更新が止まって1年が経ちましたが、無事に復帰しました。
グレモリー家の白龍皇には思い入れがあるので、何度止まっても書き続けるのです。
1年ぶりなので、忘れている人は1話から読んでください! いや、本当に久々の更新になってしまい申し訳ありませんでした! 相棒のjiguさんが謝るから許してください!
戦闘の始まったコマがあったため、フィールド上空と客席に映像が映し出される。
早くも匙元士郎が戦う羽目になったか。
「始まりましたね、ヴァーリ先輩……」
隣で観戦しているイッセーは、自分のことのように力の篭る目を映像の先へと向ける。
「そう心配するな。俺とキミ、アーサーとの特訓を生き抜いた男だ。シトリー眷属の中でも継戦力は随一だよ。それがわかっているからこそ、ソーナはライザー・フェニックスの策を見通し、彼を初戦に持ってきたのだろう」
現に、向かってくる敵を薙ぎ倒す彼の姿が映像に映る。このぶんなら、一戦目では大したダメージを負うこともなく勝利するはずだ。
「会長って、相手の手までわかって眷属を動かしているんですか!?」
映像から目を離したイッセーの驚く声が横から響くが、構わずに話を続ける。
「その程度ができないのなら、俺が彼女を尊敬しているはずがないだろう? 俺は彼女が友人であることを、誇りに思っているからな」
「そ、そうだったんですか……確かに、仲良さそうですもんね」
「――ヴァーリ・グレモリーとしては、長い付き合いだからな。それこそ、俺の初めての友人だ」
だからこそ、ライザー・フェニックスなど早々に打ち倒してほしいものだ――。
視界の端では、グレイフィアが1戦目の終了を告げ、3ターン目の攻防が始まろうとしていた。
まだまだ、本当に厳しいのは、ここからだな。
正面から向かってきた敵の『戦車』、『騎士』。そして後方に待機していた『僧侶』の3人。
「元ちゃん!」
花戒からの援護を受けつつ、敵の後方にも気を配りながらの近接戦。
初撃の黒炎によって予想以上のダメージを与えることができたとはいえ、やはり2対1での近接戦は苦戦を免れないだろう――そう、思っていたんだ。
眼前に迫っていた敵の女性二人が、こちらに構える手前で倒れ、そのまま光に包まれて消えていく。
『ライザー・フェニックス様の『戦車』1名、『騎士』1名、リタイア』
無慈悲に響く、グレイフィア様のアナウンス。
「へ?」
「あ、あれ……元ちゃん、もう倒したの?」
「うそ……『兵士』風情があの二人を、倒した……?」
フィールドに残された俺たちは、敵味方関係なく唖然としてしまう。
って、いやいや! いかん、冷静になれ、匙元士郎! これは敵を落とす最高の機会じゃないか!
「くらえ!」
いまが状況の整理が追いついていない彼女に肉薄し、加速に乗せた拳を当てる。
防御力は然程なかったのか、強化していなかったのか。どうあれ。
『ライザー・フェニックス様の『僧侶』1名、リタイア。行われていたすべての戦闘の終了を確認いたしました。2ターン目終了時のライザー・フェニックス様の獲得領地0。ソーナ・シトリー様の獲得領地1。続いて、3ターン目を開始いたします。両者、3ターン目の移動を開始してください』
再び、グレイフィア様のアナウンスが聞こえて来る。
拍子抜けするほど、あっさりした勝利だった。なんというか、これでいいのか?
「やったね、元ちゃん!」
「あ、ああ。勝ったな」
近づいてきた花戒とハイタッチをして、やっと実感を得られた。
「凄いね! やっぱりヴァーリさまたちとの特訓の成果が出てるんだね、私たち!」
どうなんだろう?
