なんでも、昨日ランキングの7位に乗っていたようです。これも本作品を読んでくれているみなさんのおかげです! ありがとうございます!
頑張って更新できそうです。
では、どうぞ。
俺と白音が旧校舎裏に出ると、既に辺りには結界が張られており、中では兵藤一誠とアーサーが準備運動とばかりに軽い手合わせをしていた。
よく見ていると、アーサーの握る剣が聖剣ではないことにはすぐに気づいた。
「あれはどういうことだ?」
結界内には入っていなかったルフェイに話を聞くと、
「お兄さまが言うには、木剣で十分とのことでした。かっこいいところは見せるが、それと全力を出すことは違いますから、と」
「妥当な判断だな。アーサーでは確実にあちらの聖剣にダメージを与えてしまう。彼女たちにとっては唯一コカビエルに対抗できる術だ。壊されたくはあるまい」
とは言え、仮に木剣であったとしても……いや、さすがに聖剣と打ち合えば簡単に折れてしまうか。
これなら多少の見ごたえはあるといいんだけれど。
相手となる聖剣使いたちは静かに兵藤一誠たちを眺めているが、どうということはないだろうと目が語っている。聖剣を所持してるから勝てるとは思っていなければ、試合開始直後には潰れまい。
「そうだ、白音」
「なんですか?」
「兵藤一誠に攻撃の当て方はもちろん、防御から攻撃への繋げ方は教えてあるか?」
「話しましたし、実際に何度か味わってもらいましたが……まだ理解には遠かったです」
やはり攻撃はまだ慣れないか。
最初に会ったときも防御だけは様になっていたな。むしろ防御しかできていなかったと言うべきか。どうあれ、守ってばかりでは勝てはしない。
どうにか手段を学んでくれ、兵藤一誠。
「さて、もういいだろう」
相手そっちのけで木剣と素手で打ち合う俺の眷属に声をかけるメッシュの女性。
その声が耳に届いたのだろう二人は動きを止め、改めて教会側の聖剣使いを見据える。
「ええ。それでは、どちらが私の相手を?」
アーサーが尋ねると、彼の前には栗毛の女性が立つ。
「貴方の相手は私、紫藤イリナよ。本当は、再会した懐かしの男の子が悪魔になっていたから、お友達のためにも、主が与えた試練に打ち勝ち乗り越えるためにもイッセーくんと戦おうかと思ったのだけれど……ああ、運命って残酷ね。代わりに貴方の罪を裁いてあげるわ! アーメン!」
イリナと名乗った女性は涙を浮かべつつも張り切った様子で聖剣の切っ先をアーサーに向ける。
兵藤一誠のことを語っていたが、どうやら悪魔を倒せるなら誰でもよさそうだ。
ということは、兵藤一誠の相手はメッシュの方か。
「一応、模擬戦だからな。本来は名乗ることなどないんだが、ゼノヴィアだ。先ほどの言葉を撤回させたければ全力で挑むことだな。もっとも、貴様ごときの攻撃が私に届くとは思えないが」
「……撤回してもらう必要はねえよ。あんたを倒してアーシアを守るだけだ」
こちらはこちらで互いの言い分や主張を通ための戦いか。
「そうか。諦めないと言うのならせめてもの情けだ。私の持っている聖剣は『破壊の聖剣』。有象無象のすべてを破壊する剣の名だ」
「だからどうした! 破壊しかしない剣に負けられるかってんだ! 行くぜドライグ!」
『Boost!』
赤い閃光を放ち、兵藤一誠の左腕に籠手が現れ、音声が発せられる。同時に、感じられる彼の力が倍加した。
10秒ごとに宿主の力を倍にしていく能力を持つ「神滅具」。
素の状態でもそう遅れは取らないだろうが、十全な状態で臨むのならできるだけの強化は済ませておくに限る。悪くない判断だ。
「……『神滅具』」
「それって、『赤龍帝の籠手』? こんな極東の地で赤い龍の帝王の力を宿した者に出会うなんて……」
そういえば、今代の赤龍帝はまだ見つかっていなかったな。
このことを知っているのはサーゼクスたち魔王とそ身近な側近たちだけだっただろうか? いずれは知られることだ。特に構うこともないか。
「ゼノヴィアだけ言うのもあれだし、私の『擬態の聖剣』も教えてあげる」
イリナは長い紐を懐から取り出すと、その紐を日本刀へと変化させた。
「こんな風にカタチを自由自在にできる聖剣よ。ところでそっちはなにを使うの? 神器?」
調子を取り戻したイリナがアーサーに問うが、彼は首を横に振り、自身の持つ一本の木剣を掲げて見せた。
「私の使う武器はこれ一本で十分です」
「「は?」」
これには唖然としたのか、間抜けな声を漏らすイリナとゼノヴィア。
真剣勝負のとき。片や聖剣。味方は「神滅具」と来れば少なからずの期待でもあったのだろうか? 確かに、流れはできていたかもしれないが。
「俺も相手側に立っていて、これから戦う相手が木剣片手に自信満々な顔をしたらああいった反応をしたかもしれないな」
「あはは……でも、これでも足りないくらいですから」
「だろうね。だからこその木剣だ」
ルフェイの指摘を聞きながら、同意する。
そうなのだ。この勝負に唯一不満があるとすれば、アーサーだけが抜きん出てしまっていること。ようするに、あからさまなまでに手を抜かなければ勝負にならないのだ。
「つまらないな。あちらはすぐに終わるだろう」
「でないと困ります」
なんだかんだと、ルフェイの兄に対する信頼は厚いな。
「あ、ああああああ貴方本気!?」
「聖剣を相手にするのに木剣だと!? 我々をバカにしているのか!」
