吹雪と、司令官と   作:瑞穂国

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何とか書けた・・・

もう、お腹いっぱいでち(砂糖ダバー


サクラ・フブキ

静かな夜が、鎮守府に訪れています。

 

夜、とは言っても、まだ陽は沈んでません。春になって、陽が長くなって。夕ご飯の準備をする時間になっても、空は明るいままです。幻想的なオレンジに染まった空と、美しいグラデーションを描く雲が、食堂の窓からも見えました。

 

普段この時間は、司令官と散歩なんてすることが多いんですけど。えへへ、「デート」なんて言って。

 

今日は、訳あって、わたしはこうして食堂の調理場に立っています。

 

愛用のピンクのエプロンを、首からかけます。腰紐を回し、気合いを入れて結びました。

 

「よしっ」

 

わたしの声に、調理場を取り仕切る間宮さんが笑います。

 

「気合い十分ですね」

 

「はい、それはもちろん」

 

そう答えて、わたしはチラリと、カウンターになっている調理場の正面に目を遣ります。ご飯を待ちながら各々でくつろいでいる艦娘たちがいる中、一番手前の机には、どこか落ち着かない様子で座っている司令官が。

 

そう。何を隠そう、今日はわたしが、司令官にご飯を作ってあげるんです。

 

去年のこの日は、肉じゃがだけでしたけど。今回は、全部わたし一人で、作ってみようと思います。

 

わたしの申し出に、間宮さんは快く、調理場の一角を貸してくれました。

 

「頑張ってくださいね。この一年間、吹雪さんの努力と成長は、私が保証しますから」

 

「はい。ありがとうございます、間宮さん」

 

ペコリと頭を下げます。わたしに料理を教えてくれたのも、間宮さんの伊良湖さんでした。

 

伊良湖さんも、間宮さんの後ろから笑顔で手を振ってます。お二人の信頼と期待に応えるためにも、頑張らないと、ですよね。

 

早速始めようとしたわたしに、間宮さんが言います。

 

「大切なのは愛情ですよ、吹雪さん」

 

途端、頭が沸騰するのがわかりました。体中の血液が頭に集まってきてしまったのではないかと思うほどに、一瞬で頬が熱くなります。顔が真っ赤になるのを自覚しながら、わたしは間宮さんを振り返ります。

 

「ま、間宮さんっ!」

 

「大丈夫。普段通りの吹雪ちゃんで作れば、それで愛情は十分です」

 

普段のわたしって、そんな風に見られてたんですか!?

 

「吹雪ちゃん、普段から『司令官大好き♡』って言ってるじゃないですか」

 

「そんなこと言ってますか、わたし!?」

 

気づかないうちにとんでもないことを口走っているんですか!?

 

ニコニコと笑顔のままの間宮さんに代わって、伊良湖さんが口を開きます。

 

「言ってるというより、行動から滲み出てる感じでしょうか?」

 

ボフンッ。そんな音と共に、顔の温度が一段階上がった気がしました。

 

お・・・思い当たる節が・・・ないとは否定できないです・・・。

 

うう、みんなそんな風に思ってたんでしょうか・・・?

 

し、しょうがないじゃないですかっ!

 

だ、だって・・・。わたしにとって司令官は、大切で、大好きな人で。艦娘とその指揮官とか、そういうもの以上に、強い絆で結ばれているんです。

 

だから、その・・・隣にいるだけで嬉しくて、幸せで・・・。胸の奥から「好き」の気持ちが止まらなくて・・・。

 

つい、「司令官大好き♡」オーラが出ちゃうんですっ!悪いですかっ!

 

内心でそんな反論をしつつも、言ってて自分で恥ずかしくなってきました。頭を抱え、調理台の前で悶えているわたしを、お二人は微笑で見守っています。

 

こ、こほん。

 

何とか持ち直したわたしは、改めて調理台に向き合います。

 

さてと。頑張りましょう。この一年の成果を、見せる時です。

 

隠し味はもちろん・・・たっぷりの、愛情です。

 

 

 

「お待たせしました、司令官」

 

そう言いながら、わたしは作り終えた夕ご飯を机に並べていきます。司令官は、待ってましたとばかりに、嬉しそうに目を細めました。

 

「すごいな、これは」

 

司令官の好きな肉じゃが。桜煮はわたしの挑戦作です。菜の花のお浸しは海苔を巻いて小さくまとめ、彩に桜海老。焼いた鰆は、野菜のあんかけをかけてあります。ご飯はタケノコの炊き込みご飯にしてみました。