少なくとも、俺が相手をしてもらっていたヴァーリ先輩、アーサーさん、イッセーにはまるで歯が立たなかったぞ。
……初戦はくれてやるって魂胆か? そうか! 1度に『戦車』、『騎士』、『僧侶』を倒させてこちらの油断を誘うつもりだな。
序盤も序盤で彼女たちを使い捨てにできるだけの戦力があるってことか。
ライザー・フェニックス……ただの頭の悪い焼き鳥だと思っていたのに、まさかあの日の態度は演技? いや、だが……。
「侮れない、かもしれないな……」
ここは会長ともしっかり連絡を取り合い、みんなが油断しないように注意も払わないと。この役目は俺よりも会長が適任だな。
『サジ、桃。ありがとう、二人とも平気そうね』
「はい、会長。それで、早急に伝えたいことが――」
次の指示をもらう前に、俺が思ったことを伝える。
ライザー・フェニックスが、もしかしたら俺と会長の予想を超えた策略家かもしれないこと。
そして、初戦の呆気なさからくる緊張の弛緩。
初のレーティングゲームに加え、会長とライザー・フェニックスの関係。
「くそっ、初っ端から考えることが多すぎるぜ、こいつは!」
これが悪魔たちのおこなうレーティングゲームか……なるほど、一筋縄じゃいかないな。
もしかしたら、まだ見落としがあるのかもしれない。いや、だけどこれ以上考えすぎるのは、逆に行動に制限をかけてしまう。
なにより、戦っているのは俺だけじゃない。なにも俺一人で考えなきゃいけない状況じゃないんだ。この一手はもっと先。ゲームの勝敗を左右するときまで俺が残っていてこそ成立する可能性のある策だ。
「っし! 気合入れ直さないといけないのは、俺だな」
『サジ? だいじょうぶ?』
「全然平気です、会長! それで――作戦に変更はありませんか?」
『……ありません。貴方の言葉は、しっかりと受け取っておきます。このターン、もう1チームを陣地から出します。それと、貴方たちにはまた移動してもらいます。このターン移動するのは、その2チームです』
順当だな。
よし、だいじょうぶだ。
「了解です。では、貴女の作戦通りに」
通信を終え花戒を確認すると、彼女も頷いて了承をくれる。
彼女も、どこか違和感を拭えていないのだろう。
「どうすっかなぁ」
「ふふっ、元ちゃんでもそんな焦った顔するんだね」
「そりゃするさ。頭脳だけなら会長にも負けてないと思ってるけど、悪魔としての力も、神器所有者としても成り立てだからな。純粋な戦闘じゃ、やっぱりまだまだと思い知ったしよ」
本当に、よく思い知らされた。
ヴァーリ先輩だけじゃない。アーサーさんに、イッセー。白音ちゃんにルフェイちゃんもだ。いまのグレモリー眷属には、真っ向勝負はおろか、策を弄しても勝てやしない。
むしろ、策ごとゴリ押しされるだけで潰されるのが目に見えるぜ。
アーシアさんにしても、神器の扱い方じゃ逆立ちしても勝てないってか、どういう特訓したら伸ばせるんだって話だ。
俺が必死こいて、死に物狂いで神器の上限を突破し強化したってのに、彼女はシトリー眷属修行週間の間に2段階上に言ったって説明された俺の気持ちよ……。
「くっ、落ち着け、既に過去の話だ。いまは目の前のことに集中しないでどうする!」
「元ちゃんって、普段頭いいけど、たまにものすっごい頭悪いよね」
花戒が温かさと優しさの込もる声でそんなことを言ってくる。全体的に憐れみとか冷たい雰囲気がないから文句も言いづらいな。
「いいか、花戒。俺は別に頭がいいわけじゃない。良くありたいから、思考を止めてないだけだ」
「うわ〜……元ちゃんっぽい言い分だ」
「俺っぽいってあのな……いまは聞かないことにする。それで、次はどこに進めばいいんだ?」
「えっと、次は――」
指示を確認しつつ、次にやるべきことを考えなければならない。
順当に行けば、このまま3ターン目で俺たちは2マス目の領地を得ることができる。そして、次の領地獲得を目指し、もう1チーム出るとなれば、優位に立てるのは目に見えている。
それに対して、ライザー・フェニックスは1チーム脱落し、新たにチームを出さなければ領地を増やせない。
けれど、懸念事項がないわけじゃないんだよな……相手の『女王』が動き出したらちょっとまずいぞ。こっちはまだ副会長を出していないから、ハッキリ言って対抗てきるか微妙なところだ。
俺はレーティングゲームを知ったのも最近だし、他の悪魔の眷属にも詳しくないからよく知らないが、相手の『女王』は『爆弾王妃』と呼ばれ、それなりに有名だと教わった。
「俺たちにはゲームの経験も、戦闘経験も足りていない。それに、相手はルールの穴を突いてくる可能性だってあるよな」
ヴァーリ先輩も言ってたっけ。
『これは、悪魔同士の本気の戦い。油断や隙を見せれば、即座に喰われるぞ。キミたちは今回がファーストゲームかもしれないが、相手のライザー・フェニックスにはそんな事情は通用しない。旧校舎では煽ってしまったからな……本気で勝ちに来る可能性もゼロじゃない。いいか、匙元士郎。あの日のライザー・フェニックスを見て、彼をバカやアホと思うかもしれない。でも忘れるな。彼は、強者の集うレーティングゲームを勝ち抜いてきた猛者だということを』
修行中に聞かされた言葉を反芻する。
わかってる。
実力じゃどう足掻こうと俺たちが下だ。油断なんてしていない。
俺は会長のために、勝つんだからな。
「元ちゃん、3ターン目が始まるよ」
「……ああ。次、もし相手と当たっても、勝つぞ」
「もちろん」
グレイフィアさんからのアナウンスが響き、そしてまた、緊張の一瞬がやってくる。