前回が前回だっただけになんとか空気を変えたいけど変えられなかったよ……とは嘘のようで本当の話。
今回は会長と匙の話になりそうでならなそうなので特に前書きで書くこともないので、始めましょう。
最新話、どうぞ。
グレイフィアの申し出に、ソーナは考え込む様子を見せる。
しばらく目を瞑り、開いたかと思えば眷属たちを見渡す。そうしてまた一人で思考の海へと沈んでいくように沈黙を保つ。
ソーナ程聡明ならば既にわかっているのだろう。いまの自分たちの実力ではライザーに遠く及ばない。しかし勝たなければならない。そうなれば眷属を傷つけることに繋がることも――。
そうなってくれば彼女がグレイフィアからの申し出を受けるかどうか……。
「受けましょう、会長!」
「サジ……?」
悩み続けるソーナに、匙元士郎が進言する。
「俺は、俺たちは会長のために存在しているんです。貴女の決断なら、例え過酷な道であってもついていく覚悟はできています。だから、貴女の望む選択をしてください!」
「匙、あなたは……でも、そうなれば相手はライザーなのよ? いまの私たちではとても……」
苦しそうに、言いづらそうにソーナは顔を伏せた。
「フハハハハッ、よくわかっているじゃないかソーナ。そうだ、いまのキミやキミの眷属程度では俺には届かない! やはりキミは聡明だ。この提案、受けるべきではないよ」
簀巻きにされたショックから精神的に回復したのか、見っともない様子のライザーからも声が上がる。
だが、簀巻きにされているせいか威厳を感じられず、俺の眷属たちは笑い声を溢さんと我慢している始末だ。確かに、力強い言葉を使うような格好ではないことを自覚しては欲しいところだが。
「さあ、ソーナ。無意味なゲームなどやらず、俺と共に行こうじゃないか。なぁに、キミの眷属たちのこともしっかり見てやるさ。鍛えまくって、いまの弱さが嘘のようにしてやるよ」
へらついた笑み。
軽い上っ面の言葉。
「はあ……ソーナが嫌うのも頷ける」
こうも目に見えてしまうと、放っておくのも無理だ。仮にも相手はソーナなわけで、彼女の意思があるわけでもないのに納得しろとは言えないな。
「やってみればいいじゃないか」
「ちょっと、ヴァーリ!?」
「貴様は黙っていろ、ヴァーリ・グレモリー!」
話しかけたところ、ライザー・フェニックスまで反応してしまったが、まあいい。
視界の端で、匙元士郎がなにか言いたそうに視線を向けてくる。ライザー・フェニックスに一矢報いたいような、それでいて、レーティングゲームをソーナに受けて欲しそうな、誘導して欲しそうな意図が読み取れる。
ソーナが眷属にするために色々と手を尽くしただろう相手だ。仕方ない、ひとつ乗せてみるか。
「俺の眷属にも敵わない者には黙っていてもらおうか」
「なに?」
「先ほどおまえに向けた感情。アレに反応し俺から距離を取ったな? イッセーやアーサーであれば怯まず挑んでくるぞ。だが、おまえは退いた。噂の不死鳥の底は知れた」
「き、貴様ァッ!? 俺が誰かわかっているのか! 俺はあの、ライザー・フェニックスだぞ!?」
「悪いが、真に強い者以外に興味はない。そうして怒鳴り散らすおまえより、眷属のために悩み、答えを出そうとするソーナの方が遥かに強い。おまえの強さはハリボテだ。中身のない力に満足しているのなら、所詮はその程度と言ったまでだ」
アーサーが頷き、ルフェイが曖昧な表情ながらも笑みを作る。相手の力量を測ることに長けているアーサーは既にライザー・フェニックスに見切りをつけたのだろうな。
けれど、これで望んでいた状況は作り出せた。
「俺が、俺がソーナより弱い? ふざけているのか、ヴァーリ・グレモリー! やはり貴様の目は節穴だ!!」
「果たしてそうだろうか? 俺の目が節穴と決めつけるのは些か早計だ、ライザー・フェニックス。少なくとも、戦ってもいないうちに自分の方が強いなどと妄言を吐く方が節穴だろう」
「このッ……言わせておけば!」
怒りを顕にし、芋虫のように跳ねるソレを見て、俺とソーナの眷属たちから笑い声が漏れる。
気持ちは理解できなくもないが、その軽率な行動が悪かった。
「貴様ら、揃って俺を侮辱するつもりか!!」
とうとう、ライザー・フェニックスが怒りの炎を燃やし、転がされていた状態から一転し立ち上がる。
そうか、燃やせば早かったな。グレイフィアに遠慮していたのか、頭が回らなかったのか……どうあれ、ライザー・フェニックスの余裕が無くなり、プライドは刺激した。
「揃いも揃って格の違いをわかってないみたいだな……ゲームなんて関係ない。いまこの場で全員燃やし尽くしてやる」
少々やりすぎたようだがな。