 

・・・気合いを入れ過ぎてしまった気が、しなくもありません。うう、自覚はあったつもりですけど、一度決めると、歯止めが利かなくなるみたいです、わたし。

 

エプロンを外しながら、チラリと、司令官の方を窺います。

 

目が、合いました。

 

「うまそうだ」

 

そう言って、司令官が笑いました。優しく微笑むその表情に、弛緩したわたしの頬が熱を帯びました。

 

なんてことはないんです。司令官の笑顔が、わたしの一番の幸せです。

 

「せっかくなので、春の食材を色々使ってみたんです」

 

「桜吹雪御膳、ってところか」

 

「そ、そうなりますね」

 

ちょっと照れくさくて、頬を掻きます。

 

「え、えっと。どうぞ、食べてください」

 

「ああ、そうしよう」

 

向かい合った二人で、手を合わせます。

 

「「いただきます」」

 

箸を取った司令官は、まず初めに菜の花のお浸しに手をつけます。海苔で一口分をまとめたお浸しを、パクリ、口にしました。

 

「ん、いい味してるな」

 

おいしそうに咀嚼した司令官は、次のおかずにも、すぐにとりかかります。一つずつ、おいしそうに頷きながら、左手に持ったタケノコの炊き込みご飯も頬張ります。

 

その表情を、わたしはどこかほうっとした心地で、眺めていました。

 

向かいに座った司令官。幸せそうな表情で、ご飯を食べています。

 

「司令官」

 

その表情に、わたしは声をかけました。

 

「どうした?」

 

「おいしいですか?」

 

「ああ。とってもうまい。ありがとう、吹雪」

 

もう、本当に、この人は。

 

満面に笑みを浮かべる司令官。本当に、ズルいです。かないっこありません。

 

あなたの笑顔は、それだけでわたしを、こんなにも幸せにしてしまうのですから。

 

あなたに笑ってほしくて。あなたに「おいしい」って言ってほしくて。

 

なんてことはないんです。隠し味、愛情っていうのは、きっとそういうことなんですから。

 

「えへへ、どういたしまして」

 

照れくささに頬が熱くなるのを感じながら、わたしは自分の料理に手を付けます。

 

ホクホクとしたジャガイモ。味の染み出すタコ。ほろ苦い菜の花と香ばしい桜海老。春野菜の中で踊る鰆のうまみ。甘いタケノコの食感。

 

おいしいって、とっても幸せなことなんです。

 

 

 

食事の後片付けをして、遅めのお風呂に入っていたわたしは、ホカホカと湯気を立てる体から、ハンドタオルで水気を取っていきます。

 

「ふう・・・いいお湯だった」

 

髪を丁寧に拭いていると、脱衣所の入り口が開く音がしました。

 

「あら、吹雪さん」

 

お風呂用具を抱えて入ってきたのは、大和さんでした。茶色がかった長い髪が揺れます。お手入れ、大変そうですよね。

 

「ふふ、そういうことでしたか」

 

「?何がですか?」

 

わたしの隣に立った大和さんは、脱衣籠を取り、お風呂用具を置きながら、意味ありげに笑います。何でしょうか?

 

結局、その理由を聞く前に、タオルを前に掛けた大和さんは、浴場に入っていってしまいました。

 

髪をまとめて、寝間着とどてらを着込んだ私は、脱衣所を後にします。

 

引き戸を開いた時、わたしは大和さんの言っていたことの意味を理解しました。

 

「お、出てきたか」

 

そこに立っていたのは、わたしと同じく寝間着姿の司令官でした。お風呂から出たばかり見たいで、タオルを首に巻いてます。

 

「待ってたんですか?」

 

「まあな」

 

「もう、湯冷めしちゃいますよ」

 

「大丈夫だって、ちょっとしか待ってないから」

 

そう言ってひらひらと手を振ります。行こうか。促す司令官は、そう言って左手を差し出しました。わたしがその手に、自分の右手を重ねると、司令官がそっと握ります。

 

二人並んで歩く、鎮守府の廊下には、淡い月と星の光が差していました。その中に二人、わたしと司令官。お風呂上がりの温もりが、繋いだ手の中にあります。

 

「なあ、吹雪」

 

ふとした瞬間、司令官がわたしを呼びました。右に立つ司令官は、わたしよりも頭一つ分くらい、大きいです。その顔を、見上げます。

 

「なんですか、司令官」

 

答えたわたしを、司令官が見つめます。それから困ったように、苦笑しました。

 

「いや、なんでもない。呼んでみただけだ」

 

・・・。

 

ふーん?

