吹雪と、司令官と   作:瑞穂国

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どうもです

吹雪とのケッコン二周年ということで書いていた作品です

今回も、気合い!入れて!頑張ります!


明日の一ページ

・・・さて、どこから話したものだろうか。

 

今日という日には最早お馴染みとなっているこたつを用意して、一年分のアルバムをめくっていた俺は、ふとそんなことを思った。

 

どこから話したものだろうか。アルバムをめくり、撮りためた写真を眺めるたびに、留まるところを知らずに思い出が溢れ出る。この一年が頭をよぎる。

 

早いもんだ。先ほどアルバムを持ち出してきた共用スペースの本棚を思い出して、頬を緩める。並べられた、一か月ごと、二十四冊のアルバムと、今俺が持ち出してきて、こたつの横に積んである十二冊。三年分の、この艦隊の記録だ。

 

「どこから話したもんかなあ」

 

締まりなく呟きながら、俺はアルバムのページをめくる。

 

答えを示すように、艦隊の、そして俺の女神が、写真の中で微笑んでいた。

 

コンコンッ

 

こたつの温もりに浸っていると、執務室の扉がリズムを刻んだ。普段なら、そこで開かれる扉は、今日という日に限って、余韻を残すように沈黙を保つ。その向こうに待つ人を想って、俺の心はさらに暖かくなった。

 

彼女にとってもまた、今日という日は、何か特別な思い入れのある日なのだろうか。何か思い入れがあって、こうして俺の返事を、待っているのだろうか。

 

「どうぞ」

 

早く彼女の声を聞きたい。彼女の顔が見たい。まったく、今朝会ったばかりだというのに。こんなことを思っているなんて知られたら、わがままな司令官だと思われてしまうな。

 

・・・いや、もう思われてるか?

 

「失礼します」

 

鈴の音を鳴らすように、リンと明るい声がした。それからゆっくりと、扉が開く。その向こうから顔を覗かせた俺の愛しい人は、眉を八の字に下げて、早速苦言を呈した。

 

「もう。今年もこたつ、出してるんですね」

 

「これがないと、始まらないだろ」

 

「・・・まあ、いいですけどね」

 

相変わらず真面目な吹雪は、そう言いながら靴を脱ぎ、足をこたつの中に突っ込む。掘りごたつになっている空間に、彼女の足が入り込んできたのがわかった。

 

・・・人の温もりっていうのは、やっぱりいいものだな。

 

「暖かいですね」

 

満足そうに溜め息を吐き、吹雪がへにゃっと笑う。可愛い。

 

「お茶、淹れるぞ。紅茶でいいか」

 

「あ、はい。お願いします」

 

こうしてお茶を淹れるのも、去年と同じだ。いつもは吹雪に淹れてもらってばかりだからな。こういう日ぐらいは、健気で頑張り屋な秘書艦を労ってあげないと。

 

電気ケトルのスイッチを入れる。しばらく待てばお湯が沸くはずだ。

 

「・・・えへへ」

 

その時、天板の向かいに肘を乗せていた吹雪が、大きく相好を崩した。ようやく春を迎えようかという光に照らされる頬は、五分咲きの桜たちと同じ色に染まっている。

 

「どうした?」

 

わざわざ訊くのは、野暮な気がした。彼女が何て答えるかなんて、きっとわかっているから。

 

「いえ、大したことじゃないんです」

 

それでも律儀に答えてくれる彼女は、いつもの通りに優しい春の笑みを見せていた。

 

「わたし、今、幸せだなあ、って思ってました」

 

・・・。

 

・・・・・。

 

はい、可愛い。とにかく可愛い。俺の嫁が、こんなに可愛い。女神か。

 

やれやれ。俺は絶対に、この可愛い奥さんには勝てないな。たった一言、吹雪の笑顔と言葉で、俺はこんなにも幸せを感じることができる。

 

「そっか」

 

それ以上の言葉が見つからなくて、俺は短い答えを返す。それに吹雪は、更に満足げな笑みを浮かべるのだ。俺の思ってることなんて、お見通し、なんだろうな。

 

