木場くんがいないとこうもやりづらいのかと感じるコカビー編。でもなんとか進めてそのうちコカビー編は終わっていることでしょう。
それはそうと、なにかselectorでひとつ話を書きたいなと思いつつ過ごしてます。
という話は置いておいて、みなさん感想ありがとうございます! 作者たちの活力になっていますよ!
では、どうぞ。
素直に帰ればいいものを……。
部屋を出て行こうとした矢先、教会側の二人がアーシア・アルジェントに目をつけ立ち止まった。
こちらが問題行動は控えようとしている中、なぜ向こうから絡んでくるのか。彼女たちにはそうした配慮はないのかと問い詰めたくもなるが、恐らく無駄なのだろう。
「貴女が一時的に内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん? 悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね? 追放され、どこかに流れたとは聞いていたけど、悪魔になっているとは思わなかったわ」
「……あ、あの……私は……」
兵藤一誠から一応の話は聞いているが、アーシア・アルジェントにとっては聞きたくもない言葉だろうな。
「しかし、悪魔か。『聖女』と呼ばれていた者が、堕ちるところまで堕ちたものだな。どうだ――」
「それ以上言うんじゃねえよ!」
やはりと言うべきか、よくやったと褒めるべきなのか。
なおも追求しようとする二人組とアーシア・アルジェントの間に兵藤一誠が割り込む。
「アーシアはな、やっと平和な生活を手にいれたんだよ! これから俺が、その生活を守っていくんだ! おまえらみたいな奴らに、これ以上滅茶苦茶にされてたまるか!」
噛み付かんといわんばかりの形相でまくしたてる兵藤一誠だが、その様子を冷静に眺めているだけのメッシュの女性は布に包まれた聖剣を突き出す。
「平和? もともと『聖女』は平和だろうさ。戦いに赴くこともなく、ただただ神の信仰のもと人を癒すのだからな。ひとつ教えてやるが、『聖女』に必要なのは慈悲と慈愛だ。他者に分け与えるたけのものがあればそれで十分だろう? 我欲を出したとき『聖女』は終わる。ならばこそ、彼女は平和を求めてなどいないし、求めてはならない」
「ふざけるなよ……他者に与えることだけがアーシアの役目だと!? おまえ、一度でもこの子の想いを聞いたことがあるのかよ! 一度でも、この子の涙を見たことがあるのか!? なにが神の信仰だ! んな間違ったもんはな、さっさとなくなっちまえばいい!」
「私の前でよく口にしたものだな。そんなに『魔女』が好きなら、キミたち二人とも、いまこの場で断罪してやろう。いまなら、罪深きキミたちでも、神は救いの手を差し伸べてくださるはずだ」
ギリギリと、奥歯を噛みしめる音がこちらにも聞こえてくる。
俺は直接アーシア・アルジェントの話を聞いたわけではないが、親身になった兵藤一誠はまた別なのだろうな。
「断罪したきゃしてみろよ」
「いったいどこまで肩入れすれば気が済むんだ……たかが同じ眷属悪魔というだけだろう? それとも、キミはそこのアーシアの特別なのか?」
「特別なんかじゃない。けれど、おまえたちといたんじゃ絶対に慣れなかった、普通の関係だ。家族で、友達で、仲間だ! だからアーシアを助ける。アーシアを守る! 絶対に、この手で守ると誓った! だから俺はここにいるんだ。だからおまえたちがアーシアを悲しませるって言うなら、俺はおまえら全員敵に回してでも戦うぜ」
こうもハッキリ宣言されるとこちらとしては引けなくなるから困るな。
兵藤一誠の挑戦的な言葉に、メッシュの女性の目が細まる。
「それは私たち――我らの教会すべてへの挑戦か? 一介の悪魔にすぎない者が、大きな口を叩くね。グレモリー、教育不足では?」
ここで話を振られるが、俺は兵藤一誠の隣まで歩き、目の前の女性に目を向ける。
「先に不祥事を起こしかけたのはそちらだ。なにが今回は俺たちに危害を加えないだ? 直接怪我を負わせなければいいとでも思っているのか?」
「――……なに?」
「言葉は立派な攻撃手段だ。俺はそれを、よく知っている。そうして育ってきた時期もあったからな」
俺が生まれたのは、グレモリー家ではない。
あそこで向けられた言葉は、おぞましい言葉ばかりだった。俺の誕生を呪うもの、生きることを否定するもの。多くの言葉が俺に牙を剥いた。
「おまえたちが俺の眷属に危害を加えるのなら叩き潰そう。俺も、兵藤一誠も守るために戦うことは躊躇わない」
「ヴァーリ先輩!」
本当はこうなる前に落ち着かせるべきなのだろうが、それを俺は良しとしなかった。
当然だ。
