

「さあ、フィニッシュです!

 ――『ヘルダイブ・バースト』!」

 

 ビーストアイズが火炎を吐き出す。炎は竜を象り、全てを喰い尽くさんばかりに牙を剥く。

 最初の標的は《ブラック・マジシャン・ガール》。彼女が破壊されれば敗北だ。これを通すわけにはいかない……!

 

「永続(トラップ)、《ディメンション・ガーディアン》!

 ガーディアンよ! 《ブラック・マジシャン・ガール》を守れ!」

 

 赤い羽根・銀の鎧のミイラが現れ、《ブラック・マジシャン・ガール》を守護する。

 エメラルドの光が額から放たれ、竜の炎はかき消された。

 

 遊戯

 LP:3000 → LP:1700

 

 ダメージが発生。しかし《ブラック・マジシャン・ガール》は健在。《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の効果は発動しない。

 

「攻撃が途切れた……!?」

「《ディメンション・ガーディアン》はモンスターを守る守護兵。

 このカードがある限り、対象となったモンスターはあらゆる攻撃から守られる!」

 

 だけど、これだけでは止められない。ビーストアイズはこのターン、もう一回だけ攻撃できる。

 伏せ(リバース)カードはもうない。(アクション)カードに対抗するには、やはり(アクション)カードしかない。

 カードを探すため、ブロードウェイを走る。

 

「くっ……だけど、(アクション)カードの効果でバトルは続行! 行け、ビーストアイズ! 《ブラック・マジシャン》を攻撃!

 ――『ヘルダイブ・バースト』!」

「っ……!」

 

 カードは2枚見つかった。近くに1枚、少し遠くに1枚。

 攻撃は迫っている。2枚とも取る余裕はない。そもそも、ルール的に可能か分からない。

 ――直感。遠くに配置されたカードのみを目指す。

 

 遊戯

 LP:1700 → 900

 

「っ――……!」

 

 背後で爆発音が響き、ライフが減少した。《ブラック・マジシャン》が破壊されたのだろう。

 問題は次弾。

 ――間に合った。(アクション)カードを手に取る。

 

「ビーストアイズのモンスター効果!

 戦闘で相手モンスターを破壊した時、融合素材となった獣族モンスターの攻撃力分、ダメージを与える!」

 

 追撃のブレスが撃たれる。

 カードを確認――脊髄反射じみた速度で、ディスクにカードを挿す。

 

(アクション)魔法(マジック)《加速》!

 発生した効果ダメージを無効にする!」

 

 間一髪。

 ブレスは真横を素通りし、後ろにあった建物を破壊した。

 攻撃力1800の追撃。獣の名を語るだけあって恐ろしい攻撃性だ。

 

「――はっ……っ」

 

 急に走ったせいか、少し息が上がる。

 体力の無い自分が情けない。

 

「っ――」

 

 ……また、ないものねだり。

 悩むのは後にしよう。

 今はただ、最善の選択をするのみだ。

 

「躱された……っ、ターンエンド!」

「ボクのターン、ドロー!」

 

 これ以上(アクション)カードを使われるのは危険だ。

 盤上は勿論だが、何よりプレイヤー自身が持たない。体力勝負になれば敗北は必然。

 幸い、このドローでルートは繋がった。最短距離で勝負を決める……!

 

「行くよ遊矢くん! これが最後の攻撃だ!

 《ブラック・マジシャン・ガール》で、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

「なっ――だけど、ビーストアイズの方が攻撃力は上!」

「そう、このままならね!」

 

 まず一手。

 ドローしたカードをダメージステップに発動する。

 

「速攻魔法、《黒魔導強化(マジック・エクスパンド)》!

 お互いのフィールド・墓地の《ブラック・マジシャン》、《ブラック・マジシャン・ガール》の数により複数の効果を得る!

 1枚以上の場合、黒魔術師の攻撃力を1000アップさせる!」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力が上がる。

 

「攻撃力はお互い3000……! だけど、(アクション)カードなら!」

「そうはいかないよ! 《黒魔導強化(マジック・エクスパンド)》、第二の効果を発動!

 2枚以上の場合、相手はこのカードに対して魔法(マジック)(トラップ)を発動できない!

 そして――!」

 

 ここで二手。

 弟子は師匠の力を受け継ぎ、獣の竜を打倒する。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力は、墓地の《ブラック・マジシャン》1体につき300アップする!」

「何っ!?」

 

 更に攻撃力上昇……数値にして3300。《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を300上回った。

 チェックメイト。これが最後のオーダーだ。

 

「行け、《ブラック・マジシャン・ガール》!

 ――『黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!』」

 

 少女はステップを踏み、高く跳躍した。

 空中で杖を振るうと同時、紅の魔導弾がビーストアイズを撃つ。

 

「ぐあああ――!」

 

 遊矢

 LP:100 → LP:0

 

 残り僅かだったライフが削られ、デュエルは終了。

 ――勝者、武藤遊戯。

 決着と同時、アクションフィールド《マジカル・ブロードウェイ》は役目を終える。

 光が溢れた煌びやかな景色は、夢から覚めるように消えて行き――。

 そうして、元の運動場が戻ってきた。

 

「………………ふぅ」

 

 デュエルが一段落し、安堵する。

 想定外の運動、慣れない場所でのデュエル、未知の召喚法。

 そういったもので蓄積された疲労と、勝利による快感が全身を満たす。

 なんだかんだ言って、やっぱり勝利は気持ちがいい。負ければきっと悔しかったに違いない。

 例えそれが“アクションデュエル”だったとしてもだ。

 それだけ、武藤遊戯はデュエルを好いているということかもしれない。

 

 自分が打ち負かした相手を見る。

 榊遊矢くん。ラストターンに《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃で吹き飛ばされたらしく、尻餅をついて脱力している。

 表情は些か残念そうで、惜しかったなーと小さく呟いた。

 

 ……彼は、父親のようなエンタメデュエリストになるのが夢らしい。

 自分以外の誰かを笑顔にする。すなわち社会奉仕。身近な人のためではなく、世界中にいるその他大勢のために何かを成す者。

 

 ふと、そうなった自分の姿を想像した。

 スーツを纏い、シルクハットを被った武藤遊戯。シルクハットを取ると、中から白い鳩が飛び出して――

 

「…………」

 

 残念ながら、イメージできたのはそこまでだった。

 発想力が貧困すぎる。やっぱりエンタメは柄じゃない。

 ――でも。そういう進路も、悪くないんじゃあないか。

 自分の得意なことが誰かの役に立つとしたら、とても嬉しいことだと思うのだ。

 

 選択肢が、また一つ増えた。

 


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