勝負そっちのけでアーサーに詰め寄る二人。
当のアーサーは冷ややかな視線を向けるのみで、挙句ため息まで吐く始末。仕方ないとばかりに口を開けば、
「バカになどしていません。これでも十分すぎると冷静に分析しながら武器は選んだつもりです。そもそも、下手をするとこれすら必要ないのですから」
火に油を注ぐだけときた。
もちろん俺は止めたりなどしない。指摘は正しい間は、特に。
「――イリナ、徹底的に潰せ」
「もちろんよ、ゼノヴィア。聖剣を相手に冒涜したこと、後悔させてあげる!」
怒りを露わにしたイリナはアーサーから一度距離を取ると、すぐさま駆け出し勢いよく斬りかかっていった。
どうやら本気でいったようだが、その切っ先がアーサーに触れようとしたとき。
「遅いですね。この程度の距離も殺せないようでは、やはりこれすら必要なかった」
既にイリナの正面にアーサーの姿はなく、彼女の左側から聖剣を握る手を捻り、力が抜けた瞬間に「擬態の聖剣」を遠くに弾いて見せた。
「さて、これで貴女の武器はない。私の勝ちですね」
余計な動きを取らないよう木剣の切っ先を喉元に突きつけた上でだ。
「貴女は聖剣を過信しすぎている。たとえ悪魔だろうと当たらなければ意味がありません。もっとも、私の前では欠けた七振りのうちの一本でしかない聖剣なんて、御するのも容易い代物ですけどね」
イリナから手を離し、遠くに弾いた聖剣を呼ぶアーサー。
「擬態の聖剣」は彼に呼応するように一度振動すると、自らアーサーの手の中に収まった。
「うそ……」
「現実です。さて、私は特に貴女方に怒りも不満もあるわけではありません。まして、この聖剣が必要なわけでもない。コカビエル討伐に必要でしょうからお返しします」
離れようとしないイリナの聖剣を宥めるようにしてひと撫でしたアーサーは、彼女に「擬態の聖剣」を返還する。
「貴方いったい……」
「さて。私は主であるヴァーリ・グレモリーのただの『騎士』ですから」
それだけ言い残すと、兵藤一誠を置いて結界から出てくる。
「やれやれ。相手をするだけ無駄とはわかっていましたが……やはり直に相手をするとショックは大きいですね」
「悪いな。だが、鮮やかだったぞ」
「力量差がありすぎたせいもあるでしょう。ヴァーリが相手ならこうもうまくは決まりませんよ。ああ、それよりルフェイ。どうでしたか? その、私はかっこよかったですか?」
俺との話はそっちのけで、ルフェイに問いかけるアーサー。こころなしか、期待と不安の入り混じった目を彼女に向けている。
話しかけられたルフェイはというと、すぐさま笑顔を浮かべ、
「はい。とってもかっこよかったですよ、お兄さま! 特に、最後の台詞がよかったです!」
彼の望みそうな言葉を言ってのけた。無論、本心なのだろうけれど。
「そうですか! それはよかった。ええ、貴女が満足してくれたのなら私も救われるというもの。無理をして退屈な勝負を引き受けた甲斐がありました」
答えを聞くなり不安は消え、喜びの声を上げる。
俺としては兵藤一誠に戦い方を見せてほしかったのだが、あまりにも決着までが早すぎた。
このぶんだと彼にはなにも教えられそうにないが、そこは兵藤一誠だ。持ち前の直感と閃きで勝ちを拾ってくるだろう。
「あ、アーサーさん早すぎません!?」
「なに余所見をしている!」
「っと、あぶねー。にしても、まさかあんな華麗な勝ち方があるなんて……やっぱり、俺ってまだまだだな!」
「この、ちょこまかと!」
「はっ、よっと! うん、これなら白音ちゃん相手の方がよほど厳しいな。聖剣が危ないのはよくわかるけど、アーサーさんの言った通り、当たらなければ意味はない!」
もうひとつの戦いに目を向ければ、「破壊の聖剣」を振り回すゼノヴィアと、それを余裕を持って避け続ける兵藤一誠が視界に映った。
「このっ!!」
攻撃が当たらないことに腹を立てたのか、天にかざした聖剣を地面へ振り下ろす。
すると、地面を激しく揺らしながら振り下ろした場所を大きく抉り、あたり一面に土を撒き散らした。
俺たちの周囲はルフェイが土を散らしてくれたおかげで被害はなかったが、結界内は土煙が立ち込め、兵藤一誠もいくらか土を被ったらしい。
「クレーターができたか」
この被害をもたらした聖剣を振り下ろした場所にはクレーターが生み出されていた。
だが、その程度で怯む俺の眷属ではない。
『Boost!』
何度目かになる強化を終えて駆け出す兵藤一誠の姿がしっかりと見えているのだからな。
「チッ、まるで怯まないか」
「怯ませたいなら、聖剣を振り下ろしたあとにすぐ俺に突っ込むべきだったな!」
「一介の悪魔風情が!」
近づいた兵藤一誠に向け聖剣を横に振るが、しかし。
「いまさら聖剣の一太刀くらいで退くかよ! ドライグ!」
まさに斬り裂かれるというタイミングで、赤龍帝の籠手に変化が起きる。
籠手が分厚くなり、側面には円形に広がった盾のようなものが展開し、聖剣を弾いて見せた。これは、前にも一度見た、兵藤一誠が見つけ出した進化形態!
「なっ、『破壊の聖剣』の一撃だぞ!? こうも簡単に防御できるわけ――」
「そんなことどうだっていいんだよ! 俺がおまえに言いたいことはたったひとつ!」
力強く握られた拳が引きしぼられる。
「うちのアーシアを泣かせるような真似、俺が絶対許さねえ!」
怒声と共に放たれた拳が、無防備になったゼノヴィアの体を撃ち抜いた。