炎が彼の背中に集まり、翼を形成していく。見た目だけは火の鳥と言ったところか。ソーナの眷属たちを中心に空気が張り詰めていくが、冷静に介入したのはグレイフィアだった。
「ライザーさま、落ち着いてください。もし手を出すのでしたら、私も黙って見ていられなくなります。私はサーゼクスさま、セラフォルーさまの名誉のためにも遠慮などしないつもりです」
「――――…………チッ、命拾いしたな」
ライザー・フェニックスは苛立ちを隠そうともせず、けれども炎を落ち着かせた。
「しかしな、ソーナ。俺はそこの屑に言われ放題のまま終わるつもりは毛頭ない。俺の強さの証明のためにもレーティングを受けろ!」
「でも……」
不安気に眷属を見やるが、ソーナ以外の誰一人として、逃げたいとは思っていないように映る。
あとは彼女の一言さえあれば、喜んでレーティングゲームに参加するだろう。王としての資質。それが試されている。
サーゼクスとグレイフィアからは、彼女たちを見守れといった感情が伝わってくるので、これ以上の干渉は余計なお世話になってしまう。
「どうしたソーナ! さっさと承諾しろ!」
ライザー・フェニックスは急かすが、ソーナは追い詰められていくように答えを出せずにいる。お膳立てが無駄になるが、ひとまず黙らせようかとした矢先、それより速くに匙元士郎がソーナとライザー・フェニックスの間に立った。
「会長はまだ判断しかねている。それをあんたの都合だけで強要するのはやめてもらおうか」
「サジ……」
ほう、中々どうして、見どころのある『兵士』じゃないか。
「なんだぁ、おまえ? たかが下僕悪魔が俺に楯突こうってのか? 話にならないんじゃないの?」
ライザー・フェニックスが指を鳴らすと、部屋に魔法陣が現れ輝き出す。
魔法陣からは続々と人影が出現していく。
「と、まあこれが俺のかわいい下僕たちだ」
彼の側には15人の少女、女性たちが佇む。フルメンバー、か。対してソーナの眷属は彼女も入れても8人。数だけで見れば倍の差がある。俺たちと比べればその差はさらに広がることになるな。数だけの話ならだが。
相手側の眷属たちに視線を移すと、一人の少女と目が合う。すぐに外されたが、知り合いの中の記憶にはない。いい、放っておこう。
「さてソーナ。数の差は歴然。しかも、キミたちでは誰一人として俺のかわいい下僕に対抗できそうにないな」
「くっ……」
「その屈辱的な顔も悪くない。ああ、ちょっと感じてきた」
そう言い、ライザー・フェニックスは眷属の女性と濃厚なディープキスをし出す。イッセーはすぐさまアーシアの目を塞ぎ、アーサーはルフェイの前へと立つ。ふむ、確かに教育上悪いな。
「ルフェイ」
「は、はい!?」
「悪いがライザー・フェニックス以外の彼の眷属を全員帰して欲しい。急な訪問を了承した覚えはないからな」
「わかりました」
視界を隠しても音は聞こえるのか、真っ赤に染めていた顔を左右に何度か振り、真面目な顔つきになったルフェイが魔法陣を展開すると、一瞬にして幾人もの少女や女性の姿が消えていった。後には、一人舌を出して間抜け面を晒すライザー・フェニックスのみ。
「な、なんだ?」
「悪いが、会談の場を提供している俺に了承もなく、加えて会談に必要のない行為をしたとして排除させてもらった。安心してくれ、帰しただけだ」
「おのれ!」
「いまは俺ではなく、ソーナとの話をまとめろ」
「後で覚えていろ……ッ!」
冷静さをだいぶ欠いたな。あとはソーナさえやる気を出せば。
前に出てきた匙元士郎が何事かを話しているが、あとは彼次第だな。
「会長、聞いてください。会長が俺たちのことを思って決断を下せないのはわかっています。けど、俺たちみんな、貴女のことを気に入って、好きになって眷属になったことを忘れないでください」
「サジ、貴方……」
「ほ、ほら! 俺に眷属の話を持ちかけてきたとき、俺は会長と勝負しましたよね? 俺と会長、どちらの策略が上かって。会長が勝ったら俺が眷属になって、俺が勝ったら俺は眷属にはならない」
「ええ、そうだったわね。けど、最終的に勝負はつかなかった」
「あー……千日手になって無勝負になったんでしたね。でも、勝負がつかなかったときのことを決めておかなかった俺の負けってことで、貴女についたんじゃないですか」
なるほど、そんな経緯があったのか。しかし、ソーナと並ぶ頭脳か。これは面白いな。彼女の考えを把握出来得る存在が前衛にもいるとなれば、嵌めには持ってこいだ。
「あら、なら眷属にならない選択もあったのよ?」