目の前の敵が、ルールを無視し、あまつさえ、俺の眷属を言葉の暴力で傷つけようとしたのだからな。
「どうあれ、このままでは収拾はつかないだろう」
「ならばどうする?」
隣の兵藤一誠を見るに、やはり手を出したそうだ。まるで怒りが収まっていない。
つい先ほどまで怒声を放っていたし、これが普通か。大切な人を危険に晒した奴らに対して冷静になって抑えろとだけ言うのも酷だ。
あとは……彼が適任か。
「模擬戦をしようじゃないか。今後の憂いを断つためにも、恨みっこなしでね」
「……いいだろう。間違って断罪しても許せよ」
「キミたちこそ、小さなプライドを守れるといいな」
「旧校舎裏でいいだろう。先に行って待っている」
俺の言葉には反応せず、栗毛の女性を連れて部屋を出て行った後、眷属に目を向ける。
「ルフェイ。すまないが急遽結界の用意を頼みたい。戦闘が始まったら辺り一帯を囲ってくれ」
「はい、わかりました」
笑顔で了承してくれるルフェイ。
「白音はいざというときの戦闘の中断を。こちらがやりすぎないようにね」
「勝つのは当然ってことですか。わかりました」
もちろん勝ってもらわないと困る。日々の鍛錬の成果を見るいい機会じゃないか。
「兵藤一誠」
「は、はい!」
「本来なら、他勢力と争う火種を生みかねない状況を作ったことを怒るべきなのだろうが……よく言ってくれた。それでこそ俺の見込んだ男だ。模擬戦はもちろんキミに出てもらう。しっかり勝ってこい。アーシア・アルジェントを守るのだろう?」
「はい、もちろんです! アーシア、見ててくれよな!」
気まずそうな顔を覗かせた兵藤一誠だったが、反省することはあとでもいい。
いまはただ、守るために怒ることを。どういう場であれ、意志を持つことを学んでくれれば十分だ。眷属の責任は、すべて俺が取れば問題ない。
「さて」
「向こうは二人とも出てくる、と言いたいのでしょう」
アーサーが俺より先に口を開く。
「そうだ。ならばこちらも二人出そうと思うが、いいか?」
「相手をするには実力不足もいいところです。朝の三つ巴の一戦の方が遥かに楽しい。数の少ない聖剣使いのうち二人があれでは……ショックで立てなくなりそうでしたよ」
酷い言い様だが、アーサーの心情は察することができる。
自分と近い立場にいるはずの好敵手があの程度とは笑えない。戦うまでもな結果は見えているのだから、心も踊らないだろう。
確かに、朝の一戦の方がよほど楽しかっただろうな。
だが、いまの兵藤一誠に二人がかりで来られてはいささか厳しいのも事実。
ルフェイに目を向けると、彼女と目があった。
それとなく視線をアーサーへ向けると、視界の端で手でオッケーサインを出しているルフェイが映った。
「お兄さま」
「なんだい、ルフェイ」
それからの行動は早く、すぐさまアーサーへと声をかけに行く。
「私、かっこいいお兄さまが見たいです!」
無垢な笑顔を向けながらそう告げたルフェイを直視していたアーサーは、つまらなそうな顔を一転。やる気に満ちた表情を見せた。
手にはいつの間にか聖剣を握っており、準備は万端だと言いたげだ。
「さあ、早く行きますよヴァーリ、赤龍帝。可及的速やかにルフェイの要望に応えなければいけなくなりました。さあ、急いでください」
「ああ、では行くとしよう」
「ええ、それがいいでしょう。赤龍帝、立ち止まっていないで歩いてください。勝ちますよ、この勝負」
「え? あ、はい! 頑張りましょう、アーサーさん!」
一足早く外へと向かう二人。
それを追いかけるアーシア・アルジェント。
「すまないな、ルフェイ。助かった」
「いいえ。では、私も結界を張るために行きますね」
三人のあとを追うように、ルフェイも手を振りながら駆けていく。
残ったのは俺と白音だけか。
「ヴァーリ先輩は行かないんですか?」
「もちろん行くさ。二人がやりすぎないか見ておかないと」
「疑ってはいませんが、本当に勝つことは前提なんですね」
「いくら聖剣の使い手とは言え、見れば実力はわかるものさ。現時点でアーサーには遠く及ばない。兵藤一誠は……おそらく聖剣がかすらなければいい勝負になるだろう。――さて、俺たちも行こうか」
「はい」
つまらない試合だ。
精々、兵藤一誠の修行の一環になればマシな部類な程には。日頃から俺とアーサー、白音との戦闘訓練を積んでいる上に、元から持っていた数々の防御手段。それでもボロボロになっている日々だが、今日、実戦で勝つことができれば、修行の成果を出せれば、それは彼の自信にも繋がる。そのためには、いい相手かもしれない。
俺の眷属に手を出そうとしたんだ。これくらいの利用で済むのなら、向こうも納得するだろう。
たとえ、事故で聖剣を折ってしまうようなことが起きたとしても――。