暑さにまいっていませんか? 作者は暑さにやられたのかなんなのか、体調を崩したまま休日を過ごしました。
夏風邪は引くなよ、手強いぞ。
それはさておき、ライザーの話が感想欄で出てきたのですが、ライザーは出るよ、どこかでね。とだけ名言しておきましょう。
では、どうぞ。
やけに嫌な気配がする。
駒王町には何年も住んでいるが、ここまで濃密な気配を感じ取ったのは今日が初めてだ。
何者かがこの町に入り込んだのは確実。
先ほどはねた力。あれはこの町に来てから感じた力の中では最も強い……俺とソーナを一度に相手取ろうとでも言うのか? でなければこの誘いは妙だ。
「ヴァーリ先輩!」
校舎内を出て校門に向かう中、兵藤一誠が並走してくる。
「キミも異変を感じ取ったか」
「はい! でもこの気配、すっげえ不安な感じがします」
「そうか……無理についてこなくてもいいぞ?」
彼は俺の眷属だ。
それも転生したばかりの。であれば、一応聞いておくべきだろうと思い彼を見るが、
「まさか。これでもヴァーリ先輩の眷属ですし。なにより、俺にはアーシアを守るって最優先事項がありますから!」
当然行きますという決意のこもった目をしていた。
これは悪いことをしたな。
「すまない、正直俺は、キミを少し低く評価していたのかもしれないな。ならば行こう。この町も、暮らす人々も助けなければならないからね」
「――はい!」
ここはサーゼクスからも任されている、俺の管理する――守るべき場所なのだから。
相手が誰であろうと、これだけは譲れない!
などと思っていると、森に入ろうとしたところで、見覚えのある少女たちが追いついてきた。
「ヴァーリ先輩、速いです。動くなら私たちが揃うのを待ってください」
開口一番に文句を言ってくるのは、この中で最も長い付き合いのある白音だ。
後ろにあと二人。アーシア・アルジェントとルフェイが続く。
「俺たちは一応、問題の解決のために早急に動き出しただけだよ。そうだろう、兵藤一誠」
「は、はい。もちろんですけど、確かにみんなに声をかけてもよかったかな、とも思います。この辺りの判断は俺じゃよくわからないっすけど」
「……そうか。悪いな、白音」
「いえ、いいです」
白音も理解してくれたようで、これ以上詰め寄ってくることはなかった。
厳密には言いたいことはまだまだあるのだろうが、自重してくれたと見るべきか。不測の事態が起きているにも関わらず眷属を置いて一人で解決に乗り出した俺も悪い。
最も、そうなった原因はこれから会う人物の所為でもあるのだが。
「人物であればいいがな……」
堕天使とも、天使とも、さすれば悪魔とも違う。いまいち正体の掴めないこの感じはいったいなんだ?
いや、あまり考え込んでいる時間もないかもしれないな。標的が動いていないのが救いだが、いつ動き出すかもわからない状況だ。ソーナたちも感知はしているだろうが、俺が出てきている以上、無闇に動いたりもしないはず。やはり、まずは接触する以外の選択肢はなさそうだ。
「行くか」
一言伝えると、眷属の全員がひとつ頷き、俺の後に続いて歩き出す。
しばらく慎重に進み森の奥まで来ると、一帯の木が薙ぎ払われ、少し広い程度の広場と化していた。
「これはいったい……」
兵藤一誠から驚きの声が漏れるが、人間たちからしたら確かな異常事態だろうことは明白。
「意味のある破壊だな。ここは後で元に戻すとして、なるほど」
「なるほどって、なにかわかったんですか、ヴァーリ先輩」
「ああ。どうやらここは戦闘のために作られた簡易闘技場といったところかな。もっと簡単に言えば、バトルフィールド」
目的は戦闘で間違いない。
であれば、あとは誰を探しているのか、だ。
「兵藤一誠。キミはアーシア・アルジェントの近くにいろ。不意打ちはないと思うが、できる限り彼女を守れ」
「はい!」
すぐさまアーシア・アルジェントの前に移動し、辺りを見回す兵藤一誠。彼はこれでいい。