「もう、二年になるんですね」

 

「ああ、そうだな。あっという間だったけど、色んな事があった」

 

そう、もう、二年なんだ。二年前の今日、俺と吹雪は誓いを交わし、晴れて夫婦となった。

 

ケッコンカッコカリ。名前の通り、それは仮初の結婚、というのは吹雪の言葉であり、俺もそのことはわかっているつもりだ。それはあくまで、艦娘の能力をさらに引き出すためのシステム。

 

けれども、俺たちにとっては、かけがえのない絆だ。

 

俺にとって、指輪型のケッコンカッコカリ艤装を渡せる相手は吹雪だけで、彼女以外には考えられなかった。

 

多くを語るつもりはないが、俺にとって、「ケッコン」っていうのは、特別な意味がある。例え仮初だとしても、それを愛する人以外に、押し付けるつもりはなかった。

 

・・・なんて。結局は、言い訳なのかもしれない。

 

今の俺は、そうしたことを、難しく考えることがなくなった。

 

俺は吹雪が好きで、心から大切に想っていて、幸せになってほしい、幸せにしたいと思っている。

 

そして吹雪もまた、こんなにも俺のことを想ってくれていて、溢れんばかりの愛で、俺のことを幸せにしてくれる。

 

それが全てで、それで十分だ。

 

幸い、上層部も、今のところ急かしてくるようなことはない。戦力的には、最高練度に到達した艦娘とは積極的にケッコンした方がいいに決まっているのだが、特に何も言うことなく、静観している。

 

秋刀魚漁しかり、この時期の慰安旅行しかり、妙なところで粋というか、適当な司令部だ。

 

「司令官?」

 

向かいの吹雪が、コテンと不思議そうに首を傾げている。少し、思考に耽り過ぎただろうか。

 

「いや、何でもない。色々と思い出してただけだ」

 

「そうですか?」

 

・・・まあ、聡明で、察しのいい吹雪のことだ。俺のことなんて、お見通しなんだろうけど。彼女がそれ以上、何かを言うことはない。

 

むしろその沈黙が、俺にこう伝えてくるのだ。

 

あなたを好きになって、あなたに好きになってもらえて、わたしはそれだけでとっても嬉しいんです、と。

 

他愛もない会話をしている間に、電気ケトルのスイッチが上がった。コポコポと沸いているお湯が、次第に音を小さくしていく。

 

そういえば、最近はこうして、吹雪と紅茶を飲むことが多くなった気がする。以前は、俺一人で飲んでいることが多かったが。まあ、一緒に暮らすようになったから、当然と言えば当然だろうか。

 

眠れない夜。紅茶で暖まる時。その時はいつも、吹雪がいてくれる。俺が眠れるまで、ずっと手を繋いでいてくれる。柔らかいその身で、そっと抱き締めてくれる。

 

・・・やばい。頬が熱くなってきた。俺はなんて愛されているんだ。

 

淹れた紅茶を吹雪にも出す。それを心底嬉しそうに受け取った、俺の幸福の女神は、湯気を上げるカップに口づける。熱くはないはずだ。まあ、これだけ一緒にいれば、吹雪の飲める温度も憶えてしまう。

 

「おいしいです」

 

「それは何よりだ」

 

お互いに笑みがこぼれる。たったそれだけでも、幸せなのだ。

 

「司令官の紅茶は、とっても優しい味がするんです。だから、心がほっとして、落ち着きます」

 

惚れ惚れするような笑顔で、吹雪はそんなことを言うのだ。反則である。俺を萌え死にさせるつもりか。

 

「・・・ホットだけに、ってな」

 

「・・・それ、上手いこと言ったつもりですか?」

 

「ダメか?」

 

「いえ。たまには、いいこと言いますね」

 

「たまには、は余計だ」

 

俺の答えに、吹雪がコロコロと笑った。

 

 

 

どこから話したものだろうか。

 

