大丈夫です、もう更新しないとかありませんから!
では、続きです。どうぞ!
確実に決まった。
そう思っていた俺の拳に、硬い感触が伝わる。
「ほう……」
視線の先。赤い籠手が俺の拳を阻んでいた。
赤……思った通り、いや。感じたイメージと遜色ない色だ。
初めて会ったときから、彼の奥にいるなにかの視線をずっと感じていたのを覚えている。敵意にも、関心にも似たあの眼。
「兵藤一誠。キミは駒王学園が、普通の人間が通っているだけの学校だとは思っていないな?」
「……なんのことっすかね。っていうか、この籠手を見て驚かないヴァーリ先輩こそ、なにか重要なこと隠してません?」
それほど力があるわけではないのか、力を込めた一撃を耐えた彼の腕は震えていた。
鍛え込まれているわけではない。だが、まるっきり鍛えていない腕ではない、か。
ますますわからない男だな。
ちぐはぐと言うか、やってることがはっきりとしない奴だ。
「俺はただ殴ってみただけだが、神器を使わなければ防げないと踏んだか。判断力は悪くないぞ、兵藤一誠」
「いや、だから!」
欲しい答えをもらえなかったためか、少し苛立ちながら籠手を大きく振り、俺を遠ざける。
「先輩こそなんなんですか! ってか、危ないじゃないですか!」
ここまできて、まだ力を隠すのか? それとも、俺の正体を知らないがために、手の内を見せないようにしているのだろうか。どちらにせよ、力を温存した状態でどうにかできる、というわけだな。
「面白い」
もはや、神器の名前は聞くまでもない。
一目見れば、俺は理解するしかないのだから。
そして、きっとキミも、俺たちがどういう存在なのか、これで理解できるだろう!
「兵藤一誠、俺とキミはまるで違う人生を歩んできたはずだ。だが、力という才に関してだけは、同じ道を辿ってきたはずだ」
背を向け、あえて彼に見える位置に持ってくる。
さあ、始めよう。
背中に、慣れた感覚が伝わってくる。見なくても、この背に光り輝く翼が現れたのがわかった。
「なっ、あんた……クソッ、なんだよそれ!」
俺の背を見て、兵藤一誠の表情が一変する。焦りと、後悔? わからないな、なにを思う?
「俺たちは、出会ったなら戦う運命。もっとも、いまの俺に相棒の喧嘩の続きに無理にでも付き合う気はないんだが……強くなれるのなら、意味ある試合として応じよう」
実際、強くなるための手段になるのなら、ライバルという存在がいるのはとてもいいことだ。
ただの拳では届かなかった。これなら、きっと彼も本気になってくれるだろう。
「兵藤一誠。神器を見せたからには、もう俺の正体もわかっているな?」
「さ、さあ? サッパリわかりませんけど」
「なるほど。力を示してもいない相手に用はない、ということか。フッ、いったい、キミはどこまで俺を期待させてくれるんだ!」
二天龍と呼ばれる存在がいる。
俺の中にいる相棒――アルビオンと、そのライバルである赤龍帝ドライグ。
どちらも神器に封印されているが、彼らは宿主を介して、何度も何度も、永い時の中戦ってきた。それは、出会えばどちらかが死ぬまで戦う宿命なのだが、どうも、俺はその意識が低いらしい。
もちろん、戦うのなら勝つ。
しかし、やるべきことが他にあるいま、結局は二天龍同士の戦いで得る勝利は、俺の最終目的には成り得ない。
なにが言いたいのかというと、俺の目の前に立つ彼、兵藤一誠こそが、俺のライバルたる二天龍の片割れ。赤龍帝ドライグの魂を封じた神器――『赤龍帝の籠手』の所有者なのだ。
「いくぞ、今代の赤龍帝!」
その名を口にした瞬間、明らかに兵藤一誠の顔が変わった。
もちろん、好戦的になるんだと、そう思い込んでいたんだが。アルビオンから、歴代の所有者たちは力に溺れていったと聞いていたから、もちろん人として生きて来た彼も、力を振るうことに快感を覚えている類だと勘違いしていたんだ。
俺の前にある顔は、会ってはならない者に会ってしまった、とでも言えばいいのだろうか? そんな顔だった。
もちろんドライグが目覚めているだろうが、なんだ、この違和感は……。試してみるか。
「ふっ!」
地を蹴り、一足で彼との距離を詰める。
「わっ、とぉ!? ほわぁい!」
顔面、腹、もう一度顔面へと殴りかかるが、震える体ながら、的確にかわしていく兵藤一誠。
少しの間殴り続けてみたが、ことごとくが捌かれる。
妙なことに、反撃できる場面でも彼が打って出ることはない。ただ、避けることのみに集中しているような……考えすぎか? まさか、いまだ試されているとでもいうのか!?
「あ、あぶ……危なかった………」
「いや、余裕そうに見えたがな。どうやら、俺は遊ばれていたようだな、兵藤一誠」
「――へ?」
「ここからは本気だ――禁手!」
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』
全身を、一切曇りのない白い全身鎧が包む。俺の体に、白龍皇の力が具現化した証だ。溢れてくる力は、これまでとは格段に違う!
「……は? おい、嘘だろドライグ! それは俺には無理だって!」
「余所見をしている場合か?」
とりあえず、小手調べだ。
周りに被害が出ない範囲で、魔力の塊をいくつか生み出す。それらを一斉に掃射する。
「うおおおおおおおおおッッ!!」
兵藤一誠は、全力疾走をしながら、魔弾を紙一重でよけていく。
なぜだ、なぜ反撃してこない?
