やっとのことで2章が終わります。次の章からは、みなさんお待ちかね?のあの話が始まりますよ。
実のところ、何度も言っていますが作者両名ともこの後の3章が一番の難所だと思っております。ですが、この先も楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ!
兵藤一誠が禁手へと至り、真の意味で俺たちの共闘は成された。
標的はコカビエル。
宙に浮かぶ奴に向け、俺と兵藤一誠は同時に空を駆ける。
これまで打ち合ってきたからこそ、もう底は見えた。俺と兵藤一誠なら、突破することも容易いはずだ。
「二天龍……いいぞ、おまえたちはどこまでも俺を楽しませてくれるようだなァッ!」
両手に光の剣を握り、コカビエルも俺たちに向け降下を始めた。
「行けるな、兵藤一誠」
「はい! 俺はもう、あんなやつに負けたりしません!」
その言葉が聞ければだいじょうぶだな。ひとつ頷いて返した俺は、兵藤一誠から離れ、別方向からコカビエルへと接近する。
先制としていくつかの魔力の塊を放つが、それらはすべて残った翼により弾かれる。やはり、その堅牢さは変わらないか。
「フン、つまらん攻撃だ。貴様はもう少し倒しがいがあるかと思っていたんだが」
降下を止め、こちらへと構えを取るコカビエル。やる気を出してくれたところなのは嬉しいが、残念だ。俺も本当は、更に本気を出して戦いたかったものだな。
「だが悪いな。既にこの場の主役は俺じゃなくてね」
自分の眷属のパワーアップを見逃すほど戦闘バカじゃないんだ。
反対側から、猛スピードで突っ込んでくる影がひとつ。
「もうおまえには、誰もやらせねえ! 俺が、俺たちがおまえを倒すんだからぁ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』
凄まじまでの強化。
これまでの修行では見たことのない程のオーラが彼を包んでいく。
「バカな!? なんだ、なんなんだ! なにを力と変えた!? 貴様の信念は、戦う意味はいったいなんだ! なんなんだ!?」
兵藤一誠の変化に、コカビエルも戸惑いの声を上げる。
当然だな。先ほどまで圧倒していた相手が僅かな時間でここまでの変貌を見せたのだから。
けれど、やはりまだまだ隙が多い。いまも、コカビエルの技量があれば光の剣を差し込むことだってできるだろう。さて、手助けはしてやらないとな。
行動に移ろうかと思った矢先、すぐ側を一閃の光が瞬いた。
「ガッ!? く、なんだこれは!?」
光はコカビエルの手を貫いたようで、苦悶する様子が見て取れた。
「こんな芸当ができるのは一人だな」
眼下を見下ろせば、白髪の少年を斬り伏せたアーサーが、コカビエルに聖王剣を向けていた。
いいアシストだ。
「今回は仕方ない、譲ってやる」
キミが一番、怒りをぶつけたいだろうからな。なあ、兵藤一誠。
眼前で、隙を見せたコカビエルの体に兵藤一誠の右拳が突き刺さる。
「ぐはっ!」
白目を剥きながら体がくの字に曲がるが、そんなことはお構いなしに攻撃は続く。
「俺の仲間はおまえに殺されていい人たちじゃない!」
顔面に一発。
意識を取り戻したコカビエルは翼を羽ばたかせ、刃物のように兵藤一誠を斬りつける。
「一介の悪魔風情に、なぜ俺が!」
彼から距離を取るべく飛び出したコカビエルだが、彼は横合いから蹴り飛ばして見せた。
もともと、譲渡された俺の一撃を受けてフラついていたのだ。戦意だけで立つコカビエルに、禁手に至った兵藤一誠を相手どる余力は残っていないだろう。
つまらない幕引きだ。
「確かに俺は下級悪魔だ。あんたから見たら、ひよっ子の成り立てで、元は弱っちい人間なのかもな。でも、俺の仲間に手を出してみろッ!」
残りのニ対の翼に穴が開く。
そして、コカビエルの体は勢いよく、空中高くに蹴り飛ばされた。
「二度と戦争できないように徹底的にぶっ倒してやる!!」
兵藤一誠の手の平に生まれた魔力の塊。
コカビエルをも軽く超える大きさに膨れ上がった一撃は、轟音を轟かせながら彼の手から解き放たれた。
「おのれ、おのれ赤龍帝!」
最後の足掻きだろう。奴も迫る一撃に対処しようとするが、
『Divide!!』
瞬間、コカビエルから感じる力が激減する。
もちろん俺の仕業なのだが、まあこれはおまけだな。さあ、いけ兵藤一誠。
「なぜだ、なぜだ二天龍よ! どうして戦争を望まない!? なぜ、神が死んだ世界ですら、貴様らは平和を望む!? おのれ、おのれおのれおのれ! アザゼル、おまえもだ! 『二度目の戦争はない』だと! ふざけるな!! 俺は一人でも、戦争を望む! だからこそ俺は――」
