「桜吹雪の季節に」は無事完結したのですが・・・
ダメでした。我慢できませんでした。書きたくて書きたくてウズウズしてしまったんです
本作は、
・吹雪大好きな作者が、ひたすら妄想の限りを書き連ねます
・吹雪への愛百四十二パーセントぐらいでできてます
・登場人物は、ほとんど司令官と吹雪のみ
となっております
砂糖!多めで!参ります!
どうぞ、よろしくお願いいたします
「し、れ、い、か、ん♪」
音符付で俺を呼ぶ声は、すぐ後ろから聞こえた。後ろへ首を回そうとしたが、その暇もなく、小さな手が目の前に伸びて、柔らかい腕がまるでマフラーのように抱き締める。左側から鼻孔をくすぐる甘い香りに、俺は書類の上でペンを走らせていた手を止めた。
「どうした、吹雪?」
「ちょっと、呼んでみただけです」
左耳がくすぐったい。しばらくそうしていた後、吹雪はゆっくりと離れていった。自分からやったくせに、恥ずかしそうに頬を染めている辺りが、吹雪の可愛いところだ。
俺は手元の書類を見る。今まで培った勘からすれば、後五分もすれば終わるはずだ。
「後少しで終わるよ」
「わかってます。お茶、淹れますね」
そう言って給湯室へと向かう見慣れたセーラー服の背中に頬が緩んでしまった。わざわざ言うまでもなかった。吹雪もまた、この鎮守府の秘書艦としては長い。書類がどれくらいで終わるかなんて、すぐに見当が着いてしまうはずだ。
そっと、さっきまで吹雪の照れ顔があった肩に触れる。彼女の温もりと薫りが、まだはっきりと残っていた。
「・・・さっさと終わらすか」
俺の執務のペースが、ラストスパートをかけて早まった。
鎮守府からほど近い浜辺。夕陽から長く伸びた影が二つ、白砂の上に寄り添って、ゆっくりと歩いていく。
季節はもうすぐ春を迎えようとしている。けれども朝晩はまだまだ冷えるし、どこか物悲しい風情が漂うこともある。情緒的な雰囲気に、打ち寄せては引いていく波の音が心地よかった。
「まだまだ寒いですねえ」
冬服の長袖セーラー服の上からさらにコートを羽織っている吹雪も、そう言って両手に息を吹きかけた。さすがに、その息の色は白くなかった。
こうして浜辺を歩くのは、いつからか俺と吹雪の習慣になった。一年くらい前に、「デート」と言って、俺が連れ出したのが始まりだった。もちろん、毎日というわけではないが、夕食前に暇を見つけると、どちらからともなく誘い合わせて、三十分くらい散策してみるのだ。
「春だってのに、こう寒いとこたつが恋しい」
「ダメです。司令官、仕事しないじゃないですか。それに・・・」
並んで歩く吹雪が、その歩みをはたと止める。言い淀むような間の後、俯き加減の小声で、こう言うのだった。
「それに、こたつだと皆入ってきちゃって、司令官を独り占めできないじゃないですか」
朱に染まった頬で上目遣いは反則だ。可愛さとくすぐったさ、そして何にも代えがたい幸せで、俺の理性がどうにかなってしまう。
この一年で、吹雪は随分、自分のことを主張してくれるようになった。いい意味で、わがままになってくれた。それが、俺に甘えてくれているのだとしたら。これほど嬉しいこともない。
まあ、俺へのツッコミスキルがさらに磨かれてもきているが。キレッキレである。たまに痛いよ。
「吹雪」
真っ赤になってもじもじしている吹雪を呼ぶと、ゆっくりとその顔が上がった。
「左手、出してごらん」
コテンと傾げた顔も愛らしい。吹雪は柔らかな左手を差し出した。その手に、俺も自分の左手を差し出す。
重なるお互いの手。薬指に輝く共通の光。シルバーのリングは俺たちの誓いの印。ケッコンの証。
さらに右の手も差し出して、吹雪の手を包み込む。俺の手にすっぽりと包まれた手が、ほかほかと暖かい。
こほん。
「その、なんだ。俺には吹雪だけなんだが・・・」
夕陽を浴びる吹雪の瞳が、眼前の海にも負けない強い輝きを帯びている。
綺麗だ。この一年、吹雪はさらに綺麗になった。前から可愛いとは思っていたが、初めて綺麗だと思ったのも、確か同じような風景の中だっただろうか。いや、もっと前からだったかもしれない。
この期に及んで言い淀んでいる俺に、夕焼けの美少女は可笑しそうに声を殺して笑った。
「ちゃんと言ってくれないと、わかりませんよ?司令官」
完全に弄るモード入ってしまった。いつもはちょっとしたことで顔を赤くしてしまう吹雪も、こういう時には俺なんかよりもよっぽど余裕がある。天然で小悪魔入ってるのかもしれない。どっちにしろ可愛い。
これは、俺も相応の覚悟を持って、口を開かねばなるまい。
「・・・俺には、吹雪だけだ。俺は吹雪だけを愛している」
こうして。この一言だけなのに。俺の心はこれ以上なく沸き立ち、幸せに溢れる。そして、
オレンジの中で柔らかく微笑む吹雪に、どうしようもない甘さが充ちていくのだ。
「司令官」
「なんだ?」
「わたし“だけ”じゃなくてもいいんです。わたしが“一番”なら」
吹雪の言葉に苦笑するしかない。
「いいんだぞ、そこは吹雪“だけ”、で」
俺の言葉にも、吹雪は首を横に振った。
「司令官は、そんな器の小さい人じゃないじゃないですか。だからいいんです、わたしが“一番”なら。ていうか、他の皆も愛してくれないとわたしが悲しいです」
―――ああ、本当に。
本当にこの娘は、変わらない。何も変わらず、強くなる。俺の方が必死こいて追いかけなくちゃいけなくなる日も、近いかもしれない。
いや、それは吹雪に対して失礼だな。俺たちは二人で一人。吹雪と、一緒だから。隣の温もりに手を伸ばし、伸ばされ。愛して、愛されて。並び、支え合いながら生きていくのだから。
俺の隣は、吹雪だけなのだから。
「・・・それじゃあ、司令官」
吹雪はもう一度、俺を呼んだ。その頬は、夕焼けのせいか、艶のある赤に染まっていた。
「“一番”の証、ください」
「・・・お望みなら」
吹雪のまぶたが、そっと閉じられる。俺の肩の辺りにある、愛する彼女の唇に、少しだけ身を屈める。
そうして、俺たちはキスをする。
“一番”に愛する人と自分が、今ここにいることを確かめるように。お互いに熱だけでない何かを、やりとりするように。
愛してる。
どんな時も、君のことを。
頭の中を駆け巡る幸せの暖かさ。吹雪と過ごした数々の日々。触れた唇の柔らかさ。
ほんの数秒の口付けは、どちらからともなく終わりを迎える。名残惜しい表情はどちらも同じだ。ただそれ以上の時間を過ごすには、外はいささか寒すぎた。
「・・・戻りましょうか」
「ああ、そうだな。もう夕食だ」
手を繋いだ俺たちは、ピッタリ寄り添って歩いていく。そこにある暖かさに、愛する人の存在に、頬を緩めながら。
夕陽を浴びる俺たちは、だからきっと、世界中で誰よりも幸せだ。
いかがだったでしょうか?
司令官視点で書いているため、ほとんど作者の思っていることそのままです。はい
今回も妄想全開で書いてまいります
お見苦しい点多々あるかとは思いますが、どうかお付き合いいただけると幸いです