今回は少し強引に進めた感がありますが、こういう緩い話なんだと暖かい目で見守ってくださると幸いです。
ここ数日はまともな投稿ができているので作者も嬉しい限りです。
予定より早まりましたが、次の話から二章に入ります。
一章が間延びしたぶん、二書は進みよく行きたいですね。
では、始まるよ!
アーサーが聖剣を構えると同時。
俺の目の前にルフェイが飛び出してきた。
「もういいじゃないですか!」
来るやいなや、アーサーに向けて叫ぶルフェイ。彼女は彼女なりに、アーサーを止めに来たらしい。
そのこと自体は無謀とは思わない。
自分の意思で動くのなら、俺はできる限りその想いを尊重したいと思っている。
だが、このタイミングはよくないな。
一触即発の中で間に立つとは想定外もいいところだ。対面しているアーサーもなのだろう。呆気に取られ、構えを緩めてしまっている。いまなら決定打が入るかもしれない……などとは動けないな。
「る、ルフェイ? できればそこを退いてほしいのですが……いえ、危ないから下がっていなさい。これは兄からの命令です。いいですかルフェイ、貴女はまだ守られていなければならないのですから、おとなしく決着がつくまで――」
「どうしてですか……」
「はい? どうかしましたか、ルフェイ」
アーサーは話を中断されたことも意に介さず、不思議そうな顔をする。
そんな彼に納得がいかないのか、普段では考えられない大きな声がルフェイから漏れる。
「どうして私の気持ちは理解してくれないんですか!」
思えば、ルフェイの本心を聞くのは、これが初めてかもしれない。
彼女はいつも、本心を見せない、悟らせない独特の雰囲気をまとっていた。それがいまは、年相応の少女にしか感じられない。
アーサーも、これまでにない体験だな。
「ルフェイ、私は……」
「なんで命令なんて言うんですか! 私にだって、私にだって想いがあるのに……なんで関係ないように扱うんですか!?」
「――ッ!? そ、それは違う!」
「違いません! いまのお兄さまは、全然私を見てくれてません!」
強い拒絶。
ルフェイから感じるのは、不条理なものへの純粋な悲しみ、怒り。
向けられた側はたまったものじゃないだろうな。ただでさせ、大事な人からの言葉とくれば。
「そもそも、ヴァーリさんはなにも悪くありません! 組織で一人だった私の唯一話し相手になってくれたお友達を悪く言わないでください!」
「しかし……彼は悪魔で、ルフェイを誑かした……」
「誑かされてません! 私が頼んだことなんですから、お兄さまは口を出さないで! もう、これ以上私のお友達を取らないでください……せっかくできた繋がりを、私から奪わないで…………」
そこまで思われていたのか。
これまでの数年間は、俺たちの築いてきた関係は、無駄ではなかったということだ。
初めて召喚されたあの日から。
最初は、ただの偶然だった。俺の中には打算だってあった。
けれど、話し相手になる話を持ちかけたときは、本当に嬉しそうにしていたのをいまでも思い出す。白音を交え、共に食事をし、他愛もない話をしたのを思い出す。
記憶の中のルフェイは、いつも楽しそうだったな。
「残念だがな、アーサー。キミは本当のルフェイの笑顔を知らないんじゃないか?」
「……なにを根拠に」
「少なくとも俺は、彼女が共にいるときはいつも笑顔だったことをよく記憶している。知っているか? ルフェイが年相応に話し相手を欲していたことを」
「……悪魔の戯言に過ぎませんね。その子は一人でも十分に」
「人の心は他者が決めるものではない」
アーサーからのこれ以上の言葉は不要だ。
一度彼の信じているものを壊さねば、話は平行線を辿るばかりだろう。そして、その役目は俺ではない。
「同時に、人のおこないを、行動を、他者が――それも家族が縛っていいはずがありません」
遠くにいたはずの白音が、隣に立ち言葉を口にする。
そして俺の横を通り過ぎ、前に立つルフェイに静かに歩み寄った。
「私の友達は、連れて行かせません」
「白音ちゃん……」
嬉しそうに笑みを浮かべたルフェイの手が、白音の手を握る。
この光景は、ああ。アーサーが攻めてきたおかげで、いい光景が観れた。
「なるほど……悪魔はどこまでも、妹を掴んで離さないということですが。でしたら、この町の悪魔全員を駆りつくしてでも――」
「いい加減にしてください、お兄さま!」
「私は、私にだって大切なものがあるからだ!」
妄執か、それとも愛故なのか。ここにサーゼクスがいれば、それも教えてくれただろうか?