「白音、ルフェイ。小さな異変も見逃すな」
「「はい」」
作られた専用フィールドだけを残し本人が移動するとは思えん。
『これは運がいい。同時に何箇所かを見張ろうかと思っていましたが、まさか一箇所目で当たるとは』
と思った矢先、男性の声だろうものが辺りに響いた。
『さて、とりあえず私の言いたいことはただひとつ』
コツ、コツとあえて足音を立てて出てきたのは、森の中だというのにスーツにメガネという場違いな格好をした男だった。
しかし、その手に握られているモノにはどうしても反応してしまう。
「聖剣か……物騒なことだな」
男の手に握られた一振りの剣。あれはまごうことなき聖剣だ。それも、極大なまでの聖なるオーラを放つほどの。
腰にもう一本帯剣しているようだが――。
「全員、そいつには近づくな。兵藤一誠、赤龍帝ドライグから聖剣の話は聞いているか?」
「は、はい……悪魔になった日には聞いてあります。もしかして、あれがそうなんですか?」
「それはよかった。もちろん、あれは聖剣だろうな。厄介なことになるから距離は保っておいてくれ」
兵藤一誠は首を縦に振り、アーシア・アルジェントを後方に下げた。
彼はやはりと言うか、実力差を測り、素直に退ける冷静さも備わっているようだ。
「さて、ひとつ質問だ。手に握る剣は聖剣らしいが、帯剣している方も聖剣か?」
「ええ、その通りですよ。流石に白龍皇殿の目は誤魔化せませんね」
尋ねると、案外簡単に答えが返ってきた。
「誤魔化そうともしていないのに、よく言ったものだな」
「それもそうですね……なにせ、ここには一件私用があって来たものですから」
言うなり、男の視線は俺の後方――ルフェイへと向けられた。
「さあ、なにをしているのですかルフェイ。いつまでも遊んでいないで、帰りますよ」
ルフェイがハッ、となにかを思い出したようで、すぐに言葉を返す。
「知っていたんですか、お兄さま? でも、どうして?」
「最初は禁術の練習にでも出たのかと思いましたが、出ていったときの貴女の感覚が僅かに普段と違いましたから、慌てて確認しに来たのです。ですがまさか……まさか、悪魔になっていようとは思いもよりませんでしたが」
「わ、私は自分で決めてここにいます! だからお兄さまは」
「そうもいかない。ルフェイ、自分で決めたかどうかが問題じゃない。こちらに戻るのが最善なんです。いまなら間に合う。ですから戻りなさい。これは兄から妹への命令です」
「…………ッ」
命令。自分の意思など関係ないと告げられ、表情を曇らせるルフェイ。
この会話だけでも理解はできる。
ルフェイからは兄がいると聞いていたし、なにより眷属になる際の懸念事項にも含まれていた。
だからこその、あの約束だったわけだが。遅いか早いかの問題だったようにも思う。ならば、ここで解決しておこう。
同時に、あの力のはね方にも納得がいった。
ある程度相手は絞れているが探すのも手間、もしくは不得意だったのだろう。誰が来ても打ち倒せるという自己評価のもと行ったのだろうが、まんまと釣られたな。
「ルフェイ、キミの答えはとうに聞いている。こうなった以上は、俺も関係者だ」
「ヴァーリさん……ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げるルフェイ。いいや、彼女に謝られるのは道理に合わない。
「この事態も含めた上で、俺はキミに話を持ちかけた。キミは俺から提案した事柄に了承しただけだ。そのあとの問題は俺が解決するのが普通だろう?」
まっすぐに、彼女の目を見る。
「それに、約束したはずだ」
「約束……」
「面倒なことはこちらに任せておけ。なにかあったら解決するのが、俺とキミとの約束だったはずだ」
「あつ……はい、はい!」
表情をいくらか明るくしたルフェイは、こく、こくと頷く。
そう。あの夜に誓ったはずだ。
なにより、小さな者たちが自分の意思で動くのは間違いではない。しっかりと育つのを見守り、共に進む者がいるのなら、間違いにはさせない。
