グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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この激情は覚醒

 彼の行動が軽率だとは思わない。

 実力に見合わないからといって守らなくていいわけではない。

 だが、この場で真っ先にそれを実行するべきなのは果たして誰であったのだろうか? 問うまでもなくわかっていたことだ。

「兵藤一誠……キミは本当に、俺の予想の上を行くのが好きだな」

 コカビエルが兵藤一誠の大切な者に手を出した瞬間、彼は迷いもせずにアーシア・アルジェントを庇いに走った。どれほどの威力が込められているのかも確認せず、ただ前に前にと進んでいった。

 自分にウソをつかないために。

 信念を曲げないために。

 なんと高潔で、優しい男だろうか。

 目の前で起きた爆発を確認しながら、それでも俺は確信していることがあった。

「チッ、女を殺せば赤龍帝が食らいついてくると思ったが、まさか庇い死ぬとはな……興が冷めた。白龍皇、最早貴様ひとりになったが、まあいい。続きだ」

 俺と兵藤一誠によって、すでに全身血まみれのコカビエルは、なおも戦いへの意欲を見せる。

 死ぬことよりも、いま戦えないことの方が苦しいと言わんばかりに。

 己をかけて立ち上がってくる。

「どうした、白龍皇。まさか赤龍帝の死が悲しいなどと抜かしはしないだろうな? 貴様たちは元より敵対する存在だ。死んだ奴のことを思うよりも、目の前の敵に集中するべきだろう」

「目の前の敵か」

「そうだ! 俺は戦いを放棄したりなどしない! 俺のいるこの場が、生きる場所こそが戦場だ!」

 こいつは決して逃げはしないし、途中でやめることもない。

 アーサーは白髪の少年と聖剣を打ち合っているが、飽きてきたのか、一撃ごとの威力が上がってきている。向こうはじきに終わるだろう。

 そうすれば、アーサーはルフェイたちの護衛に回るはず。

 やはり、こちらは最後まで二人で戦う方がいい。

「コカビエル、戦いは放棄しないと言ったな」

「当然だ」

「ならば、俺からもひとつ教えよう。目の前の敵からは、目を離さない方が身のためだぞ」

「なに?」

 奴が訝しげな表情を浮かべたとき。

 兵藤一誠が身をていして防いだ一撃の余波で生まれた煙が、渦を巻いてみせた。

「これは!?」

「きたか。やはり手を出さなくて正解だったな、アルビオン」

『ああ。いささか癪だが、ここで死なれてもつまらないからな。ドライグの波動は感じていた。奴らの激情なら、なんとかなると思っていたさ』

 俺の相棒であるアルビオンは、兵藤一誠が駆け出したとき、俺に声をかけてきた。

 たった一言、赤いのに任せておけ、と。

『いずれ至る道なら、きっかけがあるときに済ませるべきだ。納得はいかないが、表面上、いまは敵対する間柄ではないからな』

 アルビオンの言葉を肯定するように、渦の中で赤い光が輝きを増していく。

『まったく、忌々しい。赤いのの所有者の心意気は認めるがな。神器は所有者の想いを糧に変化と進化を続け強くなっていく。だが、それとは別の領域がある。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う「流れ」に逆らうほどの劇的な転じ方をしたとき、神器は至る。そう、それこそが――』

 アルビオンは熱のこもった声を上げる。

 同時に、煙が完全に払われ、中から赤いオーラをまとった兵藤一誠が姿を表す。

「おまえなんかに、俺の大切な人たちを殺されてたまるかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 月に照らされた校庭に、兵藤一誠の咆哮が響く。

『――禁手だ。待っていたぞ、ドライグ』

 

 

 

 

 

 

 アーシアを守るためにコカビエルの光線を防ぎにいった俺は、確かにあいつの攻撃に呑み込まれた。

 俺はヴァーリ先輩みたいに強いわけでもなく、他のみんなみたいに極めた分野があるわけでもない。だから、格上のコカビエル相手に守り抜くには、自分を盾にするしかなかった。

 光線で身を焼かれるのだろうか? 一瞬にして消え去るのだろか? どちらにしろ、俺は終わりか……。

 目を閉じ、そのときを静かに待つものの、一向に俺を殺すはずだった一撃は俺へと届かない。代わりに、俺を取り囲むようにして爆発が起こり、あたりを煙が覆っていく。

「な、なにが……」

『まったく、この土壇場でとは、さすがだ相棒』

「ドライグ!? お、俺はいったい……そうだ、アーシアは!? 俺は守れたのか? ってか、なんだよこの状況!」

『落ち着け、相棒。おまえの女は無事だ。それよりも、自分をよく見てみろ』

「は? 俺のって――」

 ドライグに言われるままに手や足を見てみると、俺の体は真っ赤なオーラに包まれていた。

 もしかして、コカビエルの一撃のときに俺の体を包み込んだのって。

『奴の一撃ではない。おまえに呼応して神器から漏れたオーラの方だ。これがなければ、おまえは本当に死んでいただろうさ。喜べ、相棒。おまえはやっと、自分の力のその一端を扱うことが叶う』

「どういうことだ? おまえ、なに言ってるんだよ!」

 いまいち状況が飲み込めない中、ドライグは嬉々として語る。

『おまえの想いが、願いが激情を呼び起こした。相棒、これまでの修行は無駄ではなかった。おまえの決意は、自らを強くした。誇れ、相棒! おまえは弱者ではない。力に屈せず己を貫き通す者のみが、真の強者足り得る。神器は至る。いまがそのときだ』

 ドライグの言いたいことは、明確にはわからない。けれど、いまの俺を肯定してくれたことだけは、よくわかった。

 守りたい人は、まだ生きてくれている。側にいてくれる……。

 みんなが、戦っているんだ……。

 だから、まだ戦える。

 頑張れる!