いや、それはいい。
気にするべきは、彼女たちのことだけだ。
「ルフェイ、戻りなさい」
穏やかな顔を見せ、再度問いかけるアーサー。
彼の意志を確認したのち、ルフェイは白音、兵藤一誠と、アーシア・アルジェント。そして最後に、俺に目を向けた。
俺はなにも言葉をかけなかったが、代わりにひとつ頷くと、彼女も釣られるように頷き返し、笑顔を覗かせてから前を――アーサーへと顔を向けた。
「お兄さま……それでも私は、ヴァーリさんたちの側から離れたくないです」
ゆっくりと、ことさらにゆっくり、自分の意志を表しながら。
「私はもう、ヴァーリさんの眷属なので」
こちらからは背中しか伺えないが、きっと、いま彼女は笑顔を浮かべたまま話してるに違いない。
兵藤一誠も、アーシア・アルジェントもその言葉を聞き、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。出会って間もない彼らですら、既にルフェイを仲間として、友人として接していたか。
約束だと言いつつ、すべてルフェイに言われてしまったな。
「聞いての通りだ、アーサー・ペンドラゴン。妹を大事にするのはいいが、彼女の言葉をもう少し素直に受け入れるべきだったな」
「くっ……決意は固いのですね、ルフェイ?」
悔しそうな。それでいて、僅かに納得した表情のアーサーの問いかけに、ひとつ頷くことで答える少女。
「そう、ですか……私に足りなかったのは妹に対する理解ですか。これは、気づけなかった私の間抜けさが招いた罰か」
「ごめんなさい、お兄さま。でも、私はお兄さまたちにも知って欲しかったんです」
「ええ、よく伝わりましたよルフェイ。であれば、私が出張るものでもないのでしょう。残念ですが、貴女の本当の気持ちなのであれば、仕方がありません」
手にしていた聖剣を鞘に収めたアーサーは、ルフェイを一瞥すると、次に俺へと向いた。
「今代の白龍皇。ルフェイに大嫌いと言われたくはないので彼女は貴方に託しますが、勘違いしないでくださいよ。私はいつまでも、彼女をここに置いておくつもりはありませんから」
一応は認めてくれたのだろう。心底悔しそうに、だが。
けれどこれでいい。
ああ、いや。ものは試しとも言う。後でいいが、ルフェイにも手伝って貰うか。
「ルフェイ、いい子で待っていなさい。あまり悪魔に染まらぬうちに、改めて迎えに来ますからね」
こちらへのあいさつもそこそこに、アーサーは再び抜いた聖剣で時空を割り、姿を消した。
これでひと段落か。
まさかいきなり聖剣の使い手と当たるとは思いもしていなかったが、まさに強敵だったな。
「さて、これで正式に、なんの心配もなくルフェイは俺の眷属になったわけだが」
「はい。みなさん、ご迷惑をおかけしました」
頭を下げる彼女に、
「いやいや、そんなことないだろ! 俺なんてなにもできなかったし、むしろごめん。困ってる子のためになにもしてやれないなんて、先輩じゃないよな」
励ましているのか悔やんでいるのか、兵藤一誠が話しかける。
隣にいる白音とアーシア・アルジェントは、逆に嬉しそうに微笑んでいるが、このあたりは付き合い方と己の思い方の差が出ているな。
「まあ、そう責めるな兵藤一誠」
「でも……」
「なにもしてやれていないという点なら、俺もそう変わらない。最後に居場所を掴んだのはルフェイ自身だったしな。もし悔やむのであれば、俺と一緒に強くなろう」
「――はい! 俺、頑張ります!」
「ああ、その意気だ」
これで言質は取れた。明日からは修行も厳しくしても問題ないな。
いつ強敵が現れるかは知れないし、兵藤一誠にはより強くなってもらわなければ。
だが、それを考えるのは明日からでいいだろう。
「さて、じゃあ帰ろうか。なあ、ルフェイ」
手を差し出すと、彼女も俺の手を握り返した。
とりあえずは、いまの眷属たちを守れただろうか? さあ、俺たちも人間たちと変わらない日常に戻るとするか。
後日。
まだまだ旧校舎の片付けが終わらないとのことで、今日も全員揃って改装作業だ。
部屋だけは無駄に多く、すべての部屋をそれなりに使えるようにするにはまだもう少しばかり時間がかかるだろう。
「ヴァーリ先輩、今日はどうしましょか?」
アーシア・アルジェントと共に旧校舎の一室へとやってきた兵藤一誠が入ってきて早々やる気満々なところを見せてくれるが、そのまえにひとつやらなければならないことがある。
「作業の前に、報告だ」
「ん? なんすか?」
これは白音にも話していないことなのだが。
部屋の奥から、駒王学園中等部の制服をまとったルフェイが出てくる。
「こ、これって!」
