今年も暑さに苦しむ夏になりそうですね(すでになってます)。
それはそうと、最新話でかなりの追加部分がありましたので、再度の投稿とさせていただきました。
近いうちに続きを投稿しますので、それまでは再投稿分をお楽しみください。
では、どうぞ。
赤龍帝である兵藤一誠と、彼が連れてきたアーシア・アルジェントと呼ばれている少女。
一度に二人もの人間を眷属にして数日。
すっかり生活感の出てしまっている旧校舎。いったい、誰がここまでのリフォームを予想できただろうか?
用意された食器棚。
綺麗になったキッチン。
置かれたテレビにゲーム機。
そして魔術や神話関係の本が敷き詰められた本棚。
「ここは本当に旧校舎なのか……」
ソーナからここの鍵を受け取ったときはなにもないただの校舎だったはずなんだがな。
各々に好きにしてくれと言ったらこれだ。キッチンなんて、いったい誰が使うのだろう。少なくとも、最も必要ない部分だと思うのだが。
他にもいろいろと置かれているが、いまはいいか。
「さて、悪魔の仕事内容は大方話きってしまったし、今日の夜から実践してもらうことになる」
とりあえずここまでは話ってあったはずだ。
となると、それまでに話しておくことは――。
「兵藤一誠、アーシア・アルジェント」
「「はい?」」
呼びかけると、荷物の整理をしていた二人が同時に振り向く。
兵藤一誠が守ると誓っただけあり、日頃から彼らの仲はとてもいい。なにをするにも二人一緒で、見ていて微笑ましい限りだ。
「キミたちにも、もうじき特訓を始めてもらうことになる。兵藤一誠、守りたいものがあるのなら、キミはより強くならなくてはならない。そのためには、鍛錬あるのみだ」
「はい! 俺、なんでもやりますよ!」
「そうか。なら、基礎訓練をした後、キミのためのメニューを考えることにしよう。アーシア・アルジェント、キミは自身の神器の限界を知ることから始めた方が良さそうだな」
「は、はい。私にできることがあるなら、イッセーさんのためにも頑張りたいです!」
「ああ、キミの頑張りはきっと、兵藤一誠のためになるさ」
アーシア・アルジェント。
協会側の人間でありながら悪魔の傷を癒した少女。結果、異端とされ追い出されたところを兵藤一誠に救われた、神器を宿した元人間。
いまとなっては悪魔に転生させてしまったが、彼女の存在は貴重だ。
彼女の神器――『聖母の微笑』。
対象が誰であれ回復させることが可能な回復に特化した神器。俺もどこまでの回復が可能なのかは知らないが、おそらく限界値は所有者に依存するはず。どうなるかは、彼女次第と言ったところか。
その辺りはじきに見極める必要があるな。
近々まとまった時間を取って一から修行したいところだが、果たしてその時間を取るような機会があるものか……厳しいな。
「白音のときのように他の悪魔やドラゴンの力を借りるにも時間がいる。やはり俺が相手をするのが一番か」
「いえ、それを最初からやるとトラウマになります」
考えをまとめていると、隣にいた白音から声がかかった。
いまだに眷属悪魔として迎え入れた頃の特訓が響いているのか。
「だが、あれは一気に基礎ができあがる。無駄な特訓を重ねるよりも効果的だ」
「そういう問題じゃ……もういいです。ヴァーリ先輩も備品の整理を手伝ってください」
どうやら満足のいく答えではなかったらしい。
拗ねたようにそっぽを向いて、作業に戻ってしまった。
こうなっては俺が話しかけた程度では反応しない。
仕方ない、俺もこの旧校舎が、少しでも快適な場になるように尽くすとしよう。
「とりあえず、どこか一室をトレーニングルームにするところからだな」
今日は夜まで、旧校舎の改装に追われそうだ。
夜までになんとか一通りの改装を終え、兵藤一誠、アーシア・アルジェントの初の悪魔稼業が始まった。