 

なるほど、間違いありません。これは何かありましたね。

 

問い詰めても、仕方がありません。きっとそれで、辛くなってしまうこともあるから。

 

それでもわたしに、何かを伝えようとしてくれた。それだけで、十分です。

 

「司令官」

 

わたしたちの部屋に辿り着き、寝る支度も終えて。電気を消そうとした司令官を、わたしは呼びました。

 

「どうした、吹雪?」

 

「ちょっと、座ってください」

 

頭上にハテナマークを浮かべながら、司令官は二枚並べて敷いた布団の上にあぐらをかきます。その前に、わたしも座りました。

 

「目を、瞑ってください」

 

「お、おう?」

 

目を瞑った司令官。その顔を、ジッと、見つめます。

 

司令官。わたしの大好きな、あなた。

 

司令官の頭を、そっと、わたしの方に抱き寄せます。膝立ちをすると、丁度いいくらいの位置なんです。

 

「吹雪・・・?」

 

戸惑ったような声が、抱き寄せた胸の辺りでします。暖かい吐息が、くすぐったいです。

 

「司令官。わたしはここにいますよ。あなたの側に、ずっと、一緒にいますよ」

 

なだめるように。いつも司令官が、わたしを優しく抱きしめてくれるみたいに。背中をさすって、励ましてくれるみたいに。

 

わたしの体温と心と、溢れて伝えきれないほどの想い。この腕の中にある、司令官。

 

「・・・そうだな」

 

司令官の腕が、ゆっくりとわたしの背中に回りました。鍛えられた腕が、まるでわたしを離すまいとするように、力を込めます。

 

しばらくそうした後、司令官がゆっくりと顔を上げて、微笑しました。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

二人で笑い合ってから、部屋の電気を消し、布団に入りました。

 

カーテンで遮った窓からは、ほとんど光が入ってきません。

 

横たわる闇は、誰にとっても、本能的に怖いもの。真っ暗な世界で、自分が小さな一つに思えてしまいます。

 

わたしも、夜の海を行くのは、いまだに慣れません。

 

でも。

 

布団の中で、わたしは隣に手を伸ばします。並んだ布団。わたしの右手に、司令官の手が触れます。

 

何も言わずに、司令官はその手を握ってくれます。おやすみ。穏やかにそう言っているみたいに。

 

繋いだその手から伝わるのは、大切な人の温もりで。愛しい人の想いで。かけがえのない人の言葉です。

 

だからわたしは、安心して、目を瞑ることができます。

 

司令官。あなた。

 

わたしが幸せなのは、あなたのおかげなんです。

 

あなたの隣にいるから。わたしの隣があなただから。

 

たくさんの幸せは、いつでもあなたと共にありました。

 

少しだけ、手に込める力を強くすれば、司令官もそれに応えてくれます。絡めた指の間に、温もりだけでない何かをやり取りします。

 

わたしたちは、二人で一人。あなたと、一緒だから。

 

桜咲く朝も。

 

雨粒の夜も。

 

星降る宵も。

 

花火の帰り道も。

 

法被が踊る夕方も。

 

朝焼けに映る目覚めも。

 

暮れる年を想う日も。

 

明けた年に願う日も。

 

わたしの想い。

 

わたしたちの想い。

 

一つ一つを積み重ねて。

 

大切な今日という日を。あなたと過ごす一日一日を。わたしはきっと忘れない。この胸に抱きしめて、また新しい、あなたとの明日に、思いを馳せます。

 

司令官。わたしの大好きなあなた。

 

まだ見ぬ明日も、これだけは確信できます。

 

あなたはきっと、また新しい、素敵な一日を、わたしにくれるんです。

 

だから、わたしも。

 

あなたにとって明日が、同じように素敵な一日になるように。

 

目を閉じたわたしの、まぶたの裏に。少しずつ眠りに落ちていく中、楽しげに笑い合うわたしたちの姿が、浮かんでいた気がします。




誰だよ、こんなに砂糖入れたやつ!←ブーメラン

甘すぎてコーヒーが進むわ、寝れなくなるぞ!←ブーメラン

一年に一度くらい、こんな日があってもいいですよね

では、またいつか

さーて、ぶん殴った壁を修復しないと
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