そんなこと、悩むだけ無駄だった。吹雪といるだけで、言葉は溢れ出てくるほど。伝えたい思い出、語りたい景色。

 

二人で見た物。

 

一人で見た物。

 

鎮守府みんなで見た物。

 

どれも大切に、この胸に留める、一ページ。写真とは別の、心のアルバム、といったところだろうか。

 

そして、そこにはいつも、吹雪がいる。

 

心の一ページにはいつも、吹雪がいる。

 

お陽様のように笑った顔が。

 

シトシトとこぼす涙が。

 

心配が入り混じったお叱りが。

 

どれも大切な、吹雪の表情だ。

 

「吹雪」

 

今日この日は。この一年を振り返る日で。明日からの一年に思いを馳せる日で。

 

だから伝えたいのだ。俺の、この言葉で。嘘偽りなく、飾ることなんてできない、俺の言葉で。

 

美しく散りゆく桜吹雪の季節を眺めた。

 

梅雨の窓辺で相合傘を差した。

 

七夕の夜空に二人で願った。

 

夏祭りの夜に花火を見上げた。

 

秋祭りの喧騒を歩いた。

 

初冬の朝に一緒にまどろんだ。

 

更けゆくクリスマスに誓い合った。

 

明けた年の無事を祈った。

 

想いの詰まったチョコは甘かった。

 

お互いの体温が愛しかった。

 

そうして季節が巡り、こうしてまた、今日という桜吹雪の季節を迎えた。

 

それは当たり前のようで、とても幸せなことなのだから。だから言葉に出して、伝えなくちゃならない。伝えたい言葉は留まるところを知らない。

 

「この一年をありがとう。かけがえのない思い出と、一日一日をありがとう」

 

俺の言葉に、恥ずかしげに頬を掻いた吹雪は、それから力強く頷いて、笑った。

 

「また明日から、よろしくお願いします、司令官!」

 

その言葉に、どうしようもなく笑みが出てしまうのだった。

 

二人分の暖かさが溢れる休日の執務室に、のどかな時計の音が鳴る。もうお昼時だ。先ほどから、腹の虫が鳴りそうだった。

 

「ご飯にしましょうか、司令官」

 

「だな。お腹すいた」

 

腹の辺りをさすりながら、二人でこたつを出る。靴を履いて執務室の扉を開き、廊下を食堂の方へと歩いていく。

 

ピタ。その時、俺の左手に、何か柔らかいものが触れた。

 

一瞬触れるだけだったそれは、数秒後にもう一度、今度は確かな意思を持って、俺の手に重なる。小さく、細く、しなやかな線を描いているそれが、自分の存在を主張するようにして、俺の手を握る。

 

吹雪だ。小さな手は、俺の手にすっぽりと収まってしまうほど。細い指は、ともすれば折れてしまいそうなほど。しなやかなその曲線が、女性的な色香を醸し出す。

 

その手に、俺も応える。俺はここにいる。君の隣に、いつもいる。ここで一緒に、歩いていく。

 

廊下に差し込む春の日差しは、ゆるるかに咲き誇り始めた桜色に染まっていた。その光に照らされる愛しい人の横顔は、得も言われぬ輝きに彩られている。そう見えるのはきっと、光の具合だけではなかったはずだ。

 

思い出の一ページ。

 

吹雪と俺の一ページ。

 

二人分の足跡が、たくさんの幸せに祝福されている、そんなかけがえのない一ページ。

 

ありがとう。

 

思い出を。幸せを。たった一つの、それでいて数え切れないほどの愛を。

 

不安に勝るほどの、夢と希望、光に照らされる明日を。

 

俺ってやつは。今日すら終わっていないのに、明日が楽しみで仕方がないのだ。

 

食堂の暖簾をくぐる。休日ムードの憩いの場に、俺たちは並んで足を踏み入れた。




お砂糖多めです

もう一つ、書いてます。こちらは今夜中に投稿できるといいのですが

お砂糖が足りない、という方は、そちらもどうぞよろしくお願いします
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