グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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どうも、毎度おなじみ? 作者のalnasです。
今回はヴァーリを主人公に書いていきます。
では、どうぞ!


予習授業のグレモリー
この邂逅は紅


 世界は悪意で満ちている。

 俺――ヴァーリ・ルシファーはそれを、幼いながらに知っていた。

 仮に、大きな悪意であれば、すぐに世界に対処されるだろう。だが、小さな悪意というのは人の目につかない。

 より詳しく言うのなら、自らが動かねば解決されることはない。

「と思ったものの、できることが逃げの一手のみとは、笑えないな」

 自虐的な笑みを浮かべながら、雪の降る、冷たい夜道を進む。

 暗く、照らす光もない世界。

 まるで、俺を表しているようだ。

 強大な力を宿したばかりに、父は俺を恐れ、祖父の言葉を信じ込んだ。

 結果、虐待に繋がったわけだが、それはもういい。どのみち潰そうと考えていた男だ。

「しかし、こうなるとどうしたものか」

 現状、前ルシファーの子であるリゼヴィムに襲われれば、なす術なく轢き殺されるだろう。超越者と渡り合うには、まだまだ力が足りない。

 それも、圧倒的にだ。

 なにより、衣食住が整わなければ生きていくことすら困難だろう。

 誰とも知れぬ自分が他の悪魔の領地に入れば、排除しに来るのは必至。最悪、この小さな体ひとつで、数日間を戦い続けることもあるはずだ。

 そうなれば、いまの自分に生き残る道はない。

 などと思考にふけながら、一人になったのに冷静である自分をおかしく感じる。

「不思議なものだな。それほど、家族を欲していなかったのか、もしくは――」

 その先を言葉にするのはやめた。

 なぜなら、驚異というのも生ぬるい存在が、眼前に降り立ったのだ。

「何者だ?」

 暗く見えないその先に、それはいる。

「いやなに。領地に見知らぬ悪魔が入ってきたという話を聞いてね。大量に積まれた書類の束から逃げ――失礼。魔王の義務を果たすため、様子を見に来たのさ」

 嘘のつけなそうな、それでいて、温かみのある声が響く。

 どうやら、いきなり襲ってきたりすることはなさそうだ。が、ここは一歩、踏み出してみるべきだろう。

「それで、俺を始末すると?」

「まさか。同じ悪魔――それも、子供を放っておくことができないから、保護しに来ただけ。のつもりだったんだけどね。うん、これは私も驚いた」

 なにに向けて放った言葉かわからない俺は、ただ、男性と思わしき声の主の次の言葉を待つ。

「確かに彼は危険にすぎる存在だが、その孫がこんなところにいるとは、思いもしなかったからね」

 暗闇の向こう。

 雲の合間から漏れた月明かりが、俺と彼の姿を世界へと映し出す。

「アジュカほどの情報網を持たない私では、キミがどう暮らしているのかも知れないわけだからね。こんなところに来ているとは、予想外。いや、違うかな。彼の思惑が見えない、というのが正しい」

 こちらに思惑もあったものじゃないが、俺を見据える男に油断はない。

 男――紅の髪を持つ、現魔王の一人。

「まさか、ここで魔王に会うことになるとはな」

 リゼヴィムが楽しそうに、そして憎たらしそうに語っていた悪魔だったか。

 サーゼクス・ルシファー。

 俺が目指す存在とは違うが、強者であることに変わりはない。

 相手取るには不可能に近い、か……。

 一目見ただけでわかる。挑むことさえバカらしいと。

「俺があんたと戦えば、一瞬のうちに殺される。だが、いまは挑んでもいいとさえ思える俺がいるのも事実」

 詳しいことまでは知らないが、リゼヴィムが煽るような相手だ。認めたくないが、あいつの孫である俺を見逃すとは考え難い。

「キミはいったい……」

 覚悟を決め戦闘態勢に入った俺とは裏腹に、サーゼクス・ルシファーは困惑の色を強める。

 じっと俺のことを観察するよに眺め、やがて、ひとつ息をはく。

「幼いキミをリゼヴィムがけしかけることはまずないだろう。なにか、私たちも知らない事情がありそうだ。どうだろう? キミさえよければ、一度ゆっくり話さないか?」

 その後発せられた言葉は、俺の予想のはるか上をいった。

 次に困惑したのは、当然俺だ。

 わけがわからない。因縁こそ知り得ないが、リゼヴィムの孫たる悪魔を、なぜそんな優しい目で見る? なぜ襲ってこない? どうして、俺を見ようとするんだ……。

「恐れられ、蔑まれてきた俺になぜ、そんな感情を向ける!」

「キミが悪魔である限り。そして、子供ならばなおさら、私は目を背けてはならない。キミの家族がどうかじゃない。キミがどうあるかが大切なんだ」

 サーゼクス・ルシファーはそこまで言うと、有無を言わさず俺の手を握った。

「なんのつもりだ!」

 咄嗟に手を弾くが、向こうは気にした様子もなく、再び握ろうとしてくる。

 その手をまたかわすが、何度目かのやり取りで、ついに手を掴まれた。

「このっ!」

 力任せに振り切ろうにも、それが叶うことはない。

「離せ! 俺をどうするつもりだ!」

 声を荒げると、やっと、目の前にいる魔王は口を開いた。

「ん? ああ、すまない。つい、迷子になっていた我が子を見つけたような思いになってしまってね」

「……バカバカしい。親子の関係なんて、あってないようなものだ」

「キミにとってはそうでも、私にとってはなくてはならないものだよ。この話は一度置いておくとして、とりあえずは私の城の来るといい。書類にまみれた部屋だけど、ここよりは居心地もいいはずだ」