「どういうつもりだ、兵藤一誠!」
「どうもこうも、俺は戦う気はないんですってばぁ! だいたい、宿命の相手とか、正直いらないんですよ!」
なん、だと……?
まさか、彼は力を求めてすらいないのか? 求めている力は、違うとでも?
「ならば、キミの目指すものはなんだ!」
「目指すもの……そんなもの、まだわかりませんよ! でも、俺は歴代の先輩たちとは違う! 力に溺れず、自分の信じる道を行きたいんです」
「そうか。そうだな」
最後の一発が、迫る。
自分の想いを言葉にするのに夢中になっていた兵藤一誠の足は、すでに止まっている。
さあ、どうする?
「クソッ、ならこれでどうだ!」
直後、眼前で魔弾が直撃した。それなりに威力はあったようで、彼のいた場所からは、土煙が上がっている。
「さて、どうなったかな」
煙が晴れると、そこには籠手が分厚くなり、横方向に円形に広がった、盾のようなものを展開する、兵藤一誠の姿があった。
無傷、か。
禁手でもなさそうだが、あれはいったいなんだ? 変わった強化――いや、進化というべきか。
「ってぇ……ドライグ、ここまで衝撃が来るならもっと早く言ってくれよ」
ドライグと話しているのか、こちらを警戒しつつも、相棒に文句を言っているようだ。
「なら、これだ」
手元から幾重にも魔力での攻撃を撃ち出していく。
どれもが、先ほど堕天使どもを消滅させたほどの威力だ。
「っ、ドライグ! 全力だ!」
籠手が赤く輝き、円形に広がっていた部分が、厚みを増す。まさか、倍加の力をあそこにつぎ込んでいるのか!
怒濤のごとく迫る攻撃を、その盾は何度も耐える。
ヒビが入ることもなく、その場に立ち続ける。
やがて、すべてを耐え抜くと、彼は盾を籠手に収納した。
「禁手には、ならないのか?」
「いや、だからそれは――」
『今代の白龍皇よ。こいつはな、変な進化を辿ってはいるが、いまだ至ってないんだよ。嘆かわしいことにな』
「おい、ドライグ!?」
『少し黙っていろ、相棒。おまえが話すよりマシになるだろ』
ドライグが、俺にも聞こえるように声を発する。
なんだか、戦う空気にならないな。
「話しかけたということは、用があるんだろ?」
『まあな。残念ながら、相棒は弱い。いまのおまえと戦えば、一瞬で消し飛ぶくらいにはな』
「それはなんというか……残念だな」
ライバルがその程度だと? 魅力的な、劇的な決戦を予想していた幼い頃の俺に申し訳なくなるな。
サーゼクスたちは俺が辿る運命を心配していたが、この状況を知ったらなんて言うだろうか? 安心するのか、いや。もしかしたら、『ヴァーリの勇姿が見られないだと? くっ、せっかくの記憶装置が……』などと嘆くかもな。
……本当に言いそうで嫌になる。
「それで、なにが言いたいんだ?」
現実になりそうな考えは置いておき、ドライグに話しかける。
『できるなら、相棒にもそれなりの生活を送ってもらいたいとは思っている。むろん、強くなってもらいたいが、いまここで消されては元も子もない。おまえも、そんな決着は望んでないんじゃないのか?』
一理ある。
強くなるための戦いなら喜んでやるが、それ以外はつまらない。ムダでさえあると思う。むろん、なにかを守るためであるなら意味はあるが……。
「強くなるために、か。そもそも、求めるものが俺と同じようにただの強さではないのだな」
もし、兵藤一誠がこれまでの赤龍帝と違う道を辿れるなら。
いまでさえ、変化を見せつつあるというのに、どうなるだろうか? 少しだけ、興味が湧く。
アルビオン、聞こえていたか? ひとつ提案があるのだが、どうだろうか?
俺は確認のために、相棒に語りかける。
『――毎回、おまえは予想の上をいくな。わかった、好きにしてみろ』
提案を聞き終えると、意外にも、あっさりと同意を示された。もう少し反発されるかと思っていたんだがな。
『ヴァーリ、おまえと出会ってから、変わり始めているのさ。赤いのも、きっと応じるだろう。いま話していたのがなによりの証拠だ』
そう、なのか。おまえがそう言うなら、そうなんだろうな。
「一度、話し合おうか。兵藤一誠、赤龍帝ドライグ。そうした上で、俺たちがどうするべきかを決めよう」
俺はもう、決めているがな。
ドライグの言葉を信じるのであれば、彼はまだまだ弱い。防御力、回避能力だけは目を見張るものがあるが、それでは勝てない。だが、彼に攻撃手段があれば、きっと。
天龍同士で戦えば、より力の向上が見込めるはずだ!
「兵藤一誠」
「な、なんすか?」
「そう身構えるな。すでに戦闘続行の意思はない。その代わり、ひとつ話があってな」
「話?」
不思議そうに首を傾げる。きっと、思い当たる点などないのだろうな。
「そうだ。キミは、悪魔や堕天使の存在を知っているか?」
「はい、ドライグから大体の話は聞いてます」
戦闘が終わった途端、普通に話せるのか、彼は。ある意味逸材だな。
「なら、話は早い」
これはこれで面白い。なにより、悪いことばかりじゃないはずだ。彼の普段の生活はよく知っている。明るさがあるのも、悪くはないだろう。
俺が求めるのは、ただの強さだけではないのだから。
そんな者ばかりを、集めていくわけにはいかない。必要なのは、強さに囚われない強さを持つ者だ。
「どうだろう、兵藤一誠。俺の――眷属にならないか?」
だから俺は、赤龍帝だろうと、己の仲間にしたいと思ったんだ――。