直後。
凄まじい爆音と爆風を吹かせながら、コカビエルは兵藤一誠の一撃に呑み込まれていった。
爆発が収まったとき、奴の欲望が、怨嗟の声が聞こえることは、もうなかった。
全身を焦がしながら落下していくコカビエル。
アーサーが確認するが、既に意識はなく、生きているかも怪しい状態だ。
「ふむ、だが魔法陣は消えないか。どうだ、ルフェイ?」
俺と兵藤一誠も地上に降り、眷属たちの様子を確認する。
「はい、もう解析は終わりましたので、これで!」
ルフェイが手に持つ杖で魔法陣を突くと、音を立てながら割れるように、校庭全体に描かれていた魔法陣は砕け散った。
「さすがだな」
「ありがとうございます!」
ルフェイはアーサーにも褒められており、白音は辟易した様子でそれを眺めていた。
アーシア・アルジェントは涙を浮かべながら、傷付いた兵藤一誠を治療し、同時に嬉しそうに抱きつく。その際に神が死んでいたことに触れていたが、アーシア・アルジェントの中では兵藤一誠の存在が大きいらしく、精神的ショックは見られなかった。こちらはこちらでだいじょうぶそうだ。
「アーサー、どうだった?」
「……剣士が未熟すぎました。一本になったエクスカリバーの性能も確かめがてら応戦していましたが、途中で嫌になって砕いてしまって。聖剣の核だけになってしまいましてね。ええ、本当に残念です」
「核はどうする?」
「私には必要のないものなので、訪ねてきた少女たちに渡しておけばいいでしょう。会うのも虚しいだけですから、貴方からシトリー嬢に渡すよう頼んでもらっても?」
回収した聖剣の核を、俺たち悪魔に害のないよう細工し渡してくるアーサー。
「わかった、俺の方から頼んでおこう」
「助かります。ついでに、あれらも引き渡しましょうか」
視界の端で倒れている白髪の少年とバルパー・ガリレイ。
被害を出している以上見逃すつもりもないが、処罰を下すのは俺ではないな。
「そちらもついでだ」
「ええ」
おそらく奴らのことを報告すればそれなりの者が引き取りに来るだろう。
コカビエルの本気は見れたし、それなりに戦うこともできた。最後はサポートに徹してしまったが、嬉しい誤算もあったことだ。今回は譲って正解だったな。
「あれ? コカビエル、倒されたんだ……意外だね。ねえ、バラキエルさん。あの人たち、僕たちが来るより先に倒してたよ」
などと考えていたとき。
先ほどまで俺たちが戦っていた辺りに浮遊する者が二人。
金色の髪を腰にかかるまで伸ばした、清楚な雰囲気を漂わせる女性が一人。
そのすぐ後ろでその女性を見守っているかのように佇む、よく鍛えられたガタイのいい男性が一人。
男性の方はすぐに正体がわかった。黒い翼を生やしているうえに、金色の女性がバラキエルと呼んでいた。
「まさか一夜にして堕天使の幹部を二人も見ることになるとは」
「幹部!? まさかあいつら、増援!?」
兵藤一誠がすくさまアーシア・アルジェントを庇うように前に出る。
俺も、白音とルフェイを背後に隠すが、どうにも乱入者たちの様子がおかしい。
「えっと……どうするの、バラキエルさん。こっちが迷惑かけてるのに余計な被害を増やすのって得策じゃないよね?」
「だな。朱乃と近い娘たちもいることだ。せっかくコカビエルを倒してくれた者たちを傷つけるのは避けたい」
「ってことなんだけど、とりあえず戦闘態勢は解いてもらえないかな?」
向こうに戦闘の意思はない。それより、コカビエルの増援ということでもなさそうだ。
「どうします?」
「……ひとまずは様子を見よう。可能なら話も聞きたいところだが。全員、楽にしていてくれ」
眷属たちに構えを解いてもらい、彼女たちを見る。
「お、わかってくれたのかな? ありがとう! それでね、できればコカビエルとそっちの二人はもらっていきたいんだけどいいかな?」
「どういうことだ?」
「アザゼルさんに無理やりにでもコカビエルを連れてこいって言われてるんだよね。少しばかり勝手が過ぎちゃったね。しょうがないね」
堕天使の総督直々の回収命令か。妥当といえばその通りだが。
ここで考えても無意味か。
「信じていいのか?」
「もちろん! なんなら、魔王を通して話をつけに来てくれても構わない」
「祐人、あまり言われてないことを言うのはまずいと思うが」
「いいのいいの。ねえ、コカビエルを倒した悪魔くんたち。僕はこれでも人間だ。悪魔や堕天使ほど、嘘はつかないよ」