「そ、それはなんと言いますか!? あーその、あれですよ! 俺が眷属になったのも、その……みんなと同じっていうか、ちょっと違うと言うか真剣な会長を見ていたらいつの間にか――いえ、なんでもないです! そうじゃなくて、会長と俺の二人がいて、貴女に忠実な俺たち眷属がいるのに、あんな頭悪そうな鳥一匹、策にかけられないとでも?」
「…………ふふっ、そうよね。ごめんなさい、みんな」
それまで暗い表情だったのが嘘のような笑顔を覗かせるソーナ。
「生徒会長としてではなく、私、ソーナとしてのわがままを聞いてもらってもいいかしら?」
彼女の言葉に、それまで聞いていた眷属全員が顔を見合わせ、嬉しそうに頷く。
「ありがとう、みんな」
もう一度自分の眷属一人一人と視線を合わせ、ライザー・フェニックスへと向き合う。
「話はまとまったかい?」
不機嫌が治らないのか苛つきながら問いかける彼に対して、いつもの調子を取り戻したソーナは、しかし。いつもより自信に満ちた表情で答える。
「ええ。私も乗るわ、ライザー。貴方とはレーティングゲームで決着をつける」
「そうこなくちゃな! しかし俺にも自身の強さを認めさせなければいけない意地がある。そうでなければ、俺は俺でいられない! だからひとつ、キミに提案がある」
「なにかしら?」
「レーティングゲームの内容はキミに任せる。俺はどんな挑戦だって受ける。その件も含め、ゲームは10日後だ。いますぐでもいいが、それでは面白くない。キミだって、それだけの日数は欲しいだろ?」
ソーナは黙って頷き、匙元士郎は俺に向き直ると、小さく礼をしてきた。ここまでが彼の望んだビジョンだと言うのなら、末恐ろしいな。
「グレイフィア、これでいいか?」
念のため、このルールが適用されるのか彼女に問いかけておくと、
「わかりました。ご両家のみなさまにはそう伝えましょう」
許可が下りた。グレイフィアが了承したのであれば確実だな。
ライザー・フェニックスはそれを見届けると、手のひらを下に向け魔法陣を展開した。帰る直前、俺と匙元士郎に視線が向く。
「いい気になるなよ。おまえたちは必ず潰す。特にヴァーリ・グレモリー。今回は手を出せないが、いずれレーティングゲームに出てきたときは徹底的に、徹底的に潰してやる!」
最後にソーナへと向き、
「ソーナ、次はゲームで会おう」
そう言い残し魔法陣の光の中へと消えていった。
結果は悪くないが、先延ばしとも言える。どうあれ、あとはソーナの問題か。
「10日……あのライザー相手に策を練るのは当然として、数の差も埋めなければいけないとなると、特訓しかないわね。となれば」
ソーナが困ったと言わんばかりに俺へと視線を寄越す。
「なんだ?」
「ヴァーリ、お願いがあるのだけれど、聞いてくれるかしら?」
「俺でよければ聞こう。ライザー・フェニックス絡みであれば、焚きつけた俺も当事者だ」
匙元士郎がいなくても、きっと俺は動いていただろうからな。こればかりは仕方ない。
「ごめんなさい、ヴァーリ。私のために」
「いいさ。それで?」
「私たちの特訓に付き合って欲しいの。特に貴方と兵藤くんには、うちのサジを見てほいいのだけれど」
匙元士郎をか。
彼女の話を聞いて、
「え? 俺? た、確かに必要だけどあの二人!? なに、兵藤? はい? 死ぬほどきつい? むしろ死んだ方がマシな特訓をさせられる!? いやだ! 会長、考え直してください! やめろ兵藤! やめて、俺はおまえの仲間じゃないから! やめて、特訓専用ルームに連れて行こうとしないでぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
などと泣きながらイッセーに連れて行かれたがだいじょうぶか? ああ、もうアーサーの姿もない。ついていったか……これは俺の眷属も総出だな。
「イッセーとアーサーが既にやる気のようだ。喜んで引き受けよう」
「ありがとう、ヴァーリ」
「いいさ。俺も眷属全員でサポートしよう。今日は10日分の内容を詰めてゆっくり休もう。明日からが大変だからな」
「ええ、そうするわ……サジは?」
離れた部屋から聞こえる悲鳴と指摘の声。これは長くなるな。
「おそらく匙元士郎はキミたちの核にもなれる。今日から特訓を始めた方がいいな」
「そ、そう……お願いね」
「よろしいですか?」
話し込んでいると、グレイフィアがソーナに声をかけてきた。
「ソーナ様、レーティングゲームの内容ですが、いかがいたしましょう? お決めになるのに時間が必要でしたら後日に――」
「いいえ。ルールならもう決まっています。レーティングゲームは――」
彼女がグレイフィアと念密な打ち合わせに入ったので、俺は席を外し、白音、ルフェイ、アーシアに指示を出し、アーシアを連れて匙元士郎の元へと向かい出す。
悲鳴はいまも断えることはなく、旧校舎中へと響き渡る。