 横で話しながら魔法陣を浮かび上がらせると、俺の手を引いて、魔法陣へと乗るよう催促される。

「はあ……」

 先ほどのこの男のように、ため息が漏れた。

 この状況では、逃げ出すことも不可能だろう。周りを見渡しても、利用できるモノはない。

 わずかな時間を空け、俺は魔法陣へと足を踏み入れる。

 瞬間、視界に映る景色は一転した。

 

 

 そこは、サーゼクス・ルシファーの言ったとおり。いや、それ以上にひどい有様だった。

「魔王としての義務とやらはどこへいったんだ、サーゼクス・ルシファー」

「ははは……こうして改めて見るとまいるね。この書類の束を片付けるのは骨が折れそうだ」

 言葉を紡ぐたび、顔から笑みが消えていく。

 どうやら、思った以上にやばいらしいことだけは理解できた。

 同時に、俺をどうこうしようとして捕縛する、といった思惑がないことも察せた。

「リゼヴィムの部屋とは随分違うな。書類さえなくなれば、無駄な物のない、綺麗な部屋になりそうだ」

 あまり追い詰めるべきではないと判断し、話題を反らす。すると、机に項垂れていたサーゼクス・ルシファーが話に乗ってきた。

「ああ、いい部屋だろう? そのうち、私の妻や息子の写真を飾ろうと思っていてね」

「家族、か……」

 母だけは自分を見てくれていた。父の気まぐれで産まされた俺のことを、大事にしてくれた。

 母とのやりとりは少ししかないものの、虐待の毎日において、家族というのを唯一感じることのできた時間。

 だが、自分を見る母の目は、とても寂しそうにしていた。

「俺にはわからない」

 気づけば、口から言葉が漏れていた。

「家族とは、心を乱すだけのものじゃないのか?」

「そんなことはないさ。家族は多くのことを教えてくれる。大事なものを、与えてくれる」

「俺の家族は、大事なものなどくれなかった」

 この一言で、サーゼクス・ルシファーは何事かを理解したようで、次いで、明かりの下に出たことで、俺の体にある傷を、その視界に収めた。

「そういう、ことか……リゼヴィム、あなたはどこまでも…………だが、これはいい機会なのかもしれないね」

 現魔王の一人は、俺に手を伸ばす。

 その大きな手が、髪に触れる。

「キミは魔王の血を真に引くものだ。私とは違い、生まれながらにして、悪魔を想い、前に立てる者なんだ」

「俺はなにも教わっていない」

「私が教える」

「俺は愛情も、家族に対する接し方すらロクにわからない。悪魔のことなんて想えない」

「想えるようになるさ。私もね、ひとつ、覚悟を持って決めたんだ」

 サーゼクス・ルシファーの言葉に呼応するように、部屋の扉が開き、銀色の髪の女性が入ってくる。

「あら、サーゼクス。職務を放棄して出て行ったかと思ったら、帰ってきていたのね」

「ああ、聞いてくれグレイフィア。待って、すまない。抜け出したのは私が全面的に悪い。それはわかっているから待って欲しい。まずは話を聞いてくれ」

「……なにかしら」

 目の前で繰り広げられる会話を聞いていると、突然、サーゼクス・ルシファーが俺の肩に両手を乗せ、部屋に入ってきた女性に俺の姿をしっかりと見せる。

「今日から私たちの養子になる、ヴァーリ・グレモリーだ。グレイフィア、どうか落ち着いて、私の話を聞いて欲しい」

 言い切った直後、女性から、魔王すら震える程の怒気が部屋中に膨れ上がったのを、俺は一生忘れないだろう。

「サーゼクス」

 抑揚のない声が、背後の男に向けられる。

「な、なんだろう」

 魔王でも声は震えるのか。わからないわけでもないが、いや、訂正しよう。よくわかる。

 この後は血みどろの惨劇が繰り広げられるのかと思っていたが、現実は、俺の予想を裏切った。

「こんな子がいるならもっと早く言ってください! 服や食事の準備だってさせる時間は優にあったのに、あなたはまたそうやって時間をムダにして! 第一、養子の迎えなら私が行けばよかったものを、あなたは勝手に抜け出して!」

 話についていけていないのは俺だけなのか。

 サーゼクス・ルシファーの発言から、この女性は彼の伴侶なのだろうことはわかる。

 だが、なぜこの者たちは俺の存在を簡単に容認するんだ?

 彼らについていけば、その理由も、この胸の奥にある整理のつかない感情にも、答えが出るのか?

 もし、そうなのだとしたら、俺は――。

「へえ。キミはそうやって笑うのか、ヴァーリ」

 そうか。俺は、笑っていたのか。

「わからないこと、知りたいことがあれば私たちがいくらでも教えよう。やりたいことも、好きなだけやってほしい。そして、いつか必ず――いいや、これ以上は野暮だったかな」

 それ以上の言葉はなく、サーゼクス・ルシファーはこちらに向け、手を差し出してきた。

 ああ、わかっていた。

 リゼヴィムとは違う、ルシファーたる悪魔。

 この人を見たときから、俺の中では、決まっていたんだ。

「…………よろしく、頼む」

 長い時間をかけ、ようやくその一言を口にする。

 俺の手は、気づけばサーゼクスの手を、しっかりと握っていた。

 




今回は初のヴァーリ・グレモリーという、ちょっと新しい試みなので、皆さんがどう思われるか心配でもあり、楽しみでもあります。
よければ、感想なんかを聞かせてもらえると嬉しいです。
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