とりあえず、二人にはお得意様もいなければ、経験もないので、今日のところは白音のヘルプに入ってもらった。何事も実践で学ぶのがいい。
今回はノウハウを学び、次回からは個人個人で実践してもらう。
「できることなら、俺も彼らを見ていてやりたいが、そうもいかないな」
そろそろ、この一件も終わらせたいところだ。
視界のすぐ先に、ひとつの魔法陣が現れる。
誰かが契約のために俺を呼び出すためのものではない。この見知った魔法陣は、俺のお得意様である、ルフェイのものだ。
「兵藤一誠と会って以来だな、ルフェイ」
「はい、ヴァーリさん。ところで、兵藤一誠さんとは誰でしょうか?」
いつもと変わらない、警戒心のない微笑みを向けてくる、魔法使いのような格好をした小柄な少女。
ルフェイ・ペンドラゴン。
なんだかんだと長い付き合いをしている、俺の専属の契約相手。魔法使いという点と、契約内容を除けば、おおよそ普通の契約だ。
話し相手になって、料理を振舞ってもらっているだけだしね。
「さて、兵藤一誠といえば、前に話した例の赤龍帝のことだ。今代の赤龍帝――神滅具『赤龍帝の籠手』の所有者の名前さ。兵藤一誠。彼こそが、赤龍帝」
「白龍皇であるヴァーリさんとの勝負は重要ではないと言っていた赤龍帝さんですね?」
「ああ」
「それで、結局どうなっんですか? 白と赤は仲間同士になったんですか!?」
目を輝かせてこちらに迫ってくるルフェイ。
そういえば、俺たちが仲間になるなんてわくわくする! とか言っていたな。確かに、二天龍の関係を知っている者たちからすれば、この事実が発覚すればかなりの騒ぎになるだろう。
騒がれるだけで終わればいいが、悪魔陣営に二天龍共が降った、という考え方をする輩も出てくるはず……サーゼクスに迷惑をかけなければいいが。
とりあえず、まずはルフェイの相手からだな。
「結論から言えば、兵藤一誠は俺の眷属悪魔になった」
「本当ですか!?」
「本当だ。いまは新人悪魔として、契約の取り方やその相手の仕方などを学びに行ってもらっている」
目の前の少女と話し始めて随分と経った。
当初よりも、その回数は増えている。
「ルフェイ」
「はい、なんですか?」
あの頃から変わらない、素直で無垢な瞳。
嬉しそうな笑み。
短くない付き合いだ。信頼はあるし、嫌い合う仲でもない。
だからこそ、迷っていた部分もあったわけだが。
「巻き込まないように、なんて考えは、俺のわずかに残っていたエゴなのかもしれない。ルフェイ、この先、兵藤一誠も加わったことで、近いうちに俺やその眷属たちは各勢力から注目を集めるだろう」
「私も、そう想います。二天龍はどこの勢力も気にしていますから」
「だが、中にはそれをよく思わず、力によって俺たちを消そうとする。もしくは実験材料にしたい輩も出てくるだろう。俺はこの先の未来を見据えた上で、キミにもう今一度願いたい」
旧校舎の一室。そこに置かれている、俺の残りの悪魔の駒。
そのうち、彼女と会う予定のある日はいつも持ち出していた駒がひとつ。
「初めて会ったときから、これを言うのは二度目かな?」
普段から持ち歩いていた「僧侶」の駒を取り出し、彼女へと差し出す形を取る。
「ルフェイ・ペンドラゴン。どうか、キミの力を俺に預けて欲しい。キミを――キミだからこそ、俺の眷属悪魔として迎えたい」
前にも一度、彼女――ルフェイ・ペンドラゴンには眷属になってほしいと話を持ちかけたことがある。
そのときは素直に喜んでくれたのだが、家族のことや組織間の問題、意識がまだ追いついてなかったこともあり、一時保留となっていた。
最もたる要因はルフェイの兄にあるのだが、彼がこの話を知っているとは思えない。