この事態を招いたのは、ルフェイではなく、この俺だ。誰にも、責任を押し付けはさせない。
「悪魔の言葉にしては綺麗事を並べますね。いや、悪魔だからこそ、でしょうか?」
聖剣を一振りし、こちらに一歩踏み出すルフェイの兄。
「全員、離れていろ」
眷属を下げ、一対一で向き合う他なさそうだ。
「まさか妹を甘言に乗せる悪魔がいようとは思いませんでした。よくもルフェイをたぶらかせてくれましたね」
「一応、同意を得てはいるのだがな」
「悪魔の契約ですか?」
「いいや、彼女本人の意思だ。俺はそれを尊重したにすぎない」
ギリッ、と聖剣を握る手に力が込められたのがわかる。
どうやら、この兄には相当可愛がられていたようだな。まさか聖剣をこんなにも早く相手にするとは思ってもいなかったが、この衝突は避けられない。
こちらにも通さなければならないものがあるからね。
「どうやら、当初の予定通り貴方は一度、手酷く痛めつけた方がよさそうですね」
「やれやれ。嫌われたものだな、俺も」
「当然です」
「当然か。では仕方がない」
眷属たちの手前、派手に暴れられては面倒だ。
抑え込むにしても相性が悪いとなると、さて、どうしたものかな。
「最終確認をしますが、ルフェイを眷属悪魔にしたのは貴方で間違いありませんね」
「そうだ。ルフェイは俺が責任を持って眷属とした。少なからず関係も持っていたしな」
「なっ!? ふ、ふふふふふふ……なるほどそうか、そうでしたか……最早どんな言い訳も必要ありません。ルフェイと関係を持っていた? まったく、近頃は夏も近いですし、妙な虫もいたものです」
「夏? いや、ルフェイと関係を持ったのは数年前のことだが。決して短い関係ではないぞ?」
「――…………はい?」
いきなり笑い出したかと思えばポカンと口を開けたまま固まる男。
後ろから兵藤一誠が「なんで余計刺激すること言うんすか!?」などと言ってくるがどこか刺激しただろうか? 彼はいまの一瞬で目の前の男から何事かを感じ取ったのか? 流石だ、兵藤一誠。
「――悪魔よ。私は聖王剣コールブランドの所持者であり、アーサー・ペンドラゴンの末裔。今日、この場で貴方を倒し、この手に妹を取り戻しましょう」
しかし、調子を取り戻した相手――アーサーが彼と話す隙を与えてはくれなかった。
なるほど、あながち間違いではなさそうだ。向けられている敵意が、先ほどとは違う。
聖王剣コールブランド。最強の聖剣とも名高いカリバーンの所有者がいるとはな。見るに、制御も完璧と見える。これこそが、俺と兵藤一誠の感じていた違和感か!
「悪魔には毒だが、悪くない」
俺が通すべきものと、アーサーの通したいものは違う。
ならば勝った側の主張が展開される。
心は踊る、滾る! だが、これは俺の欲を満たす戦いではない。仲間を助けるための戦いだ。
仲間のために振るう拳は、甘いものであってはならない。
遊びで握る拳であってはならない。
「今代の白龍皇であり、この地を任されているヴァーリ・グレモリーだ。俺の眷属に対して手を出すのなら、俺が相手をしよう。勝負だ、アーサー・ペンドラゴン」
「いいでしょう。妹のため、聖剣の錆になりなさい」
彼との戦闘では、使わなければならないだろう。
そうだろう、アルビオン!
相棒に語りかけながらも、背中に光の翼を展開させる。
相手は聖剣最強。
守るものは俺の眷属。
「十分だ。俺が力を示すには、十分すぎる舞台だな」
思えば、駒王町に来てから本気で敵に使うのは初めてかもしれないな。兵藤一誠と初めて会った際に一度使ったが、あのときとは抑えているものが違う。あのときは試すため。今回は、倒すために。
この町には、強敵といった強敵は来なかったからね。厄介事ではあるけれど、そこだけには感謝を。
さあ、守るための戦いを始める狼煙を上げようか。
「――禁手化」
直後、力の本流が俺を中心に、辺りに渦巻いた。