彼女たちの話を聞く限り、怪しいものの、嘘を言っているようには感じない。
アーサーにも目配せをするが、だいじょうぶだろうと頷かれた。
「わかった。連れて行くといい。元より処罰は各々の陣営に任せるつもりだった。俺としても、もう用のない男だ」
「そっか。話のわかる人たちでよかったよ!」
明るい笑みを覗かせた女性は倒れこむ白髪の少年とバルパー・ガリレイのもとに足を運び、二人をそれぞれ腕に抱えた。
俺たちの前では、コカビエルをバラキエルが抱える。
「バルパー・ガリレイ。みんなは僕に望みはしなかったけれど、これは僕なりのケジメだ。やっとだよ。長かったね……でも、これで貴方を葬れる」
「行くぞ、祐人。いまから急いで帰れば朱乃の飯はまだ食えるはずだ。おのれアザゼル……あいつわかっていて俺を護衛に任命したな! 今度こそ文句のひとつやふたつ、みっつよっつ程度は言わせてもらおう!」
祐人と呼ばれた女性のつぶやきを、俺は聞き逃しはしなかった。同時に繰り広げられたバラキエルの寸劇もだ。
バラキエルは一足先に翼をはためかせると、空へと浮上していく。
「アハハ……いつまでたっても娘さん第一かぁ。じゃあね、悪魔のみんな。今日はバカたちが迷惑かけてごめんなさい。後日謝罪の場は設けるからいまは見逃してくれると助かるかな。それじゃあ、また今度!」
続いて、二人を抱えながらも軽々と動きだした裕人は空中を踏みしめて上がっていく。
「僕もバラキエルさんみたいな翼があったらなぁ……」
「神器の進化? とやらの方向性をそっちに伸ばしてみたらどうだ?」
「いやー、いくらなんでも厳しいよ。剣を何十にも広げて翼を作っても飛べないでしょ」
「それもそうか。ムッ、時間が迫っているな。捕まれ、飛ばすぞ」
「はーい」
二人は閃光とかして飛び去っていく。
校舎は一部が崩れ、校庭にはいくつものクレーターや斬り払われたりと破壊跡が残った。
これはソーナたちに応援を頼んで修復しないとな。
「だが、大きな被害もなく終わったか」
兵藤一誠の目標も聞けたことだ。
「やりましたね、赤龍帝。まさかこんなタイミングで至るとは」
「え? あ、そうですよね。俺、やったんですよね!」
「見直しました」
「見直すって、酷いな白音ちゃん……」
「いいじゃないですか。認めてもらえたんですよ、兵藤先輩!」
「そうかな? そうだといいな!」
仲間たちに囲まれて照れながら話す兵藤一誠。
「あ、そうだ! あの、みんなにひとつお願いがあるんですけど!」
その中心にいる彼が、手を挙げながら叫ぶ。
「俺、仲のいい奴らにはイッセーと呼ばれているので、その、みんなにもイッセーって呼んでほしいです! 助けてもらって、でも守りたいみんなとは俺、イッセーって呼ばれたいですから!!」
思えば、彼が女子生徒から追われていた頃共にいた男子生徒からはそう呼ばれていたか。
アーサーからは赤龍帝としか呼ばれていなかったし、俺も兵藤一誠と呼んでいたな。
「そうだな。では、これからはそう呼ばせてもらおう、イッセー」
「はい、ヴァーリ先輩!」
俺がイッセーと呼ぶと、
「私は赤龍帝も気に入っていたのですが、そう言われてはね。では改めて頼みますよ、イッセー」
「力一杯叫ばなくてもよかったんですよ、イッセー先輩」
「仲良しの印ですね、イッセー先輩」
「ふふっ、前からみなさんにはそう呼ばれていたいって言ってましたもんね、イッセーさん」
「ちょ、アーシア!? それ秘密って言わなかったっけ!?」
イッセーのツッコミにより、みんなからは笑い声が漏れる。
ソーナには悪いが、呼ぶのは少し後にさせてもらうか。もうしばらく、この光景を目に焼き付けておくのも、悪くない――。
余談だが、聖剣の核はソーナを通して教会組の二人に渡してもらった。話を聞いた限りだと、俺たちに向けて恨み言を言っていたり、かりとは思わないからな! などと言われたらしいが、怪我も無事に治り元気な姿を見せていたとか。
そうして、しばらく平和な日々が続いたのだが。
旧校舎に訪れた来客によって、急遽、面倒事が舞い込むことになる。
「あら、ヴァーリ。久しぶりね。元気にやっているのかしら? 最近は連絡も寄越さないものだがら、サーゼクスも心配しているのよ。私? もちろん私もよ。だからこうして、サーゼクスを利用――頼まれ事でこちらに来たのだから」
どうやら面倒事は、少々大事になりそうだ。
遅れて部屋に入ってきたソーナたちを眺めながら、最近にしては珍しく、ため息がひとつもれた。