とは言え、流石にこれ以上放っておくのも後々問題になるだろうことは明白……ルフェイとの関係が明るみに出れば、彼女を利用されることも考えられる。守るためにも、どうにかしなければいけないことだ。
ルフェイも自分で考え、決められる年になっている。
元々聡明な子ではあったし、問題はほとんどないだろう。彼女の家の者からはなにかしら来るかもしれないが、それはそのときでいい。いまやるべきことは、大切なことは、俺と彼女の関係を変えるか否かだ。
「ヴァーリさんの気持ちは、やっぱり変わりませんか?」
拒絶でも、肯定でもなく。
ただただ純粋な瞳のまま、ひとつの問いが投げかけられる。
「変わらないさ。ルフェイ、これから俺が歩む道は本当に険しい道で、関わった相手を全員守れるとは限らない」
たとえなにかが起きたとしても、ソーナなら切り抜けるだろう。彼女には眷属がいるし、最悪な事態になる前には助けが入るだろう。
サーゼクスたちは心配するよりもさせる方を気をつけなければならないな。
と、関わりを持つ人たちは後ろ盾や強者であることがほとんどだ。けれど、彼女は一人だ。様子からも見て取れるが、家族に俺のことを話しているとは思えない。現状、最も利用しやすい存在なのは間違いないだろう。
「キミの技量は疑っていないが、いざというときになってからでは遅い」
「私が心配ですか?」
「そう、だな……悪魔と人間とは言え、短くない付き合いだ。多少の情が移るのは仕方のないことかもしれない」
「ふふっ、ヴァーリさんらしいといえばらしいですね」
やはりグレモリー家として触れてきた時間があるからだろう。
そんな俺の態度にひとつ笑ったルフェイは、しかし難しい顔をしつつ目を瞑る。
「簡単には、いかないと思います。その……」
「キミの周りの事情は、一旦置いておかないか?」
「えっ……?」
不思議そうな顔をしてこちらを見るルフェイ。
知っているさ、ペンドラゴンという名だけでも有名なのだ。その背景くらい探っている。だからこそ、今後出てくるであろうとある人物にも心当たりがある。
だからこそ、そこは気にせずに話がしたいのだ。
「前にも言ったことだが、キミは周りを気にしすぎだ。たまには、自分のやりたいようにやってみるのもいいかもしれない。気にするなとは言わないが、あまりに縛られすぎている。俺が聞きたいのは問題点ではなく、キミの気持ちだけだ」
俺はサーゼクスの背中を見て育ってきた。
俺は最低最悪な悪魔の欲望を見て育ってもきた。
その俺だからこそ。
「面倒なことはこちらに任せておけ。どう問題になろうとも俺が解決しよう。だから、やりたいことをそのままの気持ちで、隠さずに伝えてくれ」
少しは、彼らしく振舞えているだろうか? 追いつけているだろうか?
なにより、本当の意味で相手を見れているだろうか?
気にしなければならないのは、自分より小さな者たちがしっかりと楽しく正しく育つこと。俺の望むことのひとつでもあるあり方に嘘はつきたくない。目の前の少女に、責任を押し付けていいはずがない!
「ヴァーリさんは、優しいです」
しばらく待っていると、ルフェイは静かにそう口にした。
「話を聞かされていた悪魔さんとも違うし、歴代の白龍皇のそれとも違う」
彼女の話は続き、
「だからこそ、ヴァーリさんのことが気になるんです……なにかあったら、本当に解決してくれますか?」
不安を隠さずに、伝えてくれた。
「ああ、約束しよう」
その不安には、しっかり応えようと思う。
俺の果たすべきことなのだと、わかっているから。
「――……私、やっぱりヴァーリさんと知り合えて良かったって思います。だからどうか、後のことはお願いしますね」
まだ小さな魔法使い。
彼女の小さな手は、確かに俺の手を握り、そして。
純白の駒がひとつ、彼女の中へと消えていった。