「ああ、彼女も学生の身だからな。それなりに普通の暮らしをするのが義務だと思い、編入してもらうことになった」
このためにソーナに働きかけをしてもらったのだが、実はもう一件。こちらはわりと強引に、彼女の権限も借りることでどうにかして捻じ込んだ。
「それともうひとつ。入ってきてくれ」
扉が開き、そこから現れたのはメガネをかけたスーツの男性。
「あ、あああああああああああっ!?」
「またルフェイを取り返しに来たんですか? 懲りない人ですね」
「る、ルフェイちゃんは渡しません!」
兵藤一誠、白音、アーシア・アルジェントが順番に反応をみせた。無理もない反応だが、誤解は早めに解かないとな。
「全員落ち着け」
「でも、ヴァーリ先輩!」
兵藤一誠が、部屋に入ってきた男性――アーサー・ペンドラゴンを指差し叫ぶ。
これでは埒があかないと彼に視線を送れば、承ったとばかりに、背中から悪魔の翼を生やしてみせた。
「え? これって……」
アーシア・アルジェントが異変に気付き、彼に問いかける。
「アーサーさんは、悪魔だったんですか?」
「いいえ、前回会ったときは人間でしたよ。ええ、私もルフェイも、元は人間ですから」
「つまり、転生悪魔……」
「はい、お察しの通りです」
白音の疑問にも答え、彼女たちの側を歩き、こちらまで来る。そうして俺とルフェイの隣まで歩いてくると立ち止まり、他の3人へと向き直った。
「みなさん、先日はご迷惑をおかけしました。実は私、あのあとヴァーリより相談を持ちかけられて、この度彼の『騎士』として眷属悪魔になった次第です。どうぞ、よろしく御願いいたします」
紳士的な振る舞いで一礼したあと、ルフェイの制服を眺め出すアーサー。その姿は、どこかサーゼクスに重なるものがあった。
と、3人の反応がないので確認してみると、ジト目をした白音。
なぜか嬉しそうなアーシア・アルジェント。
そして――。
「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」
絶叫する兵藤一誠が視界に入った。
「眷属!? い、いつの間に? というかどうやって説得したんすかヴァーリ先輩! 俺まったく聞いてなかったんですけど!?」
「落ち着け、兵藤一誠。アーサーなら、襲撃のあった後ルフェイに居場所を補足してもらい、その足で交渉にいった」
「ヴァーリ先輩の精神はどうなってるんすか! 異常ですか!?」
「異常ですよ……昔から目を離すといつもこうです。ヴァーリ先輩は、気に入った相手や気になった相手をどこからか探してきてしまう変人さんです」
俺が口を開くより早く兵藤一誠の質問に答える白音。
彼女は最近俺に対して遠慮がなくなってきているように思う。それが悪いこととは思わないけれど。
「俺が変人かどうかはさておき。アーサーには『そんなに妹が心配なら、彼女の意志を通しつつもおまえの大切なモノを守ることのできる方法があるぞ』と持ちかけたら、再戦を申し込まれた上で納得してくれたよ」
「ええ。ルフェイの意志を尊重しつつ、私も自分を通すにはこれが一番だったのです。元々、私は家や属す場所に拘りはなかったので」
「あ、やっぱりそうなんすね……」
「ちなみに、アーサーは中等部の若手教師として駒王学園に通うことになる。会ったときは教師と生徒だから、その辺りの対応は間違えないように」
もっとも、『騎士』の駒をふたつとも消費したのは予定外だったがな。けれど、ふたつ使うだけの意味があっただろう。
これもそのうち話すとして、残る駒は『戦車』がひとつと、『兵士』が八つ。
まだまだ、眷属は決まりそうにないな。
「紹介も終わったところで、今日も活動を開始しよう。俺は訓練場を組み上げるから、白音とルフェイはキッチン周りを。兵藤一誠はアーシア・アルジェントと買い出しを頼みたい。アーサーはまず、一通り旧校舎を回ってこい。そのあとで足りないものや改修案を聞こう。では、活動開始だ」
俺の言葉を受け、眷属たちが動きだす。
赤龍帝・兵藤一誠との出会いを皮切りに、こうも眷属が集まり出すとはな。偶然ではないだろう。やはりキミは、将来大物になりそうだ。
白と赤。
俺たちが手を取り合った結果なにが起こるのかは、まだ想像すらできない。けれど、きっと退屈はしないだろう。
とりあえずは、ソーナたちといつ会わせるかの話も進めるとしよう。
この旧校舎を、俺たちの根城へと変えながら。
とりあえず一章の最後にこれだけ言わせてもらおう。
一応のキャラは出たから、番外編を書きたいと思う! 平和な裏側とかっていいよね。
ヴァーリとソーナが友になった頃の話とか、魔王さまの休日(ヴァーリきゅん観察日記)とか、白音とルフェイのおかし作りとか? どうだろうか相棒!