「俺はまだ、戦えるッ!!」

『その通りだ相棒! 難しいことは考えるな! おまえはまだ戦える、そしてコカビエル倒すことができる。それだけを考えながら闘志を燃やせ! 激情を呼び起こせ!!』

「おう、ドライグ! いくぜ!」

 アーシアを狙ったコカビエルを、許しちゃいけない! 二度とやらせるかそんなこと!

 俺の仲間たちは! 一緒にバカやってる、この町に住む友人たちも! こんな俺を育ててくれて、アーシアを受け入れてくれた親父たちも!

「おまえなんかに、俺の大切な人たちを殺されてたまるかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 俺の怒りに呼応し、籠手の宝玉が赤い閃光を解き放つ。

 校庭全体を赤い閃光が覆い、俺の中に、ドライグの力が流れ込む。

『やっとか。話をしてから何年も待ったが、ようやくだ、相棒』

 わかっているよ、ドライグ。俺にも、これがなんなのかよくわかる。

 体を覆う赤い鎧。ドラゴンの姿を模した全身鎧だ。ヴァーリ先輩のものとはフォルムが違う、全体的に鋭角な形。

 みんなとの修行で手に入れた右腕の籠手も、そのまま装着されている。

 籠手にあった宝玉も、両手の甲はもちろん、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも出現していた。

 背中にはロケットブースターのような推進装置もついている。

「これが、赤龍帝の鎧……見た目的にはやっぱり小柄な赤いドラゴンみたいなものだな」

 ヴァーリ先輩とそう大差ないな!

 なんてヴァーリ先輩を見ると、予想通りといった顔をして頷いていた。

「やはりか。キミの進化は見ていて面白いな」

「面白いって……俺はかなり限界突破的な心意気なんですけど……正直毎回の修行も進化も半分死にかけか死を覚悟してますからね!?」

「いいじゃないか。そこまで追い込まれて初めて、本当の想いが強く、強く表に出るものだよ、兵藤一誠」

 ふむ、そういうものか……いやいや、流されるな俺!

 というか、いまはそんなことを考えている余裕ないだろ!

『だろうな。おまえの基礎能力は決して低くない。ここ最近でも上がっているだろう。だが、いまのおまえでもこの状態を長く維持するのは困難だ。決めるなら短期決戦。これを忘れるなよ、相棒!』

 ドライグ……まあ、そうだよな。持続時間が長いとは思ってなかったけど、そりゃそうだ!

 だったら始めないとなぁ!

 やる気満々でコカビエルへと向き直ると、奴は震えながら、その怒りを口にした。

「赤龍帝、貴様まさかこの短時間で至ったとでも言うのか!? 貴様は、貴様はいったいどうなっているんだ! どうやって生き残った!? 実力では不可能なはず……ましてや赤龍帝の鎧だと? バカな、バカなバカなァァァァッッ!! そうまでして俺の邪魔をしたいというのか、二天龍よ! ハァーー! ならば見せてみろ! この俺に! 貴様らの力をなぁ!」

 禁手には至った。

 ああ、やっとのことで、昔ドライグから聞かされたように、俺は至ったんだ。けれど、まだ足りない。俺の力じゃ、コカビエルには届かない。

 勝つにはあとひとつ。

「ヴァーリ先輩。俺、まだまだ弱いです。けど、この先俺は、強くなります。みんなを守って、貴方を支えられるぐらい強くなってみせます。だから俺は、最強の『女王』になります!」

「当然だ。俺の『女王』だからな。それぐらい、なってもらわなければ困る」

「はい。だから、いまは――」

「ああ、それまでは、キミは、俺の眷属たちは、俺が支えよう」

 俺だけの力じゃ無理なら、頼れる仲間と共に戦う。

 ひとりでやってきたこれまでとは違うんだ。俺には頼れる先輩が、仲間たちがついているんだから!

「やるか、兵藤一誠」

「はい、ヴァーリ先輩! 俺たちの力で、今度こそあいつを倒しましょう!」

 逃げることをやめた、誰かを守るために望んだ力。

 大事な人ができた。

 いい仲間を持てた。

 おかげで、戦う意味も変わってきている。俺だけが助かればいいわけじゃない。もう、俺には見捨てることができない人たちがいるんだから。

 自然と、腕が持ち上がる。

 手はそのまま伸びていき、ヴァーリ先輩と俺の距離の中間へと伸ばされた。

「ヴァーリ先輩、俺たちの力で!」

「コカビエルを倒すぞ!」

 伸ばした俺の手の平を、ヴァーリ先輩の手が叩く。

 直後、俺たちは揃って前へと飛び出した!

 

 

 

 1度目はコカビエルの本気によって俺もヴァーリ先輩も倒された。

 2度目は、不意を突かれてアーシアを狙われた。

 3度目は――。

「本当の共闘で、おまえをぶっ倒す!」

 これまで、この戦いで俺は、ヴァーリ先輩に任せることしかできなかった。不意を突くことしかできなかった。守る意志が足りなかった!

 眷属としての、仲間としての自覚が、どこか欠けていたんだ。

 でも、次はない。コカビエル、おまえに二度と、誰かを襲わせたりはしねえ!

 月夜の空に、赤と白の軌跡を描きながら、俺たちは激突した――。

 

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